『日本カトリック正義と平和協議会』が年6回発行している『JP通信』10月号に小文を載せていただきました。許可を得てここに転載します。
JP通信 25年10月号 |
戦後80年 被害国の「継承」に目を向けよう
乗松聡子(カナダ在住ジャーナリスト)
80年前、1945年8月15日に崩壊した大日本帝国とは何だったのか。アイヌモシリを奪い、琉球を強制併合した。日清戦争で台湾を植民地化した。日露戦争で朝鮮の支配を確実にし、強制併合した。中国大陸への食指を強め、偽満洲国設立、全面侵略戦争に突き進んだ。大陸での戦争続行のため、東南アジアの欧米列強の植民地に戦争を仕掛け、ピーク時に今の日本の20倍もの領域に肥大した。アジア太平洋全域での日本軍の残虐行為によって少なくとも2千万人が殺された。何十万もの女性が性奴隷制や性暴力で尊厳と命を奪われた。天皇の名の下にすべての蛮行は正当化された。
今年、日本では「戦後80年」という名の下に、様々な特集や行事があったが、日本の主流メディアはこのような大日本帝国の本質を扱うことはなく、概して広島・長崎の原爆投下、空襲、戦時下の困窮、家族の戦死、引き揚げといった、戦争終盤に日本人が被った被害にばかり目を向けた。中には「加害も見なければ」という人たちもいるが、70年余の暴虐の歴史は、「も」という二次的な扱いでは済まない。政府主催の戦没者追悼式も、「310万人」と推計する日本人の戦没者しか追悼していない。
1千万人かそれ以上が命を奪われた、中国の被害は突出していた。その中国では今年「人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年」として、さまざまな記念行事が行われている。これに対し日本政府は真摯に向き合うどころか「反日感情の高まり」が予想されるからと、中国に住む日本人に注意を呼びかけている。
9月3日の対日戦勝記念日式典にいたっては、諸外国に参加自粛を呼びかけた。もし原爆投下の加害者である米国が諸外国に、広島・長崎の式典に参加するなと呼びかけたらどうであろうか。恥ずかしいとは思わないか。日本は、自分たちの被害を「語り継ぐ」行為は清く正しいものとして推進しておきながら、その何倍も被害者がいる被害国の「語り継ぐ」行為には「反日」というレッテルを貼り貶めるという、ダブルスタンダードを露わにしている。
加害国の自己被害者化はこれに留まらない。中国がこの節目に合わせて作った、南京大虐殺や731部隊をテーマにした映画を軒並み「反日映画」と呼び、メディアやSNSにはバッシングが溢れている。
映画『南京照相館』は、南京大虐殺に巻き込まれた市民たちと、日本兵が人間性を失っていく有り様を描いた、ヒューマンドラマである。北米で封切りされた8月15日当日に観に行った。帰宅してすぐSNSに書き込んだ。「絶望、怒り、愛、信頼、裏切り、希望―人間のあらゆる感情がぎっしり詰まった映画でした。映画館は満員で、若い人が目立っていました。たくさんの人が泣き、私も泣きました。見る人誰もが登場人物に入れ込む映画だと思います。」
私の投稿は、多くの人が「観たい!」という声とともに拡散した。歴史教育家の平井美津子さんは「世界中が見れるのに日本は見れない。まるで南京大虐殺があったときとおんなじやん!」と言っていた。当時も日本の普通の人たちは知らされず、全国で提灯行列や旗行列をやった。昔も今も、政府が情報を遮断している。
上海の友人は、この映画を観た後に周囲の若者たちに声をかけたら、誰もが「日本を憎むのではなく、憎むのは当時の日本軍」と答えたという。「戦争の残酷さを目の当たりにしたからこそ、若者らは戦争に反対している。ここにこの映画の意味があると思う」と友人は語った。この映画が日本で上映され、日中の若者がともに歴史に向き合えるようにして欲しいと思う。
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