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Sunday, December 22, 2024

乗松聡子による「村山首相談話の会」第8次訪中代表団・新疆ウイグル自治区への旅の報告 Japanese "Murayama Statement" group visit to Xinjiang, China: Satoko Oka Norimatsu's report

前投稿:藤田高景氏による「村山首相談話の会」第8次訪中代表団・新疆ウイグル自治区への旅の報告  

に続く、当サイト運営者の乗松聡子による報告を転載します。これは既存媒体に掲載されてはおらず、訪中団の報告集に収録するための原稿ですので、他の団員と内容が被らないように、カナダから参加した自分ならではの視点を盛り込んだ感想文となっています。写真はすべて自分が撮ったものです。ハイパーリンクは参考資料としてつけたものです。

★文も写真も無断の転載・転用を禁止します。


多民族のカナダから多民族の新疆へ


2024年11月18日

乗松聡子

「村山談話」のメッセージを胸に

 「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

 1995年8月15日に閣議決定された「戦後50周年の終戦記念日にあたって」、いわゆる「村山内閣総理大臣談話」の要の部分である。日本の首相ではじめて侵略と植民地支配を認め謝罪をした「談話」として、その後歴代総理が「踏襲」してきたが、2012年末に始まった安倍晋三第二次政権の下、日本軍「慰安婦」の史実を認めた河野談話と共に、安倍首相を含む歴史修正主義者の攻撃対象となった。政治の右傾化の中、「村山談話」の精神を引き継ごうとの趣旨で2013年に創立されたのが「村山談話を継承し発展させる会」である。

 私は2007年12月に南京大虐殺70周年で初めて訪れて以来、大日本帝国の中国侵略戦争の史実を学び被害者の追悼をするために5回中国を訪問した。このたび、「村山談話の会」による訪中団に参加して中国・新疆を訪ねる機会をいただき、誠に光栄に思っている。団の一員としても、一日本人としても、「痛切な反省とお詫びの気持ち」を常に忘れずにいたいと思いながら参加した。

旅をしながら感じたことを中心に感想をしたためたい。


カナダとの共通点

 私はカナダに移住して30年になる。現在は、住所はカナダに保ちながら日本とカナダを行ったり来たりする生活だ。歴史は異なるとはいえ、カナダと中国には類似性がある。双方が1千万平方キロ近くの広大な面積を持つ、世界でも5本の指に入る大きな国だ。私の住む西海岸のバンクーバーから東部の大都市トロントまでは飛行機で4時間半かかるが、北京からウルムチまでも4時間強の飛行時間で、「飛んでも飛んでも同じ国」感を持った。

息をのむ美しさ 天山天池

トルファンの楼蘭ワイン
 10月16日、ウルムチ郊外の「天山天池」を訪問した。水面と山脈と空が融合した、吸い込まれるような濃淡の碧の世界を見たとき、地元ブリティッシュコロンビア(BC)州のジョージア海峡の風景と重なった。

 雄大な自然に身を置いたとき、地球はひとつなのだということを思い出す。ウルムチの次に訪れたトルファンは、乾燥した気候を利用して一面のぶどう畑が広がる、干しぶどうとワインの名産地だ。有名な「楼蘭ワイン」を買って帰国後飲んだが、この濃厚なワインをもう一度味わうためにトルファンに戻りたい。バンクーバーから内陸に5時間ぐらい運転したところにはオカナガン湖というワインの里がある。BC州と新疆ウイグル自治区は姉妹州になれるのではないかと思うくらい、共通点がある。

多民族のザクロ、新疆

 新疆には、「中国の56民族が全ている」と説明を受けた。これも多民族国家カナダと共通している。新疆の随所で見た、民族の団結をあらわす象徴は「ざくろ」だ。実際に街には荷台をザクロいっぱいにして売り歩く人々がいた。甘みと酸味のバランス絶妙の100%ザクロジュースは疲れた体を癒やしてくれた。多民族融合を象徴するシンボルとしては、米国には「メルティング・ポット」、カナダには「モザイク」という表現があり、前者は「どこから来てもみなアメリカ人」、後者には「それぞれの歴史や文化を保ちながら共存する」という意味がある。

街でザクロを売る人 ウルムチにて
  米国とカナダは、欧州からの白人入植者が先住民族の土地を奪って作った国だ。カナダは多文化主義を国是としているが、今でも権力を持つ主流派は白人である。だからとかく「カナダ人=白人」と思われがちだが、人口の4人に1人はビジブルマイノリティ(非白人)である。非白人のカナダ人もカナダ人として平等に見てほしいと、いつも思っている。しかし今回多民族の新疆に来て、ウイグル族、漢族、チアン族、カザフ族などの人々と接し、自分こそ、新疆に行くまで「中国人=漢族」という思い込みがあったことに気がついた。ウイグル語を話し、イスラム教を信じるこの人たちもまぎれもなく中国人なのだ。

カシュガルのエイティガール・モスク

イスラム社会の尊重

カシュガルのガイド、ウイグル族のトルスン
ジャさん。宇都宮に3年住んでいたという。
 新疆では、訪問したウルムチの「新疆イスラム教経学院」やカシュガルの「エイティガールモスク」だけではなく、街中の随所にモスクが見えた。交通標識も中国語とウイグル語のバイリンガルで書いてあるところも、英語とフランス語表記が標準のカナダと似ている。西側では、中国政府がウイグル人に「ジェノサイド」を行っているという言説が流れているが、本当に「ジェノサイド」を行っていたら、ウイグル人が自由にウイグル語を話し、ウイグル料理店に行き、イスラム教信仰を実践することなどできないであろう。カシュガルは人口の90%以上がウイグル族だ。

 私は訪問者として、イスラムの地域に行くことに配慮が足りなかった自分を自覚した。訪問したウルムチ、トルファン、カシュガルで交流したガイドや通訳さん、運転手さん、現地の自治体の人はイスラム教徒が多かった。私はカナダ地元産のチョコレートをお土産に持っていって配ったが、帰る間際に気づいた。もらう方にしてみたら、菓子であっても、成分に不安があったかもしれない。次回からはハラール認定のものを持っていかなければと反省した。訪問団が中華料理店で食事をしたときはイスラム教の同行者たちは別室で、外からウイグル料理を取り寄せて食事していた。一緒に食事できないのは残念だったが、豚肉を取り扱う飲食店の中にいるだけでも、居心地が悪いかもしれないと想像した。

車窓より ウルムチの街並


多民族社会での子育て

 各地で通訳を務めてくれた索菲婭(ソフィア)さんに、「カナダでは、子どもが他民族と結婚することを好まない親もいるが、新疆ではどうでしょう」と、聞いてみた。彼女によると、新疆でも他民族と結婚する人が多くなってきたような気がするとのことだ。問題があるとしても、民族間の感情がよくないからとかではなく、食生活や冠婚葬祭などの面で習慣の違いがあるからとのことだった。

カシュガル空港でソフィアさんと

 索菲婭さんには幼い娘がいるが、学校で漢語中心に教育を受ける前にしっかりウイグル語を身に着けさせようと家庭でウイグル語を話し、ウイグルのダンス教室にも通わせているという。カナダで日系移民である私も、子どもたちが学校に上がれば英語ばかりになるので週末は日本語学校に通わせ、折り紙や習字などの日本文化も体験させた。索菲婭さんと私は、これだけ離れているのに、多民族社会で同様な思いを抱えて生活してきたのだなと感じた。民族語の継承はもちろん重要であるが、その国で学歴をつけて仕事を得るには、その国の共通語を身に着けないと不利になる。民族の言語や文化を尊重することと、共通語で教育を受け主流社会で通用する力を身につけることのバランスの難しさは、多民族社会である中国とカナダに共通の課題であると思った。

豊かな新疆が西側の標的に

 ウルムチ国際陸港区ウルムチ文化センター「計画館」では、ウルムチが中国の東部と、西アジア、欧州を結ぶ「一帯一路」計画の一大ハブとして発展していることを学んだ。

資源豊かな新疆
 観光客でごった返している「新疆博物館」で、有名なミイラの他に目を引いたのが、「新疆ウイグル自治区の主要鉱床の分布図」であった。石油、石炭、天然ガス、鉄、マンガン、クローム、銅、亜鉛、黒鉛、ソーダ硝石等、数え切れない天然資源の分布が表示されていた。ウルムチからトルファンに移動する高速道路の車窓には、時々見えるラクダの群れに加え、いつ途切れるのかわからないくらい果てしなく風力発電機が広がっていた。1000平方キロにわたるという「達坂城風力発電所」だ。途中サービスエリアでトイレ休憩に降りたとき、吹き飛ばされそうな強風で、みな体を縮めて歩き、やっとのことでバスに戻った。しかしガイドのファンさんによると、「きょうの風は、ここでは“そよ風”程度」とのことだった。

走っても走っても終わらない風力発電所

 豊かな資源をかかえ、もはやかつてのような「辺境」ではなく、ユーラシア大陸経済の中核地帯となっていく新疆だからこそ、中国の発展を阻止しようとする米国など西側諸国の標的とされることも理解できるような気がした。米国CIAの派生機関であるNED(全米民主基金)は全世界で「民主主義」「人権」の仮面を被った内政干渉・政権転覆・クーデター、いわゆる「カラー革命」を展開しているが、新疆ウイグル自治区も重点地区の一つである。新疆での「人権侵害」を宣伝している「世界ウイグル会議」や関連団体にもこのNEDが多額の援助をしている。

 西側の情報プロパガンダを常に解析している米国人ジャーナリストのブライアン・ベルレティック氏は「新疆の強制収容所疑惑」を、米国がイラク戦争の口実にしたが結局嘘だった「大量破壊兵器疑惑」に喩えている。他にも、調査報道機関『グレイゾーン』『ブレイクスルーニュース』など、英語圏の独立系メディアにも、新疆についての西側主要メディアの偏りを指摘しフェイクを打破しようとしているジャーナリストたちは少なくない。

中国を狙う外国テロ勢力との闘い

「テロと過激主義との闘い主題展」より
 私たちが見学したウルムチの「テロと過激主義との闘い主題展」によると、新疆では1990年代から2016年までにかけて何千ものテロ事件があり、何百もの警官や一般の民間人が殺された。展示にあった、2009年7月5日、内外で組織、訓練された「東トルキスタン」勢力何千もが市内で暴力、破壊、放火行為を行い、政府機関、民間住宅地、商店街や交通インフラを攻撃し、197人の死者と1700人以上の負傷者、331の店舗と1325の乗用車が破壊されたか燃やされたという事件は、日本やカナダでも報道されたことを覚えている。しかし西側に報道されたのは氷山の一角とわかった。中国を不安定化し分離させ、ひいては政権転覆させようと目論む外国勢力の影響を受けた分離主義、過激主義者によるテロリズムやその影響拡大との長い闘いの歴史があったのだ。

 西側ではこれを「中国政府に対する抗議デモの弾圧」と位置づけることが多いようだが、犯罪者や過激主義者を処罰・再教育し、多くがイスラム教徒である一般市民を守るために警備を強化するのは当然のことではないかと思う。日本でもこれだけテロがあったら取り締まるだろう。米国など西側諸国は「テロとの闘い」の名の下に海外まで出かけていって戦争を行い、結果的に罪なき民間人を大量に殺している。

西側の状況

 現在も、米国やカナダなど西側連合はイスラエルを支援し、ガザを含むパレスチナ全体、周辺諸国にまでイスラム教徒に対し文字通りの「ジェノサイド」を行っている。カナダや米国では「911」事件以降の「テロとの闘い」下、イスラムヘイトが悪化した。カナダではイスラム教に差別的な法律を通す州もあるぐらいだ。新疆では、モスクやイスラム教学校、カシュガルの旧市街地が公費で建設・保存されるようなこともあると聞いた。西側社会に照らし合わせると、イスラム教徒は、新疆での方が安全に暮らせるのではないかと思う位である。

 だからといって私は中国の少数民族に全く抑圧がないと主張しているわけではない。中国にも、カナダや日本にあるような、民族間の不平等やレイシズムは存在するであろうと想像する。完璧なユートピアの多民族国家が理想だろうが、どこの国も課題を抱えている。北米を見れば、カナダも米国も実際に先住民族や黒人に対して抑圧と支配と殺戮を行ってきている。カナダ政府と教会が一世紀以上にわたり先住民族の子どもを虐待した寄宿学校制度は、政府が設置した「真実と和解委員会」(2015)で「文化的ジェノサイド」と定義された。先住民族女性の大量失踪・殺戮事件については全国調査結果(2019)で「ジェノサイドに値する」と結論づけられており、首相もそれを受け入れた

色メガネを外し、交流しよう

ガイドの黄躍翔さん(チワン族)と
 中国、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国など、米国など西側諸国から敵視されている国は西側メディアにおいて悪魔化され、その地での「人権侵害」についての根拠も疑わしい報道が連日流されている。そのせいか、西側諸国の人々がこれらの国に行くときは「この国の人権問題はどうなっているのか」という関心が中心になりがちだ。しかし、日本人がふつう欧米諸国に行くときはそのような関心で行かないだろう。カナダに旅行しても、「自然豊かで人々は優しい」と思って帰ってくる人が大半ではないだろうか。西側の人たちは、最初から疑いの色メガネをかけて訪問するような姿勢自体を見直したらどうか。オープンマインドになり、違ったものが見えてくると思う。

 日本こそ、人の国よりまず自分の国の人権問題に取り組むべきだ。日本の少数民族政策ははなはだ乏しい。政府は近年アイヌを少数民族としてやっと認めたが、権利回復の道のりは遠い。在日朝鮮人については、朝鮮学校から補助金を奪い兵糧攻めにするという、「文化的ジェノサイド」に値する抑圧が現在進行形で行われている。外国人労働者の虐待、入管収容所における差別的な処遇、医療拒否による事実上の殺人など、深刻な人権問題が存在する。沖縄には基地押し付けという差別を続け、女性を性暴力のリスクに晒し続けている。日本の女性差別は世界でも最低の部類だ。

むせるほどクミンをかけたい羊肉串
 新疆のWusuビール
 トルファンにおける数々の壮大なシルクロード遺跡の訪問も含め、新疆への旅は忘れられないものとなった。あれ以来、中国でも有名な、喜多郎の「シルクロード」のテーマが頭に流れている。クミンをたっぷりまぶしたラム肉の串焼きと新疆ビール「Wusu」の組み合わせは最高だった。

 日本やカナダや米国から、もっと多くの人が新疆を訪れ、西側メディアに広がっている誤解を正し、友好を深めることが大切と思う。私も次の訪問を待てない気持ちだ。

やっぱりラクダが見たかった。火焰山で

(以上)

訪中団の藤田高景団長による報告もご覧ください。

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