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Thursday, December 29, 2011

桜井国俊:普天間「代替施設」辺野古アセスメントにおけるジュゴン評価の「致命的欠陥」 Fatal defects of Futenma "relocation" facility Environmental Impact Statement

See the English version: SAKURAI Kunitoshi: The Fatally Flawed EIS Report on the Futenma Air Station Replacement Facility – With Special Reference to the Okinawa Dugong

沖縄防衛局は、普天間基地「代替施設」辺野古建設のための環境影響評価書の日中の配達を市民たちに阻止され、12月28日未明、コソ泥のように評価書を県庁の守衛室に置いていった。その姑息な方法に対し沖縄中が怒り、呆れている中、WWFをはじめとする11団体は、あらためてこのアセス自体の違法性、非科学性、非民主性を問う声明を出した。そして環境影響評価の専門家である沖縄大学の桜井国俊氏がこのアセスの内容自体の「致命的欠陥」を、特にジュゴン問題に焦点を置いて発表した。


普天間飛行場代替施設建設事業環境影響評価書の
ジュゴン評価の致命的欠陥

2011年12月28日
桜井国俊
沖縄大学教授

     本日未明、普天間飛行場代替施設建設事業の環境影響評価書が抜き打ちで沖縄県に提出された。沖縄防衛局の職員が沖縄県庁舎に朝4時頃、運び込んだのである。沖縄防衛局は、一昨日、評価書を県知事に届けようとしたが、沖縄防衛局の一方的な環境影響評価手続に反対する市民グループにより阻止された。昨日は、今度は民間の運送サービスを使用して届けようとしたが、再度市民に阻止された。論議を呼ぶ今回の評価書提出の仕方は、本件事業の環境影響評価手続全体の異常さを象徴するものとなっている。
     この小論は、沖縄ジュゴンに関する評価書の内容を明らかにすること、より正確に言えば、本件事業が沖縄ジュゴンに及ぼす影響を明らかにするという点に関して、いかに評価書が不十分なものであるかを明らかにすることにある。
     2008年1月23日の米国連邦地裁(カリフォルニア北部地区)命令によれば、米国防総省は、国家歴史保存法に基づきその事業(普天間飛行場代替施設の建設と使用)が沖縄ジュゴンに及ぼす影響に“配慮”しなければならない。この“配慮”手続には、(1)保護されるべき天然記念物の同定(この場合は沖縄ジュゴン)、(2)事業がこの天然記念物にいかに影響するかについての情報の生成、収集及び比較考量、(3)不利益な効果が生ずるか否かについての決定、及び(4)もし必要ならば、不利益な効果を回避したり緩和したりできる事業代替案や事業修正案の開発、が含まれる。これらは国家歴史保存法第402条に基づく米国防総省の責務である。連邦地裁によれば、被告(この場合は米国防総省)は、この責務の遂行を建設工事の前夜にまで引き延ばすことは許されない。何故ならそれは、事業の追加的な検討を意味のないものとし、代替案の考慮を不可能にするからである。米国防総省は、基本的にこれらの責務の遂行は日本政府の環境影響評価手続によって満たされると言ってきた。従って、沖縄ジュゴンに関する評価書の内容を検討し、評価書がこれらの責務を果たすのに十分な質を持ったものか否かを明らかにすることが極めて重要である。

評価書の致命的な欠陥

図1  準備書で報告されたジュゴン
(出所:準備書6-16-104頁)
     沖縄防衛局は2009年4月に提出した準備書において、2007年8月の方法書提出以降に軽飛行機とヘリコプターを使用して実施した観察調査に基づき、沖縄島周辺には3頭のジュゴン(1頭は嘉陽沖、2頭は古宇利沖)が生息し、彼らは概ねその地域に常在していると結論した(図1参照)。この観察結果に基づき沖縄防衛局は、事業予定地の辺野古は嘉陽から十分離れており(6キロメートル)、事業が嘉陽沖の個体に及ぼす影響は小さいと結論した。またジュゴン個体群の存続可能性に及ぼす影響についても、ジュゴンが嘉陽沖に常在している限りは、小さいと結論した。

     この結論は極めて非論理的である。図2に示すように、沖縄ジュゴンは辺野古沖を含む沖縄島の東海岸沿いで頻繁に観察されていた。従って準備書は、2007年8月から2009年4月の間に実施されたジュゴン調査で何故ジュゴンが辺野古の海で観察されなかったのかを明らかにする必要があるのである。しかしこの点について準備書は何ら分析を行っていない。ジュゴンが観察されなかったのを説明できるかもしれない一つの理由は、2007年4月に開始した環境影響評価書手続に先立って辺野古の海で実施された大がかりな調査の影響である。この調査は2004年から20数億円もの費用をかけて実施され、サンゴやジュゴンの調査、そして数多くのボーリングを含む地質調査などが実施された。環境を守ろうとする市民はカヌーで非暴力の反対運動を展開した。こうした抵抗を突破すべく沖縄防衛局は、海上自衛隊の掃海母艦“ぶんご”まで動員し、夜陰に乗じて潜水隊員がサンゴやジュゴン調査のための機器を設置した。この荒っぽい機器設置で辺野古沖のサンゴが損傷し、この事態は2007年5月22日付けの地元紙琉球新報の一面トップで報道されることとなった(図3参照)。 


 2  19981月から20031月の間に観察されたジュゴン
(出所 細川太郎)


 
図3  2007年5月22日付け琉球新報一面


     キャンプ・シュワブの海兵隊員が辺野古海岸で頻繁に実施している上陸演習がジュゴンの行動に与えるマイナスの影響についても考慮する必要があるかも知れない。キャンプ・シュワブは辺野古の海に面している。準備書によれば、辺野古の海はジュゴンの餌である海草藻場が豊富で、その面積は嘉陽沖の海草藻場の面積の10倍にもなる。従って、沖縄防衛局が2007年8月から2009年4月の間にジュゴン調査を行った際にジュゴンが辺野古沖を訪れなかったのには何か理由がある筈だ。ジュゴンは、環境影響評価手続に先立つ大がかりな調査や上陸演習が辺野古の海にもたらす喧騒を避けようとしていたのかも知れないのである。
     
     2007年8月の方法書提出によって開始した環境影響評価手続に先立つこの大がかりな調査は、事業なしの状態での辺野古海域の環境の状態を知ることを極めて困難にした。これは環境影響評価法の精神に反する。なぜなら環境影響評価法は、大がかりな調査に先だって、方法書手続を通じて関係者と協議することを事業者に求めているからである。2009年4月の準備書提出後も、沖縄防衛局は台風条件下の情報などを含む補足情報を収集すると称して辺野古の海での調査を今日まで継続実施している。多くの人々は、沖縄防衛局はジュゴンは概ね嘉陽沖と古宇利沖に住んでいるという彼らの主張を維持するために辺野古の海からジュゴンを追い出そうとしているのだ、と考えている。評価書によれば、準備書提出後に行われたこの調査を通じて、沖縄防衛局は、辺野古沖で遊泳しているジュゴン1個体を2010年度に観察している。しかし沖縄防衛局は、事業がジュゴンの個体に及ぼす影響もジュゴン個体群の存続可能性に及ぼす影響も小さいとする準備書での彼らの主張を変えていない。
     方法書において沖縄防衛局は、「事業の実施がジュゴンに及ぼす影響は類似の事例や既存の知見等を参考に定性的に予測する」としている。2006年3月30日に実施された環境影響評価手続の改正以来、環境影響評価項目に関わる予測は定量的に把握することが基本となっている。定量的な予測を行わない場合には、行わない理由の説明が必要なのである。ジュゴンの場合、個体群存続可能性分析(PVA)などの定量的な予測が必要である。PVAを通じて、事業を行わなかった場合X年にジュゴンが存続している確率はZ%であるのに対し、事業を実施するとその確率はY%となると予測することが可能となり、YとZの比較を通じて、事業が沖縄ジュゴンに及ぼす影響を評価する上での根拠を得ることが出来るのである。しかしながら方法書は、なぜ定量的予測を行わないのかの説明を行っていない。
     また類似の事例の調査については、方法書が縦覧に供された際、筆者は2007年9月13日付けで沖縄防衛局に対し文書で意見を述べた。まず、絶滅の危機に瀕したジュゴン個体群が本件事業と類似の事業の影響を被ろうとしているような類似の事例が世界のどこにあるのか、その心当たりはあるのかと質問した。その上で、もしその心当たりがないのなら、これは環境影響評価についての政府の技術指針の単なるコピーであり、全く無意味であると強調したのである。沖縄防衛局は、筆者のこの意見を無視し、2009年4月1日に出された準備書でも、また本日提出された評価書でも、類似の事例については全く触れていないのである。
     準備書が縦覧に供された際、筆者は、2009年4月28日付けで沖縄防衛局宛てに文書で意見を提出した。その意見書において筆者は、2007年8月から2009年4月の間に実施されたジュゴン調査で辺野古の海でジュゴンが観察されなかったことについての合理的な説明を行うように求めた。それは、準備書でその点について何ら記述がなかったからである。準備書では、環境影響評価手続に先立つ大がかりな調査がジュゴンの行動に及ぼした影響についての分析がなんら為されていなかった。また、事業によって沖縄島周辺で最大の海草藻場が消失することの影響についても、ジュゴンの生息域が分断されることがもたらす影響についても、何も分析されていなかったのである。そこで意見書の中で筆者は、沖縄防衛局がこういった点についての分析を行うよう強く求めた。しかしながら今回もまた筆者の意見は無視され、評価書の中には合理的な説明が為されていないのである。

結論

     2007年8月から2009年4月の間に実施されたジュゴン調査で辺野古の海でジュゴンが観察されなかったことについての合理的な説明がなされない限り、本件事業を放棄し、沖縄ジュゴンの生息域の分断を回避する方が、ジュゴン個体群の存続可能性を高めることになると考える方が合理的である。
     筆者はここに、沖縄防衛局が提出した評価書は、米国連邦地裁(カリフォルニア北部地区)が米国防総省に課した条件を満たしていないと宣言する。

                                                
i 環境アセスメント学会評議員
Email: sakurai@okinawa-u.ac.jp

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