Thursday, October 23, 2025

アラステア・クルック:「西側は大規模な心理作戦の中にある」--ウクライナ戦争は「領土問題」ではない。Alastair Crooke: We in the West are in the Middle of a Huge Psychological Operation

アラステア・クルック氏をまだこのブログで紹介していなかったかもしれない。アンドリュー・ナポリターノ判事の人気YouTube対談番組「ジャッジング・フリーダム」の常連ゲストで、毎週月曜日は彼の話で始まる。元英国や欧州議会の外交官、英国の諜報機関MI6のエイジェントを務めた人であり、長年の諜報・外交分野での経験を生かした深い洞察を提供する。10月21日(月)の回の翻訳を紹介する(AI訳に手をくわえた。太字強調は訳者)。今回クルック氏が強調するのは、ウクライナ戦争の終結交渉があたかも「領土問題」であるかのように西側メディアが言っているのはまさしく、西側諜報機関がしかけた「心理戦」であるということである。この戦争の本質は、ロシアにとっては最初から全く変わらず、NATOがウクライナのナチス勢力を使ってロシアに仕掛けた戦争を受けて、ウクライナを中立化すること、非ナチ化すること、そして2014年以来ウクライナに迫害され続けてきたドンバスのロシア系の人たちを保護することである。その目的が達せられなければ「停戦」などを言っても、ミンスク合意と同じで、西側がウクライナを再軍備させるための時間稼ぎにしかならない。この戦争の根本的原因をとりのぞく恒久的和平合意でなければ意味がないのである。それを西側メディアは「ロシアが停戦交渉のテーブルにつかない」と言い続けているが、実際は西側がこの戦争の原因を取り除くことを拒否している、つまりロシア打倒戦争の続行を望んでいるのである。トランプ大統領とプーチン大統領が根本的な和平合意を目指していたブダペスト会議は欧州諸国による全力の妨害もあって見送りになった。クルック氏は、イスラエルの「停戦」の欺瞞についても後半にコメントしている。クルック氏の理性の声をこれからも聞いていきたいと思う。@PeacePhilosohpy

 

ナポリターノ:アメリカ合衆国が最近、外交政策で好戦的になり、戦争の脅しまでしているのは、どのように説明しますか。

クルック:それは意図的なものです。偶然にそうなったわけではありません。根本的には、支配的でありたい、強くありたい、力を誇示したいという感覚から来ています。トランプ政権のチームは、経済を復活させようとする計画を展開するうえで、そのような力の誇示が必要だと考えているのです。

米国は、ウクライナ戦争が失敗に終わったことを理解しています。それは米国にとって、そして欧州にとって、特にヨーロッパにとって心理的な大打撃です。同時に、債務危機と財政赤字の危機が迫っていることも承知しており、それに対処しなければならない、資源を米国内に取り込まなければならないと考えています。そうしなければ、赤字に飲み込まれてしまうと見ているのです。

ですから、これは絶望から生まれた行動です。言葉による手段であれ、金融的な手段であれ、軍事的な手段であれ、すべての同盟国、そして非同盟国までも、この新しい「金融秩序の再編」という試みに引きずり込まなければならないと考えているのです。

ナポリターノ:私はここ6日間、ロシアの関係者とやり取りをしてきました。その中で最も重要だったのはマリア・ザハロワ氏でした。彼女はロシア外務省の公式報道官であり、マンハッタンに3年間住んでいた経験があります。ドナルド・トランプという人物や、アメリカ社会・文化について深い理解を持っているのです。

以下のようなトランプ氏の非常識な発言は、ロシア側には特に気にならないようです。たとえば、昨日のことですが、彼は「ウクライナはまだ勝てる」と言いました。クレムリンの多くの人たちはそれを聞いて「馬鹿げている」と思うでしょうが、ロシア側は「トランプは時々、自分の支持層を鼓舞する必要があるのだろう」と理解を示しています。

動画再生:

記者のトランプへの質問:「数週間前あなたは、ウクライナは戦争に勝つ可能性がある。領土を取り戻せるかもしれない」と言いましたね。

トランプの返答:「勝てる」とは言った。実際ウクライナが勝つとは思わないが、「勝てる可能性はある」とは言える。「勝つだろう」とは言ってない。いいか、戦争というものは何が起こるかわからない!

ナポリターノ:なぜトランプがこうした発言をするのかを説明することはできません。彼の頭の中を覗くことはできないからです。しかし、彼の発言に対する地政学的な反応については話すことができます。

この会話は、ゼレンスキー氏がホワイトハウスから突然追い出されたと伝えられた後のことです。ゼレンスキーがダレス空港に到着したとき、アメリカ側の出迎えは一人もいませんでした。国務省の下級職員ですら来ていなかったのです。誰も出迎えなかったのです。その後、彼はヨーロッパに向かいました。『フィナンシャル・タイムズ』によると、ヨーロッパでは彼は大歓迎されたそうです。

クルック:私たちはいま、西側全体で大規模な心理作戦の渦中にいます。それが英国の第77旅団(心理作戦部隊)によるものなのか、それともCIA発なのか。ワシントン・ポストやフィナンシャル・タイムズなどから流れてくるすべての報道が、領土に関するものばかりだということにお気づきでしょう。彼らは「ザポリージャがこうだ」「この地域がこうだ」と、領土の一部がどう動いたかを延々と話しています。

しかし、そうした話はこの戦争の本質とはまったく関係がありません。すべて心理作戦の一部です。この戦争の目的は最初から明白でした。それはロシアに対する脅威となったウクライナを中立化すること、そしてロシア国境に対する直接的な脅威としてのNATOを中立化することです。さらに、ドネツクやルガンスクに住む多くの人々──その人たちはロシア市民であり、文化的にもロシア人です──を保護することでもあります。

これが戦争の目的であり、今もそうです。それは「領土の一部を奪う」というような話ではありません。では、なぜこの戦争が「領土問題」として描かれているのでしょうか。それは、もともとのヨーロッパのナラティブ(語り口)を補強するからです。つまり、「2022年、ロシアが何の挑発も正当性もなく、主権国家であるウクライナに侵攻した」という筋書きです。それまでの文脈を無視して、あたかもプーチンがただの侵略者として主権国家を攻め、領土を奪おうとしたかのように見せかけるのです。

これが西側が押し出している第一のナラティブです。

そして、第二のナラティブもあります。「プーチンが弱腰である」「リベラルすぎる」「米国に迎合しすぎている」といった批判がロシア国内で高まっており、それがプーチンに対して危険なほどの怒りを引き起こしている、というものです。もちろん、これもまた西側が仕立て上げたナラティブです。ロシア国民を分断し、「プーチンは何か危険なことを始めようとしている」と恐れさせるための心理操作なのです。

実際のところ、プーチンの考え方はそれとはまったく異なります。彼は歴史家であり、自国の歴史をよく理解しています。彼は1917年から18年にかけての出来事──ボリシェヴィキ革命がロシアを混乱させ、ドイツなど中央同盟国との戦争に敗北しかけていた時期──をよく知っています。そのとき、ロシアは最後通牒を突きつけられました。すべての領土を放棄するか、さもなければドイツから攻撃を受けるという最後通告です。ロシアはこれを受け入れ、膨大な領土を失いました。ウクライナ、ポーランドの一部、バルト諸国まで失ったのです。それは4日間の交渉の末に署名された条約によるものでした。

ロシアはその屈辱を長い間、心に刻み続けてきました。

私が少し前にサンクトペテルブルクにいたとき、人々はこう言っていました。「戦争の指揮の仕方については議論がある。しかし、私たちがここまで血を流してきたことに疑いはない。もし米国が今提案しているような停戦やミンスク合意のようなものが結ばれれば、それは裏切りだ。なぜなら、3〜4年後、NATOがウクライナを再建し、再訓練し、再び前線に送り込んでロシアを攻撃させることになるからだ」と。「だからこそ、我々はプーチンの考え──「特別軍事作戦において、きちんとした成果を収めなければならない」という考え──を支持している。戦争を一時凍結し、また将来再開させるような形で終わらせることは許されない。それはヨーロッパや米国が描いている筋書きでもある」と。

ですから、「これは領土問題にすぎない」という言説を聞いたときには、こう理解すべきです。それは英国や米国によって作られた心理作戦であり、ロシアを弱体化させようとするものなのです。

ナポリターノ:ああ、EUの指導者たちが、今あなたが述べたことのほんの一部でも理解できればどんなにいいか。私は週末、モスクワにいたときに次のような発言を耳にしました。エストニア外相であり、EU外務理事会の議長でもあるカヤ・カラス氏が、「ウラジーミル・プーチンはどのNATO加盟国にも来るべきではない。彼には国際刑事裁判所(ICC)が出した逮捕状があるのだから」と述べたのです。ヨーロッパはまったく別の世界に生きているようです。少なくとも、ヨーロッパの指導層は現実とは異なる世界にいるように見えます。

さて、米ロ会談が(ブダペストで)持たれたら、トランプ氏はどのような外交上のテコを持つのでしょうか。あなたも私も、この番組に出ているほとんどの人々も、「アンカレッジ会談」は失敗だったと見ていますが。

クルック:私は他の人たちとは少し異なり、アンカレッジ会談が完全な失敗だったとは思っていません。あの会談で重要だったのは、プーチンが一国の指導者として正当に扱われたということです。トランプ大統領はプーチンに敬意を示し、それが非常に重要でした。相手を悪魔化してしまえば、もはやどんな話し合いも、どんなコミュニケーションのチャンネルも成り立ちません。相手を極端に貶め、話すこと自体が「裏切り」や「異端」と見なされるようになれば、外交は完全に崩壊します。ですから、アンカレッジでの成果はそこにあったのです。

さて、今回のトランプ氏にはほとんど外交上のテコはありません。なぜなら、ロシア側は以前プーチン大統領自身が2022年2月に外務省で示した立場から、何ひとつ変えていないからです。プーチンはそのときこう述べました。「これが我々の条件だ」と。

もちろん、西側では「ザポリージャの一部を譲る」「ヘルソンの一部を譲る」といった話ばかりが聞こえてきます。しかし、忘れてはならないのは、それらの地域はいまロシアの憲法上すでにロシア領なのです。さらに重要なのは、これらの州の住民たちは、ロシアになることを望んで投票したのです。

ですから、特別な事情がない限り、プーチンがそれを覆す権限を持つとは思えません。憲法を変更し、領土を放棄するには議会に戻って改正を行う必要がありますが、現段階ではそのような可能性は見えません。

したがって、米ロ会談をしても何か実質的な成果が出るとは思えません。さらに、ラブロフ外相とルビオ氏の間で予定されていた重要な事前会談が延期されたとも聞いています。それがいつ行われるのかは分かりません。【訳者注:ラブロフ・ルビオ電話会談は行われ、その後ブダペスト会談は見送りになった】

ただ、ラブロフが率直な「本音」を伝えるつもりであったのは確かです。そして、おそらくプーチンも、先日の2時間半に及ぶ電話会談の中でトランプに対して率直に本音をぶつけたようです。トランプはその後、少しショックを受け、慎重になった様子でした。

その会談のあと、トランプはゼレンスキーにこう言いました。「ウクライナはこの戦争ですべてを失うかもしれない。ロシアに完全に敗北させられるかもしれない」と。さらにトランプはこうも言いました。「これはいまだに『特別軍事作戦』にすぎない。ロシアはまだ『戦時体制』に入っていない。もし彼らが本気の戦時体制に移行したらどうなると思うか」と。

おそらくプーチンは、その会談の中で非常に明確に現実を示したのだと思います。そしてその後、「トマホーク」巡航ミサイルの供与に関する話題が消えたのは、偶然ではないでしょう。トランプはプーチンとの電話会談の後、「トマホークは供与しない」と言いました。

おそらくその理由は、プーチンが穏やかにこう伝えたからだと思います。証拠はないですが、プーチンは最近、新しい兵器について語っています。それらはすでに準備が整い、生産段階に入っている」と言っており、その中のひとつが「ブレベスニク(Burevestnik)」と呼ばれるものです。これは原子力推進巡航ミサイルで、ほとんど無制限に飛行することができます。

地球をほぼ何周も回りながら、どの方向からでも、予想されない角度から目標に到達できるのです。そして、攻撃の最終段階では軌道を変えることができ、非常に静かに動きます。
音速を超えず、亜音速(subsonic)でゆっくり飛ぶため、レーダーや早期警戒システムに探知されにくいのです。これは世界初の原子力推進システムを搭載した巡航ミサイルで、長期間空中を飛び続け、必要なときに突然降下して攻撃することが可能です。

プーチンはおそらく、こう言ったのだと思います。
「あなた(トランプ)が誇るトマホークは、古くて効果の低いミサイルだ。もしあなたがそのような挑発的な道を進もうとするなら、やめたほうがいいです。我々はトマホークを恐れているからではありません。それをすれば両国関係は完全に終わるからです」と。

ナポリターノ:私も同じ話を外交政策の報道官から聞きました。

時間が限られていますので、次の話題に移らなければなりません。イスラエルは、この2年間の戦争で何を達成したのでしょうか。

クルック:それは非常に議論の分かれる問題です。私はこの点についてかなり詳しく書きましたが、何を達成したか、何を達成できなかったかという問題は、まだこの戦争が終わっていないため、結論づけることはできません。私はこの戦争が「和平合意」に向かっているとも思いません。いまあるのは「停戦」にすぎません。そして停戦というものは、意図的に破られることが多いものです。

いま注目すべきなのは、これから何が起きるかを見極めるうえで重要なことです。イスラエル側は、自分たちが「ジェノサイド(大量虐殺)」を犯したとは考えていません。何か謝罪すべきことをしたという意識もまったくありません。実際、イスラエルの将軍たちの中にはこう言っている者もいます。「彼ら(ハマス)は我々を千人殺した。だから我々は五万人を殺した。あるいは、もっと殺すべきだったのかもしれない」と。

つまり、自分たちの行為が間違っていたという認識がまったくないのです。そのような状況では、イスラエルが再びハマスとの戦闘を再開する可能性が高いと思います。彼らは適切な「口実」を見つけるでしょう。私はイスラエル特殊部隊の兵士の動画を見ました。その中で彼はこう言っていました。「我々はガザ内部に人員を残している。彼らが数発撃ち、それに我々が反撃すれば、戦争の次の段階が再開する」と。

つまり、イスラエルの国民の約80%はいまだに、ガザで行われていることを支持しているのです。そしてそのうちの多くは「もし何かが間違っているとすれば、それは『まだやり足りない』ということだ」と考えています。「なぜなら、まだガザにパレスチナ人やハマスの構成員が残っているからだ」と。

さらに、いま議論の中心になっているのは、先に述べた「停戦」合意の複雑な構造です。この合意の第一段階では「停戦」が定められていますが、第二段階では「ハマスが姿を消す」という条件が盛り込まれているのです。報道によれば、アメリカ側のウィットフ氏とクシュナー氏が、ハマスの交渉担当者と直接会って対話をしているといいます。しかし第二段階では、ハマスは「消滅」しなければならないとされており、彼らがどうなるのか、またその後にどのような政府がガザを統治するのか、誰にもわかっていません。この矛盾をどう解決するのかは、非常に難しい問題だと思います。

ナポリターノ:これはウィットフ氏と大統領の娘婿であるクシュナー氏が、ジェノサイド(大量虐殺)に関して非常に不合理な発言をしたときのものです。

インタビュアー:
人質が実際に解放される前に、あなたはガザに行く決断をしましたね。そこで何を見ましたか。

クシュナー:
まるで核爆弾が落ちたかのような光景でした。そして、人々が戻ってくるのを見ました。私は尋ねました。「彼らはどこに行くんですか?」見渡す限り、すべてが廃墟なのです。すると彼らは言いました。「自分たちの家があった土地に戻って、テントを張るんです」と。本当に悲しいことです。彼らには他に行く場所がないのです。

インタビュアー:
あなたは現地を見たうえで、あれはジェノサイドだったと思いますか。

クシュナー:
いいえ。まったくそうは思いません。

クルック:彼らは完全に「プロパガンダの幻想」を飲み込んでしまっています。

最後に一言だけ言います。私の長年の経験から言えるのは、政治的な和解を得るためには、両当事者が「何が起きたのか」「過去に自分たちが何をしたのか」──つまり、自らの責任を認める勇気を持つことが極めて重要だということです。これは南アフリカの「真実と和解委員会」においても真実でした。アイルランドの和平でも同じでした。

もし、イスラエルがパレスチナ人を虐殺したことに「何の問題もなかった」と言い張るのであれば、この紛争は終わることはありません。殺戮の事実を否定したままでは、和解も平和も訪れません。

(翻訳以上)

No comments:

Post a Comment