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Friday, November 22, 2013

特定秘密法案は報道を、市民運動を潰そうとしている: フォトジャーナリスト山本英夫

11月21日。特定秘密保護法案に反対する市民たちにより全国で集会が開かれました。沖縄在住の写真家、山本英夫氏がこの日、仲間に宛てたメールでの呼びかけを、許可を得てここに転載します。@PeacePhilosophy 


親愛なる皆様

今、特定秘密法案反対の活動に精一杯とりくまれているでしょうか。東京ではこの時間に反対集会が1万人が参加して行われているようです。誠にご苦労様です。

皆様は壺井栄の「24の瞳」を読んだことがありますか? こどものことを思う先生が「忠君愛国」に反すると校長から諭され、脅され、何もいえなくなる話しです。1930年代から40年代のお話です。この時間の流れの中で、子どもたちは、「万歳」の歓呼の中で、出征していきます。そして何人もが戦死します。

今、再び私達は、そうした時代を迎えているようです。

特定秘密法案は、国(外務省、防衛省、警察庁等)が、「秘密」とすれば、何が秘密であるかさえ隠匿したまま、取り調べ、裁判にかけることができます。報道や市民は、自主規制させられ、世論誘導されていきます。

この法案は防衛(軍事)秘密をメインターゲットにしています。基地の島である沖縄は、特定秘密だらけになるはずです。基地の方角を見ること自体が、「怪しい奴」になります。基地建設反対でどんな工事が進んでいるのかを視認するだけでも「秘密」。先日は自衛隊が大規模な島嶼奪還訓練を沖縄等で行いましたが、こうしたことを観察し、暴露することが「秘密」、事故を起こしても「秘密」。
何しろ日米地位協定の細目が「秘密」にされてきたのです。米軍の行動の自由のためならば、最大限便宜を図る協定だからです。これを暴露したのが琉球新報でした。
嘉数高台から見た普天間基地(12年12月)
撮影 山本英夫

政府は、こうした沖縄の報道を潰したいのです。私のようなフォトグラファー、フォトジャーナリストを目の敵にしているのです。市民運動を潰したいのです。

11月15日午後2時間にわたって、辺野古の低空をCH53大型ヘリが飛び回りました。特に沖縄工業高等専門学校の上にあるヘリパッドを使うものだから、その騒音たるや凄まじいものです。授業はまるで音がかき消され、成り立ちません。高専の上だけで、20分×3往復=60分ですよ。私はこれを2時間追いかけて撮影していましたが、つくづく分かったことがあります。軍隊・兵隊は遠慮とか配慮しないのです。他人の授業や暮らしなど埒外なのです。そんなことしていたら戦闘で負けてしまうから、相手を先ず殺すのが任務ですから。

彼らは、こういうことを知られたくないのです。極単純なことですが、これが軍隊の本質です。

私はこの法案が成立しても従来のスタンスを変えません。それが現場での闘いですから。

ですからお願いがあります。皆様もこの法案が成立しないように最大限がんばってください。またもし成立しても、いっそう彼らの狙いを見定めてください。監視してください。どこで誰が弾圧されても共に反対の声を大きくあげてください。関連して悪法がまたでてくるはずです。そのときは今回以上に反対の声を大きくしていきましょう。辺野古に新たな基地を押し付けないでください。

戦争のない社会を求めて、人権と民主主義を諦めないで生きていきましょう。

山本英夫

★☆★☆★☆

山本英夫(やまもと・ひでお)/フォトグラファー(自然写真・報道写真)
1951年東京生まれ世田谷育ち。1989年5月沖縄に初めて訪れ、それ以来基地の島沖縄を撮りつづけてきた。昨年、「復帰40年」の365日の3分の1を沖縄で過ごした。撮るべきところが多く、また経済的な負担も大きく、遂に去る10月から沖縄島名護市に居を移した。“人と人が繋がって、人が自然と繋がって”をモットーにこれからも歩みたい。撮ること・観ること・考えることが、「特定秘密」に組み込まれることを拒否する。これまでに沖縄関係の写真展を5回開催し、13年5月に東京で行った『命どぅ宝。海よ、森よ、暮らしを』を11月に新潟でも開催した。近々に名護でも開催予定。絵葉書『沖縄・辺野古』シリーズが3種、『与那国島ー大海原から繋がる島』がある。何れも9枚組み、各600円。

フォトグラファー・山本英夫のページ 

Thursday, November 21, 2013

一般焼却施設排ガスの放射性セシウムは、国が定めた方法では検出できない-東京都は技術者の実験提案を断った。

元電機メーカーの技術者、樗木博一(ちしゃき・ひろかず)さんからの投稿を掲載します。

日本では放射性セシウムに汚染された廃棄物を一般の焼却施設(放射性セシウムを閉じ込める仕組みを持たない焼却施設)で焼却していますが、日本国の環境省は、焼却施設の煙突から大気中に排出されるガス中に放射性セシウムが含まれていても検出しない方法でガス測定を実施することを法律で定めています。私は、この問題を解決するためガス中の放射性セシウムを検出できる装置を製作し、東京都に実験を提案しましたが、認められませんでした。この状況を知っていただきたく、お知らせするものです。
 
放射性セシウムが焼却施設から大気中に放出されている可能性等について

- 技術者からの問題提起 -

 

平成25年11月19日

樗木博一

 
1.放射性セシウムが焼却施設から大気中に放出されている可能性

日本では放射性セシウムに汚染された廃棄物が焼却施設で焼却されていますが、焼却炉で800℃を超える温度で加熱された放射性セシウムの一部は、排ガス中に空気のような気体やミストといったナノメーターレベルのサイズの微粒子形態で存在することが考えられます。しかしながら、焼却施設にはバグフィルターやHEPAフィルターといった、サイズの比較的大きいダストを捕捉するためのフィルター設備(空気を通す)しかありません。このことから、焼却施設の煙突から放射性セシウムが大気中に放出されている可能性が極めて高いと考えます。

2.排ガス中の放射性セシウムの測定法における問題点

排ガス中の放射性セシウムの測定は、環境省告示第百十一号に基づいた測定法(具体的な実施方法は放射能濃度等測定方法ガイドラインに示されています)で行われています。この測定法では、ダストに付着した放射性セシウムは捕捉し、検出できますが、気体やミストといったナノメーターレベルのサイズの微粒子形態で存在する放射性セシウムは捕捉されず、検出できません(実験で確認済み)。

3.新しい測定法の提案

従来より原子力発電所の焼却施設では、環境省告示第百十一号に基づいた測定法とは全く異なる方式、即ち、シンチレーション方式の検出器を用いた排ガス中の放射性物質の監視が行われてきました。 また、今年度(平成25年度)に福島第一原子力発電所に建設される予定の焼却施設(雑固体廃棄物焼却設備)でもシンチレーション方式の検出器が採用される計画になっています。

シンチレーションとは放射性物質が発するガンマ線がNaI、CsIなどの結晶に照射されると、これらの結晶が発光(フォトンを放出)する現象で、シンチレーション方式の検出器は、この現象を利用して排ガス中の放射性物質を検出します。シンチレーション方式の検出器であれば、排ガス中の放射性セシウムが気体やミストといった微粒子形態であっても検出することが可能です。

しかしながら、原子力発電所の焼却施設に設置されているシンチレーション方式の検出器は据付タイプであり、自治体が管理、運営する焼却施設まで持っていくことができません。そこで、市販のシンチレーション方式の空間線量計を用いて、持ち運び可能な排ガス検査用放射性物質検出装置を製作しました。この装置を使って排ガス中の放射性セシウムの有無を調べる実験を行うことを提案します。

[注記]

(1) 上記の内容をより詳しく説明したビデオをユーチューブにアップロードしました。

表題「一般焼却施設における排ガス中の放射性物質測定方法の問題点および新しい測定法の提案」「排ガス中の放射性セシウムの測定法」で検索すれば出てきます。
http://www.youtube.com/watch?v=up-tKf9MlPw&feature=youtu.be




(2) 下記は、私が製作した排ガス検査用放射性物質検出装置を使った実験を東京都に提案したときの東京都の回答です。東京都でも環境省告示第百十一号に基づいた測定法で排ガス中の放射性セシウムを測定していることがわかります。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

樗木 博一様

                                  平成251017

                                 東京都下水道局総務部

                                広報サービス課長

 

 

                  お問い合わせに対するご回答について

 

 

 日頃より下水道事業にご理解、ご協力いただきまして、誠にありがとうございます。

 

平成25年10月15日にいただきましたお問い合わせについて、下記のとおりお答えします。

 

                             

 

 

排ガス中の放射性物質の測定は、環境省告示(H23年第百十一号)に基づき実施すること

 

が定められています。このため、東京都下水道局は、今後とも、これに基づき測定を行っていきます。

                       

今後とも、下水道事業にご理解とご協力のほど、よろしくお願い致します。

 

 

〒163-8001  東京都新宿区西新宿2-8-1

            東京都下水道局総務部広報サービス課お客さまの声係


                           電話03-5320-6511

 

以上
 
(以上の都からの回答は以下の樗木氏からの「焼却施設から放射性セシウムが放出される事象に係る実験提案」(10月15日にメールで都に問い合わせ)に対してものでした。) 

東京都知事 猪瀬 直樹 様

 はじめまして、樗木博一と申します。
 焼却施設から放射性セシウムが放出される事象に係る、実際の焼却施設での実験を下記の通り提案します。
ご検討の上、実験の可否を回答いただければ幸いです。

 なお、本実験については自費で行いますので、東京都で予算を取っていただく必要はありません。

1.焼却施設から放射性セシウムが放出される事象について
 放射性セシウムを含む廃棄物を焼却している施設において排ガス中に気体やミストといった微粒子形態で放射性セシウムが存在し、煙突から大気中に放出されている可能性があります。 しかしながら、特措法に基づいて環境省が定めた測定法(環境省告示第百十一号、放射能濃度等測定方法ガイドライン)では気体やミストといった微粒子形態の放射性セシウムを捕捉できないため、放射性セシウムが排ガス中に含まれていても不検出となってしまいます(実験で確認済み)。

2.実際の焼却施設での実験の提案
 焼却施設が東京都・葛西水再生センター(江戸川区臨海町)において、排ガス検査用放射性物質検出装置(下記)を用いて排ガス中の放射性物質の有無を調べる実験を行うことを提案します。*排ガス検査用放射性物質検出装置
 従来より原子力発電所の焼却施設では、特措法に基づいて環境省が定めた測定法とは全く異なる方式、即ち、シンチレーション方式の検出器を用いて排ガス中の放射性物質の監視が行われてきました。
 また、今年度(平成25年度)に福島第一原子力発電所に建設される予定の焼却施設でもシンチレーション方式の検出器が採用される計画になっています。(シンチレーションとは放射性物質が発するガンマ線がNaI、CsIなどの結晶に照射されると、これらの結晶が発光する現象で、シンチレーション方式の検出器は、この現象を利用して排ガス中の放射性物質を検出する装置です。)
 シンチレーション方式の検出器であれば、排ガス中の放射性セシウムが気体やミストといった微粒子形態であっても検出することが可能です。しかしながら、原子力発電所の焼却施設に設置されているシンチレーション方式の検出器は据付タイプであり、自治体が管理、運営する焼却施設まで持っていくことができません。そこで、市販のシンチレーション方式の空間線量計を用いて、持ち運び可能な排ガス検査用放射性物質検出装置を製作しました。

*特措法に基づいて環境省が定めた測定法では気体やミストといった微粒子形態の放射性セシウムを捕捉できないことを確認した実験および排ガス検査用放射性物質検出装置の基本構成、外観をビデオにしてユーチューブに投稿したので、「排ガス中の放射性セシウムの測定法」で検索すれば見ることができます。

*平成25年10月4日付けで東京都・下水道局から発表された各水再生センター、スラッジプラントにおける汚泥焼却灰の放射能濃度データおよび平成25年10月7日付けで東京二十三区清掃一部事務組合から発表された各清掃センターにおける飛灰の放射能濃度データにおいて、葛西水再生センター(江戸川区臨海町)の汚泥焼却灰の放射能濃度が最も高く、高い放射能濃度の排ガスが大気中に放出されていることが考えられることから、葛西水再生センターを実験を行う焼却施設として選定しました。

(参考)
葛西水再生センター(江戸川区臨海町)汚泥焼却灰放射能濃度
放射性セシウム134: 1,100Bq/kg
放射性セシウム137:2,600Bq/kg

3.提案する実験を実施した結果、放射性物質が検出された場合、仮に2020年の東京オリンピックまでに解決することを目指すならば7年間の対策を検討し、実施する時間があります。排ガス中に放射性物質が検出されなかった場合は、放射能に対する安心材料のひとつになります。

4.私について
 私は電機メーカに勤めていた技術者です。
 J-GLOBAL科学技術総合リンクセンターのサイトで「樗木博一」で検索すれば、在職中に電気学会に投稿した論文や特許などがわかります。
 平成10年に日本電機工業会より発達賞をいただきました。


以上
 

参考資料:「放射能濃度等測定方法ガイドライン」はここです。
http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/haikibutsu-gl05_ver2.pdf#search='haikibutsugl05_ver2.pdf'

 これは「環境省告示第百十一号」に基づいて具体的な測定方法を環境省が示したものです。(P.5-29、P.5-30参照)。

[投稿者経歴]
九州大学工学部電気工学科卒業(1977年3月)
九州大学大学院エネルギー変換工学専攻修士課程修了(1979年3月)、工学修士
三菱電機株式会社入社(1979-04)三菱電機株式会社退職(2009年5月)
平成10年財団法人日本電機工業会功績者表彰において「500kV高電圧大容量サイリスタバルブの開発」にて発達賞を受賞

Wednesday, November 20, 2013

ずさんなオスプレイの維持管理報告の実態を国防省監察総監室が指摘 - 米外交誌「フォーリン・ポリシー」記事日本語訳

琉球新報(11月4日付)で報道された、米国の外交誌「フォーリン・ポリシー」(電子版)の10月31日付記事 の日本語訳を紹介します。
 

★Peace Philosophy Centre による訳です。掲載後微修正する可能性があります。
 
MV-22 Osprey
 
海兵隊は540億ドルもする最新鋭機の信頼性データを偽造しているのか?

Dan Lamothe


翻訳:酒井泰幸・乗松聡子
 
 海兵隊のMV-22Bオスプレイが6月にノース・カロライナ州デア郡にある試射場の空き地に着陸したとき、それは通常の任務のように見えた。ところがそこで、とんだ失態となってしまった。そのオスプレイは枯れ草の火事を起こし、オスプレイはそこに駐機したまま放置された。当初、海兵隊高官たちは、損害は軽微であると語った。海軍安全センターから公開されたデータによれば、事実は異なっており、この火災で胴体が焼け、損害は合計7930万ドルに上った。後日になって、他の機体に使うために焼けた機体から部品が回収されたが、そのオスプレイが再び飛行することはなかったことを、フォーリン・ポリシー誌は突き止めた。

 この事故は、ヘリコプターのように離陸し、飛行機と同様な航続距離と速度で飛ぶ革新的なティルト・ローター機をめぐり、海兵隊が直面している数々の問題を象徴している。軍は国外のオスプレイに次々と新しい任務を与え続け、同盟諸国にオスプレイを売り込むことに関心を寄せているが、この開発計画はこれまで多くの死者を出してきた上に、今も悪いニュースに付きまとわれたままである。その多くは自ら招いたものだ。この飛行機が戦場で様々な成功を収めた一方で、結局、海兵隊高官たちは今も、懐疑論者に対してオスプレイの安全性と信頼性に関する記録を擁護せざるを得ない状況だ。それにはちゃんと理由がある。大したことはなかったと海兵隊が断言した2件のオスプレイ事故は、実際には非常に大きな事故だったことが判明したからだ。

 オスプレイ受容に向けての新たな障害として浮上したのが、国防総省監察総監室の報告書である。この報告書は、オスプレイ部隊によるオスプレイの作戦即応性についての記録の仕方を問題視した。この報告書そのものは機密指定されているが、ペンタゴンは10月23日に要約を公表した。これによると、MV-22オスプレイ飛行中隊の維持管理担当者は、航空機の在庫調査において200回中167回も航空機情報を不適切に記録した。また、審査の対象となった907件の作業指示書のうち、112件が適切でないものだった。さらにMV-22オスプレイ飛行中隊の指揮官たちは、6つの中隊についての作戦即応性の報告書を不完全あるいは不正確な状態で提出した。それが意図的であるかどうかはともかく、このような実態の中、指揮官たちは自分のMV-22部隊が作戦遂行の準備が整っているかどうか知ることは困難であったと、調査で判明した。

[訳者注:この記事における国防省監察総監室報告書要約の説明がわかりにくかったために原典である国防総省のサイトを参考にして訳した。この報告書のより正確な理解のためには原典に行くことを推奨する(これも機密化されている文書の要約に過ぎないのだが)。http://www.dodig.mil/pubs/report_summary.cfm?id=5353
 
 「結果として、[作戦即応性の数値は]信頼できるものではなく、国防省と海兵隊の高官たちは作戦に対応できないMV-22飛行中隊を配備してしまった可能性がある」と、監察総監室は結論づけた。

 国防総省の調査担当者はこの失態の原因を、飛行中隊の指揮官たちが航空機の在庫調査書と作戦即応性報告書の書き方や、それらの正確さを検証する方法を職員に適切に指導しなかったためであるとした。

 作戦即応性の数値は機密解除された要約には記されていないが、過去には65から80パーセントと報告されている。指揮官たちはこれが期待より低いと認識していたが、海兵隊高官たちは、監察総監室報告書の細部からはオスプレイの信頼性を実際より高く見せる企みがあったと認めることはできないとしている。むしろ、日常の作戦業務を正確に記録していなかっただけだと海兵隊高官らは語っている。

 「これらの過ちは書類の偽装ではありません」と、ペンタゴンの海兵隊スポークスマン、リチャード・アルシュ大尉はフォーリン・ポリシー誌に語った。「悪質ではなく、故意でもないのです。」

 書面での質問に対する詳しい回答で、イラクとアフガニスタンでの戦闘作戦を含むオスプレイの活動記録は正しいとアルシュ大尉は主張した。2011年にリビアでF-15Eストライク・イーグルが墜落してパラシュート降下した空軍兵装担当士官を救出する大胆な作戦をはじめとする、他国でのいくつかの重要な作戦にも、オスプレイが使われた。

 「海軍航空隊は作戦即応性の定量化に複数の情報源と報告システムを使っています」とアルシュ大尉は語った。「したがって、人手によるデータ入力ミスや不適切な手順によって不正確さが生じることがあるので、このようなミスを最小限にし、手順の正確さを確保することが最重要課題であり、安全性・作戦即応性報告書が指揮官にとって有用なものとなることを絶えず強調し監視していくことが必要です。」

 「即応性情報の中心に位置づけられるのが安全性です。業務効率と安全性は密接不可分です」とアルシュ大尉は[フォーリン・ポリシー誌への]回答の中で述べた。「過去6年間で、18回以上のMV-22の配備と有事作戦行動が、適切な訓練と装備を施された作戦中の海兵隊と作戦行動可能な航空機によって、予定期日どおりに実施されました。」

 それでも、この報告書の公表は古傷に塩を擦り込むものだった。ベル・ヘリコプター社とボーイング社が共同で造ったMV-22オスプレイが、2007年にイラクへ初めて配備される前、1991から2000年の間に3回の墜落事故を起こし、合わせて30人が死亡している。また、2001年には8人の海兵隊員が、オスプレイの整備記録を故意に偽造した容疑で起訴された

 さらに最近では、昨年、演習中のMV-22型オスプレイがモロッコで墜落したとき2人の海兵隊員が死亡、2人が重傷を負った。空軍特殊作戦仕様のCV-22型機も2010年4月にアフガニスタンで墜落し、4人の兵士が死亡した。軍はどちらの事故も、原因はオスプレイの信頼性ではなくパイロットのミスであったとした。

 最近の別の事故では、8月26日に1機のオスプレイがネバダ州のクリーチ空軍基地近くで「ハードランディング(激しい衝撃を伴う着陸)」した。海兵隊高官は当時、兵員が機体から脱出した後で火災を起こしたと語った。このオスプレイも7930万ドルの全損となった。

 しかし、米軍にとって海外で問題になったのは、このモロッコでの墜落事故だった。沖縄で抗議した人たちはこの事故を、海兵隊は沖縄の基地からオスプレイを飛ばすべきでないという主張を裏付ける材料とした。

 2012年8月に海兵隊総司令官のジェームズ・エーモス大将さえも、来日時、「海兵隊は過去10年でオスプレイの致命的な事故を回避してきた」と語り[地元の]感情を逆なでした。沖縄での彼の発言は誤解を招く無礼なものだと批判された。この発言は、日本で広く報道されたモロッコ事故の6ヶ月後になされた。司令官はモロッコでの死亡事故以前の10年間をさして言ったのだと、海兵隊スポークスマンは後日、『星条旗新聞』に語った。

 このさなかにも、海兵隊は飛行中隊単位で順次CH-46ヘリコプターをオスプレイで置き換えている。また海兵隊はアフリカでアメリカの国益に関わる非常事態に対応するために今年設立された新たな危機対応部隊の中核にオスプレイを位置づけた。オスプレイの飛行速度と航続距離があれば、アメリカは何百キロ彼方の危機にも素早く対応することができると、海兵隊高官は語る。

 チャック・ヘーゲル国防長官は木曜日(10月31日)に、イスラエルがアメリカからオスプレイの購入を開始すると発表した。日本政府もオスプレイの購入に関心を示していると伝えられている。

(記事翻訳ここまで。原文はここ


参考報道

琉球新報

米誌、海兵隊の姿勢批判 オスプレイ「信頼を偽造」
2013年11月4日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-214774-storytopic-1.html

 【ワシントン=島袋良太本紙特派員】米外交専門誌フォーリン・ポリシー(電子版)は10月31日付で、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて「海兵隊は信頼性の記録を偽造しているのか」と批判する記事を掲載した。6月に米ノースカロライナ州で起きた事故について海兵隊が「軽微な損傷」と発表したのに対し、海軍安全センターが機体は全損したと認定していたことなどを挙げており、オスプレイの安全性に対し米本国でも根強い不信があることを示した形だ。
 フォーリン・ポリシーは8月にも米ネバダ州で機体が大破した「ハードランディング(激しい衝撃を伴う着陸)」事故が起きたことも報告。2008年10月~11年9月の海兵隊のオスプレイ整備から記録や整備指示のミスが多数見つかったことに対し、国防総省監査室が「任務遂行に十分な状態でないまま機体を配備していた可能性がある」と指摘したことも紹介した。
 その上で「この航空機は戦場で多くの成功を収めたが、海兵隊は安全性や信頼性の記録に対する疑念に対し、依然として守勢に立っている」と結論付けた。
 昨年8月に沖縄を訪れたエイモス海兵隊総司令官が米軍放送で「海兵隊は過去10年でオスプレイの致命的な事故を回避してきた」と機体の安全性を強調したことにも言及。同年4月にはモロッコで墜落事故があり、10年には空軍のオスプレイがアフガニスタンで墜落したことなどの事故履歴を挙げ、エイモス氏の説明は「誤解を招き、失礼だと批判された」と述べている。
 

Monday, November 18, 2013

「神風特攻隊」の真実を語り継ぐ: 相星雅子

「神風特攻隊」。太平洋戦争末期、すでに負けが決まっていた戦争において10-20代の未来ある若者数千人を無謀な自殺攻撃に追い込んだこの犯罪的な戦略を生み出し遂行した当時の軍部の責任を問い続けることは、現代のコンテクストにおいても非常に重要なことである。なぜならば今、自らは安全な場所にいながら老害をばらまき、「愛する人のために」などとのスローガンで若者をだまして再び戦地に送り込もうとしている人間たちが、国会をはじめとした日本の権力中枢部にひしめいているからである。さまざまな日本の再軍国化政策を推し進めながら、自らの命を危険にさらして人の命を救う一般人の行為を国家的顕彰の対象にしている安倍首相こそがその急先鋒であると言える(参考:10月8日「踏切で人を救った後逃げ遅れて死亡した女性の国を挙げての英雄化はおかしい」)

昨年8月、特攻の記憶を「知覧特攻平和会館」などで展示している鹿児島県の知覧を訪れたときに、特攻の記憶を美化するのではなく正しく継承しなければいけないとの問題意識を持って調査・執筆活動をしている相星雅子(あいぼし・まさこ)氏に会うことができた。広島長崎日米学生の旅などで共に活動してきた鹿児島大学で平和学を教える木村朗(きむら・あきら)氏の紹介による。そのときに相星氏から受け取った原稿を、ブログ掲載していいと許可をもらっていたものを遅くなってしまったがここに紹介する。

ちなみに2012年8月28日にNHKの「クローズアップ現代」は特攻の特集番組「なぜ遺書は集められたのか-特攻 謎の遺族調査」を放映した(動画がここにある)。それは、戦後すぐ、旧海軍の支援を受けた民間人が全国の特攻兵の遺族を訪ね歩き、意識調査を行いながら、特攻兵の家族への遺書を1000通以上も回収して、それらが蔵入りしていたものが広島・江田島の海上自衛隊第一術科学校から発見されたという驚くべき内容である。番組では「回収」という言葉を使っているが、家族に返されなかったのだから「奪った」のも同然である。この相星氏の文章にもあるが、特攻兵たちが遺した言葉の中から戦争正当化に都合のいいものだけを選りすぐって展示したり出版されたりしてきた傾向があるようだ。隠蔽された特攻兵の無念と悲しみの声を、今こそ白日の下にさらす必要があるのではないか。 @PeacePhilosophy

★写真挿入と写真のキャプションはブログ運営人によるものです。

★この投稿はリンク拡散を歓迎しますが、転載は必ず事前の許可を取ってください。info@peacephilosophy.com  へメールをどうぞ。



真実を語り継ぐ 


相星雅子


(1)特攻とは何かをご存知でしょうか。
相星雅子氏

第2次世界大戦当時は、ミサイルのようなものはなかったので、遠距離の地を爆撃するとなると、人間が飛行機で現場に行かなければなりませんでした。しかも、戦争末期になると、日本にはもうろくな飛行機は残っていなかったし、数も乏しくなっていました。

そこで考えられたのが特別攻撃=特攻でした。飛行機に250キロ500キロの爆弾を搭載して目的地へ飛んで行き、空母艦や戦艦、駆逐艦などに体当たりするのです。ですから自らも木っ端みじんに砕けるのであり、生きて帰ることはできません。日本軍はこの冷酷無残、非人道きわまりない犠牲を若者たちに求めたのでした。

沖縄まで2時間あまり、特攻機には片道分の燃料しか給油してありません。飛行機が老朽化していたし、特攻の行われた4月から6月にかけては南の海上は天候も不順でしたから、故障や航空状況を理由に引き返す者もいました。天候異変や機体故障で引き返すなら、1時間以内に戻りはじめなければ、途中の島に不時着するか海上に落ちるしかない状況でした。確実に任務を果たすために出直しを決意する者に対して、迎える側の心情態度は冷ややかでした。
特攻平和会館に展示されている零戦。
昭和20年5月鹿児島県甑島の手打港の沖約500メートル、
水深約35メートルのところに海没していたものを知覧町
(当時)が昭和55年6月に引き揚げたもの」であるという。

(2)知覧特攻平和会館には、特攻隊の青少年たちの遺品や、出撃の前に書いた遺書や手紙が展示されています。それらの遺書や手紙には、「笑って出撃します、天皇陛下万歳」とか「皇国のために命を捧げるのは男子の本懐」「この御世に男と生まれ(天皇の)盾として散るのが嬉しい」などと、忠義心を示す勇壮な文句が書いてあります。

会館内での説明はどうでしょうか。会場に入ってすぐのところで説明用のレシーバーを貸し出していますが、例えば、突撃前の友達ふたりが話をして笑いあっている声(無論声優による再現)がレシーバーから流れ、それについて、彼らは死を前にこんなに余裕があったのだというような解説が述べられます。美しい毛筆の遺書の主については、「まだ××歳の若さで見事な字を書いている」と褒めたたえるだけ。決して「すぐれた書道家になっていたかもしれないのに、夢も未来も断たれて酷いことだった」とは言わない。ただただ、賛美一辺倒なのです。しかし、彼らは本当に喜んで、あるいは使命感だけを胸に飛んで行ったのでしょうか?決してそうではありません。私たちはいまも、彼らのたくさんの苦しみの跡を知ることができます。

相星氏が鳥浜トメさんへの取材をもとに
書いた本。高城書房、1992年。
特攻の母と言われた鳥浜トメさんの経営した富屋食堂の二階座敷の柱には、無数の傷があったそうです。出撃の決まっている隊員たちの心に秘めた苦悩と焦燥が、彼らに竹刀を握らせ、力任せに柱に切りつけるという行動を取らせたのです。彼らの中には諦めきって敵機がきても防空壕に逃げない者もいたし、村の人達の証言では、闇にまぎれて醤油を貰いにきた特攻隊員もいたそうです。醤油を多量に飲むと心筋梗塞のような症状が強く出て、出撃延期となるからです。御馳走も喉をとおらなと断った隊員、国民学校に通う知覧の子らに「きみたちは戦争に間に合わなくてよかったね」と話しかけた隊員。酒を飲み軍歌を歌って心を紛らわせ、あるいは高揚させ、あるがままの率直な感情にとらえられないようにしていた痛ましい姿。いろいろな事実から彼らの味わった凄絶な苦しみが浮かび上がってきます。


よく探せば知覧の平和会館の展示物の中にも、こんな手記が混じっています。


*今年の春は、春ではあるが、我らには死んだ春だ。

*あらゆる感情を入れずに生活したい。

*夜遅く、転進の報を聞く。何回もまな板の上にあげられたり下ろされたりするのは好かない。ひと思いに殺してもらいたい。命の切り売りとはこれか。生きたくもないし、死にたくもないし。考えるのもいやだ。

*世の中にはわからないことばかりさ。おれは生きてきた。そして今も生きている。これからも生きねばならぬ。いやなことだ。死なるものがどうして恐ろしいのだろう。わからない。
特攻兵たちが寝泊まりした「三角兵舎」の復元。

*起きると、その一日がおわってしまうような淋しい気がして床の中から出られない。午後2時航空司令官川辺大将、55振武隊視察にこられる。死んでゆく身に大将が面会に来ようが乞食が来ようがなんら変わらない。

*自己の予期せぬ死は容易であるらしいが、死の期日を決められることはつらいことだ。捨て鉢な気持ちになる程馬鹿でもなければ、心の動揺を感ぜずに過ごせる程修養もできていない。一番忍耐を必要とする悪条件下に身を置いている。悲しいとか、淋しいとか、苦しいとか等の言葉では表現できるものではない。あと一週間足らずだ。曲がらぬ様静かに過ごさねばならない。
彼らは本当に苦しみました。肉体の死を迎えるまでに、何度も心に死を迎えなければなりませんでした。人間をこれほどまでに苦しめる戦争を二度とやってはいけないと思います。


特攻平和会館敷地内にある特攻兵の像と、映画撮影
に使った零戦のレプリカ。
(3)そんなにも苦しみながら、彼らはなぜそれを押し隠して行ったのでしょうか。
  1. 戦争を遂行するに必要な徹底した思想教育が行われた。例えば国民学校では、奉安殿とういものが設けられ、御真影=天皇の写真と教育勅語がまつられていました。習う科目はすべて天皇のしもべであるという「臣民教育」が柱でした。修身=国民道徳(臣民道徳)の実践指導を通じて皇国の道義的使命を自覚させる。国語=国民的思考感動を通して国民精神を涵養する。国史=皇国発展の跡を学び八紘一宇の歴史的使命を感じさせる。地理=国土愛護の精神を養い、東亜及び世界における皇国の使命を自覚させる。理数科=科学の進歩が国家興隆に貢献する所以を理解させるとともに、皇国の使命を考え、文化創造の任務を自覚させる。体練科=身体を鍛錬し精神を練磨して献身奉公の実践力をつけさせる。
  2. 新聞は官憲によって統制され、報道の自由はありませんでした。戦争は聖戦としてすべて正当化され、戦果が誇大に書き立てられる一方、戦禍の実態は隠され、あるいは細微なものとして小さく報道されました。雑誌その他の発刊物などもこぞって戦争を美化し、正当化し、翼賛記事を垂れ流した。少年倶楽部というような子どもの雑誌には、われらは皇国の子、鍛えよ皇国の体、僕等強ければ国強し、僕等も今に兵隊さんなどというスローガンが書かれ、巻頭言には、天皇の赤子であることのありがたさ、いま日本が正しい世界建設のために戦っていること、子どもはやがて大樹となってその使命をになう若木であることなどが、高揚した文で書かれていたのです。
  3. 日本人には「空気」に左右されやすい気質が多分にあります。「非国民」「国賊」などと言われることを恐れ、恥をかくまいとする。内心では戦争などいやだと思ってもその気持ちは、周囲や体面を気にして、発言されることはなく、それがまた「空気」をいっそう強めていったのです。
特攻平和会館のすぐ側にある、靖国神社の
地方版といえる護国神社。
(4)特攻平和会館に欠けているもの

恒久の平和を願う者の一人として私が心配するのは、平和特攻会館では、日中15年戦争からの流れが示されず、国が若者たちを死に追いやった事に対する反省の視点がなく、ましてや、このような残酷な歴史を繰り返さないという言葉もないことです。言葉が足りないのです。特攻隊の壮烈な行為のみが切り取られているここは、まかり間違えば、再びの戦争の聖地にさえなりかねません。真実を語り継いでいきたいものです。



(以上、2012年8月11日に相星雅子氏より受け取った原稿)

Friday, November 15, 2013

俵義文「政府見解を書かせるのは教科書を政府の広報誌に変えること」-文部科学省の検定基準改悪への抗議


2006年第一次安倍政権下で変えられた教育基本法。まだこのブログをはじめたばかりのときだった(参照:新教育基本法について」)。「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という「愛国心条項」が加えられたことが当時問題視されたが、それが7年後になって第二次安倍政権下、下村博文文科相によって政府が教科書の内容を取り締まる道具として教育基本法を使おうとする動きが出てきた。下に「子どもと教科書全国ネット21」の俵義文氏の抗議談話を転載する。
 
下村文科相についてだが、このブログへの今年初めの寄稿で、英、韓、中国語に訳されて注目を集めた成澤宗男氏の記事「安倍晋三と極右歴史修正主義者は、世界の敵である」から以下抜粋する。
安倍が任命した新閣僚で、最も警戒を要する一人は文部科学大臣の下村博文である。この男は「日本会議国会議員懇談会」の幹事長であり、極右歴史修正主義者として安倍と共に「教科書攻撃」を一貫して続けてきた。安倍が再び自民党の総裁に選任された直後に新設した「教育再生実行本部」の本部長であり、今回の総選挙に際し、自虐史観に基づく偏向教育の中止「宮澤談話」による教科書検定での「近隣諸国条項」の廃止愛国教育の強化――といった党の「教育に関する公約」を作成した。下村氏は、日本の侵略の歴史を認めたり、反省することが「自虐史観」だと主張している。今後、日本の歴史教科書の記述がどのように改悪されるか、国内外での注視が必要であろう。    
成澤氏が懸念が今どんどん現実となってきている。@PeacePhilosophy
 
【談話】文部科学省の検定基準改悪案に抗議する
 
 
子どもと教科書全国ネット21事務局長・俵 義文

 

 下村博文文部科学大臣は、1115日、「教科書改革実行プラン」を発表し、教科書検定基準を改定して、2014年度中学校教科書の検定から実施する方針を明らかにした。その内容は、①「通説的な見解がない場合や、特定の事項や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にするための条項を新設・改正」する、②政府の統一的な見解や判例がある場合の対応に関する条項を新設」する、③教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合を検定不合格要件として明記」する、というものである。これは、検定基準を改悪し、事実上の「国定教科書」づくりをめざすものである。以下、その主な問題点を指摘する。
 

1.改定に向けた手続き上の問題点

 この検定基準の改定内容は、自民党・教育再生実行本部の「中間取りまとめ」(201211月)及び教育再生実行会議・教科書検定の在り方特別部会の「中間まとめ」(20136月)の内容そのままである。政権政党とはいえ、一政党の意見をそのまま取り入れて検定基準を改定するのは文科省が自民党の下請け機関化したことを示すものであり、自民党による教育への「不当な支配・介入」である。

 さらに、検定基準改定案は文科省・教科用図書検定調査審議会の審議を経て、パブリックコメントの実施後に改定・告示されるので、2月以降になる。まず対象となる中学校教科書は、来年の検定申請(通常は4月)に向けて編集中であり、それも最終段階にある。2月は申請図書のゲラ刷りができる頃である。この時期に検定基準を改定するというのは、試合が開始されてすでに終盤にさしかかったところでルールを変更することに等しい。教科書検定は、小学校、中学校、高等学校と年度を追って順次行われるので、通常、検定制度の改定は小学校教科書検定前に、編集作業に十分間に合う時に行われてきた。今回、中学校教科書の検定からルールを変更するというのも異例のことである。なぜこんなに拙速に改定するのか大きな疑問である。
 

2.検定基準改定案は「近隣諸国条項」を骨抜きにするものである

 検定基準の「近隣諸国条項」は、近現代史の歴史について、日本と近隣アジア諸国との関係について国際理解と国際協調を深める立場で書くことを求める条項である。下村文科相は、記者会見で「(近隣諸国条項は)政府全体で対応する方針だが、取り組みは始まっていない」と述べている。しかし、後述するように、検定基準改定案は、この近隣諸国条項を骨抜きにし、事実上廃止するものである。

 安倍首相や下村文科相をはじめ、自民党は「近隣諸国条項を見直す」と主張してきた。しかし、この条項は、82年に文部省が教科書検定で日本の侵略戦争・加害の事実をわい曲していることがアジア諸国に知られ、中国・韓国をはじめアジア諸国から抗議され、外交問題になった。この時、宮沢喜一官房長官(当時)は、「アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上でこれらの批判に十分耳を傾け、政府の責任において是正する」という談話(「宮沢談話」)をだし、外交問題を解決した。そして、この談話に基づいて定められた検定基準が近隣諸国条項である。その意味では、近隣諸国条項は日本政府のアジア諸国への国際公約であり、日本国民への公約でもある。

 安倍政権・自民党がこの近隣諸国条項の見直しを行おうとしていことに対して、アジア諸国、とりわけ韓国・中国からの批判があり、見直しを行えば外交問題に発展することは明らかである。そこで安倍政権は、見直しを先送りして、近隣諸国条項を骨抜きにして実質的な見直し(廃止)を行おうとしているのである。これは、明文改憲がすぐにはできないので、解釈改憲や国家安全保障基本法の制定などで、事実上9条改憲を行おうとしていることと同じ手法である。きわめて姑息なやり方であり、断じて許すわけにはいかない。
 

3.検定基準の改定内容は歴史のわい曲を正当化するものである

 自民党・教育再生実行本部「中間取りまとめ」や自民党の衆議院選挙・参議院選挙の公約では、「多くの教科書が自虐史観で偏向している」と主張している。検定基準改定案の①の「バランスの取れた記述」というのは、「自虐史観や偏向」していない記述ということである。対象にされているのは、南京大虐殺(南京事件)や日本軍「慰安婦」、強制連行、植民地支配など日中15年戦争、アジア太平洋戦争時の日本の侵略・加害の記述である。例えば、南京事件について、「なかった」というのも少数説として存在するから両論併記でそれも書け、ということである。さらに、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の自由社版教科書や日本教育再生機構・「教科書改善の会」の育鵬社版教科書、日本会議の『最新日本史』などは、検定申請時に「南京事件なかった」という趣旨のことを書いて、検定で修正させられてきたが、今後はその記述を認めるようにするということである。歴史をわい曲する内容を教科書に書かせるものであり、近隣諸国条項に違反する。
 

4.政府見解を書かせるのは教科書を政府の広報誌に変え、教科書の事実上の「国定化」である

 検定基準改定案の②は、教科書を政府の広報誌に変えるものである。これは、領土問題について「固有の領土論」や「尖閣諸島は領土問題ではない」などの政府見解を書かせることをねらうものである。さらに、例えば、日本軍「慰安婦」について、第1次安倍政権は「慰安婦の強制連行はなかった」と閣議決定したので、これを教科書に書け、さらに、1965年の日韓基本条約で解決済みというのが政府見解であるから、これを全ての教科書に書けということである。政府の見解がすべて正しいとは限らないのに、特定の見解を教科書に書かせて子どもたちに押しつけるのはもはや教育ではない。これは「教化」であり、子どもたちをマインドコントロールするものである。これは、事実上の「国定教科書」づくりである。
 

5.教育基本法の愛国心条項で教科書を統制することは許されない

 20093月に文科省が教科書発行者に出した「教科書の改善について(通知)」によって、教科書は教育基本法との「一致」が求められ、社会科だけでなく全ての教科書について、教育基本法第2条の「愛国心」「道徳心」など5つの条項が教科書のどの記述、内容、教材と「一致」しているかを検定申請時に提出する編修趣意書に書くことが求められている。その結果、教科書の画一化が進み、教科書発行者は「愛国心教科書」「道徳心教科書」づくりを求められている。

 こうした事実があるにもかかわらず、あえて、③のようなことを要求する意図は明白である。自民党と安倍政権は、日本の侵略・加害について、歴史の事実を書いた教科書を自虐史観、偏向だと攻撃し、そうした歴史の事実をなくして教科書を「正常化」しなければ、愛国心が育たない、子どもが自国の歴史に誇りが持てない、などと主張している。教育基本法の条項を理由に、不合格で脅して、教科書から歴史の事実を消し去ろうとするものであり、絶対に容認できないものである。 

 以上のように、検定基準改定案は、安倍政権が進める「教育再生」の名による教育破壊であり、憲法改悪と一体の「戦争する国」の人材づくりをめざすものであり、怒りをもって抗議すると共に、すぐに撤回することを求めるものである。

                                         以上。
 

             子どもと教科書全国ネット21

11月21日(木)午後6時半日比谷野音で 秘密法に反対するすべての人たち集合 A mass protest rally against the Japanese secrecy protection bill, 6:30 PM, November 21, at Hibiya Yagai Ongakudo

Stop! 「秘密保護法」のサイトより。
http://www.himituho.com/
 
「週刊金曜日」9月27日号のローレンス・レペタ氏の秘密保護法案批判記事を補足するためにこのブログで9月23日に和訳を紹介した「ツワネ原則」の要約が今マスコミや法曹界でも注目をあび、法案反対の理論的下支えとなっている。
 
『国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)』の要約
 
日弁連
特定秘密保護法案に反対し、ツワネ原則に則して秘密保全法制の在り方を全面的に再検討することを求める会長声明
 
NHKの報道 秘密法案で注目「ツワネ原則」とは


Thursday, November 14, 2013

「米軍基地は平和や人権を脅かしている」: ピーター・カズニック氏の沖縄でのインタビュー(『けーし風』80号から転載)

前投稿では、『けーし風』80号(2013年10月10日発行)に掲載された、名護市議の東恩納琢磨氏によるオリバー・ストーン監督の名護訪問記を紹介しました。同じ号から、ストーン監督とのドキュメンタリーと書籍 The Untold History of the United States (日本語版は「もう一つのアメリカ史」NHKが放映・DVD日本語字幕版は角川書店から12月20日発売予定書籍は早川書房から出版)を共作したアメリカン大学の歴史学者ピーター・カズニック氏のインタビュー記事を許可を得て紹介します。このインタビューは8月14日沖縄コンベンションセンターで1700人の聴衆を集めて開催された『オリバー・ストーン 基地の島 OKINAWAを語る」(琉球新報社主催、沖縄テレビ放送協力)の直後に行われました。(大田昌秀元沖縄知事なども登壇いただき行ったこのシンポジウムの動画はここにあります。http://www.youtube.com/watch?v=JjzGRj1u7IY

(文中の画像はブログ運営人が挿入したものです。)
 
 
《インタビュー》
 
『もうひとつのアメリカ史』の歴史意識

         ―ピーター・カズニック氏にきく

           聞き手=編集部(宮城公子・若林千代)

 去る八月一四日夜、琉球新報社創立一二〇周年記念事業として開催された「オリバー・ストーン 基地の島OKINAWAを語る」シンポジウムの終了後、わずかな時間ではあったが、ストーン監督とともに沖縄訪問中のピーター・カズニック(Peter Kuznick)氏にお話をうかがった。
ピーター・カズニック氏

 カズニック氏は、日本でも衛星放送などで放映され、注目を集めているテレビ・ドキュメンタリー番組『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史(The Untold History of the United States)』シリーズの共同制作者であり、その元となる歴史資料を分析した書籍版(早川書房、二〇一三年)の執筆者である。現在は、ワシントンDCにあるアメリカン大学歴史学部で教鞭をとり、同大核問題研究所の所長をつとめる。一九四八年ニューヨークに生まれ、ラトガース大学で博士号を取得。アメリカの核政策の歴史や冷戦史を専門とし、冷戦文化や一九三〇年代アメリカにおける科学者運動などに関する著書がある。毎年学生を広島や長崎での研修に引率するなど、越境的に核問題を学習に取り入れ、政策的な分析のみならず、現場との長い交流を続けてきた。カズニック氏の著書は、日本語では、『もうひとつのアメリカ史』の他に、『広島・長崎への原爆投下再考―日米の視点』(木村朗と共著、乗松聡子訳、法律文化社、二〇一〇年)、『原発とヒロシマ―「原子力平和利用」の真相』(田中利幸と共著、岩波書店、二〇一一年)の二冊の著書がある。 

― ドキュメンタリーとともに著書のなかで、カズニックさんは、ヘンリー・ウォレスのような、主流のアメリカ史ではほとんど注目されなくなった政治家に光を当てておられます。ウォレスは平和や貧困問題に深い関心を寄せ、二〇世紀は「人々の世紀」でなければならないと言いました。しかし、第二次大戦末期には、政党内部の政争や冷戦の序曲のような空気のなか、ハリー・トルーマンが副大統領となり、ソ連の成長を恐れ、イギリスとの関係を深めて原爆を使用し、ルーズベルトの死後の冷戦的状況を生み出す素地を作ってしまいました。こうした歴史への視点は、アメリカでは一般的ではありませんね。
早川書房の日本語版
書籍第一巻(全三巻)

カズニック ウォレスはとても興味深い人物で、平和と社会公正の視点をもっていました。ウォレスは、ルーズベルト大統領の下、ニューディール政策にかかわり、一九三三年から四〇年に農務大臣を務め、四五年から四六年に商務大臣でした。また、副大統領をつとめましたが、これはあまり注目されません。しかし、彼は、冷戦が深まるにつれ、実際に政治の場から追いやられたのと同時に、歴史叙述のなかでもとるに足らない人物として扱われるようになります。

― 本書では、アメリカの広島・長崎への原爆投下がひとつの柱となって、アメリカ外交史の問題が描かれています。原爆の問題は、現在では福島原発事故にも歴史的につながっていると思いますが、この点はどのようにお考えでしょうか。また、沖縄のような米軍基地のある地域との関係はいかがでしょうか。

カズニック とても大きな質問ですね。まず、原爆投下は、我々の時代の最も暗闇の部分と言えるでしょう。アメリカは原爆に大きく依存した国家です。トルーマン政権下で原爆が投下されましたが、原爆に関する政策が本格化するのはアイゼンハワー政権です。アイゼンハワーは、通常の兵器を維持するのはコストがかかり過ぎるが、原爆はそれより安価だとして、核兵器を増やしていきます。政権発足時にはおよそ一〇〇〇個の核兵器を保有していましたが、彼が政権を去るときには二三、〇〇〇個にまで達していました。
角川書店のDVD日本語字幕
版(12月20日発売)

 アイゼンハワー政権時代は冷戦の時代ですが、ソ連と対抗していると言っても、保有する核兵器でおよそ六億人を殺傷できると言われていました。アイゼンハワーは核開発計画を人びとに容認させるために「核の平和利用」を提起します。エネルギー利用など、「平和的な核」を人びとに受け入れさせようとします。それが日米関係のあり方にも反映されていきます。日米政府は原子力発電を作りたいと考えますが、日本には、広島や長崎の被爆経験があり、日本の人たちには核に対する強い反対がありました。とくに、一九五四年の第五福竜丸事件の後はそうでした。結局、日本人の大半は核を嫌っているため、正力松太郎(読売新聞社長)のような人物を使ってCIA工作などがあり、日本人に原発計画を容認させていきます。この歴史は福島原発とも深く関連しています。また、米軍基地の役割というものは、こうした構造とかかわっているでしょう。例えば、一九七二年に沖縄返還がありますが、その際、当時の佐藤栄作首相はアメリカと核密約を結びます。

― 本書を手にしたとき、アメリカの有名な歴史家であるハワード・ジンの『民衆のアメリカ史(People's History of the United States)』(日本語訳は明石書店より刊行)を思い出しました。ジンはアメリカ民衆が民主主義や社会公正をどのように求めたのか、さまざまな社会集団やエスニック・グループの動きを総合的にとらえて描きました。ジンの著作が民衆史だとすれば、本書は同じような視点でアメリカ政治史と外交史を描いたもののように感じました。

カズニック その通りですね。もちろん、ジンのものは、ボトムアップするような、いわば「下からの視点」でアメリカ民衆の抵抗の歴史を描きます。大変に重要な仕事です。対して、私たちの仕事はいわば「上」のほうにあるものの動きというか、国家安全保障にかかわる政治家や権力側の動きを追ったものです。ハワード・ジンは残念なことに二〇一〇年に亡くなりましたが、オリバー・ストーンとの「もうひとつのアメリカ史」のプロジェクトには大変共感してくれて、「ビッグ・ファンだ」と言って応援してくれていました。

― 『もうひとつのアメリカ史』がテレビで放映されたり、また、書籍版が出版されたりして、アメリカ国内での反応はどうでしょうか。とくに学生や若い世代の反応はいかがですか。

カズニック たくさんの人がテレビ番組を見てくださいましたし、本も読んで関心を寄せてくださっています。「今まで何も知らなかった」「アメリカへの見方が変わった」という声が届いてきます。ただ、若い世代のアメリカの歴史意識を変えるには、まだまだ力が及ばないということを正直に申し上げなければならないでしょう。私たちは努力しなければなりません。希望なのは、反応のあった一人ひとりというのは、深い洞察によってアメリカの歴史、世界でのアメリカの位置、他の社会からどのように見られているのか、戦争について、いろいろな意味で強く反応してくれていることです。
8月14日沖縄でのシンポジウムで発言する
カズニック氏(パネルの左から3番目)。

― 国家や権力政治に都合のよい歴史観の強制や歴史意識の軽視は、日本でも問題ですし、世界的傾向です。そのようななかで、本書は、政治史や外交史を描きながらも、ヘンリー・ウォレスの言葉を借りれば「人びとの世紀」という視点、あるいは、民衆の視点を活かして政治の真実、その光と影を描こうとしています。そうした「人びとの世紀」ということを考えると、今、アメリカのごく普通の人びと、平和を求める人びとは、沖縄の市民や、あるいは世界各地でアメリカの覇権の下で苦悩する人びととの間に、どのような結びつきや相互の連帯を築くことができるでしょうか。また、どのような実践が期待できますか。

カズニック 本当にあまりにもひどいことですが、今、アメリカの平和運動というものは大変に力がありません。もちろん、さまざまな形で平和や公正を求めてたたかっている人たちはいます。アメリカ国内も経済格差や社会問題がひどく、人びとは苦しんでいます。ですから、二〇〇八年の大統領選挙では、「変化(We Can Change)」と掲げて登場したバラク・オバマを人びとは支持し、結集して、彼を大統領に選びました。オバマはイラク戦争にも抵抗していました。しかし、実際にオバマ政権の下で起きたことは、社会の進歩的勢力の破壊と分裂です。これは大変に苦しい局面です。たとえば、ブッシュ政権で成立し、そのままオバマ政権が継続し、強化している「愛国者法(Patriot Act)」のようなものは、社会の公正や自由を窒息させる機能を果たしている面があるのです。ですから、オバマ政権への失望感というものはとても大きいのです。

 しかし、そういう状況であれば尚更のことですが、人びとは歴史に目を向けなければならないでしょう。とくに沖縄との関連で言えば、アメリカが世界各地に展開している軍事基地の問題は、各地で現地の社会の平和や人権を脅かし、社会正義を踏みにじっています。シンポジウムのなかでも触れましたが、オバマ政権は二一世紀を「太平洋の世紀(Pacific Century)」と位置づけ、オーストラリアに海兵隊を移駐させ、沖縄や韓国、日本、フィリピンなどを結んで、米軍基地網を強化しています。ディエゴ・ガルシア島やアフリカ、もちろん中東の問題は深刻です。また、「アラブの春」やオキュパイ運動、沖縄でも反基地運動があり、「アメリカ帝国」への抵抗や資本主義の暴走や搾取への抵抗でつながっています。しかし、アメリカの多くの市民はこうした地域でアメリカが何をしているのかについて、ほとんど何の知識もない場合が多いのです。

 ですから、ドキュメンタリーや本、教育は、一つひとつは小さいことでも、歴史的な事実をきちんと伝えていく必要がありますし、また、今回、私やオリバーが沖縄を訪れているように、海外の平和的な市民と交流する活動も大切だと考えています。
 
8月13日、普天間基地に面する佐喜眞美術館でのレセプションにて、
オリバー・ストーン監督と。
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