Ben Norton: The Shocking Truth About America’s Plans for Venezuela
「ノーベル平和賞」
ついこのあいだノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャドという人物がいます。彼女は文字どおり、米国の軍事介入を自国に呼びかけているのです。冗談のように聞こえるかもしれませんが、BBCが彼女をノーベル平和賞受賞直後にインタビューし、その中で彼女は米軍がベネズエラに侵攻するよう求めました。つまり、戦争を呼びかけたのです。
もし米軍が介入したら、もしカラカスが爆撃されたら、もし彼らがいま話しているようにマドゥロ大統領を殺そうとしたら——実際、トランプはCIAに秘密工作を実行する権限を与えたと認めています——それは文字どおり内戦を引き起こす可能性があります。私は、ベネズエラで起きていることは非常に危険だと思いますし、私たちはそこで何が進行しているのかを非常に注意深く見守るべきだと思います。
(ホストのサイラス・ジャンセン)
さて、今回登場するのはベン・ノートンさんです。彼はジャーナリストであり、地政学アナリストであり、人気のあるユーチューバーでもあります。ラテンアメリカと中国の両方で生活し、仕事をしてきた豊富な経験を持つ人物です。今日のインタビューでは、私がベンとともに、アメリカ合衆国とベネズエラの間で起こりうる緊張の高まりや戦争の可能性について話します。
彼はラテンアメリカに関して非常に深い洞察を持っています。今回のエピソードでは、両国間で全面戦争に発展しうるあらゆるシナリオを掘り下げていきます。また、ラテンアメリカ諸国が団結してアメリカに立ち向かう可能性、そしてこの大陸がアメリカに対抗する新冷戦の中で果たす役割についても議論します。もしあなたが、アメリカが軍事的関心をラテンアメリカへと再び集中させている理由を本当に理解したいと思うなら、この動画はまさにあなたのためのものです。では、始めましょう。
みなさん、本日はスタジオにベン・ノートンさんをお迎えできて大変光栄です。彼はジャーナリストであり、アナリストであり、政治経済学者でもあります。おそらく皆さんも、彼のYouTubeチャンネル「Geopolitical Economy Report(地政経済リポート)」で彼を見たことがあるでしょう。
あなたはいま北京にいらっしゃいますね。中国に関する素晴らしい動画を制作していますし、イスラエルやラテンアメリカなど、さまざまなテーマについても扱っていますよね。あなたはラテンアメリカで豊富な経験をお持ちですが、そこから話を始めたいと思います。というのも、最近アメリカ合衆国とラテンアメリカの関係において非常に興味深い動きが見られるからです。
ベン、まず全体的な見取り図を教えてください。アメリカとラテンアメリカの間で何が起きているのか、そしてこのノーベル平和賞の件についても少し触れながら、今後アメリカとベネズエラの間でどういった展開が起きると考えているのかをお話しいただけますか。
アメリカの新冷戦ー標的は中国
ノートン:
これは実は中国と密接に関係しています。明らかに、アメリカ合衆国はいま「新たな冷戦」を仕掛けているのです。第二次冷戦と呼んでもいいでしょう。そしてその主な標的は中国です。ロシアも標的になっています。ウクライナでの代理戦争を見ればそれがわかります。あれは単にロシアとウクライナの戦争ではありません。NATOとロシアの戦争です。そしてNATOを率いているのはアメリカです。
この新冷戦において、もちろんロシアも標的ではありますが、最大の標的は中国です。なぜなら、マルコ・ルビオが上院の承認公聴会で述べたように——彼が国務長官に指名され、上院の承認を受けた際に——ルビオは「中国はアメリカ合衆国がこれまで直面した中で最大の脅威であり、ソ連以上だ」と言ったのです。彼はまた、中国は軍事的・安全保障上の脅威であるだけでなく、経済、技術などあらゆる面で脅威だと述べました。
もちろん、あなたも私も、この「中国は脅威だ」という考えには同意しません。中国は1979年【訳者注:1979年の中越戦争のこと】以降、一度も戦争をしていません。いっぽうアメリカは、私たちの生涯を通じてずっと戦争を続けています。常に、複数の戦争を同時にです。中国は戦争や衝突を望んでいません。しかしアメリカは、中国を自国の世界的支配への脅威として見ています。アメリカは覇権(ヘゲモニー)を維持しようとしており、中国だけがその覇権に挑戦できるほど強大な国なのです。
それは政治的にも、経済的にも、特に技術的にもそうです。世界を見渡せば、ほぼすべての国がシリコンバレーの巨大テック企業によるアメリカの技術を使っています。いわゆる「マグニフィセント・セブン(株価をけん引する7大ハイテク企業)」がS&P500やNASDAQを支配しています。中国だけが、これらアメリカの独占企業に対抗できる規模の技術的代替手段を持つ国なのです。
ですから、私たちは今「新冷戦」の中にいます。ここまででその構図は明らかです。ではラテンアメリカがそこにどう関わるのかというと——
西半球を制覇して中国封じ込めの足場にする
基本的に、アメリカの戦略はこうです。アメリカはすでに認識しているのです。たとえば、アフガニスタンから撤退しましたね。あれは20年続いた戦争で、勝てないことを悟ったからです。
そして、もうひとつアメリカが理解しているのは、いわゆる「インド太平洋地域(West Pacific)」においても同じことです。アメリカはいまでも日本、韓国、フィリピンに重い軍事的プレゼンスを維持しようとしていますが、そこはすでに主要な対立の焦点になっています。
アフリカはこの新冷戦の中ではそれほど重視されていません。ヨーロッパに関しても、アメリカは明らかに撤退の方向にあります。だからこそトランプ政権はヨーロッパに対して「安全保障はあなたたち自身の責任だ」「ウクライナ戦争もあなたたちの責任だ」と言っているのです。
つまり、アメリカが主に焦点を当てているのは2つの地域——太平洋(西太平洋)とラテンアメリカ、すなわちアメリカ大陸全体です。いまトランプは、カナダを「51番目の州にしよう」と半ば冗談のように言い、グリーンランドの植民地化についても話しています。そしてラテンアメリカも、この新冷戦におけるもうひとつの標的です。
基本的に、アメリカ帝国の戦略——これは1990年代のズビグニュー・ブレジンスキーの頃から続いているものですが——は、「アメリカ大陸(西半球)全体に対するアメリカの覇権を確立し、それを足場にして西太平洋に軍事力を投射し、中国を封じ込める」というものです。
しかしアメリカには限られた資源しかありません。そのため、ヨーロッパやアフリカのような地域は優先順位を下げられています。
いまラテンアメリカを見ると、多くの国が中国と良好な関係を築いています。中国は南米の最大の貿易相手国です。そしてメキシコを除けば、ラテンアメリカ全体でも中国が最大の貿易相手です。
もちろん、メキシコはアメリカの隣国であり、自由貿易協定(かつてのNAFTA、現在は名称変更済み)によって経済的に深く統合されています。メキシコの輸出の8割以上がアメリカ向けです。カナダも同じ構造です。
しかしメキシコ以南に行くと、中国が最も重要な貿易相手になります。貿易の推移を見れば、中国がますます重要な経済的パートナーになっており、アメリカの重要性は低下しています。
いまアルゼンチンの例を見ればわかります。現在の大統領ハビエル・ミレイは極右的で親米的な立場を取っています。彼は選挙中「中国との関係を断つ」と主張していました。しかし実際に就任してから気づいたのです——中国はアルゼンチンの最大の貿易相手であり、その関係を切ることなど不可能だということに。
それでも、米国(トランプ政権)はアルゼンチンに対し、200億ドル規模の資金支援を2回行い、合計400億ドルの流動性注入を実施しています。ひとつは米連邦準備制度(FRB)とアルゼンチン中央銀行との通貨スワップを通じて。もうひとつは、ヘッジファンド出身のスコット・ベッセント財務長官が主導し、民間資金を集めて債権者へのドル支払いを可能にする仕組みです。
そして、この支援の条件のひとつとして、スコット・ベッセント自身がインタビューで認めているように、アルゼンチンに対して中国との関係を断つよう圧力をかけています。
こうしたことは、地域全体で繰り返し起きています。そしてそれこそが、ベネズエラが標的にされている理由のひとつでもあるのです。
米国は各国を中国とロシアから引き離そうとする
ノートン:
ベネズエラは、この地域で中国に最も近い同盟国のひとつです。実際、最近では習近平国家主席がマドゥロ大統領と会談し、両国の関係を「全天候型包括的戦略パートナーシップ」へと格上げしました。これは中国とパキスタンの関係と同じレベルです。ご存じのとおり、中国とパキスタンの関係は非常に緊密であり、パキスタンは「一帯一路構想」の重要な要であるCPEC(中パ経済回廊)の中心的存在です。
ベネズエラもまた、中国にとって非常に重要なパートナーになっています。特に、米国による攻撃的な経済制裁の影響が大きい中で、ベネズエラは多くの国に石油を輸出できなくなっており、その結果、中国がベネズエラの石油の大半を輸入しています。
したがって、これは単なるベネズエラや石油の問題ではなく、より大きな地政学的戦略の一環なのです。つまり、ラテンアメリカを中国およびロシアから切り離そうとする動きです。ロシアはラテンアメリカと経済的な結びつきはそれほど強くありませんが、政治的には特にベネズエラと強い関係を持っています。ベネズエラはまた、イランとも親密です。つまり、米国が敵視している三国——中国、ロシア、イラン——すべてと密接な関係を持つ国がベネズエラなのです。
ですから、米国から見ればベネズエラは「完全な嵐」、いわば悪夢のような存在なのです。しかも、ここに石油の問題が加わります。ベネズエラには世界最大の石油埋蔵量があります。確かにその多くは「ヘビー・クルード(重質原油)」と呼ばれるもので、処理には多くの精製工程が必要です。いわゆる「ライト・スイート・クルード(軽質原油)」のように扱いやすいものではなく、たとえばサウジアラビアやペルシャ湾岸諸国が産出するような高品質原油とは異なります。しかし、潜在的な資源としては計り知れない価値があります。
さて、ここで登場するのが、先ほど言及した「ノーベル平和賞受賞者」——マリア・コリナ・マチャドです。彼女は過去何十年にもわたって米国政府から資金提供を受けてきました。少なくとも2003年以来、彼女の組織は「全米民主主義基金(National Endowment for Democracy、略称NED)」から資金援助を受けています。
NEDというのはCIAの隠れ蓑(カットアウト)組織です。NEDの共同創設者アレン・ワインスタインは、ワシントン・ポストの取材に対してこう語っています——「NEDはCIAがかつて秘密裏にやっていたことを、表向きに行うためにレーガン政権下で設立された」と。
このNEDは、クーデターや政権転覆を試みる反政府勢力への資金供給を、中国、ロシア、イラン、ベネズエラ、キューバなど、米国が「体制転換」を狙うすべての国で行ってきました。いわゆる「カラー革命(color revolutions)」と呼ばれるものです。ウクライナでは2004年と2014年にそれが起きました。ベネズエラでも2002年、2014年、2017年、2019年と繰り返され、そしていま再び同じ動きが見られます。
マリア・コリナ・マチャドは、2024年2月にドナルド・トランプ・ジュニアとのインタビューで、自分はマドゥロ政権を転覆させ、権力を握り、ベネズエラの石油を全面的に民営化し、それを米国企業に売却したいと公言しました。
シモン・ボリバルのレガシー
実際、米国の石油企業はかつてベネズエラの石油を広く支配していました。特にエクソンモービルやシェル(シェルは英国・オランダ資本ですが、西側陣営の企業です)がそうでした。
しかし1998年、ベネズエラ国民は左派ナショナリストの指導者ウゴ・チャベスを選出しました。彼は「ボリバル革命(Bolivarian Revolution)」を掲げました。
多くの人がこの「ボリバル革命」という言葉を聞くと、「ボリビアのことか?」と混乱しますが、これは南米独立の英雄シモン・ボリバルにちなんだものです。19世紀にボリバルは軍を率い、スペイン帝国と戦い、現在のベネズエラ、コロンビア、ボリビアなど複数の国を独立に導きました。ボリビアという国名も彼の名に由来します。
これらの国々はもともとスペイン帝国の植民地でした。現在の国家として存在しているのは、ボリバルの革命戦争による解放の成果です。
チャベスはそのボリバルのレガシーに深く影響を受け、「ボリバル革命」を掲げたのです。そして、国民投票によって新憲法を制定しました。有権者の約3分の2が新しい憲法の制定に賛成しました。その憲法は非常に進歩的な内容を持ち、国家の正式名称も「ベネズエラ・ボリバル共和国(the Bolivarian Republic of Venezuela)」へと変更されました。
私は何度もベネズエラを訪れましたが、どこに行ってもシモン・ボリバルの肖像画や壁画が掲げられています。彼は南米全体の「英雄」として敬われており、国の象徴的存在です。
チャベスは石油を国有化し、米国の石油企業を追放しました。以来、米国は再びベネズエラに入り込もうと必死になってきたのです。
2002年、ジョージ・W・ブッシュ政権は4月にベネズエラで暴力的なクーデターを支援しました。チャベスは一時的に失脚しましたが、彼はあまりにも人気が高かったため、国民が街頭に溢れ、彼の復帰を要求しました。
そしていくつかの要因が重なり、ベネズエラは有利な状況を得ました。ベネズエラはラテンアメリカの中でもいち早く中国と緊密な関係を築いた国のひとつだったのです。
中国とラテンアメリカ
ノートン:
最初の冷戦の時代、中国はラテンアメリカのほとんどの国と正式な外交関係を持っていませんでした。キューバやニカラグアのような一部の左派政権とは一時的に関係を結んだことがありましたが、大半のラテンアメリカ諸国は、当時米国が支援する右派独裁政権のもとにありました。
たとえばチリではピノチェト独裁政権があり、アルゼンチンにも右派軍事独裁が存在していました。これらはすべて米国の支援を受けていたのです。こうした状況全体が、いわゆる「コンドル作戦(Operation Condor)」として知られています。米国が現在の「新冷戦」でやろうとしていること——つまり地域的な覇権の確立——を、すでに当時やっていたのです。
冷戦が終結したあと、中国はいくつかの国と正式な外交関係を結び始めました。そして貿易が徐々に拡大していきました。当時の中国はまだ経済規模が小さく、輸出国としての存在感もほとんどありませんでしたが、その後、急速に発展していきました。
今日では、ラテンアメリカと中国との関係は非常に重要になっています。世界中で、いまだに中華人民共和国と正式な外交関係を結んでいない国は12か国しかありません。言い換えれば、台湾を「国家」として承認している国は12か国しかないのです。国際法上、台湾は国家として認められていません。国際連合および国際法は、「台湾は中国の一部であり、中国は一つである」と明確に定めています。香港、台湾、マカオはいずれも中国の一部です。
その12か国のうち、半分がラテンアメリカにあります。なかでも最も人口が多いのはグアテマラです。とはいえ、それでも規模としては小さい国です。ほかにハイチ、グアテマラ、ベリーズ、パラグアイなどがあります。
これらの国々の中には、最近まで台湾と外交関係を持っていた国もあります。たとえばホンジュラスはわずか2年前に正式に中国と国交を樹立しました。
とくに中央アメリカの国々は小規模で、米国の影響力が非常に強いです。政治家たちが買収されることもしばしばあります。多くの報道によれば、大統領が数百万ドル単位で金を受け取ることもあり、これは中米の経済規模では莫大な金額です。台湾当局が政治家や実業家に賄賂を渡して関係維持を図ってきたとする報道も多く存在します。
ですから、ラテンアメリカと中国の関係はまだ比較的新しいものですが、年々ますます緊密になっています。そしてウゴ・チャベスとベネズエラは、その「中国との関係強化」を真っ先に推し進めた国でした。
特に2000年代の「コモディティ(資源)ブーム」の時期、中国は年間GDP成長率10%を超える驚異的なスピードで成長していました。中国は大量のインフラ、道路、住宅、ビルを建設し続け、そのために膨大な量の資源を必要としていたのです。
このとき、ラテンアメリカは中国の主要な貿易相手となりました。ブラジルは世界最大級の鉄鉱石の輸出国であり、ベネズエラは主要な石油輸出国です。ラテンアメリカおよびカリブ海地域には、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、そしてトリニダード・トバゴなど、複数の主要産油国があります。
さらに近年では、カリブ海地域の地政学的重要性が高まっています。
2000年代の資源ブームの時代、ラテンアメリカは中国とともに大きく成長していました。しかし、その後いくつかの出来事が起こりました。
まず、2014年から2016年にかけての「コモディティ価格の暴落」です。特に石油価格が急落しました。そして価格はその後も完全には回復していません。
ベネズエラ制裁はオバマが始めた
次に、2015年から米国がベネズエラへの圧力を本格化させました。オバマ政権の時代から始まりました。人々はトランプから始まったと思いがちですが、実際には超党派の政策です。
2015年、オバマは大統領令を出し、「ベネズエラは米国国家安全保障に対する異常かつ特別な脅威である」と宣言しました。まったくナンセンスな話です。しかしこの大統領令によって、オバマは議会を経ずに制裁を発動できるようになりました。現在のトランプのやり方と同じように、大統領令を使うことで議会の承認を回避できるのです。
2015年にオバマが制裁を開始し、2017年にトランプ政権が誕生すると、ベネズエラへの圧力は一気に強まりました。トランプはフロリダ、特にマイアミの票を得るために、ベネズエラやキューバ系の保守層に迎合しました。そして現在、マルコ・ルビオが国務長官としてその政策をさらに推し進めています。
トランプ政権は、ベネズエラに対して締めつけを強化しました。あるトランプ政権高官は、制裁の効果を誇らしげにこう表現しました——「ベネズエラに対する制裁は、ダース・ベイダーの“死の握力”のようなものだ」と。つまり、経済的に窒息させるということです。
実際、この政策によってベネズエラ経済は壊滅的打撃を受けました。私はベネズエラにいたとき、ハイパーインフレーションを目の当たりにしました。トルコのインフレなど比べものにならないほどです。
なぜこうなったのか。それは米国の制裁によって、ベネズエラ経済が完全に締め出されたからです。ベネズエラは100年以上にわたり、サウジアラビアやカタール、UAEのような「石油国家(ペトロステート)」として存在してきました。つまり、産業のほとんどが石油輸出に依存し、それ以外の産業基盤は脆弱なのです。
このような国は「オランダ病」や「資源の呪い」と呼ばれる問題に直面します。資源輸出による外貨流入で通貨が過度に高くなり、国内産業が競争力を失うのです。その結果、食料などは輸入に頼り、経済全体が資源収入に極端に依存する構造になります。
チャベス以前はエリートが石油収入から利益を得ていましたが、チャベスは石油を国有化しました。チャベス政権は石油収入を使って、貧困層向けの住宅建設、教育、医療、社会福祉などを充実させました。しかしそのすべては、石油収入の継続的な流入に依存していました。
制裁がベネズエラ経済を追い込む(社会主義の失敗ではない)
そこに2つの衝撃が同時に襲いました。ひとつは石油価格の暴落、もうひとつは米国による制裁です。
制裁は段階的に強化され、2019年にはトランプ政権が全面的な経済封鎖(エンバーゴ)を発動しました。これはキューバに対する封鎖と同じレベルのものです。
さらに深刻なのは、ベネズエラのインフラが米国製の技術と設備に依存していたという事実です。たとえば、チャベスは石油産業を国有化しましたが、採掘や精製に使われていた機械や技術は、アメリカ企業が構築したものでした。いくつかの欧州企業も関わっていましたが、国産技術はほとんどありませんでした。
国有化されたのは現場の企業ですが、掘削機器やパイプ、制御装置などの「資本設備」はすべて米国製でした。
ベネズエラは米国テキサスにSITGO(シトゴ)という自国所有の精製子会社を持ち、米国南部ではシトゴのガソリンスタンドも見られました。しかし米国が制裁を科したことで、ベネズエラは設備の修理や更新が不可能になったのです。
重質原油を精製するには、軽質原油や化学薬品を輸入して混合する必要がありますが、それも制裁で止まりました。こうして制裁は、石油産業全体を麻痺させたのです。
人々は「ベネズエラの社会主義は失敗した」と言いますが、私は違うと考えます。サウジアラビアを見てください。彼らも長年、石油依存から脱却しようとしてきましたが、ほとんど成功していません。UAEも同じです。
想像してみてください。もし突然米国が彼らに重い制裁を科し、国際金融システムから締め出し、外貨準備を凍結したらどうなるでしょうか。彼らの経済は瞬時に崩壊します。
2022年、米国とヨーロッパはロシア中央銀行の資産3000億ドル相当を凍結しました。これは国際的な海賊行為そのものであり、金価格の急騰(現在4200ドル超)とドル離れ(デ・ドル化)を加速させました。
実は、同じことを2019年にベネズエラにも行っているのです。イギリス銀行はいまでもベネズエラの金準備30億ドル以上を返還していません。
ですから、もしサウジアラビアが同じように資産を凍結され、ドル取引から締め出されたら、即座に崩壊するでしょう。ベネズエラの状況はまさにそれなのです。
ベネズエラを支援したイラン
それでも近年、ベネズエラの石油生産は少しずつ回復しています。ピーク時の半分ほどではありますが、現在は日量100万バレルを超え、増加傾向にあります。
興味深いのは、その回復を支えている技術の多くが、中国やロシアだけでなく、イランからももたらされていることです。イランは1979年のイスラム革命以来、米国の制裁を受け続けてきた国です。そのため自前で石油技術を開発するしかなく、長年にわたって独自の掘削・精製技術を蓄積してきました。
イランは技術者や機器をベネズエラに派遣し、老朽化した設備の修復や近代化を支援しています。
このように、ベネズエラは新冷戦の中心的存在になっているのです。単に中国との関係だけではありません。反米的な左派政権を持つ国であり、米国が長年侵略してきたラテンアメリカ諸国の歴史を踏まえれば、米国帝国主義に対抗する姿勢は当然のことです。
米国は20世紀初頭から何度も中南米諸国を軍事的に占領してきました。たとえば私が長く滞在したニカラグアでは、1912年から1930年代まで実質的にアメリカの植民地状態にありました。プエルトリコはいまもアメリカの植民地です。パナマには1989年に侵攻し、グレナダにも1983年に侵攻しました。
そしていま、彼らはベネズエラへの攻撃を公然と口にしています。ドローン攻撃を検討しているとも言われます。
こうした背景を考えれば、ラテンアメリカ諸国が米国帝国主義を自国の安全保障上の最大の脅威と見なすのは当然です。キューバは60年以上も制裁を受け続けています。
ベネズエラは、独立した外交政策、中国・ロシア・パレスチナとの連帯、そして膨大な石油資源を持つ国です。だからこそ、ワシントンの戦略家たちにとって「最優先の標的」なのです。
そして、先ほどのマリア・コリナ・マチャド。彼女はトランプ・ジュニアとのインタビューで、自分は石油をすべて民営化して米国企業に売りたいと語りました。だからこそ、彼女がノーベル平和賞を受賞したのです。
オバマもノーベル平和賞を受賞しましたが、その後7か国を爆撃しました——イエメン、アフガニスタン、シリア、イラク、リビア、パキスタン【訳者注:7つめはソマリア】。キッシンジャーも同賞を受けていますが、彼の指揮下でベトナム、カンボジア、ラオス、バングラデシュで何百万人もが亡くなりました。彼は1973年のチリ・クーデターを支援したCIA作戦の立案者の一人でもあります。
ノーベル平和賞とは、このように途方もない偽善の象徴なのです。米国のラテンアメリカ政策は、介入と主権無視の歴史に満ちています。
麻薬取引をやっているのは米国のほう:ベネズエラではない
司会者:
さて、ベン、素晴らしい説明でした。私は本当に感動しました。歴史的背景も含め、非常に重要なポイントをたくさん挙げてくださいました。ありがとうございます。ここで、もう少し具体的な話をしたいと思います。
最近、米国海軍の艦船がベネズエラ近海に接近しており、緊張が高まっているように見えます。この状況は、米国とベネズエラの間で実際の衝突につながる可能性があるのでしょうか?
米国が新たな戦争に踏み出す可能性があるとお考えですか?
ノートン:
実際、すでに衝突は起きています。問題は、それがどこまでエスカレートするかという点です。現時点では「低強度戦争(low-intensity war)」の段階にあります。
トランプは公式には「麻薬取締りのための戦争を行っている」と述べていますが、ベネズエラとの戦争であるとは言っていません。しかし、それこそが実態です。
そしてこれは滑稽な話でもあります。なぜなら、ラテンアメリカを少しでも知っていれば分かることですが、ベネズエラはほとんど麻薬を生産していません。麻薬生産の中心は隣国コロンビアです。コロンビアは世界最大のコカイン生産国です。
つまり、トランプ政権が言う「麻薬戦争」はまったくのごまかしなのです。しかも、米国のCIAやDEA(麻薬取締局)がラテンアメリカで麻薬取引に関与してきたことは、決して陰謀論ではなく、長年にわたり複数の主流メディアや調査記者によって報じられています。
有名なのは米国のジャーナリスト**ゲイリー・ウェッブ(Gary Webb)**の調査です。彼は1980年代のいわゆる「コントラ戦争」——つまりニカラグアなど中米諸国での内戦において——CIAが「コントラ」と呼ばれる右翼の武装組織に資金を提供していたことを暴きました。
その資金源の一部が、コカイン取引によって得られたものだったのです。ウェッブは自著『Dark Alliance(暗黒の同盟)』でその全貌を明らかにしました。CIAは麻薬取引の利益を使って中米の内戦を支援し、結果的に米国国内に膨大な量のコカインが流れ込みました。特にロサンゼルスの貧困地域では、「クラック・コカイン」流行の引き金になったのです。
この事件は1980年代に大きなスキャンダルとなり、議会でも公聴会が開かれました。ですから、「麻薬と戦う」と言っている米国政府が、実際には麻薬取引に関わっていたというのは、笑えない冗談です。
コロンビアについて言えば、国連のデータでも明らかなように、コカインの大半はコロンビアで生産されています。そして、コロンビアの有力政治家の中には麻薬取引と深く関わっていた者も多くいます。
たとえば、元大統領のアルバロ・ウリベ。彼は国内で最も有力な政治家のひとりで、ジョージ・W・ブッシュ政権の親友でもありました。ウリベは「麻薬との戦い(War on Drugs)」を掲げていましたが、実際には麻薬取引と密接な関係を持っていたと報じられています。
同じことがメキシコでも起きています。メキシコの元大統領フェリペ・カルデロンの政権下で、国家安全保障の責任者だったヘナロ・ガルシア・ルナが麻薬カルテルと結託していたことが後に発覚しました。彼は「麻薬との戦い」を主導した人物でしたが、実際には麻薬を取引していたのです。この事件はメキシコ国内で大きなスキャンダルになりました。
コロンビアに戻りましょう。国連によれば、コカインの大半はコロンビアで生産されています。確かに、その一部はベネズエラを経由して出荷されます。しかし、もし本気で麻薬取引を止めたいなら、「経由地」ではなく「生産地」に焦点を当てるべきです。
そして、最終的な行き先はどこかといえば——米国とヨーロッパです。ですから、需要そのものを減らさなければ根本的な解決にはなりません。需要がある限り、供給する者は必ず現れます。
フェンタニル問題は製薬会社に責任がある
それに、いま米国国内で深刻な薬物問題を引き起こしているのはコカインではなく、フェンタニルのような合成オピオイドです。この問題の発端は、製薬会社による過剰な販売促進でした。
たとえばパーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)。この会社とその創業一家であるサックラー家は、医師に多額の金を支払い、**オキシコンチン(OxyContin)**という強力な鎮痛剤を過剰に処方させていました。これによって多くの人々が依存症になり、医師から処方が受けられなくなると、彼らはヘロインに手を出すようになりました。
化学的にフェンタニルやオキシコンチンはヘロインと非常に似ており、代替物として機能します。そして、そのヘロインの供給源の多くはアフガニスタンでした。
タリバンには多くの問題がありますが、米国軍が撤退して彼らが政権を掌握した直後、アフガニスタンでのヘロイン生産は急速に減少しました。
元米軍兵士の**セス・ハープ(Seth Harp)**は著書『The Fort Bragg Cartel(フォート・ブラッグ・カルテル)』の中で、アフガニスタンでのヘロイン取引に米軍が関与していた実態を暴露しています。
ですから、「麻薬との戦い」という名目でベネズエラを攻撃するというのは完全に茶番です。ベネズエラは麻薬取引とは何の関係もありません。これは単なる口実です。
米国は、麻薬取引を口実にベネズエラへの攻撃を正当化しようとしているのです。
トランプはマドゥロに「麻薬カルテル」の言いがかり
先ほどまで話してきたように、米国がベネズエラを標的にしている理由はまったく別にあります。
トランプ政権は最初の任期中、司法省を通じてベネズエラのマドゥロ大統領に対して刑事告発を行いました。まるで米国の裁判所が外国の国家元首に対して管轄権を持つかのように振る舞ったのです。これは前代未聞のことです。
米国以外のどの国も、自国の地方裁判所が外国の指導者を裁くなどという発想は持っていません。
同じようなことは、中国企業の**ファーウェイ(Huawei)**にも起こりました。米国は、ファーウェイがイラン制裁に違反したとして告発し、カナダでファーウェイのCFO(最高財務責任者)を拘束させました。
しかしファーウェイは中国企業であり、米国の制裁法に従う義務などありません。
ベネズエラの場合、トランプ政権は「マドゥロは麻薬カルテルの首領だ」と主張し、米国内の裁判所で告発しました。その際に使われた名前が「太陽のカルテル(Cartel de los Soles)」です。
しかし、このカルテルは実在しません。国際的な麻薬専門家たちが調査しましたが、そんな組織は存在しないのです。米国がでっち上げた虚構です。
米国政府はこの架空の「カルテル」を利用して、「マドゥロは正統な大統領ではなく、麻薬犯罪者である」という物語を作り上げようとしました。これにより、軍事介入を正当化することができるのです。
この手口は過去にもありました。1989年、米国はパナマに侵攻し、当時の指導者マヌエル・ノリエガを逮捕・投獄しました。ノリエガは長年CIAの協力者であり、麻薬取引にも関与していました。
米国はそのときと同じ筋書きを、ベネズエラに対して繰り返そうとしているのです。
しかし、国連をはじめ国際的な麻薬専門家の調査では、マドゥロが麻薬取引に関与している証拠は一切ありません。すべて虚構です。
イラク戦争と同じ、でっち上げでベネズエラに戦争をしかけようとしている米国
米国政府はいま、ベネズエラ政府と麻薬カルテルを「虚偽の関係」で結びつけようとしています。これは、かつて米国がイラク戦争を始める際に使った手口とまったく同じです。
当時、米国は「サダム・フセインはアルカイダと関係している」と主張しました。しかし実際には、サダム・フセインはアルカイダを弾圧しており、彼らから敵視されていたのです。フセインはスンニ派であり、イラクはシーア派多数の国ですが、彼は比較的世俗的な指導者であり、イスラム過激派を取り締まっていました。
それでも米国は9.11のあと、「フセインはアルカイダとつながっている」と嘘を広めました。世論調査では、当時の米国人の過半数が「サダム・フセインはアルカイダに関与していた」と信じていました。完全な虚構です。
同じことが今、ベネズエラで起きています。米国政府は「マドゥロ政権は麻薬カルテルとつながっている」と主張し、そのための物語を構築しています。
これは、軍事介入を正当化するための布石です。
私はこの状況を非常に懸念しています。米国はすぐに地上部隊を派遣することはないでしょう。なぜなら、MAGA支持層(トランプの保守派支持者)は海外派兵に反対する傾向が強いからです。
しかし私は、これが直接的な軍事攻撃へとエスカレートする可能性が高いと考えています。すでに、米国は国際水域でベネズエラ人を何十人も殺害しているのです。
コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領(現職)は、この行為を強く非難しています。ペトロは、犠牲者の中にはコロンビア国民も含まれていると述べています。米国は、これらの人々が「麻薬を密輸していた」と主張していますが、証拠は一切ありません。
むしろ、犠牲者の多くは「移民」——つまり、不法移民として他国に向かおうとしていた一般市民だった可能性が高いのです。彼らは裁判もなしに殺害されています。すでに数十人のベネズエラ人が殺され、カリブ海諸国の市民にも死者が出ていると報告されています。
事態は明らかにエスカレートしています。
マルコ・ルビオの戦争
さらに注目すべきは、マルコ・ルビオの存在です。トランプ政権内で、実際にベネズエラ政策を主導しているのは彼です。
トランプ自身も2023年の選挙集会でこう発言しています。
「我々は、あと少しでベネズエラを手に入れるところだった。あの膨大な石油を我々のものにできたはずだった。」
この発言の映像は実際に存在します。
トランプはベネズエラの石油を欲しがっていますが、戦略を練っているのは100%ルビオです。彼は長年にわたり、キューバやニカラグアの「サンディニスタ政権(Sandinista)」を打倒しようと躍起になってきました。そしてベネズエラの打倒は、その集大成として彼の政治的執念の対象となっています。
ルビオは極右の亡命キューバ系勢力や、マリア・コリナ・マチャドのような急進的反政府派と極めて近い関係にあります。
マリア・コリナ・マチャド——このノーベル平和賞受賞者——は、自国の破壊を呼びかけています。
BBCが彼女を受賞直後にインタビューした際、彼女は堂々とこう語りました。
「米国軍がベネズエラに侵攻すべきです。」
これは、まさに戦争の呼びかけです。
しかし、ベネズエラ国内の反政府勢力の中にも、彼女を危険視する者がいます。たとえば、かつて大統領候補としてチャベスやマドゥロと戦ったエンリケ・カプリレスのような穏健保守派は、彼女を「過激主義者」だと批判しています。彼はこう警告しました。
「マチャドはリビアのようなことをベネズエラで起こそうとしている。」
彼の言うとおりです。もしアメリカ軍が介入し、マドゥロを暗殺すれば、ベネズエラはリビアやイラクのような内戦状態に陥るでしょう。
2011年、NATOがリビアを爆撃し、カダフィを殺害しました。地上軍は投入されませんでしたが、中央政府は崩壊しました。14年経った今でも、リビアには統一政府が存在しません。
リビアはアフリカで最も豊かな国のひとつであり、高い生活水準を誇る石油国家でした。それが、アメリカとNATOの「介入」によって完全に崩壊したのです。
ベネズエラが同じ道をたどる危険性は非常に高いのです。
私は、この状況を極めて危険だと考えています。ベネズエラで何が起きるのかを、世界は注意深く見なければなりません。
ラテンアメリカは団結して米国に立ち向かうのか
司会者:
ベン、素晴らしい洞察です。ラテンアメリカの歴史的文脈を踏まえた解説は本当に貴重です。こうした内容は主流メディアではほとんど報じられませんし、多くのアメリカ国民も知らないままです。あなたが示した数々の事例は、アメリカがいかに頻繁にラテンアメリカ諸国の主権を侵してきたかを証明しています。
さて、ここで最後の質問です。もしアメリカが本当にマドゥロを攻撃した場合、たとえば暗殺などが行われた場合、ラテンアメリカ全体はどう反応するでしょうか?
この事態は、アメリカに対して地域が団結し、中国やBRICSとの結びつきを強めるきっかけになると思いますか?
ノートン:
残念ながら、そうはならないと思います。そうなってほしいと私も願っていますが、現実はもっと複雑です。
理由は大きく二つあります。
ひとつは、地域が政治的にも経済的にも深く分断されていること。
もうひとつは、多くの国が恐怖に支配されているということです。
これは西アジア、つまり中東でも同じです。多くの国々が米国やイスラエルに抵抗できないのは、「次に攻撃されるのが自分たちではないか」という恐怖があるからです。
「次のパレスチナ」「次のイエメン」「次のイラク」「次のシリア」にはなりたくない。——その恐怖です。
イランは数少ない例外のひとつです。イランは長年アメリカの制裁を受けながらも、独立を維持しています。しかし、他の国々にはなかなか真似できません。
経済的な理由もあります。米国の制裁は非常に破壊的で、どの国もそれを恐れています。
ラテンアメリカの場合、フランス領ギアナ(南米に残る旧フランス植民地)を除けば、米軍はほぼすべての国に直接介入した経験があります。しかも一度ではありません。
私たちの生きている時代だけでも、アメリカはグレナダ(1983年)やパナマ(1989年)に侵攻しています。現在は、メキシコへのドローン攻撃まで公然と議論されているのです。
パナマについて言えば、トランプは「パナマ運河を取り戻す」と発言しました。さらに、米国の巨大投資会社ブラックロックが、香港企業が運営していた運河両端の港を買収しようとしました。トランプは「パナマ運河は中国に支配されている」と虚偽の主張をしましたが、事実ではありません。
いずれにせよ、これらの発言や動きは、ラテンアメリカ諸国を強く萎縮させています。
米国による軍事介入と制裁の恐怖
つまり、各国が恐れているのは二つです。
-
軍事介入の恐怖
-
制裁の恐怖
制裁がどれほど破壊的かは、キューバが証明しています。キューバは小さな島国で、製造業も限られています。砂糖などの一次産品の輸出に依存してきました。
しかし、60年以上にわたるアメリカの経済封鎖によって、キューバ経済は深刻なダメージを受けました。特に問題なのは、アメリカだけでなく**「二次制裁(セカンダリー・サンクション)」**によって、他国の企業までもが取引を断念してしまうことです。
たとえば、ある企業がキューバと取引すれば、その企業がアメリカの銀行システムから締め出される可能性があります。国際取引のほとんどは、SWIFTシステムを通じて米ドルで行われています。
つまり、マレーシアの銀行がブラジルの企業と取引をする場合でも、その送金はアメリカの中継銀行(Correspondent Bank、コルレス銀行ともいう)を経由します。アメリカは「自国の銀行を経由した取引はアメリカ領域に触れたとみなす」と主張し、そこに自国法を適用しているのです。
そのため、どの国も制裁対象国との取引を避けるようになります。リスクが大きすぎるのです。
これはベネズエラにも当てはまります。ベネズエラには膨大な石油があり、それを買いたい国はいくらでもあります。しかし、同じ石油は他の国からも買えるのです。
だからこそ企業は「デリスク(危険回避)」を選び、ベネズエラとの取引を避けるのです。これはキューバ、イランでも同様です。
つまり多くの国が、「自分たちは静かにしていよう。アメリカがベネズエラを攻撃しても、自分たちは巻き込まれたくない」と考えるのです。
コロンビアもそうですし、ブラジルもそうです。
大国ブラジルとBRICS
ブラジルは少し特殊です。人口は2億人を超え、ラテンアメリカ最大の経済大国であり、製造業も比較的発展しています。そのため、ある程度の独立路線を取ることができます。
だからこそ、ブラジルはBRICSの創設メンバーのひとつなのです。BRICSという名称の「B」はブラジルを指します。2009年の創設時、中心人物だったのは現在の大統領ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバです。彼は現在、当時の創設メンバーの中で唯一の現職首脳です。
翌2010年には南アフリカが参加し、BRICはBRICSとなりました。その後も拡大を続け、現在では加盟国10か国、パートナー国10か国を擁します。
BRICSは購買力平価(PPP)で測ると、世界GDPのほぼ半分を占め、人口では地球の過半数を代表する巨大ブロックになっています。
ラテンアメリカでも、BRICSへの参加を希望する国が増えています。
アルゼンチンは2023年、当時の中道左派政権アルベルト・フェルナンデスのもとで正式に加盟を承認されました。2024年1月1日に正式加盟する予定でしたが、その直前に選挙で右派のハビエル・ミレイが勝利し、加盟を撤回してしまいました。彼はトランプの親友であり、親米極右の代表格です。
ラテンアメリカの分裂
これで分かるように、ラテンアメリカは政治的に深く分断されています。
ラテンアメリカでは他の地域よりも構図がかなり明確です。
ヨーロッパやアジアでは、左派と右派の境界線が必ずしも単純ではありません。
たとえばヨーロッパには、米国やNATOに対して非常に批判的な左派の指導者たちがいます。
フランスのジャン=リュック・メランションや、イギリスのジェレミー・コービンなどです。
彼らは米国の軍事同盟やNATOの拡張に反対し、より独立した外交政策を主張しています。
一方で、ヨーロッパには右派でもNATOに批判的な指導者も存在します。たとえばハンガリーのヴィクトル・オルバンは、より親ロシア、親中国的で、NATOへの従属を批判してきました。
アジアでも状況はもっと複雑です。
しかし、ラテンアメリカの場合は事情が違います。
政治の構図がより単純で、左派=反米・親中、右派=親米・反中という傾向が非常に明確なのです。
なぜなら、彼らは多くの場合、輸出産業や米国市場と結びついた輸入業者層や一次産品輸出の利権階層を代表しているからです。彼らの経済活動は米国との貿易に依存しており、米国市場が中心なのです。
もっとも、近年はその構図にも少し変化が見られます。たとえばチリでは、右派の大統領で億万長者のセバスティアン・ピニェラが、中国との貿易を非常に盛んに行っていました。
しかしながら、大部分の右派指導者たちは依然として強く親米的です。アルゼンチンのハビエル・ミレイ、ベネズエラのマリア・コリナ・マチャド、ブラジルのジャイル・ボルソナロなどは、いずれも非常に親米的であり、強く反中国的な立場を取っています。
実際、中国問題はラテンアメリカでも政治的な争点になっています。
これは米国と同じ構図です。米国では、政治家たちが国内の問題をすべて中国のせいにする「スケープゴート化」を行っていますが、ラテンアメリカでも同様の傾向が見られます。
ブラジルでは、極右のジャイル・ボルソナロが、中国をあらゆる社会問題の原因だと非難しました。またアルゼンチンのハビエル・ミレイも、大統領選挙の際に「共産主義中国との外交関係を断つ」と主張し、中国を悪魔化しました。
しかし、実際に政権に就くと、すぐに現実に直面しました。アルゼンチンにとって中国は最大の貿易相手国であり、経済を維持するには関係を断つことなど到底できないのです。
そのため、彼も態度を軟化させ、より「外交的で均衡の取れた立場」に転じました。
つまり、左派政権は概してBRICSや中国との連携を志向し、右派政権は親米的で、米国の地政学的戦略を支持するという構図です。
しかし同時に、左派の内部にも分裂があります。
その象徴的な例が、ベネズエラのBRICS加盟問題です。
ベネズエラは長年にわたってBRICSへの加盟を望んできました。
正式な加盟申請も提出しています。
2024年にロシアのカザンで開かれたBRICS首脳会議では、
加盟国のうちブラジルを除くすべての国が、ベネズエラの加盟を承認する立場を取りました。ところが、ブラジルだけが反対したため、加盟は見送られました。
これは、ラテンアメリカの左派陣営の中にも意見の対立や不信感が根強く存在することを示しています。こうした分裂が、地域全体の団結を非常に困難にしているのです。
アフリカでも同じ構造が長く続いてきました。
多くのアフリカの指導者たちは「アフリカ統一」「汎アフリカ主義」を唱えてきましたが、
実際には内部の対立が激しく、団結は非常に難しいのです。
ラテンアメリカも同様です。あまりに多くの分断線が引かれており、それを外部の大国が巧みに利用してきました。結果として、外国勢力による「分割統治」が可能になり、地域が一致して主権を守ることを難しくしているのです。
司会者(サイラス):
本当にその通りですね、ベン。あなたの分析は圧倒的です。
ラテンアメリカの歴史的背景、内部の分裂、そして地政学的現実が非常によく理解できました。
これからもこの地域の動向を注視していきたいと思います。米国海軍の動きや、マリア・コリナ・マチャドの発言などを踏まえると、緊張はさらに高まる可能性があります。
また、ノーベル平和賞の授与にも明らかに政治的意図が見えます。マチャード氏は受賞直後から「米軍の介入を望む」と発言しましたが、その背景には、彼女の家系がベネズエラの富裕層であり、石油利権を再び米国に開放しようとする思惑があるのでしょう。
(翻訳 以上)
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