Monday, April 21, 2025

ジェフリー・サックス教授最新記事「アジアの米軍基地を閉鎖せよ」Jeffrey Sachs: Close the US Military Bases in Asia

このサイトでも何度も紹介している、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が「アジアにおける米軍基地を閉鎖せよ」という記事を、Other News というインターネットニュース媒体に発表しました。ここに翻訳を紹介します。(AI翻訳に手を入れたものです。翻訳はアップ後修正することがあります。引用等するときはこの翻訳に頼らず、原文を参照した上で引用してください)@PeacePhilosophy 

Other News のサイトより

Close the US Military Bases in Asia

https://www.other-news.info/close-the-us-military-bases-in-asia/

アジアにおける米軍基地を閉鎖せよ

ジェフリー・D・サックス

超大国にとって最善の戦略は、お互いの領域に踏み込まないことです。

ドナルド・トランプ大統領は再び、アジアにある米軍基地がアメリカにとってあまりにも高コストだと大声で不満を述べています。日韓との新たな関税交渉の一環として、トランプ氏は米軍駐留費の負担を日本と韓国に求めています。ですが、はるかに良い提案があります。基地を閉鎖し、米兵をアメリカ本国へ戻すことです。

トランプ氏は、アメリカが日本に5万人、韓国に3万人近くの兵士を駐留させていることが、両国に対する大きな奉仕であると示唆しています。しかし、これらの国々は、自国の防衛にアメリカを必要としていません。両国とも裕福な国であり、確実に自らを守る力を持っています。さらに重要なことは、東北アジアの平和は、米軍の駐留よりも、外交によって、はるかに効果的かつ低コストで実現できるという点です。

アメリカは、中国から日本を守らなければならないかのように振る舞っています。本当にそうでしょうか。過去1000年の間、そのうち約150年を除いて中国は地域の覇権国でしたが、中国が日本を侵略しようとした回数は何回でしょうか? 答えは「ゼロ」です。中国が日本を侵略しようとしたことは一度もありません。

異論があるかもしれません。1274年と1281年の二度の試み(訳者注:「元寇」のこと)はどうかと。しかし、これは事実として、モンゴルが1271年から1368年まで中国を支配していた時期に、遠征艦隊を日本に派遣したものです。両度とも、台風(日本では「神風」として知られる)と日本の沿岸防衛によって撃退されました。

一方で、日本は中国を攻撃または征服しようとした試みを何度も行っています。1592年、日本の傲慢で気まぐれな軍事指導者・豊臣秀吉は明朝中国を征服する目的で朝鮮に侵攻しましたが、1598年に彼自身が亡くなり、朝鮮すら完全に征服することはできませんでした。1894年から95年にかけては日清戦争で日本が勝利し、台湾を植民地としました。1931年には日本が中国東北部(満州)に侵攻し、満州国を建国しました。そして1937年には中国に再侵攻し、アジア太平洋地域における第二次世界大戦の発端となりました。

今日、日本が中国を侵略するなどとは誰も考えていませんし、同様に、中国が日本を侵略するという合理的な理由も、歴史的な前例もまったく存在しません。日本は中国から守ってもらうために米軍基地を必要としてはいないのです。

同じことは、中国と大韓民国(韓国)の関係にも当てはまります。過去1000年の間に、中国が朝鮮半島に侵略したこともありません。一度の例外を除いては。それは1950年末、アメリカが中国を脅かしたときのことです。中国は、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を支援するために朝鮮戦争に参戦しました。当時、マッカーサー将軍は無謀にも中国への原爆攻撃を提案していました。さらに、台湾に拠点を置く中国国民党の軍に中国本土への侵攻を支援する提案も行いました。幸いなことに、トルーマン大統領はこの提案を拒否しました。

確かに、韓国は朝鮮に対する抑止力を必要としています。しかし、それはアメリカの軍隊ではなく、中国、日本、ロシア、朝鮮、韓国を含む地域安全保障体制によって、はるかに効果的かつ説得力を持って実現できるはずです。実際には、米軍の存在が北朝鮮の核兵器開発や軍拡をあおってきたのであり、それを減らすことには寄与していません。

実のところ、東アジアにおける米軍基地は、日本や韓国を守るためではなく、アメリカの軍事力を投射するための拠点なのです。だからこそ、なおさら撤去すべきなのです。アメリカはこれらの基地が防衛目的であると主張していますが、中国や朝鮮から見れば、それは理解可能な脅威と映ります。たとえば、アメリカによる「斬首攻撃」の可能性を示唆したり、誤解や挑発が発生した場合の中国や朝鮮の反応時間を極端に短縮したりするのです。ロシアがウクライナでのNATOの存在を激しく非難したのも、まさに同じ理由によるものでした。NATOはアメリカが支援する政権転覆の作戦にしばしば介入し、ロシアの近くにミサイルシステムを配備してきました。実際、ロシアの懸念通り、NATOはウクライナ戦争に深く関与し、兵器、戦略、情報、さらにはロシア深部へのミサイル攻撃のプログラミングや追跡にまで関与しています。

ところで、トランプ氏は現在、パナマの小さな港湾施設2か所が香港企業の所有であることに執着し、「中国がアメリカの安全を脅かしている」(!)と主張して、それらの施設をアメリカ企業に売却させようとしています。一方で、アメリカは中国の国際海上輸送路の周辺に、日本、韓国、グアム、フィリピン、インド洋に至るまで巨大な米軍基地を展開しています。

超大国にとって最善の戦略は、お互いの勢力圏に干渉しないことです。控え目に言っても、中国やロシアが西半球に軍事基地を設けるべきではありません。1962年にソ連がキューバに核兵器を配備しようとしたとき、世界は核による壊滅の瀬戸際まで行きました(その詳細については、マーティン・シャーウィンの名著『ギャンブリング・ウィズ・アルマゲドン』をご参照ください)。現在のところ、中国もロシアも、自国の近隣に米軍基地があるという挑発に直面しながらも、西半球に軍事拠点を設けようとはしていません。

トランプ氏は財政の節約を模索しています。それは良いことです。なにしろ、米連邦政府は年間2兆ドル(GDPの6%以上)もの財政赤字を抱えているのですから。海外の米軍基地を閉鎖することは、その第一歩として非常に有効です。

トランプ氏は二期目の冒頭で、その方向性を示唆していましたが、共和党の議会議員たちは軍事費の削減ではなく、増額を主張しています。アメリカは約80か国に750か所の海外基地を有しており、これらを今すぐにでも閉鎖し、財政を節約し、外交に立ち返る時がとうに来ているのです。駐留国に、自国やアメリカにとって有益でもないものの費用を負担させることは、時間、外交資源、予算の大きな浪費となります。

アメリカは中国、ロシア、その他の大国に対して、こうした基本的な合意を提案すべきです。「あなた方が我々の近隣に軍事基地を置かないなら、我々もあなた方の近隣に基地を置かない」と。主要国間におけるこのような基本的な相互主義は、今後10年で数兆ドル規模の軍事費削減を実現し、さらには「終末時計」を核戦争によるアルマゲドンまで89秒という現状から大きく後退させることができるでしょう。


※この記事は筆者本人によって「Other News」に寄稿されたものです。

※ジェフリー・D・サックス教授は、コロンビア大学教授兼持続可能な開発センター所長であり、2002年から2016年までは同大学のアース・インスティテュートの所長を務めました。また、国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」の会長であり、「国連ブロードバンド委員会」の委員でもあります。これまでに3名の国連事務総長の顧問を務め、現在はアントニオ・グテーレス事務総長の下でSDG(持続可能な開発目標)の推進者として活動しています。主な著書に『A New Foreign Policy: Beyond American Exceptionalism』(2020)、『Building the New American Economy』(2017)、『The Age of Sustainable Development』(2015、潘基文と共著)などがあります。 

(翻訳以上)

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グレン・ディーセン:ウクライナ戦争は「エスカレーションを常態化させてしまった」Glenn Diesen on the War in Ukraine: Escalation Got Normalized

米国イスラエルと西欧、日本など西側諸国には奇妙なルールがあるようだ。自分たちは敵とみなした相手をいくらでも威嚇したり、戦争や政権転覆をしかけたりする権利があると思っており、相手側が我慢に我慢の末に少しでも言い返したり、報復したりしようとすると「挑発だ!!!」「テロだ!」「国際社会の責任ある一員として行動せよ!」と大騒ぎして100倍返しの行動に出る。この、「反論、反撃の権利ゼロ」を相手に押し付ける姿勢こそコロニアリズムである。大日本帝国が朝鮮、琉球/沖縄、中国などに行ってきたことだ。米国イスラエルがパレスチナに対してやってきていることだ。NATOがウクライナを使ってロシアに対してやってきていることだ。ニューヨークタイムズは3月29日、「ウクライナ戦争の隠された歴史」というタイトルの、調査報道家アダム・エントゥス氏による長編記事を発表した。それは22年以降、米軍とウクライナはドイツのヴィースバーデンに秘密司令部を設置し、NATO諸国も関与して、共同で作戦を立案・指揮していたという内容であった。米国は兵器供与に加え、インテリジェンスを提供し、次々と「レッドライン」を超え、ロシア領内での殺害作戦にも関与したという内容であった。きょう紹介するのはナポリターノ判事のチャネルから、ノルウェーの 南東大学(USN)教授、ロシア外交政策の専門家グレン・ディーセン教授の4月16日の話である。ウクライナ戦争和平をめぐる欧州の強硬化の過程や背景がよくわかる内容であると思う。ここでディーセン氏が言っている「戦争がいつ始まったか区切ることでナラティブを支配できる」「戦争が始まった日付を決めてしまえばそれ以前のすべての責任を帳消しにできる」という指摘は重要だ。22年2月のロシア侵攻以来、"unprovoked" それまで何の挑発もなしにロシアが突然侵略したといったナラティブが西側を席捲し、それまで続いていた戦争を語ることも、NATOの東方進出を語ることも、米国の介入の歴史を語ることもすべて「ロシアのプロパガンダ」としてフェイクのように扱われるようになってしまった。「代理戦争」という本当のことを言っただけでいきりたつ「ウクライナ連帯」派の人たちは、この戦争の代理戦争ぶりをあますところなく記述した今回のニューヨークタイムズの記事をどう読むのであろうか。一方的な西側のナラティブを垂れ流し続けた新聞がいきなり本当のことを語りだす背景には、政権交代、和平交渉の進行という変化があったのかもしれない。@PeacePhilosophy (青字はナポリターノ判事の質問。強調はこのサイト運営者による)

 

 ナポリターノ:ドナルド・トランプの外交政策チームの中に分裂があるという認識はありますか? 一方にはネオコン、たとえばルビオ長官、ヘグセス長官、ケロッグ将軍などが代表とされ、他方にはロシアとの関係をリセットしようとする「アメリカ・ファースト派」、おそらくウィトコフ氏、ヴァンス副大統領、ガバード情報局長が代表とされる人々がいます。

ディーセン:いいえ、非常にはっきりとした分裂があると思います。イエメンへの攻撃においてもそうでしたし、ロシアへのアプローチにおいても同様でした。ここ数週間にわたって行われた交渉を見れば、それは明確だったと思います。なぜなら、ウクライナ戦争を終結させるための二つの提案が提示されていたからです。

ウィトコフによる提案は、いかなる和平合意も、戦争に勝利しているロシアの核心的な要求を満たす必要があると認識しているものです。その要求とは、ウクライナの中立性の回復、および領土の変化の承認、またはウクライナ側が何らかの譲歩を行うことです。

ケロッグの提案は、おおよそ、ウクライナを一時的に分割すべきだと主張しました。これは、第二次世界大戦後のドイツで行われたことと似ています。これはつまり、NATO諸国から遠く離れたヨーロッパ諸国の部隊がウクライナに駐留することを意味します。そうなれば、ウクライナは中立国ではなくなります。また、いかなる領土の喪失も認めないということになるため、ロシアの主要な要求は一つも満たされません。

つまり、完全に相反する二つの見解が存在しているのです。

なぜ、このようなことになっているのか?私の中の楽観主義者としては、トランプというこのシステムの中に何らかの秩序があるのではないかと考えたいのです。全体を譲り渡したいとは思っていないかもしれませんが、ロシアと交渉をせざるを得ません。ですから、彼はウィトコフによる提案を提示して、「これが我々の譲歩の限界であり、君たちも歩み寄る必要がある。さもなくば、ケロッグによる提案を受け入れることになる」と言っているのかもしれません。

これは一つの説明にはなるでしょう。

あるいは、これは単にトランプ政権内の非常に深刻な分裂であり、政権が二つの異なる方向に引っ張られている状態なのかもしれません。

私は前者であると信じたいですが、後者であると疑っています。

ケロッグの提案は、この番組を含め、アメリカ国内では多くの嘲笑を受けています。ヨーロッパの人々はこの提案をどのように受け止めているのでしょうか? 本当に、彼らはベルリンで行われたように、あるいは1945年から1989年までドイツ全土で実施されていたように、ウクライナの一部を軍事的・政治的に監視し、統治し、確保することに参加したいと考えているのでしょうか?

私はそうは思いません。ヨーロッパにそれを実行する能力も資金もないと思います。これは現在の問題の一部でもあります。ヨーロッパ諸国は、経済が少なくとも減速している中で、深刻な借金に陥っています。本来、ヨーロッパがすべきことはまったく逆のことです。新たなパートナーを模索し、産業化に取り組むべきです。しかし今彼らは、「軍事ケインズ主義」のような方向に進んでおり、ただ新たに大量の資金を刷って軍事に投入すれば、それによって産業化が促進され、経済が再び繁栄すると仮定しています。そうはなりません。私はこの考え方は完全に間違っていると思います。

しかし、これは新しいヨーロッパを構築するための一つの方法とも言えるかもしれません。皮肉なことに、欧州連合の理想とは、本来は二度と第二次世界大戦を起こさないためのものでした。つまり、ドイツとフランスが戦後に再び手を取り合い、貿易を通じて軍事的な衝突を避けるというものでした。だからこそ、多くの人々が冷戦後にロシアを同様に扱うべきだと主張しました。つまり、ロシアをヨーロッパの安全保障の枠組みに組み込むべきだったのです。しかし、もちろんそれは実行されませんでした。

そして再び皮肉なのは、いまヨーロッパが新たな目的を模索していることです。いわゆる「地政学的なヨーロッパ」という概念です。強力なロシアという「悪者(ブーギーマン)」を作り出せば、それが結束の材料になると考えているようです。なぜなら、ヨーロッパ大陸はこれから大きな変化を迎えるからです。アメリカ合衆国は、優先すべきことが変わり、今後はより小さな役割を担うようになるでしょう。そしてヨーロッパの指導者たちはすでにそのことを認識し始めています。

アメリカという「鎮静剤」——つまり、我々が互いの対立する利害を直視することを抑えてきた存在——が後退しつつあるのです。だから彼らは、ヨーロッパを再び一つにするための新たな何かを探しています。そして戦争——「せっかくの危機を無駄にするな」という発想です。

政府関係者の中で、マクロン大統領やスターマー首相、フォン・デア・ライエン委員長など、誰か一人でもケロッグ将軍の提案に賛同、あるいは少しでも関心を示した人はいますか?

いいえ。彼らにとってケロッグは、極端すぎる存在です。あの人たちが望んでいるのは、ロシアが完全に後退し、この戦争ののちにロシアの降伏のような和平合意が結ばれることです。

現在ヨーロッパの首都では、「ウクライナの1991年の国境を回復すべきだ」と語られています。ロシアは賠償金を支払うべきだ、と。カヤ・カラス氏——EUの外交政策責任者——は、ロシアの政治指導部を裁くための特別法廷を設置すべきだと発言しています。

つまり、ヨーロッパ人たちは「共通の価値観」のもとに団結しています。それはある種の「道徳的な罠」です。ある立場を「善」と定義し、それ以外の選択肢はすべて「悪」と見なすのです。

したがって、戦争は「一方的な侵略だった unprovoked」と言えば、ロシアは「悪」で我々は「善」ということになります。すると、和平交渉が「宥和政策」と見なされる以上、唯一の選択肢はロシアの完全敗北ということになるのです。これに異を唱える者は、プーチンを利する者とされてしまいます。あの人たちは、プーチンを新たなヒトラーと見なしており、次はパリに侵攻してくると信じているのです。

この欧州の指導者たちは一体何を恐れているのですか? 夜眠るときに、プーチンがパリやベルリンに文字通り侵攻してくると、本気で恐れているのですか?

そうでないことを心から願います。ただし、過激な考えは存在していると思います。とはいえ、ここで重要なのは、いま何が起きているのか、そしてウクライナ戦争が何を意味しているのかを文脈の中でとらえることです。

私の見解では、この戦争は世界秩序の転換を意味しています。冷戦後、アメリカとEUのペアが「新たな政治的西側世界」を形成するというのが主要な目標となりました——まあ、新しいというより再構築ですが——そしてそれが、世界覇権の基盤となるはずだったのです。

しかし、それは「穏やかな覇権」となるはずでした。なぜなら、アメリカとEU——我々は善の力ということになっていました。自由民主主義の未来は、我々の永続的な覇権にかかっているということになります。したがって、それはある意味で、新たな「文明化の使命」となったのです。これが「穏やかな覇権」です。

過去30年間にわたって、ヨーロッパのすべての政治指導者たちはこの信念、この確信の中で育ってきました。これが政策になったのです。そしてNATOの拡大主義においても、ロシアとの対立を生むことになると欧州指導者たち自身が認識していましたし、多くの警告も発せられていました。しかし、それは彼らがフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論に賭けるうえで、支払うに値すると考えた代償だったのです。

もしロシアが敗北すれば、1990年代に戻ることができる。だからこそ、多くの人々がこの問題を「世界秩序」の観点で語るのです。しかし、実際には今、ロシアが勝利しつつある状況であり、それは「多極化」を意味します。

ヨーロッパにおいて何の発言権も持たないはずだったロシアが、突然、巨大な勢力となっている。そしてもちろん、アメリカも多極的な世界においては、西半球やアジアに焦点を移すことになります。ヨーロッパの未来は、もはやそれほど明るいものではなくなりました。

ヨーロッパのエリートたちは、戦争が終わらないことを望んでいるのですか?

戦争の終結を望んでいるのですが、それはヨーロッパの条件——つまりロシアの降伏——で終わることを望んでいるのです。

しかし、それは現実的ではありません。

これこそが問題です。欧州指導者たちは現実から乖離しており、「善意」が行動を道徳的にすると信じ込んでいる。しかし、もし自分たちが推進している政策が破滅をもたらすのであれば、それは道徳的とは言えません。

たとえば、ロシアの侵攻以前の数年間、彼らは繰り返しこう言い続けていました。「ウクライナはNATOの一員になるだろう。NATOは拡大する。ロシアには発言権がない。拒否権もない」。それは非常に道徳的に正しいことのように聞こえます。なぜなら、「もしNATOを拡大しなければ、それはロシアがウクライナの外交政策に口を出すことを認めることになる」という前提があるからです。それは非常に不道徳なことのように聞こえます。

しかし現実には、それは戦争を事実上不可避にしていたのです。たとえるなら、それはロシアの軍事基地をメキシコに置くようなものでした。我々はどんな道徳的論拠も掲げることができますが、もしその実際の結果が国家の破壊であるならば、それはもはや道徳的とは言えません。

とはいえ、ヨーロッパ人たちは、現実がどうであるかではなく、「世界はこうあるべきだ」という考えに固執する傾向があります。そして往々にして、現実を認めること自体が「不道徳」であると信じ込んでしまうのです。

そして、今まさにそれが起きています。私は、彼らが和平合意を支援すると言いながら、それを破壊しているのだと思います。なぜなら、ヨーロッパ諸国が「和平を保証するためにウクライナに軍を派遣する」と言っているとき、それが意味しているのは、戦闘が止まった瞬間にヨーロッパの軍隊が入ってくるということです。ロシアがそのような停戦を受け入れることは不可能です。

これは、ジェームズ・ベーカー国務長官とミハイル・ゴルバチョフとの有名な会話の記録の一部です。

ベーカー「最後の点ですが、NATOはアメリカのヨーロッパにおける存在を確保するための仕組みです。もしNATOが解体されれば、ヨーロッパにはそのような仕組みは存在しなくなります。我々は理解しています。それはソ連だけでなく、他のヨーロッパ諸国にとっても重要なことなのです。もしアメリカがNATOの枠組みの中でドイツに駐留し続けるのであれば、NATOの現在の軍事的管轄は一インチたりとも東方に拡大しないという保証が必要です。」(安全保障アーカイブから)

これこそが、ラブロフ外相とプーチン大統領が繰り返し主張している発言であり、西側諸国があたかもそれが一度も語られなかったかのように無視しようとしている内容です。

そうです。改めて申し上げますが、アーカイブは公開されています。そしてこれは繰り返し確認されてきたことです。文書をすべて読めば、ベーカーによる一度きりの発言ではないことがわかります。これは何度も繰り返されてきました。

そして今日では、「NATOの拡大がこの事態を招いた」と示唆すること自体が、なぜか物議を醸すようなことになってしまっています。しかし、1990年代を振り返れば、多くのアメリカの指導者たちがこの点を認識していたのです。ウィリアム・ペリー、ジョージ・ケナン、ジャック・マトロックなど、名前を挙げればきりがありません。最初は30人のアメリカ政治指導者による抗議書簡が出され、その後は50人へと拡大しました。彼らはこれが何をもたらすかを理解していたのです。

ゴルバチョフに与えられたこの約束だけではありません。1990年には「新しいヨーロッパがどうあるべきか」という合意にも署名しています。これはヘルシンキ合意に基づくもので、「新ヨーロッパ憲章(Charter of Paris for a New Europe)」と呼ばれています。そこでは「分断線のないヨーロッパ」について言及され、安全保障は「不可分」であるべきだとし、一方の安全保障が他方を犠牲にしてはならないという内容が盛り込まれています。そして1994年にも同様の合意がなされました。

しかしその後、NATOが拡大したことは、事実上、「もはや不可分の安全保障など必要ない。ロシアのことなど考慮する必要はない」という欧州の認識を意味していました。なぜならロシアは弱体化していたからです。これこそが、ウィリアム・ペリー国防長官がクリントン政権の職を辞することを真剣に考えた理由です。ペリーはこれが誤りであると知っていました。しかしロシアが弱いことを理由に、クリントンや欧州はその誤りを受け入れたのです。

これからトランプ大統領の映像を流します。そのあとでお聞きする質問を今のうちにお伝えしておきます。これはトランプ氏によるウクライナ戦争に関する最後の公式発言で、今から3日前、日曜日の「棕櫚の日(パームサンデー)」の夜、彼がフロリダの自宅からワシントンD.C.に向かう途中に発言されたものです。「ウクライナ戦争は今やトランプの戦争なのか?」

記者:「ロシアによる、ウクライナでの『棕櫚の日曜日(Palm Sunday)』の攻撃について、何かご感想はありますか?」

トランプ:「ひどい出来事だったと思う。ロシアが間違いを犯した。この戦争そのものが恐ろしいものであり、そもそもこの戦争が始まったこと自体が権力の乱用だった。」

「これはバイデンの戦争だ。私の戦争ではない。私はまだ就任してから日が浅い。これはバイデン政権下で始まった戦争です。彼はウクライナに数百億ドルもの資金を提供した。あんなことは絶対に許すべきではなかった。」「私なら絶対に、あの戦争を起こさせなかった。私は今、それを止めようとしている。多くの命を救うために。ウクライナ人もロシア人も命を落としています。私が望んでいるのは、それを止めることだ。」

トランプもまた、1月20日就任以降、数十億ドル相当の軍事装備を提供してきました。この支援のためのアメリカの法律では、現金も軍事装備もすべて大統領の裁量に委ねられるとされています。

それではディーセン教授、今やこの戦争はドナルド・トランプの戦争と言えるのでしょうか?

ええ、そうだと思います。今や彼の戦争になりつつあります。もちろん、ロシアがバイデン政権下で侵攻したことを考えれば、責任をバイデンに負わせるのもある程度は妥当です。しかし、あなたも言ったように、トランプは武器を送り続けており、後方支援も行い、インテリジェンスも提供しています。

つまり、アメリカは今でもロシアとの戦争に深く関与しています。そして最近の『ニューヨーク・タイムズ』の記事で明らかになったように、もはやこれは単なる代理戦争ではありません。2022年以降に何が起きたのかを見れば、この戦争はドイツを拠点としてアメリカが非常に直接的に指揮してきたのです。

そのニューヨーク・タイムズの記事を否定している人はいません。アメリカは共同交戦国であり、実際には主導的交戦国なのです。人命の損失という意味ではなく、戦争の遂行、インテリジェンス、戦略という面においてです。

まさにそうです。だからこそ重要なのです。アメリカはNATOのパートナー諸国とともに、今や何万人ものロシア人を殺害する側に回っているのです。問題は、我々はそれを見て見ぬふりをすることもできますが、そうすれば自分自身をごまかすだけです。ロシア人は今、何が起きているのかを理解しています。そして彼らは、いつかバランスを取るために報復する手段を再び探すでしょう。

セルゲイ・ラブロフ外相の発言を見れば、最近スーミへの攻撃についてコメントしています。彼は、「我々はウクライナの軍司令部だけでなく、そこにいると分かっていたNATOの訓練要員も攻撃した」と述べました。NATO部隊がそこに実際にいたのかどうか、私には分かりません。しかし今、彼らが「そこにNATO兵がいたから攻撃した」と公に言っているという事実は非常に重要です。彼らが今やNATOを標的にする方向に動いていることを示唆しているからです。

これをヨーロッパの文脈で見れば、当然のことながら関連性があります。

あなたの同僚であるジェフリー・サックス教授は、これは「アメリカの戦争」と呼ばれるべきだと言っています。なぜなら、トランプはバイデンが始めたことを中断も制限もなく継続しているからです。

すべての責任をバイデンに負わせるのは必ずしも公平ではありません。もちろん、バイデンは2014年以来この件に深く関与しています。しかし、そもそもウクライナ政府が転覆されたのは2004年のオレンジ革命でした。そして2008年、ブッシュ政権下でNATOがウクライナに将来的な加盟を提示したことは非常に重要でした。これがウクライナを戦争への道に乗せたのです。

オバマ政権下では、西側諸国が支援したクーデターによって2014年に政権が転覆されました。

そしてトランプ自身も、最初の政権時に、オバマが「エスカレーションになる」として拒否していたジャベリンミサイルや武器をウクライナに提供しました。オバマはそれが戦争の道を進めてしまうと認識していたのです。

(米国側は)時間を区切って紛争の開始時点を特定してしまいがちです。なぜなら、それによって全体の物語を作ることができるからです。イスラエルの件でも、ウクライナの件でも、いつもそうしてきました。紛争が始まった日付を定めれば、それ以前のすべての責任を帳消しにできてしまうのです。

最後に。マクロン大統領はパレスチナ国家の承認に向けて動いているのでしょうか?

その可能性はあります。ですが、今の時代では、指導者たちの考えを読み取るのは非常に難しいと思います。過去のすべてのルールが投げ捨てられてしまっているので、私にはその質問に答えることはできません。とはいえ、少なくともヨーロッパでは、各国がヨーロッパを一つに保つための新たな役割と新たな構造を必死に模索しているということは言えるでしょう。マクロンは常に、単に紛争を解決するために正しいと思うことをしているだけでなく、EU内部におけるフランスの指導的立場を築こうとしてきました。彼は、誰も従いたがらない「ナポレオン」のような存在であり続けています。

しかし、もし軍事的な対立があるとすれば、経済的に強力なヨーロッパのもとでは、かつてはドイツに指導権がありました。ところが今やドイツは弱体化し、より軍事化されたEUとなったため、自然とフランスに指導権が移ってきています。

ただし、当然ながらイギリスも譲ろうとはしません。だからこそ、イギリスの言葉遣いも非常に強硬なのです。ですので、これは断定するのが難しい。彼らが紛争解決をどう見ているか、そして自国のEU内での役割をどう強化できるか、また国家間の新たな連帯の基盤をどう築くかなど、多くの要素に左右されます。

ここに紹介するのは、ロシア対外情報庁長官であるセルゲイ・ナルイシキンの発言です。彼はアメリカCIA長官に相当する人物であり、NATOの国境での動き、とりわけフランスに関してコメントしています。

「ベラルーシ共和国国家保安委員会およびロシア対外情報庁の前において、我々の国の安全保障を確保するという困難かつ具体的な任務が課されています。それは、敵対的な国々の攻撃的な野心と、我々の国家への脅威に対抗することです。

この方向において、すでにかなりのことがなされています。しかし同時に、我々の国境においてNATO諸国による軍事活動が活発化しているのを目にし、感じています。特にフランス、イギリス、ドイツなどのヨーロッパ諸国が、ウクライナ紛争をめぐるエスカレーションのレベルを引き上げています。したがって、我々は予防的に行動しなければならないのです。」

私はマクロン大統領がパレスチナ国家を承認することを望んでいますが、彼はこのように「熊をつつく」行為(ロシアを威嚇する行為)が何を意味するか分かっているのでしょうか? ナルイシキン氏が言っていることは、プーチン大統領が考えていることそのものです。

私もそう思います。そして、それこそが問題なのです。特に今のヨーロッパでは、政治指導層が自分たちが信じている物語に自らを閉じ込めてしまっているのです。

そして、たとえばドイツの次期首相となるメルツは、ロシアを攻撃するために「タウルス・ミサイルを使用する」とまで語っています。ドイツは再びそのような道を歩もうとしているのです。

しかし彼らにとっては、それは単に「ウクライナを支援する」ことに過ぎず、完全に正当だと考えており、なぜそれが物議を醸すべきことなのか理解していません。つまり、あらゆる反対意見は「プーチンの味方をしている」として切り捨てられてしまいます。

思い出してほしいのは、ロシアの侵攻が始まった当初、F-16戦闘機を送ることは「第三次世界大戦を意味する」とバイデンらが言っていたことです。彼らは大砲を送ることすら非常に慎重でした。しかし今では、この考え方に慣れてしまっています。

ここまで来ると、(ウクライナ・米国側は)エスカレーションを常態化させてしまったのです。そして今では、「ロシアにも報復する権利がある」という当然の事実すら理解されていません。

たとえば、先のニューヨーク・タイムズの記事に戻って想像してみてください。もし、ロシアが我々の都市を攻撃し、軍事作戦の計画を立て、標的を定め、武器を供給し、後方支援まで行い、そしてその武器を実際に操作して、例えばアメリカ兵を何千人も殺しているという記事が出たとしたら、アメリカはどう反応するでしょうか? アメリカは、自国に報復の権利があると考えるのではないでしょうか?

今、ウクライナが崩壊しつつある状況の中で、ヨーロッパが動きを加速させているのをロシアが目にしたなら、彼らは報復に出るでしょう。私は、もはやロシアがこれを黙って受け入れるとは思えません。

これは明らかであるべきことです。しかし、誰もそれを見ようとしていません。

我々は非常に奇妙で非合理的な道を進んでおり、それは非常に危険です。

(翻訳以上)

Thursday, April 17, 2025

ダグラス・マクレガー:トランプは戦争を止められる Douglas Macgregor: Trump just has to say NO.

きょうは4月15日のナポリターノ判事チャネルから、ダグラス・マクレガー氏の翻訳をお届けします(一部繰り返しなどは割愛しています)。元軍人の現実的なコメントは好戦的な政治家の危険性を浮き彫りにします。(青字はナポリターノの質問です。)ここでマクレガーは22年4月、ロシアの特別軍事作戦が始まった直後にトランプから電話を受け取りウクライナ情勢について尋ねられたという会話の内容を披露していることに注目しています。ネタニヤフの言いなりになって対イランに「リビア方式」(政権転覆)の戦争をもたらすこと、英独仏ゼレンスキー連合がウクライナ和平を妨害することだけは防がねばなりません。米国に根強い、平和を脅かす「ボムズ・アウェイ・クラブ」という指摘も的確と思いました。いまトランプが置かれている立場を、第一次大戦のドイツ皇帝と重ねているところも興味深いです。ふたたび敢えて好戦的なネオコンを周囲で固め迷走するトランプ政権への懸念を語るマクレガー氏の、膨大な歴史と軍事の知識い基づいた理性の声です。@PeacePhilosophy   

 

ナポリターノ:アメリカは再びISISやアルカイダと手を組んでいるのでしょうか? そして、その連携にはフーシ派に対する空爆の実施も含まれているのでしょうか?

マクレガー:ご存じのとおり、アメリカは代理勢力を使うのを好む国です。自国の兵力ではなく、他人の地上部隊を使って敵と戦う方がはるかに都合がいいのです。ですので、今まさにご指摘の通り、サウジアラビア半島やアラビア半島の勢力を組織し、地上で戦わせながら、アメリカは空と海から支援・攻撃を行うという取り組みが進んでいることは確かだと思います。

明らかに、アメリカ海兵隊を使う意思はありません。本気なら海兵隊を上陸させていたはずです。これはまさに、海兵隊がもともと想定されていた任務――敵拠点への急襲や、港湾などの戦略拠点の制圧といった行動――にぴったり合致する任務です。でもやる気はない。

もちろん、ISISとアルカイダは国務長官と財務長官によりテロ組織として指定されています。そして、それらの組織に対して物的支援を提供することは重罪とされています。しかし、どうやらそのルールは国防総省やCIAには適用されないようです。

実際、そういったことはマケイン上院議員にも当てはまりませんでした。彼は、シリアやイラク北部でそのような動きを支援し、当時アサド政権やその同盟勢力に対抗する、イスラム主義勢力に装備を与えるよう促すために自ら現地を訪れました。ですので、これは新しい話ではなく、法律をあからさまに無視する行為がまた一つ加わったというだけです。

アメリカがイエメンの人々を攻撃し、殺害することに、何か軍事的に正当化できる理由はあるのでしょうか? それとも、単にネタニヤフ首相の好戦性を満たすためなのでしょうか?

もちろんアメリカはスエズ運河や紅海を通る海上貿易の流れが途絶えることなく続いてほしいと考えています。それは恒久的な国益であり、それゆえに海軍がその航路を保護し、可能な限りその安定を図ることには道理があります。

しかし問題は、私たちが単なる同盟関係にあるのではなく、イスラエルが展開している攻勢的な軍事行動に完全に組み込まれているということです。そのため、イスラエル、そして率直に言って我々アメリカの持つすべてのものが「敵の一部」として見なされる状況になっています。判事、我々は非常に厳しい立場に立たされています。事実上、イスラエルに反対するすべての勢力と戦争状態にあるのです。

先週、ネタニヤフ首相はトランプ大統領と2時間ほど面会し、その後、ホワイトハウスで共同記者会見を開きました。その場で、トランプ大統領は自身の特使スティーブ・ウィットコフ氏がイランとの直接交渉に臨むと発表しました。ネタニヤフ首相は、この発表に愕然とした様子でした。事前に知らされていたのか、それともトランプ大統領が彼を意図的に恥をかかせようとしたのかは分かりません。『エコノミスト』誌やBBCによると、ネタニヤフ首相は、トランプ大統領に対して、トルコのエルドアン大統領を公然と批判し、対イラン戦争におけるイスラエルへの支持を表明させたかったですが、そのどちらもトランプ大統領から引き出すことはできませんでした。あなたはこの見方を支持しますか?

そうですね、現場にいなかった私としては断言できませんが、まず第一に、トランプ大統領はイスラエルとトルコの間の紛争に巻き込まれることを望んでいないと思います。それは、アメリカの外交・安全保障政策の観点から見れば、自滅的どころか、破滅的な選択になるからです。

一方で、トランプ大統領は、ネタニヤフ氏の対イラン戦争に関与せざるを得なくなる前に、何らかの合意を形成する「最後かつ最良の機会」と見ているのではないかと私は考えています。その戦争が今後現実化する可能性は残っていますし、大統領自身もその点を明確にしています。

とはいえ、大統領は非常に難しい立場にあります。身動きの取れる余地があまりないのです。というのも、彼は非公式ながら、イランに突きつけた極端な要求をすでに軟化させているからです。

このことは、ネタニヤフ氏にとって重大な懸念点であると思われます。というのも、もし米国がイランに対して「ウラン濃縮を60%にとどめること」だけを要求し、それ以外の要求をすべて棚上げするというのであれば、それはネタニヤフ氏の長期的な目的にかなうものではありません。

ネタニヤフ氏は「イランに対してリビア方式(※カダフィ政権崩壊のような政権転覆)を適用すべきだ」と明言してきました。そして私は、これはゼレンスキー氏がロシアに対して目指している構図と同じだと思います。

トランプ大統領は、いまや二つの強硬で従わないとされる「同盟国」と向き合わざるを得ない状況にあります。しかも、そのどちらとも正式な同盟条約は存在しません。それにもかかわらず、アメリカはゼレンスキー氏とネタニヤフ氏を「同盟国」と見なしているのです。

さてここで、あなたが以前、ダニエル・デイヴィス大佐がイランの軍事力について語ったときのコメントを紹介します。

デイビス:「世界中のどの国が、自国の大使館を他国で破壊され、自国の首都で就任式の日に暗殺事件が起きても(訳者注:イランのこと)、戦争を起こさないでいられるでしょうか? しかし、イランは実際にやりませんでした。──それをやる力がないからです。」

マクレガー:「ちょっと待ってください。それは間違っています。イランには戦争をする力がない? あなたはイランをちゃんと見たことがありませんね。イランのミサイルの兵器庫は膨大であり、イスラエルを一日で破壊することも可能です。イランには戦争をする力があります。イランは繰り返し、意図的に戦争を避けてきたのです。そして私はこれを千回は言っていますが、中東で戦争を望んでいるのは、イスラエルとアメリカだけです。」

トランプ政権下の外交政策チーム──バンス、ヘグセス、ルビオ、ゴルカ、ウォルツ──彼らはこの事実を理解しているのでしょうか?

アメリカの外交政策とは何でしょうか? 私が思うに、アメリカの外交政策は二重構造になっています。一方では、トランプ大統領がその日その日に言うきまぐれ。そしてもう一方では、彼の政権の一部をなしている恒常的なネオコン官僚機構です。

大統領は非常に衝動的です。私はいかなる戦略も、一貫したアプローチも見えてきません──それが不法移民の大量追放であろうと、国境の体系的な強化であろうと、ウクライナ戦争の早期終結であろうと、何であろうとです。どこに戦略があるのでしょう? どんなアプローチなのでしょう? どんな枠組みなのでしょう? 私には何も見えません。

だから、結局はこうなるのです──『今日か昨日、トランプ大統領が言ったことがすべて』。そして大統領本人はそれで十分満足しているはずです。そして、あなたが挙げた他の人々は……。最近ある人がこう言いました──『ピエロを雇えばサーカスになる』。まさにその通りで、あなたが名前を挙げた人々は、この広がるサーカスに参加しているのでしょう。

では、この“サーカスの団長”の一人、ヘグセス国防長官を紹介しましょう。日曜の朝(フォックスニュース)の発言です。

ヘグセス長官:「大統領は『イランに核兵器を持たせてはならない』という主張を本気でしています。20年間ずっと言い続けており、一貫しています──それは明らかです。しかし同時に大統領は、『交渉の場で解決できなければ、他の手段もある』とも真剣に言っています。──イランに核兵器を持たせないようにするために。我々は、そこまではしたくないと本気で思っています。でも、我々がフーシ派に対してやっていることや、この地域での活動は、『遠くへ、深くへ、大規模に』行動する能力があることを示しています。繰り返しますが、我々はそれを望んでいるわけではありません。しかし、必要であれば、我々はそうする(武力行使する)でしょう。イランの手に核兵器が渡るのを防ぐために。」

アメリカは、『遠くへ、深くへ、大きく』行って、フーシ派の力を削ぐことに成功しているのでしょうか?

米国が実際に言っているのは、『イランに核兵器を持たせてはならない』ではなく、『イスラエルが地域で核の独占状態を維持しなければならない』ということです。これが本当の狙いです。

フーシ派は依然として存在しています。彼らは爆撃による甚大な打撃に耐えてきました。それでも中東において米国が爆撃で成功を収めることはできません。昔、ある提督がこう言っていたと思います──『殺しまくっても成功はしない』と。まさにその通りで、我々は今まさに、『爆撃によって成功しよう』としている段階にあります。でも、それでは成功できません。

もしフォックスのアナウンサーがヘグセスに「なぜイスラエルは核兵器を持ってもいいのに、イランはだめなのですか?」と聞いたらヘグセスはなんと答えていたでしょうね。

おそらく、彼は言葉に詰まったでしょう。それは、彼がこれまでに対処したことのない問題だからです。それはアメリカの誰もが正面から向き合えない問いです。なぜなら、もしイスラエルが300発の核兵器を保有し、それを空から、陸から、あるいは海から即座に発射できる体制にあるとするなら、イラン、トルコ、サウジアラビア、エジプト、その他の地域諸国が核抑止力を持たずに生き延びることは不可能だからです。イスラエルが本気でそう望めば、他国を完全に消滅させることができてしまうのですから。

アメリカはその視点から物事を見ていません。アメリカの前提はこうです──「この地域で核能力を持つ権利があるのはイスラエルだけ」そしてそれは、「イスラエルだから」という理由で正当化されてしまっているのです。

さて、日曜の夜、フロリダの自宅から戻るエアフォースワン機内で、大統領は長時間にわたって発言しました。これから私が質問するのは次の点です──ウクライナ戦争は、いまやドナルド・トランプの戦争なのでしょうか?

記者:「ロシアによる、ウクライナでの『棕櫚の日曜日(Palm Sunday)』の攻撃について、何かご感想はありますか?」

トランプ:「ひどい出来事だったと思う。ロシアが間違いを犯した。この戦争そのものが恐ろしいものであり、そもそもこの戦争が始まったこと自体が権力の乱用だった。」

「これはバイデンの戦争だ。私の戦争ではない。私はまだ就任してから日が浅い。これはバイデン政権下で始まった戦争です。彼はウクライナに数百億ドルもの資金を提供した。あんなことは絶対に許すべきではなかった。」「私なら絶対に、あの戦争を起こさせなかった。私は今、それを止めようとしている。多くの命を救うために。ウクライナ人もロシア人も命を落としています。私が望んでいるのは、それを止めることだ。」

ところで、バイデン大統領がウクライナに対して約1650億〜1900億ドル(正確な数字は測定方法によって異なります)相当の軍事装備や現金を供与したのは、特定の法律に基づいています。そして、トランプ大統領のもとでも10億ドル相当の軍事装備がキエフに送られていますが、それも同じ法律に基づいており、その装備の送付は大統領の裁量に委ねられています。

質問:いまやウクライナ戦争はドナルド・トランプの戦争と言えるのでしょうか?

はい。唯一、彼の戦争ではなかったと言える可能性があったとすれば、それは就任の翌日に立ち上がって、あるいは大統領令などを出して、ウクライナへのすべての軍事支援を停止すると明確に宣言していた場合だけです。これが第一の条件です。

そして第二に、制服組であれ文民であれ、情報機関職員であれ関係なく、すべてのアメリカ人職員が48時間以内にウクライナから撤退するという命令を出していたならば、そのときだけ、これは彼の戦争ではないと言えたでしょう。しかし、彼はその正反対のことを行いました。そして、実質的に彼がこれまでに行ってきたことは、バイデン政権の政策を拡張しただけなのです。したがって、今では彼自身の戦争となってしまいました。

彼にはそれを止める方法が分かっているのです。そして、それこそが私が先ほど述べたことなのです。しかし、彼にとって常に問題だったのは、彼の知恵や直感に反する行動を正当化するような進言をする人物たちを、自らの周囲に置いていることです。

お話ししましょう──2022年4月、私のもとにマーラ・ラゴから(トランプから)電話がかかってきました。電話の向こうの声はこう尋ねてきました。「ウクライナで起きていることについて、あなたはどう思いますか?」

それはおそらく、2022年4月の最初の週だったと思います。私は「これは大惨事だ。すぐに止めなければならない」と言いました。

するとその声は「なぜだ?」と返してきました。

私は「このままでは、ロシアがウクライナを打ち砕くことになる」と答えました。

するとその人物はこう言いました。「でもこちらでは皆、ウクライナが勝っていて、ロシアが負けていると言っている。」

私はこう返しました。「まず第一に、それは間違いです。事実ではありません。第二に、我々にはその地域で戦争を行う利害関係がありません。我々が関心を持つべきなのは“平和”と“安定”です。そして、その地域に平和と安定をもたらすためにできることがあるならば、それこそが最優先されるべきなのです。なぜなら、ウクライナ東部には、我々が利害関係を持つような事情は何も存在しないからです。」

こうして私は、ゴルカやウォルツのような人々が常に側近におり、彼らが大統領の周囲を固め、「アメリカが何らかの形で直接関与しなければ何も起こらない」と説得しようとしていると考えています。たとえその戦争が、アメリカにとって戦略的に何の価値もないものであったとしてもです。

さらに言えば、彼らは「アメリカが解決策を押しつけなければ、弱く見られる」とも主張するのです。つまり、話は結局「どうやって“ボス”に勝ちを届けるか」という話に戻ってくるのです。スポーツとは違い、ウクライナで数百万の人々が生死をかけていることなのに。

そして、もし我々が慎重でなければ、この戦争はさらに拡大する可能性があります。それはプーチン大統領の望みによってではなく、むしろパリ、ロンドン、ベルリンで愚かな政治判断をしている人々のせいで起こりうるのです。

もちろん、それはリトアニア、ラトビア、エストニアの愚かな人々にとっては“喜ばしいこと”になるかもしれません。これらの国々は24時間以内に壊滅させられる可能性があるからです。

こんなナンセンスは、もう終わらせなければなりません。

トランプはNATOのリーダーなのです。事実上、NATOを指揮しているのです。ですから、彼こそが「終わりだ。我々は降りる。この戦争を支援することはもうない」と言わなければならないのです。彼がそう言った瞬間に、すべてが変わります。ゼレンスキーは職を失います。ゼレンスキーには未来がありません。彼の腐敗した犯罪的な政権は──おそらく世界で最も腐敗した国だとすら言われるその国の政権は──崩壊するでしょう。

だからこそ、今やこの戦争は彼(トランプ)のものなのです。それは悲劇的なことですし、不要なことでもあります。なぜなら、彼自身もこの戦争を望んではいなかったのです。しかし、彼はそれを止めていないのです。

とはいえ、大佐、トランプ大統領のウクライナに対する公式特使であるケロッグ将軍は、ある「解決策」を提案しました。私からすれば、それは狂気の沙汰としか思えませんが、彼の提案とはこうです──「ウクライナを、1945年の戦後ベルリンのように分割する」というものです。彼はこの3年間、岩の下にでも住んでいたのでしょうか? そんな解決策が、ラブロフ外相やウィットコフのような交渉担当者たちによって一瞬でも検討されると本気で思っているのでしょうか?

私の見立てでは、ケロッグ将軍の想定している対象モスクワではありません。彼は、西ヨーロッパ──先ほど述べた3つの首都(英国、フランス、ドイツ)──そしてここワシントンD.C.向けにこういうことを言っているのです。

彼のような人々は、「この戦争を続けることでアメリカも世界もヨーロッパも利益を得られる」と本気で信じているのです。しかし、そのような証拠はどこにも存在しません。この戦争は破壊的であり、すべての人に損害を与えています。我々アメリカにも、経済的にも戦略的にも大きな損害をもたらしているのです。

ここで、私たちがこの数年間で学んだ、非常に重要な教訓を二つ、立ち止まって考えてみていただきたいと思います。

第一に、我々の装備、組織、戦術は、今日存在する戦場では通用しないということです。私たちは、まったく異なる世界に生きているのです。現在の戦場──あるいは「バトルスペース(戦闘空間)」と呼ばれるもの──は劇的に変化しています。ロシアはそれに適応しました。ですが、我々アメリカはそうしていません。

そして、現在アメリカ軍の高位を占めている「天才的な軍事指導者たち」が、どのように作戦を遂行するかについて大きな決定を下してきました。その結果として、ウクライナ兵の死者はおよそ120万から150万人に達し、この戦争はウクライナにとって敗北に終わったのです。

そして今、ロシアはさらに西へと進軍し、自らの支配を強化する準備を整え、最終的にこの戦争を終わらせようとしています。

これが「第一の破局」です。

しかし、我々はその現実を受け入れようとしていません。もし私たちが、この戦場を客観的に見つめ、軍事的に何が起きたのかを正しく理解することができれば、我々がロシアとの実戦において、まともにやり合える立場にはまったくないということを、すぐに理解できるはずなのです。

二つ目のポイントとして、関税をご覧ください。関税は、我々の経済的な弱さを明らかにしました。

私たちはこの関税戦争に、ナヴァロ氏やおそらくルトニック氏のような人物が提唱した前提──すなわち、外国資本がアメリカ市場に流れ込むだろうという前提──に基づいて突入しました。しかし、実際には資本は流入していません。債券市場は壊滅的です。このままでは金利が5%に達するかもしれません。もしそうなれば、私たちはすべてを失うことになります。なぜなら、日本も中国も、他国の投資家も、アメリカ国債を売却しているからです。

こうした状況の中で、トランプ大統領は今なお「私は平和を望んでいる」と言いつつも、「他のこともやっているふりをする」、あるいは「強く見せるために別の行動を取る」といった間を行き来し続けています。

これは完全な、正常を逸した行為です。

中国は、アメリカで販売されているすべての抗生物質の成分のほぼ50%を製造しています。F-35──これは本日の『フィナンシャル・タイムズ』の記事から読んでいますが──F-35はアメリカ空軍の主力戦闘機であり、その製造には中国産のレアアース(希少金属)が不可欠です。そして中国は、アメリカ国債を約1兆ドル保有しています。まったく、誰も彼にこのような事実を伝えなかったのでしょうか? 中国からのすべての輸入品に対して145%の関税を課す前に?

さて、多くの人がマスク氏(イーロン・マスク)を好ましく思っていないのは承知していますが、彼はナヴァロ氏に対してかなり手厳しいコメントをしています。そしてまた、誰かの言葉を思い出します──誰の言葉だったかは忘れましたが──「ピエロを雇えばサーカスになる」という言葉です。

つまり、誰も事前に下調べをしていないように見えるのです。すべてが衝動的に進められており、皆が成り行き任せに行動しているのです──何よりも大統領自身がそうです。

そして、大統領はもっと有能で慎重に物事を調べる人物たちを、自分の周囲に置くべきです。歴史からの教訓はこうです──何か行動を起こす前には、得られるものと失うかもしれないものを常に比較して検討すべきなのです。特に戦争においては、それが何より重要です。

そしてたいていの場合、軍事的手段に訴えるのは賢明ではありません。なぜなら、一度それを始めてしまえば、すべてが制御不能になるからです。収拾がつかなくなるのです。次に何が起きるのかは誰にも分かりません。

それなのに、右派にも左派にも、爆撃を望んでいる愚かな人々がいます。私たちはこれまで何度、「なぜロシアがイランを支援する戦略的理由を持っているのか」について話してきたでしょうか? 人々はそれを理解していません。

もしあなたがロシア人であれば、南を見ればイランがあります。さらにその先にはカフカス地方があります。ロシアにとって、あの地域には友好的な国々があってほしいのです。あそこには平和と安定が必要です。なぜなら、あの地域はロシアにとって「柔らかい下腹部」──つまり防御の弱点だからです。それは、アメリカにとってのメキシコと同じくらい重要なのです。そうでしょう?

そして今、ロシアは、我々がネタニヤフ氏のためにイラン政権を破壊しようとしているのではないかと警戒しているのです。それでも足りないのでしょうか? 思い出してください、ネタニヤフ氏は「リビア方式」をイランに適用したいと考えています──つまり、イラン政府を転覆させたいのです。

そして、その後に何を据えるのでしょうか? おそらくロシアに敵対するような何かでしょう。それこそがロシアが最も嫌うことなのです。彼らは南部国境を守りたいのです。あの地域に平和と安定を望んでいるのです。

これは、本当に何度も繰り返すにはバカバカしすぎる話です。しかし、ワシントンには戦略的思考というものがまったく存在しません。すべてが傲慢と無知の暴走です。

数分前にマケイン上院議員の名前が出ましたね。私の友人で、あなたの熱心なファンでもあるトム・ウッズは、かつてこう言いました──「誰に投票しても、結局はジョン・マケインになる」と。

おそらくこれは、多くのアメリカ人が、大声で威圧的な態度を取る人物に簡単に感心してしまうからだと思います。他に説明のしようがありません。

アメリカには昔から「ボムズ・アウェイ・クラブ(爆撃至上主義クラブ)」のような人々が一定数存在してきたと私は思っています。彼らは「どこかで爆弾を落としている限り、アメリカは偉大な国である」と思い込んでいるのです。

しかし、実際にはそんなことはないということを、あなたも私も知っています。

私たちが本当に望むべきなのは、第二次世界大戦以前に持っていたような、「公平さと品位において世界に認められる名声」なのです。

第一次世界大戦が終わり、ヴェルサイユ条約の調印が進んでいたころ──これは信じがたい話かもしれませんが──シリアから来たアラブ代表団は、アメリカに「自分たちの国を統治してほしい」と願い出たのです。彼らはイギリスにもフランスにも望んでいませんでした。

その理由は極めて明快でした。我々アメリカは植民地主義国家ではなく、帝国主義者でもありませんでした。そして彼らは、アメリカを公平で正義ある国民だと見なしていたのです。

ですが、過去30年間にわたって我々が行ってきたことを見る限り、いまやシリアをはじめとするイスラム世界のどの国の人々も、アメリカ人が自分たちの土地に来ることを望んでいないでしょう。そう思いませんか?

最後にもう一つだけ言わせてください。

1914年に戦争が勃発したとき、イギリスとフランスの大使たちはすぐに会談し、お互いにこう言いました。「この戦争を誰よりも嫌がっているのは、ベルリンにいるカイザー(皇帝、当時ヴィルヘルム2世)だ。彼は戦争を決して望んでいなかった。」

実際、その通りでした。

そして、物語の残りは非常に単純です。彼には、その戦争を──迅速に、決定的に──始まる前に止める力が常にあったのです。にもかかわらず、それを実行しませんでした。

ドイツ軍がベルギーへ侵攻する直前、皇帝は参謀長にこう尋ねました。「将軍よ、これは止められるのか?」

その答えは、本来であれば「イエス」でした。なぜなら、皇帝こそが軍最高指揮官だったからです。しかし、将軍はこう答えました──「陛下、それは難しいかと思います。」

馬鹿げた話です。そして、今まさにトランプ大統領が考えるべきは、まさにこのことなのです。

なぜなら、現在の彼の立場は、単なる“普通の大統領”以上のものだからです。彼はいま、破滅の瀬戸際に立っています。そして彼にはそれを止める力があるのです。

必要なのはただ一言──「ノーだ。終わりにする。やめよう。」そう言えば済むことなのです。

(以上)


ケイトリン・ジョンストン:「イスラエルには自衛の権利がある」というスローガンは、ジェノサイドを正当化する言葉である Caitlin Johnstone: "Israel Has A Right To Defend Itself" Is A Genocidal Slogan

オーストラリアのジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン氏の揺るぎないヒューマニティをいつも尊敬しています。Xでは40万人を超えるフォロアーに向け彼女は毎日、帝国主義を否定する確かな声を届けています。きょうの投稿の訳をAIの力を借りてこに紹介します。米国のリベラルな政治家の代表格でさえジェノサイドを「ジェノサイド」と呼ぶことさえできず、声を上げる者に背を向け、「イスラエルの自衛権」を繰り返す。お前に人間の良心はあるのか。心が痛むことはないのか、と問いたいです。民主党も共和党も一緒、米国は超党派ジェノサイド帝国です。どこに希望を見出したらいいかわかりませんが、自分も声をあげる一人で居続けます。 @PeacePhilosophy
アレクサンドリア・オカシオ=コルテスと、バーニー・サンダース

「イスラエルには自衛の権利がある」というスローガンは、ジェノサイドを正当化する言葉である

バーニー・サンダースは、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスと共に行っている「寡頭制(オリガーキー)との闘い」ツアーにおいて、「イスラエルには自衛の権利がある」というフレーズを繰り返し口にしている。これは2025年現在、あからさまなジェノサイド擁護としてしか解釈できない。

イスラエルには、巨大な強制収容所と化した占領下の民衆に対して「自衛する権利」など存在しない。国際法の下でイスラエルに認められているのは、占領を終わらせる権利のみである。「イスラエルには自衛の権利がある」という言葉は、進行中のジェノサイドに兵器を供給し続けることを正当化したい者たちが使うスローガンに過ぎない。

ツアー中のある場面では、サンダースの演説中に「パレスチナに自由を」という旗が米国旗に重ねて掲げられた。すると警察がその参加者たちを強制的に排除し、旗を没収した。観客がブーイングを上げ、「フリーパレスチナ」と唱和し始める中、サンダースはそれを傍観しながらぎこちなく演説を続けた。

@zei_squirrel(2025年4月12日)

「今日ロサンゼルスの集会で、バーニー・サンダースはまたもや例のジェノサイド的シオニスト・プロパガンダ、「イスラエルには自衛の権利がある」という決まり文句を繰り返した。彼は、18か月も続くジェノサイドを認めようとせず、それを支え続けている。彼はもはや回復不能な倫理的怪物であり、まったき道徳的破綻者である。」

サンダースは、イスラエル支持をガザでのイスラエル政府の行動に対する時おりの批判と組み合わせながら語っているが、常に批判の矛先は現在のイスラエル指導部の「振る舞い」に向けられており、システムとしての人種隔離国家イスラエルそのものには決して触れない。

彼がこのように振る舞う理由は二つある。第一に、彼はトランプに対抗するための包括的な「ビッグ・テント」民主党連合を築こうとしており、その中には「ジェノサイドに反対する人々」と「ジェノサイドを容認する人々」の両方を取り込もうとしている。彼はジェノサイドを支持するリベラル層を怒らせたくないのである。

第二に、サンダース自身がシオニストだからである。他のリベラル・シオニストと同様、彼は現実には存在したことのないイスラエル像──ユダヤ人が支配する民族国家でありながら、優しく公正に振る舞い、パレスチナ人を殺したり虐げたりしないイスラエル──を信奉している。

しかし、そのようなイスラエルは幻想である。ナーニアのような空想の国に過ぎない。現実のイスラエルはそのような状態が生まれる可能性をあらゆる面で否定しており、建国以来一貫してパレスチナ国家の樹立を妨げるためにあらゆる手段を講じてきた。シオニズム国家と「平和と正義」の共存が可能であるかのように装うことで、リベラル・シオニストたちはジェノサイド的アパルトヘイト国家イスラエルへの武器供与を正当化する世論の形成に加担しているのである。

@zei_squirrel(2025年4月14日)

「ほんの数分前、バーニー・サンダースの集会で、反ジェノサイドの人々が「パレスチナに自由を」と書かれた旗を掲げたところ、警官たちが彼らを逮捕した。サンダースはそれを見ながら一言も発することなく黙認した。ちょうどその1分前、彼は「イスラエルには自衛の権利がある」と語っていた。 」

リベラル・シオニストがイスラエルの行動を擁護したいときは、イスラエルを「国家」として語る──たとえば「イスラエルには自衛の権利がある」という具合に。しかし、イスラエルを批判したいときは、すべてをネタニヤフ個人の問題にすり替える──たとえば「ネタニヤフの戦争マシン」という具合に。

つまり、イスラエルに同情を集めたいときは「国家全体」として語り、イスラエルの行為を非難せざるを得ないときは、責任を「一人の悪者」に押しつけるという構図である。こうすることで、イスラエル全体は「美徳ある支援すべき存在」であり続け、リベラル・シオニストは「ネタニヤフを批判した進歩的な人間」という衣を身にまといながら、イスラエルへの兵器供与を継続させることができる。

だが、これは完全なる虚偽である。ネタニヤフがイスラエルのジェノサイド傾向を作り出したのではない。イスラエルのジェノサイド的傾向こそがネタニヤフを生んだのである。ネタニヤフの政治的キャリアは、イスラエルに根深く存在する人種差別と精神的病理によって支えられてきた。

これは、オバマ時代によく見られた戦術の焼き直しにすぎない──すなわち、「進歩的」な言葉を巧みに使って、アメリカ帝国のもっとも破壊的な議題を推し進めるというやり口である。

言い換えれば、それは民主党らしさそのものである。

(翻訳以上)

ケイトリン・ジョンストン氏のアカウントはここです

Tuesday, April 15, 2025

シリア人ジャーナリスト、ケボーク・アルマシアン「シリアの新指導者は米国の手先であった」Kevork Almassian with Judge Napolitano : Who Controls Syria? Japanese Translation

4月14日(米国時間)のナポリターノ判事のチャネル、レギュラーゲストの一人である、アルメニアにルーツを持つシリア人ジャーナリスト、ケボーク・アルマシアン氏のインタビューは、前投稿のトルコの会議におけるジェフリー・サックスの発言の文脈的補足として理想の内容と思いました。アラビア語で情報収集し、西側の人間は知らない、メインストリームメディアではわからない情報が満載であり、シリア戦争の起源と本質が見えてくる、勉強になる内容です。Xで14万人のフォロアーYouTube「シリアナ・アナリシス」で10万人の登録者を持つアルマシアン氏の発信に注目したいです。彼も西側に都合の悪い真実を語るのでネットでは「アサドのプロパガンディスト」というようなレッテルを貼られているが話を聞いてみると理路整然としエビデンスに基づいた話をするジャーナリストであることがわかります。@PeacePhilosophy (青字の太字がインタビュアーのナポリターノによる質問。太字はサイト運営者による。シリアの現在の事実上の指導者アフマド・フサイン・アッ=シャラアについては戦闘名であったアブ・ムハンマド・アル・ジョラニを使っています。翻訳はアップ後変更することがあります)

   

 最近、私たちの共通の友人であり、この番組の常連であるコロンビア大学のジェフリー・サックス教授が、非常に簡潔に、かつ明確に、あなたと私、そしてこの番組を見ているすべての人々が長い間知っていたことを要約しました。長い話ですが、そのうち90秒を再生しますので、その後あなたの意見をお聞きしたいと思います。

「この戦争がどこから来たのかを理解することが重要だと思います。それはバシャール・アル=アサドから来たのではありません。ワシントンから来たのです。2011年にアサドを倒す決定がなされました。実際、それはエルサレムから来たものです。これは、イスラエル政府の25年以上にわたる願望でした。ネタニヤフのアイデアは、中東をイスラエルのイメージに作り変え、イスラエルに反対するすべての政府を倒すことです。彼にはそのための仲間がいました。それがCIAとアメリカ政府です。 だから、このシリアでの戦争はアサドの弾圧から来たものではありません。アサドの独裁から来たものではありません。この戦争は、2011年春にアメリカのオバマ大統領がアサドを倒すために出した大統領命令から来たのです。 私たちはこのプログラムに名前をつけています。それは「オペレーション・ティンバー・シカモア」と呼ばれています。アメリカは、この地域の他の国々と共に反乱軍の戦士、特にジハード主義者たちを訓練し、政権を倒すために送り込みました。これが混乱を生み出しました。」

サックス教授の言うことは正しいのでしょうか?

サックス教授には敬意を表したいと思います。なぜなら、彼がこのフォーラムで言ったことには非常に多くの勇気が必要だったからです。このフォーラムはトルコのアンタルヤで開催され、トルコはこの紛争の開始以来、重要な役割を果たしてきたからです。

もちろん、彼は「オペレーション・ティンバー・シカモア」について正しかったのですが、アサドを倒す決定は2011年ではなく2008年に下されたものです。というのも、2008年にフランスの元大統領サルコジがアサドをフランスの国慶日でパリに招待し、レッドカーペットで出迎えました。その後、アサドは他の世界の指導者たちと並んで舞台に立たされ、イスラエルの元首相オルメルトと握手させられそうになりました。

その時のビデオはYouTubeにあります—誰でも見ることができます—その中で、フランスの外務大臣やバン・キムン元国連事務総長、当時のカタール首長が、オルメルトとの握手をさせるために物理的に彼を押そうとしているシーンが映っています。しかしアサドは背を向けて、歩き去りました。

そして、私はこれが、西側諸国と地域の同盟国たちが「バシャール・アル=アサドはイスラエルとの関係正常化を受け入れないだろう」と認識した瞬間だと思っています。シリアの強みの一つは、パレスチナやレバノン—すなわち、ヒズボラ、ハマス、そしてイスラム聖戦—の武装闘争を支持していることでした。

したがって、彼らはシリアをこの「抵抗の軸」から切り離し、いわゆる「穏健なアラブ陣営」への参加を説得しようとしました。これにはサウジアラビア、カタール、UAEなど、アメリカやイスラエルと友好関係を持つ国々が含まれます。したがって、その決定はここで下されたのです。

そして、2011年にその決定は実行に移されました。これが「オペレーション・ティンバー・シカモア」と呼ばれるものです。これは秘密裏の作戦でした—秘密のものでした。議会では議論されることはなく、アメリカ国民はそれについて知りませんでした。アメリカは2011年から2017年の間、毎年10億ドルを使って、基本的に過激なジハード主義者たちを武装させ、訓練していました—アルカイダと関連のあるグループも含まれています。

私たちは、突然これらのジハード主義者たちがアメリカ製のTOWミサイルやスティンガーミサイルを使い、シリア軍の戦車を数十台も撃破したのを見ました—それはアメリカの武器によるものでした。また、サウジアラビアやカタールからの多くの資金提供もありました。

したがって、この場合のアメリカの支援は、7年間で約70億ドルに達しました。これはアフガニスタン戦争以来、CIAの最も高額な秘密作戦でした—その時もCIAは同様の支持を提供していました。

アメリカ合衆国がこれを行う動機は、イスラエルのために喜ばせること以外に何があったのでしょうか—いくつかの人々は、イスラエルはアメリカの同盟国であり、従属国だと言うかもしれませんが。

実際、アメリカがシリアに対してこの作戦を展開した主な理由はイスラエルでした。シリアはアメリカに対して安全保障上の脅威ではありませんでした。シリアはイラクと比べて小さな国であり、その軍も例えばイランよりも遥かに小さいです。しかしシリアは、例えばレバノンやパレスチナなどの同盟国を利用して、イスラエルとの間に緩衝地帯を作ろうとしました。イスラエルは「大イスラエル」のプロジェクトを持ち、シリアにまでその領土を広げようとしています。

シリアは同盟国を通じて自国を守るために、彼らに武器、弾薬、訓練を提供しました。ですから、ここでの主な考慮事項はイスラエルでした。そしてこれはジェフリー・サックス教授が言ったことでもあります—その決定はテルアビブから来たのだと。これは今日、再確認すべきことです。なぜなら、私たちが話している今この現在も、疑惑の段階ですが、シリアの自称大統領アブ・ムハンマド・アル・ジョラニが、2日前か昨日、アブダビでイスラエルの代表団と会ったという報告を受けているからです。

今、アサドがいなくなった後、シリアとイスラエルの関係正常化について再び話が出てきています。アサドこそがその正常化の障害でした。10月7日の事件をイスラエルはガザに対する野蛮な戦争を仕掛けるきっかけとし、ヒズボラの全指導部を一掃し、その後、トルコ側と協力してアサドに対する攻撃を再開し、シリア北部から始まった政権交代作戦を南部まで進める機会と見なしました。

もちろん、これは外国の情報機関によって支援されました。なぜなら、私は事実として知っていることですが秘密ではありません。シリア軍は通信システムを失いました。シリア軍の通信システムはハッキングされ、軍上層部からの命令とされるものを受け取ったのですがそれは軍上層部からの命令ではありませんでした。ハッキングされていたからです。

バラック・オバマが引き起こしたシリア戦争で何人が死亡したのでしょうか?

この戦争の間に60万人のシリア人が命を落としました。そのうちの三分の一はシリア軍の兵士と将校です。三分の一はオバマが訓練したジハード主義者たちです。そして三分の一は双方の民間人です。ですので、死亡率は非常に高いです。

しかし、この悲劇は死亡率を超えています。シリア人の70%が避難を余儀なくされました。数百万の国内避難民、数百万の難民がいます。ヨーロッパは200万人のシリア難民を受け入れました。トルコは約300万人を受け入れました。レバノンは約150万人を受け入れました。それは地域全体、そしてヨーロッパにとって壊滅的な結果をもたらしました。

今、ヨーロッパで右翼ポピュリズムのグループが問題視され、(リベラル側は)彼らを止めようとしているが、自分たちこそがこの事態を引き起こした一因です。シリア戦争とリビア戦争は、彼らの国々が壊滅した後、数十万人がヨーロッパに向かって行進した主な理由でした。そしてもちろん、それは彼らの未来と経済的生存にとっての問題でもあります。

現在、私は毎日シリア人と話しています。人々は1日1ドル以下で生活しています。こんな状況下で、どうして家に留まることができるのでしょうか?

コフィ・アナンが国連事務総長だったときに仲介した平和合意があったのでしょうか、もしあったなら、その合意はどうなったのでしょうか?

コフィ・アナンのシリアに関する平和計画は、2012年3月にアラブ連盟によって、そしてその後国連によって開始された6つのポイントからなる平和計画でした。ジュネーブで議論され、コフィ・アナンはシリア政府とシリアの反対派の間を仲介し、シリア政府の承認を得ました。

しかし、オバマ政権はこの平和合意を拒否し、オペレーション・ティンバー・シカモアの継続を承認しました。アメリカの国防情報局(DIA)は2012年にオバマ大統領に対し、アサドに対する反乱の推進力はイスラム主義者、つまりアル・カイダと関係のあるグループやムスリム同胞団だと警告しました。それを知りながらも、オバマは彼らに武器を提供し、地域の同盟国にシリアへの資金の流入を促しました。

裁判官、私たちは理解しなければならないのです、武器の脅威もそうですが、イデオロギーも重要だということを。アサドに対して戦った人々はタクフィリ派でした。彼らは他の宗教や宗派に対して非常に差別的であり、目的を達成するためにいわゆる殉教を信じていました。シリアでは自爆攻撃者、車爆弾などが何百回も見られました。これらはすべて、サウジアラビアとカタールのいわゆるイマームたちがファトワ(宗教的見解)を出し、政府支配地域に住んでいるかアサドを支持するシリア人を殺すことが許されていると言って正当化されました。これらのファトワはすべてアラビア語で公表されました。私はこれらのテレビチャンネルをフォローしていますが、西側の多くの人々はこのイデオロギー的要素について知らないことが分かります。これはサウジアラビアやカタールのような国々から来ており、アル・ジョラニの主要な支援者でもあります。

ナポリターノ:アル・ジョラニの経歴について、そして今日、シリアでどのようにして国家の指導者になったのかを教えてください。

アル・ジョラニは、2003年にイラクに行き、アル・カイダに加わりました。彼の専門は車両爆弾を作ることで、シーア派の地区にそれらを送り込みました。彼の手は血まみれであり、イラクでは彼に対する訴訟もあります。彼はこれらのテロ行為のためにイラクで指名手配されています。

その後、彼はキャンプ・ブッカやその他のCIAやペンタゴンが運営するイラクの刑務所に送られました。そこでジョラニはアブ・バクル・アル=バグダディと出会いました。偶然にも、二人は2011年に解放されました。一方はISISを結成し、その指導者になりました。もう一方のアル・ジュラニは、シリアのアル・カイダ(アル・ヌスラ)の指導者になりました。最初は協力関係にありましたが、後に政治的な対立や領土支配を巡る争いで分裂しました。ISISとアル・カイダは別々の組織となりました。

また、ジョラニの学歴も調べてみましたが、学校に通ったという情報は一切ありません。高校の卒業証書さえ持っていません。今では、彼はシリアの自称大統領です。彼がアラビア語を上手に書けるかどうかも分かりませんし、アラビア語以外の言葉も話せません。

いずれにせよ、彼はCIAの支援を受けてシリアの一つの県を10年以上支配してきました。CIAは彼を戦略上の資産と見なしていました。これはアメリカの元シリア担当特使、ジェームズ・ジェフリーがPBSで言ったことによって確認されています。ジェフリーはアル・ジュラニの軍がアメリカのシリア戦略の手先であったと述べています。アメリカは長い間、彼を利用し、訓練し、強力な軍を提供しました—高給で、アル・ジュラニの軍に参加するためには1,000ドルを支給されたのに対して、アサド政権下のシリアアラブ軍の兵士には50ドルしか支給されませんでした。ですから、アル・ジョラニはシリア政府に対して非常に大きな財政的優位性を持っていたわけです—アメリカから数十億ドル相当の武器も含め。アメリカの武器があるかないかで戦局は全く変わります。

過去の映像を見れば、アル・ジョラニの兵士たちがアメリカ製のTOWミサイル(対戦車ミサイル)を使ってシリア軍の戦車を破壊しているのが分かります。しかし今、シリア南部のイスラエルに占領されています。イスラエルは毎日、シリア領に進出しています。

アル・ジョラニの兵士たちがイスラエル占領軍に対してTOWミサイルを撃った場面を見たことがありますか? いいえ。ゼロです。

ここで、サックス教授がシリア戦争の結果について言ったことをお聞きください—まさにアメリカが望んでいた結果です。

「この戦争の結果は、2011年にCIAが望んだ通りで、ジハード組織がアメリカの支援を受けてシリアで権力を握ったことです。 私がこれを明確に言いたい理由は、この地域に平和が訪れることは、実際の外交に基づいた公的外交が行われるまでないということです。CIAの作戦に基づいた外交ではありません。 また、平和が訪れることは、イスラエルが中東全体の軍事化を止めるまでないでしょう。」

トルコはイスラエルの中東軍事化に抵抗するのでしょうか?

簡単な答えは「いいえ」です。しかし、確かにトルコとイスラエルはシリアでの影響力を巡って競争しています。彼らはシリアを「分け合って」います—シリアを勢力圏に分けています。先週、イスラエルとトルコはアゼルバイジャンで会談し、どこがイスラエルの勢力圏で、どこがトルコの勢力圏であるかを決めました。会談は順調に進んでおり、アゼルバイジャンの仲介で行われました—アゼルバイジャンはこの場合はイスラエルの味方です。

今、非常に重要なことをお話ししたいのです。会議でサックス教授に質問したパネルの司会者の名前はWadah Khanfar(ワダ・カンファール)で、彼はアル・ジャジーラの局長でした。2011年、ウィキリークスは彼が2003年のイラク戦争中、CIAの工作員と毎日会ってアメリカ人からアル・ジャジーラの方針や報道内容を変えるよう指示を受けていたことを示す文書をリークしました。

サックス教授に挑戦した2人目の人物は、アル・アラビー・アル・ジャディードの編集長で、名前はAbdul Hamid Siam(アブドゥル・ハミド・シアム)です。アル・アラビーも(アルジャジーラと同様)カタール資本です。ですから、このパネルには、サックスが含まれていて非常に嬉しいですが、実際にはサックスはあの爆弾発言をムスリム同胞団の集まりの前で行ったため、再びサックスを招待することはないだろうと私は疑っています。この二人のジャーナリストは、地域でのカタールのプロパガンダ機関の重要な一部です、アル・ジャジーラも含まれます。

カタールの役割は過小評価すべきではありません。カタールはアメリカの主要な非NATO同盟国です。カタールはシリアに数十億ドルを投資しました。もしCIAが70億ドルを使ったなら、カタールはそれ以上を使いました。これは元カタール外相によって確認されています。彼はアメリカからシリアのジハード主義者に資金提供するよう指示を受けたと言いました。彼はアル・カイダを支援していたことを認めましたが、ISISを支援していたことは否定しました。結局、誰がISISを支援していたかを議論することはできますが、地域でお金を持っているのは誰かが問題です。サウジアラビアとカタールです。そして、何百台ものISISのトヨタトラックが突然シリア市場に現れたとでもいうのでしょうか。そんなはずはありません。これはよく組織され、十分に資金提供された秘密作戦でした。情報は公開されています。

では、シリアの今後はどうなると思いますか? イスラエルとトルコに分割されるのでしょうか?

実際、すでに彼らはシリアを分け始めています。問題は、どのように分けるかです。中央政府と地域の自治地域を持つ連邦制度を作るのか、それとも国を分割してバルカン化するのか?

それはアル・ジョラニ次第です。もし彼が少数派を引き続き差別し迫害し(彼の民兵は「間違った」宗教に生まれたという理由だけで何百人もの市民を殺しました)その場合、人々はバルカン化を望むようになるでしょう。彼らはアル・ジョラニの政権下で生きたくはないでしょう。

しかし、もしアル・ジュラニが方針を変え、もし彼が彼のハンドラーたちから少数派を良く扱うよう指示を受けたなら—キリスト教徒、アラウィ派、シーア派、ユダヤ人、クルド人—シリアに連邦制度を築くチャンスはあります。

しかし、私はシリアがバルカン化されるという理論に傾いています。エルサレムのキリスト教徒とアラウィ派、クルド人—彼らは皆、アル・ジュラニのラタキアでの虐殺やりたい放題の後、メッセージを受け取りました。アル・カイダからある人を取り出すことはできても、アル・カイダをその人から取り出すことはできません。(アル・カイダの過激思想を持つ者の過激思想は看板をすげ替えても変わらないという意味)

ジェフリー・サックスは、これらの戦争がどこに向かうかについて予測をしました。

シリア戦争はイスラエルが促進してきた6つの戦争のうちの一つにすぎないからです。それは、レバノン、イラク、シリア、リビア、ソマリア、スーダンです。実際、私たちは2001年にウェズリー・クラーク(元陸軍大将、欧州連合軍最高司令官)からこのリストを受け取りました。彼はペンタゴンで「5年で7つの戦争を行う」という計画書を手渡されました。ネタニヤフにとって大きな不満である唯一まだ実現していない戦争とは、アメリカによるイランとの戦争です。

アメリカはイランを攻撃してネタニヤフを喜ばせると思いますか?

アメリカとイスラエルの目標は同じです:イランの完全な降伏と非武装化—その核計画だけでなく、弾道ミサイル、極超音速ミサイル、ドローン計画も含まれます。これらはアメリカの地域での覇権を脅かしています。

イランを攻撃するかどうかは深刻な問題です。私はイランが外交を選ぶと考えています、特にシリアを失い、ヒズボラが弱体化し、ガザが壊滅的な状況になった後です。イラン人は優れたチェスプレイヤーです。彼らは長期的な戦略を見ています。今のところ、彼らは戦争を選択肢とは見ていないと思います—先に攻撃されない限り。

しかし、アメリカはリビアスタイルの非核化を提案しています。リビアが非核化から10年後にどうなったかご存知ですか? 政権転覆と暗殺です。このことをイランの高官たちに繰り返すことは、彼らをさらに強気にさせ、その立場を過激化させるだけです。それはどんなメッセージでしょうか? 「リビアモデル」と言うのであれば、あなたは「10年後にイランの指導者を殺すつもり」と言っていることになります。

さて、話題を変えましょう、ケヴォルク。最近のアメリカのイエメンへの空爆はどれほど成功しましたか?

あまり成功していませんでした。イエメンはシリアと地理的・地形的に非常に異なります。イエメン人は非常に賢明な戦術的な軍事的ポジションを取っており、特に紅海の封鎖においては巧妙でした。

アメリカは戦闘機でこれを解決することはできません。彼らは地上部隊を送らなければなりません。しかし、それは非常に難しいことです。サウジアラビアはそれを試み、UAEも試みました。彼らはアフリカの傭兵を数千人イエメンに送って戦わせました。

もしアメリカがイエメンで方針を変えたいのであれば、大規模な地上戦力を送らなければならないでしょう。彼らはそれをするでしょうか? 私はそうは思いません。

ここでの重要なポイントはイランです。もしアメリカがイランに対して核合意を受け入れさせ、アンサール・アッラ(フーシ派)や他の地域のプレーヤーへの支援を減らすことができれば、それはイスラエルやアメリカの利益への脅威を大きく減らすことになります。

だから、アメリカは今、イランとの交渉を目指し、地域でのイランの影響力を削減しようとするでしょう。それはイエメン人の潜在能力をも低下させるでしょう。私はそれが現在のアプローチだと考えています。

(翻訳以上)

セットで読んでください。

ジェフリー・サックス「シリア戦争はオバマによるアサド打倒命令から始まった政権転覆作戦だった」


Monday, April 14, 2025

ジェフリー・サックス「シリア戦争はオバマによるアサド打倒命令から始まった政権転覆作戦だった」Jeffrey Sachs: CIA Operation Timber Sycamore Created Syrian Crisis (Japanese Translation)

 25年4月12日、トルコの「アンタルヤ外交フォーラム」(4月11日-13日開催)におけるジェフリー・サックス氏のシリア戦争についての発言が拡散されています。大変本質をついた指摘と思いここに日本語訳を紹介します。ガザにおけるイスラエルのジェノサイドを批判している人たちも、シリアのこととなると「独裁者アサドから反政府勢力が市民を救った」という西側メディアの物語通りに考えてしまいがちかもしれません。しかしこれが中東における、米帝国がイスラエルと結託して行ってきている政権転覆戦争の一部であるということを、サックス氏はエビデンスにもとづきながら指摘しています。(サックス氏が第一次トランプ政権の間、2018年にMSNBCに登場しシリア戦争へのCIAの関与を語っている動画もここで見られます。)

AI訳にサイト運営者が目を通し修正しました。強調は当サイト運営者によるものです。翻訳はアップ後修正することがあります。動画最後のQ&Aは割愛しています。

動画はこちら:

 

司会者:

これからジェフに質問します。
アメリカ合衆国は、シリアについて中立の立場をとっているのでしょうか?私の理解では、そうではありません。なぜなら、アメリカはシリア問題における最も重要なカード、すなわち制裁を握っているからです。たとえヨーロッパ諸国が制裁を緩和したいと望んだとしても、最終的に承認するかどうかを決定するのはアメリカなのです。彼らは中立的立場をとっているのではありません。シリアが4か月経った今でも制裁に苦しみ、私たちがあらゆる柔軟性を求めている現在の政府が、国民に日々の食料すら提供できないという事実は、我々が中立の立場にないことを意味しています。アメリカ合衆国のシリアにおける大戦略とは何でしょうか?また、現在のトランプ政権による展開は、あなたにはどのように見えますか?

ジェフ・サックス:
この戦争全体がどこから始まったのかを私たちが理解することは重要だと思います。
この戦争はバッシャール・アル=アサドから始まったのではありません。ワシントンから始まったのです。

2011年にアサドを打倒するという決定がなされました。実際には、それはエルサレムから来たのです。これは、25年以上にわたって続いてきたイスラエル政府の願望でした。

ネタニヤフの考えは、「中東をイスラエルの姿に作り変える。イスラエルに反対するあらゆる政府を打倒する」というものです。彼はその目的において、仲間を得ました。それがCIAとアメリカ合衆国政府なのです。

このシリア戦争はアサドの抑圧から始まったのではありません。アサドの独裁からでもありません。この戦争は、アサドを打倒するというオバマ大統領による大統領命令から始まったのです。

2011年の春に始まったこの計画には名前があります。それは「ティンバー・シカモア作戦」でした。アメリカはこの地域の他の国々と共に、反政府戦闘員、特にジハード主義者たちを訓練しました。その中には、最近政権を掌握した者たちも含まれており、政権を打倒させようとしたのです。

その結果、カオスが生じました。シリアでは14年にわたる戦争の中で、60万人が死亡しました。この戦争の結果とは、2011年当時CIAが望んでいたものであり、それはアメリカに武装されたジハード主義グループがシリアで政権を取るというものでした。

私がこの点をはっきりさせたい理由は、私たちがこの地域において真の外交、すなわちCIAの作戦ではない公的な外交に基づいた外交を行わない限り、平和は訪れないということを理解してほしいからです。

そしてまた、イスラエルが中東全体の軍事化をやめない限り、私たちに平和は訪れません。
なぜなら、シリア戦争はイスラエルが促進してきた6つの戦争のうちの一つにすぎないからです。それは、レバノン、イラク、シリア、リビア、ソマリア、スーダンです。

実際、私たちは2001年にウェズリー・クラーク(元陸軍大将、欧州連合軍最高司令官)からこのリストを受け取りました。彼はペンタゴンで「5年で7つの戦争を行う」という計画書を手渡されました。ネタニヤフにとって大きな不満である唯一まだ実現していない戦争とは、アメリカによるイランとの戦争です。そしてイスラエルはいまでもそれを引き起こそうとしています。

シリア戦争は中東全体の悲劇の一部でした。私たちはガザ、ヨルダン川西岸、レバノン、シリア、イラク、スーダン、南スーダン、そしてリビアにおいて悲劇を目の当たりにしています。私はこれらすべてをアメリカ合衆国政府とその同盟国イスラエルの責任に帰しています。

これらの戦争のどれもが起こる必要はありませんでした。これらはすべて「敢えてしかけた戦争」でした。これらはすべて、「どの政権がどの国を支配するかアメリカが決定する」という政権転覆作戦の発想から来ているのです。

私たちは、アメリカのような外部の帝国勢力がこの地域に条件を押し付けている限り、平和を得ることはできません。

この地域に平和が訪れる唯一の方法とは、この地域自身が自らの未来を決定することであり、外部勢力によって決められることではないのです。

そして、イスラエルはこれらの戦争を単独で行うことは決してできません。
これらはアメリカの戦争です。

アメリカは資金を提供しています。軍事的支援を提供しています。海軍の支援を提供しています。情報活動を提供しています。弾薬も提供しています。イスラエルは、アメリカの支援なしでは1日たりとも戦うことはできません。

イスラエルは、アメリカ合衆国による完全な作戦上の共犯なしには、ガザでのジェノサイドを遂行することなどできません。私が言っているのは、政治的な共犯ではありません。
私は、直接的かつ日々行われている作戦レベルの共犯のことを言っています。

これは終わらせなければなりません。この地域は、100年間分断され続けています。最初はイギリス帝国によって、次にアメリカ帝国によってです。

そしてそれは、今日に至るまで続いています。
私たちは、すぐ隣で現在進行中のジェノサイドを目の当たりにしています。今この瞬間、今朝に至るまでです。

人々が無差別に、堂々と殺されています。
それは、アメリカ合衆国がそのための手段を提供しているからです。

これが、現在シリアで起きていることなのです。
アメリカは中立なのでしょうか?とんでもありません。
アメリカは、主要な当事者なのです。

それに、私はよく知っています。
2012年、国連事務総長の潘基文氏が、元事務総長のコフィ・アナン氏をシリア和平特使に任命したことを、私は直接知っています。

私はコフィ・アナンを心から尊敬しています。私は潘基文も尊敬しています。私は彼ら二人のために働いてきました。

コフィは、2012年に和平合意を取りまとめました。彼は、シリアにおいて和平を整えたのです。

それがなぜ実現しなかったのか、お分かりですか?
全ての関係者が和平に同意していたのに、アメリカ合衆国が反対したからです。

アメリカ合衆国はこう言いました。
「バッシャール・アル=アサドが即座に辞任しない限り、和平はない」と。

他の当事者たちは言いました。
「いや、それを一方的に決めることはできません。もしかするとプロセスが必要かもしれませんし、合意された選挙があるかもしれません。2年、あるいは3年のプロセスになるかもしれません」と。

アメリカはこう言いました。
「いや、アサドはあらゆる合意の初日に去らなければならない。そうでなければ、我々はそれを拒否する」と。

その結果、コフィ・アナン氏は交渉によって和平合意をまとめた後、その職を辞任しました。

そしてそれ以降、50万人が命を落としました私たちは、このような犯罪行為を常態化させるべきではありません。

この地域は、過去30年間ずっと戦争状態にあります。いや、実際には六日戦争(1967年の第三次中東戦争)以来、少なくとも57年間にわたって続いていると言うべきでしょう。

なぜなら、国際法に対する誠実な説明責任がなく、誠実な外交が存在してこなかったからです。全てが軍事化一辺倒だったのです。

そして、私たちはすぐにでもこの地域に平和をもたらすことができます。

私の考えでは、必要なのはただ一つ。
アメリカ合衆国が、パレスチナを国連の194番目の加盟国として認めることへの拒否権を撤回することです。

その一点が満たされれば、この地域全体が関係を正常化し、地域全体にわたる戦争は終わるでしょう。

しかし、イスラエルはアメリカの政策を支配してきました。イスラエルは「ノー」と言います。イスラエルは「大イスラエル」を望んでいます。イスラエルは、シリアをイスラエルにしたいのです。レバノンをイスラエルにしたいのです。ヨルダン川西岸をイスラエルにしたいのです。東エルサレムをイスラエルにしたいのです。ガザをイスラエルにしたいのです。

これを阻止しないかぎり私たちは平和を得ることはできません。

ですから、「アメリカは中立なのか?」と問うならば、答えは「もちろん違います」です。

アメリカはこの全戦争の主要な推進者であり、過去14年間ずっとそうだったのです。

(日本語訳 以上)

この後の投稿もセットで読んでください。

シリア人ジャーナリスト、ケボーク・アルマシアン「シリアの新指導者は米国の手先であった」


Sunday, April 13, 2025

ブライアン・バーレティック「トランプの関税政策は、より広大な世界戦争を起こす前の米国自身のデカップリングではないか」(New Eastern Outlook より翻訳)Brian Berletic: "Worst Case Scenario: Trump’s Tariffs Walling US Off Ahead of Wider World Conflict" (from New Eastern Outlook) Japanese Translation

Brian Berletic さん
元海兵隊員、現在はおもにユーラシアのジオポリティクスを論じる評論家として活躍しているブライアン・バーレティック氏はずっと日本語で紹介したいと思っていた人です。The New Atlas という YouTube チャネルで米国・西側帝国の世界規模の侵略戦争を告発し続けている、良心的な米国人知識人の一人として尊敬しています。かつて海兵隊員として沖縄に駐留していたことがあり、そのときに住民が基地に反対する様子を見たり、米軍が住民に犯罪を犯す有様を見て、米軍は「守る」ためにいるのではないという気づきが始まったといいます。彼がレギュラー執筆者として記事を書いている New Eastern Outlook から25年4月8日付の記事の日本語訳を、許可を得て紹介します。(翻訳はAIの助けを借りた後にチェックしました。文中の強調は当サイトの運営者によるものです。翻訳はアップ後変更することがあります。)

トランプ関税政策が騒がれていますが、これは中国の大国化を受けたオバマ政権の「Pivot to Asia」以来の、米国超党派の中国封じ込め作戦の延長線上にあるものであることを把握することが大事と思います。また、バーレティック氏は、トランプ関税政策は、米国の企業・金融勢力の強化や中国の経済的封じ込めだけではなく、自らがしかける戦争行為によって破壊されるであろう世界経済から米国だけを切り離し世界覇権として生き延びようとする計画なのではないかと指摘しています。これに、多極化が進む米国外の世界はどう対応するかと問うているのです。特に米国からハシゴを外されている欧州や、日本を含むアジアの「同盟国」だったはずの国々がどのような針路を取るのかが試されているのではないかと思います。数々の説得力ある文書や情報を用いたバーレティック氏の観察にはこれからも注目していきたいと思います。@PeacePhilosophy 

元記事:

Worst Case Scenario: Trump’s Tariffs Walling US Off Ahead of Wider World Conflict (April 8, 2025,  New Eastern Outlook

最悪のシナリオ:トランプの関税政策は、より広大な世界規模の戦争を起こす前の米国自身のデカップリングではないか

(タイトルは文の趣旨にもとづき意訳しています)

ブライアン・バーレティック

米国が世界各国を対象に大規模な関税措置を導入したことに対し、経済学者地政学の専門家たちは、ホワイトハウス内部の能力不足によるものと見なされる、一見非合理で自滅的とも思える対応に強い驚きを示している。


実際のところ、これらの関税は、外交・通商・経済政策における超党派の中核的な柱であり、最初は前回のトランプ政権下で導入され、その後のバイデン政権においても継続され、さらには拡大され、そして現在のトランプ政権のもとでさらに拡大されているのである。

広範な関税政策は、ドナルド・トランプ大統領自身の発想や、彼の政権内の人物によって突如生まれた思いつきではなく、選挙で選ばれていない企業・金融勢力によって明確に掲げられた政策であり、そうした利害団体の資金によって運営されるシンクタンクの文書、たとえばヘリテージ財団の「プロジェクト2025」の第26章「通商政策」などにおいて詳細に記されている。

この政策は、米国の再工業化を図る健全な計画でも、貿易赤字の実質的な是正策でもなく、むしろ「世界の支配的超大国」としての米国の地位を維持することを目的としている。

同文書では、以下のように述べられている:

米国がその世界的地位を維持し、それによって祖国と我々自身の民主的制度を最善の形で守るためには、製造業および防衛産業基盤を強化すると同時に、世界各地に分散されたサプライチェーンの信頼性と強靭性を高めることが極めて重要である。これを実現するには、現在アメリカの多国籍企業によって海外に移転されている生産の相当部分を国内回帰させる必要がある。

一見すると、これは米国経済の全般的な再工業化を示唆しているように思われるが、実際にそれを実現するために必要な施策――たとえば、包括的な教育改革や、インフラおよび産業への大規模な国家投資といった――については、ほとんど真剣に言及されていない。

「プロジェクト2025」の文書の中で記され、現在の米政権の下でさらに実施されている政策は、米国の経済を再構築するというよりも、むしろ世界の経済活動――とりわけ中国の貿易および産業――を妨害し、海外の産業を米国へと移転させることを目的としている。

その一例が、半導体メーカーであるTSMC(台湾積体電路製造)であり、同社はアメリカ本土アリゾナ州への施設移転を強いられた。だが、劣悪なインフラ、脆弱なサプライチェーン、そして熟練労働者の不足により、予算およびスケジュールの大幅な超過が発生し、加えて、米国人労働者では対応できない業務を担わせるために、台湾から数百人規模の労働者を米国へ移動させる必要が生じている。

同様に、2014年に米国が仕組んだウクライナの選挙で選ばれた政権の転覆と、それに続くロシア連邦との代理戦争の誘発を発端として、米国および欧州による制裁、さらにはノルドストリーム・パイプラインの意図的破壊により、ロシアからの安価な炭化水素資源の供給は大きく損なわれた。

その結果、欧州の製造業は米国への移転を余儀なくされており、ドイチェ・ヴェレ(DW)は2023年の記事「ドイツ産業は米国に移転しているのか?」の中で次のように述べている:

「一つは、地政学的緊張の高まりである。多くのドイツ企業は米国を『安全な港』と見なしている。他の理由としては、比較的低いエネルギーコストと、『インフレ抑制法』に基づく非常に手厚い補助金が挙げられる。」

長期的には、米国による関税政策と地政学的破壊工作の組み合わせによって、アジアや欧州といった世界各地から産業が米国へと移転させられるにつれ、不十分なインフラ、サプライチェーン、人材資源、そして教育・医療制度に対する米国の構造的負担は、今後さらに増大していくことになる。

同様に、2014年に米国が仕組んだウクライナの選挙で選ばれた政府の打倒と、それに伴って引き起こされたロシア連邦との代理戦争を契機として、米国および欧州によって科された制裁、さらにノルドストリーム・パイプラインの意図的な破壊により、ロシアからの安価な炭化水素供給は深刻な打撃を受けた。

この結果、欧州の製造業は米国への移転を余儀なくされており、ドイチェ・ヴェレ(DW)は2023年の記事「ドイツ産業は米国へ移転しているのか?」において、以下のように述べている:

ひとつは地政学的緊張の高まりである。多くのドイツ企業は米国を「安全な避難港」と見なしている。
他の理由としては、比較的低いエネルギーコストと、「インフレ抑制法」に基づく非常に手厚い補助金がある。

長期的に見れば、米国の関税政策と地政学的な妨害工作の組み合わせによって、アジアや欧州のような地域から米国へと産業が移転させられるにしたがい、米国の不十分なインフラ、サプライチェーン、人材資源、さらには不備のある教育・医療制度に対する負荷は増す一方となるであろう。

 仮に、産業移転のために必要な上記の基礎的要素すべて、またはいずれかに十分な資源が投入されたとしても、その整備が追いつくまでには何年もかかることになる。

短期的には、過去8年にわたって実施されてきた関税の課税および貿易戦争の誘発という政策が示してきたように、すでに深刻化している生活費危機がさらに拡大する見込みであり、食料品、家賃、燃料、医療、教育に苦しんでいる数千万人の米国民の生活に直接的な影響を及ぼすことになる。

ワシントンの執着の的は「MAGA(米国を再び偉大に)」ではなく、中国である。

米国が欧州の産業を弱体化させ、解体することに成功した事例は、より大規模かつ野心的な世界規模の政策を推し進めるうえでの指針となっている可能性が高く、最終的には中国を対象とした戦略へとつながっている。

「プロジェクト2025」では、中国に関して特に取るべき一連の措置が列挙されている。その中には以下のような内容が含まれている:

中国製品すべてに戦略的に関税を拡大し、関税率を「メイド・イン・チャイナ」製品を排除するレベルにまで引き上げること。さらに、重要な医薬品などの必需品へのアクセスを失うことのないよう、計画的かつ段階的にこの戦略を実行すること。

そしてまた、次のような提言もある:

TikTokやWeChatといった中国のソーシャルメディアアプリをすべて禁止すること。これらは重大な国家安全保障上のリスクをもたらし、米国の消費者をデータや個人情報の盗難にさらしている。

さらに、以下のような措置も求められている:

医薬品、半導体、レアアース、コンピュータ用マザーボード、フラットスクリーン・ディスプレイ、軍用部品など、国家安全保障を脅かす可能性のある供給網に関し、中国(共産党体制)への依存を体系的に削減し、最終的には完全に排除すること。

また、次のような提案もなされている:

スパイ行為および情報収集活動を防止するために、中国人学生や研究者へのビザ発給を大幅に制限または停止すること。

これらはいずれも、現在のトランプ政権下においてすでに米国の政策となっているか、あるいは急速に政策へと変換されつつあるものである。

中国の製造基盤は、医薬品や日用品から建設資材、大規模インフラ事業に至るまで、あらゆる製品を世界中の国々にとって手の届く価格で供給可能にし、これにより世界全体の生活水準は急速に向上してきた。世界は総じて、中国との協力を機会として捉えている。

中国が米国にとって脅威と見なされているのは、その人口規模(G7諸国の合計を上回る)、依然として拡大を続ける巨大な産業基盤、そして世界水準のインフラを有しているからであり、それは真の意味での国家安全保障上の懸念ではなく、「世界の支配的超大国」としての米国の地位を維持するという観点からである――これは、「プロジェクト2025」および他の企業・金融独占勢力が支援する政策文書に明記されている通りである。

このような文書では、中国が「深刻な存続上の脅威(existential threat)」であると宣言されている。ただし、それは米国という国家や米国民に対する脅威ではない。むしろ中国との協力によって、他の国々と同様に米国も利益を得られるはずである。しかし、中国製品やサービス、さらにはラテンアメリカからアフリカ、ユーラシア全域に至るまで、中国と共に台頭しつつある諸国の競争力に直面し、もはや太刀打ちできなくなっているのが、これらの文書が真に守ろうとしている、米国内に深く根を張る企業・金融独占勢力なのである。

最悪のシナリオ

世界各国に対する米国の関税強化について、最も即座に思い浮かぶ、そして直感的な説明としては、国内に深く根を張る企業・金融独占勢力が、増大する海外からの競争から守られること、あるいは世界的に拡大する中国の経済的影響力を封じ込めるという具体的な戦略が挙げられる。だが、多くの人々が見落としている、より深刻な可能性が存在する――それは、米国が、経済的手段と実際の戦争行為を組み合わせることで意図的に破壊しようとしている世界経済から、自らをデカップリング(切り離す)しようとしている可能性である。

関税が米国の生活費危機に与える影響は、すでに明白であり、かつ拡大しつつある。そしてその代償は、政治的、社会的、経済的にきわめて大きく、持続不可能である。そのため、それらの犠牲が容認され得るとするのであれば、重大な衝突の到来を見越した準備以外には、ほとんど理由が考えられないのである。

もし米国が、現在の世界経済体制を意図的に破壊する、あるいは複数の「敵対国」と見なす国々との大規模戦争に備えているのであれば、世界経済から事前に――かつ米国自身の都合で――自らを切り離すこと、とりわけ中国へのサプライチェーン依存(それは米国の軍産複合体全体にも及ぶ)を解消することは、必要不可欠な前提条件となるであろう。

上述のTSMC(台湾積体電路製造)がアリゾナに工場を建設しているという事例は、戦争によって台湾本島のTSMC施設が破壊される可能性に備える意味で、米国がリスクを回避しようとしている措置であることは明らかである。米国の政策立案者たちは、仮に中国が同施設を破壊しなかった場合であっても、米国がそれを自ら破壊し、中国による利用を阻止すると公然と発言している。

米陸軍戦争大学が2021年に発表した論文『壊れた巣:台湾侵攻を中国に思いとどまらせるには(Broken Nest: Deterring China from Invading Taiwan)』では、次のように述べられている:

…米国と台湾は、武力によって台湾が奪取された場合、台湾の維持が魅力的どころか極めて大きな負担となるよう、標的を定めた焦土作戦を計画すべきである。この目的は、世界で最も重要な半導体メーカーであり、中国にとっても最重要の供給元である台湾積体電路製造(TSMC)の施設を破壊するという脅しを通じて、最も効果的に実行できる。

これは、最近の過剰とも言える関税政策によって促進されている、より広範な準備の縮図をなしているのである。

中国を標的とした関税およびそれに付随する政策は、将来的に軍事衝突が始まった際、米国自身への影響を最小限に抑える役割を果たすだけでなく、事前に中国を弱体化させる手段としても機能すると考えられている可能性がある。

これがいかに過激に聞こえるとしても、現在すでに米国は、アジア太平洋地域において対中国の大規模な軍備増強に着手していることを忘れてはならない。加えて米国は、数年にわたり、中国の「一帯一路」構想(BRI)に関連するインフラ、中国人技術者、およびそれらを保護する現地の治安部隊を標的とした、テロリストおよび武装勢力を利用する形での非公式かつ宣言なき代理戦争をユーラシア全域において展開してきた。

米国は、近い将来に中国との軍事衝突が発生することを想定し、特化した新型兵器の開発および配備を進めている。さらに米国は、中国軍そのものと中国の海岸線や国境付近で直接衝突するのではなく、中国の海上輸送を世界規模で標的とするという、非常に特異なタイプの戦争への準備を進めているのである。

この構想に関連し、オバマ政権、トランプ政権(2期)、そしてバイデン政権に至るまで、複数の政権によって重要な政策措置が講じられてきた。その中心にあるのが、中国の海上輸送を対象とする世界的な封鎖である。

オバマ政権による「アジアへの軸足移動(Pivot to Asia)」は、長年にわたる「対テロ戦争」に適応した軍隊編成から、同等あるいはそれに近い競争国との戦争に対応可能な戦闘部隊への再編成を開始するものであった。第1次トランプ政権下では、米国は軍備管理条約からの離脱を行い、これによって対弾道ミサイル防衛から中距離・長距離ミサイルに至るまで、条約違反に該当する兵器の開発およびアジア太平洋地域への配備が可能となった。

バイデン政権期において、米海兵隊全体は、それまでの統合兵科による遠征戦闘部隊から、アジア太平洋地域における対艦作戦に特化した部隊へと完全に再編された。この再編では、戦車および歩兵部隊が対艦ミサイル部隊へと置き換えられ、同等または準同等の敵勢力との紛争を想定した沿岸機動および制海作戦に対応するために編成された「海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiments)」が創設された。

また、米空軍もバイデン政権下で戦略の導入を開始し、それはトランプ政権下においても継続されている。その戦略とは「機動戦力運用(Agile Combat Employment, ACE)」であり、これは米空軍の航空戦力をアジア太平洋地域に多数の空軍基地へと分散させることで、武力衝突が発生した場合に中国によって米空軍の戦力が標的とされ、破壊されることを困難にすることを目的としている。

ここ数か月の間だけを見ても、アジア太平洋地域における米軍の増強に加え、現トランプ政権は、世界的な海上輸送を封じ込めるための抜本的な措置を講じている。中東における米軍の展開を拡大し、紅海およびホルムズ海峡を標的とした軍事力の集中、ロシアおよび中国の海上輸送を口実としたグリーンランドの併合の可能性、そして中国を牽制する目的でのパナマ運河の掌握などが挙げられる。

米国経済を世界経済の意図的な崩壊から遮断するための世界規模の関税政策が極端なものであるのと同様に、中国との戦争に特化して米軍全体を再編し、世界各地の重要な海上チョークポイントを掌握するという行動もまた同様に過激であり、こうした政策は、世界秩序の破壊を意図的に引き起こす戦略の一環としてのみ合理性を持ちうる。

歴史上、終末的な衰退局面にある帝国は、危険なまでの焦燥と絶望に駆られるものであった。21世紀において、米国はまさにそのような現代の帝国であり、核兵器を備え、世界規模の軍事力を有し、世界経済の中枢を担う手段を掌握している。その手段は、自らが長年君臨してきた国際秩序の座を手放すよりも、むしろ世界システム全体を破壊することを選ぶ可能性すら秘めている。米国の目指すところは、この「統制された解体」を生き延びたうえで、他国に先んじて再び「世界の支配的超大国」としての地位を確立することにある。

これに対し、他の国々、特に新興の多極化世界秩序を志向する国々にとって必要となるのは、抑止力、代替的な経済・通商・金融システムの構築、そして米国による経済戦争および実際の軍事攻撃から自国の経済と国民を防衛するための「防壁」戦略である。

米国は、同盟国とされる国々の国民を含め、自国民に対しても長期的な経済的・社会的・政治的苦難を課す準備を進めている。米国内における生活費危機は今後さらに悪化するであろう。米国は、自国および国外における経済的苦痛と混乱を、新興の多極化世界よりもよく耐え抜くことができると見込んでいる。多極主義の存続は、その見込みが誤りであることを証明できるかどうかにかかっているのである。

ブライアン・バーレティックは、バンコクを拠点とする地政学研究者・執筆者である。

原文はここを参照。

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Thursday, April 10, 2025

米国のイラン敵視の歴史:ジェフリー・サックス The U.S. threatens war against Iran: Jeffrey Sachs with Judge Andrew Napolitano

前回に続き、アンドリュー・ナポリターノ判事の、Judging Freedom にようこそ。2025年4月8日火曜日(米国時間)、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授を迎えた対談の訳を紹介します(一部省略、簡素化しています)。今回は米国がイスラエルのために行おうとしている対イラン戦争についての歴史的観点も含めたコメントをしています。トランプ関税については4月9日の「(中国以外)90日間停止」のニュースが入る前のコメントと承知ください。

ナポリターノ:
アメリカがイエメンのような無力な国を爆撃することに、軍事的・政治的・地政学的な利益があるのか、お尋ねしたいと思います。

そして今朝、アメリカ合衆国大統領自身が投稿した動画を目にしました。30人から40人ほどの男性たちが輪、あるいは楕円形の列を作り、ラマダンの断食明けの行事を始めようとしている場面です。何が起きたかは、検閲の都合でお見せできませんが、その瞬間、ピート・ヘグセスによる爆撃が彼ら全員を粉砕しました。この「投稿」「自慢」「殺戮」に、いったい何の意味があるのでしょうか?

サックス:
明らかに、そこに得られるものは何もありません。あるのは、アメリカが中東で繰り広げている高額で、残酷で違法な、そして永続的な戦争を、イスラエルのために延命させることだけです。

この戦争は、北アフリカ(リビア)、東アフリカ(スーダン、ソマリア)から、東地中海(ガザ、西岸地区、レバノン、シリア、イエメン)へと広がっており、今週ワシントンを訪問したネタニヤフの意図としては、さらにイランへと拡大しようとしています。

これは20年以上にわたって続く地域戦争です。そしてそれは、イスラエルがパレスチナ人に対して支配の政策をとっており、平和が存在しないために続いているのです。その結果、パレスチナ人への支持が地域全体に広まり、軍事的支援も含まれるようになっています。

ネタニヤフの方針は、これまでにも話してきましたが、交渉もしない、妥協もしない。ただ「粉砕する」のみです。標的となるのは、パレスチナ人だけではありません。リビア人、ソマリア人、スーダン人、レバノン人、イラク人、シリア人、そしてイエメン人――パレスチナの大義を支持する可能性のあるすべての人々です。

彼らにテロリストのレッテルを貼るのは簡単です。何と呼ぼうと自由ですが、実際にテロを行っているのはイスラエルであり、今まさにガザやパレスチナで行われているのは「ジェノサイド(大量虐殺)」です。これは、妥協しない反対勢力があるから起きているのではなく、イスラエルが「大イスラエル」の支配を絶対的に求めているからなのです。

これは、宗教的な欲望と世俗的な野望が入り混じったもので、ネタニヤフが率いる過激で極端な政権の思想であり、彼はこのビジョンを30年前から持ち続けてきました。

そして、我々アメリカはその共犯者です。トランプ大統領は、ネタニヤフ訪問の際に再びゴーサインを出しました。そのネタニヤフは、国際刑事裁判所(ICC)によって戦争犯罪および人道に対する罪で逮捕状が出されている人物です。

ここ数日でも、援助職員たちがイスラエルによって故意に殺害されるという残虐な事件が起きています。誰もそれを止められません。

ですから、「何の利益があるのか?」と問われれば、こう言うかもしれません――「フーシ派が我々を攻撃しているではないか」と。しかし彼らは、パレスチナの大義を守るために戦っているのです。ハマスもそうです。彼らが攻撃しているのは、同じくパレスチナの大義を守るためです。

問題の核心はここにあります。イスラエルは、「パレスチナの大義など存在しない」と言っているのです。「我々はあの者らを粉砕する。殺す。破壊する。民族浄化を行う。何十万人もの入植者を送り込み、ヨルダン川西岸を植民地化する。」と。

もちろん、そんなやり方で平和が訪れるはずがありません。でも、それが本当にアメリカの国益なのでしょうか?

永遠に続く戦争?国家を破綻させ、国際的に孤立させ、世界中との関係を絶ち、人々にこの状況が何であるかを見抜かせる――すなわち、現在進行中の抑圧と戦争犯罪への共犯であるという現実を。

これは非常に悲しいことです。なぜなら、戦争は政治的な問題を解決することはできません。ただ多くの人々を殺すだけで、根本的な政治的課題は解決できないのです。

ナポリターノ:

ダグラス・マクレガー大佐は、指摘しています。トランプ大統領がイランに突きつけた要求は以下の通りです。

A. 核施設の解体――これは、彼自身のCIAやDIA、他の諜報機関によって「存在しない」と報告されているものです。

B. 弾道ミサイルやその他の攻撃的兵器の解体。

こうした要求は、イランを主権国家ではない、ある種シリアのような状態にまで追い込むもので、「交渉の余地がない要求(non-starters)」です。

ですから私は思うのです。これらの要求は本当に目的なのか? それとも、ネタニヤフが熱望している戦争を始めるための単なる口実なのか?

サックス:
理解しておくべきなのは、この30年間のアメリカ外交政策の傲慢さです。相手と交渉などしない――爆撃し、脅し、アメリカの覇権が常に勝つと信じ込む。

イランの場合には、核計画を終結させ、その見返りに制裁を解除するという合意がありました。それが、2016年にアメリカを含む複数の国々によって締結された「包括的共同行動計画(JCPOA)」です。

ところが、ドナルド・トランプが2017年に大統領に就任すると、彼はこのJCPOAを即座に破棄しました――ちなみにそれはイスラエルの強い要請によるものでした。イスラエルはJCPOAによる非核化に関心があったわけではなく、イランを「7番目の戦争相手」にすることに関心があったのです。これは、我々が何度も議論してきたリストに載っていた国の一つです。イスラエルは、アメリカがイランを爆撃し、名目上は破壊することを望んでいます。

これは、朝鮮民主主義共和国(朝鮮)と起きたことともよく似ています。1990年代後半、クリントン大統領は朝鮮との間で非核化のための合意を交わしました。しかしアメリカは自らの義務を果たさず、朝鮮も合意の条項に違反しました。そうした状況で本来取るべき対応は、合意に立ち返り、それを再確認し、強化することです。

ところが、次に政権を取ったジョージ・W・ブッシュ大統領は、現代アメリカ史において最も破壊的な外交官の一人、ジョン・ボルトンを任命しました。ボルトンはこう言ったのです。「強硬路線をとれ。朝鮮を脅し、言うことを聞かせろ。」

さて、結局我々は何を得たのでしょうか?核を保有する朝鮮です。核兵器の備蓄と運搬能力は増え続けています――それは、我々が交渉による道を拒んだからです。

そして今、同じことが再び起ころうとしています。トランプはこう言うかもしれません――「そうだ、交渉しよう。ただし、我々の条件を受け入れなければ破壊する」と。そんなセリフは何度も聞いてきました。これがアメリカ式のやり方であり、何度も何度も失敗してきた方法です。

なぜかアメリカの指導者たちは、「相手を徹底的に軽蔑し、侮辱することが成果を生む」と信じているようです。しかし、これはまったくの逆です。私たちが日常生活で他者と良好な関係を築こうとする際にとるべき態度とは正反対です。隣人が気難しい人であったとしても、そんなふるまいは逆効果です。真の合意に達するには真逆のアプローチが必要なのです。

何が起きるかは誰にも分かりませんが、非常に高い確率で交渉は不信感の中で崩壊するでしょう。そしてその先に何が起こるかは、もはや神のみぞ知る状況です。戦争か? 核武装したイランか? それすら分かりません。

しかし合意に達するためには、両者の間に「信頼を築く」ことが不可欠です。核開発計画を終了させる、あるいはすでにほぼ終結している場合にはそれを最終的に完了させることが、双方にとって利益であると確認できること。そして見返りとして、脅迫・制裁・軍事攻撃のリスクを終わらせること――特に、アメリカに戦争を強く要求し続ける、おぞましいイスラエル・ロビーの影響下では、そうした努力が必要です。

そして私が「アメリカ」と言うとき、それはアメリカ市民のことを言っているのではありません。ワシントンにいる傲慢な連中のことです。彼らは「脅しと爆弾こそが唯一の解決策」だと信じており、1990年代初頭以来、30年以上にわたる終わりなき戦争を我々にもたらしました。信じがたいことですが、それが今なお続いているのです。

ナポリターノ:

さて、こちらが昨日の大統領の様子です。ネタニヤフ首相と昼食を共にした直後の発言です。この映像では彼の隣に首相が座っているのですが、画面には映っていません。とはいえ、トランプのイランに関する発言には、ネタニヤフの眉が思わずピクリと動いたであろう一節が含まれています。

記者:
「あなたの指導のもとで、アメリカはイランの核計画を軍事的に破壊し、この脅威を除去する準備ができているのですか?」

トランプ:
「もしイランとの協議がうまくいかなければ、イランは重大な危機に陥ると思います。言いたくないけれど、本当に重大な危機です。なぜなら、イランは核兵器を持ってはならないからです。これは複雑な話じゃありません。イランは核兵器を持ってはならない。それだけの話です。持ってはならない。
現在、核兵器を持つべきでない国が他にもありますが、それについても今後交渉によって解決できると思います。しかし、イランは核兵器を持ってはならない。そして、もし交渉がうまくいった場合、むしろイランにとっては非常に厳しい日になるでしょう。」

トランプはイランについて語っていますが、そのすぐ隣に座っているのは、違法に核兵器を保有している国の指導者です。

サックス:

実はアメリカは1950年代後半、イスラエルが核兵器を保有するのを防ごうとしました。アイゼンハワー大統領、そしてその後のケネディ大統領も反対していました。しかしイスラエルは巧妙に立ち回り、多くの非公式な工作、非難、否定を通じて、その制止をかいくぐったのです(ここでは詳細には触れませんが)。

いずれにせよ、イスラエルは明白に核保有国であり、アメリカの軍隊を自国のために投入することを全くためらいません。そして、これまでも不当な理由でアメリカを戦争に次々と引き込んできました。今また、それをイラン相手にやろうとしているのです。

トランプ大統領の言うとおり、それほど複雑な話ではありません。実際、彼が初めて大統領に就任した2017年1月20日の時点で、すでに合意(JCPOA)は存在していたのです。

もしかすると、彼はそれがオバマ政権下で交渉された合意だったというだけで受け入れられなかったのかもしれません。あるいは、イスラエル・ロビーの影響を受けたのかもしれません。あるいは彼のいつもの強硬姿勢――「相手が合意したなら、その合意は悪いに違いない」という考えに従ったのかもしれません。

「もっと圧力をかけて合意を崩壊させれば、さらに多くの要求を通せる。あるいは少なくとも自分にとってはそう思える」と。

でも合意はすでに存在していたのです。そして彼の言うとおり、合意は可能です。ただし、「イランを破壊するぞ」と脅すことは、その合意に至るための効果的な手段ではありません。しかし、合意は可能です。なぜなら、すでに「実例」が存在していたからです。

ナポリターノ:

では、アメリカの情報機関がイランをイスラエルへの脅威と見なしているかどうか、私たちは知っているでしょうか? イランがイスラエルにとっての脅威というよりも、むしろイスラエルのほうがイランにとっての脅威である――そう考える方が現実的ではないでしょうか?

サックス:

「脅威か否か」という単純な二元論ではありません。我々が他国をどう見なすか、どう接するかの問題なのです。もし我々が他国を爆撃で脅し、合意を破棄し、交渉した協定を自ら無効にしてしまえば——

ここで、ぜひ振り返っていただきたい歴史があります。1953年、アメリカはイランの民主主義を打倒しました。MI6とCIAの共同によるクーデターで、当時のイラン首相モハンマド・モサッデクを排除したのです。

モサッデクは選挙で選ばれた人気のある非常に聡明な首相でした。彼は、「地下にある石油は、イラン国民のものであって、イギリスやアメリカのものではない」と信じていたのです。勇気ある人でした。

その結果、1953年に政権転覆し、警察国家を敷きました。イランの人たちは怒りました。革命が1979年に起き、人質事件が起こり、レーガン大統領の就任と同時に人質が解放されたとき、アメリカは何をしたでしょうか?

アメリカはイラクを武装させました。サダム・フセイン――あの「親しい友人」であり、のちに我々が打倒した人物――に武器を供給し、イラン人を何十万人と殺させ、民間人に甚大な被害をもたらしました。イラクに武器・装備・資金を与え、イランを壊滅させる手助けをしました。

クーデター、政権転覆、警察国家。すでに何度も繰り返されてきた歴史です。そしてその後になって、「なんて酷い国だ、敵だ、脅威だ」と言うのです。

もし2016年の合意を順守していたならば――もし、イランがバイデン政権下で何度も、ほとんど絶え間なく差し出してきた「平和のシグナル」を真剣に受け止め、応じていたならば(政権はそれらをすべて無視するか、退けましたが)、今のような状況とは違ったはずです。

ワシントンの固定観念に凝り固まった人々の頭では、戦争と脅迫と爆撃と政権転覆以外に平和をもたらす手段があるということが理解できないのです。

ナポリターノ:

あなたは経済的観点から、私は法律および憲法の観点から、厳しく大統領の関税政策を批判しました。その違法かつ憲法違反で、経済的にも誤った関税政策が、今日の地政学にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

サックス:
まず第一に、世界中の人々は、たった3日間で時価総額10兆ドルが吹き飛んだことにまったく呆れています。新たな経済不況への突入や、ここ数十年で最も深刻な経済的な不確実性の高まりにも、誰もが不安を感じています。

中国は「いいえ、トランプ氏。我々はあなたの脅しには屈しません」と言いました。それに対してトランプ大統領は、「では関税率をさらに50%上乗せして、100%を超えさせる」と言い放ちました。

そして、ちょうど私たちがこの会話を始める直前、もし私が見た見出しが正しければ、アメリカ政府は実際にその方向に進もうとしているとのことです。詳細な報道を見ていないので確証はありませんが、たった3日で、世界経済の秩序は大統領令ひとつでひっくり返されました。
その文面はこう始まっています――「アメリカ合衆国大統領としての権限により、私は非常事態を宣言する…」

これは、民主主義国家としてのアメリカのあるべき姿ではありません。これは民主主義の劣化であり、逸脱です。私たちの国がこのようなやり方で運営されていること自体が、恥ずべきことです。そしてその影響は、全世界に及んでいます。

いま世界中の国々が、必死に対応しようとしています。中には「どうすればご満足いただけますか、閣下」と、ひざまずくような姿勢をとる国もあります。ホワイトハウスはそれを喜んでいるに違いありません。

しかし、他の国々はこう考えています。「これはまったく受け入れがたい。一人の人間が独断で、数十年かけて築かれた秩序を破壊するなど許されない」と。

多くの国々が今こう自問しています。「我々の貿易相手国は誰なのか?来週、何が起こるのか?関税が適用されたら、我々はどうすればよいのか?」

私は、非常に多くの国々が急速に「我々はもっと相互に協力しなければならない」という結論に達していると思います。アメリカが、彼らの市民の生活の基盤を破壊しつつあるからです。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長と、中国の首相の間で通話が行われ、「これ以上トランプ氏の決定が世界経済に壊滅的な影響を与える前に、今すぐ安定のための交渉しなければならない」と確認されました。

ですから中国とEUは、成熟した対応で、これ以上の悪化を防ごうとしていると私は願っています。

前回申し上げたように、インドと中国は冷静でバランスの取れた関係を維持するための措置を講じています。中国・韓国・日本も同様です。ASEAN――東南アジアの10か国――も、域内統合をより強化するための会合を重ねています。7億人を抱えるこの地域が、中国との統合をさらに深めなければならないという認識を持つようになったのです。

トランプは、議会での審議も、法にもとづく投票もなく、アメリカのビジネス界や世論の支持もなく、たった一人で「大統領令」で世界全体を危機に陥れました。

この危機は、多くの国々を「防衛的連携」へと駆り立てることでしょう。他国にとって、アメリカはもはや重大な経済的脅威となっているのです。

(以上)

当サイトの過去のジェフリー・サックス関連投稿:

ジェフリー・D・サックス「CIAはいかに世界を不安定化させるか」(Common Dreams 寄稿)Jeffrey D. Sachs: How the CIA Destabilizes the World (Japanese Translation)

「ヨーロッパはNATOではない:独自の外交政策が必要」ジェフリー・サックス、欧州議会で熱弁 Jeffery Sachs: Europe is Not NATO and Needs its Own Foreign Policy


Thursday, April 03, 2025

日本語訳:「カナダの『歴史戦』:日本軍『慰安婦』と南京大虐殺をめぐって 」Satoko Oka Norimatsu, Canada's “History Wars”: The “Comfort Women” and the Nanjing Massacre -- Japanese Translation

See HERE for the original article in English:

カナダの「歴史戦」:日本軍「慰安婦」と南京大虐殺をめぐって

乗松聡子


2019年11月21日、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)アジア研究所においてコリア研究センター(CKR)日本研究センター(CJR)の共催で、モンタナ州立大学の山口智美准教授を迎えてセミナーThe “History Wars” and the “Comfort Woman” Issue: Revisionism and the Right-wing in Contemporary Japan, U.S., and Canada「『歴史戦』と日本軍『慰安婦』問題:現代の日本、米国、カナダにおける歴史修正主義と右翼の動向が開催され、山口氏の講演に続き乗松聡子がカナダの例について話しました。★UBCは、マスクゥイム・ネイションの伝統的な土地の上に所在しています。

その講演会の内容にもとづいた記事が、The Asia-Pacific Journal: Japan Focus (「アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス」)に掲載されました(2020年3月15日)。

山口智美氏:The “History Wars” and the “Comfort Woman” Issue: Revisionism and the Right-wing in Contemporary Japan and the U.S. 「『歴史戦』と日本軍『慰安婦』問題:現代日本と米国における歴史修正主義と右派」

乗松聡子:Canada's “History Wars”: The “Comfort Women” and the Nanjing Massacre 「カナダの『歴史戦』:日本軍慰『安婦』と南京大虐殺をめぐって」

乗松の記事の日本語版をお届けしようと思いながら月日が経ってしまいました。5年前の記事ですが、この記事に登場する、差別発言で有名な杉田水脈氏があらたに今年の参議院選候補として名前が上がっていることもあり、今発表する意義があると判断しました。杉田氏は議員浪人中の2016年秋、バンクーバーのサイモン・フレーザー大学で開催された沖縄についての映画上映会に「潜入」し、私や仲間の写真を盗み撮りしました。後日産経新聞のネット記事で「反日」集会だったと報告し、櫻井よしこ氏の番組で写真を暴露しました。(くわしくはこちらのX投稿スレッドこちらのブログ投稿など参照)

翻訳は、自動翻訳プログラムを使った上で修正しました。(注:翻訳はアップ後修正することがあります。)



ブリティッシュ・コロンビア大学コリア研究センターと日本研究センターによるイベントポスター


序文


私は、山口智美氏による、日本の歴史修正主義の解説と、その歴史修正主義者たちによる、日本軍性奴隷制度を海外で記憶する行為を妨害するための介入についての解説を踏まえ、2015年から2018年にかけてのカナダにおける「歴史戦争」について論じようと思います。

2015年、バンクーバー市の東に位置する人口約22万人の都市バーナビー市は、韓国の姉妹都市である華城(ファソン)市と共同で、バーナビー市内の公共公園のひとつであるセントラルパークに「平和のための少女像」の建立を計画しました。しかし、在バンクーバー日本国総領事館や日本国内の右翼、その影響を受けたカナダ側の地元住民などから猛烈な反発を受けます。結局、華城市の像は大陸の反対側にあるトロントのコリア系カナダ人の施設に置かれることになりました。

2016年から2018年にかけて、オンタリオ州、マニトバ州、ブリティッシュ・コロンビア州の州議会議員は、2017年が、南京とその周辺地域を征服した日本帝国軍によって中国人捕虜と民間人が虐殺され、女性と少女が強姦され殺害され、その被害は数十万に上った残虐行為から80周年を迎えたことから、12月13日を「南京大虐殺記憶の日」(NMCD)として制定しようとしました。こうした取り組みは、日本政府や日本とカナダにいる、日本ナショナリストからの敵対的な圧力を受けましたが、2018年10月26日、オンタリオ州議会のスー・ウォン議員は、NMCD動議(Motion 66)への全会一致の支持を得ることに成功しました。連邦レベルでは、2018年11月28日、ジェニー・クワン議員が同様の動議を提出しました。可決はされませんでしたが、ジャスティン・トルドー首相は、カナダ人がこの歴史を記憶することの重要性を承認しました。

私はこれらの出来事の単なる観察者ではなく、2015年のバーナビーの「慰安婦像」をめぐる議論や、2018年の連邦政府による南京大虐殺を記憶する日の宣言のための取り組みに参加しました。2015年、私は当初、像の建設を望むコリア系カナダ人コミュニティのメンバーと、像の建設を阻止したい日系カナダ人コミュニティのメンバーの間の「橋渡し」をしようとしていました。「橋渡し」は必ずしも私がやりたかったことではありませんでしたが、日系との関係を大事にしたいコリア系カナダ人の人たちの依頼を受けて、承諾したのです。最終的には、コリア系カナダ人が日系カナダ人、チャイニーズ系カナダ人などのエスニック・コミュニティのメンバーを集めて結成した「平和の像委員会」の一員となりました。2018年には、日本政府や日本のナショナリストの反対に対抗して「南京大虐殺記憶の日を支持する日系カナダ人の会」を結成しました。

私の立場は2つありました。第一に、記憶行為への反対に対して反対することでした。まず、日本にルーツを持つ人々が、日本帝国の暗い過去を記憶する行為に対して積極的に反対するのは恥ずかしいことだと思いました。第二に、そのような反対運動の背景にある歴史否定を非難しなければならないと思いました。例えば、ドイツ系カナダ人が、カナダで行われるホロコーストの記念行事に対して、その歴史的議論に根拠がないなどと主張し、組織的な抗議活動を展開することが想像できるでしょうか。日系カナダ人(注1)の中にも、このようなナショナリズム的な反対運動や、歴史否定を行っている者たちがいることを示す必要があったのです。 


2014-2015: ブリティッシュコロンビア州バーナビー市における日本軍「慰安婦」像の計画


バーナビー市セントラル・パークにある朝鮮戦争記念碑。(筆者撮影)

BC州バーナビー市の「慰安婦像」の建設予定地は、面積は86エーカー(約35ヘクタール)あるセントラルパークの西端で、隣のバンクーバー市との境界線であるバウンダリーロードに面している場所でした。2014年秋にバーナビー市と華城市の間で覚書が交わされ、セントラルパーク内の、朝鮮戦争(1950~53年)で亡くなったブリティッシュ・コロンビア州出身の36人の兵士を記憶する朝鮮戦争記念碑の近くに像を建てる計画が進められていました。

産経新聞(注2)によると、日本政府は2014年9月の時点でこの計画を把握していましたが、このことが公になったのは、韓国のハンギョレ新聞が2015年3月6日付の記事で「京畿道の華城市が、日本軍性奴隷の被害者をたたえ、世界平和を願って、カナダの姉妹都市バーナビーに『平和の少女像』を建てる予定だ」と報じたことがきっかけでした。(注3)

日本の右派はすぐに反応しました。日本に拠点を置く右派系の女性団体「なでしこアクション」は、日本軍性奴隷の歴史を否定しており、Change.orgで像の設置に反対する署名キャンペーンへの協力を呼びかけました。(注4)この署名は4月中旬までに1万3,000件以上集まりました(コメント欄を見ると、多くは日本からの署名のようです)。また、反対派は、英語のメールテンプレートを5種類用意し、バーナビー市にメールを送るよう呼びかけました。(注5)その結果、バーナビー市長のオフィスには何千通ものメールが殺到しました。

保守系ジャーナリストの大高未貴氏は、ネット番組「チャンネル桜」で、「韓国人による捏造された歴史のプロパガンダ」のせいで、「罪のない日本人の子どもたちがいじめられる」と視聴者に訴えました。そして、バーナビー在住の日本人に向けて、「カナダで活動している日本人と連絡を取りたいので、協力できる人は連絡してほしい」と呼びかけました。(注6)

大高氏は、Change.orgの署名運動やバーナビー市に送るメールのテンプレートについても、「なでしこアクション」創設者の山本優美子氏が「親切に用意してくれました」と紹介し、バーナビーの少女像への反対運動が現地の住民ではなく、日本の右派的な歴史修正主義者たちによって始められ、主導されていることを隠しませんでした。2015年4月1日には、日本の保守系全国紙である産経新聞が、「歴史戦」シリーズの一部として、バーナビーの少女像設置計画を一面トップで報じました。(注7)太平洋の向こう側にある人口22万人の地方都市での記念像設置の話が、人口1億2,000万人以上の国の全国紙の一面を飾るというのは、なかなか異様とも言える出来事でした。

バンクーバー新報が慰安婦像への反対運動を一面で取り上げた記事の例。筆者撮影。


それとは対照的に、カナダの主流メディアはこの問題にほとんど関心を示さず、唯一取り上げたのは、バーナビーの地方紙「Burnaby Now」による1、2本の報道だけでした。同紙は、2015年3月18日に日系人と見られる住民およそ20数名が、慰安婦像の設置に抗議するため、毎月開かれている「公園・レクリエーション・文化委員会」の会合に出席したと伝えています。(注8)それ以外では、この問題に関する地域での議論はほとんど日本語のみで行われており、週刊紙『バンクーバー新報』が、事実上「像反対期成同盟会」(以下、「反対同盟」)と呼ばれる地元の反対組織の代弁者のような役割を果たしていました。この団体は、日系カナダ人実業家のゴードン・カドタ氏が率いていました。(注9)

それでも、バーナビーの少女像設置計画に対しては、さまざまなレベルでの圧力が存在していました。政府レベルでは、自民党の「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」(委員長:元外務大臣の中曽根弘文氏)(注10)が、4月2日に外務省から説明を受けました。外務省は、「昨年9月から情報収集に努めている。設置阻止に向けて、『静か』だが積極的な働きかけをしている」、「姉妹都市の釧路市による働きかけの側面支援、日加協会や日系企業などとの情報交換」などで対応していると報告しました。(注11)

実際、在バンクーバー日本総領事公邸で反対派の会合が開かれていたこと、また釧路市が、姉妹都市提携50周年記念行事の中止をちらつかせながらバーナビー市に圧力をかけていたことを、私は知ることになりました。バーナビー市のデレク・コリガン市長は、当時の在バンクーバー日本総領事・岡田誠司氏や、総領事と緊密な関係を持っていた反対派のリーダー・ゴードン・カドタ氏から、直接的な圧力を受けてもいました。(注12) 

反対組織・期成同盟会の署名用紙。2015年4月中旬から5月中旬にかけて、約1,300筆の署名が集まったという。

 同調圧力も存在していました。カドタ氏は地元で署名運動を始め、実際に紙の署名を集めました。この署名は、地域のコミュニティ団体や武道、茶道といった文化・スポーツ活動の場を通じて回され、「日本人なら署名すべきだ」といった圧力も伴っていました。

私がカドタ氏に初めて会ったのは2015年4月10日でしたが、氏は私が日系カナダ人でありながら像の反対運動を支持していないことに驚きを隠しませんでした。私は反対運動に対して公然と批判をしていたため、やがて日本人移民コミュニティやネット右翼の間で私が「朝鮮人」であるとか、「反日」であるといった噂が広まりました。

しかし、カドタ氏自身が2015年4月9日付の『バンクーバー新報』のインタビューで認めているように、慰安婦像への反対運動に参加していたのはほとんどが「日常的に日本語を使う日系カナダ人」であり、「英語を使って生活している日系カナダ人は、こうした議論が行われていることすら知らない」というのが実情でした。実際、英語を話す日系カナダ人の中には、異なる反応を示す人も少なくありませんでした。多くの日本語話者が慰安婦問題を「日本人への中傷」であると捉える一方で、英語話者である第二世代・第三世代の日系カナダ人の中には、これを「戦争の痛みを背負う他のエスニックグループの大切な歴史記憶の表現」として理解し、それを公に認めることに意義があると考える人もいました。それは、その人たち自身が戦時中の強制収容という不当な扱いを受けた経験を持ち、1988年にカナダ政府が公式に謝罪し、象徴的な賠償を行ったときに、公の承認がどれほど重要であったかを知っていたからです。

数人の第二世代・第三世代の日系カナダ人と私は、英語話者の日系カナダ人に向けて、日本語話者コミュニティ内での議論を伝える記事をまとめ、英語話者向けの日系月刊誌『The Bulletin(月報)』に投稿しました。しかし、私たちが何度問い合わせをしても、その記事が掲載されることはありませんでした。

カナダに住む日系人のうち、英語を主言語とする人は約3分の2、日本語を主言語とする人は約3分の1と見られています。カドタ氏の「像反対期成同盟会」は日系カナダ人の多数を代表していると主張していましたが、実際には、日系コミュニティの多数を占める英語話者の日系カナダ人には、そもそもこの議論について知る機会すらほとんど与えられていませんでした。

以下は、私が翻訳した「像反対期成同盟会」の主張を紹介した、未発表記事の一部です。この翻訳は、2015年5月7日付の『バンクーバー新報』に掲載された内容に基づいています。[訳注:以下はオリジナルの日本語版どおりの表現です]

  1. 2国間の微妙な政治問題を孕む慰安婦像を第3国(カナダ)に持ち込むことは極めて不適切。
  2. 多様文化主義をとり調和のとれた生活を送っている市民や移住者たちにとって、物議を醸す像を公共の施設に設置することは、適切さを著しく欠き、市民生活に大きな影響を及ぼす。
  3. 米国・グレンデール市ではすでに慰安婦像が設置され、修復不能とさえ思われるほどのコミュニティの分断や日系の子供たちへのいじめが激化している。われわれはこの轍を踏むことは絶対に避けなければならない。
  4. 韓国側の事実誤認や歴史認識の違いから、われわれには言いたいことが山ほどあるが、これは控える。この違いを今ここで議論しても建設的な話し合いになるとは到底思えず、「像を設置させない」という本来の目的の達成はおぼつかないという懸念が強いからである。
  5. われわれの行動の対象はバーナビー市議会であり、慰安婦像やそれに類似する像や碑などを公共の施設に設置する許可を宛てないように働きかけることである。 

この抜粋には、山口智美氏が指摘するように、日本軍性奴隷の歴史を世界的に記憶することに対する日本のナショナリストの反対理由が随所に見られます。例えば、3番目の「日本人の子どもたちがいじめられる」という主張は、その証拠がほとんど示されておらず、4番目の「韓国側の事実誤認」として、日本軍の性奴隷の歴史自体を否定する歴史修正主義が含まれています。

バーナビー市には数百通のメールや手紙、電話が寄せられ、署名運動も行われました。(注13)デレク・コリガン市長は、この問題が引き起こす可能性のある対立について自らの認識が「甘かった」と気づきました。(注14)2015年4月15日、ゴードン・カドタ氏ら4名が市長と会談した翌日、コリガン市長は、地域のコリア系および日系カナダ人コミュニティ双方が納得できる計画を検討するとの声明を発表しました。(注15)これは事実上、計画の中断を意味し、産経新聞は4月18日に反対運動の「成功」の表れとして報じました。(注16)

コリガン市長の声明を受けて、主に像の設置を希望するコリア系カナダ人で構成される「平和の像委員会」、反対同盟を代表するゴードン・カドタ氏、そして私を含む像の設置を支持する日系カナダ人が4月27日に会合を持ちました。この会合は友好的なもので、協力してプロジェクトを進めることで合意しました。しかし、会合後、カドタ氏は像の設置を支持する日系カナダ人をプロジェクトから除外するよう主張し、「平和の像委員会」から強い反発を受けました。5月7日に再度の会合が予定されていましたが、カドタ氏は直前になってこれをキャンセルしました。それ以降、カドタ氏や反対同盟の他のメンバーから、「平和の像委員会」との協力の意思は示されませんでした。

2015年の夏の間、「平和の像委員会」は、コリア系カナダ人だけでなく、ヨーロッパ系、日系、フィリピン系、中国系など多様な背景を持つカナダ人を含めて会合を重ね、像の設置計画について話し合いましたが、実現には至りませんでした。その間、バーナビーのコリア系スーパーマーケット「ハンナム・マーケット」の敷地内に像を設置する可能性も検討されましたが、最終的に商店街の管理組合が反対票を投じました。結局、華城市から寄贈された像は大陸の反対側にあるトロントのコリア系カナダ人文化協会に設置され、2015年11月18日に除幕されました。

トロントのこの像は、カナダで初めて設置された慰安婦像であり、韓国国外では、2013年7月のカリフォルニア州グレンデール、2014年8月のミシガン州サウスフィールドに続いて3番目の設置となりました。グレンデールの像は公共の公園に設置されましたが、サウスフィールドの像は、日本政府や企業の妨害により公共の場所での設置が阻止されたため、私有地に設置されました。

トロントのオンタリオ州にあるコリア系カナダ人文化協会に設置された慰安婦像。山口智美氏撮影。


2015 – 2016: カナダにおける、日本歴史修正主義の活動


2015年頃から、日本の歴史修正主義者たちはカナダを「歴史戦」の主要な戦場の一つと位置付け、影響力を強める活動を続けてきました。2015年8月には、右派系の日系カナダ人グループ「トロント正論の会」が設立され、日本から保守派の論客を招いた講演会を開催しています。例えば、日本会議の主要メンバーで保守系教育学者の高橋史朗氏(注17)、朝日・グレンデール訴訟の主任弁護士である徳永信一氏、千葉県の麗澤大学で教鞭を執るアメリカ人講師のジェイソン・モーガン氏などです。(注18)これらの講演では、日本軍の性奴隷制や南京大虐殺の否定が強調されました。 (注19)

2016年8月25日にトロント正論の会が主催したイベントのポスター。高橋史朗氏と徳永信一氏がゲストスピーカーとして紹介されている。

トロントの日系カナダ人コミュニティにおける右傾化は、同市の市民平和団体「広島長崎デー連合」が主催する毎年恒例の平和イベントにまで及びました。この団体は毎年8月6日に、1945年の広島・長崎への原爆投下の歴史を追悼しています。イベントの一環として、広島の原爆記念日に行われる伝統に倣い、平和へのメッセージを込めた灯籠を水面に浮かべる灯籠流しの儀式が行われます。2016年のイベントで連合のメンバーを驚かせたのは、ある参加者が提供した灯籠に「憲法9条を廃止せよ」や「南京大虐殺は捏造だ!」といったメッセージが書かれていたことです。これを発見した連合のメンバーは、その灯籠を破棄しましたが、記録のために写真を撮影しました。

2016年8月6日、トロントでの灯籠流しで見つかった歴史否定メッセージ。写真は田中裕介氏提供。

2016年11月17日、2018年8月号の『新潮45』での反LGBT発言(注20)によって国際的に知られるようになった右派政治家の杉田水脈氏が、私が運営に関わったサイモン・フレーザー大学ダウンタウンキャンパスでのジャン・ユンカーマン監督作品『沖縄 うりずんの雨』の上映および監督トークに来場しました。(注21)杉田氏は当時、2014年12月の衆院選で落選し、2017年10月の選挙で復帰するまでの間、フリーライターとして活動しており、さまざまな歴史否定活動に関わっていました。

杉田氏がこのバンクーバーのイベントに来ていたことが明らかになったのは、数週間後に彼女が産経新聞のウェブ版のコラムでそのことを書いたときでした。(注22)彼女は、バンクーバーに住む支持者から「反日集会がある」と聞いたことが、この地を訪れた理由の一つであり、前年のバーナビー慰安婦像をめぐる議論にも関心があったと述べていました。

上映会の際、杉田氏は私と、歴史家であり人権活動家でもある仲間の鹿毛達雄氏の写真を無断で撮影し、その後、よく知られる右派評論家・櫻井よしこ氏のインターネット番組に出演した際、その写真を許可なく露出しました。番組の中で彼女は、私たちが関わっている現地の9条平和グループを含む「カナダにおける反日活動」について報告していました。(注23)

杉田水脈氏が「潜入」した、サイモン・フレイザー大学における映画「沖縄 うりずんの雨」上映会。監督のジャン・ユンカーマン氏(左)がトークした。(筆者撮影)


2016-18: 「南京大虐殺を記憶する日」をめぐる議論


日本の「歴史戦」におけるカナダでの第二の主要な舞台は、カナダの政治家が12月13日を「南京大虐殺を記憶する日」(NMCD)として制定しようとする動きに関する論争でした。この動きは、カナダの人口の3分の1以上、約1,400万人が住むオンタリオ州から始まりました。実際、カナダでの南京大虐殺の公式な追悼は新しいものではありませんでした。2012年、オンタリオ州の州都トロントのロブ・フォード市長は、南京大虐殺75周年を記念して12月13日を「南京を認識する日」と宣言しましたが、日本のナショナリストやその周辺から顕著な干渉はありませんでした。 

トロントのロブ・フォード市長による「南京を認識する日」宣言。2012年12月13日。


しかし、2016年12月5日、オンタリオ州議会議員のスー・ウォン氏が、12月13日を南京大虐殺記憶の日(NMCD)として制定する法案(法案79号)を提出した際には、日本の右派だけでなく、カナダ国内の日系団体、たとえば日系カナダ人協会(NAJC)や日系文化会館(JCCC)からも、すぐに否定的な反応が現れました。

オンタリオ州議会が法案79号の審議を開始するとすぐに(注24)、NAJC会長のデイビッド・R・ミツイ氏が、当時のオンタリオ州首相キャスリーン・ウィン氏に宛てて、強い反対を表明する書簡を公表しました。ミツイ氏はこの中で、南京大虐殺は「外国政府間の問題であり、オンタリオ州とは無関係」であり、法案79号は「日系カナダ人コミュニティに対する敵意」や「不寛容さ」を助長し、「この国の外で起きた出来事を記念したい他の人々にとって、前例となってしまう」と主張しました。(注25)

この書簡の口調や論理は、西海岸での慰安婦像反対運動や、日本軍性奴隷制の記憶化に対する世界各地での反対運動とよく似ており、日本政府や日本の右派勢力からの影響を受けたものと思われます。

ミツイ氏はこの書簡において、NAJCが「カナダ全土にある17の加盟団体を代表する唯一の組織」であると述べて、団体を代表して発言しているとしましたが、日系カナダ人コミュニティは、彼の想像するほど一枚岩ではありませんでした。まもなく、NAJC内部でも、若手の組織「ヤング・リーダーズ・コミッティ」のメンバーたちの間から異議の声が上がりました。2017年2月には、若手メンバーたちが「NAJCは法案79号への反対を撤回せよ」という書簡を全国執行委員会に提出し、日系カナダ人93人の署名を集めました。(注26)

その書簡には、「私たちジャパニーズ、ジャパニーズカナディアン、あるいはニッケイと自認する者たちは、NAJCが法案79号に強く反対したことに深く落胆し、憤りを感じています」と記されています。さらに、NAJCがかつてのリドレス運動[訳注:日系カナダ人が戦時強制収容についてカナダ政府に謝罪と補償を求めた運動]の際に他の団体から受けた重要な支援に言及し、「そのリドレス運動の歴史は、正義を求める他者と共に歩む責任があることを、日系カナダ人として私たちに強く思い出させてくれます」と訴えています。

実際、日系カナダ人がカナダ政府に謝罪と補償を求めた運動は、他のエスニック・マイノリティ集団の支援を受けてきました。1987年12月発行の『日系ボイス』創刊号には、1987年10月29日にトロントのハーバード・カレッジエイトで開催された集会について、「『補償のための連帯』を掲げて、21の全国エスニック団体のリーダーたちが結集し、日系カナダ人を支援する集会を行った」と報じられています。当時の『日系ボイス』編集長・田中裕介氏によると、このような連帯行動がリドレス運動の最終段階において勢いを与え(注27)、1988年9月、当時のブライアン・マルルーニー首相が、戦時中の強制収容を経験した日系人とその家族に正式に謝罪し、NAJC会長アート・ミキ氏との間で3億カナダドルの補償パッケージに合意するという成果につながりました。(注28)

1987年創刊の『日系ボイス』創刊号より(提供:田中裕介氏)

また、1987年10月の集会で基調講演を行った詩人ロイ・ミキ氏(アート・ミキ氏の弟)は、「私たちの物語は孤立した個人の物語ではなく、カナダの物語の一部です。日系カナダ人コミュニティがその枠を越えて支援を広げていくことを願います」と締めくくっています。この30年前の言葉どおり、ロイ・ミキ氏は、若手リーダーたちの「NAJCは法案79号への反対を撤回せよ」書簡に署名した93人の一人となり、文学者として知られる収容所体験者ジョイ・コガワ氏(注29)や、広島の被爆者で平和活動家として国際的に知られるサーロー節子氏もこれに加わりました。しかし、この運動が進むにつれ、運動を率いていた人たちは日系コミュニティ内部からの圧力を強く感じるようになり、最終的に、署名者が嫌がらせを受けるのを避けるため、すべての非公表にする決断を迫られました。NAJCはこの書簡に対して、少なくとも公には返答せず、法案79号への反対も撤回しませんでした。

この行動を主導した若手リーダーの一人、レン・イトー氏はその後、「オンタリオ州首相への手紙:法案79号を支持する日系カナダ人たち」という新たな署名キャンペーンを立ち上げ、100人の署名を集めました。(注30)作家ジョイ・コガワ氏は、この「南京大虐殺を記憶する日」にはとりわけ強く賛同していました。2017年9月には『トロント・スター』紙にて、法案79号を支持する10の理由を発表しています。(注31)こうした日系カナダ人の行動は、戦時中の苦しみを記憶する他のマイノリティ集団との連帯の重要性、そしてホロコーストを記憶するのと同様に、大規模な残虐行為を記憶することの大切さを、カナダ社会に訴えるものでした。

日本からの法案79号への反対も見過ごせるものではありませんでした。2017年6月には、日本の自民党の国会議員14人が、法案79号に反対する意見書をオンタリオ州政府に提出し、同法が制定された場合に日本人や日系カナダ人に対する反発が起こることへの懸念を表明しました。(注32)さらに2017年5月には、オンタリオ州の議員たちに、日本から奇妙な絵はがきが送られてきました。内容は、南京大虐殺の被害者数に疑義を呈するようなものでした。

2017年、匿名の者からオンタリオ州議会議員たちに送られたハガキ(田中裕介氏提供)

このような議論が続く中、2017年10月26日、スー・ウォン氏はオンタリオ州議会において、「南京大虐殺を記憶する日」(NMCD)を求める動議(動議66号)に全会一致の支持を得ることに成功しました。これはまだ法律としてではなく、あくまで動議の段階でしたが、西側諸国における初の議会による南京大虐殺の追悼と報じられました。(注33)12月13日には、オンタリオ州議会の議員たちが起立し沈黙の時間を持ちました。

ウォン氏は2018年4月に再びNMCD法案を提出しましたが(注34)、その2か月後に州議会選挙で落選したため、法案成立の機会は失われました。なお、同様の法制化の動きは、2017年にはマニトバ州で、2018年にはブリティッシュ・コロンビア州でも見られましたが、いずれも法制化には至りませんでした。

連邦レベルでは、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー東選挙区選出の下院議員ジェニー・クワン氏が、2018年春に「南京大虐殺記憶の日を制定するようカナダ政府に求める請願」を立ち上げました。(注35)私は、前回と同じく、歴史否定を試みる日本のナショナリスト団体(期成同盟会)が再び反対運動を展開するだろうと予想し、2018年5月末に「南京大虐殺記憶の日を支持する日系カナダ人の会」という新しい団体を立ち上げました。

「南京大虐殺記憶の日を支持する日系カナダ人の会」のウェブサイト


私自身の経験から、日系カナダ人としてこうした運動を支持することは、日本のナショナリストや歴史否定論者たちからの激しい中傷やネットでの荒らし行為を招くことを知っていました。ですので、私たちはメンバーのプライバシーをしっかりと守るようにしました。カナダ全土から、教師、作家、医師、学生、有機農家、アーティストなど、さまざまな職業の人々約100人が参加してくれました。その中には、日系カナダ人協会の元会長や、戦時中の日本軍による残虐行為に言及している最新の著書『Gently to Nagasaki』で知られる作家ジョイ・コガワ氏のように、日系カナダ人コミュニティで影響力のある人々も含まれていました。

一方で、ゴードン・カドタ氏の反対グループも大人しくはしていませんでした。(注36)今回は「Japanese Canadian Coalition for Ethnic Unity」[訳注:「カナダの人種和合を促進する期成同盟」と自ら名乗っていました]という英語名を掲げましたが、日本語媒体としては再び『バンクーバー新報』とそのウェブサイトが主要な発信源となっていました。

この人たちの反対理由はこれまでとほぼ同じでした。つまり、1)NMCDは憎しみと不寛容を助長する、2)80年前に日本と中国の間で起こった一方的な主張をカナダに持ち込むな、3)NMCDはカナダと日本の関係を損なう、4)カナダが再び日系人にとって住みにくい場所になってしまう、5)NMCDは差別と偏見につながる、というものです。(注37)

ただし、これまでよく使われていた「日本人の子どもたちがいじめられる」といった主張は、今回は見当たりませんでした。おそらく、その主張にはほとんど、あるいはまったく証拠がないことから、もはや説得力がないと判断されたのかもしれません。

これらの名目上の理由はさておき、彼らの反対運動の主な動機の一つが歴史否定であることは明らかでした。2018年7月11日、「カナダの人種和合を促進する期成同盟」は、バーナビー市のニッケイ・ナショナル・ミュージアム&カルチャー・センターで、連邦議会議員ジェニー・クワン氏の南京大虐記憶の日(NMCD)キャンペーンに対する反対戦略を練るための大規模な集会を開催しました。その場では、「ブリティッシュ・コロンビア州の教科書には南京大虐殺が事実であるかのように記載されている!」、「…私は(南京大虐殺が)はなかったと思っている」、「歴史家が80年間議論しても明確な証拠がないのなら、その歴史を議論する意味はあるのか?」、「南京大虐殺が起こったかどうかは問題ではない…重要なのは、ジェニー・クワン氏が提出しようとしているこの法案を阻止することだ!」といった、多くの歴史否定的なコメントが飛び交いました。第二次世界大戦中の日系カナダ人の強制収容の記憶を伝え、人種差別反対と寛容の象徴であるはずのニッケイ・センターで、このような嫌中感情や歴史否定に満ちた会合が開催されたことは、非常に残念なことでした。

「カナダの人種和合を促進する期成同盟」は、南京大虐殺が遠い過去に外国で起こった事件であり、カナダとは無関係であると主張しています。しかし、実際にはカナダは国外の歴史的出来事も記憶しています。バンクーバーの公園であるシーフォース・ピース・パークには、広島の被爆者である故ラスキー・キヌコ氏の像が設置されています。これは平和と反核の象徴であり、反米的なシンボルであると批判されたことは一度もありません。カナダ各地にはホロコースト教育センターがあり、これのせいでカナダがドイツ系カナダ人にとって住みにくい場所になっているわけでもありません。これらは憎しみや不寛容を助長するものではなく、むしろ過去の痛ましい歴史から学び、共により良い未来を築くためのものです。

マニトバ州ウィニペグ市にあるカナダ国立人権博物館。筆者撮影。

ウィニペグにあるカナダ人権博物館では、カナダ内外の人権侵害について学ぶことができます。(注38)そこでは、カナダ議会が認定した5つの国外の大量虐殺、すなわちアルメニア人虐殺(1915年)、ウクライナのホロドモール(1932-33年)、ナチスのホロコースト(1933-45年)、ルワンダ虐殺(1994年)、ボスニアのスレブレニツァ虐殺(1995年)などが展示されています。これらの大量虐殺の歴史を展示する「Breaking the Silence(沈黙を破る)」セクションでは、次のように述べられています。

「カナダでは、人権侵害について自由に公に語ることができます。カナダ人はこの自由を使って、世界中の極端な暴力行為や非人道的行為に目を向けさせてきました。問題意識を持つカナダ人は、議会に働きかけ、5つの「ジェノサイド」を認定させました。これらは特定の民族的、人種的、宗教的、または国の集団を意図的かつ体系的に破壊しようとするものです。このような公式な認定を通じて、カナダは国として声を上げ、隠蔽されたり、過小評価されたり、否定されたりしてきた恐ろしい犯罪を明るみに出し、非難しています。」

この博物館は決してカナダを無罪の国として描いているわけではありません。最大のギャラリーである「Canadian Journeys(カナダの道のり)」では、先住民族(ファースト・ネーション、メティス、イヌイット)に対するもの、特にインディアン寄宿学校の問題から、女性、性的少数者、身体障害者、そして中国系カナダ人に対する人頭税の課税や日系カナダ人の戦時中の強制収容など、人権侵害の数々が紹介されています。

カナダ国立人権博物館の「カナダの道のり」ギャラリー(筆者撮影)

アジア諸国からの移民や貿易が増加する中で、カナダが世界のジェノサイドの集団的記憶にアジアの事例を加えることを検討するのは自然な流れです。「カナダの人種和合を促進する期成同盟」のメンバーや支持者が、南京大虐殺記憶の日(NMCD)に反対する手紙をジャスティン・トルドー首相や全議員に送る一方で、日本の右翼勢力もカナダ連邦議会が初めて南京大虐殺を認識する可能性に注目していました。2018年9月19日、東京で「外務省目覚めよ!南京事件はなかった」と題する大規模な南京否定派の集会が開催されました。これは「南京戦の真実を追求する会」の第7回公開講演会であり、ポスターには杉田水脈(自民党)、中山成彬(希望の党)、原田義昭(自民党)、渡辺周(国民民主党)の4名の国会議員がゲストスピーカーとして紹介されていました。(注39)

2018年9月19日開催の「外務省目覚めよ!南京事件はなかった」集会のポスター

日本軍の性奴隷の歴史に関して、現在の日本政府は政府や軍による強制性や性奴隷という概念自体を否定していますが、南京大虐殺に関しては、日本国外務省が以下のように述べています:

「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。」 ​(注40)

この説明は、中国人捕虜の大規模な違法殺害や、女性や少女に対する無差別な強姦には触れず、被害者数の不確実性に焦点を当てているため、決して十分なものではありませんが、日本政府が南京大虐殺の発生を認めていることを示しています。これは、日本の極右勢力が外務省に対して不満を抱く原因となっており、その集会のタイトルにもその感情が反映されています。​この人たちは、外務省に対してこの歴史認識を撤回するよう求めています。

この集会は民間団体のイベントでしたが、与党自民党から2名を含む3名の現職国会議員がその趣旨を支持して講演を行ったことは重要です。このイベントの主要な関心事の一つがカナダでした。原田義昭氏は、南京大虐殺を公然と「捏造」と呼ぶことで知られる人物(注41)で、オンタリオ州議会に対して南京大虐殺記憶の日(NMCD)を批判する反対書簡を送った自民党議員の一人です。彼はこの集会で、外務省への働きかけや自らカナダへ赴いてのロビー活動、「南京大虐殺はなかった」という主張を伝えるために若手学者をカナダに派遣したことなど、自身の取り組みを誇示しました。彼の配布資料には、スー・ウォン氏やジェニー・クワン氏に関する背景情報など、カナダにおけるNMCDの進展について詳細な説明が含まれていました。杉田水脈氏も再び、私と同僚の名前を挙げて、カナダでの「反日」活動について言及しました。

2018年11月28日、ジェニー・クワン氏はオタワの国会記者会見場で、作家のジョイ・コガワ氏、「南京大虐殺記憶の日を支持する日系カナダ人の会」を代表して参加した大槻とも恵氏と共に記者会見を行いました。クワン氏は同日、4万筆の署名を携えて国会にNMCDに関する動議を提出しましたが、可決に必要な全会一致の支持は得られませんでした。ジャスティン・トルドー首相は、クワン氏の支持要請に対し、NMCDに対する自身の立場を明確にはしませんでしたが、この歴史の被害者をカナダ人が記憶する必要性を認めました。

トルドー首相:「議長、私たちはもちろん、80年前に南京で起こった恐ろしい出来事を非難します。すべてのカナダ人は、多くの民間人が直面した生命の喪失と暴力を決して忘れてはならないことで一致しています。私たちはこれらの恐ろしい行為を決して忘れません。これらの被害者と生存者の記憶は、真の和解の精神のもとに取り組まなければいけません。」 ​(注42)

今回、ジェニー・クワン氏の動議は可決されませんでしたが、第三国の首相が南京大虐殺とその被害者を記憶する重要性を認識したこと自体が、歴史的な瞬間であったと言えます。


(以下、文末注は原文のまま転載します)

Notes

1

In this essay I use the term Japanese Canadians as a broad category that includes all Canadians of Japanese ancestry. “Canadians” here does not necessarily mean holders of Canadian citizenship, but more broadly, citizens or residents of Canada. It is estimated that about two-thirds of Japanese Canadians have English as their primary language and many of the older generation are survivors of the wartime internment and the younger generations are their descendants. The remaining approximately one-third have Japanese as a primary language (though they do use Canada’s official languages in daily life) and they include post-war immigrants, what some call shin-issei, and those who have come to call Canada home after business, work, study, marriage, etc. brought them to the country. The vast majority of local participants of the opposition against the “Comfort Women” statue and the Nanjing Massacre Commemorative Day belong to the latter category.

2

“カナダ慰安婦像問題 外務省、昨年9月から情報収集 「設置阻止へ積極的働きかけ」も,” Sankei Shimbun, Aril 2, 2015. https://www.sankei.com/politics/news/150402/plt1504020032-n1.html

3

“京畿道華城市、カナダ姉妹都市のバーナビー市に慰安婦少女像建立へ,” Hankyoreh Newspaper, March 6, 2015. http://japan.hani.co.kr/arti/politics/19877.html

4

Mayor Derek Corrigan; Comfort Women, Not a statue of peace, a magnet for conflicts. 慰安婦、平和の像あらず、軋轢を引寄せる磁石 Comfort Women, Not a statue of peace, a magnet for conflicts. カナダBC州バーナビー市慰安婦像設置反対 カナダBC州バーナビー市慰安婦像設置反対,” https://www.change.org/p/comfort-women-not-a-statue-of-peace-a-magnet-for-conflicts-カナダバーナービー市慰安婦像設置反対 This petition page eventually closed with a little over 14,000 signatures.

5

 “【 署名/メール】カナダ バーナビー市 慰安婦像反対!ご協力を!”, Nadeshiko Action, repeatedly updated from March to June, 2015. http://nadesiko-action.org/?page_id=7927

6

Otaka Miki 【魔都見聞録】カナダ・バーナビー市 慰安婦像反対!ご協力を![桜H27/3/16] https://www.youtube.com/watch?v=IDoLjkdyT3o&feature=emb_logo

[日本語訳注:この動画は2025年4月4日現在リンク切れしており、日本語訳文中の大高氏の発言引用は、APJの記事内に引用した英語訳の逆翻訳となります]

7

“慰安婦像 カナダで提案 韓国の姉妹都市 邦人ら反対運動,” Sankei Shimbun, April 1, 2015. https://www.sankei.com/world/news/150402/wor1504020004-n1.html

8

 “Comfort women statue proposal riles group of Japanese Canadians in Burnaby,” Burnaby Now, March 19, 2015. https://www.burnabynow.com/news/comfort-women-statue-proposal-riles-group-of-japanese-canadians-in-burnaby-1.1798189

9

The full name of the group is 「バーナビー市慰安婦像設置反対期成同盟会」.

It is unknown whether any official English name for the group exists. A literal translation of the group name is the “Alliance Group Established for the Purpose of Opposing the Erection of a Comfort Women Statue in Burnaby City.”

10

“日本の名誉と信頼を回復するための提言,” The Liberal Democratic Party of Japan, July 28, 2015. https://www.jimin.jp/news/policy/128434.html

11

“カナダ慰安婦像問題 外務省、昨年9月から情報収集 「設置阻止へ積極的働きかけ」も,” Sankei Shimbun, April 2, 2015. https://www.sankei.com/politics/news/150402/plt1504020032-n1.html

12

Gordon Kadota passed away on July 31, 2019.

13

As Tomomi Yamaguchi describes in her paper, Japanese American veteran Robert Wada wrote a letter of opposition to Mayor Derek Corrigan of Burnaby City. Wada’s letter also circulated among the Japanese Canadian community.

14

“バーナビー市長に聞く 慰安婦像建立は未定,” Vancouver Shinpo website (date unknown)http://www.v-shinpo.com/local/1488-110-16247615

15

“慰安婦像設置検討を保留,” Vancouver Shinpo, April 23, 2015.

16

“慰安婦像設置は「当面保留」 カナダ西部バーナビー市 日系住民の反対奏功,” Sankei Shimbun, April 18, 2015. https://www.sankei.com/world/news/150418/wor1504180012-n1.html

17

Japan-U.S. Feminist Network for Decolonization is a useful English-language guide to Japanese history revisionists’ activities in the United States and beyond. Its Encyclopedia has an entry on “SHIRO TAKAHASHI”(http://fendnow.org/encyclopedia/shiro-takahashi/) and “TORONTO SEIRON” (http://fendnow.org/encyclopedia/toronto-seiron/).

18

“JASON MORGAN,” Encyclopedia, Japan-U.S. Feminist Network for Decolonizationhttp://fendnow.org/encyclopedia/jason-morgan/

19

These talks are available on the Toronto Seiron YouTube channel. https://www.youtube.com/channel/UC4x4kumw2UcmYjiTOwZ0OkA

20

For details about the controversy, see, for example, “Japanese magazine to close after Abe ally's 'homophobic' article,” The Guardian, September 28, 2018. https://www.theguardian.com/world/2018/sep/26/shincho-45-japan-magazine-homophobia-mio-sugita-shinzo-abe

21

Film screening and director talk by John Junkerman, Okinawa: The Afterburn, sponsored by Simon Fraser University’s Institute for Transpacific Cultural Research, VanCity Office of Community Engagement and the School of Communication along with the Peace Philosophy Centre, November 17, 2016, at Simon Fraser University Downtown Campus. http://www.sfu.ca/itcr/events/past-events/okinawa-afterburn.html

22

“杉田水脈のなでしこレポート(23)沖縄の基地反対運動を美化したドキュメンタリー映画…私には見るにたえない作品でした,” Sankei News, December 18, 2016. https://www.sankei.com/premium/news/161218/prm1612180015-n1.html 

23

“歴史戦は政治が動かなければ勝てない オンタリオ州議会が南京大虐殺記念日制定へ,” Genron Terebi, February 10, 2017. https://www.genron.tv/ch/sakura-live/archives/live?id=367

24

 “Bill 79, Nanjing Massacre Commemorative Day Act, 2016,” Legislative Assembly of Ontario. https://www.ola.org/en/legislative-business/bills/parliament-41/session-2/bill-79

25

David R. Mitsui, “Bill 79 Day to Commemorate the Nanjing Massacre,” National Association of Japanese Canadians, December 7, 2016. http://najc.ca/bill-79-day-to-commemorate-the-nanjing-massacre/

27

Yusuke Tanaka 田中裕介, “日系人の試練の日々の恩人たちに感謝を捧げる集い,”article series 滄海一粟Sokai no ichizoku, The Bulletin月報, February 2020, P44.

28

1988: Government apologizes to Japanese Canadians, CBC Digital Archiveshttps://www.cbc.ca/archives/entry/1988-government-apologizes-to-japanese-canadians

29

“Criticism from within Japanese Canadian communities against Japanese Canadian groups' opposition to Ontario's Bill 79, An Act to Proclaim the Nanjing Massacre Commemorative Day,” Peace Philosophy Centrehttps://peacephilosophy.blogspot.com/2017/02/japanese-canadians-oppose-japanese.html

30

 “Letter to the Premier: Japanese Canadians for Bill 79” https://docs.google.com/document/d/1xvuNylgt_HxDkZLjqUx1WeF_3SzaQFAQ6Ih2rSsEdcc/pub

31

Joy Kogawa, “Why I Support the Nanjing Massacre Commemorative Day Act,” The Star, September 15, 2017. https://www.thestar.com/opinion/commentary/2017/09/15/why-i-support-the-nanjing-massacre-commemorative-day-act-joy-kogawa.html 

32

 “南京大虐殺巡りカナダ州議会に意見書 自民有志14人,” Nikkei Shimbun, August 20, 2017. https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H15_Q7A820C1000000/

33

“MPPs unanimously pass motion to commemorate victims of Nanjing massacre,” The Toronto Star, October 27, 2017. https://www.thestar.com/news/queenspark/2017/10/27/mpps-unanimously-pass-motion-to-commemorate-victims-of-nanjing-massacre.html
“Canada's Ontario legislature passes motion on Nanjing Massacre Commemorative Day,” New China, October 27, 2017. http://www.xinhuanet.com//english/2017-10/27/c_136708560.htm

34

Nanjing Massacre day bill reintroduced,” China Daily, April 14, 2018. http://www.chinadaily.com.cn/a/201804/14/WS5ad121fea3105cdcf65183d7.html

35

"Petition to the Government of Canada to Establish Nanjing Massacre Commemorative Day," Jenny Kwan, MP. https://www.jennykwanndp.ca/recognize_nanjing_massacre_commemorative_day

 

36

Vancouver Shinpo had a special page dedicated to opposition against Nanjing Massacre Commemorative Day. "「南京虐殺記念日」制定反対特設ページ," Vancouver Shinpo. http://www.v-shinpo.com/local/5087-tokusetsu-kinenbihantai

37

“「南京大虐殺記念日」制定運動始まる メトロバンクーバー日系社会に衝撃,” Vancouver Shinpo, May 24, 2018. http://www.v-shinpo.com/local/5058-local180524-1

38

See "Galleries" page of the Canadian Museums for Human Rights website. https://humanrights.ca/exhibition/galleries

39

Japanese weekly Shukan Kinyobi reported this rally. “「南京大虐殺否定集会」に杉田水脈氏ら登壇,” Shukan Kinyobi, October 26, 2018.

40

“Q6: What is the view of the Government of Japan on the incident known as the ‘Nanjing Incident’?”, History Issues Q & A, Ministry of Foreign Affairs of Japan, April 6, 2018. https://www.mofa.go.jp/policy/q_a/faq16.html

41

For example, Ogiue Chiki’s interview with Harada Yoshiaki, TBS Radio, October 19, 2015. https://www.tbsradio.jp/298756

42

42nd Parliament, 1st Session, Edited Hansard, Number 360, House of Commons, November 28, 2018. https://www.ourcommons.ca/DocumentViewer/en/42-1/house/sitting-360/hansard


原文はこちらにあります。

Canada’s “History Wars”: The “Comfort Women” and the Nanjing