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Saturday, April 29, 2023

G7に抗議します!「G7 広島サミットの正体」 - パネル展示、トークイベント、街頭宣伝 など G7 Summit in Hiroshima: Promoting Peace or Violence? - Panel Exhibit, Panel Talk, Street Rally, etc. We Protest Warmongering Western Imperialists G7!

 「地球的問題を考える広島の会」からのお知らせです。G7サミット開催時にこのようなパネル展示やイベントを行います。広めてください!

Announcement of exhibit, panel, and street protests (see below) 


展示・パネル・街頭宣伝のお知らせ

ツイッターはここ Twitter:@hiragi_action

★「サミット抗議として展示とイベントやります。展示は5月7日〜21日。7日はミニイベントとして誰でも参加できる会議、19日はゲストスピーカーやパネル制作者などが発言するトークイベントも開催します。そのほか当日に向けたさまざまな抗議運動情報も発信していきます。」https://twitter.com/hiragi_action/status/1652142195326042113?s=20

★5月20日(土)には、広島で街頭宣伝をします。ご興味のある方は、メールにてご連絡ください。japan@worldbeyondwar.org

G7 Summit in Hiroshima: Promoting Peace or Violence?

We will hold a panel exhibit as shown in above flyer, from May 7 to 21. There will be an open meeting on May 7. 

A Panel Discussion on May 19, with speakers: 

Come and learn about Hiroshima war/peace history as well as current G7 deceptions, the lies that they are going to tell people between the 19th and 21st. 

***Street protests on Saturday, May 20th*** Also, World BEYOND War (@WorldBeyondWar on Twitter) and others will do street protests in Hiroshima on the 20th. If you are interested, please email me at japan@worldbeyondwar.org .

See: 

An Invitation to Visit Hiroshima and Stand Up for Peace during the G7 Summit

https://worldbeyondwar.org/an-invitation-to-visit-hiroshima-and-stand-up-for-peace-during-the-g7-summit/

Friday, April 21, 2023

ケイトリン・ジョンストンから4つの報告:1)フェイスブックの検閲行為 2)兵器産業が出資するシンクタンクが煽る台湾武装 3)NYT「報道」でのロバート・F・ケネディJr への露骨な中傷 4)ツイッターが「国営メディア」「政府系メディア」ラベル削除 Caitlin Johnstone:Today In Empire: War Machine-Funded War Games, Facebook Censors Hersh, And More (Japanese Translation)  

 ツイッターで23万人以上のフォロアーがいる、オーストラリアのジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン氏の最新の投稿に、最近の「帝国」(軍産複合体をバックとした米国および西側エスタブリッシュメント)による、民主主義や報道の公正などかなぐり捨てた行動がまとまっているので翻訳をお届けします。ジョンストン氏は独特の皮肉を混ぜながら書く人で、それが彼女の記事を読む醍醐味でもあります。「軍産複合体がスポンサーしているシンクタンクが戦争シミュレーションをやってみたら、驚くことにもっと武器が必要だという結果が出た!」とか。この暗い時代、笑いはひとときの救いをもたらしてくれます。彼女が強調しているのは、メディアが、軍需産業から資金を得ているシンクタンクを公平な評論家であるかのごとく引用し続けるジャーナリズムの大罪です。米国のメインストリームメディアのオウム返ししかしていない日本のメディアも同様ですね。きょうの4つのポイントのうち最後の1つは少しいいニュースです。イーロン・マスク氏が買収する前のツイッターは露骨に、米国・西側連合が敵視する国の国営メディアのみを「政府系メディア」とラベルをはって信憑性を薄めるような工作を大っぴらにやっていました。マスク氏はそれを変更して西側メディアにも「国営メディア」というラベルを貼りましたがそれが議論を呼び公平を期すためにすべてのラベルを削除したということでしょう。これは正しい判断です。それに比べフェイスブックの露骨な検閲行為は「恥を知れ!」と言いたくなりますね。(注:翻訳はアップ後修正することがあります。また埋め込みツイートの翻訳はつけませんのでツイッターの自動翻訳機能で読んでください。ジョンストン氏は自分の著作は誰にでも無許可で転載を許可すると言っているのでこの翻訳も転載可能です。)

Today In Empire: War Machine-Funded War Games, Facebook Censors Hersh, And More

きょうの帝国ニュース:軍需産業から資金を得た戦争ごっこ/フェースブックがシーモア・ハーシュを検閲 など

ケイトリン・ジョンストン

元記事リンクは

https://caitlinjohnstone.com/2023/04/21/today-in-empire-war-machine-funded-war-games-facebook-censors-hersh-and-more/



帝国の日常ではいろいろなことが起きているので、それをまとめるために、また複数のストーリーをまとめて記事を書いている。今日は4つのストーリーを取り上げる:

  1. フェイスブックがシーモア・ハーシュの複数の記事を検閲している。
  2. 兵器産業が出資するシンクタンクが、台湾にはもっと多くの兵器が必要だと議会が発見するのを手助けしている。
  3. ニューヨーク・タイムズはロバート・F・ケネディ Jr.のことを本当に、本当に嫌っている。
  4. ツイッターが「国営メディア」「政府系メディア」のラベルを削除した。

1. Facebookはシーモア・ハーシュの複数の記事を検閲している。

 Facebookは、昨年9月のノルド・ストリーム・パイプライン爆破事件の背後に、ノルウェーと連携した米国政府の存在があったとするジャーナリスト、シーモア・ハーシュによるSubstack記事の検閲を開始した。

この検閲は、著述家のマイケル・シェレンバーガーがTwitterで最初に指摘したもので、この記事を書いている36時間後の時点でも行われている。ハーシュの記事をFacebookで共有しようとすると、URLを貼り付けた途端、このように警告する通知が届く。「このコンテンツを共有する前に、Faktiskからの追加レポートがあることを知っておいたほうがいいかもしれません。偽ニュースを繰り返し公開・共有するページやウェブサイトは、全体的な配信数が減少し、他の方法で制限されることになります。」また、ノルウェーのマスメディアやノルウェーの国営放送NRKと協力して制作されたノルウェーの「ファクトチェック」サイトFaktisk.noによる1ヶ月前の記事へのリンクも掲載されている。


その後、Facebookは「キャンセル」または「とにかく共有」を選択するよう指示する。後者を選ぶと、Facebookは、過激なグロ画像やハードコアポルノの画像と同じように共有部分をピクセル化して記事を検閲し、その上に「偽の情報です。独立したファクトチェッカーによってチェックされています。」という巨大な警告ラベルを貼り付けてくる。Facebookは、ノルウェー政府の極めて悪質な犯罪の疑惑を明らかにする記事について、ノルウェー国営メディアと連携して運営する「ファクトチェック」会社が、何をもって「独立」しているとみなされるのか、説明していない。



2つ目の警告をクリックすると、ようやくハーシュ氏の記事にたどり着くことができる。記事が見えないようにされている「理由を見る」というオプションをクリックすると、Faktisk.noの記事「Flere feil om norsk innblanding i Nord Stream-sabotasjen」(「ノルドストリーム破壊工作におけるノルウェーの干渉に関するさらなる間違い」、副題「受賞歴のあるジャーナリスト、シーモア・ハーシュはノルドストリーム爆発の背後にいるのはノルウェーだと非難しています。しかし、彼の記事にはいくつかの誤りがある。」自動翻訳)。

この記事は、2月以降に議論が広がっているハーシュの主張について異議を唱えているが、その異議の多くも議論を呼んでいる。しかし、ハーシュの主張が妥当かどうかは別として、彼の報道は紛れもなくノルドストリーム破壊工作に関する議論の一部であり、それ自体ニュース価値がある。世界最大のソーシャルメディアプラットフォームであるフェイスブックが、直接にニュース配信に干渉しているのだ。

フェイスブックは、今月初めに発表されたハーシュの別の記事も検閲している。ウクライナ政府が、ロシアからディーゼル燃料を違法購入するために、米国の納税者から少なくとも4億ドルを奪っており、CIAはこのことを知っているとの疑惑について書いた記事だ。この記事のURLをFacebookの共有ボックスに貼り付けると、ノルドストリームの記事と同じような警告が表示されるが、この記事には帝国が出資するウクライナの情報提供サイト「ストップフェイクStopFake」による記事へのリンクが含まれている。


ミントプレス・ニュースのアラン・マクロードが昨年報告したように、「ストップフェイク」はCIAから派生した「全米民主基金National Endowment for Democracy」と、帝国に資金提供を受けるNATOシンクタンク「アトランティック・カウンシルThe Atlantic Council」、さらに英国政府とチェコ共和国から資金提供を受けている。この極めて明白な利益相反にもかかわらず、フェイスブックはハーシュのウクライナ記事を検閲する際の警告で、「ストップフェイク」を「独立したファクトチェッカー」と呼ぶ厚かましさを持っている。その中では、「独立したファクトチェッカーは、この情報に根拠はないと言っている 」とまで書いている。



ハーシュのウクライナについての記事も、ノルドストリーム記事と同じようにピクセル化されている:




ストップフェイク」の記事は、赤い大文字で「FAKE」と書かれた典型的なウクライナの不器用な情報戦のスタイルで書かれ、政府の主張と独特の強引な口調以外に何も引用しておらず、「独立したファクトチェック機関」とは到底思えない。

「ストップフェイク」は、著名なジャーナリストであるシーモア・ハーシュの記事を「個人ブログ」と切り捨て、「米国アメリカの監査役とホワイトハウスは、ロシアによるウクライナへの全面戦争が1年以上続いた後、欧米の武器や物資支援の使用においてウクライナの違反が認められなかったと繰り返し強調している 」と伝えている。

そうか、そうか。

2.兵器産業が出資するシンクタンクが、「台湾がもっと多くの兵器を必要としている」ことを議会に発見させる。

 米国下院の中国共産党特別委員会は、中国による台湾への攻撃をシミュレートした戦争ゲームで将軍たちの役割を演じてみることにした。この戦争ゲームは、シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」が推進したもので、そのトップ出資者には、戦争産業大手のノースロップグラマン、ロッキードマーチン、レイセオン、ボーイング、米国防総省、事実上の台湾大使館が含まれている。

しかし、兵器産業が出資するシンクタンクが行った戦争ゲームによると、驚くことに、台湾にはもっと多くの兵器が必要であることが明らかになった!

「中国共産党が台湾に侵攻する危険性が最大となる時期に差し掛かっている。昨日の戦争ゲームでは、中国共産党の侵略を抑止するための行動を起こし、危機が始まる前に台湾を徹底的に武装する必要性が強調された」と、特別委員会の極限のタカ派マイク・ギャラガー委員長は声明で述べている

もうひとつ、あまりのショックと驚きをもたらすであろうから座って聞いたほうがいいことがある。新米国安全保障センターがこの戦争ゲームを行うことについての巨大な利益相反について報道も政治も全く問題視していないことだ!ロイター通信、「ザ・ヒル」、「ナショナル・レビュー」の記事は、この戦争ゲームの重大な発見を不吉な形で読者に知らせているが、シンクタンクの資金提供者についてはまったく触れておらず、あたかもこのシンクタンクが公平な外交政策の専門家であり、戦争利益産業の間接的雇われ者ではないかのような印象を与えている。

私が読者に繰り返し言っているように、これはジャーナリズムの不正行為である。この問題における彼らの明らかな利益相反を読者に知らせることなく、さらなる戦争と軍国主義を推進する戦争マシンの資金源であるシンクタンクに言及することは、決して正当なことではない。

 Center for a New American Securityは、今日の情報エコシステムで糸を引く最も厄介なシンクタンクの一つである。昨年、CNASがMSNBCで奇妙な「戦争ゲーム」を開催したときに述べたように、この団体はバイデン政権と広範囲に渡って重なり合い、アメリカのリベラル派に中国との戦争を売り込む上で重要な役割を担ってきた。

今世界で起きている最も非常識なことの1つは、政治家やメディアクラス全体が、重要な外交政策の決定を推進したり策定したりする際に、この極端な利益相反を国民に開示することなく、戦争マシンから資金を得たシンクタンクを日常的に引用していることだ。未来の世代が(もし未来の世代があるのだとしたら)今を振り返ったら、戦争や軍備についての国の政策に、戦争や軍備から儲けている人間たちが直接影響を与えることを許しだ時代だったということを信じられないのではないだろうか。これはあらゆる邪悪な行為の中でも突出している。

3.ニューヨークタイムズは、本当に、本当に、RFK Jr.を嫌っている。

 ニューヨーク・タイムズ紙の「ニュース」欄に、「オピニオン」でも何でもなく、ロバート・F・ケネディ・ジュニアの民主党大統領予備選挙への出馬について、顎が外れるほど激しく中傷する記事が掲載された。

この記事の著者であるトリップ・ガブリエルは、ケネディが「アメリカ人の科学への信頼を揺るがす」ことに基づいて大統領選挙を行うことを発表したと、いきなり言い放った。繰り返しになるが、これはニューヨーク・タイムズ紙が掲載したハード・ニュース(訳者注:意見記事ではなく報道記事)であることを強調しておきたい。

ガブリエルは、ケネディの選挙演説を「とりとめのない」ものと表現し、彼を「フリンジ(泡沫)」大統領候補と呼び、ケネディが自分への注目を集めるために立候補しているにすぎないかの如くの書き方をしている。彼は、ケネディの選挙運動が、この有名な民主党一族(注:ケネディー家のこと)のメンバーを「驚愕」させているとわざわざ言い、テッド・ケネディの元側近に取材し、RFK Jrの大統領選出馬は「彼の叔父テッド・ケネディがこれまでやってきたことに反している」と語っているのを引用しています。

私はアメリカの大統領候補の誰も支持するつもりはないし、2025年1月に宣誓する人が誰であれ、他の人たちと同じように腐敗した殺人的な沼の怪物になることは火を見るよりも明らかだ。しかしケネディのような候補が、プロパガンダマシンを過剰に拡張させ、その極悪さを国民に知らしめるに役立つことがあるだろうと予想している。明らかなスピン記事をハードニュースとして扱うことは、図々しいジャーナリズムの不正行為であり、ニューヨークタイムズがマスゴミであることを示す証拠の山に、もう1つの項目を追加することになる。

4.Twitterが「国営メディア」「政府系メディア」のラベルを取りやめる。

 少し明るいなニュースもある。ツイッター社が、あらゆる国籍のアカウントから「政府系メディア」と「国営メディア」のラベルをすべて取り除くという、予告なしの措置を取った。「国営メディア」のラベルは、RTやPress TVなどのアカウントや、それらの国営メディアとの関係からこのラベルを貼られていた個人から削除され、同時に「政府系」のラベルはNPR、PBS、CBCなどの媒体から削除されました。

これが永続的な措置であるなら、客観的に見ても良いことです。これらのラベルの使用は、常に米国とその同盟国に有利になる露骨なプロパガンダと猥雑な偏向だったのであり、そもそも起こってはならないことだったのです。人々が西側の宣伝機関を信頼し、ロシアや中国の宣伝機関を不信に思うようにするのはツイッター社の役割ではない。そういう役割を演じるとしたらそれは宣伝者の役割であって、自由なコミュニケーションのための公平なプラットフォームではない。

私はイーロン・マスクのツイッター買収に批判的で、彼の所有下にあるツイッターが以前の所有者に比べて著しく改善されたという主張には概して否定的だ。しかし、これが本当なら、私は恥ずかしい誤りを認めないといけない!もし、彼の言論の自由がヘイトスピーチ規制の緩和だけにとどまらず、国際的に重要な問題に関してより平等な情報エコシステムを構築するのであれば、私は確実に間違っていたことになり、プラットフォームは彼の管理下でより良い方向に向かうということになる。

(翻訳以上)

Tuesday, April 11, 2023

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(3)米国の核戦略の行方 Scott Ritter: The Future of US Nuclear Strategy - From Consortium News (Japanese Translation with permission)

スコット・リター氏3本目の記事です。(紹介文と1本目の記事はこちらを、2本目はこちらをご覧ください。)

The Future of US Nuclear Strategy

スコット・リター: 米国の核戦略の行方

https://consortiumnews.com/2023/04/07/scott-ritter-the-future-of-us-nuclear-strategy/?eType=EmailBlastContent&eId=1bf1864c-7ac4-42ac-accc-5bc21abdcb98


2023年4月7日


ロシアの戦略的敗北を求めるワシントンの政策から、モスクワは軍備管理上の立場を根本的に変えることになった。このことは、次の米国大統領選挙の勝者について、重要な問題を提起している。


スコット・リター


コンソーシアム・ニュース特別寄稿


翻訳:乗松聡子


米国は軍備管理政策に関して、優柔不断の荒野をさまよっているようなものだ。


ロシアとの間に存在する最後の核軍備管理条約である新START条約の状況は悲惨である。ロシアの戦略的敗北を目指すという米国の政策目標に抗議して、ロシアが参加を停止したためである。ロシアは、戦略的核抑止力(まさにロシアの戦略的敗北を防ぐために存在する)を米国当局者の査察に開放することと相容れないと考えている。


米国は、2026年2月に新STARTが失効した後の軍備管理の将来について、ロシアと話し合っていない。


さらに、米国がロシアの戦略的敗北を目指す政策をとっていることから、モスクワは将来の軍備管理条約に関する立場を根本的に変えている。将来の協定には、ミサイル防衛、フランスとイギリスの核兵器、米国が供給するNATOの核抑止力などが含まれなければならないとロシアは考えている。


ロシアは、バルト海の飛び地であるカリーニングラードに戦術核を配備し、さらにロシアが管理する核の傘をベラルーシにまで広げ、NATOの核の傘と同様にすることで、将来の交渉をさらに複雑にしている。


米ロ間の戦略的軍備管理に関する現在の状況は、生命維持装置につながれている患者を誰も蘇生させようとしていない状態に例えることができるだろう。


ロシアは、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマット」と極超音速再突入機「アバンガルド」を中心に、戦略核戦力の大規模な近代化を最終決定しているところである。米国は、B-21ステルス爆撃機、コロンビア級ミサイル潜水艦、新型センチネルICBMからなる米国の核三原則の数十億ドル規模のアップグレードに着手しようとしているところである。


米ロ間の戦略的軍備管理に関する現在の状況は、生命維持装置につながれている患者を誰も蘇生させようとしていない状態に例えることができるだろう。


ロシアは、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマット」と極超音速再突入機「アバンガルド」を中心に、戦略核戦力の大規模な近代化を最終決定しているところである。米国は、B-21ステルス爆撃機、コロンビア級ミサイル潜水艦、新型センチネルICBMからなる米国の核三原則の数十億ドル規模のアップグレードに着手しようとしているところである。


将来の米海軍コロンビア級弾道ミサイル潜水艦のアーティストレンダリング。(アメリカ海軍/ウィキメディア・コモンズ)

もし、これらの新兵器の配備を検証可能な形で制限するための条約が存在しなければ、新STARTの期限が切れた後、米国とロシアは、意図しない核紛争の可能性を劇的に高める、制約のない核軍拡競争に巻き込まれることになるでしょう。


このように考えると、世界の安全保障の将来は、ロシアと米国が交渉のテーブルに着き、軍備管理を現状から復活させることができるかどうかにかかっていると言えるでしょう。


その鍵は、ロシアの懸念を米国の核態勢に取り込もうとするワシントンの意欲にある。そのためには、冷戦終結後、米国の軍備管理政策を導いてきた石灰化した政策前提から、米国の核体制を揺り動かさなければならないだろう。


これらの前提の中で最も重要なのは、世界の核兵器能力における米国の優位性を促進し維持する必要性である。このような前提が捨て去られるかどうかは、2026年2月の新START失効後にホワイトハウスを占める人物と結びついている。


このため、2024年の米国大統領選挙は、近年の歴史上、最も重要な選挙のひとつとなっています。簡単に言えば、2024年11月にアメリカ国民が誰に投票するかに、人類の未来がかかっているかもしれないのです。


エスタブリッシュメント(既存勢力)スタンダード


ジョー・バイデン大統領は、2期目を目指す意向を示した。バイデン氏の年齢を考えると、この目標は楽観的すぎるのではないかという意見もあるが、現実には、バイデン氏やカマラ・ハリス副大統領、あるいは民主党が指名した人物が就任し、バイデン政権のアジェンダをさらに4年間継続させた場合、米国の核態勢の将来、ひいては軍管理政策の決定は、我々を今日の状況に追い込んだ同じ組織の手に渡ることになるのだから。


したがって、「エスタブリッシュメント」が米ロの軍備管理を軌道に乗せるために必要な改革を実行できるかどうかを問うのが適切であろう。歴史はそうではないことを示唆している。


バイデンは2020年、米国の核戦略を、先制核攻撃の可能性があったジョージ・W・ブッシュ時代の政策から、米国の核戦力は米国への核攻撃を抑止するため、あるいは抑止が失敗した場合に報復するためだけに存在するというドクトリンに変えるという約束で立候補しました。


しかし、当選すると、選挙で選ばれたわけでもない官僚や軍人が運営する「省庁間プロセス」が介入し、選挙戦のレトリックが公式な政策になることを妨げたため、バイデンの約束は水の泡となった。


バイデンは、核時代におけるこれまでのすべてのアメリカ大統領と同様に、アメリカの核事業に取り組むために必要な政治資金を費やすことができず、あるいは費やす気がない。その結果、アメリカ国民と他の人類は、アメリカの軍産複合体とアメリカ議会の間のこの致命的な結びつきによって人質にされている。


議会は、核兵器中心の防衛産業を支えるために税金を配分し、防衛産業はそのお金を選挙資金に還元し、妥協した議会が核事業に資金を供給し続けるという悪循環を作り出している。


バイデン氏や2024年の民主党候補者は、まさにこのエスタブリッシュメントの副産物であり、核・軍産・議会複合体である金と権力の腐敗した輪に進んで参加する者である。要するに、2025年にバイデンやその代理人がホワイトハウスに座っていたとしても、軍備管理政策における米国の核態勢に変化はないだろうということである。


つまり、2024年11月に投票された民主党の候補者が、最後の大統領になる可能性があるということです。これは、変わらない核態勢と軍備管理政策が助長する米ロ間の核戦争の確率を考えると、非常によくわかることです。


トランプ・スタンダード


バイデンに先駆けてペンシルベニア街1600番地の住人であったドナルド・トランプが、2024年の大統領選に名乗りを上げています。


トランプ氏の「アメリカを再び偉大にする」というポピュリズム政治に屈服している共和党の現状を考えると、トランプ氏が現在進行中の訴訟劇はともかくとして、共和党がトランプ氏を打ち負かせる候補者を立てる可能性は極めて低いと思われる。


トランプが2度目の大統領選を成功させることができるかどうかは、ここでは問題ではない。むしろ問題は、トランプがバイデンや民主・共和両党の体制とは異なる軍備管理姿勢を推進し、既存の制約から脱却できるかどうか、つまり軍備管理にチャンスを与えることができるかどうかである。


この点で、トランプの実績は明らかに玉石混交である。一方、トランプ氏は、米国の公式政策に組み込まれれば、米国と世界の関わり方を根本的に変え、そうすることで軍備管理政策の見直しを維持することができる新しいパラダイムを作り出すことができる、いくつかの基本的な信念を明言している。


米ロ友好の可能性を考えることで、横行するロシア恐怖症というイデオロギーの牢獄から脱却しようとするトランプは、いずれの党の主流大統領候補の中でも異彩を放っている。


同様に、トランプがNATOの存続と目的に疑問を呈していることは、将来のトランプ政権が、NATOの存在を正当化するためにロシアの脅威を必要とするため、NATOとロシアの間の永続的な緊張状態を終わらせる種類の政策再編に取り組むことができることを意味する。


NATOが政策推進力として縮小すれば、米欧はウクライナ紛争後の世界における新たな欧州の安全保障枠組みの可能性をより合理的に検討することができる。このような態勢は、ミサイル防衛、フランスと英国の核兵器、米国が提供するNATO核抑止力[役者注:米国が核兵器を配備しているNATO加盟国はベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ]など、現在ロシアが将来の米ロ軍備管理協定に含まれなければならないと主張している多くの追加的問題を一挙に解決するのに役立つだろう。


しかし、より重要なのは、トランプが過去の政策の前例にとらわれず、有意義な核軍縮を目指すという実績があることです。


朝鮮民主主義人民共和国[以下、朝鮮]の事例が際立っている。トランプは朝鮮の金正恩委員長と3回にわたって会談し、朝鮮の非核化を実現させようとした。トランプの国務長官マイク・ポンペオや国家安全保障顧問ジョン・ボルトンといった既成の人物による変化への抵抗もあり、最終的にこの作戦は失敗に終わったが、トランプがこのような道を選んだという事実は、前任者や後任者とは異なり、米国の軍備管理政策に画期的な変化を求めて、骨を折ろうとしたことを意味する。


しかし、米ロの軍備管理に意味のある変化をもたらすには、トランプにはもう一つの側面がある。まず第一に、軍備管理に関する彼の忌まわしい記録である。


イラン核合意から離脱し、中距離核戦力条約から離脱し、最近の歴史上最も攻撃的な核態勢文書を政策として発表した。トランプ当局者によれば、米国が先制的に核兵器を使用するかどうかについて「ロシアに推測させる」ための文書である。


トランプは、軍備管理のいかなる側面においてもロシアと有意義に関わることを拒否し、代わりに米国の戦略核戦力の近代化を受け入れた。つまり、トランプの軍備管理政策と "エスタブリッシュメント "の軍備管理政策との間には、何の相違もなかった。実際、トランプの政策は規範を超えるエスカレーションを意味すると言えるかもしれない。


そして、トランプ氏は、内なる不安から、米国の交渉の場では圧倒的な強さと支配力を誇示する必要があると考え、強気な態度に出る傾向があるようだ。彼はロシアと「友人」であると語ったが、ロシアへの制裁に関しては「史上最もタフな大統領」であると公然と自慢している。


イラン核合意から離脱し、新たな制裁を課す一方で、イラン核問題を解決するための新たな交渉のアイデアを宣伝していた。また、朝鮮問題への取り組みは、核時代においてアメリカ大統領が口にした最も戦争的なレトリックを含んでおり、朝鮮が従わない場合は「炎と怒り」を約束した。


要するに、軍備管理に関する「トランプ・スタンダード」は、多くの点で「エスタブリッシュメント」のそれよりもさらに危険であり、支配に基づく攻撃的な姿勢を推進するものであるということだ。


結局、トランプは自分の信念に基づいて行動することができず、アメリカの核事業の強化と拡大を推進する急進的なアメリカ第一主義の国家安全保障イデオロギーに従属させられてしまった。


トランプ2期目がその実績から大きく逸脱することは合理的な期待値としてあり得ない。


軍備管理における新しいアメリカンスタンダード


今日の厳しい現実は、2024年の選挙で有力な大統領候補を擁立する2つの可能性、民主党全国委員会とMAGA共和党のいずれも、米国の核態勢や基本的な軍備管理政策のいずれについても、有意義で前向きな変化をもたらす立場にないことである。


その結果、アメリカ国民、そして世界全体が、軍備管理条約で定められた意味のある制限に縛られることなく展開される、米ロ間の大規模な核軍拡競争を避けられなくなるのである。


これは災害のレシピに他ならない。無知に基づく恐怖の魔女の酒は、意味のある対話をする気がもはやない2つの国がもたらすそれぞれの核の脅威に対する懸念を和らげるために設計された査察の欠如によって拡大し、その結果、黙示録的な奈落の淵に立たされることになるのだ。


要するに、バイデン/民主党のエスタブリッシュメントとトランプ/MAGA共和党のいずれかに投票することは、核武装したロシアンルーレットを続けることに賛成する投票であり、そこにはただ一つの確信が存在する-最終的にピストルは作動するのである。しかし、この場合、それはピストルではなく、核戦争につながる核兵器であり、私たちが現在知り、理解している地球上の生命の終焉をもたらすものである。


2月19日にワシントンD.C.で開催された集会は、独立候補として、あるいは各政党組織内の異端児として、大統領候補となりうる正気の声のプラットフォームを提供した。タルシ・ガバード、デニス・クシニッチ、ロン・ポール、ジミー・ドーアらは、核兵器がもたらす脅威と、意味のある軍備管理を通じて核兵器を制御する必要性を訴えた。


しかし、バイデンやトランプ、あるいはその代理人と表舞台で競い合えるような軍備管理の「基準」となるようなものを文書にした者はいない。さらに、コメディアンであるドーア以外、これらの人物は誰も出馬の意思を表明しておらず、少なくとも当面は、軍備管理およびアメリカの核態勢に関する第3の選択肢という考え方は無意味なものとなっている。


ジョン・F・ケネディ元大統領の甥であるロバート・F・ケネディ・ジュニアが、民主党候補としてバイデンに挑戦する意向を表明した。現時点ではケネディ氏は望み薄のようですが、今から2024年11月までの間にバイデン氏が心身ともに衰え、再起不能になる可能性が高いことに加え、カマラ・ハリス副大統領の大統領候補としての力不足もあり、民主党の土俵は開かれる可能性があります。


ケネディの発表により、ケネディ自身が候補者となるか、あるいは民主党が選ぶどのような既成の人物に挑戦するかという立場になる。


問題は、ケネディが軍備管理に関する新しいアメリカン・スタンダード、つまりトランプがもたらす強引な傲慢さなしにトランプ・スタンダードの長所を取り入れたものを明示する意思や能力があるかどうかということだ。


ケネディは、軍備管理や米国の核態勢に関する詳細な立場を公表していない。しかし、最近の私との会話の中で、彼は叔父であるジャック・ケネディの遺産と、その遺産からどのように指導を受けたかについて話した。


それが誰であったとしても、ケネディ大統領がキューバ危機を解決するために示した知恵と忍耐を引き出せる人間は、軍備管理に関しても正しい道を歩むことができるだろう。



スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。

記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。

元記事リンクはこちらです


★3本の翻訳記事のリンク

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官
スコット・リター氏の記事3本連続翻訳

(1)軍備管理かウクライナか?

(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する

(3)米国の核戦略の行方




『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する Scott Ritter: Reimagining Arms Control After Ukraine - From Consortium News (Japanese Translation with permission)

スコット・リター氏2本目の記事です。(紹介文と1本目の記事はこちらを

SCOTT RITTER: Reimagining Arms Control After Ukraine

スコット・リター:ウクライナ後の軍備管理を再考する

https://consortiumnews.com/2023/02/28/scott-ritter-reimagining-arms-control-after-ukraine/

2023年2月28日

軍備管理を利用してロシアに対して一方的に優位に立った米国とNATOにとって、モスクワを交渉のテーブルに戻すためのコストは高くつくだろう。

スコット・リッター

コンソーシアム・ニュース特別寄稿

翻訳:乗松聡子

米露の軍備管理は、極度の苦境に立たされている。

2002年の米国による対弾道ミサイル(ABM)条約の脱退は、核抑止論の基本に論理的均衡を与えていた相互確証破壊(MAD)の機能的・理論的前提を覆すものである。

同様に、トランプ政権が2019年に中距離核戦力(INF)条約を早々と打ち切ったことは、そもそも軍備管理を成り立たせていた順守検証の問題を司る「信頼するが検証する(Trust but Verify)」という根本原理の両方の要素への攻撃であった。

米露両国の戦略核兵器に制限を加える軍備管理協定として、最後に残されたのが新戦略兵器削減条約(START)であった。

2010年に署名され、2021年に5年間延長されたこの条約は、2026年に失効する。核弾頭の配備数は1,550発まで、核弾頭の運搬手段(ミサイル、爆撃機、潜水艦)は700までと制限を設けている。

数値の上限と同様に重要なのが、条約で義務付けられた遵守状況の検証体制である。この体制には、双方が年間18回までの現地査察を実施する権利が含まれている。このうち10回までは、核兵器輸送システムがある作戦基地で実施することができる。査察官は、ミサイルを無作為に選んで検査することで、核弾頭の存在を目視で確認することができる。

オン・ホールド(保留)

新STARTの遵守事項検証は、2020年初頭、Covid19のパンデミックによる公衆衛生上の懸念から、両国が査察と年2回の二国間協議委員会(BCC)の開催を中止したため、一時停止している。

パンデミックが落ち着き始めた2022年初頭、条約遵守の検証や協議を再開しようとする努力は、ロシアのウクライナ侵攻による政治的影響によって阻まれた。ロシア航空機の上空飛行を禁止する欧州連合の制裁により、ロシアは米国の戦略核施設に対する立ち入り検査を実施できなくなった。

互恵性の問題から、ロシアは米国の査察団がロシアの戦略的施設にアクセスすることを拒否するようになった。また、BCCプロセスは、ウクライナにおけるロシアの「戦略的敗北」を達成するという公言された米国の政策目標に対するロシアの懸念により、保留された。

ロシアの姿勢は、2月21日のロシア連邦議会での演説の最後に、ウラジーミル・プーチン大統領が次のように発表したことで公式の方針となった:  「ロシアは、戦略兵器管理協定への参加を中止する。繰り返しになるが、我々はこの協定から離脱するわけではない。我々は協定から離脱するのではなく、協定を保留するのだ。」

その理由は、米国の行動に関するこれまでのロシアの声明と同じであった。プーチンは「西側は、私たちの戦略的航空基盤を攻撃しようとするキエフ政権の試みに直接関与していることを私たちは知っている」と言った。「NATOのスペシャリストが、これらの施設を攻撃するために無人航空機を飛ばすことに協力した。その上彼らは我々の施設を査察したいと言っているのか?今日の状況においてこれは単なるナンセンスである。」

プーチンは、米国とNATOのロシアに対する公式の姿勢について、再び懸念を表明した:

「強調したいのは、(米国とNATOは)戦略的にロシアを倒すことが目的だと直接的に表明していることです。そしてその後、彼らは我々の施設、軍事施設を見学するだけだと考えているのだろうか。最近、新しい戦略的防衛施設を地域に置くための法律が成立した(中略)。彼らはそれらも見学するつもりなのだろうか?」

その答えは、"NO "であるように見える。

軍備管理の未来

米露の軍備管理はどうなる?休眠状態であるが、まだ死んでいるわけではない。しかし、復活させるには、米国とNATOの同盟国が努力する必要がある。軍備管理をロシアに対する一方的な優位を得るための手段として選択した以上、ロシアを交渉のテーブルに戻すためのコストは高くつくだろう。

将来の軍備管理協定は、ロシアの視点から、次の4つの主要な問題に対処しなければなりません:ミサイル防衛、英仏の核戦力を含めること、INF条約の復活、米国の交渉担当者の誠実さを示すための追加的な検証措置である。

2010年の新START交渉では、ミサイル防衛はその一部となるはずであった。オバマ政権は、戦略核戦力とミサイル防衛は別個の問題として扱われるべきであり、新STARTが批准されれば米国は誠実にロシアの懸念に対処すると言って、当時のロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領を説得した。

それなのに米国は、ルーマニアとポーランドに攻撃能力を持つ防衛ミサイルを設置することにしたので嘘をついたということになる。その結果、ロシアは、米国がロシアの国境にミサイル殺傷技術を設置すると同時に、核抑止力を制限しようとする条約上の取り決めに縛られることになってしまったのである。

将来の軍備管理協定が日の目を見るには、ミサイル防衛に関するロシアの懸念に対処しなければならない。
ルーマニアのデベセルにある米海軍施設に配備された、弾道ミサイルを迎撃するためのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)砲台。2019年6月(NATO)

プーチンは演説の中で、「これ(新START)の議論に戻る前に、フランスと英国が何をしようとしているのか、彼らの戦略兵器をどう考慮するのかを理解する必要がある 」と宣言した。

米ソ(後にロシア)の核保有量削減交渉の当初から、ロシアは英国とフランスの核保有量も交渉に加えようとした。米国は断固として拒否した。米国とNATOの目的がロシアの「戦略的敗北」と結びついたことで、ロシアは、これらNATOの2大勢力の核兵器を全体の方程式に含めない軍備管理の議論を将来的に検討することは不可能となった。

信頼を回復するのは難しい

モスクワは、米国がINF条約を脱退したことを、その前のABM条約脱退に次ぐ、自国の安全保障に対する最大の脅威の1つとみなし続けている。

発射後5分でモスクワを攻撃できる米国の弾道ミサイルがヨーロッパに配備される可能性は、ロシアの生存にとって危険性をはらむとするのは正しい見方であり、不注意による核衝突の可能性を飛躍的に高めると考えられる。したがって、INFシステムは、戦略核戦力に関するあらゆる軍備管理協定の心臓の部分である。

今後の軍備管理協定において、米国が直面する最大の課題は、このような協定が真の意味を持つために必要な信頼を取り戻すことだろう。

プーチンは演説の中で、「戦略兵器の制限に関する最初の合意は、1991年に米国との間で結ばれた」と指摘した。「これは、原則的に異なる状況でのことでした。これは、相互の信頼関係の中で行われたものです。そしてその後、私たちの関係は、[米ソが]もはや互いを敵とは思わないと表明するほどのレベルにまで達したのです」。

それは当時のことで、現在は違う。プーチンは言った。「我々の関係(米露)は悪化した。」「これは米国のイニシアチブだった。」

プーチンは演説の中でこう言った。

「米国は、第二次世界大戦後の世界秩序の基本をすべて破壊し始めた。一歩一歩、世界の安全保障と兵器の管理システムを破壊し始めたのです...そして、そのすべては、第二次世界大戦後に構築された国際関係の構造を破壊するという一つの目的のために行われたのです。そして、ソビエト連邦の崩壊後、彼らは常に世界支配を再確認しようとしてきたのです。」

プーチンは、第二次世界大戦の終結後、世界が変化したことを認めた。「新しい影響力の中心が存在し、それらは発展し続けています。これは無視できない自然な客観的プロセスです。」プーチンは、「受け入れがたいことは、米国が自分たちの必要性に応じてのみ、これを再編成し始めたことだ」と強調した。

このようなことはもう通用しないだろう。将来の軍備管理協定は、相互利益、つまりロシアのニーズが米国のニーズと同じくらい注目されるという基本概念に立ち戻らなければならない。

弱いロシアが、支配的な米国側の要求に応じる時代はとっくに終わっている。ロシアが将来、軍備管理の交渉の場に戻るには、完全かつ対等なパートナーとしてでなければならない。そうでなければ、プーチンが表明したように、何の意味もないのである。


スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。

記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。

元記事リンクはこちらです


★3本の翻訳記事のリンク

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官
スコット・リター氏の記事3本連続翻訳

(1)軍備管理かウクライナか?

(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する

(3)米国の核戦略の行方

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(1)軍備管理かウクライナか? Scott Ritter: Arms Control or Ukraine? From Consortium News (Japanese Translation with permission)

コンソーシアム・ニュース』は、1980年代「イラン・コントラ」事件を暴くなどで活躍したジャーナリスト、故ロバート・パリー氏が1995 年に設立したインターネット初の調査報道サイトです。『コンソーシアム・ニュース』のAbout ページにある、パリー氏の文から一部を抜粋します。

私が若い記者だった頃、ストーリーにはほとんど常に2つの側面があり、実際はそれ以上であることが多いと教えられた。そして、記者として、そのような別の意見を否定したり、存在しないふりをするのではなく、別の意見を探し出すことが期待されていた。また、真実を知るためには、都合の良い説明をそのまま受け取るのではなく、表面から掘り下げることが必要な場合も多いということも学んだ。 しかし次第に、欧米の主要な報道機関は、ジャーナリズムを違った角度からとらえるようになった。公式見解への疑問を封じることがジャーナリストの奇妙な義務になったのだ。たとえ公式見解に大きな欠陥があり、ほとんど意味をなさない場合でも。たとえ異なる証拠を示す証拠があって、まともなアナリストたちが集団思考に異議を唱えている場合でも。
この20年間を振り返ると、1990年代半ばに感知したこのようなメディアの傾向が逆転したと言いたいところだが、どちらかといえば、悪化している。欧米の主要な報道機関は、でっち上げの「フェイクニュース」や根拠のない「陰謀論」による個別の困難と、公式見解に反対する責任ある分析を混同するようになっている。どちらも同じ釜に入れられ、軽蔑と嘲笑の対象になっている。 例えば、伝説的な調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュは、2013年のシリア・サリン事件に関するオバマ政権の主張を否定する重要な記事を、米国内の通常の出版社では掲載されないため、London Review of Booksに掲載しなければならなかったという茶番を目の当たりにしています。 今、西側とロシアの冷戦的緊張が再燃し、世界の運命がより繊細になっているにもかかわらず、西側メディアは自ら盲目となり、西側市民も盲目となっています。このジレンマ、すなわち民主主義の危機が、1995年当時よりも今日、コンソーシアム・ニュースの役割をより一層重要なものにしている。

2018年に惜しまれながら亡くなったパリー氏が警告したように、ウクライナ戦争が進行中の今、米国・西側主導の言説に異を唱えるだけで「ロシアのプロパガンダだ」「習近平の手先だ」と政治的左右を問わずレッテルを貼られるようになりました。どれだけ客観的なデータや西側の信頼できるソースを使ったとしてもです。

今回、パリー氏の遺志を受け継ぐ『コンソーシアムニュース』から、元米海兵隊将校・国連の大量破壊兵器査察官のスコット・リター氏の最近の記事3本を、許可を得て翻訳掲載します。リター氏の欧州・ロシアの歴史や政治への深い造詣、軍人としての体験、大量破壊兵器査察官としての専門的知識をふまえたウクライナ戦争の分析は大変貴重なものです。リター氏も、昨年2月以来、西側プラットフォームから排除されてきた数多くの優秀な西側のアナリストの一人です。主要メディアからは排除されていますが、映像サイトやSNSでの活躍ぶりから、彼が代替メディアから引っ張りだこであることがよくわかります。ウクライナ戦争は今こそ外交交渉によって停戦させなければいけません。日本でも識者グループによる停戦交渉を求める声明が出されました。核軍縮の専門家であるリター氏の2本の翻訳記事「軍備管理かウクライナか?」「ウクライナ後の軍備管理」を読めば、西側で言われている「ロシアの核の脅威」というナラティブの背景には米国による約束違反の歴史と欧州での核・ミサイル配備という文脈を捉えることの重要さが浮き彫りになると思います。ウクライナ戦争がこれ以上続くことで核戦争で世界が終末を迎える可能性がますます高まります。3本目の記事「米国の核戦略の行方」では、新START条約が失効する2026年に大統領である人を決める来年の大統領選についてリター氏は「2024年11月にアメリカ国民が誰に投票するかに、人類の未来がかかっている」と言っています。まずは一本目の記事です。(注:翻訳はアップ後に変更することがあります。無断転載は禁止です。)

SCOTT RITTER: Arms Control or Ukraine?

スコット・リター: 軍備管理かウクライナか?

https://consortiumnews.com/2023/02/22/scott-ritter-arms-control-or-ukraine/


2023年2月22日


ロシアがNew STARTを中断する中、ウクライナ戦争が早く終われば、米ロは究極の災厄を回避するために軍備管理の維持に努めることができる。


スコット・リター


コンソーシアムニュース特別寄稿


翻訳:乗松聡子


ロシアの専門家や国家安全保障の専門家は、プーチン大統領が2月21日に行った演説のテキストにしばらく目を通し、隠された意味を読み解こうとするだろう。


しかし、プーチンの演説は、欧米の政界ではあまり耳にしない、事実を淡々と、驚くほどわかりやすく述べたものであったことは事実である。


西側の政治家たちは、たとえ基づく「事実」が真実でなくとも一定の見方を形成するために定期的に嘘をついている(例として、2021年7月にジョー・バイデン大統領がアフガニスタン前大統領と行った悪名高い電話を挙げればよい)。そんな世界の中でプーチンの演説は新鮮だ。

隠し事や虚飾もない。嘘がないのだ。


そして、軍備管理の問題では、真実は耳に痛い。


プーチンは演説の最後に、「今日言わなければならないのは、ロシアは新START条約への参加を停止するということだ。繰り返すが、条約から脱退するわけではなく、単に参加を停止するだけだ。」と言った。


2010年、アメリカのオバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領の交渉により締結された新戦略兵器削減条約(New START)は、表向き、各国が配備できる戦略核弾頭の数を1550個に、配備されている陸上・潜水艦搭載ミサイルとその運搬に用いられる爆撃機の数を700基に、核兵器を装備するための配備・非配備のICBMランチャー、SLBMランチャー、重爆撃機を800基に限定していた。


2021年2月、バイデンとプーチンは、この条約をさらに5年間延長することに合意した。新STARTは2026年に期限切れとなる。


決定の背景


新STARTの裏話は、特にロシアの条約一時停止に関するプーチンの宣言の文脈において重要である。その裏話の核心は、ミサイル防衛である。


2001年12月、ブッシュ大統領(当時)は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃ち落とすためのミサイル防衛システムの開発と配備を(例外を除き)禁止した1972年の対弾道ミサイル(ABM)条約からの離脱を表明した。


ABM条約は、冷戦時代の「相互確証破壊」(MAD)の概念を確定的なものにした。核兵器を保有する側が、他の核保有国に対して核兵器を使用することはない。なぜなら、そうすることは、確実に核の報復を受け、自分たちが破滅することになるからである。


MADの概念(その異常さ)は、戦略兵器削減交渉(SALT)から中距離核戦力(INF)条約、そして戦略兵器削減条約(START)に至るまで、その後のすべての軍備管理協定に道を開くことにつながった。


プーチンは、米国がABM条約から離脱することを 「誤りだ」と非難した。当時、米露の戦略核兵器は1991年のSTART条約による制限を受けていた。米露の核兵器をさらに削減する努力は、START II条約の一部として行われた。


しかし、冷戦後の政治は、米国がABM条約を放棄することを決定したことと相まって、条約は署名されたまま承認されず、事実上消滅した。


同様の問題は、START III条約を交渉の段階で消滅させることにつながった。2002年に署名された狭義の戦略的攻撃削減条約(SORT)は、START Iで義務付けられた以上の追加削減を米ロ双方に約束したが、検証や遵守の仕組みは含まれていなかった。


START I条約は2009年に、SORTは2012年に失効した。新STARTは、この2つの協定に代わるものとして意図されたものだった。


メドベージェフ大統領時代


その際、ネックとなったのがミサイル防衛の問題である。プーチン大統領の下、ロシアはミサイル防衛問題に有意義に対処しない新しい実質的な軍備管理条約(SORTは構造的にも実質的にも条約というより非公式な合意だった)の締結を拒否した。


しかし、2008年5月、ドミトリー・メドベージェフがロシア大統領に就任した。ロシアの憲法では、大統領は2期以上連続して就任することが禁じられていたため、メドベージェフはプーチンの支援を受けながら、ロシアの最高権力者に立候補し、当選した。プーチンはその後、首相に就任した。


ブッシュ政権は、まもなく期限切れとなるSTART Iに続く条約を交渉しようとしたが、メドベージェフは、ミサイル防衛の制限を含まない協定を米国と結ぶことには、まったく消極的であった。ブッシュ大統領はミサイル防衛の制限を拒否していた。


結局、新条約の交渉問題は、2009年1月に就任したバラク・オバマ政権に委ねられることになった。


2009年3月下旬にロンドンで行われた最初の会談で、両首脳は声明を発表し、「戦略兵器削減条約を法的拘束力のある新しい条約に置き換えることから始め、段階的なプロセスで我々の戦略攻撃兵器の新しい、検証可能な削減を追求する」ことに同意した。


ミサイル防衛については、オバマ大統領とメドベージェフは別問題として扱うことに合意した。声明は、「欧州におけるミサイル防衛資産の配備の目的について相違が残っていることを認めつつ、ミサイル防衛の分野における相互の国際協力の新たな可能性について、ミサイルの課題と脅威に関する共同評価を考慮しつつ、両国および同盟国やパートナーの安全を強化することを目的として話し合った」と述べています。


間違いないのは、ロシアと米国の間で交渉された新START条約は、戦略的攻撃核兵器の削減に特化したものであったが、この条約に続いて、ミサイル防衛に関するロシアの長年の懸念に米国が誠意を持って対応するという明確な理解が含まれていたということである。


2010年4月、プラハで新START条約に署名したバラク・オバマ米大統領とドミトリー・メドベージェフ・ロシア大統領。(Kremlin.ru, CC BY 4.0, Wikimedia Commons)

このことは、新START条約に添付された拘束力のない両国による単独の声明の交換に反映されている。「ミサイル防衛に関するロシア連邦の声明」は、新STARTが「(米国のミサイル防衛システム能力の)質的・量的な増強がない状況においてのみ、有効かつ実行可能であろう」という立場を示したものであった。


さらに、米国のミサイル防衛能力の増強が「ロシアの戦略核戦力への脅威をもたらす」場合、条約第14条にある「異常事態」の一つとみなされ、ロシアは撤退権を行使する可能性があると声明は述べている。


一方、米国は独自の声明を発表し、米国のミサイル防衛は「ロシアとの戦略的バランスに影響を与えることを意図していない」と宣言する一方、「限定的な攻撃から身を守るために、ミサイル防衛システムの改善と配備を継続する」意向を表明している。


しかし、オバマとメドベージェフの合意は、プーチンにとって必ずしも受け入れられるものではなかった。米国の新START交渉担当者であるローズ・ゴッテモラー氏によれば、プーチンは首相として、2009年12月に再びミサイル防衛の問題を提起し、交渉を頓挫させかけたという。


「彼ら(ロシア側)は重要な国家安全保障会議を開く予定だった 」と、後にゴッテモエラーは2021年10月にカーネギー評議会で語った。「私が聞いた話では、プーチンは初めてこの交渉に関心を示し、国家安全保障会議に入り、この決定シートのすべての問題にただ線を引き、『ノー、ノー、ノー、ノー』と言っている」。


さらにゴッテモエラーは、プーチンがウラジオストクに赴き、この条約を「まったく不十分なもの」と非難する演説を行い、米露両国の交渉チームは「戦略的攻撃力を制限することだけに集中している」と批判し、「彼らはミサイル防衛を制限していない」と指摘したことを説明しました。ゴッテモエラーによるとプーチンは「この条約は時間の無駄だ」と言ったという。「交渉から手を引くべきだ」と。


ゴッテモラーによると、メドベージェフはプーチンに立ち向かい、「いや、我々はこの交渉を続け、やり遂げるつもりだ 」と言ったという。


破られた約束


アナトリー・アントノフは、新STARTのロシア側交渉官であった。彼はクレムリンからの指示に従い、戦略的攻撃兵器の削減に焦点を当てた条約を作成し、米国がミサイル防衛に関する有意義な交渉に参加する際には約束を守ることを前提に仕事をした。


しかし、新STARTの発効から1年も経たないうちに、アントノフは、米国が約束を守るつもりが全くなかったことを知った。


コメルサント紙とのインタビューで、アントノフ氏は、西ヨーロッパのミサイル防衛システム計画に関するNATOとの協議が「行き詰まった」と述べ、NATOの提案は「あいまい」であり、提案されたシステムへのロシアの参加は「議論の対象にもならない」と付け加えた。


アントノフ氏は、ミサイル防衛に関して米国が誠意を示さないため、ロシアが新START条約から完全に離脱する可能性があると指摘した。


米国は、米国のミサイル迎撃ミサイルの特定のテストの特定の側面をロシアに観察させることを申し出たが、この申し出は何の意味も持たず、米国は、ロシアのミサイルを迎撃するSM-3ミサイルの能力を低く見積もり、ロシアのミサイルに対して有効な距離を有していないと述べたのであった。


当時、米国の軍備管理・国際安全保障担当国務次官だった故エレン・タウシャーは、迎撃ミサイルSM-3を搭載するMk.41イージス・アショア・システムがロシアに向けたものではないとの確約をアントノフ氏に書面で申し出ていた。


しかし、タウシャーは、「法的拘束力のある約束はできないし、脅威の進化に必ず歩調を合わせなければならないミサイル防衛の制限に同意することもできない 」と述べている。


タウシャーの言葉は予言的であった。2015年、米国はICBMの目標に対する迎撃ミサイル「SM-3ブロックIIA」のテストを開始した。SM-3は実際、ロシアの中距離ミサイルや大陸間ミサイルを撃ち落とす射程を有していた。


そして、そのミサイルは、NATO軍よりもロシアとの国境に近い旧ワルシャワ条約加盟国のポーランドとルーマニアに建設された基地に配備されることになった。


アメリカは不誠実な交渉をしていたのだ。プーチンが、ミサイル防衛に関するロシアの懸念を考慮しない戦略的軍備管理条約に疑問を抱いたのは正しかったことが判明したのです。


しかし、それでもプーチンは新STARTの履行に向けた決意を弱めることはなかった。ゴッテモラーによれば:

「プーチンは、この条約が締結されて以来、この条約について非常に前向きな姿勢をとってきました。この条約が発効して以来、彼はこの条約を核条約の『ゴールドスタンダード』と何度も公言し、支持してきました。・・・私は、彼がこの条約にコミットし、今この戦略安定対話で行われている、新しい交渉を始めるための努力に本当にコミットしてきたことを知っています。」

しかし、プーチンが新STARTを断固として守ったからといって、このロシアの指導者が米国のミサイル防衛がもたらす脅威について心配するのをやめたわけではなかった。2018年3月1日、プーチンはロシア連邦議会で主要な演説を行ったが、これは彼が2月21日に話したのと同じフォーラムである。その口調は反抗的だった:
「この15年間、軍拡競争を煽り、ロシアに対して一方的に優位に立とうとし、わが国の発展を封じ込めることを目的とした不法な制裁を導入したすべての人たちに言いたい--あなた方の政策で妨げようとしたことはすべて、すでに起こっている。あなた方はロシアを封じ込めることに失敗したのだ。」

そしてプーチン大統領は、米国のABM条約離脱に直接対応して開発されたという、重ICBM「サルマート」や極超音速滑空体「アバンガルド」など、ロシアの新型戦略兵器数点を発表した。

プーチンは、ロシアが2004年に米国にそのような措置を取ることを警告していたと述べた。「当時は誰も耳を貸さなかった」とプーチンは宣言した。「だから、今、私たちの話を聞いてほしい」と宣言した。

聞いていた人の一人がローズ・ゴッテモラーだった。すでに軍備管理交渉官として引退していたゴッテモラーは2021年、「人々は、プーチン大統領が2018年の3月にロールアウトした...新しいいわゆるエキゾチックな兵器システムを心配していました」と言った。「そのうちの2つはすでに新STARTの制限下にあり、いわゆるサルマート重ICBMと、彼らが配備の準備を進めている初の戦略レンジ極超音速滑空体であるアバンガルドもです。彼らはすでに、これを新START条約の制限下に置くと言いました」。

ゴッテモラーは、将来の軍備管理協定においては、これらのシステムに対する制約を求めることになると指摘した。 

2021年の条約延長

B-52H爆撃機やオハイオ級潜水艦が核使用から非核使用に転換するか、完全に撤廃するかを判断するために米国が用いている「転換・撤廃」手続きが不十分であるとロシア側が考えていたにもかかわらず、2021年2月に新START条約は5年間の期間延長となった。

ロシア側は、これらの問題を解決するために年2回開催される条約で定められた二国間協議委員会(BCC)プロセスを使って解決できることを望んでいた。

しかし、米ロ双方の査察官や交渉官が直面する問題のひとつが、Covid19のパンデミックだった。2020年初頭、双方はパンデミックによる現地査察とBCC会議の中断に合意した。2021年半ばには、米国とロシアの交渉担当者は、査察とBCC協議の両方を立ち上げることができるCovid共同プロトコルの作成について議論を開始した。

しかし、その後にウクライナが始まった。

2022年3月9日、米国、英国、欧州連合は、ロシア航空機の上空飛行を禁止し、米国に向かうロシア人がEUや英国を通過する際のビザを制限する制裁を可決した。ロシア側によると、これらの制限により、新STARTの短期通知検査プロトコル(条約で定められた厳格な実施スケジュールを持つ)を用いた武器検査チームの米国への派遣が事実上禁止される。 

2022年6月、米国はCovid19のパンデミックにより課された査察の一時停止はもはや有効でないと一方的に宣言した。2022年8月8日、米国は条約で義務付けられた査察業務を遂行するため、ロシアに短期通告査察団を派遣しようとした。

ロシアはこのチームの入国を拒否し、ロシアは許されないのにかかわらず、米国が立ち入り検査を行うことで一方的な優位に立とうとしていると非難した。ロシア外務省は、制裁による制限を理由に、「アメリカの査察団のロシア到着に同様の障害はない 」と述べた。

査察やその他の条約履行に関する未解決の問題を解決するため、ロシアと米国の外交官はBCC会合の招集について協議を開始し、最終的には2022年11月29日にエジプトのカイロで開催することで決着がついた。ところが、BCCが始まるはずだった4日前に、ロシアは会議の中止を発表した。

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は、コメルサント紙に行った発言で、ウクライナでの戦争がこの決定の核心にあると述べた。「ウクライナとその周辺で起きていることの影響はもちろんある 」とリャブコフは言った。「それを否定するつもりはない。この分野での軍備管理や対話は、その周囲の状況と無縁ではいられない。」

軍備管理は死滅するかもしれない

米国務省は2023年初頭、ロシアの新START遵守に関する公式報告書を議会に提出し、その中でロシアが米国査察官のロシア国内の施設へのアクセスを拒否することで新START条約に違反していると非難した。

国務省報道官は、ロシアが「自国領土での査察活動を促進するという新START条約上の義務を遵守していない」と述べ、「査察活動の促進を拒否するロシアは、米国が条約上の重要な権利を行使することを妨げ、米ロの核軍縮の実行可能性を脅かす」と指摘した。

しかし、2022年2月にプーチンが開始した特別軍事作戦に対する米国の全体的な対応の一環として、ロシアを標的にした行動ー時には文字通りーが与える影響に対する米国側の無神経さは、それを物語っている。

プーチンは2月21日の演説で、ウクライナがソ連時代の無人機を使用して、核搭載爆撃機を含むロシアの戦略航空資産を収容するロシアのエンゲルス近郊の基地への攻撃を可能にするために米国とNATOが果たした役割について強調した。また、サルマートとアバンガルドのシステムが運用開始され、そのため新STARTの条件の下で検査が可能になるような命令に署名したばかりであることを指摘した。

「米国とNATOは、ロシアに戦略的敗北を与えることが目的であると直接的に言っている」とプーチンは述べた。「最新の防衛施設も含めて、何事もなかったかのように査察するつもりなのだろうか。彼らは、私たちが簡単に彼らをそのまま受け入れると本当に思っているのだろうか?」

ローズ・ゴッテモラーは、「彼(プーチン)が新START条約にかんしゃくを起こすからと言って、米国がウクライナに関する政策を変更するつもりはない」と述べた。「そんなことはありえない。」

しかし、プーチンの姿勢は、単なる「かんしゃく」ではなく、もっと原理的なものである。プーチンの怒りは、米国がABM条約を脱退した原罪から生まれたものであり、新START交渉でメドベージェフがミサイル防衛について約束した際に、ゴッテモラーを含む米国高官が見せた欺瞞に直接結びついている。

この欺瞞によって、ロシアは、ヨーロッパに前方展開していたミサイル防衛システムを含む米国のミサイル防衛システムを打ち破るために、新しいカテゴリーの戦略核兵器であるサルマートとアバンガルドを配備することになった。

そして今、ウクライナ戦争は、ロシアの戦略的敗北を達成するという米国の戦略と結びついており、米国は新STARTを利用して、まさにこれらのシステムへのアクセスを得ようとしている。プーチンが適切に言ったように、このような取り決めは 「本当に非常識だ。」

新STARTについて両当事者が妥協することができない、あるいはしたくないということは、この条約が無期限に宙に浮いたままになることを意味し、2026年2月に条約が失効することを考えると、米ロ間の軍備管理が死んでしまう可能性があることを意味する。

新たな軍拡競争へのリスク

米国とロシアは以前、新STARTに代わる後続条約を約束したが、ロシアとウクライナの間で続く紛争は、新STARTの期限までにそのような条約文書を署名・批准できるようにしようとする者にとって、ほぼ乗り越えられない障害となる。

2年後、米国とロシアは、それぞれの核兵器に対する不安と不確実性を解消する検証可能なメカニズムを持たないまま、無知に基づく怒りに煽られて無制限の軍拡競争に乗り出す可能性が、確率はともかく現実のものとなっている。

プーチンは、ロシア連邦議会での演説の最後に、「真実は我々の背後にある」と述べた。

もし、軍備管理を再開する方法が見つからなければ、核の惨事を防ぐための人類の最後のチャンスとなるかもしれない。

新STARTを守るために米国がウクライナ政策を変更することはないというゴッテモエラーの主張は、バイデン政権がウクライナを武装化しようとする自滅的な現実を浮き彫りにしているのである。

ウクライナでの戦争が早く終われば、米ロ両国は軍備管理を両国の関係の一部として維持するための作業に早く取り掛かることができるだろう。

しかし、米国はウクライナ紛争を拡大することで、世界を核兵器によるホロコーストに巻き込む自爆行為に及んでいる。

ベトナム戦争中、著名な特派員ピーター・アーネットは、無名の米軍将校の言葉を引用して、「村を救うためには、村を破壊しなければならなかった」と述べている。ウクライナと軍備管理の間に作られた関連性に関しても、同じ病的な論理が今適用される-一方を救うためには、他方を破壊しなければならない。

ウクライナを救うためには、軍備管理を犠牲にしなければいけない。

軍備管理を守るためには、ウクライナを犠牲にしなければならない。

一方は国家を、もう一方は地球を犠牲にする。

これは、米国の政策立案者が作り出した「ホブソンの選択」(注:選択肢があるようで実はない選択)である。しかしそうである必要はない。

地球を救う。それしか選択肢はない。


スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。

記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。

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★3本の翻訳記事のリンク

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官
スコット・リター氏の記事3本連続翻訳

(1)軍備管理かウクライナか?

(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する

(3)米国の核戦略の行方