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Sunday, January 20, 2013

クリントン岸田会見報道: マスメディアの煽りにだまされないように

1月18日の日米外相会談の報告の記者会見において、クリントン国務長官が尖閣問題についてどう発言したと伝えられたか、いくつかの報道例を見る。そしてクリントンの実際の発言を翻訳し、発言と報道のズレを指摘したい。

日経米、尖閣巡り中国けん制 日米外相会談
クリントン長官は沖縄県の尖閣諸島を巡って「日本の施政権を一方的に害するいかなる行為にも反対する」と述べ、従来より踏み込んだ表現で中国の動きをけん制した。・・・クリントン長官は会談後の共同記者会見で、尖閣諸島について「日本の施政下にある」と改めて明言し、日米安全保障条約の適用範囲だと強調。

産経米長官が初明言「日本脅かす、いかなる行為にも反対」日米外相会談
クリントン長官は沖縄県・尖閣諸島をめぐって、中国が公船や軍用機による領海侵犯など挑発行為を活発化させていることについて、「日本の安全を脅かすいかなる一方的な行為にも反対する」との考えを表明・・・クリントン長官は、「日本の施政権下にある尖閣諸島が、米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約の適用対象である」と重ねて強調。米政府として、中国の挑発行為に反対する姿勢を初めて明確に示した。

読売: 米側、尖閣での中国の挑発けん制…日米外相会談
 中国が領有権を主張する尖閣諸島(沖縄県石垣市)について、「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為、行動に反対する」と述べた。尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象となるとの米政府の立場を改めて伝え、尖閣諸島周辺で繰り返される中国の挑発行為をけん制した。

朝日:中国の尖閣接近「反対」 米国務長官、岸田外相に名言
クリントン氏は「論争を平和的な手段で解決するよう促したい」と日中両国に冷静な対応を求めた。そのうえで日米安保条約に基づく米国の防衛義務を認め、「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と明言。岸田氏は「高く評価する」と語った。米政府が尖閣をめぐる他国の行為に具体的に言及したのは初めて。周辺の領海や領空の侵犯を重ねる中国を牽制(けんせい)する狙いだ。

毎日:日米外相会談:尖閣問題、米が日本支持踏み込む 来月の首脳会談合意
また、中国が領有権を主張している沖縄県の尖閣諸島についてクリントン氏が「日本の施政権を侵すあらゆる一方的な行動に反対する」と述べ、従来より踏み込んだ表現で日本の立場を支持する姿勢を示した。

東京日米外相会談 米、尖閣で中国けん制 来月後半に首脳会談
長官は中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島について「日本の施政権を害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と表明した。・・・尖閣諸島について、長官は日本防衛義務を定めた日米安全保障条約の対象とする立場をあらためて説明。その上で、中国が尖閣付近で繰り返す領海・領空侵犯を念頭に踏み込んだ表現でけん制した。同時に、日中双方の対話による解決に期待を示した。

☆★

国務省のウェブサイトの会見記録でクリントン長官の発言の中、尖閣に触れている部分を調べてみたら、やはり日本の報道はとても偏っていることがわかった。以下訳してある。

Remarks With Japanese Foreign Minister Fumio Kishida After Their Meeting
http://www.state.gov/secretary/rm/2013/01/203050.htm
(冒頭の発言で)...With regard to regional security, I reiterated longstanding American policy on the Senkaku Islands and our treaty obligations. As I’ve said many times before, although the United States does not take a position on the ultimate sovereignty of the islands, we acknowledge they are under the administration of Japan and we oppose any unilateral actions that would seek to undermine Japanese administration and we urge all parties to take steps to prevent incidents and manage disagreements through peaceful means.
地域の安全保障について、私は尖閣諸島についてアメリカが長期間維持してきた政策と条約の義務について再度述べました。私が以前から何度も言っているように、米国はこれらの島の究極的な主権については立場を取りませんが、我々は、島々が日本の施政下にあることを認識し、日本による施政を弱体化させることをもとめるいかなる一方的な行為に反対し、全ての関係者に対し、事件が起こることを回避すること、平和的な方法によって不合意事項を扱っていくことを勧めます。

(記者との質疑応答で)As I said at the outset, we certainly discussed the Senkaku Islands today. And I reiterated, as I have to our Chinese friends, that we want to see China and Japan resolve this matter peacefully through dialogue, and we applaud the early steps taken by Prime Minister Abe’s government to reach out and begin discussions. We want to see the new leaders, both in Japan and in China, get off to a good start with each other in the interest of the security of the entire region.
私が最初に言ったように、私たちは尖閣諸島問題について今日話し合いました。私は、中国の友人たちにも言ったように(岸田外相にも)再度言いました。中国と日本がこのことを対話を通じて平和的に解決するように、また、安倍首相の政府が早い段階で(中国に)はたらきかけ話し合いを始めることを我々は賞賛するということを。

And we have also, as I said earlier, made clear that we do not want to see any action taken by anyone that could raise tensions or result in miscalculations that would undermine the peace, security, and economic growth in this region. So certainly, we are hopeful that there can be an ongoing consultation that will lower tensions, prevent escalation, and permit China and Japan to discuss the range of other issues on which they have important concerns.
また我々は、私が前に言ったように、緊張を高めたり、この地域の平和、安全保障、経済的発展を弱体化させる不測事態に至らしめるような行為は、誰によるものであっても見たくはないということを明確にしました。緊張を低め、事態がエスカレートすることを防ぎ、中国と日本が関心を持つ他のさまざまな事柄についても話し合うことを可能にするように引き続き協議を行うことを我々は願っています。

ここまで読んだ人は、クリントンの発言の全体的印象が、報道されているものと随分ちがうことに気づくだろう。

★米国は1972年の沖縄返還時以来、「領有については立場を取らないが施政権は日本にある」という理解でおり、クリントンはそれに沿って発言している。しかし、日本のメディアで、クリントンが「領有権について米国は立場を取らない」ということを再確認したことを報じたところは把握しているかぎりではひとつもない(あったら教えてください!追記:沖縄タイムスは例外でした。さすが)。その後岸田氏は尖閣が「日本の固有の領土であるという基本的な立場は譲らない」と言っているということは、この会見で、あらためて領有権については米国と日本の立場は異なるということが明らかになっているのである

★報道の多くは、日米安保が尖閣に適用するとクリントンが「強調」したとか言っているが、その点についてクリントンが触れているのは冒頭で「条約の義務について・・・・再度述べました」のところだけである。何の条約なのか何の義務なのかも触れていないのに、これを「強調」と呼ぶのは誇張である。実際は明言を避けてスルーしている

★「踏み込んだ」とか「初めて中国の行為に反対を明言」とか報道されているが、これは米国が従来から認めている尖閣に対する日本の施政権について言っており、この施政権を undermine, 「弱体化する」一方的な行為に反対すると言っているのである。これは以前クリントンやパネッタが言った、「尖閣に安保適用」(尖閣が戦場になったら日本を守るために米国は武力行使する)ほど踏み込んだ表現ではない。逆に言うと、「踏み込んだ」どころか、今回、クリントンは米国の武力行使の可能性についてはあえてはっきり触れず、日本の施政権を弱体化させる行為に「反対」の立場を表明しただけという、後退とも取れる発言をしているのである

★ クリントンは、日本による施政を undermine することをもとめる一方的な行為に反対すると言っている。この undermine は日本語に訳しにくい単語だが、「弱体化させる」「台無しにする」「損なわせる」「ないがしろにする」といった訳ができる言葉である。下から土台を崩すといったようなイメージで理解してもらっていいと思う。直接的な攻撃を示す言葉ではない。朝日や読売は「損なう」とフェアな訳をしているが、しかし毎日の「侵す」、日経と東京の「害する」は強すぎる訳であると思う。産経にいたっては「日本の安全を脅かす」という、でっち上げとしか言いようのない勝手訳をしている。

★また、報道はクリントンの「反対」発言にばかり注目し、「中国をけん制」と騒ぎ立てているが、クリントンは、緊張を高めるような「誰による」行動も見たくないと言っている。米国がけん制しているのは中国だけではなく、日本の挑発行為もけん制しているのである。

こういった偏向報道によって「米国がぐっと踏み込んで日本を守ってくれる態勢に入った!よしこれで中国と戦争しても大丈夫だ」などと思っている人がいたとしたら大間違いである。米国はこの問題への直接関与の可能性についての言及を弱め、平和的解決を求めている。日本側でさえ、この会見では「落ち着いて対応し、中国を挑発しない」と言っているのだ。

日本の皆さん、メディアの扇動に乗らないように。@PeacePhilosophy

関連投稿:

米国務省記者会見記録には「中国に『尖閣は日米安保適用』と伝えた」などどこにも書いてない
http://peacephilosophy.blogspot.ca/2012/12/blog-post.html

報道への疑問 過去投稿集
http://peacephilosophy.blogspot.ca/2011/09/peacephilosophy-media-criticism-by.html

2 comments:

櫻井春彦 said...

 岸田文雄外相とヒラリー・クリントン国務長官が行った18日の記者会見に関する報道にかぎらず、経済問題にしろ、原発事故にしろ、中東/北アフリカ情勢にしろ、マスコミの報道を鵜呑みにしてはならない・・・そういうことですね。

 ふと思ったのですが、この日米会談でアメリカ政府から中国を牽制する発言を引き出すため、日本側は布石を打っていたような気がします。

 例えば、13日に陸上自衛隊の第1空挺団が「離島防衛」のシナリオで訓練を実施して中国をまず挑発、16日には安倍晋三首相が自民党の河井克行をベルギーに派遣、NATOのアンス・フォ・ラスムセン事務総長に「NATOとの安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を手渡すと報道されていました。NATOの問題に深入りすることは避けますが、リビアに軍事介入し、シリアでも体制の転覆を目指し、さまざまな形で反政府軍を支援しているのがNATOで、ロシアや中国を刺激するには恰好の相手です。

 河井派遣の前日、15日には小野寺五典防衛相が記者会見で「中国の飛行機が日本のいわゆる領空に入ってきた場合、この警告射撃ということは、ありうるということでしょうか。」と記者に質問され、「どこの国も、それぞれ自国の領空に他国の航空機が入って来て、さまざまな警告をした中でも退去しない、領空侵犯を行った場合、これはそれぞれの国がそれぞれの対応を取っておりますし、我が国としても、国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えていると思っています。」と答えています。

 尖閣諸島を特別扱いしない、つまり状況によっては警告射撃の可能性はあるということで、戦争を辞さないとも聞こえます。朝日新聞は小野寺大臣が「尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領空で中国機が無線などによる警告を無視して領空侵犯を続けた場合、警告のため曳光(えいこう)弾で信号射撃をする方針を表明した」と書きました。そこまで具体的には話していませんが、強硬方針を読者にイメージさせたかったのでしょう。菅義偉官房長官も16日の記者会見で小野寺大臣と同じ趣旨のことを述べています。

【小野寺五典防衛相】
http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2013/01/15.html

【菅義偉官房長官】
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201301/16_p.html

【朝日新聞】
http://www.asahi.com/politics/update/0115/TKY201301150098.html

 日本側としては強硬姿勢をアピールすることで、アメリカ側に一歩も二歩も踏み込んだ発言をしてもらいたかったのかもしれませんが、アメリカ政府は日本政府の挑発に乗らなかったということではないでしょうか。その結果が会見内容と報道の違いになったように思えます。

R.K. said...

すばらしい分析、どうもありがとうございます。産経新聞に、中国外務省の報道官の記者会見内容が報道されていますが、これも、真実はどうなんでしょうか。


http://sankei.jp.msn.com/world/news/130121/chn13012100500000-n1.htm
中国外務省「米国は言行を慎め」 日本支持に反発
2013.1.21 00:49 [尖閣諸島問題]

 【北京=川越一】中国外務省の秦剛報道官は20日、クリントン米国務長官が先の日米外相会談後の記者会見で「日本の施政権を害そうとするいかなる行為にも反対する」と述べ、沖縄県・尖閣諸島をめぐり中国に強く自制を求めたことに対し、「強い不満と断固とした反対」を表明、「米国は言行を慎むように」などとする談話を発表した。

 秦報道官は尖閣諸島について「中国固有の領土だ。歴史を証拠とし、法律を根拠とする。これは何人も否定できない」と主張。尖閣諸島をめぐる日中間の対立の根本的原因が、日本政府による国有化と挑発行為にあると、一方的に日本側に責任を押し付けた。

 その上で、尖閣諸島をめぐる問題に関し「米国は歴史上の逃れられない責任がある」と米国の戦後処理の問題を指摘しつつ、「責任ある態度で対応することを促す」と、米国が積極的に関与することを牽制(けんせい)した。

 秦報道官は「米国が実際の行動によって、(アジア)地域の平和と安定、中米関係の大局を維持し、中国国民の信用を得るよう促す」とも強調。尖閣問題で米国が日本を支持することに、強い危機感を抱いていることをうかがわせた。