さる10月、「村山首相談話を継承し発展させる会」の訪中団の一員として、中国の新疆ウイグル自治区を訪問しました。団長の藤田高景氏による、『月刊社会民主』12月号に掲載された報告を、藤田さんの許可を得てここに転載します。連続投稿として、「村山首相談話を継承し発展させる会」訪中団の報告書用に書いた乗松聡子の感想文も、この次の投稿として転載します。
注:転載する藤田氏の原稿は『月刊社会民主』掲載用に1000字ほど削除する前の原稿です。また、文中の写真はすべて、団員の乗松聡子が撮影した写真です。★許可なしの写真や文の転載は禁止です★
藤田さんも乗松も文中に書いているように、西側諸国のメディアで流布されている「中国政府が新疆で”ジェノサイド”をやっている」という言説は根拠のないものです。これは米国のイラク侵略戦争の口実として使われ、嘘だったとわかっている「大量破壊兵器」と同様、米国の中国に仕掛けようとしている戦争を正当化するために作られた一連の中国悪魔化の言説の一環です。1923年、日本による朝鮮の植民支配下で、関東大震災を口実に、朝鮮人大虐殺を起こしたときも偽情報が使われました。
殺したい相手を悪者に仕立て上げ、殺しても構わない相手という印象を広げるのが侵略戦争の常套手段です。ウクライナ戦争、ガザ戦争、シリア戦争等にも米英など西側諸国による同様の手法が使われてきました。主に西側の既存メディアや政府の情報を見ている人たちにとってはショッキングかもしれません。しかし地球滅亡につながる世界戦争を防ぐためにも、この情報戦に抗うことはとても大事なことなのです。反射的に情報の発信者を攻撃したり、特定の政府の遣いであるとレッテルを貼ったりせず、まずは色メガネを外して、情報に接してほしいと思っています。
それではまず藤田高景さんの報告です。
「村山首相談話の会」第8次訪中代表団報告
‐‐飛躍的な発展を遂げる、シルクロード経済ベルトの核心・新疆ウイグル自治区を訪問して‐‐
「村山首相談話の会」理事長(訪中代表団・団長)藤田高景
「村山首相談話を継承し発展させる会」(以下、村山首相談話の会)の第8次訪中代表団が2024年10月14日から20日まで、中国・新疆ウイグル自治区のウルムチ・トルファン・カシュガルを訪れた。今回の訪中団のメンバーは団長を務めた藤田と、植草一秀・副団長(政治経済学者・元早稲田大学大学院教授)、羽場久美子・副団長(京都大学客員教授・世界国際関係学会元副会長)、乗松聡子・団員(「ピース・フィロソフィーセンター」代表)等、総勢10名(文末に掲載の団員名簿・参照)であった。
1.「新疆イスラム教経学院」を訪問
ウルムチの新疆イスラム教経学院 |
広大なキャンパスの、教学ビル・図書館・礼拝堂・浴室(礼拝の前に身を清める)などを見学したが、実際に学生達が授業を受けている教室にも入り、説明を受けた。
院長のアブドゥレクプ・トゥニヤス先生(中央) から説明を受ける藤田団長(通訳はソフィアさん) |
ここの学校の学生は卒業後、新疆各地の学校で宗教教師となったり、自分の郷里に帰って、モスクの教師になったりして、故郷で宗教のために勤める事となるとの説明を受けた。
中国政府が、イスラム教に対して、手厚い保護と援助をしている実態を見学できた事は、大きな収穫であった。
2.ウルムチ国際陸港区の見学
「新疆イスラム教経学院」の訪問の後、15日の午前に、ウルムチ国際陸港区を訪問し、説明を受けた。新疆は、シルクロード経済ベルトの核心地域に位置し、ユーラシア大陸の内陸部に位置している。また、新アジア・ヨーロッパ大陸経済回廊、中国・モンゴル・ロシア経済回廊、そして中国・パキスタン経済回廊の交差点に位置する。この地域は、国内と国際の14億人口の巨大な市場を結んでおり、シルクロード経済ベルトの建設において、掛け替えのない役割を担っているとの説明を受けた。一帯一路核心区の説明をうける |
3.新疆ウイグル自治区博物館を訪問
15日の午後、ウルムチ市にある、新疆ウイグル自治区博物館を訪問し、見学した。この博物館は、新疆の文化財収集と科学研究の中心であり、省レベルの総合的な歴史博物館となっている。外観はウイグルの建築風格を持ち、館内も民族の特色であふれていた。常設展示は、新疆少数民族の民俗、新疆の歴史と出土文物などがあった。博物館の2階には、古代ミイラの陳列室があり、この博物館の目玉と言われる「楼蘭の美女」と呼ばれる美しいミイラも見学した。1980年にタクマラカン砂漠の東の楼蘭鉄板河遺跡で発掘された古代の女性のミイラで、約3800年前のミイラだ。
新疆博物館に展示されているミイラ |
タクマラカン砂漠は、とても乾燥しているので、保存の状態も良かった。この博物館を見学していた時に、日本語の会話が聞こえてきたので、話かけたら、なんと、日本からきたJTBツアーの観光客の皆さんであった。あとで、中国の関係者の皆さんに聞いた所では、1980年4月から始まった、NHK特集「シルクロード 絲綢之路…喜多郞のテーマ音楽が素晴らしい」(全12回)のブームで、1980年代から1990年代の終わり年頃までは、多くの日本人が、新疆ウイグルの各都市を訪れた。この頃は、この地域を訪問する外国人の約6割以上が日本人観光客であった。しかし、その後の、日中関係の悪化で、ぱったりと日本人観光客は来なくなり、多くの日本人相手の中国の旅行社は倒産してしまったと。近年は、個人またはツアー客が、ぽつりぽつり、来る程度だと言われて、思わず、考えこんでしまった。今回、私たちの面倒を見ていただいた、中国の皆さんも、かつてのように、多くの日本人の皆さんがシルクロードの見学・観光に来て欲しいと呟かれていたことが、印象に残った。私も、日本に帰ったら、シルクロードの素晴らしい思い出を大いに、日本の友人・知人に伝えねばと言う気持ちになった。
バスで説明する ウルムチ市人民政府外事弁公室の礼賓科 ジンナット・アブリキムさんと、ガイドの黄躍翔さん |
4.「新疆に於けるテロと過激主義との闘い主題展示」の見学
15日の午後、新疆国際会議展覧センターの中にある「新疆に於けるテロと宗教の極端化を除去する闘い主題展示」を見学した。以下の説明を受けた。
「新疆のテロと過激主義との闘争」展示 |
新疆は反テロ主義および宗教の極端化を除去する主な戦場となってきた。テロ主義と極端主義は、新疆の民族の人たちの純粋な感情を利用して、宗教に熱心な人たちを扇動し、宗教の極端思想を吹聴した。そして、テロ活動を積極的に行なった。テロリスト達は、1990年代になると、ネットを利用した。ネットを利用して、極端な思想を吹聴した。その人たちは、テロ主義・テロビデオ・テロ音楽など、様々なものを作り、テロ教育を広めていった。具体的には、1990年4月に、カシュガルのアクト県で、武装暴動が起きた。東トルキスタンを名乗る勢力が異教徒に対する聖戦という口実で、いろいろな武器を持って、200人以上も集まって、アクト県の政府を攻撃した。ここから、新疆のテロ活動は一時期、連続的に発生した。1992年にはウルムチ市で、バスの爆破テロが発生した。1993年と1996年の3つのテロ事件では、テロリストは、いずれも愛国心を持っている宗教関係者を暗殺した。2000年の1月に起きたテロ殺人事件は、4人のテロリストが、9名の一般市民を攻撃し、7名を殺害した。そのうち、4名は11歳以下の子ども達だった。
2009年7月5日に、ウルムチで大規模な事件が起きた。多くの死傷者(死者197名)がでた。国内外の東トルキスタンを名乗る勢力が、テロ事件を引き起こした。
数々のテロ事件、使われた武器も展示 |
2013年の10月28日には、北京で、残虐なテロ事件が発生した。テロリストは、白いジープに乗って、北京の中心部、天安門の歩道に突っ込み、次々に、通行人を、跳ね殺した。2014年にウルムチで起きたテロ事件では、4名のテロリストが二台の車に乗って、朝のバザールに突っ込み、一般人を跳ね、34名を殺害した。
ここまで、皆さんに説明したのは、1990年代から2016年までのテロ事件の一部だ。ここでは、展示されていない、数多くのテロ事件によって、一般市民が生命・財産を奪われたケースが、数え切れないほど、たくさん起きた。テロ事件は2016年が最後であった。宗教の極端思想・極端行動・テロ活動などの犯罪に反対する事は全新疆の幹部・人民の心からの願いだとの説明を受けた。
ウルムチ文化センター計画館を見学する訪問団 |
5.新疆ウイグル人民政府関係者との座談会
訪中代表団は、10月15日の夕方、新疆ウイグル人民政府関係者との意見交換を行なった。
新疆ウイグル人民政府からは、朱立・新疆ウイグル人民政府・外事弁公室・アジア・アフリカ事務処長、陳宇・新疆ウイグル人民政府・人力資源保護処長、ムニラ・新疆ウイグル人民政府・民族事務委員会・処長、ソフィア・新疆師範大学日本語科教員等、5名が出席された。まず、冒頭、朱立・所長から、以下の説明があった。
新疆ウイグル人民政府関係者との座談会 |
まず、新疆ウイグル自治区の基本状況を報告する。
新疆は中国の西北部に位置し、以下の8つの特色を持っている。
新疆は広い。自治区の総面積は166万平方k㎡(筆者注:フランス共和国3つ分に相当する)。中国の総面積の1⁄6 中国最大の省レベルの行政区だ。
歴史が長い。紀元前60年には漢王朝が新疆に西域都護府を設置した。
新疆の国境線は長い。5700㎞もある。新疆ウイグル自治区は、北から南に向って、モンゴル・ロシア・カザフスタン・キルギス・アフガニスタン・パキスタン・インドの8ヵ国と接している。
あらゆる民族が同じ所に生活している。中国には56の民族がある。その56の民族が、全て、ウイグルに生活している。新疆の総人口は約2500万人。漢民族以外の少数民族の人口は新疆の57.76%を占めている。そのうち、ウイグル族の人口は1100万人以上あって、新疆総人口の44.96%を占めている。
多宗教が調和・共生している。主にイスラム教・仏教・道教・キリスト教がある。その中では、イスラム教の人数が最も多い。長い間、各宗教が新疆で融合して共存し、整然と発展してきた。
独特な民族文化を持っている。さまざまな民族の文化は、長い間交流し、かつ融合し、中国文明の肥沃な大地で花開き、中国文化の重要な一部となった。各民族は、それぞれ各自の民族文化を持っている。
新疆の風景が美しい。国内外から観光客が、たくさん来ている。
資源が豊富だ。石炭は中国の総資源の40%。石油は30%。天然ガスは34%。綿花生産量は90%以上を占めている。
習近平国家主席および中国共産党の指導のもとに、新疆が平和で安定し、歴史上最高の繁栄期を迎えている。
最近の米国や西側のメデイアの一部が、新疆に対して、ジェノサイド・強制労働・人権抑圧とかのネガテイブなニュースを流しているが、全く根拠はない。1100万人以上のウイグル族の人たちが、ここ、新疆で順調に生活しているので、ジェノサイド・強制労働・人権抑圧ということは、何の根拠もない、事実もない。米国は一部の学者の報告によって法律を作り、新疆の綿紡績・トマトなどの、いろいろな産業に制裁をかけてきている。アメリカの新疆に対する攻撃は、新疆を使って、中国を攻撃するというやり方である。皆さんは、日本からわざわざ来られたのだから、新疆で起きている全てのことを自分の目で見ていただくことが大切です。
この後、陳宇・処長から、人民政府は、就活を人民生活の最優先の課題として、雇用を優先する戦略を実施している。積極的な雇用政策を、たえず改善し、各民族の労働や就活における利益を保護し、新疆の人々に勤勉な労働を通じて、幸福な生活を創造することをサポートしている。近年、新疆の就活状況は安定してきており、各民族の収入は増加し、生活の質はますます高まってきているとの報告がなされた。
ウルムチの国際大バザール |
6.シルクロードの有名な要衝、トルファンを訪問し、シルクロードの古代遺跡を見学
10月16日の午後、ウルムチから、南東183キロのトルファンに向けて、バスで出発した。天山山脈の南麓、トルファン盆地の中部に位置するトルファンの夏は暑くて長い。ゆえに古くから「火州」と呼ばれている。バスで約3時間の道中で、最も驚いたことは、途中から、巨大な風力発電の風車が、車の左右に延々と連なっている。その数は、膨大な数であった。驚いて、中国の方に聞くと、中国最大の風力発電のメッカであり、おそらく、世界最大の風力発電地帯であろうとの事であった。トルファンには2泊したが、到着翌日の17日に、早朝から、私が青春時代から、特に、1980年のNHKの特番を見てから、死ぬまでに一度は訪問せねばと憧れていた、シルクロードの著名な古代遺跡を次々に訪問した。紙面の関係で、詳細な報告ができないのは残念だが、この50年来の私の夢が実現したことは、望外の喜びであった。
火焰山 |
西遊記にも登場する「火焔山」を見学したあと、「火焔山」山中にある仏教寺院遺跡の「ベゼクリク千仏洞(現存する石窟は83個)」を訪問した。ベゼクリク千仏洞は5世紀から7世紀の高昌国の時代に栄えた仏教石窟だ。
ここは、かつてイスラム教がトルファンを支配した際に、仏像は破壊され、石窟に描かれた壁画も剥がされ、特に目からは邪気が出るとしてえぐられ破壊され、それをのがれた遺跡も、20世紀初頭に、外国の探検隊(ドイツ・イギリス・ロシア・日本の1902年の大谷探検隊など)に、壁画の一番、貴重な部分が、無残にもはぎ取られ、それぞれの国に、持ち去られた。その説明を聞いた時、私は、思わず、絶句した。
観光客が絶えないベゼクリク千仏洞 |
ベゼクリク千仏洞から高昌故城に行くみちのり |
7.タリム盆地の西縁に位置するカシュガルを訪問
18日は飛行機で、ウルムチから出発し、カシュガルに向った。
カシュガル旧市街で |
カシュガルはシルクロードの南北2つのルートの集合地点だ。カシュガルは生きている千年の古代都市と言われ、まるで中世が溢れている巻物のような街だ。古代シルクロード文化を研究するには最も貴重な歴史文化都市だ。1986年、カシュガル旧市街は国務院により「国家歴史文化都市」と命名された。
カシュガルでは、まず、カシュガル旧市街改新記念館を訪問した。ここでは、カシュガルは、かつては上水道もなく、トイレも屋上にといった劣悪な住環境だった街を、住民の意向を大切にしながら、再開発を行ない、快適な住環境を作り上げたという詳しい説明を受けた。再開発に当たっては、何よりも住民の意向を尊重したという事は大変、参考となった。
9割以上がウイグル人というカシュガル。 くつろぐ地元の人々 |
19日は、午前中、エイテイガールモスクを訪問し案内・説明を受けた。このモスクは1442年に建てられ、580年以上の歴史を持っている。2001年に国務院から国家レベルの重点文物保護所とされた、新疆最大規模の著名なモスクで、寺院内は、礼拝持7000~8000人を収容できるという巨大なモスクだ。その後、カシュガル大学を訪問し、著名な教授の皆さんから、ご案内と説明を受けた。特に、黄冑教授の躍動する馬や人物を描いた素晴らしい水墨画に感動した。黄冑教授の水墨画は、北京の「中南海」にも展示されているとの説明を受けた時には、思わず、団員の中から、一度北京でみたいとの声が上がった。
エイティガールモスクではウイグル語で説明を受けた。 |
8.結語
米国CIAの別働隊とも言われている、全米民主主義基金(NED)は、膨大な資金を、世界ウイグル協会に(WUC)に提供している。世界ウイグル協会(WUC)は、世界各地で中国を攻撃するための、虚偽のニュースを流し、プロパガンダキャンペーンを、執拗に展開している。新疆ウイグルの分離・不安定化工作が全世界的に行なわれている。全米民主主義基金(NED)に大量の資金を提供している、米国政府の狙いは明確だ。米国は、このまま放置すれば、これまで長期に渡って築いてきた、世界最大の超大国・覇権国としての政治的・経済的・軍事的地位を、中国に奪われるとの恐怖心から、中国を最大の脅威・敵とみなして、世界各地で、米国の同盟国・従属国を、総動員して、中国の国力を破壊するための様々な工作を展開している。中国の新疆ウイグルの人権問題を振りかざして、攻撃しているのも、その一環だ。米国は、中国に対して人権問題などを口実に、徹底的に利用・活用して、中国の弱体化に、必死になって、取り組んできている。そのような米国の工作を考慮せずに、米国の立場からの中国攻撃・新疆ウイグル攻撃のニュースを一方的に垂れ流す、現状のメデイアのあり方も厳しく問われねばならない。今回、私たちが新疆ウイグル自治区を訪問して、新疆ウイグルは、飛躍的な経済発展を遂げている事が分ったし、米国などが盛んに流布している「ジェノサイド」キャンペーンなどは、全くの虚偽・フェイクだと強く確信した。これからも、意図的に作り上げられた「ウイグル人権問題」キャンペーンの実態の解明が、不可欠だ。
「村山首相談話の会」第8次訪中代表団名簿
団長 藤田高景 村山首相談話の会・理事長/副団長 植草一秀 村山首相談話の会・共同代表 政治経済学者・元早稲田大学大学院教授/副団長 羽場久美子 村山首相談話の会・共同代表 京都大学客員教授、世界国際関係学会(ISA)元副会長/団員 乗松聡子 村山首相談話の会・理事「ピース・フィロソフィーセンター」代表/団員 高梨晃嘉 村山首相談話の会・理事、元横浜市議会議員 かな川歴史教育を考える市民の会・事務局長/団員 川野純治 村山首相談話の会・理事、元沖縄県名護市議会議員/団員 加藤弘吉 村山首相談話の会・理事/団員 佐藤正兵 村山首相談話の会・理事/団員 和田久美 村山首相談話の会・理事/団員 小船麻子 村山首相談話の会
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