朝鮮新報』連載「私のノート 太平洋から東海へ」7回目(26年1月23日)の乗松聡子の記事を転載します。(ハイパーリンクは自分でつけたもので、朝鮮新報版にはありません。)
〈私のノート 太平洋から東海へ7〉邪悪な帝国、多極化にしかける戦争/乗松聡子
2026年01月24日 09:30
| バンクーバーにおけるベネズエラとキューバへの連帯デモ。100人ほどで米国総領事館前まで行進し、「ベネズエラもキューバも米国のものではない!」「クーデターNO!戦争NO!」と叫んだ(1月17日) |
1月3日、米軍の特殊部隊がカラカスを攻撃し、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領と配偶者のシリア・フローレス氏を拉致し、米国に移送しました。米国は昨年後半からカリブ海や東太平洋を航行する船舶を、証拠もなしにベネズエラの麻薬運搬船だとして繰り返し攻撃し、乗組員を100人以上殺害してきた上での行為でした。
1月5日にニューヨークの連邦地裁に出廷した二人は囚人服を来て、足かせをかけられていたといいます。フローレス氏は拘束時にけがをさせられ、顔が絆創膏だらけでした。フローレス氏はマドゥロ氏の同志でもあります。新自由主義を排し、ベネズエラの資源主権を取り戻したウゴ・チャベス前大統領の政策を引き継ぐベテラン政治家でした。
全世界が見ている前で、国際法を踏みにじり、主権国家の指導者に対しこのような屈辱を加えることを可能にしてしまう米国について、「邪悪な帝国」という言葉以外は見つかりません。それでも言い足りないぐらいです。煮えくり返る思いを抱きました。
米国は約10年間ベネズエラに一方的な制裁を加えてきました。制裁は子どもや女性や老人、病人など弱者の命から奪っていく、国際法に違反する非人道行為です。医療や食料が不足し、制裁で約10万人が死んだという元国連特別報告者の報告もあります。違法な制裁や、カリブ海での殺害を理由に、ベネズエラが逆に、トランプ大統領夫妻を拘束できるでしょうか。あり得ないでしょう。このようなことがまかり通るのは、米国なら許されるという、例外主義によるものです。白人国家が非白人国家に行う限りは可とされてしまう、レイシズムに裏付けされた植民地主義でもあると思います。
マドゥロ氏の起訴理由である麻薬関連疑惑は、言い掛かりに過ぎません。麻薬組織「太陽のカルテル」を率いたとされましたが、米国司法省は今「そのような組織はない」と認めています。イラク戦争のときの「大量破壊兵器」疑惑と同じ、侵略を正当化する嘘です。
マドゥロ氏は、西側から正当性を持たない独裁者として描かれてきました。何百万人もが国外に出たといいますが、これは制裁による経済悪化がもたらしたものであると、米国の経済学者が報告しています。西側はベネズエラの選挙を疑問視しますが、前回の24年の選挙では国際的な選挙監視団も参加し、正当な選挙だったと結論づけています。現在首都カラカスでは大統領夫妻奪還を訴えるデモが連日起こっています。
私は、斬首作戦ともいえるこの事件を追いながら、やはり「邪悪な帝国」であったかつての日本による、朝鮮の指導者に対する蛮行を思いだしました。1894-95年の日清戦争における日本軍の第一撃は、朝鮮の王宮占領でした。日本は自らの朝鮮への支配欲から、清国と冊封関係にあった朝鮮から清国の影響を取り除こうとしましたが、朝鮮は言いなりにはなりませんでした。94年7月23日の早朝、景福宮を襲撃、国王の高宗を支配下に置きました。
日清戦争の勝利後、勢いづく日帝の侵略に抵抗するためロシアに近づいた明成皇后(閔妃)を日本は危険視しました。95年10月8日、日本公使の指揮の下、軍やゴロツキのような浪士達と景福宮に押し入り、皇后を寝室で虐殺しました。これらの凶行の行きつく先は、歴史が知る通り、日本による朝鮮の強制併合・植民地支配でした。
このように政権転覆は帝国が繰り返し用いてきた手段です。今回、トランプ大統領によって米国の帝国主義が復活したという言説がありますが、米国は建国以来、帝国でなかったことなどありません。米国議会調査局の報告によると、米国は1798年以来、約500回他国への武力介入を行っています。特に、自分たちの「裏庭」と見なしてきたラテンアメリカで、米国が介入しなかった国はありません。
カナダのネット媒体「グローバル・リサーチ」には、第二次大戦後、米国により37の被害国で約2千万人が殺されていると推計したレポートもあります。これには朝鮮戦争のおよそ400万人、ベトナム戦争の約780万人(カンボジア、ラオスも合わせた推計)、イラクに対する1991年の戦争と制裁、2003年以降の戦争で数十万から100万規模といわれる死者が含まれます。もはや、「戦後」という言葉に意味はあるのでしょうか。
日本は、1945年の敗戦後、事実上の植民地である沖縄を米国に差し出し、アジア最大の米軍ホスト国となりました。旧日本軍の基地がそのまま米軍に受け継がれた横須賀や佐世保の海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場などは、日帝が敗戦後、米帝に組み込まれたことを象徴しています。日本は、敗戦後「平和」どころか、米帝国の一部となって、度重なる侵略戦争に加担してきました。
その日本では昨年11月7日、高市首相が国会答弁で、「台湾有事」の場合に集団的自衛権を行使する「存立危機事態」が成立し得る、つまり自衛隊が参戦する可能性を示唆しました。批判を受けても撤回を拒み、中国敵視を露わにしています。これは、トランプ大統領が昨年11月末に出した「国家安全保障戦略」で、「敵対勢力を抑止し、第一列島線を防衛する」、つまり対中国を想定して日本に防衛費を増額する「負担分担」を求めた方針と合致しています。
トランプ大統領のベネズエラ攻撃の主な理由は、ベネズエラの石油資源の支配にありましたが、もう一つの大きな理由は、協力関係が深まっていた中国、ロシア、イラン、キューバなどとの繋がりを断たせることでした。米国は、制裁を加えているグローバルサウスの国同士が助け合うことさえ許さないのです。軍事アナリストのブライアン・バーレティック氏は、米国は自国の覇権維持のため、多極化そのものへの戦争を仕掛けていると言っています。
ベネズエラと同様、多極化の一端を担い、米国の制裁や威嚇に抵抗してきた朝鮮は、今回のマドゥロ・フローレス拉致事件について、「最も重大な形態の主権侵害」であり、「国際社会が数多く目撃してきた米国のならず者としての野獣的な本性を、今一度はっきり確認させるもう一つの実例である」と糾弾しました。地球の反対側に位置する国からの連帯の言葉でした。私は、帝国側である日本の一員ではありますが、だからこそ、帝国を批判していく発信を今年も続けていきたいと思っています。
プロフィール
ジャーナリスト。東京・武蔵野市出身。高2,高3をカナダ・ビクトリア市の国際学校で学び、日本の侵略戦争の歴史を初めて知る。97年カナダに移住、05年「バンクーバー9条の会」の創立に加わり、06年「ピース・フィロソフィー・センター(peacephilosophy.com)」設立。英語誌「アジア太平洋ジャーナル」エディター。2人の子と、3匹の猫の母。著書に『沖縄は孤立していない』(金曜日、18年)など。19年朝鮮民主主義人民共和国を初訪問。世界の脱植民地化の動きと共にありたいと思っている。
(本連載は、反帝国主義、脱植民地主義の視座から日本や朝鮮半島をめぐる諸問題や国際情勢に切り込むエッセーです)
No comments:
Post a Comment