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Tuesday, March 07, 2023

Statement: "Closing our eyes to history and leaving the victims behind is not a solution!": An urgent statement by a Japanese group in support of the victims of forced labour under the Japanese colonial rule 「強制徴用大法院判決関連 解決法」に対する「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」による緊急声明

To build international solidarity, I translated the urgent statement by the Joint Action for Resolution of the Forced Labour Issue and Settlement of Past Issues in response to the "Solution Related to the Court Decision on Forced Recruitment" announced by the Republic of Korea government on March 6. Please note that this is a quick translation with the aid of Deepl and may not be completely accurate. Suggestions for improvement are welcome. The original Japanese version is HERE. (Satoko Oka Norimatsu, Peace Philosophy Centre @PeacePhilosophy) 

3月6日に韓国政府が発表した「強制徴用大法院判決関連 解決法」に対する「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」による緊急声明を、国際連帯をつくるために英訳しました。

Click HERE to go the website of the Japanese support group. Here is an English pamphlet that explains the basic of the forced labour issue. 


Statement: "Closing our eyes to history and leaving the victims behind is not a solution!"

Today, the Korean government and Minister of Foreign Affairs Park Jin announced the "Solution Related to the Court Decision on Forced Recruitment."

The "Solution" includes the three points: 1) the "Foundation for Supporting Victims of Imperial Japan's Forced Mobilization" (hereinafter referred to as "the Foundation") will pay judgment money and delayed interest to plaintiffs of the 2018 Supreme Court decision; 2) as a follow-up measure, the Foundation will promote memorial, education, survey, research projects, etc. to remember and pass on the suffering of the victims; 3) the Foundation will provide financial resources for the payment of judgment money and interest on delayed payment through voluntary contributions from the private sector. As part of its "future plan," the Foundation has proposed that victims and bereaved families be asked to understand and agree to the "Solution," and that financial resources for the foundation be provided in a reliable manner. 

In response, Japanese Foreign Minister Yoshimasa Hayashi said at a press conference that he appreciates the Republic of Korea government's "solution" as a way to "return Japan-ROK relation to a healthy relationship," and stated that "the Japanese government will take this opportunity to confirm that it has taken over the position of successive Japanese cabinets regarding historical recognition as a whole, including the 'Japan-ROK Joint Declaration' issued in October 1998. 

The defendant companies commented that they were "not in a position to comment specifically" on this announcement by the Korean government. They then reiterated their view that "the matter has been resolved under the 1965 Claims Agreement."

It does not reflect any of the "sincere response" that the Korean government requested from the Japanese government. This does not mean that the issue of forced mobilization has been resolved.

First, the defendant Japanese companies have neither apologized nor announced that they will pay compensation. The defendant companies have been found liable for the tort of forced mobilization and forced labor by both Japanese and Korean courts. Despite this, the defendant companies have not even apologized to the victims and have acted as if they were in no position to comment on the matter.

Second, Foreign Minister Hayashi's statement that "Japan has taken over the position of successive Japanese cabinets on historical recognition as a whole" omits the core of the 1998 Declaration, which states that "the Korean people have suffered tremendous damage and pain due to colonial rule." Although the Japanese government was primarily responsible for the forced mobilization of Koreans during the war, it did not apologize to the victims of forced mobilization who suffered "tremendous damage and pain."

Thus, while the Korean foundation is being asked to shoulder compensation payments, the perpetrating parties have not apologized or paid a single yen, and this cannot possibly resolve the issue of forced mobilization.

The Japanese and ROK governments claim that the announcement of the "Solution" will improve and develop Japan-ROK relations. However, there is no way for deepening the true friendship between Japan and ROK or for the development of the bilateral relations unless we solve the issue of forced labour and other issues that occurred under Japanese colonial rule and move ahead in extinguishing colonialism. 

The surviving victim plaintiffs have made it clear that they cannot accept this "Solution."

We, together with the victims,  will continue our campaign to: 

(1) call for the Japanese government and the defendant companies to acknowledge the fact of forced mobilization, sincerely apologize, contribute funds to make amends as proof, and take concrete measures to ensure they will never repeat such acts, and 

(2) to the above end, call for the establishment of a forum of consultation with surviving victim plaintiffs and bereaved families. 

A statement by the Joint Action for Resolution of the Forced Labour Issue and Settlement of Past Issues https://181030.jimdofree.com/

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Below is the original Japanese version

声明「歴史に目を閉ざし、被害者を置き去りにしたままでは解決にならない!」

 本日、韓国政府・朴振外交部長官が「強制徴用大法院判決関連 解決法」を発表しました。

 「解決法」として示したのは、①「日帝強制動員被害者支援財団」(以下、財団)が2018年大法院判決の原告に判決金・遅延利子を支給する、②後続措置として、被害者の苦痛を記憶し、継承していくために追慕、教育・調査・研究事業等を推進する、③判決金・遅延利子支払いの財源は民間の自発的寄与などを通じて用意する、の3点。「今後の計画」として、被害者・遺族に「解決法」への理解・同意を求めること、財団への財源用意が確実に進むようにすることなどを打ち出しています。

 これを受けて、日本政府・林芳正外相は記者会見で、韓国政府の「解決法」を「日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価」すると言い、「この機会に、日本政府は、1998年10月に発表された『日韓共同宣言』を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認」する旨を表明しました。

 被告企業は、この韓国政府の発表について「特にコメントする立場にない」とコメントしました。そして、改めて「請求権協定で解決済み」との見解を明らかにしました。

 韓国政府が日本政府に求めた「誠意ある呼応」は何ひとつ反映していません。これで強制動員問題が解決したとは言えません。

 第1に、被告日本企業は謝罪もしていなければ、賠償支払いの表明もしていません。被告企業は日本と韓国の裁判で、強制動員し、強制労働を強いた事実、その不法行為責任を認定されています。にもかかわらず被害者に謝罪の言葉さえなく「コメントする立場にない」と他人事のように振る舞っています。

 第2に、林外相の「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」との言葉は、「韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えた」という1998年宣言の核心的部分を欠落させています。日本政府は戦時中の朝鮮人強制動員について第一に責任を負うべき立場にあるにもかかわらず「多大の損害と苦痛」を受けた強制動員被害者に謝罪しなかったのです。

 このように韓国の財団に賠償支払いを肩代わりさせておきながら加害当事者は謝罪もせず、1円の金も出さない、これで強制動員問題が解決するはずがありません。

 日韓両政府は、今回の「解決法」発表により、日韓関係が改善され、発展していくと言っています。しかし、強制動員問題等を解決し、植民地主義を清算するプロセスを進めていかない限り日韓の真の友好は深まらず、関係が発展していくはずがありません。

 今回の「解決法」について、生存被害者原告は受け入れられないとの立場を明らかにしています。

 私たちは、被害者ととともに、

(1)日本政府・被告企業が強制動員の事実を認めて真摯に謝罪し、その証として償いのために資金を拠出し、同じことを繰り返さないための措置を具体的に講ずること、

(2)そのために被害者原告及び遺族との協議の場を設けること、

 を求めて運動を続けていきます。

強制動員問題解決と過去清算のための共同行動  https://181030.jimdofree.com/


Thursday, March 02, 2023

米国の覇権主義とその危険性:中国外交部文書 US Hegemony and Its Perils: A Chinese Ministry of Foreign Affairs Report (Japanese Translation)

2月20日に中国外交部が発表した文書「米国の覇権主義とその危険性」は、中国政府からの米国の一国覇権主義への政治、軍事、経済、技術、文化の側面からの痛烈な批判です。内容を読むと、米国に対する、中国だけではなく他のBRIC諸国、ラテンアメリカ、アフリカ、ユーラシアの「グローバスサウス」諸国からの反植民地主義・反帝国主義の声を代弁しているようにも聞こえます。米国の同盟国(と呼ばれる従属国)である日本についても、80年代、「プラザ合意」で円高を招き日本経済の「失われた30年」の原因を作ったこと、米国が日本の半導体産業の妨害をしたことについて触れており、同情的な書き方です。この文書について西側メインストリームメディアはほとんど黙殺しているようですが、ラテンアメリカを基点に活動する気鋭のジャーナリスト、ベン・ノートン氏は詳しい解説ビデオ「中国が『米国の覇権』、戦争犯罪、CIAによる政権転覆、400にも及ぶ外国介入を非難する」を作っています。

中国外交部文書を解説するベン・ノートン氏。
日本語字幕を自動生成して観られます。
この文書を読んで、西側の人々は中国政府のプロパガンダと一蹴したくなるかもしれません。しかしこの文書に書いてあることは、西側の国々でも語られてきている事実ばかりであり、この文書のソースも西側の文書や専門家を主に引用しています。それでも西側の政府や主要メディアはあまり語りたがらないことが多く書いてあり参考になります。議論や対話の出発点になり得る文書なのではないでしょうか。

この文書はその内容だけでなく、中国政府がいまこのタイミングでこのような形でまとめて出したということに歴史的意味合いがあると思います。

この文書に注目しさっそく翻訳したレイチェル・クラーク氏に感謝します。いつもながら、翻訳は投稿後に修正する可能性があることをご承知ください。

原文リンク:https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjbxw/202302/t20230220_11027664.html


米国の覇権主義とその危険性 

US Hegemony and Its Perils


翻訳 レイチェル・クラーク 編集 乗松聡子


2023年 2月20日 

目次

はじめに

I. 政治的覇権-その権力を世界中で振りかざす        

II. 軍事的覇権-理不尽な武力行使

III. 経済的覇権-略奪と搾取

IV.技術的覇権-独占と抑圧

V. 文化的覇権-虚偽の流布

おわりに


はじめに

二つの世界大戦と冷戦を経て世界最強の国となった米国は、他国の内政に干渉し、覇権を追求、維持、乱用し、破壊と浸透を進め、故意に戦争を行い、国際社会に害を与えるという大胆な行動をとってきた。

米国は、民主主義、自由、人権を推進するという名目で、「カラー革命」を起こし、地域紛争を扇動し、さらには直接戦争を仕掛けるという覇権主義の戦略(プレイブック)を開発した。冷戦時代の考え方に固執して、米国はブロック政治を強化し、紛争と対立を煽ってきた。国家安全保障の概念を拡大解釈し、輸出規制を乱用し、一方的な制裁を他国に強要してきた。また、国際法や国際ルールに対し選択的に取り組み、好きなときに利用したり破棄したりし、「ルールに基づく国際秩序」の名の下に、自国の利益につながるルールを押し付けようとしてきた。

この報告書は、関連する事実を提示することによって、政治、軍事、経済、金融、技術、文化の各分野における米国の覇権の乱用を白日の下にさらし、米国のやり方が世界の平和と安定およびすべての人民の幸福に及ぼす危険性について、より大きな国際的関心を喚起することを目的とするものである。

I. 政治的覇権--その権力を世界中で振りかざす

米国は長年にわたり、民主主義と人権を推進するという名目で、他国と世界秩序を自国の価値観と政治システムの型にはめ込もうとしてきた。

◆ 米国による内政干渉は枚挙にいとまがない。「民主化促進」の名の下に、ラテンアメリカでは「ネオ・モンロー・ドクトリン」を、ユーラシアでは「カラー革命」を、西アジア・北アフリカでは「アラブの春」を扇動し、多くの国に混乱と災厄をもたらしたのである。

1823年、米国は「モンロー・ドクトリン」を発表した。「アメリカ人のためのアメリカ」(注:ここでの「アメリカ」は南北アメリカ大陸を指す)を標榜しながら、その真意は「アメリカ合衆国のための南北アメリカ大陸」であった。

それ以来、歴代の米国政府のラテンアメリカ・カリブ海地域に対する政策は、政治干渉、軍事介入、政権転覆に彩られてきた。61年にわたるキューバへの敵対と封鎖からチリのアジェンデ政権打倒まで、米国のこの地域に対する政策は、「服従する者は栄え、抵抗する者は滅びる」という一つの公理に基づいて構築されてきた。

2003年、グルジアの「バラ革命」、ウクライナの「オレンジ革命」、キルギスタンの「チューリップ革命」と、相次いで「カラー革命」が起こった。米国国務省は、これらの「政権交代」で「中心的な役割」を果たしたことを公然と認めている。米国はフィリピンの内政にも干渉し、1986年にフェルディナンド・マルコス・シニア大統領を、2001年にはジョセフ・エストラダ大統領を、いわゆる「ピープルパワー革命」によって追い落とした。

2023年1月、マイク・ポンペオ前米国務長官が新著『ネバー・ギブ・アン・インチ~私が愛するアメリカのために戦う~ 』を発表した。彼はその中で、米国がベネズエラへの介入を画策していたことを明らかにした。その計画とは、マドゥロ政権に野党との合意を迫り、ベネズエラから石油や金を売って外貨を得る能力を奪い、経済に高い圧力をかけ、2018年の大統領選挙に影響を与えることだった。

◆米国は、国際ルールに対して二重基準を適用している。自己利益を最優先する米国は、国際条約や国際組織から離れ、国際法よりも国内法を優先してきた。2017年4月、トランプ政権は、国連人口基金(UNFPA)に対して、「強制的な中絶や強制的な不妊手術のプログラムを支援、またはその管理に参加している 」という理由で、米国からの資金提供をすべて打ち切ると発表した。米国は1984年と2017年の2回、ユネスコを脱退している。2017年には、気候変動に関するパリ協定からの離脱を発表。2018年には、国連人権理事会がイスラエルに対して「かたよった」態度をとり、人権を効果的に保護できていないとして、脱退を発表した。2019年、拘束されずに先進兵器の開発ができるように、中距離核戦力全廃条約からの離脱を発表。2020年、オープンスカイ条約からの脱退を発表した。

また米国は、生物兵器禁止条約(BWC)の検証議定書の交渉に反対し、生物兵器に関する各国の活動の国際的検証を妨げるなど、生物兵器管理の足かせにもなってきた。化学兵器を保有する唯一の国である米国は、化学兵器の廃棄を何度も遅らせ、義務の履行に消極的であった。米国は「化学兵器のない世界」を実現するための最大の障害となっている。

◆米国は同盟システムを通じてあちこちに小さなブロックを結成している。「インド太平洋戦略」をアジア太平洋地域に押し付け、ファイブ・アイズ、クワッド(QUAD)、オーカス(AUKUS)のような排他的クラブを結成し、地域の国々にどちらかの味方につくことを強要しているのである。こうしたやり方は、本質的にこの地域に分断を生み、対立をあおり、平和を損ねることを意図している。

◆ 米国は、他国の民主主義に恣意的に判断を下し、「民主主義対権威主義」という誤った物語を捏造して、疎外、分裂、対抗、対立を扇動している。2021年12月、米国は第1回「民主主義サミット」を開催したが、民主主義の精神を愚弄し、世界を分断するとして、多くの国から批判と反対を浴びた。2023年3月、米国は再び「民主主義のためのサミット」を開催するが、これは依然として歓迎されず、再び何の支持も得られないだろう。

II. 軍事的覇権 -- 武力の濫用

米国の歴史は、暴力と拡大によって特徴づけられている。1776年に独立して以来、米国は常に力による拡大を求めてきた。先住民を虐殺し、カナダに侵攻し、メキシコと戦争をし、アメリカ・スペイン戦争を引き起こし、ハワイを併合した。第二次世界大戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、コソボ戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争、リビア戦争、シリア戦争など、米国が誘発・遂行した戦争は、軍事覇権を乱用し、拡張主義への道を切り開くものであった。近年、米国の年間平均軍事予算は7000億米ドルを超え、世界全体の4割を占め、後続の15カ国を合算した額よりも多い。米国は海外に約800の軍事基地を持ち、159カ国に17万3千人の兵士を配備している。

書籍『アメリカは侵略する~いかに米国が地球上のほとんどすべての国に侵略し、軍事的に関与してきたか』によれば、米国は国連が承認している190余りの国のほとんどすべてと戦闘を行い、軍事的に関与してきたが、3つの例外があるだけである。その3カ国は、米国が地図上で見つけることができなかったため、「命拾い」したケースだという。

◆ カーター元大統領が言うように、米国は間違いなく世界の歴史の中で最も好戦的な国である。タフツ大学の報告書「軍事介入プロジェクトの紹介」によれば、米国は世界史上最も戦争好きな国である。タフツ大学の報告書「軍事介入プロジェクトの紹介:米国の軍事介入に関する新しいデータセット、1776-2019 (Introducing the Military Intervention Project: A new Dataset on U.S. Military Interventions, 1776-2019)」によると、米国は建国以来約400件の軍事介入を行い、その34%がラテンアメリカとカリブ海地域、23%が東アジアと太平洋地域、14%が中東と北アフリカ、13%がヨーロッパで行われたという。現在、中東・北アフリカとサハラ以南のアフリカへの軍事介入は増加の一途をたどっている。

サウスチャイナ・モーニング・ポストのコラムニスト、アレックス・ローは、米国は建国以来、外交と戦争の区別をほとんどしてこなかったと指摘する。20世紀には多くの発展途上国で民主的に選ばれた政府を倒し、すぐに親米的な傀儡政権に置き換えた。今日、ウクライナ、イラク、アフガニスタン、リビア、シリア、パキスタン、イエメンにおいて、米国は代理戦争、低強度戦争、ドローン戦争というお決まりの戦術を繰り返している。

◆  米国の軍事的覇権は、人道的悲劇を引き起こしている。2001年以来、米国がテロとの戦いの名の下に開始した戦争と軍事行動は、90万人以上の命を奪い、そのうち約33万5千人は民間人であり、数百万人が負傷し、数千万人が住む場所を追われている。2003年に始まったイラク戦争では、米軍が直接殺害した1万6千人以上を含む約20万~25万人の民間人が死亡し、100万人以上が家を失う結果となった。

米国は世界中に3700万人の難民を生み出した。2012年以降、シリア難民だけで10倍にもなっている。2016年から2019年にかけて、シリアの戦闘で33,584人の民間人の死亡が記録されており、そのうち3,833人が米国主導の連合軍の爆撃によって死亡し、その半数が女性と子どもだった。公共放送サービス(PBS)は2018年11月9日、米軍がラッカに仕掛けた空爆だけでシリア市民1,600人が死亡したと報じた。

20年にわたるアフガニスタン戦争は、同国を荒廃させた。9.11同時多発テロと無関係のアフガン民間人計4万7000人、アフガン兵士・警察官計6万6000~6万9000人が米軍の作戦で死亡し、1000万人以上が避難民になった。アフガニスタン戦争は、同国の経済発展の基盤を破壊し、アフガニスタン国民を困窮のどん底に陥れた。2021年の「カブー陥落」後、米国はアフガニスタン中央銀行の資産約95億ドルを凍結すると発表したが、これは「純粋な略奪」と言わざるを得ない。

2022年9月、トルコのスレイマン・ソイル内相は集会で「米国はシリアで代理戦争を行い、アフガニスタンをアヘン畑とヘロイン工場に変え、パキスタンを混乱に陥れ、リビアを絶え間ない内乱状態に置いた。米国は、地下資源を奪い、その国の人々を奴隷にするためなら、どんなことでもする。」とコメントした。

米国は、戦争でも酷い方法をとっている。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、コソボ戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争で、米国は大量の化学・生物兵器、クラスター爆弾、燃料空気弾、黒鉛爆弾、劣化ウラン弾を使用し、民間施設に甚大な被害を与え、無数の民間人を犠牲にし、永続的な環境汚染をもたらしているのである。

III. 経済覇権 -- 略奪と搾取

第二次世界大戦後、米国はブレトンウッズ体制、国際通貨基金、世界銀行の設立を主導し、マーシャルプランとともに、米ドルを中心とする国際通貨体制を形成した。また、米国は、「85%以上の賛成による承認」をはじめとする国際機関の加重投票制度や規則・取り決め、国内の通商法制を操作することによって、国際経済・金融分野での制度的覇権を確立してきた。米国は、ドルが主要国際基軸通貨であることを利用して、基本的に世界中から「通貨発行益」を集め、国際機関に対する支配力を背景に、他国に米国の政治・経済戦略への奉仕を強要しているのである。

◆  米国は 「通貨発行益」によって世界の富を収奪している。100ドル紙幣を一枚作る費用はたった17セントだが、他国が100ドルの現物を手に入れるには、100ドルを負担しなければならないのである。米国がドルによって法外な特権と収支赤字を涙なしで享受し、その価値のない紙幣を使って他国の資源と工場を略奪していることは、半世紀以上前に指摘されていた。

◆  米ドルの覇権は、世界経済の不安定と不確実性の主な要因である。 COVID-19パンデミックの際、米国が世界金融の覇権を乱用し、世界市場に何兆ドルも注入し たため、他の国、特に新興国がそのツケを払わされることになった。2022年、FRBは超金融緩和政策を終了し、積極的な利上げに転じ、国際金融市場の混乱を招き、ユーロなど他国の通貨が大幅に下落し、多くの通貨が20年ぶりの安値に落ち込んだ。その結果、多くの途上国が、高インフレ、通貨安、資本流出という難題に直面することになった。ニクソン政権の財務長官ジョン・コナリーが、「ドルは我々の通貨だが、君たちの問題だ 」と、自己満足しながらも鋭い指摘をしたのは、まさにこのことだった。

◆  米国は国際経済・金融機関を支配することで、他国への援助に新たな条件を課している。米国の資本流入や投機に対する障害を減らすために、被支援国は金融自由化を進め、金融市場を開放し、その経済政策が米国の戦略に沿うようにすることが要求されるのである。『国際政治経済評論(Review of International Political Economy)』によると、1985年から2014年までにIMFが131の加盟国に対して行った1,550の債務救済プログラムには、55,465もの政治的条件が付加されている。

◆ 米国は、経済的な強制力をもって、意図的に相手を抑圧している。1980年代、米国は日本の経済的脅威を排除し、ソ連との対決と世界支配という米国の戦略目標のために日本を支配し利用しようと、覇権的金融力を駆使して日本に対抗し、プラザ合意を成立させた。その結果、円高が進行し、日本は金融市場の開放と金融システムの改革を迫られた。プラザ合意は日本経済の成長力に大きな打撃を与え、日本は後に 「失われた30年 」と呼ばれる事態に陥った。

◆ アメリカの経済・金融覇権は地政学的な武器となった。米国は、一方的な制裁と「ロングアーム管轄(long-arm jurisdiction・訳者註:自州に居住する当事者以外に対しても人的管轄権を及ぼす制度)」を倍加し、国際緊急経済力法、グローバル・マグニツキー人権説明責任法(Global Magnitsky Human Rights Accountability Act)、制裁による米国の敵対者への対処法(Countering America's Adversaries Through Sanctions Act)などの国内法を制定し、特定の国や組織、個人を制裁する大統領令を次々と導入した。統計によると、米国の外国の対象に対する制裁は2000年から2021年にかけて933%増加した。トランプ政権だけでも3,900件以上の制裁を実施しており、1日に3件の制裁を実施していることになる。これまで米国は、キューバ、中国、ロシア、北朝鮮、イラン、ベネズエラなど、世界40カ国近くに対して経済制裁を行っていた、あるいは行っており、世界人口の半分近くに影響を与えている。「アメリカ合衆国」は 「 制裁合衆国」へと変貌を遂げた。そして、「ロング・アーム管轄権」は、米国が国家権力という手段を使って経済的競争相手を弾圧し、正常な国際ビジネスに干渉するための道具に成り下がってしまった。これは、米国が長年誇ってきた自由主義市場経済の原則からの重大な逸脱である。

IV. 技術覇権--独占と抑圧

米国は、ハイテク分野で独占力、弾圧策、技術制限を行使することにより、他国の科学技術・経済の発展を抑止しようとしている。

◆ 米国は、保護の名の下に知的財産を独占している。米国は、知的財産権に関する他国、特に発展途上国の弱い立場と関連分野の制度的空白を利用し、独占によって過大な利益を得ている。1994年、米国は知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS:Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)を推進し、知的財産権保護のプロセスと基準を米国化し、技術の独占を強固なものにしようとした。

1980年代、米国は日本の半導体産業の発展を封じ込めるため、301条調査を開始し、多国間協定による二国間交渉で交渉力をつけ、日本を不公正貿易と脅して報復関税をかけ、日本に日米半導体協定を締結させた。その結果、日本の半導体企業は国際競争からほぼ完全に駆逐され、市場シェアは50%から10%に低下した。一方、米国政府の支援を受けて、多くの米国半導体企業がこの機会を捉えて、より大きなシェアを獲得していった。

◆ 米国は技術問題を政治化し、武器化し、イデオロギーの道具として利用している。米国は国家安全保障の概念を過剰に拡大し、国家権力を動員して中国企業ファーウェイを弾圧・制裁し、ファーウェイ製品の米国市場への参入を制限し、チップやOSの供給を断ち、他国にはファーウェイによる5Gネットワークの現地建設の禁止を強要している。さらにカナダを説得して、ファーウェイの孟晩舟CFOを3年近くも不当に拘束させた。

米国は、国際競争力のある中国のハイテク企業を取り締まるために数々の言い訳を捏造し、1000社以上の中国企業を制裁リストに載せてきた。さらに米国は、バイオテクノロジーや人工知能などのハイエンド技術の規制、輸出規制の強化、投資審査の強化、TikTokやWeChatなど中国のソーシャルメディアアプリの弾圧、オランダや日本に対してチップや関連機器・技術の中国への輸出を制限するよう働きかけてきた。

米国は、中国関連の技術専門家に対する政策でも二重基準を実践してきた。中国人研究者をしりぞけ、弾圧するために、2018年6月以降、特定のハイテク関連分野を専攻する中国人学生のビザの有効期限が短縮され、交換プログラムや留学で米国に行く中国人学者や学生が不当な拒否や嫌がらせを受けるケースが繰り返し発生し、米国で働く中国人学者に対する大規模調査が実施された。

◆ 米国は民主主義を守るという名目で、技術の独占を強固にする。米国は「チップス同盟」や「クリーンネットワーク」といった技術に関する小ブロックの構築により、ハイテクに「民主主義」や「人権」のラベルを貼り、技術問題を政治・思想問題にすり替え、他国に対する技術封鎖の言い訳を捏造している。2019年5月、米国はチェコで開催された「プラハ5G安全保障会議」に32カ国を参加させ、「プラハ提案(Prague Proposal)」を発表し、中国の5G製品を排除しようとした。2020年4月、当時の米国国務長官マイク・ポンペオは、「5Gクリーンパス」(民主主義に関する思想の共有と 「サイバーセキュリティ 」を守る必要性で結ばれたパートナーと5G分野の技術同盟を築くための計画)を発表した。この措置は、要するに、米国が技術同盟を通じて技術的覇権を維持しようとするものである。

◆ 米国はサイバー攻撃や盗聴を行うことで、その技術的覇権を乱用している。米国は長い間「ハッカー帝国」として悪名高く、世界中でサイバー盗聴を常習的に行っていることで知られている。アナログの基地局信号を使って携帯電話にアクセスしデータを盗む、モバイルアプリを操作する、クラウドサーバーに侵入する、海底ケーブルを使って盗むなど、あらゆる手段を使ってサイバー攻撃や監視を徹底している。数え上げればきりがない。

米国の監視は無差別だ。ライバルであろうと同盟国であろうと、さらにはメルケル元ドイツ首相や 歴代のフランス大統領など同盟国の指導者であろうと、すべてが監視の対象になり得るのである。「プリズム」「ダートボックス」「イリタントホーン」「テレスクリーン作戦」など、米国が仕掛けたサイバー監視・攻撃はいずれも、米国が同盟国やパートナーを綿密に監視していることの証左である。このような同盟国やパートナーに対する盗聴は、すでに世界中で怒りを買っている。米国の監視プログラムを暴露してきたウェブサイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジは、「世界的な監視超大国が名誉や敬意を持って行動することを期待してはならない。ルールはただ一つ、「『ルール無用 』だ」と述べている。

V. 文化的覇権--虚偽の物語の拡散

アメリカ文化の世界的拡大は、その対外戦略の重要な一部分である。米国は、世界における覇権を強化し維持するために、しばしば文化的手段を用いてきた。

◆ 米国は映画などの商品に米国の価値観を埋め込んでいる。米国的価値観やライフスタイルは、その映画やテレビ番組、出版物、メディアコンテンツ、政府出資の非営利文化機関によるプログラムに結びついている。こうして、米国の文化的覇権を維持する文化・世論空間が形成されるのである。米国人学者であるジョン・イェンマは、その論文『世界の米国化(The Americanization of the World)』の中で、米国の文化拡大における真の武器であるハリウッド、マディソン街のイメージデザイン工場、マテル社(訳者註:バービー人形等で知られる)やコカコーラの生産ラインを暴露している。

米国が文化的覇権を維持するために使う手段はいろいろある。米国映画はその最たるもので、現在では世界市場の70%以上を占めている。米国は、その文化の多様性を巧みに利用し、さまざまな民族にアピールしている。ハリウッド映画は、世界に降り立つと、それに結びついた米国の価値観を喧伝する。

◆ アメリカの文化的覇権は、「直接介入 」だけでなく、「メディアへの介入」や「世界に向けての発信」としても現れている。米国が支配する西側メディアは、米国が他国の内政に干渉することを支持する世界世論を形成する上で、特に重要な役割を担っている。

米国政府は、すべてのソーシャルメディア企業を厳しく検閲し、その服従を要求している。ツイッターのイーロン・マスク会長(CEO)は2022年12月27日、すべてのソーシャルメディアプラットフォームが米国政府と連携してコンテンツを検閲していることを認めたと、Fox Business Networkは報じている。米国の世論は、あらゆる好ましくない発言を制限するために、政府の介入を受けている。Googleはしばしばページを削除する。

米国防総省はソーシャルメディアを操作する。2022年12月、米国の独立系調査サイト「インターセプト」は、2017年7月、米中央軍幹部のナサニエル・カーラーがツイッターの公共政策チームに、自分が送ったリストにある52のアラビア語アカウントの存在を強化し、そのうち6つを優先的に使用するよう指示したことを明らかにした。そのうちの1つは、イエメンでの米国の無人機攻撃を正当化(攻撃は正確で、民間人ではなくテロリストだけを殺したと主張)するためのものだった。カーラー氏の指示を受けて、ツイッターはこれらのアラビア語アカウントを「ホワイトリスト」に入れ、特定のメッセージを増幅させるようにした。

◆ 米国は報道の自由について二重基準を実践している。様々な手段で他国のメディアを残酷に弾圧し、沈黙させている。米国と欧州はロシア・トゥデイやスプートニクのようなロシアの主流メディアを自国から締め出す。ツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどのプラットフォームは、ロシアの公式アカウントを公然と制限している。ネットフリックス、アップル、グーグルは、自社のサービスやアプリストアからロシアのチャンネルやアプリケーションを削除した。ロシア関連のコンテンツには、前例のない強権的な検閲が課せられている。

◆ 米国は文化的覇権を乱用し、社会主義国の「平和的進化」を扇動している。社会主義国を対象とした報道機関や文化団体を設立する。イデオロギー浸透を支援するために、ラジオやテレビのネットワークに膨大な公的資金を注ぎ込み、これらの発信源は数十の言語で社会主義国に日夜、扇動的なプロパガンダを浴びせかける。

米国は他国を攻撃する槍として虚偽情報を利用し、それを中心とした産業チェーンを構築している。ストーリーをでっち上げるグループや個人が存在し、ほぼ無限の資金力を背景に、世論を惑わすために世界中でそれをばらまいている。。

結論

正義の大義はその支持者を広く獲得するが、不当な大義はその追求者を追放することになる。強さを利用して弱者を威嚇し、力と策略で他者から奪い、ゼロサムゲームを行う覇権主義、支配主義、いじめの慣行は、重大な害を及ぼしている。平和、発展、協力、相互利益という歴史的な流れは止められない。米国は、その力で真実を覆い隠し、正義を踏みにじって私利私欲に走ってきた。こうした一方的でエゴイスティック、かつ時代に逆行する覇権主義は、国際社会から強い批判と反発を集めている。

各国は互いに尊重し合い、対等に付き合う必要がある。大国はその地位にふさわしい振る舞いをし、対立や同盟ではなく、対話とパートナーシップを特徴とする国家対国家関係の新しいモデルを追求する上でリーダーシップを発揮するべきである。中国は、あらゆる形態の覇権主義や権力政治に反対し、他国の内政に干渉することを拒否する。米国は真剣に自らを省みなければならない。自分たちがやってきたことを批判的に検証し、傲慢さと偏見を捨て、覇権主義的、支配的、いじめ的なやり方をやめなければならない。

(翻訳以上)

原文はここにあります。

Thursday, February 09, 2023

調査報道家シーモア・ハーシュによる記事「米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」全文和訳 Full Japanese Translation of Seymour Hersh's bombshell article "How America Took Out The Nord Stream Pipeline"

See original text: https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream

ベトナム戦争やイラク戦争時の米国による戦争犯罪や違法行為の報道で、数々のジャーナリスト賞を受賞した経歴を持つ、米国を代表する調査報道家、シーモア・ハーシュ氏がまた大仕事を成し遂げた。昨年9月26日に起こった、米国をはじめ西側の関与が疑われながらも真相究明がされていなかった「ノルドストリーム爆破事件」について、ハーシュ氏は「サブスタック」というプラットフォームで記事「米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」を2月8日に発表し、米国がノルウェーの協力を得てパイプライン爆破作戦を行った過程を事細かに報じ、大変な話題になっている。ホワイトハウスは「嘘だ」と一蹴してるようだが、自らの違法行為を進んで認める政府などあるはずがない。ハーシュ氏が報じてきたベトナム戦争での「ミ・ライ虐殺」や「ウォーターゲート事件」、イラク戦争下のアブグレイブ刑務所での拷問など、今となっては事実として確立していることばかりだ。西側政府やメディアも、これだけの実績があるハーシュ氏の報道を簡単に嘘と片付けることはできないはずだ。日本の主要メディアはいまのところあまりハーシュ記事について報じていないように見えるが、日本語では、ロイター通信の報道がニューズウィーク誌日本語版朝日新聞のネット版などで報じられている。原文を日本語で用意することは意義あることと思い、著者ハーシュ氏の許可を得て、レイチェル・クラーク氏の翻訳により、ここに全文掲載する。

ウクライナ戦争については、米国が最初から攻撃的な当事者であり、米国がNATOを動員し、ウクライナを利用しロシアを突き崩すための代理戦争(proxy war)であるという事実を語るだけで、「ロシアの味方についている」という評判を流したがる人が多いが、このような「敵味方心理」こそが戦争延長を助長しているということを知ってもらいたいと思っている。事実から目を逸らさず、和平を妨害する者たちを特定していくことこそが戦争停止につながるものと信じる。ハーシュ氏の報道が西側の好戦的な論調に冷静さをもたらす一つの材料になってくれればと願っている。

注:翻訳はアップ後に修正する可能性があります。拡散歓迎ですが、この投稿のリンク

https://peacephilosophy.blogspot.com/2023/02/full-japanese-translation-of-seymour.html

を使って行ってください。無断全文転載はお断りします。冒頭のみの転載で「全文はこちら」とリンクを張るのは許可します。お問い合わせは peacephilosophycentre@gmail.com にお願いします。

How America Took Out The Nord Stream Pipeline

 https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream

米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?

シーモア・ハーシュ

2月8日

翻訳 レイチェル・クラーク/編集 乗松聡子


ニューヨーク・タイムズ紙は「ミステリー」と呼んだが、米国は海上秘密作戦を実行していた。もはや秘密ではなくなったが。

米国海軍の潜水救助センターは、フロリダ州南西部のパンハンドルとアラバマ州との州境から南へ70マイルのところにあるパナマシティ(流行りのリゾート都市として知られる)の片田舎にある、その名の通りわかりにくい場所にある。第二次世界大戦後に建てられたコンクリート造りの無骨な建物は、シカゴ西部の職業訓練高校のような外観をしている。今は4車線の道路を挟んで、コインランドリーやダンススクールも建っている。

このセンターは何十年もの間、高度な技術を持つ深海潜水士を養成してきた。かつて世界中の米軍部隊に配属され、C4爆薬(訳者註:軍 用 プラスチック爆薬 の一種)を使用して港や海岸の瓦礫や不発弾を除去するという善行も、外国の石油掘削施設の爆破、海底発電所の吸気バルブの汚染、重要な輸送管の鍵の破壊などの悪行の技術潜水も可能である。パナマシティのセンターは、米国で2番目に大きい屋内プールを誇り、昨年の夏、バルト海の海面下260フィートで任務を遂行した潜水学校の優秀で最も口の固い卒業生を採用するには最適の場所であった。

作戦計画を直接知る関係者によれば、昨年6月、海軍の潜水士は、「BALTOPS 22」として広く知られる真夏のNATO演習に隠れて、遠隔操作による爆発物を仕掛け、3カ月後に4つのノルドストリーム・パイプラインのうち3つを破壊した。

そのうちの2つのパイプラインは、ノルドストリーム1として総称され、10年以上にわたってドイツと西ヨーロッパの多くに安価なロシアの天然ガスを供給した。もう一つのパイプラインは「ノルドストリーム2」と呼ばれ、建設は完了していたが、まだ稼働していなかった。ウクライナ国境にロシア軍が集結し、1945年以来ヨーロッパで最も血生臭い戦争が迫っている今、ジョセフ・バイデン大統領は、パイプラインがプーチン大統領にとって、天然ガスを政治的・領土的野心のために武器化する手段であると考えたのである。

コメントを求められたホワイトハウスのエイドリアン・ワトソン報道官は、電子メールで 「これは虚偽、完全なフィクションである 」と述べた。中央情報局(CIA)の広報担当者タミー・ソープも同様に、「この主張は完全に虚偽である 」と書いている。

バイデンがパイプラインの破壊を決定したのは、ワシントンの国家安全保障関係者が9ヶ月以上にわたり、極秘で何度も議論を重ねた後であった。その期間の大半は、その作戦を実行するかどうかではなく、責任の所在を明かさずにどうやって実行に移すか、が問題だった。

パナマシティにある潜水学校の卒業生に頼ったのは、極めて重要な官僚的理由があった。潜水士は海軍だけで、米国の特殊作戦司令部のメンバーではない。同司令部の秘密作戦は議会に報告され、上・下院の指導部、いわゆる「ギャング・オブ・エイト」に事前にブリーフィングされなければならないのだ。バイデン政権は、2021年の終わりから2022年の最初の数カ月にかけて計画された作戦のリークを避けるために、あらゆる手段を講じた。

バイデン大統領とその外交チーム(国家安全保障顧問ジェイク・サリバン、国務長官トニー・ブリンケン、国務次官ビクトリア・ヌーランド)は、ロシア北東部のエストニア国境に近い2つの港からバルト海の海底750マイルを並走する2つのパイプラインに、一貫して敵意を露わにしていた。これらのパイプラインは、デンマーク・ボーンホルム島近くを経てドイツ北部で終着する。

ウクライナを経由しなくて済むこの直通ルートは、ドイツ経済にとって好都合だった。安くて豊富なロシアの天然ガスは、工場や家庭の暖房に十分だった。ドイツの流通業者は余剰ガスを西ヨーロッパ中に売って利益を得ていた。米国政府に責任の所在が及ぶような行為は、ロシアとの直接対決を最小限に抑えるという公約を破ることになってしまうので、秘密保持は不可欠であった。

ノルドストリーム1は、その初期段階から、ワシントンとその反露NATO諸国によって、西側の支配に対する脅威とみなされていた。その持ち株会社ノルドストリームAGは2005年にスイスで設立され、ガスプロムと提携している。ガスプロムはロシアの上場企業で、株主には莫大な利益をもたらし、プーチンの息のかかった オリガルヒが支配している。ガスプロムが51%、フランスのエネルギー企業4社、オランダのエネルギー企業1社、ドイツのエネルギー企業2社が残りの49%の株式を共有し、安価な天然ガスをドイツや西欧の地元流通業者に販売する下流工程をコントロールする権利を持っていた。ガスプロムの利益は、ロシア政府と共有され、国からのガスや石油の収入は、ロシアの年間予算の45%にも上ると言われた時代もあった。

米国の政治的な懸念は現実のものとなった。プーチンは必要な収入源を手に入れ、ドイツをはじめとする西ヨーロッパはロシアから供給される安価な天然ガスに依存するようになり、ヨーロッパの米国依存度が低下すると見られていた。実際、そのとおりになった。ドイツ人の多くは、ノルドストリーム1をヴィリー・ブラント元首相の有名なオストポリティーク理論の実現の一部と見ていた。オストポリティークとは、第二次世界大戦で破壊された戦後のドイツを、ロシアの安いガスを利用して西ヨーロッパ市場や貿易経済を繁栄させるなどのイニシアチブによって復興させることである。

ノルドストリーム1はNATOとワシントンから見てすでに危険なものだったが、2021年9月に建設が完了したノルドストリーム2は、ドイツの規制当局が承認すれば、ドイツと西ヨーロッパで利用できる安価なガスの量が倍増するはずだった。また、このパイプラインはドイツの年間消費量の50%以上を賄うことができる。バイデン政権の積極的な外交政策を背景に、ロシアとNATOの緊張は着実に高まっていった。

2021年1月のバイデン就任式直前、ブリンケンの国務長官就任承認公聴会で、テキサス州のテッド・クルーズ率いる上院共和党が、安価なロシア天然ガスの政治的脅威を繰り返し提起し、ノルドストリーム2への反対運動が燃え上がったのである。そのころには団結した上院が、クルーズがブリンケンに語ったように、「(パイプラインを)直ちに停止させる 」法律を成立させることに成功していた。当時、メルケル首相が率いていたドイツ政府からは、2本目のパイプラインを稼働させるために、政治的にも経済的にも大きな重圧がかかることが予想された。

バイデンはドイツに立ち向かうか?ブリンケンは「はい」と答えたが、次期大統領の見解について具体的な話はしていないと付け加えた。「ノルドストリーム2はまずいという次期大統領の強い信念は知っている。彼は、ドイツを含む我々の友好国やパートナー国に対して、あらゆる説得手段を用いて、これを進めさせないようにと指示してくるはずだ。」

数ヵ月後、2本目のパイプラインの建設が完了に近づくと、バイデンは瞬きをした。その年の5月には、国務省の高官が、制裁と外交でパイプラインを止めようとするのは「成功の見込みが低い」と認め驚くべき方向転換で、政権はノルドストリームAG社に対する制裁を撤回した。米政権幹部は水面下で、当時ロシアの侵略の脅威にさらされていたウクライナのゼレンスキー大統領に、この動きを批判しないようにと働きかけたと言われている

しかし、その結果はすぐさま現れた。クルーズ率いる上院共和党は、バイデンの外交政策担当官候補者全員を直ちに阻止すると発表し、年次国防法案の成立を数カ月、秋深まる時期にまで遅らせたのである。後に「ポリティコ」誌は、ロシアの第二パイプラインに関するバイデンの転向を、「この決定はおそらく無秩序なアフガニスタンからの軍事撤退以上に、バイデン政権にとって痛手になったようだ」と描写している

11月中旬、ドイツのエネルギー規制当局が2本目のノルドストリーム・パイプラインの認可を保留したことで、危機は脱したが、バイデン政権は低迷していた。

このパイプラインの停止と、ロシアとウクライナの戦争の可能性が高まっていることから、ドイツとヨーロッパでは、望まぬ寒い冬がやってくるのではないかという懸念が高まり、天然ガス価格は数日のうちに8%も急騰した。ドイツの新首相に就任したオラフ・ショルツの立ち位置は、ワシントンでは明確ではなかった。その数カ月前、アフガニスタン崩壊後、ショルツはプラハでの演説で、エマニュエル・マクロン仏大統領の「より自律的な欧州外交政策」を公式に支持し、明らかにワシントンやその気まぐれな行動への依存度を下げることを示唆していた。

この間、ロシア軍はウクライナ国境で着々と不気味に増強され、12月末には10万人以上の兵士がベラルーシとクリミアから攻撃できる態勢にあった。ワシントンでは、これらの兵力は 「すぐにでも倍増する 」というブリンケン氏の評価もあり、警戒感が高まっていた。

このような状況下で、再び注目されるようになったのが、ノルドストリームである。欧州が安価な天然ガスパイプラインに依存する限り、ドイツなどの国々は、ウクライナにロシアに対抗するための資金や武器を供給することをためらうだろうと考えたのだ。

バイデンは、このような不安定な状況下で、ジェイク・サリバンに省庁間のグループを結成し、計画を練ることを許可した。

すべての選択肢が話し合いの場に上ることになったが、そのうちのたった一つが浮上した。


プランニング


2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに進入する2カ月前、ジェイク・サリバンは、統合参謀本部、CIA、国務省、財務省の関係者で新たに結成したタスクフォースの会議を招集し、プーチンの侵攻が迫っていることへの対応策について提言を求めた。

ホワイトハウスに隣接し、大統領の対外情報諮問委員会(PFIAB)が置かれている旧執行部庁舎の最上階にある安全な部屋で、極秘会議の第1回が開かれた。そこでは、いつものように雑談が交わされ、やがて重要な事前質問がなされた。このグループから大統領への提言は、制裁措置や通貨規制の強化といった「可逆的」なものなのか、それとも「不可逆的」なものなのか、つまり、元に戻すことができない「動力学的行動(=武力行使)」なのか、ということだ。

このプロセスを直接知る関係者の話では、サリバンは、このグループに2つのノルドストリーム・パイプラインの破壊計画を提出させるつもりで、大統領の要望を実現させようとしていたことが、参加者の間で明らかになった。


その後、数回の会合を重ね、攻撃方法の選択肢を議論した。海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。空軍は、遠隔操作で爆発させることができる遅延信管付きの爆弾を投下することを提案した。CIAは、何をするにしても、秘密裏に行わなければならない、と主張した。関係者の誰もが、その重大なリスクを理解していた。「これは子供だましではない。もし、その攻撃(の責任の所在)が米国につながれば、『戦争行為になる』」とその関係者は言った。

当時、CIAは温厚な元駐露大使で、オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズが指揮をとっていた。バーンズはすぐにCIAのワーキンググループを承認し、偶然にもパナマシティの海軍深海潜水夫の能力を知る人物がそのメンバーに含まれていた。それから数週間、CIAのワーキンググループは、深海潜水士を使ってパイプラインを爆発させるという秘密作戦の計画を練り始めた。

このようなことは、以前にもあった。1971年、米国の情報機関は、ロシア海軍の2つの重要な部隊が、ロシア極東オホーツク海に埋設された海底ケーブルを介して通信していることを、まだ未公表の情報源から知った。このケーブルは、海軍の地方司令部とウラジオストクにある本土の司令部を結んでいた。

中央情報局と国家安全保障局の選り抜きのチームが、ワシントン地区のどこかに極秘裏に集結し、海軍のダイバー、改造潜水艦、深海救助艇を使って、試行錯誤の末、ロシアのケーブルの位置を特定することに成功したのである。ダイバーはケーブルに高性能の盗聴器を仕掛け、ロシアの通信を傍受し、録音システムに記録することに成功した。

NSA(国家安全保障局)は、ロシア海軍の幹部が通信回線の安全性を確信し、暗号化せずに仲間とおしゃべりしていることを知った。録音機とテープは毎月交換しなければならず、プロジェクトは10年間楽しく続けられた。 ロシア語が堪能なロナルド・ペルトンという44歳のNSAの民間技術者がこのプロジェクトを漏洩させるまでは。彼は、1985年にロシア人亡命者に裏切られ、実刑判決を受けた。たったの5000ドルを作戦を暴露した報酬としてロシアから受け取り、未公開に終わった他のロシアの作戦データに対しては3万5000ドルを受け取った。

コードネーム「アイビー・ベル」と呼ばれたその海中での成功は、斬新かつ危険を伴うものであり、ロシア海軍の意図と計画に関する貴重な知見をもたらすものであった。

しかし、CIAの深海諜報活動に対する熱意には、当初、省庁間グループも懐疑的であった。未解決の問題が多すぎたのだ。バルト海はロシア海軍の警備が厳重で、潜水作業の目隠しに使える石油掘削施設もない。ロシアの天然ガス積み出し基地と国境を接するエストニアまで行って、潜水訓練をしなければならないのか?CIAは「あまりに無謀だ」と言われた。

「このすべての計画の間、CIAと国務省の何人かは、『手を出すな。バカバカしいし、表に出れば政治的な悪夢になる 』と語っていた」と、この情報筋は言った。

それでも、2022年初頭、CIAのワーキンググループは「パイプラインを爆破する方法がある 」と、サリバンの省庁間グループに報告した。

その後に起こったことは驚くべきことだった。ロシアのウクライナ侵攻が避けられないと思われた3週間前の2月7日、バイデンはホワイトハウスのオフィスでドイツのオラフ・ショルツ首相(一時はぐらついたが今はしっかりと米国側についている)と会談した。その後の記者会見でバイデンは、「もしロシアが侵攻してきたら......ノルドストリーム2はもう存在してはならない。我々が終止符を打つ。」と挑戦的に言った。

その20日前、ヌーランド次官も国務省のブリーフィングで、ほとんど報道されることなく、基本的に同じメッセージを発していた。「今日、はっきりさせておきたいことがある」と彼女は質問に答えて言った。「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルドストリーム2は進展しないでしょう。」パイプライン・ミッションの計画に携わった何人かは、攻撃への間接的な言及と見られる言い方に呆然とした。

 

「東京に原爆を置いて、それを爆発させると日本人に言っているようなものだ 」と、その関係者は言った。「計画では、その選択肢は侵攻後に実行されることになっており、公には宣伝されないことになっていた。バイデンは単にそれを理解しなかったか、無視したのだ。」

バイデンとヌーランドの軽率な行動は、それが何であれ、計画者の何人かをいらだたせたかもしれない。しかし、それは好機でもあった。この情報筋によれば、CIAの高官の何人かは、パイプラインの爆破は 「大統領が、米国がそのやり方を知っていると公にしたので、もはや丸秘とは見なされない 」と判断したという。

ノルドストリーム1と2を爆破する計画は、突然、議会に報告する必要のある秘密作戦から、米国の軍事的支援を伴う高度な機密情報操作とみなされる作戦に格下げされたのである。「法律では、議会に報告する法的義務がなくなった。あとは、やるだけだ。しかし、それでも秘密でなければならない。ロシアはバルト海の監視に長けている。」とその情報筋は説明した。

CIAのワーキンググループのメンバーは、ホワイトハウスと直接のコンタクトがなかったので、大統領が言ったことが本心かどうか、つまり、この作戦が実行に移されるのかどうかを確かめようと躍起になっていた。彼は、「バーンズ長官が戻ってきて、『やれ』と言ったんだ」と回想した。


オペレーション


ノルウェーはその拠点として最適な場所だった。

東西危機の過去数年間、米軍はノルウェー国内でその存在を大幅に拡大してきた。西側の国境は北大西洋に沿って1400マイル(約2250km)も続き、北極圏の上でロシアと合流する。国防総省は、地元では賛否両論がある中で、数億ドルを投じてノルウェーの米海軍と空軍の施設を改修・拡張し、高給の雇用と契約を創出したのである。この新しい施設には、最も重要なこととして、ロシアを深く探知することができる高度な合成開口レーダーがずっと北の方にあり、ちょうど米国の情報機関が中国国内の一連の長距離傍受施設へのアクセスを失ったときに稼働したのである。

何年も前から建設が進められていた米国の潜水艦基地が新たに改修され、運用を開始した。さらに多くの米国の潜水艦が、ノルウェーと緊密に協力して、250マイル(約400km)東のコラ半島にあるロシアの主要核要塞を監視しスパイすることができるようになった。米国はまた、北部にあるノルウェーの空軍基地を大幅に拡張しボーイング社製P8ポセイドン哨戒機群をノルウェー空軍に提供し、ロシア全般の長距離監視を強化した。

その見返りとして、ノルウェー政府は昨年11月、国防補足協力協定(SDCA)を可決し、議会のリベラル派と一部の穏健派を怒らせた。この新協定では、北部の特定の「合意地域」において、基地外で犯罪を犯した米兵や、基地での作業を妨害したことで告発されたり疑われたりしたノルウェー国民に対して、米国の法制度が司法権を持つことになる

ノルウェーは、冷戦初期の1949年にNATO条約に最初に調印した国の一つである。現在、NATOの最高司令官はイェンス・ストルテンベルグだが、彼は熱心な反共主義者で、ノルウェーの首相を8年間務めた後、2014年に米国の後ろ盾を得てNATOの高官に就任した。彼はベトナム戦争以来、米国情報機関と協力関係にあったプーチンやロシアに関するあらゆることに強硬な人だった。それ以来、彼は完全に信頼されている。「彼は米国の手にフィットする手袋だ 」と、その情報筋は言った。

ワシントンに戻ると、計画担当者たちはノルウェーに行くしかないと思っていた。「彼らはロシアを嫌っていたし、ノルウェーの海軍は優秀な水兵やダイバーばかりで、収益性の高い深海の石油やガス探査に何世代にもわたって携わってきたのだ。また、この作戦を秘密にしておくことも可能であった。(ノルウェー側には他の利益もあったかもしれない。もし米国がノルドストリームを破壊することができれば、ノルウェーはヨーロッパに自国の天然ガスをより多く売ることができるようになるからだ。)

3月に入ってから、数人のメンバーがノルウェーに飛び、ノルウェーのシークレットサービスや海軍と打ち合わせをした。バルト海のどこに爆薬を仕掛けるのがベストなのか、それが重要な問題だった。ノルドストリーム1と2は、それぞれ2本のパイプラインがドイツ北東部のグライフスワルト港に向けて、1マイル余り(約1.6km)の距離で隔てられている。

ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れたバルト海の浅瀬にある適切な場所をいち早く見つけた。計4本のパイプラインは、水深260フィート(約80m弱)の海底を1マイル以上間を置いて走っている。ダイバーにとっては仕事のできる範囲だ。ダイバーはノルウェーのアルタ級掃海艇で海上に出て、タンクから酸素、窒素、ヘリウムを注入して、パイプラインの上にC4爆弾を設置し、コンクリートの保護カバーで覆う。 面倒で時間のかかる危険な作業だが、ボーンホルム沖は、潜水作業を困難にする大きな潮流がないことも利点であった。



少々の調査で、米側は皆乗り気になった。

この時点で、パナマシティにある海軍の無名の深海潜水集団が再び登場する。パナマシティの深海学校は、訓練生がアイビー・ベルに参加したこともあり、アナポリスの海軍兵学校を卒業したエリートには、行きたくない僻地と映ったようだ。彼らは通常、シール(訳者註:海軍特殊部隊)、戦闘機パイロット、潜水士に任命されるという栄光を求める。もし、「ブラック・シュー」、つまり、あまり好ましくない水上艦の司令部に所属しなければならないのなら、少なくとも駆逐艦、巡洋艦、水陸両用艦の任務は常にある。最も華やかさに欠けるのが機雷戦である。その潜水士がハリウッド映画に登場したり、人気雑誌の表紙を飾ったりすることはない。

「深海潜水の資格を持つ最高のダイバーは限られており、最高の能力を持つ者だけが作戦のために採用され、ワシントンのCIAに呼び出されるのを覚悟するように言われる」と情報筋は言う。

ノルウェーと米国は、場所と工作員を確保したが、もう一つ懸念があった。ボーンホルム海域で水中での異常な活動があれば、スウェーデンやデンマークの海軍の注意を引き、通報される可能性がある。

また、デンマークはNATOの当初の加盟国の一つであり、イギリスと特別な関係にあることで情報機関界隈では知られていた。スウェーデンは NATO 加盟を申請しており、水中音と磁気センサーシステムの管理で 優れた技術を発揮し、スウェーデン群島の遠隔海域に時々現れては浮上するロシアの潜水艦を うまく追跡していた。

ノルウェー側は米国側と歩調を合わせ、デンマークとスウェーデンの一部の高官に、この海域での潜水活動の可能性について一般論として報告する必要があると主張した。そうすれば、上層部の誰かが介入して、指揮系統から報告を排除することができ、パイプライン作戦を守ることができる。「彼らが聞いていたことと彼らが実際に知っていたことは、意図的に違っていた。」と情報筋は私に語った。(ノルウェー大使館に、この記事についてコメントを求めたが、返答はなかった。)

ノルウェーは、他のハードルを解決するカギを握っていた。ロシア海軍は、水中機雷を発見し、起動させることができる監視技術を持っていることが知られていた。米国の爆発物は、ロシアのシステムから見て、自然の背景の一部として見えるようにカモフラージュする必要があり、水の塩分濃度に適応させる必要があった。ノルウェー側は解決策を知っていた。

ノルウェー側は、この作戦をいつ行うかという重要な問題に対する解決策も持っていた。ローマの南に位置するイタリアのゲータに旗艦を置く米国第6艦隊は、過去21年間、毎年6月にバルト海でNATOの大規模演習を主催し、この地域の多数の連合軍艦船が参加してきた。6月に行われる今回の演習は、「バルト海作戦22」(BALTOPS 22)と呼ばれるものである。ノルウェー側は、この演習が機雷を設置するための理想的な隠れ蓑になると提案した。

米国側は、ある重要な要素を提供した。それは、このプログラムに研究開発演習を加えるよう、第六艦隊の計画担当者を説得したことだ。海軍が公表したこの演習は、第 6 艦隊が海軍の「研究・戦争センター」と共同で行うものであった。ボーンホルム島沖で行われるこの海上演習では、NATOのダイバーチームが機雷を設置し、最新の水中技術で機雷を発見・破壊して競い合うというものであった。

これは有益な訓練であると同時に、巧妙な偽装でもあった。パナマ・シティーの若者たちは、BALTOPS22の終了までにC4爆薬を設置し、48時間のタイマーを取り付ける。米国人とノルウェー人は、最初の爆発が起こる頃には全員いなくなっている、と言う作戦だ。

カウントダウンは始まっていた。「時計は時を刻み、我々は任務達成に近づいていた」とその情報筋は言った。

そして、その時。ホワイトハウスは考え直した。爆弾はBALTOPSの期間中も仕掛けられるが、ホワイトハウスは爆発までの期間が2日間では演習の終了に近すぎるし、米国が関与したことが明らかになることを懸念したのである。

そこで、ホワイトハウスは新たな要求を出した。「現場の連中は、事後に、命令したタイミングでパイプラインを爆破する方法を考えてくれないだろうか?」

この大統領の優柔不断な態度に、計画チームの中には怒りやいらだちを覚える者もいた。パナマ・シティのダイバーたちは、BALTOPSに向けてパイプラインにC4を仕掛ける練習を繰り返した。しかし、今やノルウェーのチームが、バイデンの好きな時に実行する方法を考え出さなければならなかったのだ。 

恣意的で直前の変更を任されることは、CIAには慣れたことであった。しかし、その一方で、この作戦の必要性と合法性についての懸念も生じていた。

この大統領の秘密指令は、ベトナム戦争時代のCIAのジレンマも思い起こさせた。反ベトナム戦争感情の高まりに直面したジョンソン大統領は、CIA憲章(特に米国内での活動を禁じている)に違反し、反戦指導者が共産主義ロシアに支配されていないかどうか監視するよう命じたのである。

CIAは最終的にはこれを容認し、1970年代に入ると、CIAがどこまでやる気だったかが明らかになった。ウォーターゲート事件以降、米国市民へのスパイ行為、外国人指導者の暗殺への関与、サルバドール・アジェンデの社会主義政権(チリ)の弱体化などが新聞で明らかにされた。

これらの暴露は、1970年代半ばにアイダホ州のフランク・チャーチを中心とする上院での一連の劇的な公聴会につながり、当時のCIA長官リチャード・ヘルムスが、たとえ法律に違反することになっても大統領の望むことを行う義務があることを認めていたことを明らかにしたのである。

ヘルムズは非公開、未発表の証言で、「大統領の密命で『何かをするときは、ほとんど何でも許されるものだ』。それが正しいとか、間違っているとか、どうでもいいのだ。(CIAは)政府の他の部署とは異なる規則や基本ルールの下で機能している」と残念そうに説明した。要するにヘルムズが上院議員たちに言っていたのは、自分はCIAのトップとして、憲法ではなく王室(のように振る舞う大統領)のために働いてきたということだ。

ノルウェーで働く米国人たちも、同じような行動様式のもとで、バイデンの命令でC4爆薬を遠隔で爆発させるという新しい問題に、ひたすら取り組み始めた。しかし、これはワシントンの研究者たちが想像していたよりも、はるかに困難な課題であった。ノルウェーのチームには、大統領がいつボタンを押すか分からない。数週間後なのか、数カ月後なのか、半年後なのか、それ以上なのか。

パイプラインに取り付けられたC4は、飛行機が投下するソナーブイによって短時間に作動するが、その手順には最先端の信号処理技術が使われていた。4本のパイプラインに取り付けられた遅延装置は、設置後、船舶の往来が激しいバルト海では、近海・遠海の船舶、海底掘削、地震、波、海の生物など、海のバックグラウンドノイズが複雑に混ざり合い、誤って作動する可能性があった。これを避けるため、ソナーブイは、設置されると、フルートやピアノが発するような独特の低周波音を連続して発し、それをタイミング装置が認識して、あらかじめ設定された時間遅延後に爆発物を作動させる。(「他の信号が誤って爆発させるパルスを送らないような強固な信号が必要だ」とMITの科学技術・国家安全保障政策名誉教授セオドア・ポストル博士は筆者に語った。ペンタゴンの海軍作戦部長の科学アドバイザーを務めたこともあるポストル博士は、ノルウェーのグループが直面している問題は、バイデンの命令が遅くなればなるほどリスクが高まることだと言った。「爆薬が水中にある時間が長ければ長いほど、ランダムな信号によって爆弾が発射される危険性が高くなる。」)

2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が一見日常的な飛行を行い、ソナーブイを投下した。その信号は水中に広がり、最初はノルドストリーム2に、そしてノルドストリーム1にも届いた。数時間後、高出力C4の爆発物が作動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能に陥った。数分後には、停止したパイプラインに残っていたメタンガスのプールが水面に広がり、取り返しのつかないことが起こったことを世界中が知ることになった。


その後


パイプライン爆破事件の直後、米国メディアはこの事件を未解決のミステリーのように扱った。ホワイトハウスの意図的なリークに煽られて、ロシアが犯人と繰り返し名指しされたが、単なる報復以上に、自虐的な行為の明確な動機が確立されるには至らなかった。数ヵ月後、ロシア当局がパイプラインの修理費用の見積もりをひそかに取っていたことが明らかになると、ニューヨーク・タイムズ紙はこのニュースを「攻撃の背後にいる人物についての説を複雑にしている」と評した。以前バイデンやヌーランド国務次官によるパイプラインへの脅しがあったことについて掘り下げる米国の主要紙は皆無であった。

ロシアがなぜ、利益の大きい自国のパイプラインを敢えて破壊するのかが明確に説明されることはなかったが、逆にブリンケン国務長官の次の発言が、大統領の行動の動機をより明確にするようなものだった。

昨年9月の記者会見で、西ヨーロッパで深刻化するエネルギー危機の影響について問われたブリンケンは、この瞬間は潜在的に良いものであると述べたのである。

「ロシアのエネルギーへの依存を一掃し、帝国主義を推進するプーチンからエネルギーの武器化と言う手段を取り上げる絶好の機会である。このことは非常に重要であり、今後何年にもわたって戦略的な機会を提供する。しかし一方で、我々は、このすべての結果が我々の国々の市民や、それどころか世界中の市民に負担をかけないようにするために、できる限りのことをする決意である。」

最近になって、ヴィクトリア・ヌーランドは、パイプラインの終焉に満足感を表明した。1月下旬に上院外交委員会の公聴会で証言した彼女は、テッド・クルーズ上院議員に対して、「ノルドストリーム2があなたの言うように海の底の金属の塊になったことを知り、私も、そして政府も非常に喜んでいる」と語った。

情報源の人は、冬が近づくのにもかかわらずガスプロムの1500マイル以上のパイプラインを破壊するというバイデンの決定について、より通俗的な見方をしていた。彼は、大統領について、「あの男は度胸があると認めざるを得ない。 やるって言ったんだから、やったんだ」 と言った。

ロシアが対抗措置を取らなかった理由は何だと思うかと聞いたら、彼は「ロシアも、米国と同様のことができるようにしておきたかったのではないか」と皮肉った。

「表紙を飾るには美しいストーリーだった。その背景には、専門家を配置した秘密作戦と、秘密の信号で作動する装置があった。」

「唯一の欠陥は、それを行うという決定だった。」と彼は言った。 

(翻訳 以上)

Monday, January 16, 2023

CIAの宿敵シャルル・ド・ゴールの孫が、欧米のウクライナ政策を非難する:ジェレミー・クズマロフ(日本語訳)Grandson of Charles de Gaulle, an Old CIA Nemesis, Condemns West’s Policy in Ukraine: Jeremy Kuzmarov (Japanese Translation)

 See HERE for Dennis Riches' full English translation of the interview with Pierre de Gaulle. 

レイチェル・クラークさんの訳による記事を紹介します。クラークさんのフェースブックに掲載された記事を、彼女と、著者のクズマロフさんに許可をもらって転載します。(注:訳はアップ後微修正することがあります)

著者:ジェレミー・クズマロフ 訳者:レイチェル・クラーク

媒体:コバート・アクション・マガジン

タイトル:

「CIAの宿敵シャルル・ド・ゴールの孫が、欧米のウクライナ政策を非難する」

原題:

Grandson of Charles de Gaulle, an Old CIA Nemesis, Condemns West’s Policy in Ukraine


訳者イントロ:

NATO諸国の足並みが、必ずしも揃っていないこと、特にフランスには独自の外交路線が存在することを物語る記事が出ました。筆者の許可を頂いて、以下に拙訳を投稿します:

Pierre de Gaulle [Source: rt.com]


ジェレミー・クズマロフ著 - 2023年1月11日
〜 米国とNATOが紛争を引き起こし、欧州の人々を苦しめていると言う 〜
フランスのシャルル・ド・ゴール元大統領の孫であるピエール・ド・ゴールは、米国がウクライナ紛争を煽り、ロシアに対して事前に計画された経済戦争を仕掛けて、ヨーロッパ人を苦しめていると述べている。
企業コンサルタントで銀行経営者のピエール氏は12月26日、「仏露対話協会」に対し、こう語った。「私はウクライナ危機におけるこの知的不誠実に反旗を翻し、抗議する。なぜなら、戦争の引き金は米国とNATOにあるのだから。米国は軍事的にエスカレートし続け、ウクライナの人々だけでなく、ヨーロッパの人々も苦しめている」 と。
ピエールはこう続けた。「制裁の規模と数からして、これらはすべてかなり前から計画されていたことだ。これは経済戦争であり、米国はその恩恵に浴している。米国は国内価格の4倍から7倍の値段でガスをヨーロッパに売っているのだ。」
ピエールによれば、「フランスの世論は、今日の米国人の悪巧みが何であるかを理解し始めている。米国はウクライナ危機を利用して、嘘をつき、......ヨーロッパを不安定にさせることに成功した。米国は、いわばヨーロッパをロシアから切り離し、ヨーロッパ人をロシア人に対抗させたのだ。なぜそんなことを? なぜなら、ロシアと同盟関係にあるヨーロッパは、政治的にも経済的にも、文化的にも社会的にも強いブロックになり得るからだ。ベトナム戦争とそれに続く経済危機以来、米国人は常に力、狡猾さ、その他の不正な手段によって、経済的・政治的影響力の喪失を埋め合わせようとしてきた。それは不可避ではあるが。特に、米国人は、ドルが唯一の...世界交換通貨としての地位を失うのを遅らせようとしている。そしてこの政策は続いている。」
〜 CIAのターゲット 〜
シャルル・ド・ゴールは、第二次世界大戦中のナチス占領に対するフランスのレジスタンスの英雄で、その後1959年から1969年までフランス大統領を務めた。
ベトナム戦争に反対し、米軍兵士をフランス軍基地から追い出すなど、ジョンソン政権を怒らせたドゴールの殺害計画に、CIAが1965年に関与していたことが、機密指定を解除された文書によって明らかになった。
ドゴールは、1966年にNATOから軍を撤退させ、ソ連との交渉を開始、モスクワを何度も訪問し、貿易協定を結ぶなど、対ソ政策も先進的であった。
1961年に暗殺に失敗した後、アルジェリア支配を放棄したドゴールを憎む右派の軍人たちがCIAに接近し、ドゴールが登場するレセプションに出席する老兵たちの中に毒入り指輪をつけた工作員を潜り込ませるという暗殺計画を練り上げた。ドゴールが握手を求めると、彼が倒れ、暗殺者は群衆の中を悠然と歩き去るというものであった。(訳者註:結局ドゴールは暗殺ではなく、心臓発作で1970年に自宅で亡くなりました。享年79歳)
〜 祖父シャルルの志を継ぐ 〜
ピエール・ドゴールは、6月のロシア連邦の建国記念日にパリのロシア大使館でスピーチ を行った。彼の祖父は、ロシアがヨーロッパの安定に貢献する友好国として不可欠な存在であると見ていた、とピエールは言及した。「祖父はこういった。『ナポレオンがアレクサンドル1世を攻撃したことは、彼の最大の過ちであった。彼の自由意志でやったことで、我々の利益、我々の伝統、我々の才能に反していた。我々の退廃はナポレオンとロシアとの戦争から始まったのだ』」。
ロシアとフランスの国民が「長年の友情とナチスに対して流された血によって」結ばれていることを強調し、ピエールは、「ロシアとの良好な関係を維持することがフランスの利益であることをもう一度はっきりと確認し、我々の大陸の連合と安全、そして全世界のバランス、進歩、平和に役立つために協力しなければならないと言うためにここに来た」と述べた。
ピエールの考えでは、「ロシア国民全体に向けられた押収と差別の組織的かつ盲目的な政策」[制裁のこと]は 『スキャンダラス 』であった。フランスのエリートたちは、米国とNATOに味方し、ドンバスのロシア語を話す人々に対するウクライナ政府の 『無謀で』、『非難すべき政策(差別、略奪、禁輸、爆撃を伴う)』によって、彼の祖父の遺産を裏切った」のである。
ピエールによれば、「西側諸国は、ゼレンスキーとそのオリガルヒ、ネオナチ軍団が戦争のスパイラルに陥ることを許し、その盲目さがウクライナ国民に深刻な結果をもたらしているのである。しかし、間違えてはいけない。米国は何がしたいのか。それは、新たな東西対立を引き起こすことではなく、自分たちの指図、経済、システムを押し付けるために、ヨーロッパを弱め、分裂させることである。」
さらにピエールは、米国も西欧も、1991年の困難な移行とそれに続く再建の後、ロシアが彼らの一極集中の世界に適合しないこと、またロシアが西欧のモデルに従って、独自の方法で自らを変革すべきことを決して受け入れなかったと指摘した。そのため、プーチン大統領は当初から独裁者と見なされていたが、彼はロシアにとって偉大なリーダーなのだ、と述べた。
彼はこう続けた。「米国は、世界の国際貿易の決済において支配的な通貨であるドルの役割が失われることも、決して受け入れなかった。」
ピエールの言葉は、米国の耳にも、フランスのエリートの耳にも異端である。しかし、進歩的な運動が受け入れるべき、素晴らしく現実的なビジョンを提示している。
ピエールは最後に、祖父がロシアを愛していたことに触れて演説を終えた。「歴史の中で最も困難な時であっても、ロシアと強固な共有関係を築き、それを維持することが不可欠であることを常に支持し、擁護してきた。ドゴール将軍の言葉をもう一度引用する。『フランスでは、ロシアを敵だと思ったことは一度もない。私は、仏露友好の発展に賛成である。そして、ソビエト・ロシアと戦うような人々に武器を送ったことはないし、これからも送ることはないだろう』」。

著者:
ジェレミー・クズマロフ: コバートアクション誌の編集長。
米国の外交政策に関する4冊の著書がある:
「オバマの終わらない戦争」(Clarity Press、2019年)、
ジョン・マーシアーノとの共著「ロシア人がまたやってくる」(The Russians Are Coming, Again)(Monthly Review Press、2018年)など。

(翻訳以上)

参考資料

Sunday, January 08, 2023

国会請願署名・オンライン署名に参加してください「辺野古新基地建設の断念を求めます」 Stop the new US Marine Corps base in Henoko, Okinawa with your signature!

Please sign the online petition to stop construction of the new US Marine Corps base in Henoko, Okinawa. 

2023年もピース・フィロソフィーセンターをよろしくお願いします。不定期になりますが重要な情報や記事をアップしていこうと思います。

沖縄・辺野古に、自衛隊も使うであろう海兵隊新基地の建設強行が続いていますが、「辺野古基地を造らせないオール沖縄会議」が行っている国会請願署名・オンライン署名を紹介します。この画像をクリックして指示にしたがってください。国会請願署名は日本に住所のある人が対象ですが、オンライン署名には海外に住む人も署名できます。


この署名に寄せるメッセージを依頼されたので私はこのようなメッセージを送りました。

アジア太平洋戦争で、米国は大日本帝国を倒すだけでは収まらず80年近く経った今も日本と朝鮮半島の南側を軍事占領したままです。今、日本による沖縄の植民地支配を利用して、中国と朝鮮に対する敵視政策を強化し、東アジアを再び戦禍に陥れようとしています。その戦略の中枢にある琉球弧全体の基地化を許すことはできません。日本人の愚かな対米従属の犠牲は日本人自身が担うべきであって沖縄人ではありません。辺野古基地反対。

乗松聡子 Satoko Oka Norimatsu 

ピース・フィロソフィーセンター代表/「平和のための博物館国際ネットワーク」(INMP)共同コーディネーター/「アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス」エディター/バンクーバー9条の会・カナダ9条の会運営メンバー/「ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーン」実行委員

Friday, December 30, 2022

「銃を後ろに向けろ!敵と味方を間違えるな」 ~高知「草の家」と槇村浩との出会い~ :「草の家だより」寄稿転載 My article from the Dec 24 2022 edition of the quarterly newsletter of Grassroots House, a peace museum in Kochi

高知の平和資料館「草の家」への訪問については12月14日の投稿

高知の平和資料館「草の家」による声明 「大軍拡ではなく、今こそ平和外交を!!」

で触れました。「草の家」が年4回発行するニュースレター「草の家だより」の12月24日号に寄稿した記事をここに転載します(写真はブログ運営者が付け加えたものです)。



 「銃を後ろに向けろ!敵と味方を間違えるな」

~高知「草の家」と槇村浩との出会い~

乗松聡子

9月の高知の旅は忘れられない。「草の家」で働いていた山根和代さん、金英丸さんはどちらも心から尊敬する平和のための仲間であり、二人が愛したこの場所に早く行きたかった。現地では、岡村正弘館長はじめ皆さんが歓迎してくださった。館長の高知空襲体験談は、カナダに戻った後に冊子『僕が見た高知大空襲』(写真→)で読み、涙が止まらなかった。

 9月15日、雨降る中、副館長の岡村啓佐さんの案内で「高知平和と自由民権ツアー」(と私が勝手に名付けている)に連れていってもらった。海軍航空隊の遺跡である「南国市の掩体群」を見たときは驚いた。18年に済州島に行ったときに旧日本海軍のアルドゥル飛行場跡で見た格納庫群とそっくりだったからだ。(写真↘)

 アルドゥル飛行場は「南京大虐殺」に先駆けて行われた空爆の起点とされた。現地の人々は毎年12月13日(1937年の南京城陥落の日)に格納庫前で南京大虐殺の追悼集会を行っている。植民地支配下、朝鮮人を動員し建設した飛行場を使い日本軍が行った行為であるのに、現地の人は寒空の下「南京」を記憶している。今年は85周年の重要な節目だ。

南国市「前浜掩体群」の一つ(5号掩体)

 高知の人たちも戦争の教訓を忘れないためにこの物々しい掩体群を保存しているということに感銘を受けた。南国市の説明板には、地元住民の他に「高知刑務所の受刑者、朝鮮半島から強制的に連れて来られた朝鮮の人々」などが動員されたと記されていた。

 ツアーで圧巻だったのは「日中不再戦の碑」である(末尾↓に写真)。添え石には「日本は日清戦争以来、中国に対し侵略行為を続け、特に1931年の『満州事変』以後、15年間に及ぶ戦争は人道をおかす三光作戦などによって1千万余の中国人民を殺傷した。この碑は日中国交回復20周年にあたり侵略戦争に対する反省の証として、またゆるぎない友好と平和の礎とするため建立された」とある。

槇村浩「間島パルチザンの歌」碑

その近くにはまさしくその戦争を批判して弾圧されたプロレタリア詩人槇村浩の「間島パルチザン」詩碑(写真→)があり、「天皇制特高警察の野蛮な拷問がもとで1938年わずか26歳で病没した」との説明が!私は衝撃と感動を覚えた。これらは高知市立の城西公園にある。翌日訪問した市立の「自由民権記念館」も日本の侵略戦争を明記していた。戦争の本質を歪曲することなく継承している地である。

「日中不再戦の碑」の写真をさっそく南京の友人に送ったらとても喜んでいた。今年は記念すべき日中国交正常化50年であるのに、日本を含む西側諸国では今、一方的な中国敵視報道が荒れ狂っている。「戦争は人の心の中で生まれる」とあるユネスコ憲章に照らし合わせれば、すでに戦争状態にあると言っても過言ではない。「加害」「被害」「抵抗」「創造」をモットーに平和を発信する「草の家」の存在意義はこれから高まるばかりであろう。

「銃を後ろに向けろ!敵と味方を間違えるな」-槇村浩が1932年4月に投獄される直前、高知の朝倉にあった歩兵第四十四聯隊に撒いた反戦ビラの見出しにはドキっとした(草の家ブックレット⑬『槇村浩に会いに・・・』に収録されている2002年の西森茂夫館長の講演より)。(写真→)まさしく今求められている反戦のメッセージはこれである!と思った。

私が「草の家」で講演させていただいたときに触れた、ウクライナ戦争についての西側メディアのロシア敵視一辺倒の問題にも通じるメッセージである。政府とメディアに繰り返し憎むように教えられた対象よりも、その憎しみを植え付けているのは誰かということを冷徹に見抜く力が今、市民に求められている。戦争の教訓を活かし、戦争を防ぐために。

(転載以上)

日中不再戦の碑


「草の家」のHPはここ、ブログはここにあります。高知に行くときはぜひ訪れてみてください。

槇村浩「間島パルチザンの歌」は、ここで読めるようです。


新年もよろしくお願いします。 @PeacePhilosophy 



Sunday, December 25, 2022

「ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーン」主催「徴用工問題」を考える連続講演会 第一回 高橋哲哉「終わりなき歴史責任とは何か」January 15 Lecture By Takahashi Tetsuya: What is Endless Historical Responsibility? Part I of the Lecture Series on the Issue of Japanese Wartime Forced Mobilization of Koreans

 Peace Philosophy Centre も協力団体となっているオンライン講演会のお知らせです。ふるってご参加ください。参加申し込みリンクはここです。


釜山日本領事館そばの公園にあった強制徴用労働者像(2019年7月23日撮影)


ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーン

「徴用工問題」を考える連続講演会


 解決が求められながら日韓間の懸案問題として混迷が続く「徴用工問題」とは何なのか。解決を妨げているのは何なのか。その根本にさかのぼって考えるため、3回連続の講演会を開催します。

 第1回は、植民地支配責任を世界史的視野に立って考えます。植民地支配とその責任を問う視点を提示したダーバン宣言(2001年)の意義と限界を踏まえ、その後の20年間に旧植民地宗主国が示してきた謝罪と和解のための努力を振り返ります。私たちは、終わらない過去にどのように向き合い、どのように「克服」していく必要があるのか、高橋哲哉さんに問題提起してもらいます。

 第2回は、植民地支配責任を国際法的視点から考えます。国際人権法を基軸に、植民地主義の現在をどのように解析するか、阿部浩己さんに問題提起してもらいます。

 第3回は徴用工問題に焦点をあて、解決のために何が必要かを考えます。

 ****

1回 2023115日(日)13001540


「終わりなき歴史責任とは何か」

 

講演:高橋哲哉さん(東京大学名誉教授)


 イントロダクション:矢野秀喜さん(強制動員問題解決と過去清算のための共同行動事務局)


 ◆場所:オンライン(Zoomミーティング)

◆参加申し込みはこちらをクリックしてください

 ※参加を申し込んだ方には当日参加用のZoomリンクをお送りします。

 ※当日参加できなかった場合も、後日、期間限定で視聴可能です(参加申込者に限る)。

◆参加費: 無料(カンパ歓迎)

 ※カンパ振込先:

多摩信用金庫(金融機関コード1360)京王八王子支店(店番号042)
  口座番号0417868
  ダーバン+20あたりまえキャンペーン 代表前田朗(まえだ あきら)

 

****今後の予定****

2回 2023326日(日)

「国際法の視点から植民地支配責任を考える(仮)」

 講演:阿部浩己さん(明治学院大学教授)

 

3回 20235月頃(準備中)

 徴用工問題の解決に向けて何が必要かを考えます。


主催:ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーン

https://durbanplus20japan.blogspot.com/

協力:アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)、強制動員問題解決と過去清算のための共同行動、市民外交センター、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)、Peace Philosophy Centre、ヒューライツ大阪

 

★「ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーン」紹介

私たちは、2001年のダーバン会議(人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議)から20年目となる2021年に、

ダーバン反差別世界会議とは何だったのか?

植民地主義をいかに乗り越えるか?

ブラック・ライヴズ・マターBLMは何を求めているか?

新型コロナはマイノリティを直撃していないか?

ダーバン宣言20周年を私たちはどう迎えるか?

レイシズムを克服するために何が必要か?

という問いを掲げて、「ダーバン+20」キャンペーンを立ち上げ、ダーバン宣言と行動計画を基礎に、次の10年に向けた反差別と人権運動を呼びかけました。

2023年もこの問いに向き合い、皆さんと対話を続けます。

https://durbanplus20japan.blogspot.com/p/about.html