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Tuesday, August 05, 2025

タイとカンボジア紛争の背景にある米国の関与:ブライアン・バーレティック氏の解説 Brian Berletic: U.S. Involvement in the Thailand-Cambodia Conflict (Japanese Translation)

このサイトでも紹介したことがある軍事・国際情勢アナリスト、ブライアン・バーレティック氏はタイ在住で、東南アジア諸国にたいする米国の内政介入に特に詳しい人です。今回のカンボジアとタイの衝突についての歴史的・政治的背景を解説している動画が大変役に立つものと思い、AIの力を借りてここに翻訳しました。これは、やはりこのサイトで紹介したことがあるグレン・ディーセン氏のチャネルで7月28日に公開された動画です。タイとカンボジアはマレーシアの仲介で29日に停戦協定が発効しました。8月4日の報道によると、「マレーシアは4日、タイとカンボジアの国防当局者をクアラルンプールに招き、停戦発効後も緊張状態が続く両国の国境問題を協議した」とあります。7日までの会議で、米国や中国の代表も最終日に加わる見通しであると。死者数についてはタイ国軍によるとこれまでタイ側で32人、カンボジア政府によるとカンボジアは少なくとも13人、とあります。引き続き注視が必要です。
(注:話し言葉で、冗長な部分などは割愛してあります。太字強調はブログ運営者によるものです。翻訳はアップ後修正することがあります。)

ブライアン・バーレティック氏の YouTube チャネルはここです。Xアカウントはここ。
 
ディーセン:ブライアン・バーレティックさんにご出演いただいています。元アメリカ海兵隊員であり、地政学アナリスト、そして動画チャンネル「The New Atlas」のホストでもあります。番組へようこそ、おかえりなさい。現在タイにお住まいですが、タイとカンボジアの間の国境紛争について、私自身も含め多くの人が十分に理解できていないのが現状です。この地域には二国間の緊張、または紛争がありますが、これにはよくあるような大国の関心があり、そうした大国はしばしばこのような地元の紛争を自国の利益のために利用することがあります。まず、この紛争の根本的な原因について説明してくれますか?この紛争は寺院を巡るものとして語られることが多いですが、どうなのでしょう?

バーレティック:これは国境を巡る争いです。その根源はフランスの植民地主義にあります。フランスは、世界中でイギリスと同様に、将来的な分断や紛争を引き起こすような「時限爆弾」を無責任にもしかけ、あるいは意図的に地図に描いて植民地から撤退しました。そして、タイとカンボジアの国境には係争地域が存在します。そこには古代の寺院があり、それ自体が争われている上に、寺院周辺の領土も争われています。これは、この問題が長年にわたり国際機関に持ち込まれてきたためです。西側諸国の機関が国際機関を装って関与してきました。彼らの判断は、国境紛争という未解決の「時限爆弾」を維持するため、意図的に曖昧にされてきました。そのため、寺院はカンボジアのものと認識され、寺院の周辺地域はタイのものと認識されるという状態になっています。このことから、これがいかに意図的に仕組まれ、放置されてきたかが分かります。本気で問題を解決しようとしている人間であれば、このような状況を残すことはなかったはずです。

しかしながら、今起きている紛争の理由はこれではありません。この問題は、1900年代初頭から存在する国境問題です。そして、特に21世紀に注目すべきですが、長い間、この地域は対立の原因ではありませんでした。この地域では、紛争よりも平和がはるかに多く保たれてきました。紛争が発生するのは、非常に特定の時期に限られます。それは、アメリカがタイに親米政権を樹立しようとしているとき、あるいはアメリカが支援する政権が排除されようとしているときに限って起こるようです。この国境問題に加えて、タイ南部における非常に醜い分離主義暴力、そして全米民主主義基金(NED)によって資金提供された団体による国内からの圧力があります。こうした要因が国内に圧力を生み出しています。アメリカは、タイに思い通りの対応を取らせたいとき、こうしたさまざまな圧力ポイントを使い始めます。

ここを理解しなければなりません。アメリカが完全に支配している国も存在します。たとえばウクライナは、アメリカの権力の延長そのものです。一方で、アメリカの影響力がほとんど及ばない国もあります。それはロシアや中国のような国です。そして、その間に位置する国々があります。アメリカがある程度の影響力を持つものの、国内には自国の主権を守ろうとする制度や政党、特定の利害関係者が存在している国です。アメリカの影響が入り込んでくることに対し、それを内側から押し返しているのです。タイは、まさにそのような国の一つです。軍、王室、そしてタイとその主権を守ろうとする特定の企業や利害関係者が存在しています。

アメリカは、それに対抗するため、政治的な野党グループや政党を育ててきました。現在、アメリカが支援しているのは、2人の億万長者が率いる2つの大きな政党です。タクシン・チナワット氏とタナトーン・ジュンルンルアンキット氏です。この2人の億万長者を政権に就け、タイ全体を支配させ、中国との非常に親密で成長している関係を断ち切らせようとしています。そして、フィリピンを中国に対する破壊の槌にしたように、ウクライナをロシアに対する破壊の槌にしたように、タイを中国に対する破壊の槌に変えようとしているのです。

ここを理解しなければいけません。単純に「カンボジアは中国の武器を使っているから中国の支援を受けている」「タイはF-16を使っているからアメリカの支援を受けている」というような構図ではありません。実際のところ、現時点では両国とも中国と親密な関係を持っています。両国とも中国から武器を購入しており、親密な関係にあります。ただし、タイと中国の関係はアメリカとの関係よりもはるかに大きく、また、カンボジアと中国の関係よりもはるかに深いものです。

ディーセン: それでは、タイの内部の仕組みとはどのようなものなのでしょうか?アメリカの影響力はどれほど強いのですか?それは主にNGOを通じたものなのか、それとも直接的なビジネス上の利益や、特定の政治指導者への資金提供などによるものなのでしょうか?影響力の源はどこにあるのでしょうか?

バーレティック: はい、それは「全米民主主義基金(NED)」および「USAID(米国国際開発庁)」によるものです。これらは、誤解されがちですが、資金が打ち切られたり解体されたりしたということはなく、いまだに台湾でも活動を続けています。彼らはアメリカが支援する政党に対して、政治的な支持ネットワークを構築しています。つまり、NEDを通じてアメリカはメディアネットワークを作り上げましたし、教育システムにもNEDの資金を通じて介入しています。そのため、メディアと教育に対して非常に強い影響力を持っているのです。そして、政治的な野党グループにも何百万ドルという資金を注いでいます。

タクシン・チナワット氏は、現在のタイの連立政権における事実上の与党の指導者である億万長者であり、また、タイ議会で野党として大きな勢力を持つタナトーン・ジュンルンルアンキット氏も関わっています。ただ、「事実上の」と申し上げたのは、タイ軍がここ数年、アメリカの傀儡となっているこれらの人物を排除しようとしてきたからです。2006年にはタクシン氏を追放するクーデターがありましたし、2014年には彼の妹を追放するためのもう一つのクーデターがありました。今では彼の娘が首相を務めていますが、彼自身がすべてを違法に運営していることは明白です。西側メディアはあまりこの点には触れません。

アメリカは情報空間および政治空間を通じて介入を行っているのです。タイ軍は独立した機関であり、タイ全体に対する完全な政治支配に対する抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)の役割を果たしています。そのため、越えてはならない一線が存在します。そして、それが現在の国境問題が激化した原因なのです。

タクシン・チナワット氏、その娘は、タイ国民が同意しておらず議論する機会すら与えられていない領土に関する譲歩を、カンボジア政府に対し行おうとしていました。タイ軍はそのような領土の譲歩を受け入れるつもりはまったくありませんでした。その結果、かれらはカンボジアと共謀して、タイ軍が紛争を戦わざるを得ないような状況に追い込んだのです。これは戦う必要のない無意味な紛争です。

2008年ー2011年にも同様の状況がありました。タイの、いわゆる「ディープ・ステート」が、このアメリカ支援による政権を排除しようとした時期です。そして突然、暴力が激化しました。これはタクシン・チナワット氏とカンボジア政府の間で調整されたものです。フン・セン氏は現在カンボジア上院の議長であり、その息子がカンボジアの首相を務めています。彼らはタクシン・チナワット氏および彼の政治組織と親しい家族ぐるみの友人関係であり、政治的同盟者でもあります。

一部では、両者の間に亀裂があるとの主張もありますが、2008年および2011年には非常に親密な関係にあり、実際に暴力も発生しました。いずれにせよ、このタイミングは非常に疑わしく、アメリカが他国で使っている戦略と非常によく似たものをタイにも適用しているように見えます。

私は以前、「ランド研究所」が発表した“Extending Russia(ロシアへの圧力拡大)”という政策文書について話したことがあります。そこでは、地政学的、経済的、社会的、あらゆる面でロシア周辺に圧力をかける手段が挙げられていました。彼らは同じことをタイのような他国にも行っているのです。ただ、それがアメリカとロシアの対立ほど広く報道されていないだけなのです。

ディーセン:さて、アメリカと中国の主要な地政学的、あるいは地経済的な競争関係を考えたとき、アメリカがこの文脈でタイを必要とする主な目的とは何でしょうか?

バーレティック:アメリカが特別にタイだけを必要としているというわけではありません。アメリカは東南アジア全体を必要としているのです。それは、ヨーロッパをロシアに対抗するための「道具」に変えたのと同じように、東南アジアを中国に対抗する「道具」にしようとしているのです。フィリピンでは、その目的をすでに達成しています。もし標的となる国、たとえばタイの西にあるミャンマーのような国を政治的に掌握できない場合には、暴力的な混乱を引き起こして、その国をほぼ機能不全の状態にし、中国と貿易したり投資を受けたり、「一帯一路」構想のインフラ整備に参加したりするような、建設的なパートナーとして使えないようにするのです。これがアメリカが東南アジア全体に対して、そしてここタイに対しても採用している戦略です。

ディーセン:ところで、これまでに判明している被害の規模や死傷者について、どのような情報がありますか? どちらか一方が優勢になっているのでしょうか? タイの方が軍事的にはある程度優位に見えますよね。少なくとも軍隊の規模や技術的な――つまり装備面で――タイの方が強そうに見えますが、現地の状況は実際どうなっていて、この衝突が長期化する可能性はどれくらいあるのでしょうか。

バーレティック:歴史的に見て、こうした衝突は長く続くことはあまりありません。ただ、今回の件はかなり深刻で、激しさも増しています。ご存知のとおり、タイはカンボジアよりもずっと大きな国です。人口はカンボジアの4倍、軍隊の規模はおよそ3倍で、戦力的には3〜5倍強いです。GDPはカンボジアの12倍です。タイには約7,000万人の人々が住んでおり、カンボジアには約1,700万人が住んでいます。ですから、数の上ではタイが圧倒的に有利です。軍事力を数字で見れば、タイに大きく傾いていると言えます。とはいえ、タイ軍としては事態をエスカレートさせたくないのです。そもそも、この紛争には半ば巻き込まれる形で関与させられましたし、カンボジアに対しても非常に抑制的に対応しています。

ただし、民間人の死傷者はタイ側の方が多いです。というのも、カンボジアが使用しているのはBM21と呼ばれる多連装ロケットシステムで、いわゆるグラッド・ロケットです。これらは誘導機能を持たない無誘導ロケットで、広範囲に被害を与える兵器です。つまり、特定の標的に正確に当てることはできず、あるエリアを狙って撃ち込むことで、そのエリア内のすべてが破壊され、人々が傷つき、命を落とすという性質のものです。カンボジアはこれを主に使用しており、タイ側はそれに対して、ロケット発射機を狙った反撃(カウンターバッテリー攻撃)を行っています。

国境沿いでは陣地戦が展開されており、両軍とも塹壕を築いて戦っています。そのため、タイ側の民間人の死傷者の多くはこうした戦闘によって出ており、一方でカンボジア側の軍人の死傷者は、タイが行う砲撃や空爆によってロケット発射機を狙った攻撃によるものです。そして再び言いますが、カンボジア側が無差別にロケットを撃ち込んでいるため、それが一般市民の家を直撃しています。7イレブンやガソリンスタンド、さらには病院2カ所がこのロケット攻撃で甚大な被害を受けている映像も確認されています。10万人以上の人々が避難を余儀なくされ、実質的には難民キャンプへ移動しています。

具体的な数字で言うと、私が最後に確認した時点では、タイ側で死亡した民間人は14人でした。カンボジア側は死者数について公式に発表していませんが、軍人の損失については報告しており、その中には過去数日間のうちに死亡した将官も含まれています。ですので、民間人の死傷者については、カンボジアの無差別なロケット攻撃によってタイ側が大きく偏って多くなっているようです。軍人の死傷者に関してはカンボジア側の方が多いと見られます。実際の戦闘や領土の奪い合いについては、現在のところ膠着状態にあるように見えます。

ディーセン:そうですね。あなたが再投稿していたBBCの報道についての投稿ですが、カンボジアへの空爆を取り上げながら、タイへの攻撃の写真を添えていましたよね。ちょっと興味深い印象操作だと思いました。でも、アメリカ以外の欧米諸国はこの紛争にどのような立場を取っているのでしょうか?アメリカと同じくらい深く関与しているのでしょうか?

バーレティック:この段階では、それを判断するのは難しいですね。ご存じの通り、西側メディアはよく情報操作を行います。たとえば、「アラブの春」の初期にも、多くの西側メディアはそれ以前に国務省と協力して抗議活動の準備を進めていたにもかかわらず、いざ抗議が始まると何も知らなかったかのように装っていました。そういう例はたくさんあります。

今回の件でも、西側メディア全体で「タイはアメリカの支援を受けており、カンボジアは中国の支援を受けている」とするような物語(ナラティブ)が形成されつつあるのを感じます。中には「カンボジアが先に攻撃した」と報道しているところもあり、それによってこの攻撃が中国の支援によるものだと示唆しようとしているのです。そしてさらに、タイの人口密集地域への無差別ロケット攻撃も利用されて、中国が関与しているという印象を強めようとしているようです。

つまり、混乱を招こうとしているわけです。彼らは状況を整理して説明することはしていません。広い視野で全体像を捉えようとしていません。タイ国内に存在する軍と文民政府の対立構造にも触れていません。アメリカがこの文民政府、つまりある大富豪とその政治勢力を、21世紀の初めからずっと支援してきたという事実にも言及しません。彼(タクシン・チナワット)は2001年にはすでに首相を務めていて、当時からアメリカは全面的に彼を支持していました。

ですから、状況は非常に混沌としており、人々が理解するのは難しいと思います。だからこそ私は、たとえ情報量が多くても、こうした背景を投稿して共有しているのです。人々にはこの背景を理解してもらう必要があります。

これは、たとえばウクライナのように、アメリカの代理勢力とロシアとの明確な代理戦争になっているケースよりも、もう少し複雑です。そして目的も少し曖昧でわかりにくい。私が思うに、アメリカはただ単に「対立を生み出したい」だけなのです。そうすればこの地域全体が停滞します。

今はアジア全体が、中国とともに協力しながら一緒に成長しつつある時期です。私たちは、米国務省の「国務省歴史部門(Office of the Historian)」のウェブサイトで、無数の政策文書を読むことができますが、そこには文字通り「アジアを貧しいままに保つことが我々の目標だ」と書かれているのです。では、それをどうやって実現するのでしょうか?内部に介入し、国の内部を分断し、隣国との対立を煽る――まさにそれが今起きていることであり、アメリカがこの地域で使っている戦略なのです。

ディーセン:それで、これはタイでは実際うまくいっているのでしょうか?タイの人々はこれをどう見ているのでしょうか?もちろん、全員を代表して語るのは難しいとは思いますが、メディアではどのように描かれているのでしょうか?アメリカが言うように「中国が支援するカンボジア」という構図で伝えられ、それが中国に対する否定的な感情をあおっているのでしょうか?それとも、アメリカが黒幕だと見られているのでしょうか?この紛争は主にカンボジアとタイの二国間の争いとして見られているのでしょうか?それとも自国の政治的指導者の欠陥として見ているのでしょうか?タイ側ではこの問題はどう受け止められているのですか?

バーレティック:良い質問ですね。私は、この紛争は二国間の争いとして見られていて、タイ国民とカンボジア国民の間に分断を生んでいると思います。それは両国においてそうです。私は両国のメディアをチェックしていますが、そこでは互いの国に対する敵意を煽るような意図的な報道が見受けられます。これは、中国にとっても、アジア全体にとっても地域の進展を妨げるものであり、こうした紛争の意図された目的の一つです。

タイには、現在の政府がアメリカに支援されていることを知っている人が多数います。実際、最近そのアメリカ支援の現政府に対して抗議デモが起きました。多くの人がニュースを見て「これはNED(全米民主主義基金)に支援された抗議なのか?」と思ったかもしれませんが、そうではなく、NEDに支援された政党が政権を握っていることに反対する人々によるデモなのです。

タイではNEDの支援による「カラー革命」が起きてきました。そして、それに対するタイ側の「カウンター・カラー革命」も存在します。ですから、抗議活動を見るときには、誰が誰なのか、何が起きているのかをきちんと整理することがとても重要です。

この問題にはもっと深い背景があることを理解している人は、タイ国内に相当数存在します。もちろん、カンボジア政府も今回の事態を引き起こすうえで役割を果たしたのは確かですが、タイの現政権もそれに加担していると見ているのです。だから、国民がこの政府を一丸となって支持しているわけではありません。

いずれにせよ、たとえば7-イレブンでタイ人が焼き殺されるような出来事や、ただ人生を始めようとしていた若者たちが犠牲になるような無意味で回避可能だったはずの紛争を目の当たりにすれば、人々が激怒するのも当然です。

ディーセン:さて、現在は停戦協議が行われており、マレーシアで会合が開かれています。これはおそらく、マレーシアがASEANの議長国を務めているためだと思われます。ただ、どちらの側にもこの戦争を長期化させることで得るものがあまりなさそうに見える中で、この協議はどの程度前に進んでいるのでしょうか?

バーレティック:そうですね。最終的には、タイ軍が「非公式な拒否権」を持っていると思います。つまり、もし軍が「軍事的に何かを達成する必要がある」と感じていれば、戦闘を継続するでしょう。そして軍はこの文民政府とは対立しています。そもそもこの文民政府には正統性がありません。というのも、これは外国勢力によって構築され、権力の座に据えられた政権だからです。

その文民政府の代表者たちがマレーシアに出席しています。あなたの言う通り、それはマレーシアがASEANの議長国であるためです。中国の代表者も参加していますが、アメリカの代表者もいます。そして、人々は疑問に思うべきです。「なぜ中国がいるのか?」それは当然です。中国はこの地域の国ですから。しかし、「なぜアメリカがそこにいるのか?」人々はなぜアメリカがこの協議に招かれ、席を得ているのかを自問すべきです。それは非常に怪しく、そして非常に意味深いことです。

私は、これまでと同様に、この問題は最終的には二国間で解決されると思います。しかし、それはそもそもこの対立を引き起こした目的が何であったかにかかっています。もしアメリカや、彼らが権力に据えた傀儡政権、あるいはカンボジアのフン・センと結んだ何らかの取引の目的がまだ達成されていないとすれば、マレーシアでの協議がどうなろうと、事態は続く可能性があります。ですので、私たちはこの件について非常に注意深く見守る必要があります。

ディーセン:なるほど。トランプ氏もこの件に関与しており、両国に停戦を受け入れるよう呼びかけていますね。ただ、実際に何が起きているのかはいつも少し不透明です。彼はインドとパキスタンの紛争を止めたと自画自賛していますが、私がインドやパキスタンから聞いた話では、彼はまったく関与していなかったようです。ですから、すべては話半分に聞くべきかもしれませんが、それでもアメリカの現在の立場はどうなのでしょうか?アメリカはこの対立を緩和しようとしているのでしょうか?あるいは、実際にこの紛争を終わらせるために何をしているのでしょうか?

バーレティック:ええ、アメリカが支援している政党を見てみると、現在与党となっている政党[注:プアタイ党]と野党になっている政党[注:人民党]の2つがあります。彼らはこれらを意図的に分けて「グッドコップ・バッドコップ(良い警官・悪い警官)」戦術のように使っており、現在政権にある方はより穏健で、タイの国益と歩調を合わせようとする姿勢を見せています。もう一方の政党は軍と王室の打倒を望んでいます。そうしてアメリカは自分たちのアジェンダを進めようとしているのです。

野党側のアメリカが支援する政党は「ピープルズ・パーティー(人民党)」と呼ばれています。トランプ大統領が発言をした途端、彼らもすぐにその発言を繰り返し、「この紛争は終わらせるべきだ。アメリカとの貿易関係を守らなければならない」と主張しました。そして、関税交渉を急いで進めたいと考えています。

しかし、私たちが他国との事例で見てきたように、アメリカが提示する関税交渉というのは実質的には「恐喝」です。一方的な条件で、アメリカだけが恩恵を受け、相手国には何の利益もありません。アメリカの製品に対する関税はそのままで、相手国はあらゆる貿易障壁を撤廃しなければならず、アメリカからの輸入品に対して自国の基準すら適用できないのです。

タイに対して今言われているのは、「この紛争を早く片付けて、その貿易交渉を進めろ」ということです。つまり、意図的かどうかは別として、この紛争はその貿易交渉から国民の関心をそらす「目くらまし」として機能しています。そして、この関税交渉は、紛争が起きているのと同時進行で強引に進められており、正当な議論や抗議の機会すら与えられていないのです。

ディーセン:それで、中国の役割はどうなのでしょうか?マレーシアでの和平協議の写真を見ていて面白いと思ったのは、アメリカと中国が後ろの席に並んで座っていたことです。ですが、この一連の出来事において中国はどのような立場にあるのでしょうか?というのも、中国はブロック政治のような野心を持っていないわけですよね。では、彼らはここでどのような貢献をしているのでしょうか?

バーレティック:断定するのは難しいですが、中国はいつもどおりの立場を取っています。どちらか一方に肩入れすることはなく、両国に対して「戦闘をやめて和解するように」と呼びかけています。中国の基本的なメッセージは、「二国間で解決すべきだ」というものです。西側諸国が支配するような国際機関や組織に頼ろうとはしていません。

このような協議の場に中国が出席しているのを見るのは当然のことです。なぜなら、これはアジアで起きている問題であり、中国はアジア最大の、そして最も影響力のある国だからです。しかも、この問題は彼らに直接影響します。なぜなら中国はタイとカンボジアの両国と貿易を行っており、タイでは「一帯一路」のインフラ整備を進めており、近年はカンボジアとも関係を強化してきたからです。

このような衝突は、そうした経済活動にとって障害となります。ですから中国の関心は、この対立を解決し、平和と安定を取り戻すことにあります。そうすれば、すべての国が協力して繁栄を追求するという本来の道に戻ることができるのです。

ディーセン:ところで、中国はタイで何を失うリスクがあるのでしょうか?今のところ中国の一帯一路全体の中で、タイはどれほど重要な位置を占めているのでしょうか?

バーレティック:まずタイと中国の関係について全体像をお伝えします。多くの人がこの関係について誤解しています。中国はタイにとって最大の輸出入相手国であり、年によっては最大の投資国でもあります。また、タイを訪れる観光客の中で最も多いのは中国人で、西側諸国すべてを合わせた数よりも多いのです。その次に多いのもアジア諸国からの観光客です。

ですから、タイと中国は二国間関係だけでなく、地域の安定にも強い関心を持っています。というのも、両国の経済はそれに大きく依存しているからです。また、高速鉄道の建設も進められており、数年前からすでに建設が始まっています。バンコクには新しい「グランド・セントラル駅」が建設され、これはその高速鉄道の第一段階の終着駅となります。この路線は、すでに運行しているラオスの高速鉄道と接続される予定です。ラオスはタイの北の隣国であり、これが完成すればバンコクからラオス経由で中国の高速鉄道網とつながることになります。

F-16戦闘機を見て、「アメリカ製の兵器を使っているじゃないか」と言う人もいますが、ここ10年でタイは中国製の兵器や軍需品をはるかに多く購入しており、中国と共同で兵器の開発まで行っています。これは通常、アメリカが他国とは行わないことです。

タイは、旧式のアメリカ製装備を中国製の新しい装備に置き換えてきました。たとえば主力戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、防空システム、艦船、そして高速鉄道などです。また、タイにとって初の現代型ディーゼル電気潜水艦となる予定だった潜水艦契約もありました。

しかし、これらすべてに反対しているのが、アメリカに支援された政党です。タクシン・チナワット氏に支援された政党と、もう一人の大富豪であるタナトーン・ジュンルンルアンキット氏の政党です。

特に後者のタナトーン氏は、タイ・中国間の高速鉄道計画に公然と反対しています。彼はこのプロジェクトは中止すべきだと発言し、存在しない「ハイパーループ」構想を提唱しています。彼は明確に「タイは中国に近づきすぎている。もっとアメリカ、ヨーロッパ、日本とバランスを取るべきだ」と主張しています。しかし、それらの国々は中国が提供しているような機会にまったく匹敵するものを持っていません。

ですから、タイと中国の関係は非常に大きく、今も拡大しています。そして現在のタイとアメリカの関係よりもはるかに深く、重要なものです。カンボジアと中国の関係と比べても、タイの方が人口やGDP、政治体制の観点からずっと大きな意味を持っています。カンボジアは一つの家族が国を支配しており、抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)の仕組みも存在しません。その結果が国の様子にも如実に表れています。

ですから、これは現在、21世紀の現実に即したタイと中国の関係を正しく理解するための概要になると思います。多くの人がまだ、50年前のベトナム戦争の頃にタイがアメリカ軍を駐留させていた時代の認識のまま止まっているのです。

ディーセン:これが最後の質問ですが、これまでの経緯や関係する当事者たち、過去の流れを踏まえて、今後の展開はどうなると見ていますか?比較的早く収束すると思われますか?それとも、タイを中国から切り離すというような目標がある程度達成される可能性はあると思いますか?

バーレティック:これもやはり簡単には言えません。というのも、これはアメリカの戦略の一部として、どのような目的を持って動いているのかに大きく左右されるからです。

通常、タイ側はアメリカの圧力をある程度理解しており、軍としても平和と安定、そして現状に近い形へと戻すために、何らかの譲歩をせざるを得なくなると思います。そして、軍もこうした譲歩は「長期的に見れば時間はタイや東南アジア、ひいては中国を含むアジア全体の味方である」という考えのもとで行うと思います。

短期的にはアメリカに譲歩したとしても、長期的には状況が今の方向性で進めば、それらを逆転させることができると考えているのです。

もしこの対立が続くとすれば、それはアメリカがそれを望んでいるからか、あるいはアメリカがカンボジアを説得した結果かもしれません。というのも、カンボジアはこの作戦を開始する前に数週間をかけて準備していたからです。

今回の件は、過去の対立よりもずっと深刻です。どこまでエスカレートするかは予測が難しい状況です。多くの点で、これは2008年にジョージアがロシアの平和維持部隊を攻撃し、それを利用してアメリカがロシアに圧力をかけ不安定化させようとした構図に似ています。

願わくば、これが数日中に終わることを望んでいます。しかし、今日の地政学的状況は前例がなく、世界がアメリカ主導の体制から離れていく中であるため、今後どうなるかは引き続き注視していかなければなりません。

(以上)

参考投稿

「全米民主主義基金(NED)のファクトシート」

「全米民主主義基金(NED)とは何か、そして何を行っているのか」


Monday, April 08, 2013

医療:現代アメリカの残酷 Health Care: The New American Sadism



 安倍政権の下、日本はTPP交渉に参加しようとしている。後発国は交渉力を持たず脱退の自由すらないということを隠したまま、日本が生き残るには不可避であるかのようにマスコミは宣伝し、その内容を国会にも秘密にして交渉を進めている。これは民主主義に対する重大な挑戦であるが、この裏で動いているのは、利益追求を唯一最大の目的にしたグローバル企業であって、あらゆる分野で無限の力を企業に与えようとする策略である。新自由主義と規制緩和の動きはアメリカに始まって、小泉政権以後は明らかに日本をも飲み込みつつあるが、その病的な側面はやはりアメリカで先に露呈している。もし日本がTPPに組み込まれたなら、その先に待っている将来、サディズムに覆われた社会の姿が、ここに紹介する文章には暗示されている。
 これは、2013年3月4日付のタイム誌に掲載されたスティーブン・ブリルの記事「苦い薬:なぜ医療費は私達を殺すのか」(Bitter Pill: Why Medical Bills Are Killing Us)に対する、チャールズ・シミック氏の書評である。米国で定評のある書評誌 The New York Review of Books のオンライン版ブログとして掲載された。
翻訳・前文:酒井泰幸


医療:現代アメリカの残酷

チャールズ・シミック

「君子は義に諭り、小人は利に諭る」〜論語〜
(善人は何が正しいかを理解し、悪人は金儲けを理解する)

 スティーブン・ブリルがタイム誌に書いた「苦い薬:なぜ医療費は私達を殺すのか」という優れた長文の記事を既にお読みになったかも知れない。もし自分には関係ないと思うなら、その考えにあまり自信を持たないことだ。ブリルは書いている。胸の痛みで救急外来にかかり、それが消化不良だとわかったものの、その請求額は大学の1学期分の学費を上回ることがある。2〜3日の入院で受けた簡単な検査が新車1台よりも高いことがある。製造原価が3百ドルの薬を、製薬会社は3千〜3千5百ドルで病院に売り、それが処方される患者には1万3千702ドルも請求されることがある。ブリルは病院の請求明細書に書かれている法外な金額をつぶさに見て、個別の診療行為の一つ一つに、同じ診療を別々に受けた場合の2倍から3倍の値が付けられていることを見つける。その理由は患者に理解不可能で、病院も説明できない。そして彼が語るのは、何らかの健康保険に加入しており、銀行にお金があり、大した病気ではなかったにもかかわらず、短期の入院のあと困窮生活に転落した人々の恐ろしくなるような物語である。

 要するにブリルが書いているのは、このような請求書から分かるのは、私達の医療制度に自由市場など無いということであり、痛みに苦しみ自分の命に不安を抱えた人は検査や治療に同意する前にまず価格表を見せてくれなどとは言わないものだと知っているから、病院は好き勝手に値段を付けるということである。毎年自己破産を申請する私達アメリカ人同胞の60パーセントは医療費が原因であるのも不思議ではない。

 もちろん、あなたがもしメディケア(アメリカ連邦政府が管轄する高齢者または障害者向け公的医療保険制度)や高額の医療保険に加入しているのなら、医療費は安くなる。というのも、病院は契約で値引きを義務づけられているし、保険会社自身も医療行為にずっと安い料金を求めて交渉する力を持っているからである。しかしもし、保険に入っていないか、入っていても不十分な保険であったなら、あなたは最高額を請求される。どちらにしても、製薬会社、医療機器メーカー、病院、それに検査会社は利益を得ることが約束されていて、問題なのはその額がどれだけ大きいかということだけである。そしてこれこそが、医療から政府を締め出したがっている人々が声を合わせて叫んでいることなのだ。彼らは医療産業をはじめとするあらゆる分野での利益追求から一切の規制を取り除こうと目論んでいるのだ。

 今日、財産の獲得、それも短期間で大金持ちになることが、人間の営みの中で最高位に置かれる時代にあって、その野望を達成してもなお、あらゆる救急・急病が金のなる木に見える人々がいる。アメリカの医療は世界中の他のどの先進国より高く付くというのも無理はない。他国のほうが、医療費がずっと低いだけでなくアメリカ人より長生きする。アメリカと違って他の国々では、人が互いに支え合って基本的な人並みの生活を送ることが最優先の問題であるような状況には、利益の入り込む余地はないという特別の考えがあり、このため救命医療や救急医薬品の価格を規制している。言い換えれば、他国の人々はアメリカ人ほど欲深くなく、はるかに人道的なのだ。

 これは耳障りに聞こえるかも知れない。しかしブリルの記事を読めば、メディケアとメディケイド(低所得者向け公的医療保険)を「市場指向」の医療に置き換えることが絶対に必要だというワシントンでの談話の真意だけでなく、このような変化が人々に何を強いることになるのかも理解することができる。もし政府による数少ない保護制度を高齢者や低所得者から奪い取ってしまったら、医療産業や保険会社の思いのままになり、既に得ている巨万の利益はますます膨らむことになる。彼らの言う、これは財政赤字を削減するという高邁な理想に向けての提案なのだという主張や、政治支配層とマスコミによる諸手を挙げた礼賛とは反対に、今まさにアメリカ人に押し付けられようとしているのは、見え透いた偽装を施された金儲けのための詐欺に他ならないということだ。

 昔は、最も腐敗した政治家でさえ時には人の心を持っているところを見せたものだ。それも絶えて久しい。今では、金がこれまで以上に政治を支配するようになり、公益よりも私腹を肥やすことがいつでも重大事であるような者たちが二大政党に資金をもたらすようになり、病人やホームレス、高齢者の窮状を口にすることは、政治生命を捨てるようなものになった。世論調査によれば、社会で不運をこうむっている人々の苦しみに対するアメリカ政治支配層の薄情さを、多くの米国民は支持していない。しかし中には共感する人々もいる。昨年春にフロリダ州タンパで開かれた共和党大統領候補の討論会で、自由主義者で元医師のロン・ポール候補が、保険に入っていない人が昏睡状態で横たわっているなら、何の努力もせず見殺しにすると発言した時、聴衆の間に沸き起こった歓声を覚えていてほしいと思う。「これこそが、自由とは何かということです。自己責任です」と彼は言った。「お互いの境遇を見比べて、お互いに面倒を見なければならないというという考え方自体が…」と言った時、数人の聴衆が「そうだ!」と叫んで議員の発言を遮ってしまった。

 これがアメリカにおける新しいサディズムの姿である。頼る者のなく弱い人々に痛みを負わせることを考えると、あふれ出る笑いを隠そうともしない。この冷酷さこそ、私達の社会がどのように変貌しつつあるかを象徴していると私は思う。医療産業、消費者金融、営利目的で運営される刑務所から、いわゆるデリバティブ金融商品の取引、公的教育の民営化、非正規雇用、兵器や傭兵などの戦争ビジネスまで、進行しつつある何百という詐欺行為の全てに共通するのは、人を食い物にするという性質である。あたかも、それは自分の国のことではなく、どこか財産を略奪するために侵略した国で、後先のことなど考えず住民から金を巻き上げているかのようである。この利益追求者たちが私達に期待しているのは、低賃金労働者、戦場に行く兵士、それに金をだまし取るためのカモになることだけである。ここに警察国家ができつつあるとすれば、それは私達が一夜にしてファシズム信奉者になったからではなく、人々を一斉検挙して刑務所に入れれば儲かると見る人たちがいるということだと、私は考えている。ジョナサン・エドワーズなど清教徒の神学者たちが酷たらしく描いた地獄が、もし今も存在しつづけているとしたら、それこそ彼らの多くが堕ちていく先なのだと思いたい。

2013年4月2日 午後6:15



チャールズ・シミック(Charles Simic)は、詩人、エッセイスト、翻訳家。約20編の詩集、6冊のエッセイ、1冊の回顧録、数々の翻訳書を出版。ピューリツァー賞、グリフィン賞、マッカーサー・フェローシップを始め受賞多数。

Sunday, March 03, 2013

オバマ大統領から冷遇された安倍首相、その背景には

2月22日、CSISで講演する安倍晋三首相。官邸HPより。


いつもながら、東京新聞の勉強になる社説を紹介します。

週のはじめに考える 集団的自衛権で何をする
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013030302000153.html

ここで、「安倍晋三首相はオバマ米大統領との首脳会談で、歴代首相として初めて集団的自衛権の行使容認の検討を始めたと伝えました。」とあります。

「歴代首相として初めて」とか言っていますが、実のところ、「集団的自衛権」の肝心のお相手、オバマ氏からの反応はありませんでした。外務省の日米首脳会談の概要記録を見てもわかります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/us.html

上記概要の「安全保障」のセクションを見ると、提案はほとんど安倍総理によってなされ、一方通行であることがよくわかります。米国にとって今、日本との「同盟」を強化することよりも中国を刺激することを避ける方が優先順位が高いのです。「アジア太平洋地域情勢」の「中国」のセクションを見ても、安倍政権が中国とこれ以上緊張を高めないよう、オバマ政権から釘を刺されていることがうかがわれます。日米安保条約適用について全く触れられていないことも象徴的です。

ちなみにこの日米首脳会談概要は日本語しかありません。米国側は、ホワイトハウスのウェブサイトで共同記者会見の様子の録画と、共同声明のテキストが載っています。
http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/video/2013/02/22/president-obamas-bilateral-meeting-prime-minister-abe-japan

安倍氏は日本の報道で「オバマ氏とケミストリーが合った」と言ったとか伝えられていますが上記リンクの動画を見て「うまが合う二人」に見えると思う人はいないでしょう。オバマ氏はきわめて事務的で冷淡にも見え、安倍氏がカラ元気で「日米関係を取り戻した!」ということを言っても、寒い空気が流れるだけという印象は否めません。

共同声明
(英語は
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/pdfs/1302_us_02.pdf
日本語は
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/pdfs/1302_us_01.pdf)

外務省の会談概要ではさまざまな項目が議題とされているのに共同声明ではTPPしか扱っておらず、TPPについても、「交渉内で決まることは交渉前は決まっていない」という当たり前のことを確認しただけです。これを、報道されているような「関税の聖域なき撤廃はしなくていい」との言質であるという理解は間違っているでしょう。

今回の安倍訪米直前、2月15日の米国の議会調査局が米日関係、安倍政権について詳細にわたる報告書を出しています。
http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf。
私も、香港拠点の著名なジャーナリスト、程翔氏による安倍訪米関連記事
http://www.asianewsnet.net/No-free-hand-for-Japanese-hawk-43428.html
を見るまで知りませんでした(この記事では、尖閣問題でオバマの支持をとりつ
けようとした安倍は全く相手にされたなかったと言っています)。

この米議会調査局報告書は多岐にわたり一言では要約できませんが、まず日本は2007年以来首相が6人という政治的不安定さに触れています。尖閣/釣魚諸島問題において米国は、領有権については立場を取らないと明確にしているが日本側の施政権を認めており、日米安保条約の義務からも、米国が直接軍事的紛争に関与しなければいけなくなる可能性を指摘しています。また、歴史認識問題において安倍のナショナリスト的アプローチが中国、韓国との関係を損ね、米国の利益を害する可能性があることを指摘しています。「慰安婦」問題については独立したセクションが設けられています。全体的に価値判断よりも客観性を貫いている報告書の中でこの歴史認識問題についてだけは「米国の利益を害する」と断言しているのは注目に値すると言えるでしょう。そして、安倍が参院選を見込んで、踏み込んだ政策(TPP、集団自衛権等)を取らぬようにしていることも随所で触れられています。TPPにおいては、米国の国益が、日本の保険市場(世界第二の規模)と、農業市場の開放にあると狙われていることが明らかです。そう、当然ながら、日本側が一番守りたいと思っている部分は米国が一番突き崩したい部分なのです。沖縄については、オスプレイ配備に対する全県的な反対も含め県内の基地への反対が強まっていることを強調、昨今の米兵の犯罪にも触れ、「普天間基地移設論争」として独立したセクションが設けられています。普天間移設問題は「沖縄と東京の中央政府間の関係における根本的な緊張関係」を反映しているとし、「国全体が日米安保の利益を享受しているかたわら、沖縄が過重負担を負っている」と明記しています。

この報告書をオバマ氏やその側近は読んで首脳会談に臨んでいるはずであり、アジア隣国、とくに中国との関係を刺激せぬよう、タカ派の安倍政権には注意し、距離を置いて接したオバマ氏の行動はよく理解できます。安全保障分野における安倍氏のラブコールには応じず尖閣問題や集団自衛権についての言及を避け、沖縄の基地問題についても安倍の辺野古移設計画の推進を積極的に支持しなかったことも理解できます。結局外務省の首脳会談概要に示されるような多々のの議題があったにもかかわらず共同声明がTPPという単独の項目についての発表に終わったのは、今回の首脳会談は米国にとって、日本をTPPのカモにすること以外の関心項目はなかったということを示唆しているのではないでしょうか。

それを反映してか、安倍氏は概してホワイトハウスから冷遇を受けました。それはいろいろなブログでも書かれましたが一部の主要メディアも取り上げています。

朝日「首脳会談、米側は抑えた反応 メディアの関心も低調」
http://www.asahi.com/international/update/0223/TKY201302230186.html?ref=reca

天木直人「日本は冷遇された」事を認めた毎日新聞編集委員」
http://www.amakiblog.com/archives/2013/02/28/

夕食会も出迎えもなし。日米首脳会談で見せ付けられた日本軽視の厳しい現実 | ニュースの教科書
http://news.kyokasho.biz/archives/6571

人気ブログ「阿修羅」に掲載された、これはまた詳細にわたる安倍冷遇分析。
「安倍首相に対する「不快感」を世界に晒したオバマ大統領:安倍自民党政権の
誕生により民主党政権より悪化した日米関係」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/609.html

安倍氏が唯一歓迎されたのはジャパンハンドラーたちの巣窟のようなシンクタン
クCSISにおいてアーミテージ、グリーンらを相手に演説を行ったときのみでした。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0223speech.html

孫崎享氏はこのように評価。
「奴隷根性丸出しの安倍首相  孫崎 享」
http://blogs.yahoo.co.jp/hellotomhanks/63817598.html

日本メディアはこのシンクタンクにおける安倍の演説ばかり取り立てて安倍の訪米が成功であったかのように演出するところもありました。

日本に久々脚光=安定政権に期待-米
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201302/2013022300286&g=pol

首相官邸も同レベルであり、官邸HPの安倍訪米報告ページにも「日本は戻ってきた」としてリンクを張っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0223speech.html
「戻った」というのは、いつでも戻れる同盟寄りシンクタンクに戻ってきただけです。つまり、そこにしか居場所を見いだせなかったのです。

冒頭の東京新聞の社説に戻りますが、
「安倍首相には勇猛果敢に突き進むより、世界で孤立しないよう多国間の連携に汗をかいてほしい。心からそう願います。」と結んでいます。

「孤立しないよう」というのは残念ながら楽観的な見方です。米国一辺倒でアジア敵視の外交しかできてきていない日本は、米国には尊敬されるどころか冷遇され、利用されるだけとなっており、すでに孤立しています。

安倍氏はまず、米国からも国際的にも一番問題視されているその時代錯誤的な歴史認識を改め隣国との関係改善に真剣に取り組むことから始めるべきでしょう。河野談話や村山談話を修正したり、教科書検定における近隣諸国条項も撤回するといった計画は断念すべきです。「東京裁判史観」批判といって侵略戦争や敗戦までも否定しようという姿勢は到底受け入れられるものではありません。特に沖縄の離島、竹富町に側近を送って、「つくる会」系の教科書を拒否したら「あらゆる手段を使ってでも」強制すると恫喝させたりするような暴力団まがいの行為は反省し、即刻手を引くべきです。 @PeacePhilosophy

追記

ちなみにTPPがまだ日本にとっていいのかもしれないと思っている人へ―天木直人さんのブログでも紹介され日本語版が今、驚愕の声とともに出回っている動画を見てください。昨年6月14日に放送された米国の代替メディアの代表格 Democracy Now! のものです。
http://www.democracynow.org/2012/6/14/breaking_08_pledge_leaked_trade_doc
デモクラシーナウ!日本語版
http://democracynow.jp/video/20120614-2



 
★関連記事として、昨年(2012年)11月9日号 『週刊金曜日』の成澤宗男氏による記事「大企業の代理人が米国による経済支配を狙う TPPの仕掛け人  USTR(米通商代表部)の正体」もご覧ください。