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Wednesday, February 08, 2017

ジョン・ピルジャー『きたる対中戦争』John Pilger: The Coming War on China

 ドナルド・トランプは2016年のニューヨーク・タイムズとのインタビューで、米国は世界の警察官をやめて国防費を削減すると主張していた。彼が国防長官に任命したジェームズ・マティスは、就任早々の2月2日に韓国、続く3日に日本を訪問した。そこで確認されたのは、2017年内のTHAAD配備尖閣諸島にも安保条約第5条が適用されること、普天間基地の移設問題については名護市辺野古沖が唯一の移転先など、オバマ政権が進めてきた軍事力による支配を継続する内容だった。これが中国を刺激するのは当然の成り行きだ。マティス国防長官はトランプ政権の閣僚の中で最も「まとも」だと言われるが、それは従来の政策からの乖離が少ないという意味でもある。トランプの中で従来路線の堅持が固まっているのなら、軍事費の総額が減るはずもなく、真意は世界の警察官をやめることではなく、軍事費をさらに他国に肩代わりさせることに違いない。
 今回紹介するジョン・ピルジャーの記事は、先鋭的な暴露記事で知られるアメリカの雑誌『カウンターパンチ』電子版に掲載されたもので、彼が最近制作したドキュメンタリー映画と同じタイトルが付けられ、オバマ政権下で準備されてきた中国を仮想敵国とする軍事政策を、トランプが継承したことが語られている。マティスが今回確認したのは、そのような対中戦争準備に他ならない。

翻訳・前文:酒井泰幸
文中の[ ]内は訳者注。

『きたる対中戦争』


ジョン・ピルジャー著

2016年12月2日

 1967年に私が初めて広島へ行ったとき、石段に付いた影はまだそこにあった。休んでいる人間の姿がほぼ完全な形で刻印されたものだった。両足を広げ、背中を丸め、片手を傍らに置いて座り、銀行の開店を待っていた。1945年8月6日の朝8時15分、彼女と影法師は花こう岩に焼き付けられた。私はその影を1時間以上見つめていた。それを忘れられずにいる。何年も経って再びその場所を訪れたとき、その影は無くなっていた。撤去され「消滅した」。政治的に恥ずべきことだ。(訳注1)

 私は2年をかけてドキュメンタリー映画『きたる対中戦争』(Coming War on China) を制作した。この映画が証拠と証言で警告するのは、核戦争がもはや影ではなく、偶発的に起こり得ることだ。アメリカが率いる軍事力の蓄積は第二次世界大戦後最大規模で進んでいる。それは北半球にあって、ロシアの西部国境とアジア太平洋地域で中国と対峙している。

 これが招き寄せる大きな危険は目新しいものではないが、埋没し歪曲されている。20世紀の大半にわたり人々の意識に埋め込まれてきた精神病的な恐怖を、主流メディアの捏造記事が、こだまする太鼓のように繰り返す。

 ソビエト崩壊後のロシアの再興と同様に、中国が経済大国として勃興したことは、アメリカ合州国が人間社会を支配する神権の「存続に対する脅威」だと宣言する。

 これに対抗するため、2011年にオバマ大統領が発表した「アジア基軸戦略」は、2020年までに米海軍のほぼ3分の2をアジアと太平洋に移転することを意味するものだった。現在、400以上の米軍基地が、ミサイル、爆撃機、軍艦、そして何より核兵器で中国を包囲している。オーストラリアから太平洋を北進し、日本と、朝鮮半島、ユーラシア大陸の反対側のアフガニスタンとインドまで、基地が「完全な輪」を作っていると、ある米国の戦略家はいう。

 ベトナム以来アメリカの戦争を立案してきたランド研究所の報告書は、「中国との戦争:考えられないことを通して考える」と題されている。米陸軍に委嘱された著者たちが、このタイトルで思い起こさせるのは、冷戦だ。当時、ランド研究所の主席戦略家ハーマン・カーンが作ったキャッチフレーズ「考えられないことを考える」は悪名高い。カーンの著書『熱核戦争について』では、ソビエト連邦に「勝てる」核戦争の計画を詳しく述べた。

 現在、カーンの終末論的な見通しを共有しているのは、アメリカ合州国で実権を握る人々、つまり、行政機関、ペンタゴン、諜報機関、「国家安全保障」を牛耳る人々、そして議会の中にいる軍事専門家とネオコンたちだ。

 国防長官のアシュトン・カーター[執筆当時]は、挑発的な発言の多いことで知られるが、「アメリカから支配権を奪い取りたいと望む」者たちと対決するのが米国の政策だと言っている。

 外交政策での打開を図る試みにもかかわらず、この見解はほぼ確実にドナルド・トランプのものと同じだ。彼が選挙戦で放った暴言には、中国はアメリカ経済の「レイピスト」だというものもあった。12月2日に、中国を直接挑発する形で、トランプ次期大統領は台湾の総統と話した。中国は台湾を本土への反乱地域と見なしている。アメリカのミサイルで武装した台湾は、ワシントンと北京の間にくすぶる消えない火種だ。

 ジョージ・ワシントン大学で国際情勢が専門のアミタイ・エツィオーニ教授は次のように書いた。「アメリカ合州国は中国との戦争を準備しており、これは重大な決定だが、現在まで選出議員、つまりホワイトハウスと議会による、徹底的な検討を受けることがなかった」。またこの戦争は「中国の地上・海上のミサイル発射装置…衛星と衛星攻撃兵器などの接近阻止施設に対する目くらまし攻撃」で始まるだろう。

 この計り知れないリスクは、「内陸部への攻撃が中国の核兵器を無力化する先制攻撃と誤認されかねず、『使わなければ負ける』の恐ろしいジレンマへと追い込み、核戦争につながる(かもしれない)」ことだ。

 2015年に、ペンタゴンは戦時法規マニュアルを公表した。それによれば、「アメリカ合州国は核兵器の使用自体を禁止する条約法を受け入れていないので、核兵器はアメリカ合州国にとって合法的な兵器である」。

 中国では、ある戦略家が私に語った。「我々はあなた方の敵ではないが、もし(西側陣営の)あなた方が我々を敵とするなら、我々は遅滞なく準備しなければならない」。中国の軍隊と兵器はアメリカに比べれば小さい。しかし、「憂慮する科学者同盟」のグレゴリー・カラキーは次のように書いた。「初めて中国は核ミサイルを厳戒態勢に置くことを議論している。攻撃の警告があれば速やかに打ち上げ可能にするためだ…。これは中国の政策における重大で危険な変化となる…。実際、アメリカ合州国の核兵器政策は中国核戦力の警戒レベルを引き上げるよう中国の主唱者に影響を与える最大の外部要因だ」。

 テオドール・ポストル教授は米海軍作戦本部の科学顧問だった。核兵器の権威である教授は私にこう語った。「ここにいる全員が、自分はタフガイだと見られたいと思っています。私がタフであろうとするなら…私は軍事行動を恐れず、脅迫を恐れず、胸毛だらけのゴリラであることが必要です。私たちが陥っている状況は、アメリカ合州国はおびただしい軍事力を誇示する状況で、実はこれをトップが画策しているのです」

「これは非常に危険な状況に見えます」と私は言った。

「それは過小評価というものです」。

 2015年に、並々ならぬ秘密に包まれて、米国は冷戦以後では単一で最大の軍事演習を実施した。これは「タリスマン・セーバー(加護の剣)」と呼ばれ、大艦隊と長距離爆撃機を使ってマラッカ海峡のシーレーンを封鎖し、中国が石油、ガスその他の原材料を中東とアフリカから入手できないようにする、「対中国エアシー・バトル(空海一体戦)構想」(ASB)のリハーサルだった。

 このような挑発と米海軍による海上封鎖への恐怖こそ、中国が紛争の渦中にある南シナ海の南沙諸島の珊瑚礁と小島に戦略的な飛行場を無我夢中で建設している理由なのだ。昨年7月に、国連の常設仲裁裁判所は、中国が主張するこれらの島々の統治権は認められないと裁定した。この訴訟はフィリピンが起こしたものだったが、訴状を提出したのはアメリカとイギリスの著名な弁護士で、さらに元をたどればヒラリー・クリントン米国務長官に行き着く。

 2010年に、クリントン国務長官はマニラに飛んだ。彼女はアメリカの元植民地フィリピンに、閉鎖された米軍基地の再開を要求した。この基地が1990年代に閉鎖されたのは、基地が作る暴力、特にフィリピン人女性に対する暴力に対する大規模な反対運動の結果だった。南沙諸島はアメリカ合州国から1万2千キロ以上離れているが、中国がその領有を主張していることについてクリントンは、米国の「国家安全保障」と「航行の自由」への脅威と宣言した。

 数百万ドル分の武器と軍装備品を受け取った、当時のベニグノ・アキノ大統領政権は、中国との二国間交渉を離脱し、米国との秘密の防衛協力強化協定(EDCA)に署名した。この協定により、輪番で駐留する5つの米軍基地を開設し、米軍と請負業者はフィリピン国内法の縛りを受けないという、忌み嫌われた植民地条項が復活した。

 ロドリーゴ・ドゥテルテが4月に大統領に選出されたことで、ワシントンに動揺が走った。自称社会主義者のドゥテルテは、「フィリピンと世界の関係において、フィリピンは独自の外交政策を進める」と宣言し、アメリカ合州国は植民地への残虐行為に対して謝罪していないと指摘した。「私はアメリカと決別する」とドゥテルテは言い、米軍の追放を約束した。だが米国はフィリピンに留まり、合同軍事演習が継続する。

 「インフォメーション・ドミナンス(情報支配)」とは、メディア操作、つまり偽ニュースを指す業界用語で、これにペンタゴンは40億ドル以上を費やしている。2014年に、情報支配の名のもとに、オバマ政権は世界最大の通商国である中国を、「航行の自由」への脅威と見なす宣伝活動を開始した。

 CNNが先頭を切って、「国家安全保障担当記者」が南沙諸島上空を偵察飛行する米海軍機上から興奮気味に伝えた。BBCは怖じ気づくフィリピン人パイロットを説得して単発エンジンのセスナ機で係争中の島々の上空を飛び、「中国がどう反応するか見た」。この記者たちの中に、なぜ中国が自国の海岸線より沖合に飛行場を建設していたのか、またなぜ米軍が中国の玄関口に集結していたのかを問う者はいなかった。

 最高位の伝道者に指名されたのは、アメリカ太平洋軍司令官のハリー・ハリス海軍大将だ。「私の責任範囲は、ボリウッド(インド映画産業)からハリウッドまで、ホッキョクグマから南極のペンギンまで含む」とハリス大将はニューヨーク・タイムズに語った。帝国支配をここまで端的に表明した例はなかった。

 ハリス大将はペンタゴンの陸海空軍大将たちの一人として、選ばれた従順なジャーナリストや放送記者たちに、脅威を正当化する目的を説明する。それは、イラクと中東の大部分を破壊したことを、ジョージ・W・ブッシュ大統領とトニー・ブレア首相が正当化したのと同じように、見掛け倒しの説明だ。

 ロサンゼルスで9月に、ハリス大将は「報復主義者のロシアと強引な中国に対抗する準備がある」と宣言した。「もし我々が今夜戦わなければならないなら、フェアな戦いをしようなどと私は思わない。相手がナイフを使うなら、私は銃を使う。相手が銃なら私は大砲で…、それも仲間全員に大砲を持たせて対抗する」。

 ここでいう「仲間」に含まれる韓国では、ペンタゴンの高高度防衛ミサイル「THAAD(サード)」の発射台が、表向きには北朝鮮を狙っている。ポストル教授が指摘するように、真の標的は中国だ。

 オーストラリアのシドニーで、ハリス大将は中国に「南シナ海の万里の長城を取り壊す」よう要求した。このイメージは一面トップのニュースになった。オーストラリアはアメリカの最も追従的な「仲間」で、政治指導層と軍部、諜報機関、メディアが一体となって、いわゆる「同盟」を形作っている。同国を訪問したアメリカ政府「要人」の車列を通すためにシドニーハーバーブリッジを閉鎖することも珍しくない。戦争犯罪人のディック・チェイニーはこの栄誉に浴した。

 中国はオーストラリア経済のほとんどを依存する最大の貿易相手だが、「中国への対抗」はワシントンからの絶対命令だ。首都キャンベラにいる少数の反体制派政治家は、マードックが支配する報道メディアの中では、マッカーシズム[1950年代アメリカでの共産主義者の追放]のようなブラックリストに載せられることを覚悟しなければならない。「オーストラリアの皆さんは何が起ころうと我々と共にあります」と言ったのは、ベトナム戦争を構想した人々の一人、マクジョージ・バンディだ。最重要の米軍基地の一つは、ノーザンテリトリーの街アリススプリングス近くにあるパイン・ギャップだ。CIAが建てたこの基地は、中国とアジア全域をスパイし、アメリカが中東で行うドローンを使った殺人戦争に不可欠の役割を果たしている。

 10月に、オーストラリアの最大野党、オーストラリア労働党の防衛スポークスマンであるリチャード・マールズは、中国に対する挑発行為の「作戦判断」は南シナ海の軍司令官に一任するよう要求した。つまり、核戦力を用いた戦争を意味するかもしれない決定を、選挙で選ばれた指導者や国会ではなく軍の大将が行うべきだと言っているのだ。

 これがペンタゴンの方針で、民主主義を自認する国家からの歴史的逸脱だ。ペンタゴンのワシントンでの権勢は、[ベトナム戦争の機密文書、ペンタゴン・ペーパーズの暴露で知られる]ダニエル・エルズバーグが静かなクーデターと呼んだように、アメリカが9.11以降の侵略戦争に費やした記録的な5兆ドルという金額に現れていると、ブラウン大学の研究が示している。イラクで死んだ百万人と、少なくとも4カ国から脱出した1200万人の難民が、この結果だ。

 日本の沖縄には32の軍事施設があり、アメリカ合州国はここから、朝鮮半島、ベトナム、カンボジア、アフガニスタン、イラクへの攻撃を行った。現在、主要な標的は中国だが、沖縄住民は中国と親密な文化と貿易の関係を結んできた。

 沖縄の空には常に軍用機が飛び、ときおり家屋や学校に墜落する。人々は眠ることができず、教師は教えることができない。自分たちの国の中だというのに、どこへ行っても基地はフェンスで囲われ、立ち入り禁止だと言われる。

 1995年に米兵が集団で12歳の少女を強姦したことをきっかけに、大規模な沖縄基地反対運動が巻き起こった。それは同様な何百もの犯罪の一つに過ぎず、多くは起訴されない。日本国外ではほとんど知られていないが、この抵抗運動は日本で初めて基地反対の知事、翁長雄志の選出へとつながり、本土政府と超国家主義者である安倍晋三首相が日本の「平和憲法」を破棄する計画にとって、不慣れな障害物となった。

 この抵抗運動には87歳の島袋文子も加わっている。彼女はアメリカの侵攻で沖縄住民の4分の1が死んだ第二次世界大戦の生き残りだ。沖縄戦で、文子ら数百人が戦火に追われて命からがら避難していたのは、いま彼女が守ろうとしている美しい大浦湾の辺野古だった。米国は爆撃機用の滑走路を拡張するためこの湾を破壊したがっている。「私たちの選択は、沈黙か命かです」と文子は言った。私たちが米軍基地キャンプ・シュワブの外で平和的に集まっている時に、巨大なCH-53シースタリオン・ヘリコプターが私たちの上でホバリングした。私たちに対する脅し以外に理由は考えられない。

 東シナ海の向こうに韓国の済州島がある。亜熱帯の楽園で、「世界平和の島」として世界遺産に登録されている。上海から650キロ足らずの場所にあるこの世界平和の島に、世界で最も挑発的な軍事基地の一つが建設された。漁村のカンジョン(江汀)村を圧倒しているのは、中国を狙うイージスミサイル・システムを搭載する米国の航空母艦、原子力潜水艦、駆逐艦のため専用に作られた韓国の海軍基地だ。

 これらの戦争準備に対する民衆の抵抗運動は10年近くにわたって済州島に存在してきた。毎日、たいてい1日2回、村の住民とカトリックの神父、世界中から集まった支持者たちが、基地のゲートを塞いでキリスト教のミサを行う。韓国では単なる政治的デモは禁止されることが多いが、有力な宗教のミサの形をとる戦術が功を奏し、気持ちを奮い立たせる光景を作り出した。

リーダーの一人、ムン・ジョンヒョン(文正鉉)神父は私にこう語った。「どんな天気の日でも、私は基地で毎日4曲歌います。台風の中でも歌います。例外はありません。この基地を建設するために、彼らは環境を破壊しました。住民の生活を破壊しました。我々はその目撃者になるべきです。彼らは太平洋を支配したいのです。彼らは中国を世界から孤立させたいのです。彼らは世界の帝王になりたいのです。」

 私は済州島から上海へ飛んだ。30年ぶりか、それ以上だ。以前私が中国にいたときの記憶では、一番うるさい騒音がチリンチリンと鳴る自転車のベルで、毛沢東が死んでから日は浅く、街は暗く、不吉な予感と明るい希望がひしめき合っていた。それから2〜3年後、「中国を変えた男」鄧小平が「最高指導者」となった。現在の驚くような変化は想像すらできなかった。

 中国は、この上ない皮肉を呈する。極めつけは1921年に毛沢東と同志たちが秘かに中国共産党を設立した上海の家[中国共産党第一次全国代表大会会址]だ。それが立つ場所は、いまや非常に資本主義的なビジネス街の真ん中だ。この共産主義の聖地から、毛主席語録の赤本と毛沢東のプラスチック製の胸像を手に一歩外へ出ると、スターバックス、アップル、カルティエ、プラダがそこを取り囲んでいる。

 毛沢東は驚くだろうか? そうは思わない。1949年の大革命[中華人民共和国の建国]の5年前、毛沢東は秘密のメッセージをワシントンに送った。「中国は工業化しなければならない。これは自由企業によってのみ達成可能である。中国とアメリカの国益は、経済的にも政治的にも一致する。アメリカは、中国が非協力的になると恐れる必要はない。我々は紛争の危険を冒すことはできない」と、彼は書いた。

 毛沢東はフランクリン・ルーズベルトにホワイトハウスで面会するよう申し入れ、ルーズベルトの後継者ハリー・トルーマンにも、その後継者ドワイト・アイゼンハワーにも申し入れた。歴代の大統領は毛沢東を拒絶するか、わざと無視した。アジアでの戦争を回避し、数多くの命を救い、現代史を変えたかもしれないチャンスが失われたのは、これら序章の真実が1950年代のワシントンで否認されたからで、ジェームス・ネアモアが書いたように、「冷戦のカタレプシー的な[固まった]恍惚状態が、我が国を固く掌握した」からだ。(訳注2)

 主流メディアによる偽のニュースが、再び中国は脅威だというイメージを作っているのは、同じ精神構造だ。

 世界は否応なく東にシフトしているが、中国を中心としたユーラシアという驚くべきビジョンは、西側ではほとんど理解されていない。「新シルクロード」は、はるばるヨーロッパまで続く、貿易、港湾、パイプライン、高速鉄道の帯だ。鉄道技術で世界をリードする中国は28カ国とルート交渉をしており、そこを走る列車は時速400キロに達する予定だ。世界に向けたこの開国は人類の大多数の願いにかなっており、その経路上で中国とロシアが結ばれる。

 「私は全身全霊でアメリカ例外主義の正当性を信じている」というバラク・オバマの発言は、1930年代の盲目的な崇拝を思い起こさせた。この優越性という現代のカルト宗教こそが、アメリカ主義、つまり世界を支配する捕食動物だ。ノーベル平和賞を受賞したリベラルなオバマ大統領の下で、核弾頭への支出は冷戦終結後のどの大統領の時代よりも高く上昇した。B61モデル12というミニ核兵器が計画されている。元米統合参謀本部副議長のジェームズ・カートライト大将によれば、「小型化すれば(使うことを)もっと考えやすくなる」ということを意味する。

 9月に、米国の主流地政学シンクタンクである大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)が公表した報告書は、ホッブズ的な[万人が万人に対して闘争する]世界を予測し、それは「秩序の崩壊、暴力的な過激思想、果てしない戦争の時代を特徴とする」。新しい敵は「復活した」ロシアと「ますます好戦的になる」中国だった。勇敢なアメリカだけが我々を救うのだ。

 この戦争挑発は気違いじみている。それはあたかも、アメリカの帝国主義者でタイム誌の所有者であるヘンリー・ルースが1941年に宣言した「アメリカの世紀」が予告もなく終わったのに、誰も帝王に「銃を持って家に帰れ」と告げる勇気がないかのようだ。


(以上、翻訳終わり)


訳注1:「人影の石」は広島平和祈念資料館に移設展示されている。
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/outline/index.php?l=J&id=31

訳注2:カタレプシーとは、受動的にとらされた姿勢を保ち続け、自分の意思で変えようとしない状態。統合失調症やヒステリーなどでみられる。蝋屈症。



John Pilger

著者のジョン・ピルジャー(John Pilger) は、1939年オーストラリア生まれ、ロンド ン在住のジャーナリスト、ドキュメンタリー映画作家。50本以上のドキュメンタ リーを制作し、戦争報道に対して英国でジャーナリストに贈られる最高の栄誉「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」を2度受賞、記録映画に 対しては、フランスの「国境なき記者団」賞、米国のエミー賞、英国のリチャード・ディンブルビー賞などを受賞している。ベトナム、カンボ ジア、エジプト、インド、バングラデシュ、ビアフラなど世界各地の戦地に赴任した。邦訳著書には『世界の新しい支配者たち』(井上礼子訳、岩波書店)がある。また、過去記事は、デモクラシー・ナウTUPなどのサイトにも多数掲載されている。

ジョン・ピルジャーのウェブサイトはこちら。www.johnpilger.com


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ジョン・ピルジャー:なぜヒラリー・クリントンはドナルド・トランプよりも危険なのか (2016年4月29日掲載)

ジョン・ピルジャー「今なぜファシズム台頭が再び問題になるのか」(2015年3月28日掲載)
http://peacephilosophy.blogspot.jp/2015/03/jon-pilger-why-rise-of-fascism-is-again.html




1 comment:

  1. 小林はるよ2:38 pm

    長い緻密な論文の翻訳をありがとうございました。英語のこのような記事は今ではネットで読むことができますが、日本では読む人はほんの少数なようです。そして、それが、日本人の国際的情報に対する「井戸の中の蛙」状態を作っていると思います。どの程度かわからないところはありますが、アメリカを含む英語圏で、ピルジャーさんのような考えがある程度広まってきているのは、こうした情報が今や英語で世界中に流れるようになっているからと思います。ですから、こうした翻訳は貴重で、もっともっと、こうした翻訳が、一般の日本人の目にとまるようになってほしいです。

     中国もロシアも第二次大戦では「西側諸国」に侵略されて何千万人という人命を失い、今また「西側諸国」に殲滅すべき悪鬼のように言われ、「西側諸国」の軍地基地網で包囲されている。あまりの理不尽さに、暗澹とします。ピルジャーさんは厳しい警告を発しているけれど、歴史的経過と現実を知る人々が増えて、「来るべき」戦争を阻止することに、おそらく微かな希望を捨てておられないのだと思います。トランプ大統領の閣僚の人選にはこれまでのアメリカという国家の路線の否定のためには非常に残念なところがありますが、でも、あまりに強大化・巨大化した、「もう一つのアメリカ」DEEP STATES を制御するのには、時間とたいへんな胆力が必要だろうと推察します。どっちもどっち、どちらに味方していいかわからないなどとは言っていられない。公平に見て、より理があるほうに賭けるしかないと思います。

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