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Wednesday, October 09, 2013

駐米中国大使、崔天凱(Cui Tiankai)のジョンズ・ホプキンス大学講演での発言を日本政府は「プロパガンダ」と言うが

10月8日、米国ワシントンのジョンズ・ホプキンス大学のSAIS(School of Advanced International Studies 高等国際関係大学院)で、同大学院卒業生でもある、駐米中国大使の崔天凱(Cui Tiankai)氏が「中国の外交政策と駐米関係」という題で講演を行った。そのときの質疑応答でSAISの学生から、双方の国でのナショナリズムの高まりを受けて日中関係をどう思うかと聞かれたときの返答が日本で報道されている。

中国駐米大使 講演で日本を非難
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131009/t10015147421000.html
「中国の崔天凱駐米大使は、ワシントン市内で講演し、日本の一部の政治家の中には、第2次世界大戦が終結したのはアメリカの原爆投下によるものだと信じ、アメリカさえ怒らせなければ何をやってもよく、ほかの国の懸念に配慮する必要はないと考えていると非難しました。」とある。これを聞いて何かつじつまが合わない発言だな、しっかり元の演説で何と言ったか聞いてみないといけないと思った。

菅官房長官はこれを受けて
「みずからの国の立場だけに立って、まさにプロパガンダの一つではないかとさえ思える発言だ。日本は戦後68年間、今日(こんにち)まで自由と民主主義の国を築き上げ、世界の平和と繁栄に貢献してきたと思っており、そのことがすべてを物語っている。論評するに値しない発言だ」と述べたという。

SAISのウェブサイトに崔氏の講演の動画がある。
http://www.sais-jhu.edu/events/2013-10-08-170000-2013-10-08-190000/chinese-foreign-policy-and-us-china-relations
該当部分(上の動画では1時間3分をすぎたあたりから)のみ聞き取って訳してみた。

(はじまり)

I was ambassador to Japan a few years ago. I still have a large number of friends in Japan.
私は数年前日本大使でした。日本にはまだたくさんの友人がいます。

China and Japan are neigbours. You cannot change your neighbours. You cannot move away from neighbours.
中国と日本は隣国同士です。隣国を取り換えるわけにはいきません。隣国から離れて引っ越すことも無理です(会場に笑い)。

We stand for stable friendly and cooperative relationship with Japan. Of course, in the past Japan invaded China and brought about huge sufferings to Chinese people. We certainly don't want to see that happening again.
私たちは、安定した、有効な、協力的な関係を日本と築く姿勢でいます。もちろん、過去、日本は中国を侵略し、中国の人々に多大な苦しみをもたらしました。私たちはそういうことが起ることは二度と見たくありません。

35 years ago China and Japan concluded a bilateral treaty, of peace and friendship. This treaty is still valid. Five years ago, the two government concluded a political statement for the establishment of strategic relationship for mutual benefit. And we are still committed to that document.
35年前、中国と日本は平和友好条約を結びました。この条約はまだ有効です。5年前、両政府は戦略的互恵関係を築くための政治的声明を出しました。私達はこの声明に今もコミットしています。

What concerns us in Japan is some disturbing tendency in Japanese politics. And Japan's outlook on history, on what happened in the past.
私たちが懸念を抱いているのは、日本の政治の中に憂慮すべき傾向があることです。また、日本の歴史、過去に起こったことへの見解にも懸念を持っています。

Maybe the few politicians in Japan who believe that Japan lost the war, WWII, because of the atomic bombs dropped by the United States, and just because of that, those who they believe,.. if they don't antagonize the United States, everything will be okay for them. They don't have to take care of the concern of other countries. If that is really what they believe, I think it is very wrong and very
dangerous.
日本の一部の政治家で、日本が第二次世界大戦において米国により落とされた原爆のせいで戦争に負けた、それだけのせいで負けたと思っている人々がいて、その人たちは、米国をの反感を買うことさえしなければ全てがうまくいくと思っている人たちがいるようです。他の国のことは考慮しなくていいと。もしそれを彼らが本当に信じているとしたら、大変間違っており危ないことであると私は思います。

Japan was defeated in the WWII, not just by the two atomic bombs dropped by the US but by all the peace-loving anti-fascist countries, and peoples, and peoples of the united nations including China and United States of course.
日本は第二次世界大戦において、米国により落とされた二発の原子爆弾によるだけではなく、平和を愛しファシズムを憎む全ての国々、人々、連合国家群の人々により負けたのです。それはもちろん中国と米国を含みます。

And Japan was not defeated in that war, not just by some modern weapons, but by the strong will and determination and will of the peoples of Asia, United States and Europe. I think politicians in Japan have to realize this is post-WWII international order; you cannot challenge that.
日本は近代兵器によってだけではなく、アジア、米国、欧州の人々の強い意志と決意によって戦争に負けたのです。日本の政治家たちは、これが第二次世界大戦後の世界秩序であって、これに異を唱えることはできないということを認識しないといけません。

So we are really concerned about such tendencies in Japan. and we believe what is at stake is interest of China, of United States, of other Asian countries, and the global (order).
私たちは日本におけるこのような傾向に非常に懸念を持っており、中国、米国、アジアの他の国々、世界の秩序にとっての利益が懸かっていると、私たちは思っています。

I think this is maybe the most important issue betwen China and Japan. And this is a matter of principle for us. I know such a view may not represent the majority of the Japanese people. And I hope the Japanese people, and maybe together with all of us here, will make sure that  such a tendency will not dominate the future direction of the country. Thankyou.
これは中国と日本の間の一番重要な問題といえるでしょう。また、これは私たちにとって原則の問題です。このような見方が日本の人々の大半を占めるわけではないということはわかっています。ここにいる私たちと協力し合い、日本の人々が、このような傾向が日本の将来の方向性を独占しないようにすることを願っています。ありがとうございました。

(おわり)
もとのビデオはここ。
http://www.sais-jhu.edu/events/2013-10-08-170000-2013-10-08-190000/chinese-foreign-policy-and-us-china-relations

崔氏が原爆投下に何度も触れていたのは事実だが、それにこだわっていると崔氏の言いたかったことを理解する妨げになる。「日本は原爆投下によってのみ負けたのではない」と言いたかったのである。この「のみ」の部分が日本の報道から消えてしまっているので意味のわからない報道になっている。要するに、「日本は米国にだけ負けたのではない。」ということを強調していることである。この返答の全体的なポイントはこうである。

――日本とは安定した友好関係を築きたいという方針であり、日中平和友好条約や戦略的互恵関係声明は有効である。
――日本の政治家の一部に日本による中国侵略など歴史を否定する動きがあることに懸念を持っている。
――日本が敗戦した相手は米国だけではない。中国やアジア諸国、欧州全体に対して負けたのだ。米国だけを相手に負けたという歴史観によって戦後米国だけに追従してきているが他の国のことも考えないといけない。

これは、日本に広がっている侵略を否定するような歴史観、今の右翼的傾向の強い政府、何よりも戦後米国一辺倒であった日本を的確に指摘している返答だと言える。ビデオを見てもらえればわかるが、崔氏は静かな口調で、ときどき笑いも取りながらリラックスして話している。崔氏のこの発言の細かい評価は今はしないが、すくなくとも日本政府が言うような「プロパガンダ」的内容には私にはとても聞こえない。今、世界的に、持たれている日本政府の歴史観や性格を的確に表現しているように聞こえる。@PeacePhilosophy

1 comment:

  1.  日本人の第2次世界大戦に対する見方に対する疑問は、私も昔から感じていました。

     日本が大戦で負けたのはアメリカの落とした2発の原爆によると日本の一部政治家が思っていると崔天凱駐米中国大使は語ったようですが、圧倒的な生産力を持つアメリカと戦争するのは無謀だったという主張をマスコミなどではしばしば見聞きします。

     しかし、戦争の反省はそこまで。アジアへの侵略、そこでの泥沼化した戦争が思考回路から抜け落ちているように思います。アメリカを敵にしなければ何でも許されると考えているのは政治家だけでないということです。

     原爆か生産力かはともかく、アメリカ支配層の反感を買わなければ全てがうまくいくと思っている日本人は少なくない、多分、多数派でしょう。アメリカの軍事力に対する信奉も強く、圧倒的な軍事力で世界を制覇できると信じているようです。

     アメリカと日本との関係を振り返ると、1923年の関東大震災は大きな節目になっています。それ以降、復興資金の調達で頼ったアメリカの巨大金融機関JPモルガンの影響下に入ったということです。

     その当時、JPモルガンと最も深く結びついていたと言われているのが井上準之助。「適者生存」を信奉していたようで、現在の表現を使うなら新自由主義者ということになるでしょう。1929年に内閣総理大臣となった浜口雄幸は井上を大蔵大臣に据え、アメリカの金融界が望む政策を日本で推進することになります。

     1932年に井上は暗殺されましたが、それと同時に新しい駐日アメリカ大使が指名されています。その新大使とはジョセフ・グルー。彼の親戚、ジェーン・グルーが結婚した相手がジョン・ピアポント・モルガン・ジュニア、つまりモルガン財閥の総帥です。ジョセフ・グルーの妻、アリスは少女時代に日本で生活した経験があり、そのときに親しくなった九条節子は後に大正(嘉仁)天皇の妻、貞明皇后になります。

     アメリカでは1932年に大統領選挙があり、ウォール街の支援していた現職のハーバート・フーバーをニューディール政策のフランクリン・ルーズベルトが破りました。この結果を受け入れられないJPモルガンを中心とするウォール街の勢力は、1933年から34年にかけて反ルーズベルト/親ファシストのクーデターを計画します。この計画はアメリカ海兵隊の伝説的な軍人、スメドリー・バトラー少将の議会証言などで発覚しました。

     当然、JPモルガンの影響下にあった日本もルーズベルト政権とは対立することになり、そうした状況は1945年4月にルーズベルト大統領が急死するまで続いたはずです。鶴見俊輔によると、占領時代、ハーバード時代の同級生だという「リーバマンが、こう言ったんですよ。これからアメリカは、ファシストの国になるって。」(鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二著『戦争が遺したもの』新曜社、2004年)

     ファシストを支援していた勢力が主導権を奪い返したことを理解しての発言でしょう。日本の支配層にとっては朗報であり、この関係が続けば全てがうまくいくと考えたように思えます。ルーズベルト大統領のような人物が出てこないよう、日本の支配層は動いてきたのではないでしょうか?

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