Tuesday, July 21, 2026

神奈川新聞 「日本人は歴史を知る必要ある」 乗松聡子 Kanagawa Shimbun's Interview with Satoko Oka Norimatsu: Japanese People Need to Learn History

神奈川新聞のサイト

神奈川新聞から取材を受け、7月17日に掲載してもらいました。


時代の正体 高市政権考

嫌中感情「日本人は歴史を知る必要ある」 平和教育団体・乗松聡子代表

https://www.kanaloco.jp/member/node/1289703

 高市早苗首相の「台湾有事」発言を契機に悪化した日中関係に改善の兆しが見られず、日本で嫌中感情が広がっている。沖縄や東アジアの平和を巡る問題に詳しい平和教育団体「ピース・フィロソフィー・センター」代表の乗松聡子さんは、日本の中国に対する感情的な反応を懸念し、「日本人は歴史を知る必要がある」と訴える。話を聞いた。(構成・柏尾 安希子)


 日本では、高市首相の「台湾有事」発言後、中国を嫌う空気が強まっている。背景には、長年の中国敵視報道がある。政府とメディアの責任が大きいだろう。

 始まりは米国のオバマ大統領の時代、2011年ごろだ。米国の軍事、外交の中心を中国を含むアジア太平洋に移す戦略「アジア・ピボット」が打ち出され、以来、日本が自分の頭で考えて嫌うというより、米国の言いなりのように敵視をエスカレートさせてきた。

 今回、高市首相は政策を大きく転換したわけではない。それ以前から敵視は着々と進んでいた。だが、「有事」の際に台湾に自衛隊を派遣する可能性を明言したことで、高市首相は一線を越えてしまった。

 歴史を知らなければ、この重大さは分からないだろう。日本人の歴史認識は、あまりにも偏り、欠如している。

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 6月に、「満州事変」といわれる日本の満州侵攻(1931年)が始まった瀋陽と、関東軍防疫給水部(731部隊)の所在地だったハルビンを訪問した。歴史を学ぶ目的で、ハルビンでは731部隊について展示する「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」に、瀋陽では、日本が南満州鉄道の線路を爆破した「柳条湖事件」の現場近くに立つ「九・一八歴史博物館」などに行った。

 旅を通して、日本は国土の3倍ほどある「満州」を植民地支配したのだと実感した。中国で「偽満州国」と呼ばれる日本の傀儡(かいらい)国を植民地だったと言う人は、日本ではあまりいない。

 だが、例えば朝鮮の独立運動は朝鮮内で弾圧され、満州にもその拠点が広がった。ハルビンの警察署跡の記念館では、拷問の器具や、拷問で殺害された人について展示され、抗日運動をしていた人たちが731部隊の人体実験の犠牲者「マルタ」にされたと知った。植民地支配をしていたから、こうした抗日運動の弾圧も行われたのだ。

 訪れた博物館では、日本で言う「満蒙(まんもう)開拓」を「移民侵略」、同化教育は「奴隷化教育」と表現していた。実態を見れば、まさにその通りだ。

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 中国は、アヘン戦争(1840~42年)や、日清戦争(94~95年)以来、欧米列強や日本に虫食いのように領土と主権を切り崩されていった。

 私の祖父は日清戦争後の96年に中国に渡り、漢口の日本租界で新聞社を経営していた。中国語の新聞も発行して親日的な世論づくりを目指したほか、諜報(ちょうほう)活動も行ったようだ。だが抗日運動が盛り上がり、1927年に帰国した。そのように、満州事変前から中国への侵略は始まっていた。

 そして台湾は、日本による侵略の足がかりとされていた。1874年、明治政府は71年に起きた宮古島島民遭難事件を口実に台湾へ出兵し、清との冊封関係を維持していた琉球を日本に組み込む糸口とした。また、日清戦争では、台湾が日本に奪われた。

 そうした歴史があり、中国は「また日本が攻めてくる」「やはり台湾か」となる。中国の人々にとって、台湾に日本の軍が来るということは、歴史的トラウマがよみがえる出来事なのだ。

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 1945年に日本が第2次世界大戦に敗れた後、72年の日中共同声明で、中国は日本に対する戦争賠償を求めなかった。日本側は、過去に日本が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省すると表明した。中国側は、「日本の軍国主義が侵略戦争を引き起こしたのであり、日本人民もまた軍国主義の犠牲者であった」という立場を示した。

 そして当時の田中角栄首相らは、自民党内の親台的なタカ派が抵抗する中、「台湾は中華人民共和国の不可分の領土」であることを「理解し尊重する」と約束し、国交を正常化した。

 72年の日中共同声明と78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言、2008年の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明という「日中基本4文書」を通して、日本の台湾に対する立場は一貫している。

 靖国神社参拝などで中国との関係を悪化させた安倍晋三元首相も、18年に訪中し、4文書を再確認した。だが高市首相は、そういうことさえ、全くやる気がない。

 今年2月の衆院選では、「台湾有事」発言をした高市首相の自民党が圧勝した。中国は、「日本の軍国主義が悪く市民は悪くない」と言ったように、日本の有権者に期待していたと思うが、衆院選の結果を受けて「新軍国主義」という言葉を強調し始めた。

 小泉進次郎防衛相は、「新軍国主義」は「事実ではない」と発言した。だが、改憲や、安保3文書改定、敵基地攻撃能力保有、長射程ミサイル配備、非核三原則の見直し検討、殺傷能力のある武器輸出解禁、防衛費増額―。あまりにも分かりやすい軍国主義化ではないか。

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 3月に自衛官が中国大使館に侵入した。日本側は、自衛官が「大使に日本への強硬発言を控えてほしいと伝えたかった。受け入れられなければ自決しようと思った」と話しているとし、中国側と言い分が違う。

 だが本人が何を言っていようが、どうでもいい。ファクトとして刃物を持って侵入したのであれば、それだけで重大だ。しかしこの件について、日本はまだ謝罪せず、高市首相は何も発言していない。

 今後、日中関係はどうしたらいいか。高市政権下では関係の改善は無理ではないか。日中関係は、ますます悪くなっている。

 ただ、中国による対日措置は段階的に進められているように見える。渡航自粛や水産品輸入の再停止に加え、軍民両用品の輸出規制も徐々に強化している。現時点では、全面的な経済制裁には踏み込まず、日本の出方を待っているようだ。

 やはり、リセットが必要だ。中国にとっては、日本の軍国主義の台頭だけは許せないという意識が大きいだろうが、高市首相さえ台湾発言を是正すれば、発言があった昨年11月7日以前の日中関係にリセットする意向があるのではないだろうか。

 安倍元首相のように、日中基本4文書を再確認することが必要だ。中国にとって大事なのは勝つことではなく安定だ。やはり、戦争は避けたいだろう。

 6月に辞任した米国のトゥルシー・ギャバード前国家情報長官は、3月18日に「年次脅威評価」を発表し、「中国指導部が現時点で2027年に台湾侵攻を実行する計画を立てているわけではなく、また統一達成のための固定されたタイムラインも持っていない」と評価した。

 それまでCIA長官や米軍関係者は27年までの「台湾有事」を予想し、日本のメディアも散々あおっていた。それを翻した形だが、日本のメディアはあまり報道しなかった。

 だから、「台湾有事」に対する恐怖だけが今も残り、既成事実化している。この状況では、結局日本だけが暴走したことになってしまうだろう。

(以上)



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