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Wednesday, May 23, 2012

田中利幸: オバマ米国「核なき世界」とはほど遠い実態-2012年世界の核情勢

広島市立大平和研究所教授、田中利幸さんからの寄稿です。

結論よりー
日本の原発推進は、これまで議論されてきたような、単なるエネルギー問題では決してなく、「核兵器製造能力の維持」という日本政府の隠された一貫した政策と密接に絡んでいたことを、今こそ我々は深く再確認し、その知識を今後の反核・反原発運動に十分に活用していく必要があることを忘れてはならない。私はこれまで、様々な場所で繰り返し述べてきたが、核兵器と原発は決して分離できない、表裏一体となった問題であり、このことは日本においても決して例外ではないのである。
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2012年世界の核情勢
アメリカの核政策を中心に


田中利幸

広島平和研究所


1)米国核関連予算
本年213日、オバマ米国大統領は、総額約38千億ドル(約300兆円)の2013会計年度(1210月~139月)予算方針を示す予算教書を連邦議会に提出した。財政赤字大幅削減を目指す様々な政策が含まれているが、11月の大統領選挙で2期目を目指すオバマ大統領は、選挙票獲得のための一般国民向けアピールという目的もあって、富裕層に対する増税、中小企業の雇用増加のための減税措置、雇用創出のための公共事業計画や研究開発、雇用機会増進のための労働者向け再教育・訓練などの政策に6千億ドル(約48兆円)以上を割り当てた。こうした新政策の中には、全国35千校の学校の近代化、道路・鉄道・空港滑走路などインフラ・ストラクチャーの修理も含まれている。

その一方で、兵器調達費や軍事人件費を大幅に節約することで、国防関連歳出を今後10年間でこれまでの計画より4870億ドル(約39兆円)削減するよう国防総省に求めた。すなわち年間にして4兆円近い節減を要求しているわけであるが、これほど多額の節減が、超巨大な軍産複合体制に膨れ上がってしまっているアメリカで、はたして可能かどうかはおおいに疑問のあるところである。

2013年度国防総省の基本予算は、2012年度予算額に比べ、約51億ドル削減して5254億ドル(42兆円)。たった1%の削減にしか過ぎない。これとは別に、海外での戦費はイラクからの撤退やアフガニスタンからの撤退計画を受け、23%減の885億ドルが計上されている(ただし、アフガニスタンへの派兵については、2013年末まで67500人の兵員維持を想定)。さらに新しい削減政策の一つとして、現在11隻保有している空母を1隻減らして10隻とするという計画が出された(ちなみに、空母2隻以上を保有している国は米国以外に存在しない)。

この予算教書提出の翌日、「オバマ大統領が、戦略核弾頭の配備数を300400発に減らすことを選択肢の一つとして検討している」と一部のメディアが報じた。しかし、今後の核兵器配備水準として、実際にオバマ政権が想定しているのは、10001100発、700800発、300400発という三つの選択肢であり、しかも、これはあくまでも「希望的想定」であって、これら削減目標達成に向けての具体的な政策があるわけではないし、また期限を設定しているわけでもない。どうも、この発表は実際の政策作成というより、3月末にソウルで開催された第2回核安全保障サミットに向けて、「アメリカは核軍縮に積極的である」ということを世界に知らしめるための、一種の宣伝工作のためであったように思える。

にもかかわらず、ここ数ヶ月のオバマ政権の動きに関するメディア報道は、核軍縮に向けて米国政府が極めて積極的に動いているかのような印象を我々に与えるのであるが、果たして現実はどうであるのか、検討を加えてみたい。

A) 核兵器「現代化」のための2013会計年度予算
米国は、昨年2月にロシア政府との間で批准した核軍縮条約「新START」で、2018年までに核弾頭の配備数を1550発以下にする方針を決定したが、その一方で、貯蔵核兵器の「現代化」(既存核兵器の「寿命延長化LEP=「老朽化し、2040年までに寿命を終える現存の核兵器を、単純で堅牢な新型弾頭で置き換えるという計画」を含む)のためのプログラムを積極的に推進するために巨額の予算を計上してきたことは周知の通りである*。この核兵器「現代化」プログラムの任務を実際に負うのが、エネルギー省内の国家核安全管理局(NNSA)であるが、このNNSAに配分された2013年度予算は76億ドル(約6080億円)であり、これは2012年度予算の5%増額となっている。

確かに、今年度まで巨額の予算が投じられてきたニューメキシコ州ロスアラモスの「化学冶金施設建替え計画第2段階」には、来年度は全く予算配分を行わず、この計画は事実上延期となった。しかし、その分だけ大幅予算増加が想定されているのが、テネシー州オークリッジの新しいY-12ウラン処理施設建設費であり、1.6億ドルであった2012年度予算額が、2013年度要求額では3.4億ドル(約272億円)に跳ね上がっており、完成までの総額費は65億ドルから75億ドル(約6000億円)になると推定されている。

ロスアラモスの「化学冶金施設」は、年間5080個の核弾頭を製造する目的のための施設であるが、NNSAによれば、ロスアラモスやネバダ核実験場、カリフォルニア州ローレンス・リヴァモア国立研究所などの既存の施設の活用で、年間1020個の核弾頭製造ならびに核弾頭寿命延長研究は十分行えるとのこと。「化学冶金施設建替え計画第2段階」を5年間延期することで、13億ドル(1040億円)を節約し、その分をY-12ウラン処理施設建設費やその他の核兵器製造プログラムに増配分しようというわけである。

にもかかわらず、共和党のタカ派の議員の中には、「オバマの2013年度NNSA予算配分は核兵器現代化という公約を破るものであり、予定通りの予算配分を行わなければ、新STARTに基づく核弾頭配備数の削減実施を妨害する」とまで述べて強く反対している。すでに述べたように、実際には5%の増額になっているのであるが、2010年にオバマ政権が算定した2013年度の予測予算配分と比較すると4%減っているではないかというのが、彼らの言い分なのである。これほどまでの巨額を核兵器製造・寿命延長プログラムにつぎ込んでおきながら、まだ不十分であると主張する議員たちがいるのがアメリカ軍産複合体制の実態である。(ちなみに、カーネギー国際平和研究財団の推定によれば、2012年度の米国の核兵器関連予算の総額は613億ドル[49千億円]であったのに対し、ロシアは148億ドル、中国が76億ドル、フランスが6億ドル、インドが4.9億ドルと算出されており、米国の核関連予算はダントツである。)

さらに、オバマ政権下では、20109 月、11月、12月と3回、2011年には2月、3月、9月、11月と4回にもわたり、次々と、未臨界実験であるが、核実験を実施してきた。おそらく、今後も新型核兵器をはじめとするこの種の未臨界実験は繰り返されるであろう。

NNSAのプログラムを詳しく紹介しているスペースがここではないが、結論として言えることは、米国は、核弾頭の配備数は削減するが、新型核兵器、とりわけ戦術核兵器の威力強化を計るプログラムには巨額の予算を配分しているのであり、20094月のプラハにおける、オバマ大統領の「核兵器のない世界を目指す」という表明とは裏腹に、それとはまさに逆行する政策を米国はとっていることは明らかである。

したがって、オバマ大統領の表向きの「核軍縮政策」を応援すれば核廃絶の道は開けると、「オバマジョリティ・キャンペーン」などという愚鈍な運動を、違法にも市民の税金まで使って推進した前広島市長、秋葉忠利氏の広島市民に対する責任は極めて重いと言わざるをえない。

B) 核兵器運搬手段のための2013会計年度予算
オバマ政権は、核兵器の新型化に巨額の予算配分をしているだけではなく、核兵器運搬手段の「現代化」にも同じく多額の金を注ぎ込んできたが、2013年度予算でも、その傾向は変わらない。核兵器運搬手段開発のための2013年度予算は、2012年度と比較して1850万ドル(15億円)の増加となっているが、そのうちの主たるプルグラムには次のようなものが含まれている。

15.5億ドル(440億円)の核兵器搭載用新型爆撃機LRPBの開発:長距離飛行が可能な新型爆撃機を2020年代半ばまでに80機から100機製造するための開発費に、2013年度予算として29千ドル(232億円)を計上。核兵器搭載用爆撃機として、現在、91機のB-5220機のB-2を米軍は保有しているが、これらは2040年代半ばまで配備し続け、その後は40億ドルをかけて5年間で改良する予定となっている。この新型爆撃機LRPB研究開発のために、空軍は、これから5年間で63億ドル(5040億円)を要望している。

核弾頭搭載用の新型クルーズ・ミサイルの開発研究予算として200万ドル(16千万円)。この上に、既存の核弾頭搭載クルーズ・ミサイルW80-1の寿命延長計画のために、NNSAは来年度予算として4600万ドル(36.8億円)を要求している。

新型大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)の開発研究:現存する450発のMinuteman III ICBM2030年まで配備し続けられるが、その後配備予定のICBMの開発研究のために1160万ドル(約93千万円)。さらに、Minuteman III ICBMにはW78型核弾頭が装備されているが、現在、これを順次、新型でさらに強力なW87型核弾頭に入れ替えている。このW87型核弾頭を2025年まで配備可能なようにするために、空軍は2013年度予算として8600万ドル(69億円)を要求している。

核ミサイル搭載用新型潜水艦の開発研究:現在使われている14隻のオハヨー型潜水艦を、2031年から戦略核兵器搭載用の新型潜水艦SSBN-Xと徐々に入れ替えるための、開発研究費として来年度は56500万ドル(452億円)を要求。最終的に、海軍は12隻のSSBN-X製造を希望しているが、現段階での総額見積もりだけでも850億ドル(68千億円)がかかると推定されている。

これらのプログラムのどれも、今後、数十年にわたるタイムスパンを考えての研究開発・製造であることから、米国が近い将来に向けて、核軍縮政策を積極的に推進していこうなどという意向は全く持っていないことは明らかであろう。

しかしながら、「このような巨額な予算を毎年繰り返し核兵器ならびに核兵器運搬手段に注ぎこむことが、経済的にいつまで可能なのか」と、誰しも疑問をもたざるをえない。軍産複合体制は、まさに薬物中毒と言えるだろう。「兵器製造」という薬物にどっぷりと浸かってしまっているアメリカの経済構造を、徹底的に解毒して根本から変革するのは容易ではない。しかし、そうした解毒処理をしなければ、遅かれ早かれアメリカ経済は崩壊する。崩壊の兆しは、言うまでもなく、すでにいろいろな形で現われていることは間違いない。

赤字大幅削減を目指した2013年度予算方針がそのまま実行されたとしても、赤字は9010億ドル(72兆円)を超えるであろうと予測されている。2012年度の財政赤字予想額が13300億ドルなので、確かに改善したと言えるかもしれないが、こんな状態を長年にわたって続けることができるはずがない。経済が崩壊したとき、残った「資産」が膨大な量の核兵器というというのではあまりにも悲惨である。

2) アメリカの外交政策と核問題
相変わらずアメリカ政府は、北朝鮮同様に、イランを核兵器開発を進めている「ならず者国家」とみなし、経済制裁や軍事的な脅かしなど様々な抑圧をかけている。ところが、不思議なことには、CIA国家情報会議 National Intelligence Councilなどの米国の諜報機関も、IAEAの科学者たちも、現在、イランが取り組んでいるウラン濃縮工程は20%以上の濃縮を超えるものではなく、核兵器製造にはほど遠いと結論づけているのである。しかも、イランはインドや北朝鮮とは異なり、NPT(核拡散防止条約)の加盟国であり、「NPT脱退」などということはこれまでにほのめかしたこともない。すなわち、イランの行動はNPTに沿った正当なものであると現在の段階では言わざるを得ないのである。(誤解していただきたくないが、私は、イランの「原子力平和利用」計画を支持しているわけでは決してない。どのような形であれ、核利用には私は絶対反対である。)

オバマ政権の、中東における石油資源確保という真の目的を隠した「イラン敵視政策」は、「大量破壊兵器を隠し持っている」という口実をもとに、国際法に違反してまでイラクを攻撃したブッシュ政権と類似している点で、ひじょうに危険性を感じざるをえない。

最近、イランへの武力攻撃の可能性をあからさまに公言しているイスラエルは、NPTに加盟することを強く拒み続け、200発から400発の核弾頭を保有しているのみならず、大量の化学・生物兵器も貯蔵していると言われている。このようなイスラエルのイラン攻撃計画を、オバマ大統領は暗に支持するどころか、イスラエルのネタンヤフ首相のワシントン訪問に合わせた今年3月の『アトランティック誌』の記者とのインタヴューでは、「時期と状況が必要とするならば、軍事力を使う」と述べて、アメリカ自体も攻撃を行う可能性があることを公言してはばからない。

「中近東非核地帯」の設置に向けてアラブ諸国はひじょうに積極的であるが、この実現に向けての努力に最も妨げになっているのも、パレスチナをはじめ近隣諸国に対して無法な武力行動を繰り返している核兵器保有国イスラエルであることは、改めて述べるまでもないであろう。イスラエルの最近のある世論調査によれば、イスラエル市民の64%が「中近東非核地帯」の設置に賛成しているにもかかわらずである。

NPTを尊重せよと主張しているアメリカが政治的圧力を加えるべき相手は、したがって、本来ならば、イランではなく、むしろイスラエルであろう。ところがアメリカは、イスラエルにはもちろんのこと、中近東の他の親米国にも大量の武器を輸出し、この地域の政治不安定を増長しているのが実態である。例えば、サウジアラビアには、現在、戦闘機、戦闘用ヘリコプター、最新式銃砲など、総額600億ドル(4兆8千億円)にものぼる史上最多額の兵器をアメリカは輸出しつつある。「イラクからは撤退した」というオバマ政権であるが、兵員、CIAメンバー、軍委託民間人など16千人ものアメリカ人がいまだイラクにとどまっている。

さらには、イランを重要な攻撃目標の一つにした「ミサイル防衛システム」をヨーロッパに置くというアメリカの戦略は、ロシア政府に深い疑念と反感を呼び起こしており、昨年11月には、(この5月に大統領に再び就任した)当時のプーチン首相をして、「新START」の破棄もありうるとまで言わせているのである。同じ昨年11月に、当時のロシア大統領メドベージェフも、NATOとアメリカの「ミサイル防衛システム」に対抗できるような軍事力増大と戦略作戦構築をロシア軍に命令している。ロシアが「新START」を破棄することになれば、その影響は、すでに弱体化しているNPT体制をさらに無力なものにすることにまで及ぶことは確実であろう。 

ヨーロッパにおける「ミサイル防衛システム」は、現在その第1段階にあり、地中海を航海するイージス艦に搭載されたSM-3ミサイルと、トルコに設置されたレーダーを活用することになっている。今後、2015年にはルーマニアに、2018年までにはポーランドからミサイル発射ができるようにし、2020年までには長距離弾道弾を撃ち落とすことができるSM-3IIBを配備する計画となっている。現在、アメリカは、800個のICBMが緊急発射でき、潜水艦からも弾道ミサイルが発射できる体制をとっており、基本的に冷戦時代と変わらない体制を取り続けているのである。ロシアや中国が懸念しないわけにはいかないこのような状況を作り続けているアメリカに、他の核兵器保有国や核兵器開発を目指している国を非難する資格はない。

3月末にソウルで開催された第2回核安全保障サミットでは、アメリカの主導で「核テロ」の危険性ばかりが強調され、主題となるべき「核保有国の核兵器をどうするのか」という問題についてはほとんど議論されなかった。過去20年間で核燃料の紛失または盗まれたケースが500以上あるという国連報告は確かに懸念すべき事態であり、確固たる安全対策が早急にたてられる必要がある。しかし、福島原発事故いらい多くのアメリカ市民が最も心配している「テロ」は、核兵器を使うテロではなく、例えば、ニューヨーク市街地から50キロしか離れていないインデアン・ポイントの原発への民間飛行機の乗っ取り・激突という、「911テロ」と同類の攻撃である。原発へこのような攻撃が行われたならば、その甚大な被害は想像を絶するものになることは間違いない。このような事態を避ける有効な方法は、「テロ対策」などではなく、テロを発生させないような外交政策を展開し、平和構築への努力を地道に行うことであることは改めて言うまでもないであろう。同時に、一日も早く原発廃止を具体的にすすめていく政策の導入が求められる。

NPT加盟国でないイスラエルやインドに核技術のみならず最新兵器の輸出まで行う一方で、NPT加盟国であるイランを敵視し封じ込め作戦を展開するというアメリカ政府の矛盾。しかも、自国は核兵器と核兵器運搬手段の「現代化」に巨額の金を注ぎ込んでおきながら、ソウルでの第2回核安全保障サミットでは「核テロ」の危険性を指摘するという矛盾。このようなアメリカの核政策がもつ深い矛盾を目にし、イラク戦争期に次期攻撃目標国として名指しされた北朝鮮が、核武装を行いICBM開発までしてアメリカと対峙しようとする態度を固持していることを一方的に批判することだけでは、北東アジアの不安定が解決できないことも明らかであろう。

413日に打ち上げ失敗に終わった北朝鮮のロケット発射を、北朝鮮はあくまでも人工衛星用ロケットであると主張したにもかかわらず、アメリカ、日本、韓国をはじめ多くの国々がこれを長距離弾道ミサイル発射実験であると決めつけ、実験前から強く非難。この機を逃すなとばかり、自衛隊は沖縄にミサイル防衛システムを配備し、メディアも連日この問題を大きくとりあげ、大騒ぎとなったことは記憶に新しい。その6日後の419日、今度はインドが核弾頭搭載可能な長距離弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験を行い、成功したと発表した。このミサイルの射程距離は約5000キロで、中国全土を射程内におさめることができる。インドは1年以内にこの新型ミサイルを実際に配備する計画で、その上に、現在、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も開発中である。ところが、アメリカはもちろん、ほとんどの国がこれを黙認状態で、メディアもほとんど報道しないというありさまであった。北朝鮮のロケット発射事件だけが、実験失敗後も問題は尾を引いて、国連安保理事会で北朝鮮への経済制裁措置まで決められた。いったい、我々はどこに「国際正義」を求めたらよいのであろうか。(これまた誤解していただきたくないが、私は北朝鮮の行動を支持しているのでは全くない。)

毎年、米国の軍事予算が発表されるたびに、アメリカ核政策批判を同じように繰り返し述べなければならないのは実に残念であるが、現在の核兵器をめぐる世界状況を変えるには、まずは、核超大国であるアメリカの核政策をいかに変えるかを常に問題にし、それを念頭におきながら、反核運動を世界的な規模で展開していく具体的で有効な方法を模索し続けていく必要がある。

さらに、我々日本の市民が深く考えなければならないことは、単に、こうしたアメリカの核政策を日本がこれまで戦後一貫して支え、アメリカの「核抑止力」に依存してきたということだけではない。最近、アメリカでも議論され始めたように、アメリカは、日本に核再処理施設の設置と高濃度プルトニュウムの抽出を許し、日本が核兵器製造能力を開発・維持することを積極的に援助してきたという事実である**。日本の原発推進は、これまで議論されてきたような、単なるエネルギー問題では決してなく、「核兵器製造能力の維持」という日本政府の隠された一貫した政策と密接に絡んでいたことを、今こそ我々は深く再確認し、その知識を今後の反核・反原発運動に十分に活用していく必要があることを忘れてはならない。私はこれまで、様々な場所で繰り返し述べてきたが、核兵器と原発は決して分離できない、表裏一体となった問題であり、このことは日本においても決して例外ではないのである。

— 完 —

* 詳しくは、例えば、拙著「「2010 NPT 再検討会議」の結果とオバマ政権の核政策批判」を参照されたし。


** 最近発表された Joseph Trentoの論考 ‘United States Circumvented Laws To Help Japan Accumulated Tons of Plutonium’ は、この歴史的事実を、多くの証拠書類を使いながら極めて詳細に紹介している。


(酒井泰幸による日本語訳:「法の抜け道を使って日本のプルトニウムを蓄積を助けたアメリカ:NSNS ジョセフ・トレント論説」
http://peacephilosophy.blogspot.ca/2012/05/nsns-us-circumvented-laws-to-help-japan.html
20125月8日)

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