下記の報道にあるように、日米は在日米軍関係経費のうち、「在日米軍駐留経費負担」、通称「思いやり予算」を定める特別協定を更新し、2011年から2015年までは1,881億円を維持するとの協定を交わした。
外務省ウェブサイトを参照。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/1/0121_01.html
ここで誤解を解く必要がある。「思いやり予算」というのは、在日米軍経費の日本負担分全額のことであると誤解している人が多いしメディアもそのような印象を与えるように報道している。上のサイトでも改めて定義しているが、「在日米軍駐留経費負担」とは、
(外務省ウェブサイトより)
「(1)昭和62年度以降,我が国は,日米地位協定第24条において米側に負担義務がある経費の一部につき,日米両国を取り巻く諸情勢に留意し,在日米軍の効果的な活動を確保するため,日米地位協定の特則を定める特別協定を締結した上で負担してきました。」
とあるように、地位協定においては本来米国が負担する義務がある経費のうち日本が敢えて負担している分という意味である。下の防衛省在日米軍関係経費の内訳の表の中では、青の太線で囲まれている「在日米軍駐留経費負担」の部分のことである。合計が1,881億円であることからもわかるだろう。昨年10月1日の投稿ではこの在日米軍関係経費を分析し、いわゆる「思いやり予算」は総額6,729億円の28%に過ぎない計算結果となった(くわしくはここを参照)。
下の表によれば、特別協定で定めているのは下のオレンジ色の枠の部分である。そうなると厳密には青の部分「在日米軍駐留経費負担」と「特別協定による負担」も一部重なるが異なるカテゴリーのことを指すと言えると思うのだが、総額を現在の1,881億円で維持と言っているわけなので、これはやはり「在日米軍駐留経費負担」のことを言っているのであろう。重要なことは、「向こう5年間現在の水準を維持」というのがどういう意味を持つのかである。この「在日米軍駐留経費負担」は1978年に地位協定範囲内とされる「労務費(福利費)等」、1979年からの「提供施設整備」費にはじまり、1987年度からは地位協定の範囲外なので特別協定を結んで「労務費(基本給等)」(1987度から)、「光熱水料等」(1991年度から)、「訓練移転費」(1996年度から)とどんどん加えられていったのである(この経緯については防衛省のウェブサイトで説明している)。金丸信が、1978年に「思いやり予算とでも呼ぼう」と言ったので通称「思いやり予算」と言われてきたが、その総額は78年当初の62億円からどんどん増え、ピーク時の1999年には2,756億円(歳出ベース)に達し、その後は減少を続け、2010年は1,881億円だったのである(推移についてはこの防衛省のグラフを参照。)要するに、今回の決定は、予算を今後5年間据え置くという、この10年の減少の流れを止める決定であったのだ。
もう一つ重要なことは、前原外相がこの予算をもう「思いやり予算」とは呼ばず「ホスト・ネーション・サポート」(接受国支援)と呼ぶように指示していることである(下記ニュース参照)。この報道によると、前原外相は「アメリカのプレゼンス(存在)は日本の安全保障のみならず、この地域の安定のための公共財として有用だ」、「米軍が駐留し、ある程度の必要な経費を負担するということは、両国の国益に資する戦略的な判断だという観点から、思いやりという言葉はずれている」と言ったという。
ホスト・ネーション・サポートとは、米軍を受け入れている外国が負担している全額を指す。下の防衛省予算全体額は4,695億円であるが、防衛省のウェブサイトによると、防衛省以外の予算(土地の賃料1,656億円、基地交付金378億円)を加えると上記したように6,729億円となる。この額がホスト・ネーション・サポートであり、その一部に過ぎない、ましてはその大半が本来米国負担であるものを特別協定で定めている「在日米軍駐留負担経費」だけを「ホスト・ネーション・サポート」と呼ぶのは間違っている。そのように呼ぶのは、債務、格差、雇用不安に苦しむ日本の納税者が在日米軍に対して負担している7千億円近くの「ホスト・ネーション・サポート」を少なく見せるためのトリックと取られても仕方がないのではないか。
国防省のデータによると、日本は、調査対象となった米軍受け入れ国25ヶ国のうち、他24カ国の負担分総額よりも多い負担を一国のみでしている。また、日本は米軍経費のうち75%余りも負担しており、同じく大規模の米軍を受け入れている韓国(39%)やドイツ(21%)に比べ格段に多いことがわかる。
よく、ショッピングモールのセールで Buy-One-Get-One-Free (ひとつ買えばもう一つ無料)というお買い得商品を見るが、経費の75%を負担している日本は米軍にとって、Buy-One-Get-Three-Free (ひとつ買えば三つ無料)の、超おいしい駐在地となる。
こうやって米軍を破格の待遇で駐在させ、主権を捨てたままで米国の属国であり続け、そのしわ寄せをほとんど沖縄に押し付けている日本政府と、それを許している日本の納税者は異常としか言えない。
PP
この件についての過去の投稿を参照。
So-called "Sympathy Budget" is only 28% of the total expenses Japan is paying for US bases 「思いやり予算」は在日米軍関連経費のたった28%である
Tuesday, January 26, 2010What the US-Japan Alliance, the "Cornerstone of Peace in Asia" Means (英語)
防衛省ウエブサイトより「在日米軍関係経費 平成22年度(2010年)」 |
思いやり予算5年間維持 米軍駐留経費負担 日米が協定署名
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-172633-storytopic-3.html
グアム移転費も 労務・光熱費は削減
政治 2011年1月22日 09時51分
【東京】前原誠司外相とルース駐日米大使は21日、米軍基地で働く日本人従業員の労務費などを削減する一方、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の総額1881億円は維持するなどとした新たな特別協定と関連文書に署名した。米軍嘉手納飛行場のF15戦闘機訓練などをグアム移転するのに伴い、日本側が同経費の一部を負担できる規定も新たに盛り込んだ。
労務費については、特別協定の有効期間(2011~15年度)中に、これまで日本側が負担していた、米軍向けのクラブやゴルフ場など娯楽性の高い施設で働く日本人従業員430人分の給与負担を段階的に減らし、日本側負担の上限を2万2625人分とする。
13年度から段階的に削減し、総額で約25億円の労務費削減が見込まれるという。これら従業員の雇用は「米側で適切に対処する」(外務省)といい、基本的には米側の負担で維持される見込みという。給与水準自体も変更はない。
光熱水費は12年度から段階的に負担割合を減らし、現在の約76%を72%に削減(上限249億円)する。削減額は総額27億円を見込む。削減分は提供施設整備費(現在206億円)に上乗せされ、米側から要望が強かった老朽化施設の改良などに使われる。
日米両政府は、F15などの訓練移転に関する燃料費などの経費の一部をこの思いやり予算総額とは別枠で日本が負担することで一致しているが、グアムでの訓練頻度や実際の負担額などは今後詰める。外務省内であった署名式で前原外相は「(訓練移転が)沖縄の負担軽減につながると確信する」と強調した。
日本は当初、思いやり予算の在り方を批判してきた民主党政権の成立を受け大幅削減を目指したが、増額を求める米側の厳しい姿勢を前に現状維持で折り合った。政府は24日開会の通常国会に特別協定承認案を提出し、現行協定が切れる3月末までの承認を目指す。
http://mainichi.jp/area/okinawa/news/20110122rky00m010001000c.html
思いやり予算:「接受国支援」へ変更を主張 前原外相
【東京】前原誠司外相は21日の会見で、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)について「もはや『思いやり予算』という言葉は適当でない。今後は(英訳の)ホストネーションサポートという言い方をしたい」と述べた。ホストネーションサポートは直訳すると「接受国支援」となる。
前原外相は「アメリカのプレゼンス(存在)は日本の安全保障のみならず、この地域の安定のための公共財として有用だ」と強調。「米軍が駐留し、ある程度の必要な経費を負担するということは、両国の国益に資する戦略的な判断だという観点から、思いやりという言葉はずれている」と述べた。
(琉球新報)
Japan, U.S. sign pact on Tokyo keeping base-hosting costs for 5 years
http://www.japantoday.com/category/politics/view/japan-u-s-sign-pact-on-tokyo-keeping-base-hosting-costs-for-5-years
Saturday 22nd January, 03:58 AM JST
TOKYO —
Japan and the United States signed Friday a new pact on Tokyo maintaining the annual costs of hosting U.S. bases at the current level of 188.1 billion yen for a five-year period from fiscal 2011.
The special measures agreement on Tokyo’s host nation support also includes a clause that enables Japan to shoulder some of the costs of relocating the F-15 fighter drills based in Okinawa to the U.S. territory of Guam.
The accord replaces an existing one that will expire in March. The Japanese government is set to present the treaty for ratification to the ordinary session of the Diet, which will open next Monday.
Foreign Minister Seiji Maehara said at a signing ceremony held at his ministry, ‘‘I am confident that the new pact will help reduce the base-hosting burden on the people in Okinawa.’’ U.S. Ambassador to Japan John Roos also took part in the event.
Japan will cover some of the necessary costs to relocate F-15 drills from U.S. Kadena Air Base in Okinawa to Guam, so that about 20 fighters can take part in each training session in the island territory, with each session lasting up to 20 days, according to Japanese officials.
‘‘I would also like to declare that we will stop using the term ‘sympathy budget’ to describe the host-nation support, because this pact on our spending will be signed from the strategic viewpoints of the two countries,’’ Maehara said.
Roos said Japan’s host-nation support ‘‘allows us to maintain some of the critical defense capabilities that are not only important for the defense of Japan, but critical for the stability in this region of the world.’‘
‘‘So I sincerely thank Mr. Maehara, the Japanese government for this important contribution, and we look forward to continuing to not only maintain but strengthen the most important alliance with one of the United States’ best friends in the entire world,’’ he said.
Separately, Defense Minister Toshimi Kitazawa told reporters he is glad the two countries have signed the pact, as he believes it is significant in ensuring a stable U.S. military presence in Japan and strengthening the bilateral security alliance.
He expressed hope that the Japanese parliament will ratify the pact at an early date.
The accord was a compromise between Japan, which was seeking a drastic cut due to its strained fiscal conditions, and the United States, which wanted an increase, in view of China’s growing military might and continued tensions on the Korean Peninsula.
Under the agreement, the number of Japanese working for the U.S. military, whose salaries are covered by the Japanese government, will be cut by 430 in phases from the current level of 23,055, and those serving in entertainment facilities such as golf courses and bars will be excluded, the officials said.
The pact also says the proportion of utility costs at U.S. military facilities covered by the Japanese government will be gradually lowered from the present 76% to 72% over the five-year period. The maximum annual utility costs covered by Tokyo will be 24.9 billion yen.
A Japanese official said an estimated 5.2 billion yen will be slashed through those measures and the amount will be spent to improve U.S. military facilities.
Part of those expenditures will cover efforts to introduce environmentally friendly technology in U.S. military personnel residences under the ‘‘Green Alliance’’ initiative, he said.
The official added cost for relocating the F-15 drills from Okinawa to Guam have not been fixed yet.
Following the signing ceremony, Maehara requested Roos and U.S. military representatives in Japan that the United States make more efforts to prevent crimes and accidents involving U.S. military personnel and reduce noise pollution from military aircraft, according to the Foreign Ministry.
Japan began providing host-nation support in fiscal 1978. The total amount peaked in fiscal 1999 at 275.6 billion yen. But it has since been cut sharply due to Tokyo’s fiscal woes and public criticism, particularly about spending Japanese taxpayers’ money on entertainment facilities for U.S. military personnel.
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