Saturday, February 28, 2026

中国と断絶したまま孤立する日本でいいのか Can Japan Afford to Remain Isolated from China? 

2月25日の、「安倍元首相の国葬を許さない会」主催で古賀茂明さんの講演会がありました。最後に私が「中国と断絶したまま孤立する日本でいいのか」というテーマで20分発言させていただきましたのでその発言内容をここにアップします。2月28日、米国・イスラエルがとうとうイランに戦争を仕掛けました。この戦争は「核問題」などと何の関係もない政権転覆のための侵略戦争です。大量破壊兵器の嘘を使って正当化したイラク戦争と同じことをまたやっている。米イスラエルはパレスチナ人に対するのと同様、イラン人を人間とも思わぬかのように学校を爆撃、子どもたちを殺しました。この日の発言でも訴えましたが、このようなテロ国家米国と「同盟国」でいいのかという問いを強調したいと思います。



中国と断絶したまま孤立する日本でいいのか

 

乗松聡子

 

憲法9条は謝罪

 こんにちは、乗松聡子です。安倍元首相の国葬を許さない会からのお招きを感謝しております。私は留学をきっかけに通算30年カナダに住んでいます。

 2000年代初頭、しばらく離れていた日本で、憲法を改変して戦争ができる国になろうという動きが加速していることを知り、2005年、バンクーバー9条の会の創立に加わりました。設立記念講演として、地元のブリティッシュコロンビア大学で教えていたこともある加藤周一さんに話していただきました。加藤さんは、「(太平洋に面している)バンクーバーは西洋と東洋が出会う場所」なので平和のための活動にふさわしい場所だと言っていたことが印象に残っています。

9条の会の活動として、ジャン・ユンカーマン監督の「映画 日本国憲法」をカナダ各地で上映しました。映画に登場した人のうち、チャルマーズ・ジョンソン氏は元CIAの保守派でしたが、当時の大田昌秀知事の招きで沖縄に行き、米軍基地の被害を目の当たりにして以来、一貫した帝国批判を行った人でした。

ジョンソン氏は映画の中で、憲法9条そのものが、日本が侵略したアジア諸国に対する「謝罪」という意味を持つと言っていました。 同時に、「9条の放棄はこの謝罪の放棄を意味する」とも言っていました。

 立命館大学の君島東彦教授も、「6面体としての9条」という理論において、9条2項は、第二次世界大戦における枢軸国でアジア太平洋全域を侵略・支配した日本に対する「懲罰的意味」が含まれていると論じています。

 2月8日の選挙の直後、高市首相が自衛隊を明記する憲法改正に意欲を示したとの報道に対し中国国防部の蔣斌(しょう・ひん)報道官が「日本は軍国主義という誤った道を再び歩もうとしている」と批判したというニュースをみました。

 私は、いかに正論とはいえ他国の憲法に立ち入るのはどうかという印象も持ったのですが、この、謝罪として、懲罰としての9条の意味を思いだし、あらためて、侵略戦争の反省の上に持つことになった憲法9条は日本だけのものではなく、中国などの被害国もステークホルダーなのだと認識しました。

 

高市首相は「台湾発言」を撤回せず開き直る

 もちろんこのような懸念は、高市首相が昨年11月7日、いわゆる「台湾有事」が、安保法制における集団自衛権の行使を可能とする「存立危機事態」になり得るという国会答弁を行って以来撤回もしていないという状況だからこそ発信されたものでしょう。

高市首相は中国の激しい反発と批判、渡航自粛や日本海産物の輸入停止、軍民両用品の輸出規制強化などを受けても断固撤回を拒み、今に至ります。

それどころか1月23日の衆議院解散後、選挙公示の前日である26日に各党党首と出演したテレビ番組で、「台湾有事」の際日米両国が現地に滞在する日本人や米国人の救出作戦を行うと指摘し、「(日本と)共同で行動をとっている米軍が攻撃を受けたとき、日本が何にもせずに逃げ帰ると日米同盟は潰れる」とまで語りました。選挙前の大事な時期にこのような開き直りまでやってのけたのです。

 おそらく、高市首相はこれが選挙にプラスになりこそはすれマイナスにはならないとわかっていたのでしょう。2010年ごろ、当時のオバマ政権が「アジアに基軸を転換する」として、経済力と軍事力を強める中国に照準を当て、米国の属国である日本は棚上げしていた尖閣諸島問題を顕在化させ、いわゆる自衛隊の「南西シフト」、つまり鹿児島から沖縄、台湾に至るまでの列島の軍事要塞化の加速がはじまりました。これと同時に、日本政府やメディアは中国に対するネガティブキャンペーンを大々的に展開してきました。

世論調査によると、日本人の中国に対する意識は2000年代半ばぐらいまでは比較的良好だったのに、2010年代になってからは8割台から9割台が良くない印象を持っているという「好意の欠如の高止まり状態」が続いています。日本人の8割から9割は中国人の知り合いもいないという調査もあることから、日本人の大半は交流したこともない相手の国を嫌っているということになります。メディアの影響でしょう。

「戦争は人の心の中で生まれる」とユネスコ憲章は言っていますが、いま、日本の大衆の心の中では中国に対する戦争の準備がかなり出来上がってしまっているような気がします。高市首相は対中国強硬姿勢を取ることによって自分の人気が落ちるどころかかえって上がることがわかっていたのでしょう。2月8日の選挙の結果がそれを如実に物語りました。

私は高市氏の「台湾発言」以来、中国各地の友人や北米の中国出身の友人たちと会話を重ねてきました。中には中国政府に批判的な友人もいますが、その人でさえ、こと高市首相が台湾への介入を示唆したことについては、「14億の中国人は決して許さない」というのは誇張ではないと言っていました。

 

高市首相の「台湾発言」にお墨付きを与えてしまった選挙

実際のところ、対中強硬姿勢は高市首相が始めたことではないですし、日本が主導権を取ってきたとも言えません。「27年までに台湾有事が起こる」といった言説を広めてきたのも、21年のデービッドソン・インド太平洋司令官をはじめとする米軍、米政府や情報機関の高官たちです。日本は米国の中国敵視政策の中に組み込まれているのです。それは同じく地域の米国の属国である韓国、フィリピン、オーストラリアなども同様です。

米国政府が昨年11月末に発表した国家安全保障戦略、それに沿って国防省が1月に発表した国家防衛戦略においても米国は「集団的防衛の負担の共有」による「中国の抑止」を求めており、高市氏の強硬姿勢もトランプ政権の戦略に沿った行動と言えます。中国にそれが見えていないはずはありません。

ここからは私の見解ですが、中国は、意図的にこれが高市首相個人の問題である、つまり、高市首相さえ「台湾」発言を撤回するか、あるいは退陣することによって区切りをつけようとしているように見えます。その目的は日本の背後にいる米国とは全面的な対立を避けたい、また、日中関係に打開策をオファーするため、という目的があるような気がします。

私は、日本の有権者としては、いわゆる戦略的投票ということはしたことがなかったですが、今回ばかりは、日中関係のために高市政権を倒す可能性のある野党第一党に投票しようと思い、鼻をつまんで中道に投票しました。高市を退陣させるか、それが無理でも議席数を失わせることで責任を取らざるを得ない状況に持ち込む淡い期待がありました。

結果は惨敗でした。日本政治の右傾化が言われて久しいですが、左派の政党が選挙のたびに弱体化しており、今回の選挙でもう風前の灯になったような政党もあります。私は自分の戦略的投票によって、加速する左派政党の衰退の一端を担ってしまいました。

高市自民党の大勝によって、日本市民は高市氏の「台湾」発言に事実上のお墨付きを与えてしまいました。選挙期間中、日中関係を軽視していたように見えたメディアの責任も大きいと思いますが、先述したような日本に定着してしまっているかに見える嫌中感情も大きく貢献したと思います。中国の友人たちには、非常戒厳令を発した尹錫悦大統領を罷免に追い込んだ韓国市民のように、善良な日本市民も高市首相を退陣させるに違いないと、期待していました。いまその友人たちに顔向けもできません。

 

やられた国の立場に立って考える

私はこのような発言で、中国寄りだとか、日本人じゃないとか、言われるときがありますが、戦争を止めるには、戦争を防ぐには、相手の立場を理解することは最低限求められることです。ましてや、日本が侵略戦争や植民地支配で痛めつけ、まだその傷跡が残っている国々と接するときには、特に意識して、やられた側の立場に立つことが大事と思います。

昨年「戦後80年」と言われた節目に、どれだけの日本人が、大日本帝国から侵略された国や人々の立場に立って戦争を振り返ったでしょうか。大日本帝国の対中国侵略戦争は、1874年の台湾侵攻までさかのぼる必要があります。これは明治政府が琉球王国を清国との繋がりを断たせ、強制併合していく中で起きたことでした。1894―5年の日清戦争で、日本は台湾を中国から奪いました。中国の人々にとって「台湾」は日本の侵略戦争、軍国主義の象徴なのです。

中国侵略戦争が、日本人がいういわゆる「15年戦争」よりずっと前に始まっていたことは私は自分の家族の系譜からもわかっています。私の祖父は、1896年に中国にわたり、1927年日本に戻るまでの30年間、漢口の日本人入植地に住み、新聞というメディアを使って中国の世論を操作するプロパガンダ作戦に参加していました。日本のスパイだったのです。

わたしは過去2年間に5回中国に行きました。上海、南京、新疆ウイグル自治区の各地、香港、瀋陽、撫順、北票、阜新成都、重慶、常徳、廠窖(しょうこう)、長沙、武漢などです。各地で経済やインフラの目覚ましい発展、そして多文化共生社会に圧倒された旅でしたが、同時に、日本の侵略戦争の爪痕を目の当たりにしました。南京大虐殺はよく知られていますが、旅をすると、地名さえ知らなかった多くの場所で強制連行があり、南京大虐殺と同様の虐殺、性暴力、略奪行為を行っていたことがわかります。行けば行くほど、自分の知っていたことは氷山の一角だったということに気づかされ恥ずかしくなります。

みなさんは、自分の母が、娘が、強姦された上で残忍な方法で殺されたら、許すのに何年かかるでしょうか。私だったら、永久に許すことはできません。許されるはずもない罪を数限りなく犯した日本を、中国は、敢えて日本の軍国主義と人民を分けて考え、賠償を求めることもなく許したのです。しかしそれは、二度と台湾に介入しないという約束をすることによってこそ可能になったのです。

だからこそ日本の政治家が台湾への介入を語るということは即、日本の軍国主義と侵略戦争の再来ということになるのです。それも現役の首相が国会の場で行った。この重大さを日本人はわからず、日本のメディアもこれを軽視して、中国以外と付き合えばいいんだ、みたいな論調ばかりです。それで高市自民党の選挙による大勝ちを招きました。

あらためて、日本は、1972年の日中共同声明の「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国の立場を理解し尊重するという約束と、その後、1978年の日中友好平和条約、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明という日中関係4文書で繰り返し約束した「一つの中国」の尊重を、中国に再確認すべきです。高市氏がこれを行う可能性はいまや大変薄いですが、誰かがやらないと日本は中国の信頼を永遠に失います。高市氏は、「対話の扉は開かれている」などと聞こえのいいことを言って、中国側が対話を拒んでいるかのような演出をしていますが、相手の足を踏みつけながらその足をどかさずに「対話しよう」などという言葉を誰が信じられるでしょうか。

 

戦争と制裁で帝国を維持する米国に隷属したままでいいのか

高市首相が1月26日、「台湾で米軍が攻撃されて日本が何もしなければ日米同盟がつぶれる」と言ったのは語るに落ちるというか、本音が出たのだと思います。高市氏にとっては市民の命よりも、また、日中関係よりも、日米軍事同盟とそれで潤う軍需産業が大事なのです。

西側諸国の中国脅威視も日本と大差ありませんが、それでも世界最大級の経済大国と関係を遮断してその国のためになるはずはありません。昨年末から今年にかけて、フランス、英国、ドイツ、カナダ、韓国、など西側諸国の首脳も北京を訪問しています。米国さえいてくれればいいと思っている高市首相だけが完全に中国と遮断しているのです。

いま一度言いたいです。日本は米国に隷属したままでいいのかと。米国が敵視する中国、ロシア、朝鮮など隣国を右へ倣え、で敵視して、孤立したままでいいのかと。トランプのベネズエラ、イラン、キューバなどに対する内政干渉と威嚇を見て、米国の帝国主義が復活したなどという人もいますが、米国は建国以来「帝国」でなかったことなどありません。米国議会調査局によると米国は建国後、約500回にわたり他国への武力介入をしており、そのうちの半数はなんと冷戦終了後にやっています。

第二次大戦後、米国は37の国々で2千万人を殺したというレポートもあります。ガザと西岸地区のパレスチナ人殺戮も続いています。いわずもがな、海外に800とも1000ともいう軍事基地を展開しています。こんな国はどこにもありません。きょう(2月25日)ここに来る間、トランプ大統領の一般教書演説を聞きました。イランに核兵器を持たせないために戦争をやろうとしています。イランは核兵器を持つ計画はありません。これは「大量破壊兵器」の嘘でイラクを侵略したイラク戦争と同じです。20年以上たってまた同じことをやっている。議会もそれを止めようとしません。

日本は、1945年の敗戦後、事実上の植民地である沖縄を米国に差し出し、アジア最大の米軍ホスト国となりました。横須賀や佐世保、岩国の海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場などは、旧日本軍の基地が米軍に受け継がれた基地です。日本は、敗戦後「平和」どころか、米帝国の一部となって、度重なる侵略戦争に加担してきました。もはや「戦後」という言葉などなんの意味もないかのようにも思えてきます。

そしてもう一つの、見えにくい戦争があります。制裁です。米国と西側諸国は40か国、世界の3分の1の人口に対し経済制裁を行っています。医学誌「ランセット」の2025年の報告書では、1971年から2021年までの50年間米国やEU諸国による制裁で年間約56万人が死んでおり、それは戦争による死者数と同等であるという報告が出ました。そのうち半数は子どもです。制裁は、脆弱な人口ー女性、子ども、高齢者、障がい者、病人を直撃します。日本も米国に同調して制裁を行う側にあります。私たちはいまこうやって話している間にも世界中で人殺しをしているのです。

 

日本よ アジアに戻ろう

昨年6月、トランプ関税で世界が動揺していたときに上海にいました。上海の研究者の友人は私にこう言いました。「これで日本もアジアに戻ってくるのではないか」と。いわゆる同盟国にさえ容赦ない関税を加えてカナダの併合まで言い出すトランプ政権を見限って、明治以来「脱亜入欧」状態だった日本がアジアに戻り、「アジアのことはアジアで決める」、自己決定権を取り戻すのではないかという意味でした。しかし日本は直近の選挙結果からも、米国一辺倒の道を選び続けているように見えます。

私の住むカナダはいま米国と距離を置き貿易相手国を多様化する方向性で進んでいます。カナダ人も8割かそれ以上が米国との関係に懸念を抱いているという数字も出ています。カーニー首相は先のダボス会議で西側諸国が標ぼうしてきた「ルールにもとづく国際秩序」がもう機能しなくなったと発言し世界中の注目を浴びました。米国はいまキューバに石油供給を遮断して人道危機が起こっていますが、カナダが支援を名乗り出ています。カナダのこのような傾向はトランプ政権が終わったらまた変わるのではないかとも予想しますが、注視すべき動きです。

米国ときたら旧態依然としたままです。先のミュンヘン安全保障会議で、米国のマルコ・ルビオ国務長官は西側帝国主義の維持を訴えました。5世紀の間、西側諸国は拡張を続け、巨大な帝国を築き上げたが、「神なき共産革命」と「反植民地的蜂起行動」によって今はコロンブス時代以来初めて縮小していると。だからこそ米国と欧州諸国は手を取り合って、この高貴な文明を継承していこうと言っていたのです。耳をうたがいました。

世界ではBRICS諸国に代表されるグローバルサウス、いまやグローバルマジョリティである勢力が、自分たちを5世紀にわたり苦しめてきた西側帝国主義をもう許さないと結束しています。これは虐げられてきた国々が主権と自己決定権を求める当然の脱植民地の動きです。この時代において、ルビオはよくここまで言えたものだと思いました。それも会場でスタンディングオベーションを受けました。米国と欧州の、一握りの白人金持ち国による世界支配への執着は並々ならぬものです。

1924年、孫文が神戸で行った「大アジア主義演説」を思い起こします。孫文は、「日本はすでに西洋の物質文明の力を得たが同時に東洋固有の道徳文明も持っている。今後、日本は西洋の覇道の「鷹犬(手先)」となるのか、それとも東洋王道の「干城(守り手)」となるのか。それは日本国民が慎重に考えるべき問題である」と言いました。

この後、大日本帝国は独自の「覇道」を加速させ、アジア太平洋全域を侵略、支配した末1945年に崩壊しました。その後まさしく西洋の覇道の手先となって今にいたります。このままでいいのでしょうか。いいわけはありません。日本は日本が本来存在するアジアに戻るべきです。そのためには米国の傀儡政権を倒さないといけません。現在のところ希望は薄いですが、中国をはじめ、非西側世界、グローバルマジョリティの世界と市民レベルで繋がっていくことは一つの希望への道ではないかと思っています。

 (以上)


Friday, February 13, 2026

日本東方出版社刊『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す』刊行記念トークイベント  3月15日(日)15時~ 那覇で開催!

追記:3月1日の琉球新報に書評が出ました。

<書評>『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す』 タブーに踏み込む誠実さ


12月27日の投稿で紹介した本『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す』(石田隆至・張宏波 編)のブックイベントが沖縄で開催されます!ふるってお越しください。

【イベント情報】日本東方出版社刊『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す』刊行記念トークイベント 日時:3月15日(日)15時~ 場所:ジュンク堂那覇店B1Fイベント会場 出演:石田隆至(上海交通大学副研究員)張宏波(明治学院大学教授)石原昌家(沖縄国際大学名誉教授)乗松聡子(ジャーナリスト)



ジュンク堂那覇支店のX:


Thursday, January 29, 2026

西側連合のイラン攻撃を許すな!通貨暴落も米国が仕掛けたものだと、ベッセント財務長官が認めた(グレン・ディーセン&ジェフリー・サックス)Scott Bessent Admitted that the U.S. Manipulated Iran's Currency (Glenn Diesen & Jeffrey Sachs, January 28 Japanese Translation)

グレン・ディーセンのYouTubeチャネルより

1月28日(木)、差し迫るように思える西側(イスラエル・米・欧州)の対イラン攻撃いついて、グレン・ディーセン教授がジェフリー・サックス教授と対談した。日本語訳をお届けする。この戦争は昨年の「12日戦争」の延長、ひいては、1979イランイスラム革命以来のイスラエルと西側の「悲願」であったイラン政権転覆の試みである。あいかわらず西側は、イランの「独裁」、「腐敗」、「人権侵害」を口実に、政権転覆されても仕方がないといったナラティブを流しイラン破壊を正当化しようといている。スコット・ベッセント財務長官が、ダボス会議にて、イラン「抗議デモ」のきっかけなとなった「通貨暴落」でさえ、米国の仕業だったということを認めている。それを祝うようにせせら笑うベッセント。邪悪な帝国のレイシズムを隠そうともしない。それを西側メディアは報じもせず、イランを倒せと大宣伝している。サックスは、今からでも戦争を止められる、止めるために全力を尽くさないといけないと言っている。

翻訳は冗長な部分は取り除き要点がよくわかるよう整えている。ハイパーリンク、太字は乗松聡子がつけた。文脈がわかるようにトランプやベッセントの発言の内容を挿入した。

グレン・ディーセン:

本日は、トランプが現在イランに対して行っている脅しについて議論するため、ジェフリー・サックス教授をお迎えしています。

いまテヘラン側から見たら、この地域における米国の大規模な軍事力の集積が見えてきます。英国、ドイツ、スペイン、イタリアの輸送機が中東に向かっているようにも見えます。そして意図という点では、攻撃は避けられないように思われます。イスラエルがそれを望み、ワシントンもそれを望んでいる。政権転覆について語っています。そしてソーシャルメディア上で、トランプは次のように書いています。引用します。「巨大な艦隊がイランに向かっている。大きな力と熱意、そして目的意識をもって急速に移動している。」さらに、時間が残されていないとも書いています。


(トランプのSNS投稿の日本語訳:

大規模な艦隊(アルマダ)がイランへ向かっている。非常に速く、強大な力と熱意、そして明確な目的をもって進んでいる。偉大な空母「エイブラハム・リンカーン」を旗艦とするこの艦隊は、ベネズエラに送られたものよりも大規模だ。ベネズエラの場合と同様に、必要とあらば、迅速かつ暴力的にその任務を遂行する用意があり、意思も能力も備えている。
イランが速やかに「交渉の席に着き」、公正で公平な合意――核兵器は一切認めない――すべての当事者にとって良い合意を交渉することを望む。時間は刻一刻と失われており、まさに一刻を争う状況だ。
私は以前にも一度イランにこう告げた――「取引をせよ!」。彼らはそうしなかった。その結果が「ミッドナイト・ハンマー作戦」であり、イランに対する大規模な破壊だった。次の攻撃ははるかに深刻なものになる! 二度とそのような事態を起こさせるな。
この件にご注意いただき、感謝する。

ドナルド・J・トランプ大統領)

これらの脅しをどう見ますか。

ジェフリー・サックス:
明らかだと思います。イスラエルにとって、これは30年にわたるイラン政府転覆の試みです。米国は基本的にイスラエルの言うことを実行します。したがって、イスラエルは絶えず米国をイランとの戦争に引きずり込もうとしてきました。昨年夏にもそれを行いました(注:米国がイランを攻撃した昨年6月のいわゆる「12日戦争」)。目標は政権転覆、つまり打倒でした。しかしそれはうまくいきませんでした。

その後、米国は経済的手段を用いてきました。米国の財務長官スコット・ベッセントが「経済的ステートクラフト」と呼んだものです。

しかし彼は、イラン経済を破壊するために米国が意図的に講じた措置を明確に説明しました。再び、その狙いは政権転覆でした。それもうまくいきませんでした。そこで今、空母打撃群がイラン攻撃に向かっています。つまり、攻撃は差し迫っています。

ここでの目的は、最初から交渉ではありませんでした。交渉の機会があるたびに、イスラエルは「交渉するな」と大騒ぎしてきました。もちろん、10年前にイランと核合意が成立しました。包括的共同作業計画、いわゆるJCPOAです。これは2015年7月20日、国連安全保障理事会決議2231によって実際に承認されました。しかしトランプは第1期政権でこれを破棄しました。

つまり、イスラエルには交渉による解決を望む意思は一切なかったのです。そして米国がイスラエルの指示に従う以上、米国がイランと真剣な交渉を行う用意があったことは一度もありません。トランプはそれを昨年夏にも再び示しました。米国の支援を受けてイスラエルがイランを爆撃したのは、2025年6月12日と13日でしたが、それは米国とイランの交渉が予定されていた2日前でした。

したがって、これはイランの交渉の問題だという考え方は虚偽です。これはハイブリッド戦争によって遂行されている政権転覆作戦です。つまり、サイバー戦を試み、街頭の不安を煽り、経済を圧殺し、爆撃し、暗殺を行う。あらゆる手段を用いて、この政権を転覆させようとしているのです。

そしてトランプはトランプらしく、こうしたことを公然と発信します。「我々の言うことを聞かなければ、これはベネズエラと同じだ」。彼はこう言っています。「この艦隊は、必要であれば迅速かつ暴力をもって任務を遂行する用意があり、能力もある。」これは完全なる恫喝行為です。

人々は理解すべきです。国連憲章の下で――トランプの副首席補佐官はこれを「形式的なもの」と呼びましたが――それは国際法です。ホワイトハウスのギャングにとってではなく、人類のためのものです。憲章第2条第4項はこう定めています。「すべての加盟国は、他国の領土保全または政治的独立に対する武力による威嚇または武力行使、あるいは国連の目的と両立しないいかなる方法による行為も慎まなければならない」と。

これが、今まさに起きている状況です。

グレン、我々はこれをベネズエラで既に経験しました。露骨で、甚だしい脅しがあり、その後に侵攻が行われ、大統領とファーストレディが拉致され、さらに米国がベネズエラを支配していると主張しました。タンカーから石油を奪い、それを米国に送ることまで行い、ドナルド・トランプはその金は自分のものだと宣言しました。

このような厚かましさと無法状態が、今の世界の一部なのです。しかしイランは、世界にとってはるかに危険な事態です。それでも私は、ヨーロッパの国がこれに対して一言でも異を唱えるのを待ち続けています。「それは良くない考えではないか」「戦争をすべきではないのではないか」「国連憲章を守るべきではないか」と。

ヨーロッパへの問いはこうです。米国がヨーロッパを攻撃しそうになった時だけ声を上げるのか(注:トランプの主張するグリーンランド領有に意義をとなえた欧州指導者たちを皮肉っている)。それとも、ヨーロッパには何らかの原則があるのか。数日のうちに、それが明らかになるでしょう。

グレン・ディーセン

最初のイラン攻撃の際、「イスラエルは我々の汚れ仕事をしている」と述べたメルツ首相は、今や「イラン政権の命運は尽きている。数週間かもしれないが、この政権には統治の正統性がまったくない」と発言しています。つまり、ヨーロッパ諸国は完全にこれに乗っかっているのです。

しかしトランプはまた、今こそイランが取引をする時だ、さもなければ強く叩く、とも言いました。彼はどの取引を指しているのでしょうか。核合意のことでしょうか。しかし、これは非常に不誠実に見えます。なぜなら、彼らはすでに目標が政権転覆であることを公然と述べているからです。政権転覆では、統一された反対勢力を作ることなどできません。つまり、我々が目にしているのはイランの破壊です。

ジェフリー・サックス:
米国は交渉による取引に関心はまったくありません。なぜなら、交渉による合意は10年以上前から可能だったにもかかわらず、成立するたびに米国がそれを破棄してきたからです。そして、合意破棄を最も強く主張してきたのはイスラエルでした。トランプはイスラエルのために働いている以上、交渉の意図などまったくありません。彼らは政府を転覆させようとしているのです。

メルツは恥を知るべきです。しかし、これもまた典型的です。その発言はこれまで見ていませんでしたが、ヨーロッパのごろつきぶりは驚くことではありません。ただ、いつも失望させられます。原則に立ち返ろうとするのは、ヨーロッパ自身の狭い利害が危機にさらされた時だけのようです。そうなると突然、「米国がグリーンランドを口実にデンマークを攻撃するのはおかしい。それは乱用だ」と言い出す。しかし、イラン政府を転覆させることは問題ない。

いま、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、そしてヨーロッパのメディアで自由に流れているプロパガンダについて、少し時間を割く価値があります。経済崩壊はイラン政権の腐敗と失政の結果であり、統治に適していない、というものです。まさにメルツ首相があなたに読んでくれた発言のとおりです。

人々は、これがゲームの一部であることを理解すべきです。そしてそのゲームは、きわめて下品です。しかし、少し注意を向ければ完全に理解可能なものでもあります。

米国の財務長官スコット・ベッセントは、ダボスでこれを非常に明確に、ほとんど漫画のような形で説明しました

スコット・ベッセント氏のダボス会議での発言。ディーセンとサックスが話題にしているのは冒頭の1分強の部分

グレン、許されるなら、彼の言葉をそのまま読ませてください。過去1年間に何が起きてきたのか、人々に理解してもらうためです。

彼はインタビュアーからこう尋ねられます。「制裁について何か言いたいことはありますか。あなたが取り組んできた別の問題ですが、イランに関して何を計画しており、どのような影響を与えるつもりですか?」

これに対し、ベッセントはこう答えます。

「そうですね、財務省の制裁があります。昨年3月に私がニューヨーク経済クラブで行った演説を見ればわかりますが、そのとき私は、イランの通貨は崩壊寸前だと述べました。もし自分がイラン市民なら、資金を国外に移すだろうと。トランプ大統領は財務省とOFAC部門、すなわち外国資産管理局に対し、イランに最大限の圧力をかけるよう命じました。そしてそれは成功しました。12月には経済が崩壊しました。主要銀行が破綻し、中央銀行は紙幣を刷り始めました。ドル不足が起き、輸入ができなくなりました。これが人々が街頭に出た理由です。これが経済的ステートクラフトです。銃弾を一発も撃たずに、物事は非常に前向きに進んでいます。」

これは驚くべき発言です。あまりに驚くべきなので、ニューヨーク・タイムズは報じる勇気がなかった。ワシントン・ポストも報じる勇気がなかった。なぜなら、ベッセントが説明しているのは、米国が金融手段を用いて政府を倒し、人々を街頭に引き出し、大規模な不安を引き起こしたという事実だからです。そして「物事は非常に前向きに進んでいる」とベッセント氏は言うのです。

その下劣さはあまりにも衝撃的で、主流メディアは触れようともしません。しかし彼らは毎日のように、失政、腐敗、経済崩壊、人々の苦しみについての記事を流します。その苦しみが、米国の財務長官自身が説明した「米国のゲーム」であることには触れません。

私は最近、人々と話しましたが、米国の行動のために石油代金が支払われないのです。支払いは届かず、誰もが制裁と脅威の下にあります。世界中の銀行が取引処理を拒否しています。これが米国によるドルの武器化です。目的は混乱を生み、銀行破綻を起こし、通貨を崩壊させ、人々を街頭に引き出すことです。ベッセントが言うとおり、「これが人々が街頭に出た理由」なのです。彼は因果関係を明示し、それを喜んでいます。「非常に前向きに進んでいる」。

もしこれが、人々が安全だと考える世界の姿なら、残念ながら、それが完全な破滅と惨事への道であることを思い知るでしょう。これはあらゆる原則に反する、純粋なギャング行為です。

なぜメルツが、あるいはヨーロッパがこのギャング行為の一員なのか、私にはまったく理解できません。彼らはJCPOAの交渉当事者でもあり、米国がそれを破壊するのを見ていました。真実を知っているのに、真実を語らないのです。

グレン・ディーセン:
まさに圧倒的なプロパガンダです。あらゆる証拠が目の前にあり、ベッセント自身が「こうしてイランを不安定化させ、経済問題を引き起こし、人々を街頭に追い出した」と語っている。マイク・ポンペオは「暴徒の中にはモサドの工作員がいる」と言っています。イスラエルのニュースを見れば、暴動を煽るために武器を送り込んでいることを説明しています。

私はイランで何が起きているかについて討論に参加しましたが、これが完全に西側の介入なしに起きた純粋に自発的な運動だと言わなかっただけで、「イラン人の苦しみに無関心だ」「政権擁護者だ」と非難されました。つまり、本当にイラン人のことを思うなら、イランを爆撃すべきだという理屈です。これがどれほど倒錯しているか。これはすべての戦争で同じです。シリア人のことを思うならアサドを打倒せよ、ウクライナ人のことを思うなら戦争を永遠に続けよ、というわけです。あまりにも卑劣です。

ジェフリー・サックス:
そのとおりです。しかし興味深いのは、もし本当にイラン人のことを思うなら、ベッセント自身の言葉に耳を傾けるべきだという点です。彼は、イラン人を苦しめることが目的だと言っています。それほどまでに苦しめ、人々を街頭に溢れ出させる。そして暴力が起きると――多くは偽旗で、扇動者やモサドによって煽られたものですが――ベッセントは「非常に前向きに進んでいる」と言うのです。

ちなみに、彼は最後の一文を言い終えたとき、小さくニヤリと笑っていました。その笑みを抑えることができなかったのです。下劣さを一層際立たせる仕草でした。

人々はベッセントが誰なのかを理解すべきです。彼は米国の財務長官です。普通なら、マクロ経済や財政政策、税制に詳しい人物だと思うでしょう。しかし違います。彼はヘッジファンド運営者で、ジョージ・ソロスと共に英国ポンドを破壊したことで名を上げた1992年のことです。通貨を破壊できる、というのが彼の特技なのです。

これほどまでに下劣で露骨であるがゆえに、やはり報道する価値がないとされているのでしょう。

グレン・ディーセン:
財務長官が経済的ヒットマンなら、心配すべきです。とりわけトランプがハンドルを握っている状況では。では、この戦争が拡大する可能性について伺いたいと思います。米国側の狙いも、イラン側の発信も、これは以前の戦争とはまったく異なり、事実上「ゼロか100か」になるという印象を与えています。この戦争は地域内に封じ込められる可能性はどの程度あると思いますか。

なぜなら、イランはすでに「この戦争に参加する者は誰であれ、報復の対象になる」と言っているからです。そして一方で、サウジアラビアは「自国の空域は使用させない」と述べています。つまり、彼らはこの事態を深刻に受け止めている。

ジェフリー・サックス:
私は軍事の専門家ではありませんが、把握している限りで、いくつかのことが分かっています。第一に、イランはイスラエルの防空網を突破できるということです。イランはそれが可能な極超音速ミサイルを持っていることを示しました。最初は極めて重要な標的を狙いませんでした。しかし、生存を賭けた戦争になれば、重要な標的を狙うでしょう。

第二に、(昨年6月の)イラン核施設への攻撃は、戦争を終わらせるどころか、イランの核保有への道(それをイランが望むとすれば)を妨害することすらできなかったということです。現在保有している濃縮ウランを原爆用レベルまで引き上げるのに必要な追加濃縮量は、さほど多くありません。したがって、これが存亡を賭けた闘いになれば、イランは疑いなく核兵器開発に突き進むことができるでしょう。

イランは核兵器を望んでいないと、検証できる形で述べてきました。IAEAの監視を受け入れ、濃縮に厳しい制限を設けると。しかし、それを10年前にトランプが破棄したのです。

状況がイランにとって深刻になれば、他国がイランを支援する可能性があります。イランは大国です。イスラエルは暗殺、モサドによる攻撃、爆撃、斬首攻撃を試みましたが、うまくいきませんでしたし、今後もうまくいくとは思えません。

これは大規模な戦争への前奏曲になりかねません。これは米国の裏庭にあるベネズエラとは違います。世界で最も爆発性の高い地域での戦争となり、周囲には核武装国が存在し、利害関係も重大です。完全に無謀で、世界的破滅を招きかねません。だからこそ、今すぐ阻止されるべきなのです。

そして繰り返しになりますが、この件についてのドイツの見解を聞いて、私はあらためて失望しています。

もしこの世界に、もはや「このような爆発性の高い地域で、国連体制のあらゆる原則に完全に反する戦争を仕掛けてはならない」と言える国が存在しないのであれば、全面的な破局に至る可能性はきわめて高いと言わざるをえません。

国連安全保障理事会は直ちに招集され、継続的に会合を開き、世界で唯一の責任を果たすべきです。すなわち、米国、そして米国大統領に対し、こう明確に言うことです。「このような脅しをしてはならない。ましてや攻撃など許されない」。脅しそのものが、国連憲章に対する重大な違反です。

グレン・ディーセン:
もはや阻止できないのではないかという不安があります。これだけの戦力が集結しており、トランプによれば回避策は「取引」だけですが、それは事実上存在しません。

ジェフリー・サックス:
トランプは、強固な反対の壁に直面すると引き下がることがあります。実際、彼はしばしばそうします。今のところ、その壁に直面していません。しかし、引き金が引かれる瞬間まで、そしてその後であっても、反対の壁を築こうとする努力をやめるべきではありません。

ヨーロッパには、人類に対する最低限の責任感を持つ人物がどこかにいるはずです。世界には、この戦争を望まない国が多くあります。私は、サウジアラビアは戦争を望んでいないと確信しています。カタールも望んでいません。アラブ首長国連邦も、トルコも望んでいません。彼らは、本当にイスラエルが作り出した新たな地域戦争に巻き込まれ、全面的な大惨事へと発展することを望んでいるでしょうか。私はそうは思いません。それを望んでいるのは、イスラエルと、その属国である米国だけです。

(翻訳以上)

こちらとあわせて読んでください。

暴かれる実態:イラン抗議を煽るCIA支援NGOの数々(アラン・マクラウド) 

米国のイラン敵視の歴史:ジェフリー・サックス


Monday, January 26, 2026

『朝鮮新報』より転載:邪悪な帝国、多極化にしかける戦争/乗松聡子 From Chosun Shinbo: The Evil Empire and its War Against Multipolarity

  朝鮮新報』連載「私のノート 太平洋から東海へ」7回目(26年1月23日)の乗松聡子の記事を転載します。(ハイパーリンクは自分でつけたもので、朝鮮新報版にはありません。)


〈私のノート 太平洋から東海へ7〉邪悪な帝国、多極化にしかける戦争/乗松聡子


2026年01月24日 09:30

バンクーバーにおけるベネズエラとキューバへの連帯デモ。100人ほどで米国総領事館前まで行進し、「ベネズエラもキューバも米国のものではない!」「クーデターNO!戦争NO!」と叫んだ(1月17日)

 1月3日、米軍の特殊部隊がカラカスを攻撃し、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領と配偶者のシリア・フローレス氏を拉致し、米国に移送しました。米国は昨年後半からカリブ海や東太平洋を航行する船舶を、証拠もなしにベネズエラの麻薬運搬船だとして繰り返し攻撃し、乗組員を100人以上殺害してきた上での行為でした。

 1月5日にニューヨークの連邦地裁に出廷した二人は囚人服を来て、足かせをかけられていたといいます。フローレス氏は拘束時にけがをさせられ、顔が絆創膏だらけでした。フローレス氏はマドゥロ氏の同志でもあります。新自由主義を排し、ベネズエラの資源主権を取り戻したウゴ・チャベス前大統領の政策を引き継ぐベテラン政治家でした。

全世界が見ている前で、国際法を踏みにじり、主権国家の指導者に対しこのような屈辱を加えることを可能にしてしまう米国について、「邪悪な帝国」という言葉以外は見つかりません。それでも言い足りないぐらいです。煮えくり返る思いを抱きました。

米国は約10年間ベネズエラに一方的な制裁を加えてきました。制裁は子どもや女性や老人、病人など弱者の命から奪っていく、国際法に違反する非人道行為です。医療や食料が不足し、制裁で約10万人が死んだという元国連特別報告者の報告もあります。違法な制裁や、カリブ海での殺害を理由に、ベネズエラが逆に、トランプ大統領夫妻を拘束できるでしょうか。あり得ないでしょう。このようなことがまかり通るのは、米国なら許されるという、例外主義によるものです。白人国家が非白人国家に行う限りは可とされてしまう、レイシズムに裏付けされた植民地主義でもあると思います。

マドゥロ氏の起訴理由である麻薬関連疑惑は、言い掛かりに過ぎません。麻薬組織「太陽のカルテル」を率いたとされましたが、米国司法省は今「そのような組織はない」と認めています。イラク戦争のときの「大量破壊兵器」疑惑と同じ、侵略を正当化する嘘です。

マドゥロ氏は、西側から正当性を持たない独裁者として描かれてきました。何百万人もが国外に出たといいますが、これは制裁による経済悪化がもたらしたものであると、米国の経済学者が報告しています。西側はベネズエラの選挙を疑問視しますが、前回の24年の選挙では国際的な選挙監視団参加し、正当な選挙だったと結論づけています。現在首都カラカスでは大統領夫妻奪還を訴えるデモが連日起こっています。

私は、斬首作戦ともいえるこの事件を追いながら、やはり「邪悪な帝国」であったかつての日本による、朝鮮の指導者に対する蛮行を思いだしました。189495年の日清戦争における日本軍の第一撃は、朝鮮の王宮占領でした。日本は自らの朝鮮への支配欲から、清国と冊封関係にあった朝鮮から清国の影響を取り除こうとしましたが、朝鮮は言いなりにはなりませんでした。94723日の早朝、景福宮を襲撃、国王の高宗を支配下に置きました。

 日清戦争の勝利後、勢いづく日帝の侵略に抵抗するためロシアに近づいた明成皇后(閔妃)を日本は危険視しました。95108日、日本公使の指揮の下、軍やゴロツキのような浪士達と景福宮に押し入り、皇后を寝室で虐殺しました。これらの凶行の行きつく先は、歴史が知る通り、日本による朝鮮の強制併合・植民地支配でした。

 このように政権転覆は帝国が繰り返し用いてきた手段です。今回、トランプ大統領によって米国の帝国主義が復活したという言説がありますが、米国は建国以来、帝国でなかったことなどありません。米国議会調査局の報告によると、米国は1798年以来、約500回他国への武力介入を行っています。特に、自分たちの「裏庭」と見なしてきたラテンアメリカで、米国が介入しなかった国はありません。

カナダのネット媒体「グローバル・リサーチ」には、第二次大戦後、米国により37の被害国2千万人が殺されていると推計したレポートもあります。これには朝鮮戦争のおよそ400万人、ベトナム戦争の約780万人(カンボジア、ラオスも合わせた推計)、イラクに対する1991年の戦争と制裁、2003年以降の戦争で数十万から100万規模といわれる死者が含まれます。もはや、「戦後」という言葉に意味はあるのでしょうか。

 日本は、1945年の敗戦後、事実上の植民地である沖縄を米国に差し出し、アジア最大の米軍ホスト国となりました。旧日本軍の基地がそのまま米軍に受け継がれた横須賀や佐世保の海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場などは、日帝が敗戦後、米帝に組み込まれたことを象徴しています。日本は、敗戦後「平和」どころか、米帝国の一部となって、度重なる侵略戦争に加担してきました。

その日本では昨年117日、高市首相が国会答弁で、「台湾有事」の場合に集団的自衛権を行使する「存立危機事態」が成立し得る、つまり自衛隊が参戦する可能性を示唆しました。批判を受けても撤回を拒み、中国敵視を露わにしています。これは、トランプ大統領が昨年11月末に出した「国家安全保障戦略」で、「敵対勢力を抑止し、第一列島線を防衛する」、つまり対中国を想定して日本に防衛費を増額する「負担分担」を求めた方針と合致しています。

 トランプ大統領のベネズエラ攻撃の主な理由は、ベネズエラの石油資源の支配にありましたが、もう一つの大きな理由は、協力関係が深まっていた中国、ロシア、イラン、キューバなどとの繋がりを断たせることでした。米国は、制裁を加えているグローバルサウスの国同士が助け合うことさえ許さないのです。軍事アナリストのブライアン・バーレティック氏は、米国は自国の覇権維持のため、多極化そのものへの戦争を仕掛けていると言っています。

 ベネズエラと同様、多極化の一端を担い、米国の制裁や威嚇に抵抗してきた朝鮮は、今回のマドゥロ・フローレス拉致事件について、「最も重大な形態の主権侵害」であり、「国際社会が数多く目撃してきた米国のならず者としての野獣的な本性を、今一度はっきり確認させるもう一つの実例である」と糾弾しまし。地球の反対側に位置する国からの連帯の言葉でした。私は、帝国側である日本の一員ではありますが、だからこそ、帝国を批判していく発信を今年も続けていきたいと思っています。


プロフィール

ジャーナリスト。東京・武蔵野市出身。高2,高3をカナダ・ビクトリア市の国際学校で学び、日本の侵略戦争の歴史を初めて知る。97年カナダに移住、05年「バンクーバー9条の会」の創立に加わり、06年「ピース・フィロソフィー・センター(peacephilosophy.com)」設立。英語誌「アジア太平洋ジャーナル」エディター。2人の子と、3匹の猫の母。著書に『沖縄は孤立していない』(金曜日、18年)など。19年朝鮮民主主義人民共和国を初訪問。世界の脱植民地化の動きと共にありたいと思っている。

(本連載は、反帝国主義、脱植民地主義の視座から日本や朝鮮半島をめぐる諸問題や国際情勢に切り込むエッセーです)

 元記事のURLは:

https://chosonsinbo.com/jp/2026/01/21sk-43/


高市首相「台湾発言」の波紋の中、中国西南・華中を旅する - 成都・重慶・廠窖・常徳・武漢 Traveling Through Southwest and Central China amid the Fallout from Prime Minister Takaichi’s “Taiwan Contingency” Remarks - Chengdu, Chongqing, Changjiao, Changde, and Wuhan.

 25年11月18-24日の「撫順の受け継ぐ会 関西支部 第10次訪中団 ~ 成都・重慶・廠窖・常徳 ~」に参加した自分の感想文をここにシェアします。

成都の大熊猫繁育研究基地にて。パンダの名前は覚えきれないほどたくさんいた。

高市首相「台湾発言」の波紋の中、中国西南・華中を旅する

撫順の奇蹟を受け継ぐ会関西支部 第10次訪中団 参加感想文

乗松聡子

2026125

 まず、参加者が少なめだったにもかかわらずこの旅を実現させてくださった野津さん、そして、各地でガイドをしてくださった曾誠さん、蔡昌錫さん、李衛雄さん、旅を一緒にしてくださった8人の友人たちに、心よりお礼を申し上げたいと思います。

 この旅は期せずして、特別な意味を持ったと思います。117日、高市早苗首相が国会答弁で、「台湾有事」が、「存立危機事態」となりうるという発言をしました。そもそも違憲法制である「安保法制」で規定されている、集団自衛権の行使の条件のひとつとなり得る、つまり自衛隊発動の法的根拠となり得るという発言だったのです。

 これは、1972年の日中国交正常化時の、日中共同声明以来の「ひとつの中国」の尊重を約束し、二度と侵略戦争をしないという約束をした日本の、中国に対する裏切りでした。中国からみたら、大日本帝国の軍国主義がふたたび首をもたげた、再侵略宣言と受け取られたのです。

 この発言で中国政府も人民も激怒していたときにこの訪中が重なったことで、いくつかの困難がもたらされたことは否定できませんが、逆に、この時期の中国の空気を肌で感じ取ることができたことは、貴重な体験だったと思っています。それはただ「貴重な体験をした」で終わるような自分勝手な感想ではなく、その後の自分の行動の指針となったという意味です。

大熊猫繁育研究基地

 この旅で最初に行ったのは成都の「大熊猫繁育研究基地」でした。私は、1972年国交正常化のシンボルとして中国からやってきたカンカンとランランを見たく、上野動物園で母の手を握って2時間並んで、初めてのパンダを見た世代です。20261月現在、双子パンダのシャオシャオ&レイレイも中国への帰国が決まり、日本にパンダがいなくなります。

 そういう意味でも、成都で、たくさんの元気なパンダを見ることができたのは特別でした。私は、一番人気の、体が三角おにぎり形のかわいすぎるパンダ「花花(ファーファー)」を見たいと思っていましたが、ガイドの曾さんから「花花は3時間待ちです」と言われてしまいました。またこんど出直したいと思います。

建川博物館 「山河は、我に還る」
(日本の侵略に人民が勝利した)

 建川博物館は民間の、30もの展示館がある巨大な施設でした。私たちが見学で重点を置いたのは、日本軍の残虐行為を展示する館でした。

 「奴化教育罪行」の展示では、占領地で人民を従順な愚民にさせる教育が「軍事占領や民族抑圧、経済的搾取よりもさらに陰険で、より悪辣で、より欺瞞性に富み、危害もより深刻」と表現されていました。占領肯定を中国人民に内面化させる教育は確かに、民族の誇りや抵抗の気力も奪う、一種の拷問と言えるものではないかと思いました。

 日本軍性奴隷については「日軍姦淫罪行」と書かれていました。同じ残虐行為でも、日本語での表現とは違う中国語表現に出会うと、より本質に近づくような気がします。ここでは性奴隷にされた女性の全裸の写真が名前とともに展示されており、ドキリとしました。事実ではあったにせよ、このような展示は必要だったのかどうか疑問を抱きました。

 中国では日本軍の残虐行為「惨案」が数えきれないほど起こりました。この展示館でもそれを実感します。たとえば潘家峪の虐殺―1941125日、日本軍は「密かに河北省豊潤県潘家峪を包囲し、村民1,230人を残忍に虐殺した。全村はほぼ壊滅した。」という事件の展示がありました。ここも行ってみなければと思いました。

成都から重慶へ乗った、高速鉄道

 重慶では、抗日戦争期から新中国成立後にかけての中国の民主党派の諸政党と中国共産党の協力関係の歴史を紹介する「中国民主党派歴史陳列館」、「民主の家」といわれ、抗日戦争期、毛沢東が張潤ら民主人士と会談した場所であるという「特園」を訪れました。

 また、1938年以降、国民政府の臨時首都が置かれた重慶に、中国共産党が「紅岩村」に拠点を置き、抗日民族統一戦線の交渉、国民党との連絡・折衝、国内外への宣伝活動などを行った場所、「紅岩革命記念館」も見学しました。

「重慶大爆撃惨案遺址」の展示より。
逃げ道を求める市民の姿
 重慶では、19382月から194412月にわたり、日本軍が「世界戦史上空前の長期かつ大規模な都市無差別爆撃」を行いました。重慶の中心街にある、194165日、空襲警報で全長2.5キロの防空洞に逃げ込み、「較場口大隧道内で多数の無辜の市民が窒息・圧死した」「六五・大隧道惨案」が起こった場所にある「重慶大爆撃惨案遺址」を訪ねました。爆撃から身を守るはずの防空洞から脱出できず、パニックした市民たちの悶絶に思いを馳せました。

 「重慶大爆撃被害者による対日賠償請求訴訟」原告団事務所では、幸存者の方々とお会いすることができました。7歳のときに空爆で両親を失い、自分も頭に生涯の傷を負った93歳の陳桂芳さんが、涙ながらに体験を語ってくれました。日本軍の攻撃は一瞬でも、生き残った孤児の貧困と苦労に満ちた人生は、そこから長期にわたって続くのだということを思い知らされました。

重慶爆撃幸存者のみなさん。腕の傷跡を見せているのが陳桂芳さん。

高鋒さん 細菌戦受害者名録の前で
 湖南省の常徳では、1941114日、731部隊が、36キログラムものペスト菌をつめたノミを空中投下し、常徳市内や周辺農村地域で2年にわたりペストを流行させ、15千人以上の命を奪いました。被害者の一人の息子である常徳市日軍細菌戦被害者協会会長の高鋒さん、同協会支援者の裵敏さんが、常徳博物館の展示を案内してくれました。館内には、裁判のために5年にわたる調査の上確認できた7,643名の死者のうち、全員ではないかもしれませんが、お名前のわかっている人々の名前がびっしりと書かれた壁がありました。

 湖南省の廠窖(チャンジャオ)という町は、旅の前まで地名も聞いたことがありませんでした。ここでは194359日から11日、3日間で3万にも及ぶ市民が集団虐殺・強姦殺害・略奪・焼き討ちにされました。廠窖で日本軍は、およそ人間とは思えない行為に及びました。女性を捕まえ、父、兄との性交を強制し、側に親族を無理やり立たせ、笑うよう強要し、笑えないと刺殺したというのです。南京大虐殺でも同様の話を聞いたことがあります。

廠窖惨案犠牲同胞記念館 静かな敷地内の様子

 「廠窖(チャンジャオ)惨案犠牲同胞記念館」の広大な敷地内には、記念館のほか、追悼碑、「血みどろの川」、「警鐘亭」など、当時の記憶を語り継ぐ場所がちりばめられています。「平和の広場」には、日本軍の残虐を伝える「焼毀(焼き討ち)」、「搶奪(略奪)」、「活埋(生き埋め)」、「奸淫(強姦)」を象徴する生々しい銅像が建てられていました。

 訪問する直前、記念館はメンテナンスのため一週間閉館すると告げられたそうです。お会いできるはずだった幸存者の方も、訪問する日の朝に病院に運ばれたということで、お会いすることはできませんでした。私たちは追悼碑の前で、警備員が見守る中、静かに献花し、追悼しました。

廠窖惨案死難同胞記念碑

 近代日本の初の海外出兵は、1874年の台湾出兵でした。日清戦争に勝った日本は清国から台湾を奪い、50年間植民地支配しました。「台湾」は、中国にとって大日本帝国による70年余の侵略戦争を象徴する地域です。高市首相の発言は絶対に許せるものではありません。中国政府は日本渡航自粛を呼びかけ、日本関連の交流プログラムなどが軒並み中止されました。

 廠窖での次々のキャンセルは、この動きと無縁ではなかったと思います。当然だと思いますし、このようなときに日本からの団体が来て献花させてもらっただけでも、ありがたいことと思います。

 旅は、毛沢東が青年期を過ごした長沙で終わりました。団体旅行はここで終わりましたが、私は、参加者のうちの一人の和田さんと共に、武漢に向かいました。武漢は、私の父が生まれた場所であり、私の祖父が漢口日本租界(という植民地)で新聞社を通じてプロパガンダ活動をしていたことから、今回訪問し、4日間、調査や見学を行う予定でした。

 ここでも、地元の大学との交流の計画が当初ありましたがキャンセルとなり、私が個人的に通訳とガイドをお願いしていた北京の大学の大学院生も、漢口で一日過ごしただけで呼び戻されました。ハプニングはこれだけではなく、着いた翌日から私は具合が悪くなり、重い風邪の症状で寝込んでしまいました。このとき、地元の武漢に戻っていたガイドの李さんや、上海から会いに来てくれていた友人たちが、病院に連れていってくれたり、宅配で食べ物や薬を届けてくれたりしました。

ホテルの部屋でTVをつければ高市批判

 なかには、日本にいる中国人の友人までが武漢の友人に連絡して、食事を届けてくれたりもしました。テレビをつければ高市批判特集をやっている中国において、中国の友人たちの思いやりと優しさは、一生忘れることはできないでしょう。ホテルの部屋に可愛い配達ロボットが現れるたびに、気持ちがありがたさでいっぱいになりました。

 そばにいて支えてくださった和田さんにも感謝しています。この旅の学びと、お世話になった方々の厚情に報いるには、日本に戦争および戦争準備をさせない努力を続けるしかありません。帰国後、「村山談話を継承し発展させる会」で高市「台湾発言」撤回要求大会を行いました。2026年になった今、いきなり選挙となり、高市政権を打倒しなければと思っています。日本国憲法を守り、二度と侵略戦争を行わない国にしなければいけません。

漢口のホテルの窓からの夜景


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