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Tuesday, April 11, 2023

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(1)軍備管理かウクライナか? Scott Ritter: Arms Control or Ukraine? From Consortium News (Japanese Translation with permission)

コンソーシアム・ニュース』は、1980年代「イラン・コントラ」事件を暴くなどで活躍したジャーナリスト、故ロバート・パリー氏が1995 年に設立したインターネット初の調査報道サイトです。『コンソーシアム・ニュース』のAbout ページにある、パリー氏の文から一部を抜粋します。

私が若い記者だった頃、ストーリーにはほとんど常に2つの側面があり、実際はそれ以上であることが多いと教えられた。そして、記者として、そのような別の意見を否定したり、存在しないふりをするのではなく、別の意見を探し出すことが期待されていた。また、真実を知るためには、都合の良い説明をそのまま受け取るのではなく、表面から掘り下げることが必要な場合も多いということも学んだ。 しかし次第に、欧米の主要な報道機関は、ジャーナリズムを違った角度からとらえるようになった。公式見解への疑問を封じることがジャーナリストの奇妙な義務になったのだ。たとえ公式見解に大きな欠陥があり、ほとんど意味をなさない場合でも。たとえ異なる証拠を示す証拠があって、まともなアナリストたちが集団思考に異議を唱えている場合でも。
この20年間を振り返ると、1990年代半ばに感知したこのようなメディアの傾向が逆転したと言いたいところだが、どちらかといえば、悪化している。欧米の主要な報道機関は、でっち上げの「フェイクニュース」や根拠のない「陰謀論」による個別の困難と、公式見解に反対する責任ある分析を混同するようになっている。どちらも同じ釜に入れられ、軽蔑と嘲笑の対象になっている。 例えば、伝説的な調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュは、2013年のシリア・サリン事件に関するオバマ政権の主張を否定する重要な記事を、米国内の通常の出版社では掲載されないため、London Review of Booksに掲載しなければならなかったという茶番を目の当たりにしています。 今、西側とロシアの冷戦的緊張が再燃し、世界の運命がより繊細になっているにもかかわらず、西側メディアは自ら盲目となり、西側市民も盲目となっています。このジレンマ、すなわち民主主義の危機が、1995年当時よりも今日、コンソーシアム・ニュースの役割をより一層重要なものにしている。

2018年に惜しまれながら亡くなったパリー氏が警告したように、ウクライナ戦争が進行中の今、米国・西側主導の言説に異を唱えるだけで「ロシアのプロパガンダだ」「習近平の手先だ」と政治的左右を問わずレッテルを貼られるようになりました。どれだけ客観的なデータや西側の信頼できるソースを使ったとしてもです。

今回、パリー氏の遺志を受け継ぐ『コンソーシアムニュース』から、元米海兵隊将校・国連の大量破壊兵器査察官のスコット・リター氏の最近の記事3本を、許可を得て翻訳掲載します。リター氏の欧州・ロシアの歴史や政治への深い造詣、軍人としての体験、大量破壊兵器査察官としての専門的知識をふまえたウクライナ戦争の分析は大変貴重なものです。リター氏も、昨年2月以来、西側プラットフォームから排除されてきた数多くの優秀な西側のアナリストの一人です。主要メディアからは排除されていますが、映像サイトやSNSでの活躍ぶりから、彼が代替メディアから引っ張りだこであることがよくわかります。ウクライナ戦争は今こそ外交交渉によって停戦させなければいけません。日本でも識者グループによる停戦交渉を求める声明が出されました。核軍縮の専門家であるリター氏の2本の翻訳記事「軍備管理かウクライナか?」「ウクライナ後の軍備管理」を読めば、西側で言われている「ロシアの核の脅威」というナラティブの背景には米国による約束違反の歴史と欧州での核・ミサイル配備という文脈を捉えることの重要さが浮き彫りになると思います。ウクライナ戦争がこれ以上続くことで核戦争で世界が終末を迎える可能性がますます高まります。3本目の記事「米国の核戦略の行方」では、新START条約が失効する2026年に大統領である人を決める来年の大統領選についてリター氏は「2024年11月にアメリカ国民が誰に投票するかに、人類の未来がかかっている」と言っています。まずは一本目の記事です。(注:翻訳はアップ後に変更することがあります。無断転載は禁止です。)

SCOTT RITTER: Arms Control or Ukraine?

スコット・リター: 軍備管理かウクライナか?

https://consortiumnews.com/2023/02/22/scott-ritter-arms-control-or-ukraine/


2023年2月22日


ロシアがNew STARTを中断する中、ウクライナ戦争が早く終われば、米ロは究極の災厄を回避するために軍備管理の維持に努めることができる。


スコット・リター


コンソーシアムニュース特別寄稿


翻訳:乗松聡子


ロシアの専門家や国家安全保障の専門家は、プーチン大統領が2月21日に行った演説のテキストにしばらく目を通し、隠された意味を読み解こうとするだろう。


しかし、プーチンの演説は、欧米の政界ではあまり耳にしない、事実を淡々と、驚くほどわかりやすく述べたものであったことは事実である。


西側の政治家たちは、たとえ基づく「事実」が真実でなくとも一定の見方を形成するために定期的に嘘をついている(例として、2021年7月にジョー・バイデン大統領がアフガニスタン前大統領と行った悪名高い電話を挙げればよい)。そんな世界の中でプーチンの演説は新鮮だ。

隠し事や虚飾もない。嘘がないのだ。


そして、軍備管理の問題では、真実は耳に痛い。


プーチンは演説の最後に、「今日言わなければならないのは、ロシアは新START条約への参加を停止するということだ。繰り返すが、条約から脱退するわけではなく、単に参加を停止するだけだ。」と言った。


2010年、アメリカのオバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領の交渉により締結された新戦略兵器削減条約(New START)は、表向き、各国が配備できる戦略核弾頭の数を1550個に、配備されている陸上・潜水艦搭載ミサイルとその運搬に用いられる爆撃機の数を700基に、核兵器を装備するための配備・非配備のICBMランチャー、SLBMランチャー、重爆撃機を800基に限定していた。


2021年2月、バイデンとプーチンは、この条約をさらに5年間延長することに合意した。新STARTは2026年に期限切れとなる。


決定の背景


新STARTの裏話は、特にロシアの条約一時停止に関するプーチンの宣言の文脈において重要である。その裏話の核心は、ミサイル防衛である。


2001年12月、ブッシュ大統領(当時)は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃ち落とすためのミサイル防衛システムの開発と配備を(例外を除き)禁止した1972年の対弾道ミサイル(ABM)条約からの離脱を表明した。


ABM条約は、冷戦時代の「相互確証破壊」(MAD)の概念を確定的なものにした。核兵器を保有する側が、他の核保有国に対して核兵器を使用することはない。なぜなら、そうすることは、確実に核の報復を受け、自分たちが破滅することになるからである。


MADの概念(その異常さ)は、戦略兵器削減交渉(SALT)から中距離核戦力(INF)条約、そして戦略兵器削減条約(START)に至るまで、その後のすべての軍備管理協定に道を開くことにつながった。


プーチンは、米国がABM条約から離脱することを 「誤りだ」と非難した。当時、米露の戦略核兵器は1991年のSTART条約による制限を受けていた。米露の核兵器をさらに削減する努力は、START II条約の一部として行われた。


しかし、冷戦後の政治は、米国がABM条約を放棄することを決定したことと相まって、条約は署名されたまま承認されず、事実上消滅した。


同様の問題は、START III条約を交渉の段階で消滅させることにつながった。2002年に署名された狭義の戦略的攻撃削減条約(SORT)は、START Iで義務付けられた以上の追加削減を米ロ双方に約束したが、検証や遵守の仕組みは含まれていなかった。


START I条約は2009年に、SORTは2012年に失効した。新STARTは、この2つの協定に代わるものとして意図されたものだった。


メドベージェフ大統領時代


その際、ネックとなったのがミサイル防衛の問題である。プーチン大統領の下、ロシアはミサイル防衛問題に有意義に対処しない新しい実質的な軍備管理条約(SORTは構造的にも実質的にも条約というより非公式な合意だった)の締結を拒否した。


しかし、2008年5月、ドミトリー・メドベージェフがロシア大統領に就任した。ロシアの憲法では、大統領は2期以上連続して就任することが禁じられていたため、メドベージェフはプーチンの支援を受けながら、ロシアの最高権力者に立候補し、当選した。プーチンはその後、首相に就任した。


ブッシュ政権は、まもなく期限切れとなるSTART Iに続く条約を交渉しようとしたが、メドベージェフは、ミサイル防衛の制限を含まない協定を米国と結ぶことには、まったく消極的であった。ブッシュ大統領はミサイル防衛の制限を拒否していた。


結局、新条約の交渉問題は、2009年1月に就任したバラク・オバマ政権に委ねられることになった。


2009年3月下旬にロンドンで行われた最初の会談で、両首脳は声明を発表し、「戦略兵器削減条約を法的拘束力のある新しい条約に置き換えることから始め、段階的なプロセスで我々の戦略攻撃兵器の新しい、検証可能な削減を追求する」ことに同意した。


ミサイル防衛については、オバマ大統領とメドベージェフは別問題として扱うことに合意した。声明は、「欧州におけるミサイル防衛資産の配備の目的について相違が残っていることを認めつつ、ミサイル防衛の分野における相互の国際協力の新たな可能性について、ミサイルの課題と脅威に関する共同評価を考慮しつつ、両国および同盟国やパートナーの安全を強化することを目的として話し合った」と述べています。


間違いないのは、ロシアと米国の間で交渉された新START条約は、戦略的攻撃核兵器の削減に特化したものであったが、この条約に続いて、ミサイル防衛に関するロシアの長年の懸念に米国が誠意を持って対応するという明確な理解が含まれていたということである。


2010年4月、プラハで新START条約に署名したバラク・オバマ米大統領とドミトリー・メドベージェフ・ロシア大統領。(Kremlin.ru, CC BY 4.0, Wikimedia Commons)

このことは、新START条約に添付された拘束力のない両国による単独の声明の交換に反映されている。「ミサイル防衛に関するロシア連邦の声明」は、新STARTが「(米国のミサイル防衛システム能力の)質的・量的な増強がない状況においてのみ、有効かつ実行可能であろう」という立場を示したものであった。


さらに、米国のミサイル防衛能力の増強が「ロシアの戦略核戦力への脅威をもたらす」場合、条約第14条にある「異常事態」の一つとみなされ、ロシアは撤退権を行使する可能性があると声明は述べている。


一方、米国は独自の声明を発表し、米国のミサイル防衛は「ロシアとの戦略的バランスに影響を与えることを意図していない」と宣言する一方、「限定的な攻撃から身を守るために、ミサイル防衛システムの改善と配備を継続する」意向を表明している。


しかし、オバマとメドベージェフの合意は、プーチンにとって必ずしも受け入れられるものではなかった。米国の新START交渉担当者であるローズ・ゴッテモラー氏によれば、プーチンは首相として、2009年12月に再びミサイル防衛の問題を提起し、交渉を頓挫させかけたという。


「彼ら(ロシア側)は重要な国家安全保障会議を開く予定だった 」と、後にゴッテモエラーは2021年10月にカーネギー評議会で語った。「私が聞いた話では、プーチンは初めてこの交渉に関心を示し、国家安全保障会議に入り、この決定シートのすべての問題にただ線を引き、『ノー、ノー、ノー、ノー』と言っている」。


さらにゴッテモエラーは、プーチンがウラジオストクに赴き、この条約を「まったく不十分なもの」と非難する演説を行い、米露両国の交渉チームは「戦略的攻撃力を制限することだけに集中している」と批判し、「彼らはミサイル防衛を制限していない」と指摘したことを説明しました。ゴッテモエラーによるとプーチンは「この条約は時間の無駄だ」と言ったという。「交渉から手を引くべきだ」と。


ゴッテモラーによると、メドベージェフはプーチンに立ち向かい、「いや、我々はこの交渉を続け、やり遂げるつもりだ 」と言ったという。


破られた約束


アナトリー・アントノフは、新STARTのロシア側交渉官であった。彼はクレムリンからの指示に従い、戦略的攻撃兵器の削減に焦点を当てた条約を作成し、米国がミサイル防衛に関する有意義な交渉に参加する際には約束を守ることを前提に仕事をした。


しかし、新STARTの発効から1年も経たないうちに、アントノフは、米国が約束を守るつもりが全くなかったことを知った。


コメルサント紙とのインタビューで、アントノフ氏は、西ヨーロッパのミサイル防衛システム計画に関するNATOとの協議が「行き詰まった」と述べ、NATOの提案は「あいまい」であり、提案されたシステムへのロシアの参加は「議論の対象にもならない」と付け加えた。


アントノフ氏は、ミサイル防衛に関して米国が誠意を示さないため、ロシアが新START条約から完全に離脱する可能性があると指摘した。


米国は、米国のミサイル迎撃ミサイルの特定のテストの特定の側面をロシアに観察させることを申し出たが、この申し出は何の意味も持たず、米国は、ロシアのミサイルを迎撃するSM-3ミサイルの能力を低く見積もり、ロシアのミサイルに対して有効な距離を有していないと述べたのであった。


当時、米国の軍備管理・国際安全保障担当国務次官だった故エレン・タウシャーは、迎撃ミサイルSM-3を搭載するMk.41イージス・アショア・システムがロシアに向けたものではないとの確約をアントノフ氏に書面で申し出ていた。


しかし、タウシャーは、「法的拘束力のある約束はできないし、脅威の進化に必ず歩調を合わせなければならないミサイル防衛の制限に同意することもできない 」と述べている。


タウシャーの言葉は予言的であった。2015年、米国はICBMの目標に対する迎撃ミサイル「SM-3ブロックIIA」のテストを開始した。SM-3は実際、ロシアの中距離ミサイルや大陸間ミサイルを撃ち落とす射程を有していた。


そして、そのミサイルは、NATO軍よりもロシアとの国境に近い旧ワルシャワ条約加盟国のポーランドとルーマニアに建設された基地に配備されることになった。


アメリカは不誠実な交渉をしていたのだ。プーチンが、ミサイル防衛に関するロシアの懸念を考慮しない戦略的軍備管理条約に疑問を抱いたのは正しかったことが判明したのです。


しかし、それでもプーチンは新STARTの履行に向けた決意を弱めることはなかった。ゴッテモラーによれば:

「プーチンは、この条約が締結されて以来、この条約について非常に前向きな姿勢をとってきました。この条約が発効して以来、彼はこの条約を核条約の『ゴールドスタンダード』と何度も公言し、支持してきました。・・・私は、彼がこの条約にコミットし、今この戦略安定対話で行われている、新しい交渉を始めるための努力に本当にコミットしてきたことを知っています。」

しかし、プーチンが新STARTを断固として守ったからといって、このロシアの指導者が米国のミサイル防衛がもたらす脅威について心配するのをやめたわけではなかった。2018年3月1日、プーチンはロシア連邦議会で主要な演説を行ったが、これは彼が2月21日に話したのと同じフォーラムである。その口調は反抗的だった:
「この15年間、軍拡競争を煽り、ロシアに対して一方的に優位に立とうとし、わが国の発展を封じ込めることを目的とした不法な制裁を導入したすべての人たちに言いたい--あなた方の政策で妨げようとしたことはすべて、すでに起こっている。あなた方はロシアを封じ込めることに失敗したのだ。」

そしてプーチン大統領は、米国のABM条約離脱に直接対応して開発されたという、重ICBM「サルマート」や極超音速滑空体「アバンガルド」など、ロシアの新型戦略兵器数点を発表した。

プーチンは、ロシアが2004年に米国にそのような措置を取ることを警告していたと述べた。「当時は誰も耳を貸さなかった」とプーチンは宣言した。「だから、今、私たちの話を聞いてほしい」と宣言した。

聞いていた人の一人がローズ・ゴッテモラーだった。すでに軍備管理交渉官として引退していたゴッテモラーは2021年、「人々は、プーチン大統領が2018年の3月にロールアウトした...新しいいわゆるエキゾチックな兵器システムを心配していました」と言った。「そのうちの2つはすでに新STARTの制限下にあり、いわゆるサルマート重ICBMと、彼らが配備の準備を進めている初の戦略レンジ極超音速滑空体であるアバンガルドもです。彼らはすでに、これを新START条約の制限下に置くと言いました」。

ゴッテモラーは、将来の軍備管理協定においては、これらのシステムに対する制約を求めることになると指摘した。 

2021年の条約延長

B-52H爆撃機やオハイオ級潜水艦が核使用から非核使用に転換するか、完全に撤廃するかを判断するために米国が用いている「転換・撤廃」手続きが不十分であるとロシア側が考えていたにもかかわらず、2021年2月に新START条約は5年間の期間延長となった。

ロシア側は、これらの問題を解決するために年2回開催される条約で定められた二国間協議委員会(BCC)プロセスを使って解決できることを望んでいた。

しかし、米ロ双方の査察官や交渉官が直面する問題のひとつが、Covid19のパンデミックだった。2020年初頭、双方はパンデミックによる現地査察とBCC会議の中断に合意した。2021年半ばには、米国とロシアの交渉担当者は、査察とBCC協議の両方を立ち上げることができるCovid共同プロトコルの作成について議論を開始した。

しかし、その後にウクライナが始まった。

2022年3月9日、米国、英国、欧州連合は、ロシア航空機の上空飛行を禁止し、米国に向かうロシア人がEUや英国を通過する際のビザを制限する制裁を可決した。ロシア側によると、これらの制限により、新STARTの短期通知検査プロトコル(条約で定められた厳格な実施スケジュールを持つ)を用いた武器検査チームの米国への派遣が事実上禁止される。 

2022年6月、米国はCovid19のパンデミックにより課された査察の一時停止はもはや有効でないと一方的に宣言した。2022年8月8日、米国は条約で義務付けられた査察業務を遂行するため、ロシアに短期通告査察団を派遣しようとした。

ロシアはこのチームの入国を拒否し、ロシアは許されないのにかかわらず、米国が立ち入り検査を行うことで一方的な優位に立とうとしていると非難した。ロシア外務省は、制裁による制限を理由に、「アメリカの査察団のロシア到着に同様の障害はない 」と述べた。

査察やその他の条約履行に関する未解決の問題を解決するため、ロシアと米国の外交官はBCC会合の招集について協議を開始し、最終的には2022年11月29日にエジプトのカイロで開催することで決着がついた。ところが、BCCが始まるはずだった4日前に、ロシアは会議の中止を発表した。

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は、コメルサント紙に行った発言で、ウクライナでの戦争がこの決定の核心にあると述べた。「ウクライナとその周辺で起きていることの影響はもちろんある 」とリャブコフは言った。「それを否定するつもりはない。この分野での軍備管理や対話は、その周囲の状況と無縁ではいられない。」

軍備管理は死滅するかもしれない

米国務省は2023年初頭、ロシアの新START遵守に関する公式報告書を議会に提出し、その中でロシアが米国査察官のロシア国内の施設へのアクセスを拒否することで新START条約に違反していると非難した。

国務省報道官は、ロシアが「自国領土での査察活動を促進するという新START条約上の義務を遵守していない」と述べ、「査察活動の促進を拒否するロシアは、米国が条約上の重要な権利を行使することを妨げ、米ロの核軍縮の実行可能性を脅かす」と指摘した。

しかし、2022年2月にプーチンが開始した特別軍事作戦に対する米国の全体的な対応の一環として、ロシアを標的にした行動ー時には文字通りーが与える影響に対する米国側の無神経さは、それを物語っている。

プーチンは2月21日の演説で、ウクライナがソ連時代の無人機を使用して、核搭載爆撃機を含むロシアの戦略航空資産を収容するロシアのエンゲルス近郊の基地への攻撃を可能にするために米国とNATOが果たした役割について強調した。また、サルマートとアバンガルドのシステムが運用開始され、そのため新STARTの条件の下で検査が可能になるような命令に署名したばかりであることを指摘した。

「米国とNATOは、ロシアに戦略的敗北を与えることが目的であると直接的に言っている」とプーチンは述べた。「最新の防衛施設も含めて、何事もなかったかのように査察するつもりなのだろうか。彼らは、私たちが簡単に彼らをそのまま受け入れると本当に思っているのだろうか?」

ローズ・ゴッテモラーは、「彼(プーチン)が新START条約にかんしゃくを起こすからと言って、米国がウクライナに関する政策を変更するつもりはない」と述べた。「そんなことはありえない。」

しかし、プーチンの姿勢は、単なる「かんしゃく」ではなく、もっと原理的なものである。プーチンの怒りは、米国がABM条約を脱退した原罪から生まれたものであり、新START交渉でメドベージェフがミサイル防衛について約束した際に、ゴッテモラーを含む米国高官が見せた欺瞞に直接結びついている。

この欺瞞によって、ロシアは、ヨーロッパに前方展開していたミサイル防衛システムを含む米国のミサイル防衛システムを打ち破るために、新しいカテゴリーの戦略核兵器であるサルマートとアバンガルドを配備することになった。

そして今、ウクライナ戦争は、ロシアの戦略的敗北を達成するという米国の戦略と結びついており、米国は新STARTを利用して、まさにこれらのシステムへのアクセスを得ようとしている。プーチンが適切に言ったように、このような取り決めは 「本当に非常識だ。」

新STARTについて両当事者が妥協することができない、あるいはしたくないということは、この条約が無期限に宙に浮いたままになることを意味し、2026年2月に条約が失効することを考えると、米ロ間の軍備管理が死んでしまう可能性があることを意味する。

新たな軍拡競争へのリスク

米国とロシアは以前、新STARTに代わる後続条約を約束したが、ロシアとウクライナの間で続く紛争は、新STARTの期限までにそのような条約文書を署名・批准できるようにしようとする者にとって、ほぼ乗り越えられない障害となる。

2年後、米国とロシアは、それぞれの核兵器に対する不安と不確実性を解消する検証可能なメカニズムを持たないまま、無知に基づく怒りに煽られて無制限の軍拡競争に乗り出す可能性が、確率はともかく現実のものとなっている。

プーチンは、ロシア連邦議会での演説の最後に、「真実は我々の背後にある」と述べた。

もし、軍備管理を再開する方法が見つからなければ、核の惨事を防ぐための人類の最後のチャンスとなるかもしれない。

新STARTを守るために米国がウクライナ政策を変更することはないというゴッテモエラーの主張は、バイデン政権がウクライナを武装化しようとする自滅的な現実を浮き彫りにしているのである。

ウクライナでの戦争が早く終われば、米ロ両国は軍備管理を両国の関係の一部として維持するための作業に早く取り掛かることができるだろう。

しかし、米国はウクライナ紛争を拡大することで、世界を核兵器によるホロコーストに巻き込む自爆行為に及んでいる。

ベトナム戦争中、著名な特派員ピーター・アーネットは、無名の米軍将校の言葉を引用して、「村を救うためには、村を破壊しなければならなかった」と述べている。ウクライナと軍備管理の間に作られた関連性に関しても、同じ病的な論理が今適用される-一方を救うためには、他方を破壊しなければならない。

ウクライナを救うためには、軍備管理を犠牲にしなければいけない。

軍備管理を守るためには、ウクライナを犠牲にしなければならない。

一方は国家を、もう一方は地球を犠牲にする。

これは、米国の政策立案者が作り出した「ホブソンの選択」(注:選択肢があるようで実はない選択)である。しかしそうである必要はない。

地球を救う。それしか選択肢はない。


スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。

記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。

元記事リンクはこちらです


★3本の翻訳記事のリンク

『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官
スコット・リター氏の記事3本連続翻訳

(1)軍備管理かウクライナか?

(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する

(3)米国の核戦略の行方

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