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Monday, November 21, 2016

宇宙に拡がる南西諸島の軍備強化:前田佐和子 Military Buildup of Nansei Islands - Yonaguni, Miyako, Ishigaki, Amami, and Space Technology: Sawako MAEDA

過去、このブログに沖縄の離島の教科書問題等について重要な論考を投稿した前田佐和子氏に、宇宙科学研究者の視点から南西諸島の軍備強化と、「準天頂衛星システム」の関係の可能性についての論考を寄稿いただいた。(転載・引用の場合はかならず初出としてこの投稿のURLにリンクしてください)。


宇宙に拡がる南西諸島の軍備強化


前田佐和子

(1)南西諸島への自衛隊配備
与那国島南牧場(2013年)
日本列島の西の端に位置する人口1500人の与那国島に、2016年3月28日、自衛隊沿岸監視部隊が配備され、約160人の隊員とその家族90人余りが移住してきた。それから半年、馬の親子がのんびりと歩いた緑豊かな南牧場は、ま新しい自衛隊駐屯地にとって代わられ、一面が赤土に覆われた異様な光景を呈している。 今では、沿岸を航行する艦船、上空の航空機などを監視するレーダーのアンテナが、島のあちこちに立っている。

2008年、与那国島の町議会が自衛隊誘致の決議を上げて以来、長きにわたって取り組まれてきた町民たちの反対運動を押し切っての配備であった。
与那国島久部良地区(駐屯地)
誘致の賛否を巡って地域社会が分断され、島の政治や人々の暮らしが、誘致に賛成した住民や自衛隊員たち、その家族の意向に左右されてしまうことが懸念される。周囲の長さが27kmの島で、自衛隊と混在して生活することを危惧する人々が、家族ごと島外に移住するという事態も起こっている。

翌3月29日には、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法が施行された。自衛隊の活動が格段に強化され、米軍とのあいだで基地の共同使用が拡大されていくことを懸念する沖縄の琉球新報は、この日、大きな紙面をさいて「安保法施行、在沖自衛隊を増強」という記事を掲載した。与那国島に続いて、宮古島に初動対応にあたる警備部隊と地対艦・地対空ミサイル部隊を800人、石垣島と奄美大島にも550人配備する計画が、順次、具体化されようとしている。

(2)アメリカの対中国戦略と要塞化する南西諸島
南西諸島には、宮古島の航空自衛隊分屯基地を除いて、これまで自衛隊は配備されてこなかった。この地域の急激な軍事化の背景を、いわゆる‘尖閣’を巡る日本と中国の領土問題として報道する本土メディアは多い。しかし、米軍の辺野古新基地建設や高江のヘリパッド建設に加え、南西諸島に自衛隊を配備することは、中国に隣接する同盟国に軍事的な役割を担わせようとする、アメリカの対中国戦略の一環である。この対中戦略、「エアーシー・バトル」や、それに代わる「オフショア・バランシング」について、参議院議員伊波洋一氏は、雑誌「世界」1月号で詳しく述べている。(注1)「エアーシー・バトル」では、中国軍のミサイルによる先制攻撃の兆候に対して、米軍はグアムに退避するという。日本列島全体が戦場になることが予想され、その危険性についてアメリカでも批判が大きい。それに代わるものとして、「オフショア・バランシング」が台頭してきた。これは、‘米中全面戦争にはエスカレートさせない、そのために日本が沖縄を含む南西諸島を戦場として差し出すことを求める’というものである。

10月18日に宮古島で開かれた住民説明会では、防衛省担当者が、尖閣・極東の‘安保環境’がいかに危機的であるかを強調して陸上自衛隊配備の必要性を訴えた。しかし、参加した住民からは、配備に伴い宮古島地域が攻撃対象となるリスクや、有事の際の具体的な住民避難計画がないことに対して不安の声が上がり、発言のほとんどが配備に反対するものであったという。石垣島でも9つの団体と個人が「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」を結成した。もっとも‘脅威’を感じているはずの住民たちのなかで、自衛隊の配備に反対する気運が高まっている。

南西諸島で軍備が強化されようとしていることに対し、各島の運動をつなぐ「南西諸島ピースネット」が作られた。基地建設反対の闘いに加わる人々は次第に視野を拡げ、中国を包囲するアメリカのミサイル防衛戦略と、それに組み込まれた日韓の軍備拡大が、問題の根本要因であることを理解するようになった。この戦略では、日本海から太平洋に出ようとする中国の艦船を検知し攻撃する地対艦ミサイル部隊、それに続いて飛来する航空機を監視、迎撃する地対空ミサイル部隊を、南西諸島に配置する。これらミサイル部隊は、中国の艦船の太平洋への通過を阻止し、第一列島線の内側に閉じ込めるというアメリカの戦略に組み込まれたものである。

(3)準天頂衛星追跡管制局の設置
与那国島に自衛隊が配備されようとしていた昨年後半から今年初めにかけて、宮古島、石垣島に目新しいアンテナが設置された。種子島、久米島にも、同様の設備がほぼ同時期に設置されている。
準天頂衛星石垣追跡管制局
(写真提供:山里節子)
準天頂衛星の追跡管制局と呼ばれるものである。沖縄本島恩納村には、前年に設置されている。準天頂衛星は、「測位衛星」である。
4機以上の衛星からの電波を地表の受信機で受信し、受信点の地理上の位置を特定するもので、日本版GPS(全地球測位システム)」と呼ばれる。[S.M.1] 測位をする際に必要となる衛星の位置と時刻の情報は、各管制局で受信した衛星からの電波情報をもとに計算され、恩納村の管制局に送られて、そこから再び衛星に送信される。南西諸島の各地に一斉に設置された追跡管制局は、準天頂衛星と電波の送受信をする、このシステムの基本的な構成要素である。文部科学省のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発主体となって、2010年に準天頂衛星1号機が打ち上げられた。これの開発に総額735億円がつぎ込まれた。それ以降は開発の主体が内閣府に移り、年間150~250億円の予算がついている。

準天頂衛星システムについて、南西諸島の自衛隊配備とは無関係であるとみなす人が多い。今年の8月13日付け琉球新報は、石垣島の「南の島の星まつり」記念講演会で行われた、国立天文台副台長と内閣府宇宙開発戦略推進事務局行政官の講演を報じている。前者は、国立天文台のプロジェクト「VERA」についての講演である。岩手県から石垣島にかけて設置された4基の電波望遠鏡を一体的に運用して、遠方の天体の位置を計測するという、純粋に科学の話であり、地元でもVERAの愛称で呼ばれ親しまれている。
VERAの石垣観測局
(写真提供:山里節子)
しかし、石垣島のVERA電波望遠鏡から数kmのところに陸上自衛隊が配備されるといわれ、その場合、敵艦艇や航空機などを検知する監視用レーダーが設置されるだろう。VERAの使用する電波の周波数は、2~45GHzの広い周波帯にまたがっており、監視用レーダーで使用する電波の周波数が、それに重なる可能性がある。そのため、レーダーの発信する電波がVERAの受信機に混入し、雑音となる恐れがある。2016年4月に石垣島で開催された住民説明会で防衛省が配布した資料には、この問題について、‘電波法を遵守して、影響を与えないように措置する必要がある’と記されているが、どのように混信を防ぐかということは言及されていない。一方、内閣府の行政官は準天頂衛星について講演し、地元に建てられた見慣れないアンテナに不安を感じる住民に対し、‘システムが整えば利用する機会が増えると思う。期待してほしい’と語ったとのことである。記事は、準天頂衛星について、日米両政府が推し進める宇宙の軍備強化との関連を一切論じていない。準天頂衛星システムの整備・拡張は、以下に述べるとおり、宇宙協力を通じた‘日米軍事同盟’の深化を図るために巨額の国家予算が投じられ、‘宇宙安全保障’の名のもとに優先的に取り組まれているものである。自動車のナビゲーションや自動走行、土地の測量や建設機械の自動制御など、大々的に宣伝される民生利用の背後に、この本質が隠されている。

(4)宇宙基本計画
1950年代中期に始まった日本の宇宙開発は、科学と、それを支える技術開発を中心に進められてきた。1969年の国会決議「宇宙の平和利用原則」によって一切の軍事利用は禁じられ、専門家は科学と民生利用の技術開発に専念した。少ない国家予算にも拘わらず、科学の水準は世界の最高レベルを維持し続けてきた。国家の威信をかけ軍事利用のもとで進められる他国の宇宙開発とは、一線を画してきたのである。2006年、太陽を観測する科学衛星「ひので」が鹿児島県内之浦から打ち上げられたとき、計画に関わってきた多くの国の科学者や技術者が、万感の想いでその打ち上げを見守った。平和利用に徹してきた日本の宇宙科学にたいする称賛と、間もなくその伝統が破壊されることを悲しむ気配が、打ち上げ場に満ちていた。

2年後の2008年、第一次安倍政権において、「宇宙の平和利用原則」は破棄され、軍事利用に道を開く宇宙基本法(注2)が制定された。以後、数年に一度改訂される「宇宙基本計画」に従って宇宙開発が進められ、次第に政府と宇宙航空産業(防衛産業)の意向が強く反映されるようになった。2013年に策定された第2次宇宙基本計画で、‘専守防衛の範囲内で’と書かれていた文言が削除され、ついに2015年度の宇宙基本計画(注3)は、宇宙開発の最重要目的が、‘積極的平和主義に基づく宇宙安全保障’であると宣言するに至った。

(5)準天頂衛星システム拡充の意味
2013年の「宇宙に関する包括的日米対話 第一回会合」(注4)の共同声明で、米国GPS及び日本の準天頂衛星システムによる測位、航法などのさらなる協力が盛り込まれた。それを受けて2015年の宇宙基本計画に、準天頂衛星を現在の1機から2017年には4機に拡充し、さらに2016年度の宇宙基本計画で、翌年から7機体制の開発を開始することが明記されたのである。完成は2023年ごろと見込まれている。その経費の総額は、4機で2000億円、7機では3800億円と見積もられている。

GPSは、アメリカ国防総省が管轄する軍事衛星で、ミサイル防衛の柱であり、無人機攻撃やミサイルの誘導に欠かせない。ロシアもGPSへの対抗措置として、同様の機能を持つGLONASSを運用し、中国、インド、欧州がこれに続いている。2015年度宇宙基本計画は、‘アジア太平洋地域の平和と安定のためにはアメリカの抑止力が不可欠’であり、‘抑止力の発揮のためにGPSが極めて重要な機能を果たしている’と述べている。さらに、GPS衛星が老朽化し、破壊された場合は、‘アメリカの抑止力が損なわれる’が、現在、その危険性が高まっているという危機感を表明している。これまで打ち上げられた推定6000機以上の人工衛星が、老朽化により多数の破片(宇宙ゴミとなり、宇宙空間に漂っている。1960年代から、米ソが、自国の衛星を自国のミサイルやレーザービームで攻撃し破壊する実験を繰り返してきた。さらに2007年に中国がミサイルで自国の衛星を破壊する実験を行い、2009年にはアメリカとロシアの衛星が衝突し、機体の破片などの宇宙ゴミが急激に増えた。そのため、航行する衛星に宇宙ゴミが衝突する危険性が高まったことが、GPSのぜい弱性を強調する背景となっている。宇宙基本計画で最優先課題とされた準天頂衛星システムの拡充は、GPSのぜい弱さを補い、さらに、日本列島から極東周辺地域の測位体制を各段に強化することが目的である。

GPSやGLONASSは、24機が地球の全体をカバーするグローバルなシステムであるのに対し、準天頂衛星は日本とオーストラリア大陸を結ぶ経度を中心にして、南北非対称の8の字の軌道を24時間かけて一周する、地域的な測位衛星である。準天頂衛星の送信周波数は、GPSのそれと完全に一致するよう設計されており、両方のデータを用いて精度の高い測位ができる。測位の精度は、GPSのデータのみでは10m程度であるが、準天頂衛星のデータで補えば1mから数cmの正確さで受信点の位置を決定できるといわれている(注5)。7機体制になると、日本上空に必ず4機が存在することになり、GPSのデータを使わずに24時間の測位が可能になる。巨額の税金がつぎ込まれる国家プロジェクトである準天頂衛星を活用する民生利用が、いま、産業界で活発に検討されている。‘システムが整えば利用する機会が増えると思う’という内閣府行政官の発言は、民生利用を強調することで、軍備拡張に対する社会からの批判を和らげる効果がある。「オフショア・バランシング」の構想で、沖縄から南西諸島の軍備を強化するためには、この地域の測位体制を整え、その精度を上げることが不可欠となる。さらに、読売新聞の報道によると、2023年ごろに宮古島に配備が予定されていると言われる新型地対艦ミサイルは、射程300kmで、軌道の中間段階ではGPSによる誘導で敵軍艦まで接近するという。今後、これに準天頂衛星のデータが使われる可能性がある。2016年3月18日の参議院予算委員会で、中谷防衛大臣(当時)が質問に答えて、滞空型の無人偵察機グローバル・ホークの導入を明言した。偵察機の誘導と自動着陸にも、準天頂衛星のデータが使われるだろう。南西諸島の軍備強化は、宇宙空間にまで広がっていくことになる。

(6)住民混在の戦いを繰り返してはならない
アジア・太平洋戦争末期、旧日本軍は、沖縄をアメリカの本土攻撃に対する盾として戦闘を展開し、20万人以上の死者を出した。‘あらゆる悲惨を集めた’と形容される沖縄戦の記憶は、今なお、沖縄の住民に受け継がれ、米軍基地建設に対する激しい抵抗運動の源泉となっている。一方、南西諸島などの離島では、米軍との直接的な地上戦はなかった。しかし、軍命により、石垣島や西表島などの住民は強制退去させられ、マラリア有病地域に移住させられた。飢えとマラリアで八重山地域だけで4000人近くの人々が命を落とした。強制退去は、軍が枯渇する食糧の現地調達のために、家畜や農産物などを接収することが目的であったと言われている。

周囲を海に囲まれた離島では、住民は逃げ場を失い、兵士と混在して戦闘に巻き込まれる。沖縄戦では、首里陥落のあとも32軍は降参せず、大本営の戦略のもとで本島南部への撤退を続けながら、住民を巻き込んだ持久戦を続けた。‘軍民一体’と評される所以である。2013年、沖大東島で行われた離島奪還訓錬について、琉球新報は「いったん敵に島を占領させた後、増援部隊が逆上陸して敵を撃破する戦い方が採用されたようだ。」と報じた。長い海岸線を持つ離島では、敵の上陸を事前に阻止することは不可能だ。住民混在の戦いにならざるを得ない。戦闘に先立って、いかに住民を安全に退避させるのかという点についての十分な検討がなされたという話は聞かない。住民の命を守るためには、軍備ではなく、戦争を回避するための外交と、周辺地域との交流を深めることが何より求められる。10月末に開かれた日本環境学会沖縄大会で、琉球大学の我部政明教授は、島嶼の安全保障における基本原則の一つに、‘周辺の世界との間の交通、運輸、通信の手段が安定的に存在する’ことを挙げた。近隣諸国とどのように信頼を築き上げるかを差し置いて、ひたすら軍備の拡張に走ることの危険性は計り知れない。

前田佐和子(まえだ・さわこ)
宇宙科学研究者、元京都女子大学教授。
著作 Transformation of Japanese Space Policy: From the “Peaceful Use of Space” to “the Basic Law on Space” Asia-Pacific Journal: Japan Focus 
http://www.japanfocus.org/-Maeda-Sawako/3243

当ブログにおける前田氏の過去の投稿は、
2011年9月16日「揺れる八重山の教科書選び 」
2012年5月31日「八重山教科書問題の深層」
2012年11月11日「アメリカが’統治’する沖縄」

(1)「軍事戦略の中の沖縄」 伊波洋一 「世界」2016年1月号 岩波書店
(3)平成27年度宇宙基本計画 http://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/plan2.pdf
(4)宇宙に関する包括的日米対話 第一回会合
(5)準天頂衛星システムの機能 内閣府 http://www8.cao.go.jp/space/pdf/qzs/kinou.pdf






 [S.M.1]陸・空自衛隊開発ミサイル誘導システムにはGPS誘導が採用されている12式地対艦誘導弾の中間誘導に、GPS誘導が追加された。

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