11月18日のブログ投稿「親日家・元駐日英国大使ヒュー・コータッツィ「極右思想は日本の民主主義への脅威か」Hugh Cortazzi: Does right-wing extremism threaten Japan’s democracy?」で翻訳したコータッツィの記事に、10月17日付の「ザ・タイムズ」の記事への言及があった。今日はその記事の翻訳を紹介する。この記事は、NHK内部文書「オレンジブック」により、NHKが国際放送の担当者に、南京大虐殺や「慰安婦」問題についててこの表現はだめ、この表現をするようにといった細かい通達をしていることを明らかにしたものだ。
この記事の筆者、リチャード・ロイド・パリ―氏はツイッターでこの「オレンジブック」の「最重要ポイント」のイメージを公開している。
「日本のBBC」は戦時「性奴隷」へのいかなる言及も禁止する
リチャード・ロイド・パリー、東京発
2014年10月17日
南京大虐殺[Rape
of Nanking] への言及禁止は日本の公共放送局NHKによる編集独立性の放棄と見なされる
日本の公共放送局NHKは、報道において悪名高き南京大虐殺[ Rape of Nanking]、戦時中の日本による性奴隷の使用、また中国との領土紛争へのいかなる言及も禁止した。これはNHKによる編集独立性の放棄であるとの批判が起きている。
本紙が入手した秘密の内部文書で、NHK英語放送のジャーナリストたちは、日本の政治で最も物議を醸してきたこれらのトピックを報道する際には特定の言い回しをするように指示を受けた。これらの規則は、日本の保守国家主義的首相である安倍晋三氏の政権の立場を反映しているように見える。
今回この件が明るみになる以前にも、安倍氏の友人であり彼に指名されたNHK会長が、NHKは日本政府の立場に異議を唱えるべきではないと主張していた。これは中国と韓国の怒りを買うだけでなく、安倍氏の下に日本が国家主義に向け急速に右傾化していくことを恐れるリベラルな日本人をも憤慨させるだろう。
この10月3日付のNHK文書は、プロデューサーと翻訳者の手引き書、いわゆる「オレンジブック」から要点をまとめている。
「従軍慰安婦」の見出しがある。これは帝国陸軍によって前線の売春宿で働くことを強制された人々を指す婉曲表現で、その多くは中国人と韓国人だった。この文書には、「those referred to as
comfort women [慰安婦と呼ばれる人々]またはthose known as comfort women [慰安婦として知られる人々]とする」と書かれている。
「従来のso-called comfort women [いわゆる慰安婦]は使わない。原則として、従軍慰安婦についての説明はしない。… be
forced to [ 強制された]、brothels [売春宿]、sex
slaves [性奴隷]、prostitution [売春]、prostitutes
[売春婦)]などは使わない。」
中国が領有権を主張している離島、尖閣諸島についての項で、この手引きは「dispute [紛争]」、「disputed
islands [係争中の島々]」という言葉の使用を禁止し、尖閣諸島が日本に所属していることは明らかなので見解の相違はあり得ないとする政府の主張に沿うことを求めている。
「issue [問題)]は『領有権の問題は存在しない』という日本の立場を表現する場合のみ使用可」と、この文書には書かれている。
何十万人もの中国人男女と子供が帝国陸軍により虐殺された1937年の南京事件(南京大虐殺)については、この手引きによると「the Nanjing Incident [南京事件]」と呼ばなければならない。
この文書はさらに、「the Nanjing Massacre [南京大虐殺]は海外要人の発言などの直接引用が必要な場合に限定し、…引用であることを明確にする」と記している。(訳注1)
処刑された戦犯を含む日本の戦没者が神道の神として祀られている靖国神社への言及では、「war-related shrine [戦争に関係する神社]」、「war-linked shrine [戦争に繋がる神社]」、「war shrine [戦争神社]」のような英語表現を、NHK職員は避けなければならないとしている。
処刑された戦犯を含む日本の戦没者が神道の神として祀られている靖国神社への言及では、「war-related shrine [戦争に関係する神社]」、「war-linked shrine [戦争に繋がる神社]」、「war shrine [戦争神社]」のような英語表現を、NHK職員は避けなければならないとしている。
日本の国会議員の一団が10月17日、秋季例大祭が行われている靖国神社に参拝した。ミラノでヨーロッパとアジアの首脳と会談中の安倍氏は、真榊(まさかき)と呼ばれる供え物を奉納した。
ジャーナリズムの経験を持たない実業家の籾井氏は、NHKは韓国や中国(訳注2)の領土問題に関する日本政府の立場を国際的に放送すべきだとも述べた。「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と彼は語った。
上智大学の政治学教授、中野晃一は「かつては日本のBBCとなることを目指していた我が国の公共放送局が、ますます中国中央電視台(中国国営放送)の鏡像のようになっていくのを見ると、心が痛む」と語る。
中野氏はこうも言う。「政府が定義した『国益』をメディアは推進すべきという見解を安倍政府は取っているので、NHKを政府の代弁者にすることで活用していると信じているようだ。」
NHKの広報担当者は「私たちは国際基準や指針に従って常により適切な表現を使うよう心がけています」と語った。
訳註:元の記事は「South Korea and Japan」となっているが、籾井氏の発言が「尖閣や竹島」についてなのでこれは China と書くべきところを間違ってJapan と書いたと判断し、訳は「韓国と中国」としてある。
(翻訳 ピース・フィロソフィー・センター)
★投稿後訳語を微修正することがあります。
訳注1:
NHKが「南京大虐殺」(the Nanjing Massacre)ではなく「南京事件」(the Nanjing Incident)と言わせようとしていることを報道するこの記事では、南京大虐殺のことを「the Rape of Nanking」と呼んでいる。英語では the Nanjing Massacre も the Rape of Nanking も両方とも南京大虐殺を意味する言葉として使われている。日本では、このNHKの指示から察することができるように「大虐殺」の印象を弱めようと「南京事件」と呼ぶときもあるが、「南京大虐殺事件」の略として「南京事件」と呼ぶこともあり、日本語においては「南京事件」と呼んだからといって南京大虐殺を否定しているとは限らない。実際1937年12月南京攻略時から数か月間、日本軍により殺害だけではなく強姦、放火、略奪といった幅広い残虐行為が行われた。殺害だけではないので、それら全体の残虐行為を指して「南京大虐殺事件」と呼ぶという学者もいる。しかし英語においては南京大虐殺を the Nanjing Incident と呼ぶことはほとんどなく、the Nanjing Incidentは別の歴史的事実を指して使われている用語でもある。英語においては、NHKが指示するように南京大虐殺the Nanjing Massacreを外国要人が使っているのを引用するとき以外は禁止し、the Nanjing Incident「南京事件」と呼ぶとなると、混乱と誤解を招く可能性がある。史実を歪曲する試みと見られても仕方ないであろう。ちなみに日本政府は、数や規模には触れないまでも南京大虐殺のことは、「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」と認めているし「南京大虐殺」という言葉も使っている。外務省の英語ページでも Nanjing Massacre と表記している。籾井氏が政府の言いなりに報道させたいのならばこの点は押さえるべきであろう。
訳注2:
元の記事は「South Korea and Japan」となっているが、籾井氏の発言が「尖閣や竹島」についてであることからもこのJapan は間違いで正しくはChina のはずである。
★訳文中のハイパーリンクは訳者が加えたものである。
私のブログでもタイムズの記事を紹介しましたが、本日こちらの前文翻訳にリンクさせて頂きました。良質で精力的な活動の継続に敬意を表します。
ReplyDeleteタイムズのスクープ