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Tuesday, April 11, 2023

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する Scott Ritter: Reimagining Arms Control After Ukraine - From Consortium News (Japanese Translation with permission)

スコット・リター氏2本目の記事です。(紹介文と1本目の記事はこちらを

SCOTT RITTER: Reimagining Arms Control After Ukraine

スコット・リター:ウクライナ後の軍備管理を再考する

https://consortiumnews.com/2023/02/28/scott-ritter-reimagining-arms-control-after-ukraine/

2023年2月28日

軍備管理を利用してロシアに対して一方的に優位に立った米国とNATOにとって、モスクワを交渉のテーブルに戻すためのコストは高くつくだろう。

スコット・リッター

コンソーシアム・ニュース特別寄稿

翻訳:乗松聡子

米露の軍備管理は、極度の苦境に立たされている。

2002年の米国による対弾道ミサイル(ABM)条約の脱退は、核抑止論の基本に論理的均衡を与えていた相互確証破壊(MAD)の機能的・理論的前提を覆すものである。

同様に、トランプ政権が2019年に中距離核戦力(INF)条約を早々と打ち切ったことは、そもそも軍備管理を成り立たせていた順守検証の問題を司る「信頼するが検証する(Trust but Verify)」という根本原理の両方の要素への攻撃であった。

米露両国の戦略核兵器に制限を加える軍備管理協定として、最後に残されたのが新戦略兵器削減条約(START)であった。

2010年に署名され、2021年に5年間延長されたこの条約は、2026年に失効する。核弾頭の配備数は1,550発まで、核弾頭の運搬手段(ミサイル、爆撃機、潜水艦)は700までと制限を設けている。

数値の上限と同様に重要なのが、条約で義務付けられた遵守状況の検証体制である。この体制には、双方が年間18回までの現地査察を実施する権利が含まれている。このうち10回までは、核兵器輸送システムがある作戦基地で実施することができる。査察官は、ミサイルを無作為に選んで検査することで、核弾頭の存在を目視で確認することができる。

オン・ホールド(保留)

新STARTの遵守事項検証は、2020年初頭、Covid19のパンデミックによる公衆衛生上の懸念から、両国が査察と年2回の二国間協議委員会(BCC)の開催を中止したため、一時停止している。

パンデミックが落ち着き始めた2022年初頭、条約遵守の検証や協議を再開しようとする努力は、ロシアのウクライナ侵攻による政治的影響によって阻まれた。ロシア航空機の上空飛行を禁止する欧州連合の制裁により、ロシアは米国の戦略核施設に対する立ち入り検査を実施できなくなった。

互恵性の問題から、ロシアは米国の査察団がロシアの戦略的施設にアクセスすることを拒否するようになった。また、BCCプロセスは、ウクライナにおけるロシアの「戦略的敗北」を達成するという公言された米国の政策目標に対するロシアの懸念により、保留された。

ロシアの姿勢は、2月21日のロシア連邦議会での演説の最後に、ウラジーミル・プーチン大統領が次のように発表したことで公式の方針となった:  「ロシアは、戦略兵器管理協定への参加を中止する。繰り返しになるが、我々はこの協定から離脱するわけではない。我々は協定から離脱するのではなく、協定を保留するのだ。」

その理由は、米国の行動に関するこれまでのロシアの声明と同じであった。プーチンは「西側は、私たちの戦略的航空基盤を攻撃しようとするキエフ政権の試みに直接関与していることを私たちは知っている」と言った。「NATOのスペシャリストが、これらの施設を攻撃するために無人航空機を飛ばすことに協力した。その上彼らは我々の施設を査察したいと言っているのか?今日の状況においてこれは単なるナンセンスである。」

プーチンは、米国とNATOのロシアに対する公式の姿勢について、再び懸念を表明した:

「強調したいのは、(米国とNATOは)戦略的にロシアを倒すことが目的だと直接的に表明していることです。そしてその後、彼らは我々の施設、軍事施設を見学するだけだと考えているのだろうか。最近、新しい戦略的防衛施設を地域に置くための法律が成立した(中略)。彼らはそれらも見学するつもりなのだろうか?」

その答えは、"NO "であるように見える。

軍備管理の未来

米露の軍備管理はどうなる?休眠状態であるが、まだ死んでいるわけではない。しかし、復活させるには、米国とNATOの同盟国が努力する必要がある。軍備管理をロシアに対する一方的な優位を得るための手段として選択した以上、ロシアを交渉のテーブルに戻すためのコストは高くつくだろう。

将来の軍備管理協定は、ロシアの視点から、次の4つの主要な問題に対処しなければなりません:ミサイル防衛、英仏の核戦力を含めること、INF条約の復活、米国の交渉担当者の誠実さを示すための追加的な検証措置である。

2010年の新START交渉では、ミサイル防衛はその一部となるはずであった。オバマ政権は、戦略核戦力とミサイル防衛は別個の問題として扱われるべきであり、新STARTが批准されれば米国は誠実にロシアの懸念に対処すると言って、当時のロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領を説得した。

それなのに米国は、ルーマニアとポーランドに攻撃能力を持つ防衛ミサイルを設置することにしたので嘘をついたということになる。その結果、ロシアは、米国がロシアの国境にミサイル殺傷技術を設置すると同時に、核抑止力を制限しようとする条約上の取り決めに縛られることになってしまったのである。

将来の軍備管理協定が日の目を見るには、ミサイル防衛に関するロシアの懸念に対処しなければならない。
ルーマニアのデベセルにある米海軍施設に配備された、弾道ミサイルを迎撃するためのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)砲台。2019年6月(NATO)

プーチンは演説の中で、「これ(新START)の議論に戻る前に、フランスと英国が何をしようとしているのか、彼らの戦略兵器をどう考慮するのかを理解する必要がある 」と宣言した。

米ソ(後にロシア)の核保有量削減交渉の当初から、ロシアは英国とフランスの核保有量も交渉に加えようとした。米国は断固として拒否した。米国とNATOの目的がロシアの「戦略的敗北」と結びついたことで、ロシアは、これらNATOの2大勢力の核兵器を全体の方程式に含めない軍備管理の議論を将来的に検討することは不可能となった。

信頼を回復するのは難しい

モスクワは、米国がINF条約を脱退したことを、その前のABM条約脱退に次ぐ、自国の安全保障に対する最大の脅威の1つとみなし続けている。

発射後5分でモスクワを攻撃できる米国の弾道ミサイルがヨーロッパに配備される可能性は、ロシアの生存にとって危険性をはらむとするのは正しい見方であり、不注意による核衝突の可能性を飛躍的に高めると考えられる。したがって、INFシステムは、戦略核戦力に関するあらゆる軍備管理協定の心臓の部分である。

今後の軍備管理協定において、米国が直面する最大の課題は、このような協定が真の意味を持つために必要な信頼を取り戻すことだろう。

プーチンは演説の中で、「戦略兵器の制限に関する最初の合意は、1991年に米国との間で結ばれた」と指摘した。「これは、原則的に異なる状況でのことでした。これは、相互の信頼関係の中で行われたものです。そしてその後、私たちの関係は、[米ソが]もはや互いを敵とは思わないと表明するほどのレベルにまで達したのです」。

それは当時のことで、現在は違う。プーチンは言った。「我々の関係(米露)は悪化した。」「これは米国のイニシアチブだった。」

プーチンは演説の中でこう言った。

「米国は、第二次世界大戦後の世界秩序の基本をすべて破壊し始めた。一歩一歩、世界の安全保障と兵器の管理システムを破壊し始めたのです...そして、そのすべては、第二次世界大戦後に構築された国際関係の構造を破壊するという一つの目的のために行われたのです。そして、ソビエト連邦の崩壊後、彼らは常に世界支配を再確認しようとしてきたのです。」

プーチンは、第二次世界大戦の終結後、世界が変化したことを認めた。「新しい影響力の中心が存在し、それらは発展し続けています。これは無視できない自然な客観的プロセスです。」プーチンは、「受け入れがたいことは、米国が自分たちの必要性に応じてのみ、これを再編成し始めたことだ」と強調した。

このようなことはもう通用しないだろう。将来の軍備管理協定は、相互利益、つまりロシアのニーズが米国のニーズと同じくらい注目されるという基本概念に立ち戻らなければならない。

弱いロシアが、支配的な米国側の要求に応じる時代はとっくに終わっている。ロシアが将来、軍備管理の交渉の場に戻るには、完全かつ対等なパートナーとしてでなければならない。そうでなければ、プーチンが表明したように、何の意味もないのである。


スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。

記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。

元記事リンクはこちらです


★3本の翻訳記事のリンク

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官
スコット・リター氏の記事3本連続翻訳

(1)軍備管理かウクライナか?

(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する

(3)米国の核戦略の行方

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