2月22日、CSISで講演する安倍晋三首相。官邸HPより。 |
いつもながら、東京新聞の勉強になる社説を紹介します。
週のはじめに考える 集団的自衛権で何をする
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013030302000153.html
ここで、「安倍晋三首相はオバマ米大統領との首脳会談で、歴代首相として初めて集団的自衛権の行使容認の検討を始めたと伝えました。」とあります。
「歴代首相として初めて」とか言っていますが、実のところ、「集団的自衛権」の肝心のお相手、オバマ氏からの反応はありませんでした。外務省の日米首脳会談の概要記録を見てもわかります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/us.html
上記概要の「安全保障」のセクションを見ると、提案はほとんど安倍総理によってなされ、一方通行であることがよくわかります。米国にとって今、日本との「同盟」を強化することよりも中国を刺激することを避ける方が優先順位が高いのです。「アジア太平洋地域情勢」の「中国」のセクションを見ても、安倍政権が中国とこれ以上緊張を高めないよう、オバマ政権から釘を刺されていることがうかがわれます。日米安保条約適用について全く触れられていないことも象徴的です。
ちなみにこの日米首脳会談概要は日本語しかありません。米国側は、ホワイトハウスのウェブサイトで共同記者会見の様子の録画と、共同声明のテキストが載っています。
http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/video/2013/02/22/president-obamas-bilateral-meeting-prime-minister-abe-japan
安倍氏は日本の報道で「オバマ氏とケミストリーが合った」と言ったとか伝えられていますが上記リンクの動画を見て「うまが合う二人」に見えると思う人はいないでしょう。オバマ氏はきわめて事務的で冷淡にも見え、安倍氏がカラ元気で「日米関係を取り戻した!」ということを言っても、寒い空気が流れるだけという印象は否めません。
共同声明
(英語は
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/pdfs/1302_us_02.pdf
日本語は
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/pdfs/1302_us_01.pdf)
外務省の会談概要ではさまざまな項目が議題とされているのに共同声明ではTPPしか扱っておらず、TPPについても、「交渉内で決まることは交渉前は決まっていない」という当たり前のことを確認しただけです。これを、報道されているような「関税の聖域なき撤廃はしなくていい」との言質であるという理解は間違っているでしょう。
今回の安倍訪米直前、2月15日の米国の議会調査局が米日関係、安倍政権について詳細にわたる報告書を出しています。
http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf。
私も、香港拠点の著名なジャーナリスト、程翔氏による安倍訪米関連記事
http://www.asianewsnet.net/No-free-hand-for-Japanese-hawk-43428.html
を見るまで知りませんでした(この記事では、尖閣問題でオバマの支持をとりつ
けようとした安倍は全く相手にされたなかったと言っています)。
この米議会調査局報告書は多岐にわたり一言では要約できませんが、まず日本は2007年以来首相が6人という政治的不安定さに触れています。尖閣/釣魚諸島問題において米国は、領有権については立場を取らないと明確にしているが日本側の施政権を認めており、日米安保条約の義務からも、米国が直接軍事的紛争に関与しなければいけなくなる可能性を指摘しています。また、歴史認識問題において安倍のナショナリスト的アプローチが中国、韓国との関係を損ね、米国の利益を害する可能性があることを指摘しています。「慰安婦」問題については独立したセクションが設けられています。全体的に価値判断よりも客観性を貫いている報告書の中でこの歴史認識問題についてだけは「米国の利益を害する」と断言しているのは注目に値すると言えるでしょう。そして、安倍が参院選を見込んで、踏み込んだ政策(TPP、集団自衛権等)を取らぬようにしていることも随所で触れられています。TPPにおいては、米国の国益が、日本の保険市場(世界第二の規模)と、農業市場の開放にあると狙われていることが明らかです。そう、当然ながら、日本側が一番守りたいと思っている部分は米国が一番突き崩したい部分なのです。沖縄については、オスプレイ配備に対する全県的な反対も含め県内の基地への反対が強まっていることを強調、昨今の米兵の犯罪にも触れ、「普天間基地移設論争」として独立したセクションが設けられています。普天間移設問題は「沖縄と東京の中央政府間の関係における根本的な緊張関係」を反映しているとし、「国全体が日米安保の利益を享受しているかたわら、沖縄が過重負担を負っている」と明記しています。
この報告書をオバマ氏やその側近は読んで首脳会談に臨んでいるはずであり、アジア隣国、とくに中国との関係を刺激せぬよう、タカ派の安倍政権には注意し、距離を置いて接したオバマ氏の行動はよく理解できます。安全保障分野における安倍氏のラブコールには応じず尖閣問題や集団自衛権についての言及を避け、沖縄の基地問題についても安倍の辺野古移設計画の推進を積極的に支持しなかったことも理解できます。結局外務省の首脳会談概要に示されるような多々のの議題があったにもかかわらず共同声明がTPPという単独の項目についての発表に終わったのは、今回の首脳会談は米国にとって、日本をTPPのカモにすること以外の関心項目はなかったということを示唆しているのではないでしょうか。
それを反映してか、安倍氏は概してホワイトハウスから冷遇を受けました。それはいろいろなブログでも書かれましたが一部の主要メディアも取り上げています。
朝日「首脳会談、米側は抑えた反応 メディアの関心も低調」
http://www.asahi.com/international/update/0223/TKY201302230186.html?ref=reca
天木直人「日本は冷遇された」事を認めた毎日新聞編集委員」
http://www.amakiblog.com/archives/2013/02/28/
夕食会も出迎えもなし。日米首脳会談で見せ付けられた日本軽視の厳しい現実 | ニュースの教科書
http://news.kyokasho.biz/archives/6571
人気ブログ「阿修羅」に掲載された、これはまた詳細にわたる安倍冷遇分析。
「安倍首相に対する「不快感」を世界に晒したオバマ大統領:安倍自民党政権の
誕生により民主党政権より悪化した日米関係」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/609.html
安倍氏が唯一歓迎されたのはジャパンハンドラーたちの巣窟のようなシンクタン
クCSISにおいてアーミテージ、グリーンらを相手に演説を行ったときのみでした。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0223speech.html
孫崎享氏はこのように評価。
「奴隷根性丸出しの安倍首相 孫崎 享」
http://blogs.yahoo.co.jp/hellotomhanks/63817598.html
日本メディアはこのシンクタンクにおける安倍の演説ばかり取り立てて安倍の訪米が成功であったかのように演出するところもありました。
日本に久々脚光=安定政権に期待-米
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201302/2013022300286&g=pol
首相官邸も同レベルであり、官邸HPの安倍訪米報告ページにも「日本は戻ってきた」としてリンクを張っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0223speech.html
「戻った」というのは、いつでも戻れる同盟寄りシンクタンクに戻ってきただけです。つまり、そこにしか居場所を見いだせなかったのです。
冒頭の東京新聞の社説に戻りますが、
「安倍首相には勇猛果敢に突き進むより、世界で孤立しないよう多国間の連携に汗をかいてほしい。心からそう願います。」と結んでいます。
「孤立しないよう」というのは残念ながら楽観的な見方です。米国一辺倒でアジア敵視の外交しかできてきていない日本は、米国には尊敬されるどころか冷遇され、利用されるだけとなっており、すでに孤立しています。
安倍氏はまず、米国からも国際的にも一番問題視されているその時代錯誤的な歴史認識を改め隣国との関係改善に真剣に取り組むことから始めるべきでしょう。河野談話や村山談話を修正したり、教科書検定における近隣諸国条項も撤回するといった計画は断念すべきです。「東京裁判史観」批判といって侵略戦争や敗戦までも否定しようという姿勢は到底受け入れられるものではありません。特に沖縄の離島、竹富町に側近を送って、「つくる会」系の教科書を拒否したら「あらゆる手段を使ってでも」強制すると恫喝させたりするような暴力団まがいの行為は反省し、即刻手を引くべきです。 @PeacePhilosophy
追記
ちなみにTPPがまだ日本にとっていいのかもしれないと思っている人へ―天木直人さんのブログでも紹介され日本語版が今、驚愕の声とともに出回っている動画を見てください。昨年6月14日に放送された米国の代替メディアの代表格 Democracy Now! のものです。
http://www.democracynow.org/2012/6/14/breaking_08_pledge_leaked_trade_doc
デモクラシーナウ!日本語版
http://democracynow.jp/video/20120614-2
★関連記事として、昨年(2012年)11月9日号 『週刊金曜日』の成澤宗男氏による記事「大企業の代理人が米国による経済支配を狙う TPPの仕掛け人 USTR(米通商代表部)の正体」もご覧ください。
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