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Thursday, August 22, 2013

読書感想:「民芸運動」の根底にある「平和思想」を考える by 田中利幸 - そして、9月28日(土)広島におけるブレス・トリオ演奏会のご案内


このサイトでおなじみの田中利幸さんによる寄稿を掲載します。広島近辺の方は最後に紹介されている9月28日午後2時半ー4時半、広島アステールプラザで開催される演奏会にぜひお越しください。申込制になっているのでお早目に。


読書感想:「民芸運動」の根底にある「平和思想」を考える

中見真理著『柳宗悦 - 「複合の美」の思想』(岩波新書)を読んで 
 

田中利幸

2013818日) 

我家の私の連れ合いの書棚には『柳宗悦全集』全22巻が並んでいます。彼女は1970年代半ばから80年代半ばにかけて「民芸運動」に強く惹かれ、当時まだご健在だった染織家・外村吉之助氏が主催する民芸夏期学校に参加したり、東北から九州にかけて日本各地の陶芸、竹細工、木工、染色などの工芸職人を訪ね歩いたりしました。当時、オーストラリアの若い女性、つまり「外人さん」が「民芸運動」に興味をもつことすら極めて稀なことであったので、彼女は「民芸運動」に関わっている日本人からたいへん優遇されるという、ある種の外人特権を享受したわけです。そして1985年に、柳宗悦の民芸運動と思想に関する修士論文を執筆しました。 

当時ガールフレンドだった彼女が興味を持っていたことから、私も柳の著書のうち、自分に関心がありそうな部分をしばしば読んで楽しんでいました。また、柳と交流のあった寿岳文章先生の京都のお宅に彼女が聴き取り調査に出かけたり、柳宗悦についてすでに著書を出していた鶴見俊輔氏や当時筑波大学助教授で若手の気鋭の民芸運動研究家であった熊倉功夫氏に彼女が会って研究上のアドバイスを受けるときにも、ずうずうしく彼女についていって、黙って会話を聴いていました。彼らはきっと「うさん臭い日本人がついてきたな」と思ったことでしょう(笑)。 

とにかくそんな関係から、私も柳宗悦に若い頃からかなり関心がありましたし、この数年も、機会があるごとに連れ合いと二人で、柳宗悦ゆかりの窯場である九州の小鹿田(おんた)窯や島根の出西(しゅっさい)窯、出雲民芸館、鳥取民芸館などを訪ね歩いて作品鑑賞を楽しんでいます。 

柳宗悦が、1920年代初期に「朝鮮独立運動」支持を表明した当時の数少ない知識人の一人であったこと、また1930年代末から40年代初期にかけて日本政府が標準語使用を沖縄で強制することで琉球語の撲滅をはかる政策を打ち出したことに強く反対したことについては、私も彼の著作から知っていました。したがって、このような発言を行った柳の思想的な背景には、単なる朝鮮工芸美術、沖縄工芸美術の保護という観点からのみならず、もっと深い反植民地思想があったに違いないと、私も全くの門外漢ながら思っていました。しかし、柳の全集の中には、反植民地思想や平和思想について直接に問題にしている論考は、ざっと見たところ何もなさそうでしたので、私はそれ以上調べてみようとは思いませんでした。 

今回、中見さんの著書を拝読して、柳にはやはり彼独自の深い「平和思想」があったこと、「民芸運動」とその「平和思想」には密接な関連性があることがよく理解できました。柳が自分の出版物ではほとんど直接に且つ明確には、すなわち体系的には著さなかった「平和思想」を、いったいどのように中見さんが明らかにするのかについて私はとても興味があったので、この本を読み進めて、彼女の緻密な研究方法に驚かされました。中見さんは、柳が読んだ様々な著書に柳自身が書き込みをした手書きのコメントや意見を湛然に拾い集め分析され、さらには柳の日記や未発表原稿にも目を通されています。さらに、柳と直接交流があったとは思われないが、確実に思想的影響を受けたと思われる幸徳秋水、大杉栄、石川三四郎、有島武郎などの人物との間接的な関係についても言及することで、柳の思想構築の過程を浮き彫りにしようと試みておられることです。 

中見さんのこの著書に触れて、柳がクロポトキン、トルストイ、バートランド・ラッセル、マハトマ・ガンジーなどの著書を深く読み込んでいたことを初めて知りました。とくにクロポトキンの著作(英語版)を、柳は1909~10年にかけて熱心に読んでおり、柳の蔵書の中には『ある革命家の思い出』、『パンの取得』、『田園・工場・仕事場』、『相互扶助論』、『ロシアにおけるテロル』の5冊もあるというご指摘は驚きでした。当時は危険思想とみなされ翻訳本発禁処分となっていたクロポトキンの著書を、柳が英語版で読んでいたという事実は、いかに彼がクロポトキンに共鳴していたかを裏付けています。 

中でも『相互扶助論』から学んだ「相互補助」という思想を、柳はその後自分なりに発展させていき、「東洋と西洋」や民芸運動での「個人作家と(無名の)工人」のあるべき姿としての「相互扶助」、すなわち私自身の言葉で置き換えれば「平等な関係としての共生」という思想を打ち立てていったことを中見さんは明晰に解説されています。最終的に、柳のこの「相互扶助」思想は、ウィリアム・ブレイク思想からの影響も受けて、「複合の美」という言葉で表現される柳宗悦独自の思想へと深められていきました。 

「複合の美」とは、存在する「もの」や「ひと」それぞれに何らかの価値=美があり、その価値に優劣をつけること自体が人間の愚かさであり、それぞれの「美」が相互にその価値を認識し合い共存することで、豊かな美で構成される「共生社会」が作り上げられるという観念です。朝鮮のみごとに優雅な白磁、沖縄の華やかな紅型や絣、アイヌの繊細な布地模様や木工、そのほか日本各地に点在する様々な工芸品など、それらが有している独自の美=価値を尊重し、相互にその美を認識し合うことで「複合の美」としての多文化・多民族の共生社会が構築される、というわけです。したがって、柳が推進した「民芸運動」には、実は、その根底に「多文化共生社会構築」という思想が裏打ちされていたのであり、したがって当然そこからは「自己文化の自立」はもちろん「他民族文化の自立」尊重という思想が生まれてくる。そこに柳の「平和思想」の原点があるということが、中見さんの簡潔明快な解説で明らかにされています。 

このような形で「民芸運動」と「平和思想」の相互関連性について解説した論考は、これまでなかったのではないでしょうか。「工芸品の美」の中に「美の共生」を求め、そこから「多文化社会構築」という「平和への道」を模索する。「美の探求」と「平和の探求」は同一のものであるべきだというメッセージを柳宗悦の思索と行動のなかに見いだす、とても貴重な仕事を中見さんはこの著書でされていると思います。 

もちろん思想と実践活動との矛盾など、柳には欠点ももちろんありますが、ここでは触れる余裕はありません。しかし、正直なところ、近年ますます私は、政治活動のみとしての反戦平和運動や反核・原発運動には限界があるということを痛切に感じています。多くの市民の魂を動かすような草の根市民活動は、まさに柳が探求していたような「美の共生」という局面を強く持った、感動的なメッセージを持つ「文化活動」であるべきではないかと私は感じています。とりわけ、被爆者や「慰安婦」のような戦争暴力の被害者の「苦悩」と「痛み」を、生々しく証言できる被害者がこの世にいなくなった後世にまで伝承させ、それを「平和構築活動」に活かしていくには、その「苦悩」や「痛み」の根源的要素を徹底して普遍的な「象徴的表現」にまで変容させることが必要なのではないかと思うのです。ギリシャ悲劇が幾世紀にもわたって、人間の運命の悲哀を連綿と私たちに伝えてきたように。 

広島に関連させて最近の具体的な例をあげるならば、佐村河内守作曲の交響楽「HIROSHIMA」や石内都撮影の写真作品「遺されたものたち」、強制連行・核兵器・戦争などを題材にした多田富雄による現代能など、こうした現代文化作品を、広島が貴重な遺産としてもつ栗原定子、峠三吉、原民喜などによる様々な文学作品同様に、私たちの市民活動の中で、できる限り活用していくべきではないか。さらに私たち自身が、音楽、演劇、文芸、美術などの分野で新しい文化作品を産み出すという活動を「平和構築活動」の一環として進めていくべきではないか、と思うのです。そのような文化活動は、もちろん「自分たちだけの被害」を訴える狭隘なものではなく、「自分たちの加害」の問題とあらゆる暴力の被害者の「痛み」を訴える普遍的なメッセージを象徴的に表現するものでなくてはなりません。そのようなすばらしい潜在能力を私たち日本人はもっているにもかかわらず、まことに残念ながら、それを活かしきれていないと私は感じています。文化活動と草の根の市民政治活動が分離してしまっているのが現状です。 

そこで我田引水で恐縮ですが、そのような文化活動の一つとして、来る928日に下記のような演奏会を広島市内で開くことを企画してみました。日本の伝統楽器である尺八と琴、オーストラリアのアボリジニの楽器ディジルドゥ、そして現代音楽のビート・ボックスの共演、つまり「複合の美」を狙ったパフォーマンスです。お時間がありましたら、ぜひお出で下さい(ただし先着申し込み70名限定)。ブレス・トリオは広島での演奏の後、福島でチャリティー演奏会を開く予定です。
 

ブレス・トリオ演奏会

尺八、ディジルドゥ、ビート・ボックスのユニークなコンボ
ブレス・トリオ + 藤川いずみ(琴)

ブレス・トリオ http://BreathTrio.com
(オーストラリアをホーム・ベースに活躍するトリオ)
尺八:アン・ノーマン
ディジルドゥ:サンシー
ビートボックス:レオ

琴:藤川いずみ http://koto-izumi.com/youkoso.html

日時:2013928(土曜) 午後2:30(開場2:00)4:30
会場:アステールプラザ(広島市中区加古町4-17)大音楽室

入場料:¥2,000
先着申込70名限定

申込方法:メール tanaka-t@peace.hiroshima-cu.ac.jp 

プログラム

茶音頭         尺八 + 琴
打波             竹の響きの会 友情出演
秋の曲          尺八 + 琴
夏時雨          尺八 ソロ
コーリングズ       尺八 + 琴

休憩

ピナクルズ         尺八 + ディジルドゥ 
波に漂う           尺八 + ディジルドゥ + ビートボックス
朝靄につつまれて    尺八 + ディジルドゥ
雨踊る海面         ビートボックス ソロ
セイクリッド!        尺八 + ディジルドゥ + ビートボックス
菩薩             尺八  + 鈴 + 唱詠
Bare back on the Beach 
尺八 + ディジルドゥ + ビートボック

 

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