Sunday, October 19, 2025

『朝鮮新報』より転載:歴史の分岐点で問われる西側の選択/乗松聡子 A Turning Point in History: What will the West choose? 

 『朝鮮新報』連載「私のノート 太平洋から東海へ」5回目(25年9月1日)から許可を得て転載します。「9.3」前の記事だったので、以下の記事と合わせて読んでください。

欠如する歴史的視点 対日戦勝記念日 <乗松聡子の眼>

日朝国交正常化のためには、日本人が変わらなければいけない (9月27日シンポジウム「日朝ピョンヤン宣言から23年 国交正常化を求めて」乗松聡子発言)


〈私のノート 太平洋から東海へ 5〉

歴史の分岐点で問われる西側の選択/乗松聡子

2025年09月01日 09:00

8月15日は日本の「終戦記念日」です。この日の日本政府による「全国戦没者追悼式」での石破首相の挨拶には、首相としては13年ぶりに、戦争の「反省」という言葉が入りました。天皇も例年と同様「過去を顧み、深い反省の上に立って」と言いました。しかし誰に対し何を反省しているのかは語りません。

この式典は「戦禍に倒れた約310万人の方々の尊い犠牲」を追悼するためとされています(厚労省のHPより)。日本政府がいう、軍人・軍属230万、民間人80万は、日本人の戦没者の概数です。そこには植民地支配の下、日本人として動員され殺された朝鮮や台湾などの人々さえ入っていません。

アジア太平洋全域で2千万人以上の人たちの命を奪った戦争の追悼式で、310万人の日本人しか追悼していないのです。これは日本の侵略戦争を生み出した自国中心主義と通底する、「日本人ファースト」式典です。根本が間違っているのです。

8月15 日は、朝鮮半島の人々にとって、日帝の植民地支配から解放された日です。朝鮮の金正恩委員長は、祖国解放80周年の慶祝大会での演説で、「5千年の歴史に最大の恥辱を残し、人民の恨みと悲しみが骨髄に徹した亡国史の流れを止めたのが祖国の解放でした」と言いました。朝鮮の悠久の歴史の中で唯一、国そのものを奪うという罪を犯したのが日本だったのです。

ロシアのヴォロージン下院議長を招待したこの大会で、委員長はこうも言いました。「今日、朝ロ親善関係は歴史に前例のない同盟関係へと発展し、ネオナチズムの復活を阻止し、主権と安全、国際正義を守り抜くための共同の闘争を通じて強化されています。…(中略)今年、人類は全世界を奴隷化しようとしていたファシズムを撃滅し、その犯罪的蛮行に終止符を打った第二次世界大戦終結80周年を迎えています。」

祖国解放80周年をロシアの代表団と共に祝った、平壌における慶祝大会(8月14日、朝鮮中央通信=朝鮮通信)

歴史と現在を見事に繋げる言葉でした。ファシズムも、ナチズムも、昔のことではありません。ウクライナ戦争の根本の原因は、ソ連が崩壊し、冷戦が終結したにも拘らず、米国が率いるNATOが東方拡大を続けロシアを威嚇し続けたことにあります。2014年、米国がネオナチ勢力を投入してウクライナ政権を転覆させた「マイダンクーデター」以来、傀儡政権が東部でロシア系住民を迫害し、ウクライナは西側によるロシア侵略の拠点となりました。

ロシアにとって特別軍事作戦の目的は、自国を守るためのウクライナ中立化、非ナチ化であり、第二次大戦のナチスとの闘いと直結しています。西側メディアは180度違う報道をしていますが、いま「グローバル・マジョリティー」とも呼ばれる、グローバルサウス諸国では、この戦争の本質は広く共有されています。ロシアに軍事的協力をした朝鮮もその一国です。

8月15日は、アラスカにて、トランプ大統領とプーチン大統領の歴史的会談も開催されました。バイデン政権が外交を遮断し、4年間途絶えていた米ロ直接対話の再開だったのです。それなのに西側メディアは「テレビ向けの見世物」「KGB元将校がトランプを懐柔」といった、戦争を続けたいとしか思えないような語り口でした。

地政学アナリストのペペ・エスコバール氏は、アラスカ会談でプーチン大統領は、ロシアだけでなく「BRICSを代表していた」と指摘しています。ウクライナ戦争を受けた対ロシア制裁や、「トランプ関税」は、その意図とは逆にBRICS諸国を結束させ、脱ドル化を加速させました。いまやBRICSはパートナー国も合わせた20ヵ国で、世界のGDP(PPP購買力平価ベース)の46%、人口は55%を占めます。そのBRICS勢力を抑えるために米国をはじめ西側は、戦争や制裁を仕掛け続けています。

アラスカ会談は、8月15日に行われたことも象徴的でした。ロシアと米国は、第二次世界大戦の連合国側としてドイツと日本のファシズムを倒したという歴史を共有しています。プーチン大統領は会談後、アラスカで亡くなったソ連の飛行兵の墓に献花しました。

そして舞台は北京に移ります。5月9日のモスクワでの対独戦勝記念日に続き、9月3日の対日戦勝記念日に習近平主席とプーチン大統領が再び同席、さらに金正恩委員長も出席します。日本は本当に「反省」しているのなら敗戦国としてこの式典に敬意を払うのが筋でしょう。しかし報道によると、日本は各国に、「反日」的な行事に参加しないよう呼びかけています。あまりにも恥ずかしい行為です。

この式典にはトランプ大統領も招待されていると報じられています。今、かれが率いる西側帝国は、歴史の分岐点に立っていると言えるでしょう。失いつつある覇権にしがみつき破壊の道を歩み続けるのか。それとも国際協調の道を選ぶのか。西側の忠実な一員である、日本にも突きつけられている問いです。9月3日、日本人として北京に思いを馳せたいと思います。

(転載以上)

元記事URL:https://chosonsinbo.com/jp/2025/09/01sk-25/

Saturday, October 18, 2025

ジェノサイドへのカナダの共犯を問う:ウー元老院議員 Canadian Senator Yuen Pau Woo Calls for Inquiry into Canada’s Complicity in Genocide

カナダ元老院のブリティッシュ・コロンビア州代表議員の一人、ユエン・パオ・ウー氏は、「10.7」2周年の2025年10月7日、イスラエルによるパレスチナ人のジェノサイドにカナダがどう加担したか調査を3カ月以内に求める動議を出した。内容は格式高く、「反ユダヤ」という言いがかりをつけられないような考慮もしてあった。それでも演説の途中に妨害が入った。この妨害の様子も含めて、ウー議員のサイトにあった全文の訳(AI訳に少し手をいれた翻訳)を紹介する。(アップ後翻訳を修正することがあります。太字は訳者がつけました。)
 

 ユエン・パウ・ウー上院議員(2025年6月25日付の通告に基づき)提出:

「国際司法裁判所および国際刑事裁判所によるガザ情勢に関する判断および命令を踏まえ、上院は政府に対し、カナダおよびカナダ国民が国際人道法違反(戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドを含む)に加担している危険性を検討し、この動議の採択から3か月以内にその調査結果を報告するよう求める。」

発言:
尊敬する上院議員の皆さま、本日は厳粛な日です。2年前の今日、イスラエル南部で1,200人を超える男女と子どもたちが殺害されました。私はこの議場の皆さまに、その日の恐怖、そしてそれ以来毎日のように続いてきたその余波の恐怖について、改めて考えていただきたいと思います。それはイスラエルにおいてだけでなく、ガザやヨルダン川西岸でも起きていることです。

私は2023年10月7日における罪のない市民の殺害を強く非難いたします。それは「ホロコースト以来、ユダヤ人にとって最も悲惨な一日」と形容されてきました。私はまた、最近マンチェスター、ベルリン、ワルシャワ、東京、そしてここオタワでも起きた、ユダヤ教のシナゴーグやコミュニティ施設でのユダヤ人への攻撃を非難いたします。わずか1か月前には、ここオタワの食料品店で高齢の女性が襲撃されました。ユダヤ人コミュニティはこうした暴力に深く動揺しており、反ユダヤ主義へのより強力な対策と、ホロコーストに関する教育の拡充を求めています。

国際ホロコースト記念の日(1月27日)まで、あと4か月ありますが、私たちはその日を待たず、今日から毎日をその精神に沿って過ごすべきだと思います。すなわち、ナチスによって殺害された600万人のユダヤ人と、さらに数百万人に上る他の犠牲者を追悼し、ジェノサイドを「二度と繰り返さない」と誓う厳粛な決意を新たにするという意味であります。

私たちは、今日もまた「二度と繰り返さない」はずのことを許してしまっている以上、毎日を国際ホロコースト記念の日として刻まなければなりません。ナチスによって甚大な迫害を受けたセム系民族を代表する現代国家が、別のセム系民族に言葉では言い表せないほどの恐怖を与えているという現実を直視するのは、多くの人にとって極めてつらいことだと思います。

イスラエルという国家がパレスチナ人に対してジェノサイドを行っていると指摘することは反ユダヤ的である、という意見を述べる人もいます。しかしその主張は不誠実であり、論理的でもありません。それはまた、ホロコースト記念の本来の目的と、「二度と繰り返さない」という精神をも汚すものです。

もちろん、ジェノサイドが起きたことを否定する人々もいます。ジェノサイドは国際法上「犯罪の中の犯罪」とも呼ばれており、人権侵害が深刻なさまざまな事例において、広く使われることの多い言葉です。私は軽々しくこの言葉を使うことはなく、ジェノサイドの認定に厳密な基準を適用する専門家の判断に委ねます。

しかし2023年10月7日以降のイスラエルによるパレスチナへの攻撃に関しては、ジェノサイドが発生しているという見解があまりにも圧倒的であり、私たちはもはや目を背けることができません。つい先月、国連の独立国際調査委員会が――

異議申し立て(Point of Order)

パメラ・ウォーリン上院議員:
異議を申し立てます。規則6-13(1)に関するものです。これは「鋭い言葉や侮辱的な言葉遣い」に関する規定ですが、「ジェノサイド」という言葉の使用、そしてそのような表現を私は本当に不快に感じます。

ジェノサイドが立証されたとは思いませんし、特に本日、私たちは約1,200人の魂――その中にはカナダ人も含まれます――が残虐に殺害された日を追悼しているのです。このような日にその言葉を使うことは極めて不適切であり、この議場の品位を損なうものだと思います。

議長代理(The Hon. the Speaker pro tempore):
他に発言を希望する上院議員はいらっしゃいますか。

ウー上院議員:
議長、私はこれからまさに、なぜジェノサイドが発生したのかという証拠を提示するところでした。1か月前に判断を下した国連人権理事会の独立国際委員会の引用も含めて説明するつもりです。

議長代理:
この異議申し立てに関して、他に発言を希望する上院議員はいらっしゃいますか。

【フランス語通訳部分】

レイモンド・サン=ジェルマン上院議員:
もしお許しいただけるなら、議長、私はこう考えます。今日は、全世界のユダヤ人だけでなく、この地球上のすべての人間にとって、悲しく、受け入れがたい一日を追悼する日です。
私は、10月7日の悲劇的な出来事以外のテーマであれば、上院議員が明日、演説を続けられるよう提案いたします。

【英語に戻る】

ウー上院議員:
議長、私はそれを私の特権の侵害と考えます。私はすでに演説を始めており、その中で取り上げた論点についてこれから詳しく説明するつもりでした。ちょうどウォーリン上院議員が異議を唱えた点について、今まさに論証を始めようとしていたところです。

もし上院議員の皆さまが私にこの演説を続けることをお許しくだされば、なぜこの主張が非常に説得力を持ち、なぜ私たちがこの問題を真剣に受け止める必要があるのかを理解していただけると思います。

ヨナ・マーティン上院議員(野党副党首):
もし発言を許されるなら、ウォーリン上院議員とサン=ジェルマン上院議員のご発言を支持したいと思います。
今日は非常に意義深い日であり、私たちは2年前の10月7日の恐怖についての声明を先ほど聞きました。ですから、世界中のユダヤ人コミュニティ、特にここカナダにいる方々への心からの敬意をもって申し上げます。ウー上院議員にはご自身の声明を続ける権利があることを十分に承知していますが、その発言を明日に延期されることを、今この時に私たち全員が共有している敬意の表れとしてご検討いただければと思います。

ウー上院議員:
議長、私はユダヤ人コミュニティへの深い敬意からこの演説を行っております。2023年10月7日の恐怖をどのように非難するか、そしてカナダや世界中でユダヤ人に対して行われている暴力行為をどのように非難するか、すでに明確に述べております。

上院議員の中の一部の方々が不快に感じる可能性があるという理由で、この演説を続けることを認めないのは、ユダヤ人の方々に対しても不当だと思います。
もし皆さまが「ジェノサイドは起きていない」という立場を取られるならば、この議場で議論すればよいのです。そして、私が提示する証拠を検討していただきたいのです。

議長代理(The Hon. the Speaker pro tempore):
尊敬する上院議員の皆さま、私はすべての上院議員に、規則6-13を順守していただくようお願い申し上げます。念のため、その規則を読み上げます。

「すべての個人的、攻撃的、または侮辱的な発言は、議会の品位に反し、不適切である。」

ウー上院議員をはじめ、すべての上院議員に対し、この規則をよくご考慮のうえ、討論に臨んでいただきたいと思います。 

議題:

ユエン・パウ・ウー上院議員が提出し、ディーン上院議員が賛成した動議の討論を再開する件。

その動議の内容は次のとおりです。

「国際司法裁判所および国際刑事裁判所によるガザ情勢に関する判断および命令を踏まえ、上院は政府に対し、カナダおよびカナダ国民が国際人道法違反(戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドを含む)に加担する危険性を検討し、この動議の採択から3か月以内にその調査結果を報告するよう求める。」

ジェノサイドを終わらせる責任は、何よりもまずイスラエルにあります。しかし、それはイスラエルだけの責任ではありません。カナダを含むすべての国家は、国際法および国内法の下で、ジェノサイドを終わらせ、それに責任を負う者を処罰する法的義務を負っています。

ここで、私の動議について申し上げます。私はカナダ政府に対し、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドを含む国際法違反への加担というリスクが、カナダおよびカナダ国民に存在するかどうかを検討し、この動議の採択から3か月以内にその調査結果を報告するよう求めています。

なぜこの動議が必要なのでしょうか。それは、この2年間、ガザにおいて深刻な国際法違反が行われてきたからです。これらの忌まわしい行為は、私たちの携帯電話でライブ配信され、イスラエルの指導者たちによって、傲慢さとほぼ完全な不処罰のもとで公然と発信されてきました。

私たちはそれを防ぐために何をしたのでしょうか。イスラエルが戦争犯罪を犯しやすくするために、私たちは何をしてしまったのでしょうか。警鐘を鳴らそうとしたカナダ人を、なぜ処罰し、弾圧したのでしょうか。ガザの状況に対する私たちの対応が、例えばウクライナの場合と比べて、なぜ二重基準になっているのでしょうか。これらは、私の動議が答えを求める問いのほんの一部です。そしてそれは政府に対する問いであるだけでなく、カナダ社会全体が問うべき問題でもあります。

大学は、パレスチナの正義を訴える学生や教職員に対してどのように対応したのでしょうか。イスラエルへの投資に関しては何をしてきたのでしょうか。カナダの企業や年金基金はどうでしょうか。専門職団体、病院、教育委員会は、パレスチナでの残虐行為に声を上げる会員を沈黙させるために、「反ユダヤ主義」というレッテルをどのように利用してきたのでしょうか。

メディアはなぜ、パレスチナ情勢の報道でこれほどまでに一方的だったのでしょうか。そして、その偏った報道は、ジェノサイドの進行を許すうえでどのような役割を果たしたのでしょうか。イスラエルおよびその同盟国の利益のために、私たちの安全保障・情報機関は、どれほどの外国からの干渉や偽情報をカナダ国内で許容してきたのでしょうか――それは戦争犯罪に加担する形であったのではないでしょうか。

ジェノサイドを行うことの禁止は、jus cogens(強行規範)と呼ばれるものであり、個人や法人を含むいかなる当事者もそれを逸脱することは許されません。

私はこの動議を提出するにあたり、ジェノサイドがまさに私たちの目の前で進行している間に、カナダとして私たちは何をしていたのかについて、国民的な対話を呼びかけています。これは不快に感じる議論かもしれませんが、必要不可欠な議論であり、すでに国内のあちこちで始まっています。
たとえば、カナダの加担についての市民法廷が11月に予定されており、これは英国で行われている「ガザ法廷(The Gaza Tribunal)」の取り組みを反映し、またベルトラン・ラッセルによる有名な「ベトナムにおける米国の戦争犯罪に関する法廷」をモデルとしています。

「加担」の問題は、学問的な議論ではありません。それは、カナダが遵守すると主張している国際法に関する問題です。私たちが本当に国際法を守っているかどうかの最終的な試金石は、私たち自身がその法に違反する立場に置かれたときに現れます。
そして、イスラエルによるガザでのジェノサイドというこの事例において、私たちはまさにその極めてて苦しい立場に置かれている可能性が高いのです。

2024年10月に、国連「被占領パレスチナ地域に関する独立国際調査委員会(The UN Independent International Commission of Inquiry on the Occupied Palestinian Territory)」は、その立場文書の中で次のように述べています。

「委員会はまた、『共犯(complicity)』による国家責任にも留意する。すなわち、ある国家が、他の国家による国際的不法行為の実行を故意に支援または援助する場合である。
委員会は、国際人道法違反について、すでに2023年10月7日以降のガザ戦争においてイスラエルが戦争犯罪を犯したと報告していることを指摘する。
ジェノサイドの問題に関しては、『ガザ地区におけるジェノサイドの防止および処罰に関する条約の適用』に関する訴訟で国際司法裁判所が出した暫定措置命令(provisional measures orders)に留意する・・・
委員会は、ガザでの軍事作戦におけるイスラエルの行為、および東エルサレムを含むヨルダン川西岸の不法占領の両方において、イスラエルが国際的不法行為を行っている、あるいは行っている可能性があるという通知がすべての国家に出されていると認定する。
したがって、もし諸国家がイスラエルによるこれらの行為の実行を援助または支援し続けるならば、その国家はこれらの国際的不法行為に共犯(complicit)であるとみなされることになる。」

カナダ政府の立場は、最近任命された新しい国連大使によって示されたところによれば、「ガザでジェノサイドが発生したかどうかについて最終的な判断を国際司法裁判所(ICJ)が下すのを待っている」というものです。
しかし、これは最善でも国際法の誤解に基づくものです。

ジェノサイド条約(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide)は、加害者の処罰だけでなく、ジェノサイドの発生を防止することをも目的としています。
カナダは、少なくとも2024年1月の時点で、差し迫ったジェノサイドの危険について警告を受けていました。
2024年4月に国際司法裁判所が出した最新の勧告的判断では、同裁判所は次のように述べています。

「すべての国家は、可能な限り、合理的に利用可能なあらゆる手段を用いてジェノサイドを防止しなければならない。」

イスラエルによるガザ攻撃の初期数か月の間、カナダ政府の立場は主としてイスラエルの行動を擁護するものでした。
この議場でも、前任の政府代表から同様の発言を聞きました。私は何度もこの問題について質問しましたが、政府代表は次のように答えました――
イスラエルによって人道支援が妨げられている事実はない、イスラエル国防軍(IDF)による民間人の標的化はない、そしてイスラエルの行動は自衛の権利の範囲内である、というものでした。

しかし、国連人権高等弁務官および多くの人権団体は、人道支援や食料の意図的な封鎖、さらに民間業者を通じた支援物資の兵器化を記録・報告しています。

これらすべての情報はカナダ政府も把握しています。
政府自身、ガザの状況に対して遺憾の意を表する声明を定期的に発出しており、そのこと自体が事態の深刻さを認識している証拠でもあります。

2025年5月19日、カナダがイギリスおよびフランスとともに発表した声明が、おそらく最も強い内容のものだったと思います。

「私たちは、イスラエルによるガザでの軍事作戦の拡大に強く反対する。ガザにおける人道的苦難の程度はもはや耐えがたい。私たちはイスラエル政府に対し、ガザでの軍事作戦を停止し、人道支援を直ちにガザに入れるよう求める。

もしイスラエルが新たな軍事攻勢をやめず、人道支援に対する制限を解除しない場合、私たちはさらなる具体的な措置を講じる。」

しかし、軍事攻勢はむしろ強化され、イスラエルは人道支援の制限を続けました。その結果、国連はガザを「世界で最も飢えた場所」と呼ぶまでになりました。声明の発表から4か月が経った今も、カナダは虐殺を止め、ガザへの人道支援を回復させるための具体的な行動を何ひとつ取っていません。その間に、悲劇はさらに深まりました。
現在では、20万人を超えるパレスチナ人が殺害または負傷し、ガザのインフラのほとんどが破壊されました。私たちは今、過去の空虚で敬虔な声明を振り返り、それが本当は何であったのかを理解することができます。

ジェノサイド条約および国内法のもとで、カナダはガザへの攻撃を止めるために、可能な限り合理的な行動を取る義務があります。
しかし、私たちはその法的責任を果たす代わりに、イスラエル政府との強固な軍事的、政治的、経済的関係を維持することで、イスラエルを支援し続けてきました。

たとえば、カナダは2023年10月から12月の間に、イスラエルへの軍事装備品輸出を2,850万ドル分許可しました。これは、2021年および2022年の年間総額を上回るものでした。
カナダ外務大臣がイスラエルへの今後の武器輸出申請を停止すると発表したのは、ようやく2024年3月のことでした。

しかし、NGO(非政府組織)のグループが2025年7月に公表した報告書によると、2023年10月から2025年7月の間にも、弾薬、軍事装備、兵器部品、航空機部品、通信機器などの軍用品がカナダからイスラエルへ継続的に出荷されていたことが記録されています。

こうした輸出について説明を求められた際、カナダ外務省(Global Affairs Canada)が示した唯一の説明は、NGOが使用したイスラエルの税関データが、輸出入許可法(Export and Import Permits Act)の運用に用いられているデータセットと一致していない、というものでした。

カナダ政府はまた、外国人従軍禁止法(Foreign Enlistment Act)に反して、戦闘任務および非戦闘任務の双方で、カナダ人がイスラエル軍に志願兵として参加することを黙認しています。
事実上、私たちはイスラエルのために戦争犯罪を支援・ほう助しているカナダ人の行為を見て見ぬふりをしているのです。

カナダが共犯とみなされ得るもう一つの要因は、イスラエルに対して金融的または経済的制裁を課していないことです。カナダは、イスラエル軍のいかなる構成員にも、また国家としてのイスラエルにも制裁を科していません。

言い換えれば、国際司法裁判所(ICJ)が2024年7月の勧告的意見の中で述べたように、カナダは、イスラエルの不法占領を維持したり、それに寄与したりするすべての金融・貿易・投資・経済関係を停止する義務を怠っています。

カナダは引き続き、カナダ・イスラエル自由貿易協定(Canada-Israel Free Trade Agreement, CIFTA)を通じてイスラエルに貿易上の利益を提供しています。
この協定(CIFTA)は、イスラエル産品と、占領下シリア・ゴラン高原を含む不法占領地からの産品とを区別していない点で、長らく国際法に違反してきました。

パレスチナにおけるジェノサイドの最中に、私たちがいまだにイスラエルに特恵的な市場アクセスを与え続けているという事実は、国際法を軽視する姿勢をさらに際立たせています。

尊敬する同僚の皆さまの中には、カナダ政府が共犯を認めることは国家利益を損なう自滅的な行為だと考える方もいらっしゃると思います。
司法省や外務省の法務顧問、さらには内閣の中でも、そのような考えがあることは確かでしょう。
政府の本能的な反応は、当然ながら「もっともらしい否認(plausible deniability)」を主張することです。
つまり、私たちはできる限りのことをした、今まで知らなかった、制約があった、責任の追及ではなく解決に関心がある――などと述べるのです。
場合によっては、ジェノサイドが起きていないと主張することで、それを防ぐために十分な行動を取らなかった責任から逃れようとするかもしれません。
それはまさに、カナダが150年間にわたって先住民族に対して「最善を尽くした」「被害を知らなかった」「過去は忘れるべきだ」と言い続けてきた、あの皮肉でゆがんだ論理と同じです。

カナダがルワンダのジェノサイドに対する不作為を認め、謝罪するまでには10年以上かかりました。
パレスチナでも、同じように長い年月がかかるのでしょうか。
世界が、もう一つのジェノサイドを防ぐ機会を持ちながら、それを止めることができなかったという事実は、すべての国にとって汚点です。
カナダがその失敗における自らの役割を早く受け入れれば、それだけ早く、国際社会における道義的地位と、世界の諸問題で真剣に受け止められる力を回復することができるでしょう。

いま私たちは、パレスチナ国家を承認したのですから、パレスチナに関して国際法を順守する責任はこれまで以上に大きくなっています。
この動議には多くの論点があります。私は、同僚の皆さまがそのいずれについても意見を述べてくださることを歓迎いたします。
もし私たちがこの動議を早期に可決できれば、国際ホロコースト記念の日に間に合う形で、政府からの回答を得ることができるかもしれません。
そして2026年1月27日、カナダが「二度と繰り返さない(Never again)」と言うときに、その言葉を本当に意味しているかどうかがわかるでしょう。

ありがとうございました。

(翻訳以上)

Friday, October 17, 2025

戦後80年 被害国の「継承」に目を向けよう 『JP通信』10月号より Eighty Years After the War: War Memory from the Perspective of the Nations Victimized by Japan

日本カトリック正義と平和協議会』が年6回発行している『JP通信』10月号に小文を載せていただきました。許可を得てここに転載します。


JP通信 25年10月号


戦後80年 被害国の「継承」に目を向けよう


乗松聡子(カナダ在住ジャーナリスト)

 80年前、1945年8月15日に崩壊した大日本帝国とは何だったのか。アイヌモシリを奪い、琉球を強制併合した。日清戦争で台湾を植民地化した。日露戦争で朝鮮の支配を確実にし、強制併合した。中国大陸への食指を強め、偽満洲国設立、全面侵略戦争に突き進んだ。大陸での戦争続行のため、東南アジアの欧米列強の植民地に戦争を仕掛け、ピーク時に今の日本の20倍もの領域に肥大した。アジア太平洋全域での日本軍の残虐行為によって少なくとも2千万人が殺された。何十万もの女性が性奴隷制や性暴力で尊厳と命を奪われた。天皇の名の下にすべての蛮行は正当化された。

 今年、日本では「戦後80年」という名の下に、様々な特集や行事があったが、日本の主流メディアはこのような大日本帝国の本質を扱うことはなく、概して広島・長崎の原爆投下、空襲、戦時下の困窮、家族の戦死、引き揚げといった、戦争終盤に日本人が被った被害にばかり目を向けた。中には「加害も見なければ」という人たちもいるが、70年余の暴虐の歴史は、「も」という二次的な扱いでは済まない。政府主催の戦没者追悼式も、「310万人」と推計する日本人の戦没者しか追悼していない。

 1千万人かそれ以上が命を奪われた、中国の被害は突出していた。その中国では今年「人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年」として、さまざまな記念行事が行われている。これに対し日本政府は真摯に向き合うどころか「反日感情の高まり」が予想されるからと、中国に住む日本人に注意を呼びかけている。

 9月3日の対日戦勝記念日式典にいたっては、諸外国に参加自粛を呼びかけた。もし原爆投下の加害者である米国が諸外国に、広島・長崎の式典に参加するなと呼びかけたらどうであろうか。恥ずかしいとは思わないか。日本は、自分たちの被害を「語り継ぐ」行為は清く正しいものとして推進しておきながら、その何倍も被害者がいる被害国の「語り継ぐ」行為には「反日」というレッテルを貼り貶めるという、ダブルスタンダードを露わにしている。

 加害国の自己被害者化はこれに留まらない。中国がこの節目に合わせて作った、南京大虐殺や731部隊をテーマにした映画を軒並み「反日映画」と呼び、メディアやSNSにはバッシングが溢れている。

 映画『南京照相館』は、南京大虐殺に巻き込まれた市民たちと、日本兵が人間性を失っていく有り様を描いた、ヒューマンドラマである。北米で封切りされた8月15日当日に観に行った。帰宅してすぐSNSに書き込んだ。「絶望、怒り、愛、信頼、裏切り、希望―人間のあらゆる感情がぎっしり詰まった映画でした。映画館は満員で、若い人が目立っていました。たくさんの人が泣き、私も泣きました。見る人誰もが登場人物に入れ込む映画だと思います。」

 私の投稿は、多くの人が「観たい!」という声とともに拡散した。歴史教育家の平井美津子さんは「世界中が見れるのに日本は見れない。まるで南京大虐殺があったときとおんなじやん!」と言っていた。当時も日本の普通の人たちは知らされず、全国で提灯行列や旗行列をやった。昔も今も、政府が情報を遮断している。

 上海の友人は、この映画を観た後に周囲の若者たちに声をかけたら、誰もが「日本を憎むのではなく、憎むのは当時の日本軍」と答えたという。「戦争の残酷さを目の当たりにしたからこそ、若者らは戦争に反対している。ここにこの映画の意味があると思う」と友人は語った。この映画が日本で上映され、日中の若者がともに歴史に向き合えるようにして欲しいと思う。

(転載以上)

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Monday, October 13, 2025

ノーベル平和賞受賞者マリア・コリナ・マチャドは、イスラエルのジェノサイドとトランプの対ベネズエラ戦争を支持している:ベン・ノートン Ben Norton: Nobel Peace Prize winner supports Israel’s genocide & Trump’s war on Venezuela (Japanese Translation)

米国によるベネズエラ内政介入、制裁、戦争行為を手助けしてきたマリア・コリナ・マチャド氏のノーベル平和賞受賞について、ベネズエラ情勢をよく知っているジャーナリストやアナリストから多くの疑問の声が上がっています。そのうちのひとつ、『ジオポリティカル・エコノミー』より、 中南米の情勢に詳しいジャーナリスト、ベン・ノートン氏の最新記事の日本語訳を届けます。(AI訳に手をくわえたものです。翻訳はアップ後修正することがあります) 

原文:

Nobel Peace Prize winner supports Israel’s genocide & Trump’s war on Venezuela

https://geopoliticaleconomy.com/2025/10/13/maria-corina-machado-israel-genocide-trump-war-venezuela/

ノーベル平和賞受賞者はイスラエルのジェノサイドとトランプの対ベネズエラ戦争を支持している

ノーベル平和賞受賞者マリア・コリナ・マチャドは、米国政府から資金提供を受けたベネズエラの極右クーデター計画者である。彼女はジェノサイドを行うイスラエルを支持し、マドゥロ大統領に対するトランプの体制転覆戦争の中心的存在である。

ベン・ノートン

2025年10月14日

2025年のノーベル平和賞は、数十年にわたって米国政府から資金提供を受けてきたベネズエラの極右クーデター指導者、マリア・コリナ・マチャドに授与された。

マチャドは公然と、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領率いる革命的チャビスタ政権を打倒するため、米軍によるベネズエラ侵攻を呼びかけてきた。

彼女は、ドナルド・トランプがベネズエラに対して仕掛けた戦争の中心にいる人物である。マチャドは、トランプ政権が根拠も証拠も示さずに「麻薬密売人を殺害している」と主張して行った、国際水域でのボート上のベネズエラ人に対する米軍の超法規的処刑を支持した。

またマチャドは、数十万人のベネズエラ人を死に追いやった、米国による違法で一方的な制裁も支持している。

さらにマチャドは、ガザでパレスチナ人民に対してジェノサイドを行っているイスラエルを断固として支持している。

 

 戦争犯罪者へのノーベル平和賞

マチャドのような好戦的な極右のクーデター計画者にノーベル平和賞が授与されたという事実は、この賞がいかに極めて偽善的なものであるかを示している。

この偽善は、いまに始まったことではない。

米国の帝国主義的戦略家ヘンリー・キッシンジャーは、現代史上最悪の戦争犯罪人の一人であり、ベトナム、カンボジア、ラオス、バングラデシュ、チリなどで数百万の犠牲者の血に手を染めていたにもかかわらず、1973年にいわゆるノーベル平和賞を授与された。

また、元米国大統領バラク・オバマも2009年に同じく「ノーベル平和賞」を受賞したが、その政権はその後、絶え間ない戦争を遂行した。オバマはアフガニスタン、イラク、リビア、パキスタン、ソマリア、シリア、イエメンの7か国を爆撃した

ノルウェーのノーベル委員会が偽善的だったのはこれが初めてではない。しかし、マリア・コリナ・マチャドに賞を与えることは特に常軌を逸している。なぜなら、第一に彼女がガザでのイスラエルによるジェノサイドを支持し、第二にドナルド・トランプと協力して戦争を仕掛け、暴力によってベネズエラ政府を転覆しようとしている、そのまさに只中での授与だからである。

マリア・コリナ・マチャドはイスラエルのジェノサイド政権を支持する

マチャドは、パレスチナ人民に対してジェノサイドを行ってきたイスラエルを公然と称賛してきた。

国際人道法の著名な専門家らが率いる国連が設置した委員会は、イスラエルがガザでジェノサイドを犯したことを明確に認定している。

2025年1月、マチャドはイスラエルのギデオン・サール外務大臣と電話会談を行い、「イスラエル外務省に感謝の意を表する」と述べ、「イスラエル政府の支援を非常に高く評価している」と語った。

このジェノサイド的なイスラエル政権は、ベネズエラの憲法に基づく国際的に承認された大統領ニコラス・マドゥロ政権を承認せず、代わりに米国が支援するクーデター指導者エドムンド・ゴンサレスを承認している。ゴンサレスはスペインに居住し、マチャドの代理人である。

2024年4月、イスラエルは侵略行為としてイランを攻撃し、テヘランは自衛のために反撃した。マチャドはすぐさまX(旧Twitter)に投稿し、イランを非難した。彼女は「イラン政権による直接的な攻撃の中にあって、イスラエル国家への連帯を表明する」と強調した。

マチャドは「イランとベネズエラ政権の同盟がもたらす危険」を非難し、もし米国が彼女をカラカスで政権に就かせることに成功した場合、米国およびイスラエルと連携し、イランとパレスチナ人民に対抗する密接な同盟を形成すると誓った。

2023年にもマチャドはイスラエル支持の投稿を行い、「イスラエルが長く幸福な存在であり続けることを願う」と述べ、ベネズエラの極右野党とジェノサイド的イスラエル政権は共通の「価値観」を共有していると付け加えた。

マチャドの極端な政治姿勢を最も明確に示す例のひとつが2018年である。彼女はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に公開書簡を送り、このジェノサイド指導者に対し、ベネズエラのマドゥロ大統領を打倒するための支援を求めた。

マチャドは書簡の中で、イスラエル、アルゼンチンの右翼政権、そしてその他の「国際社会」の国々に対し、マドゥロ政権に対する「体制転覆を実現するために必要な支援」をベネズエラ野党に与えるよう要請した。

また彼女は書簡の中で、「保護する責任(Responsibility to Protect)」というドクトリンを引用した。これは米国が2011年のリビア戦争を正当化するために用いたものである。米国主導のNATOによるその戦争は、かつて平和で安定し、繁栄していた石油資源豊富な北アフリカの国の中央政府を破壊し、奴隷市場が公然と存在する無法状態の破綻国家へと変えてしまった。

マリア・コリナ・マチャドがイスラエルとアルゼンチンに対し、ベネズエラへの介入と「体制転覆(レジーム・チェンジ)」の実現を求めた2018年の公開書簡


現在、ネタニヤフは、彼の政権がガザで犯した人道に対する罪により、国際刑事裁判所(ICC)から指名手配されている。

ベネズエラはイスラエルと正式な外交関係を持っていない。両国の関係は、革命的指導者ウーゴ・チャベス元大統領およびその後継者マドゥロ大統領によって繰り返し断絶されてきた。両者はいずれもパレスチナ人民の強力な支持者であり、イスラエルのジェノサイドを厳しく非難している。

ベネズエラ政府が公開した、ニコラス・マドゥロ大統領がパレスチナへの支持を表明している写真


マリア・コリナ・マチャドは、ドナルド・トランプによるベネズエラ体制転覆戦争の中心にいる人物

いわゆるノーベル平和賞をマリア・コリナ・マチャドに授与するというのは、彼女が現在、米国政府がベネズエラに対して行っている戦争の中心にいることを考えれば、さらに一層、常軌を逸した行為である。

ドナルド・トランプは複数回にわたって軍事攻撃を行い、罪状も裁判もないままに数十人のベネズエラ人を殺害してきた。国際法を公然と無視して、米軍はベネズエラ周辺の国際水域にあるボートを繰り返し爆撃し、何の証拠もなく、それらが「麻薬を密輸している人々」で一杯だったと主張している。

マチャドは、自国民を罪もなく処刑したこれらのトランプによる攻撃、すなわちベネズエラ人に対する超法規的殺害を含む一連の作戦を支持している。

『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビューで、マチャド自身が、ベネズエラのマドゥロ大統領を打倒するため、米国政府と協力していることを認めている。

『フィナンシャル・タイムズ』紙はこう報じている――
「米国が南カリブ海に軍艦を展開したことで、ニコラス・マドゥロ大統領の打倒を目指す地下組織に、数千人のベネズエラ人が加わる動きを後押しした」。

トランプ政権はカリブ海に8隻の軍艦と数千人の兵士を派遣し、さらにプエルトリコにはF-35戦闘機10機を展開したと『フィナンシャル・タイムズ』は伝えている。同紙は、これは1994年の米国によるハイチ侵攻以来、同地域で最大の米軍増強であると指摘した。

「ベネズエラ野党の高官らは、マドゥロ打倒をどのように演出するかを話し合うため、トランプ政権の幹部と連絡を取っている」と同紙は報じている。

『フィナンシャル・タイムズ』はまた、マチャドの発言を引用している。彼女は脅迫的にこう述べた。――「国内外のこの一連の力が、マドゥロとその政権に『自分たちの時代は終わった』ことをますます理解させ、彼らにとって最善の選択肢は今すぐ権力を手放すことだと認識させている」。

米国が彼女を権力の座につけることに成功した場合、マチャドは何をしようとしているのか?

この極右の野党指導者は、別の『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビューで、ベネズエラの莫大な石油資源を民営化したいと認めている

「私たちは民営化し、市場を開放しなければなりません。まずはエネルギー部門から始めるのです」とマチャドは2023年に『フィナンシャル・タイムズ』に語った。

国営石油会社PDVSAの売却を呼びかけたうえで、彼女は南米ベネズエラが有する莫大な石油・天然ガス資源や高収益の鉱物についても、「すべて民間投資に開放することになる」と強調した。

同紙は、マチャドがベネズエラ国内で「過激な人物として知られている」とさりげなく言及しているが、これは控えめな表現にすぎない。マチャドは、暴力的で反民主的、かつ悪名高く腐敗したベネズエラ野党の極右急進派の指導者である。

トランプ、「ベネズエラを乗っ取り、石油を搾取したい」と発言

トランプが米国大統領として最初の任期を務めていた際、彼はベネズエラで新たなクーデターを仕掛けた。

2019年、ワシントンは、大統領選挙に一度も出馬したことのない右翼野党政治家フアン・グアイドを、いわゆる「暫定大統領」として一方的に指名した。

その後、米国と欧州の同盟国はベネズエラ政府の資産数十億ドル分を凍結・奪取し、それをクーデター資金として使用するとともに、腐敗したベネズエラ野党の有力者たちの私腹を肥やすために流用した。

2020年2月、ホワイトハウスで米国大統領ドナルド・トランプと会談するベネズエラのクーデター指導者フアン・グアイド


トランプのクーデター計画は、彼の大統領一期目の間に明らかに失敗に終わった。

2023年の共和党集会で、彼は米国の帝国が「ベネズエラを乗っ取り、その石油を略奪する」寸前まで行っていたのだと不満をあらわにし、怒りを込めてこう述べた。

「ベネズエラ。じゃあ、我々がベネズエラから石油を買うってのはどうだ? 私の前政権が終わったとき、ベネズエラは崩壊寸前だった。我々は乗っ取っていただろう。あのすべての石油を手に入れていたはずだ。あんなに近かったのに。」

実際、ノルウェーのノーベル委員会が、いわゆる平和賞をマチャドに授与すると発表した直後、トランプはホワイトハウスで記者会見を開いた。

その場でトランプは、マチャドが自分に電話をかけてきて、マドゥロ打倒を支援してくれたことへの感謝を述べたと明かした。

トランプは、ベネズエラの極右野党を支援してきたことを誇らしげに語り、次のように述べた。

「実際にノーベル賞を受賞した人が、今日(10月10日)私に電話をかけてきたんだ。そしてこう言った。『私はこの賞を、あなたに敬意を表して受け取ります。なぜなら本当はあなたこそが受け取るべき人だからです』とね。」

とても感じのいいことだったよ。私は『じゃあ、その賞を私にくれ』とは言わなかったけどね。彼女はそうしてもよかったかもしれない。とても感じのいい人だった。

それに私は、これまでずっと彼女を支援してきたんだ。ベネズエラでは多くの助けが必要だからね。」

マリア・コリナ・マチャドは、数十万人のベネズエラ人を死に追いやった違法な米国制裁を支持している

マチャドは長年にわたり、米国がベネズエラに対して国際法に違反する制裁をさらに強化するよう主張してきた。

これらの一方的な強制措置は、数十万人ものベネズエラ人の命を奪っている。

2017年、トランプがベネズエラに対して厳しい制裁を課した際、マチャドはそれを称賛し、次のように満足げにツイートした。
「これらの制裁は精密で効果的だ。金融、商業、政治に強い影響を与えるものだ。」

その翌年の2018年、マチャドは「この政権は力によってしか退陣しない」と主張し、「国際的な力――より多くの訴訟と制裁を」と要求した。

国際的な専門家たちは、ベネズエラに対する違法な米国の制裁が、少なくとも数万人、そしておそらく数十万人の死の原因となっていると指摘している。

著名な経済学者マーク・ワイズブロットとジェフリー・サックスは、米国の制裁が2017年から2018年のわずか1年間でベネズエラにおいて4万人以上の死を引き起こしたと算定した。

彼らの調査結果は、ワシントンD.C.の経済政策研究センター(Center for Economic and Policy Research=CEPR)による2019年の研究報告として発表された。


「制裁は食料と医薬品の入手可能性を低下させ、病気と死亡率を増加させた」と彼らは記している。

ワイズブロットとサックスはまた、「制裁が続けば、さらに数万人の回避可能な死をほぼ確実にもたらすだろう」と警告した。

実際、その後も一方的な強制措置は継続しており、違法な米国の制裁によって数十万人のベネズエラ民間人が命を落とした可能性が高い。

このことは、2025年に世界的な医学誌『ランセット(The Lancet)』に掲載された査読付きの科学研究でも示唆されている。

この後者の研究によれば、一方的な経済制裁は過去50年間、毎年平均56万4千人の超過死亡を引き起こしてきたという。

経済学者マーク・ワイズブロット、フランシスコ・ロドリゲス、シルビオ・レンドンらは、制裁による死者の大半は5歳未満の子どもたちであると結論づけている。


米国は、国際法に違反して、一方的制裁の大半を課してきた責任を負っている。

つまり、ノーベル「平和」賞受賞者マリア・コリナ・マチャドは、自国民のうち数十万人、子どもを含む多くの命を奪った違法な強制措置を支持してきたことになる。

マルコ・ルビオ、マイク・ウォルツ、その他の米国政治家らがノルウェー・ノーベル委員会にマリア・コリナ・マチャドを推薦

米国政府関係者らは、ベネズエラのクーデター指導者マチャドに、いわゆる平和賞を授与するようノルウェー・ノーベル委員会に働きかける上で、重要な役割を果たした。

2024年8月26日、米国議会の複数の右翼議員が委員会に宛てて書簡(PDF)を送った。

「私たちは、マリア・コリナ・マチャドをノーベル平和賞候補として推薦することを支持します」とこの人たちは述べている。

署名者はいずれも共和党議員であった。中には、フロリダ州選出の上院議員リック・スコットとマルコ・ルビオ、下院議員マリオ・ディアス=バラール、マリア・エルビラ・サラザール、マイケル(マイク)・ウォルツ、ニール・ダン、カルロス・A・ヒメネス、そしてニューヨーク州選出のバイロン・ドナルズが含まれていた。

ベネズエラのクーデター指導者マリア・コリナ・マチャドにノーベル平和賞を授与するよう、ノルウェー・ノーベル委員会に働きかけた米国共和党議員による2024年の書簡


現在、マルコ・ルビオはトランプに次ぐ米国政府内で二番目に強い権力を持つ人物である。彼は国務長官と国家安全保障担当大統領補佐官の両職を兼任している(米国史上、この二つの役職を同時に務めるのは、戦争犯罪人でありノーベル平和賞受賞者でもあるヘンリー・キッシンジャーに次いで二人目である)。

マイク・ウォルツはかつてトランプの国家安全保障補佐官を務め、現在は米国の国連大使である。

これらの米国政府高官たちは、マチャドやベネズエラの極端な極右野党と密接に連携し、マドゥロ大統領を暴力的に打倒しようと動いてきた。

ノーベル委員会がマチャドに「平和賞」を与えたことは、同委員会が米国帝国の道具として行動する意思を持ち、「平和」という言葉を皮肉にも利用して、さらなる戦争を正当化しようとしていることを示している。

(日本語訳以上)


Friday, October 03, 2025

【カナダ発公開オンライン講座】「空手の日」に学ぶ:沖縄伝統空手の知られざる歴史 In Commemoration of the Karate Day: The Untold History of Traditional Okinawan Karate, by Kazumi Marthiensen

 カナダ・アルバータ州レスブリッジにお住まいの沖縄出身の空手家、マースィエンセン和美さんを講師に迎え、オンライン講座を行います。参加費は無料です。

登録リンクはhttps://us02web.zoom.us/meeting/register/7Adg5WFmScScjcky9emppQ#/registration 

「空手の日」に学ぶ:沖縄伝統空手の知られざる歴史


日本時間 10月26日(日)午前10時ー12時

(カナダ・バンクーバー 10月25日(土)午後6-8時;アルバータ 午後7-9時;トロント・モントリオール 午後9ー11時)


講師:マースィエンセン和美さん

司会:乗松聡子

10月25日は「空手の日」です。この日にちなみ、カナダ9条の会のメンバーでもある、アルバータ州レスブリッジに住む空手家、マースィエンセン和美さんをお招きしてウェビナーを行います。(カナダでは10月25日、日本では10月26日になります。)

和美さんが空手を習い始めた頃、稽古中に「伝統空手」と「スポーツ空手」という言葉を聞くことが頻繁にありました。「伝統空手」と「スポーツ空手」の違いは何なのか、そして「スポーツ空手」とは何だろうという疑問を持ち始め、調べ始めたら、自分の知らなかった沖縄伝統空手の衝撃な歴史、「伝統空手」と「スポーツ空手」の違いが明らかになっていきました。このウェビナーでは、スポーツ空手が生まれた背景と、和美さんから見た、沖縄伝統空手について話します。

マースィエンセン和美 プロフィール: 沖縄県出身。現在はアルバータ州、レスブリッジに在住。2001年から金城嘉孝先生の道場(剛泊会空手道)で伝統空手を習い始める。2011年に、レスブリッジ大学美術学部:スタジオアート科を卒業。2016年に、沖縄の基地問題をテーマにしたアートの個展をレスブリッジ市内のギャラリーで開く。2017年にはエドモントン、2019年には沖縄県南風原町で展示。

貴重な機会をお見逃しなく!登録は

https://us02web.zoom.us/meeting/register/7Adg5WFmScScjcky9emppQ#/registration


過去報道より:

Saturday, September 27, 2025

日朝国交正常化のためには、日本人が変わらなければいけない (9月27日シンポジウム「日朝ピョンヤン宣言から23年 国交正常化を求めて」乗松聡子発言) Normalization of Japan–DPRK Relations Requires Change in Japan

 9月27日、日本教育会館にて日朝全国ネット主催シンポジウム「日朝ピョンヤン宣言から23年 国交正常化を求めて」が開催されました。会場は立ち見が出るほどの盛況でした。和田春樹さん、李柄輝さんとともに登壇させていただいたのは大変光栄でした。お呼びいただいた藤本さんはじめ日朝全国ネットのみなさまに感謝します。そこでの乗松聡子の発言内容をここに紹介します。朝鮮がロシアに連帯したウクライナ戦争についてちゃんと理解することは大事だったので踏み込んで語りました。会場から反発は出ず、逆に、賛同の声、「自分の言いたいことを全部言ってくれた」との声、出版社の人からも、「ロシアを悪者扱いするような本は出さないようにしている」といった声が聞かれ希望を感じました。質疑応答で話題になった、ジェフリー・サックスやジョン・ミアシャイマーの言論も日本にある程度浸透しているとも感じました。時代は動き、メディアリテラシーのある人にはもう、西側のプロパガンダは通用しなくなってきていると感じます。朝鮮が「グローバル・マジョリティ」の一員であるという認識をみなさんと共有しました。


関連報道:
朝・日国交正常化の進展を/日朝全国ネット、東京で総会とシンポ

国交正常化の課題を問う/シンポジウム「日朝ピョンヤン宣言から23年」

高校、幼保無償化適用を要請/日朝全国ネット、国会議員が文科省へ


日朝国交正常化のためには、日本人が変わらなければいけない

 

2025年9月27日 乗松聡子

 

こんにちは、乗松聡子です。カナダに通算30年住んでいる日本人です。一昨日到着しました。きょうは、お招きをありがとうございました。

まず結論を最初に言います。

いま、米国が率いる西側帝国主義が破壊的戦争を続けています。ガザのジェノサイドはその典型です。

日本は、西側帝国に組み込まれたままの「名誉白人」国家です。G7に非白人国家として一国だけ参加しているのが象徴的です。

いま、グローバルサウスによる、脱植民地の動きが高まっています。西側帝国に搾取されてきた国々が、もうやられっぱなしにならないと、手を結んでいます。BRICSや上海協力機構の発展が目覚ましいです。

対ロシア制裁やトランプ関税も、非西側の結束を高める結果となっています。世界の貿易の脱ドル化が進んでいます。

そのグローバルサウスはいまやグローバル・マジョリティとも呼ばれます。朝鮮はグローバル・マジョリティの一員です。逆に取り残されているのは米国の属国である日本です。 

日本には、米国の呪縛を解き、アジアに戻ってもらいたいと思っています。

東アジアの平和を阻む要素ではなく、平和をつくる一員となってほしいです。そのためには朝鮮、中国、ロシアを理解、尊重することは不可欠です。

日朝国交正常化のためには、変わらなければいけないのは日本です。以下の項目について順にコメントします。

n  呼称問題

まずは、「北朝鮮」という呼称についてです。国の名前でさえないこの呼称がいまだに蔓延しています。

これは朝鮮を国として認めていなかった植民地支配時代の名残だという批判があります。私もそう思います。

韓国のことは国名で呼ぶのに朝鮮についてはそれを拒否する。これは差別としかいえません。

わたしは2019年訪朝したときに、まず国名を説明されました。朝鮮民主主義人民共和国、略すときは「朝鮮」であると。「鮮やかな朝の国」と説明されました。

その旅の中で、早朝にテドンガンのほとりを歩いたとき、朝日が射した川面の鮮やかさに目を奪われ、その意味がわかりました。これが当事者の望む呼び方です。 

日本の戦争時代、北米にいた日系人は敵性外国人とされ強制収容所に送られ、JAPと呼ばれました。今もカナダに暮らしていて、日系人コミュニティの中にこの傷が深く残っていることを実感します。JAPと呼ばれてもいいと思っている日本人や日系人はいないでしょう。それと同じです。 

日本メディアは、2002年日朝会談まではおおむね「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」と、併記する方法を取ってきました。これも問題だったのですが、会談で金正日国防委員長が「拉致」を認め、日本国内で憎悪感情が沸き起こりました。その年の年末、朝日新聞が、もう併用はせずに「北朝鮮」を使うと宣言し、NHKも2003年から変わりました

朝鮮は、「北朝鮮と呼ぶな」という要求を繰り返し日本に対して行っています。2003年1月29日づけの「労働新聞」で、朝日新聞による「北朝鮮」呼称決定を批判しています。2005年にも、「北朝鮮」と呼ぶことは「わが国の存在と権威を無視する行為だ」と言っています。

日本は国交を正常化するためにも、相手国をその国の名前で呼ぶという最低限のリスペクトを示してこそ、スタート地点に立てるのではないでしょうか。

n  拉致問題

拉致問題は重大な人権侵害でした。ただ、私がいまだに理解できないのは、ふつう事実認定と謝罪をすればそれが和解への第一歩になると思うのですが、この場合、それがきっかけで逆に朝鮮に対するヘイトが増したことです。 

広島と長崎の原爆投下や都市空襲においては民間人が何十万人も殺されていますが、米国は謝罪もしていません。それなのに日本人の大半はアメリカが大好きです。この違いは何なのでしょう。 

訪朝したとき、通訳ガイドをしてくれた金さんが言っていました。あの頃は日本との国交正常化の期待から、日本語熱が高まったが、いまや日本語への需要も減ってしまったと。あの日朝会談はやらなかったほうが良かったかもしれないと。それを聞いてとても悲しく思いました。 

この問題は、被害者中心主義で取り組まれたとは言い難く、日本の保守政治家や右翼運動家が、政治利用のために解決を先延ばしにしてきました。 

しかし、拉致問題を利用して朝鮮を敵視する政策が、なぜ政治的プラスになってしまうのでしょうか。日本の一般市民はそんなに朝鮮をヘイトしたいのでしょうか。ここに根本的な問題があると思います。 

何より、日朝平壌宣言では、植民地支配で「朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えた」歴史への「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」にもとづいた、植民地支配の清算と同時に取り組む問題だったはずです。 

植民地支配時約2500万人いた朝鮮人のうち3分の1,約800万人が強制動員や日本軍性奴隷として動員され、多くの人が命を奪われました。

これについて朝鮮側には償いや清算が全く行われていないどころか、在日朝鮮人の人権侵害、朝鮮学校差別、ヘイトスピーチの蔓延という形で、解放後80年の現在も植民地主義が続いています。 

気の遠くなるような規模の植民地被害を全く語らずに、拉致、拉致とだけ叫ぶ日本メディアと日本人は、ダブルスタンダードを露呈しているとしか言い様がありません。 

日本に帰るたびに思いますが、日本の人たちは拉致被害者や家族の名前をよく知っており、自分の家族か親戚かのように語ります。メディアの影響でしょうが、これが正直不気味で怖いです。この人たちは、日本の植民地支配による被害者の名前を一人でも言えるでしょうか。 

拉致問題は、日朝平壌宣言がいうように、日朝の間に横たわる多くの人権問題の一つであるという認識に立ち返る必要があると思います。そのためには被害者意識に偏った日本人の歴史認識を問い直さなければいけません。 

n  朝鮮学校、幼稚園無償化排除問題

2019年9月、金丸信吾さんの訪朝団が宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化交渉担当大使と会ったとき、朝鮮学校無償化除外の撤回がないかぎり「日朝関係は 1 ミリたりとも動かない」と言っています。朝鮮学校差別は国交正常化への大きな障害となっています。 

カナダでは日系人強制収容という歴史がありましたが、1988年にリドレスと呼ばれる、政府による謝罪と補償がありました。それは個々の被害者に補償しただけではなく、民族としての存在の権利を保障されたのです。そのおかげもあって、私はカナダで子どもを日本語学校に行かせ、日本文化に触れさせながら育てましたし、それで差別されたことはありません。 

私たちは好きでカナダに移住しましたが、朝鮮学校は、植民地支配があったゆえに奪われた文化や言語を取り戻すために作られたのです。本来は、償いの意味も含め、他の民族にもまして手厚くするのが当たり前です。 

しかし日本は正反対で、朝鮮学校を標的にして無償化から排除し、補助金を切り、存続の危機に追いやっています。これは民族抹殺、エスニッククレンジングの行為であると思います。

この問題は他の問題に比べ、日本政府の決断だけですぐ変えられる、比較的容易な問題です。明日にでも差別をやめるべきです。それで日朝国交正常化に一歩近づけます。

n  朝鮮半島の非核化

 「朝鮮半島の非核化」と、「朝鮮民主主義人民共和国の非核化」は全く違う概念であるのに、日本政府やメディアはこの違いをはっきりさせず、「北朝鮮の非核化」という概念を平気で語り続けています。

朝鮮にだけ非核化を求めるということは、すでに圧倒的に非対称な米国の核の脅威をまったく問題視せず、朝鮮にだけ身ぐるみはげということです。

相手の身になって考えてみればわかります。イラクやリビアのように敵視され指導者が残酷な方法で殺され、国を壊されたケースをみれば、朝鮮が核兵器をもって米国から身を守ろうとするのは当然のことです。

だから、非核化を語るのなら朝鮮半島における米国の核の脅威をなくすことが必要なのです。

先日、李柄輝先生の講座にオンラインで出たとき、「“朝鮮半島の非核化”とは朝鮮にとっては具体的にどういう意味なのか」ということを聞きました。

答えは、「米国は、弾道ミサイルから爆撃機・空母まで、多様な手段を通じて、迅速に朝鮮に核攻撃を加える態勢を維持している。そのような核攻撃能力を排除することが朝鮮半島の非核化である」とのことでした。

韓国と日本の米軍の存在自体が朝鮮にとっての核の脅威なのです。 

西側の言い分は、核のダブルスタンダードとしか言えません。西側の核はいいが、西側の敵の核は悪い。だから、ロシア、中国、朝鮮、イランの核は「悪い核」で、米国や同盟国の核は「良い核」だということです。イスラエルも核兵器を持っているのに査察も制裁もありません。

米国だけは何をやっても許される、という例外主義を日本も内在化しています。歴代の広島と長崎の式典での市長による平和宣言ではどこの国が原爆を落としたかを一度も言ったことがありません。日本被団協のノーベル平和賞の受賞スピーチでもそうでした。逆にロシアの核を名指しで批判していました。

敵視というのは戦争の前段階です。平和運動でさえ、政府と一緒になって特定の国を敵視するのです。戦争につながる敵対構造をあえて強化しながら核兵器廃絶などできないと思います。

n  グローバル・マジョリティの時代

9月3日に北京で開催された、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年記念大会」(この後は9.3と呼びます)では、習近平主席が、朝鮮の金正恩委員長とロシアのウラジミール・プーチン大統領とともにこの重要な節目を祝いました。画期的なことでした。 

しかし日本のメディア報道は、「良好な関係を誇示する」とか、「世界に結束を見せつける」という語調ばかりで、そこには加害国としての反省も、敗戦国としての謙虚さも見えません。

この催しは第一義的に、80年前の、大日本帝国を倒した記念日のお祝いです。日本人は米国と戦い、米国に負けたとしか思っていない人が多いので、この式典の意味がわからないのかもしれません。

米国の原爆投下が日本の降伏を決定的にしたかのように言われることが多いですが、実際はソ連の満州侵攻が大きな役割を果たしました。2月の日朝全国ネット創立パーティーにも来た、ピーター・カズニック教授など先進的な歴史家は、ソビエト侵攻のほうが大きな役割だったと言っています。

朝鮮は、40年の植民地支配の中で独立のために闘いました。1945年9月2日、戦艦ミズーリにおける降伏調印式で日本を代表した重光葵外相が足をひきずる姿に、私は「朝鮮は戦勝国である」という証を見ました。 

1932年、大韓民国臨時政府の命を受けた独立運動家ユンボンギルが義挙した「上海天長節爆弾事件」で片足を失っていました。 

今回、西側諸国がほとんど参加しなかった中、韓国からウ・ウォンシク国会議長が参加したのも、抗日戦争の勝者の一員であるということを印象付けました。 

来賓の26か国のうち、アジア太平洋戦争で日本の被害を受けた国々は他にも、インドネシア、マレーシア、べトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどが参加していました。

これらの国々は日本帝国主義を倒した日を共に祝う資格があります。米国、英国など他の連合国も参加すればよかったのです。

BRICSプラスパートナー諸国の20か国は、いまや購買力平価(PPP)ベースで世界のGDPのおよそ半分を占めており、人口では世界全体の過半数を超える規模となっています。

文字通り「グローバル・マジョリティ」になってきているのです。

習近平主席が9.3の演説で触れましたがBRICS側はウィンウィンの関係を求めているのに米国はゼロサムの関係、つまり自らの覇権を維持することにしか関心がありません。

だから米国は対決姿勢を強め、制裁、関税などで他国を疎外しています。それが結果的にグローバル・マジョリティの国々の結束を強めています。

さきほど敵視政策の話をしましたが、米国は敵視どころではありません。この89月だけでも、ウルチ・フリーダム・シールド(米韓)、フリーダム・エッジ(日米韓)、レゾリュート・ドラゴン(日米)という、大規模演習を行いました。

米軍基地で中国や朝鮮を取り囲み、中国が言い出したわけでもない「台湾有事」という概念を作りだし、戦争を煽っています。

米国が、中国や朝鮮の目と鼻の先でやっていることを、中国や朝鮮が米国沿岸でやったらどうなのでしょう?許されるはずがありません。

それなのに西側メディアは、9.3の式典における閲兵式を、「米国主導の国際秩序に対する強硬姿勢」と言って批判しました。

これだけ威嚇しておいて、中国は、国内で閲兵式をやることさえ許されないのでしょうか。

逆に、日本や欧米が「国際社会」と呼んでいる西側諸国は、世界の人口の15%にも満たないマイノリティなのです。グローバル・マジョリティが力をつけ、西側諸国にもう搾取はさせないという非西側国の、脱植民地主義の動きが加速しています。 

朝鮮はその流れの中にいます。9.3の式典に金正恩委員長が行ったことは、その世界の流れに朝鮮も確実に加わったという宣言にも見えました。 

n  米国が仕掛けた戦争

ロシアの特別軍事作戦について西側では、Unprovoked という枕詞とともに、ロシアが突然ウクライナを侵略した戦争だというナラティブが席捲しました。実際は違います。端的に言うと、この戦争は30年以上前にさかのぼります。ロシアが始めた戦争ではありません。米国が始めた戦争です。

米国のジャーナリスト、スコット・ホートン氏が昨年「Provoked」という分厚い本を出しました。7000のソースを使った、700ページの本で、どれだけ米国がロシアを威嚇してきたかーパパブッシュからバイデンにいたるまで、徹底的に記述しています。

冷戦が終結し、存在意義がなくなったはずのNATOは約束に反して東方拡大を続けました。2014年、米国は、ウクライナのナチス勢力を利用して、ウクライナ政権を転覆させます。民主的デモを装って、その国を自分の思い通りになる政権に取り換える米国の常套手段です。

それ以来、ウクライナの傀儡政権は東部ドンバス地方のロシア系住民を徹底的に迫害しました。グラートというロケット弾で市民に対し無差別攻撃を行いました。ドンバスの内戦では、国連によると1万4千人が命を落としました。

和平のためのミンスク合意も、西側が踏みにじりました。21年12月ロシアから米国への安全保障のための条約案もすべて米国が拒絶しました。22年2月、ウクライナによるドンバス攻撃が激化する中、とうとうロシアはドネツクとルガンスクの独立を承認し、特別軍事作戦に踏み切ったのです。 

目的はウクライナ征服でも欧州侵略でもありません。自国と、ロシア系住民を守るためのウクライナ中立化、非ナチ化です。やりたくてやっているのではありません。

ウクライナ戦争の根本の原因を理解することは、朝鮮のロシア派兵を理解するためにも不可欠と思います。

米国およびNATOが束になってロシアを攻撃している中、ロシアも同盟国を持つことが許されていいはずです。

ロシアと朝鮮は24年、包括的戦略パートナーシップ条約を結び、その同盟関係のもとで朝鮮は派兵しました。派兵先は、ウクライナに攻撃されたロシア国内のクルスクの防衛に限定していました。

朝鮮兵は100人以上が戦死したと聞いています。ご遺族のお気持ちを思うと、計り知れない悲しみであったと想像します。

ただ、朝鮮がロシアと連帯したことについては、正しかったと思います。

ロシアの特別軍事作戦は、世界で内政介入と戦争を繰り返す西側帝国に対する、脱植民地主義の闘いの一つです。それに朝鮮が連帯したということは、朝鮮がthe right side of history、歴史の正しい側についたということです。

n  平和主義と脱植民地主義 

このような話をすると、絶対的平和主義の立場から、戦争はいけない、非暴力でやらないといけない、核兵器はいけない、といったことを言う人たちが必ず出てきます。

わたしはこのような見方を、平和主義をかざしながら、脱植民地の闘いを抑えつける、一種の帝国主義であると思います。

それは平和主義でさえありません。誰かを踏みつけた上での「平和」など、平和とは言えないからです。(クォン・ヒョクテ『平和なき「平和主義」』)。

米軍基地を押し付けられている沖縄の人が、「日本が受け入れると決めた米軍基地は、沖縄ではなく日本本土に置け」という当然の要求を、「基地はどこにも要らない」と言って抑えつけるのもこのパターンです。 

植民地支配しておいて、ユンボンギル義士のような蜂起行動を「テロリスト」と呼ぶのもそのパターンです。80年近くにおよぶイスラエルによるパレスチナ民族浄化という背景で起こった23年10月7日のハマスの蜂起についても、テロリスト扱いがいまだに西側に蔓延しています。 

圧倒的非対称の構造で長年抑圧しておいて、被抑圧のほうが少しでも抵抗すると、暴力的だ!テロだ!といって100倍返しをするのです。 

非難すべきはどちらでしょうか。

あらゆる平和的、外交的、政治的手段を奪われた民族が武装蜂起することを、奪っている側が責めることはできません。法政大学のシン・チャンウ教授の著書『植民地戦争』にあるように、「抵抗する側の視点」からの正当性を持つ戦争です。 

日本の人たちは、「9条」や「平和」や「核廃絶」という、聞こえのよい言葉に乗せた「帝国主義的平和主義」を振り返る必要があります。 

沖縄や韓国の軍事化を前提にしながら語る「9条の平和」。米国の核の傘を前提に語る「核兵器廃絶」。日本を被害者として宣伝する「唯一の被爆国」という概念で、その暴力性は増幅します。 

いまこそ、日本人はやられた側に立っての捉えなおし、語り直しが必要と思います。植民地支配されたことのない民族だからこそ、想像力をはたらかせる必要があります。 

n  日朝全国ネットの役割

 世界で、グローバル・マジョリティによる、大きな脱植民地の流れ、多極化とも言われる流れに朝鮮が参加しています。米国および西側諸国はこのままゼロサムの闘いを続け滅亡の道を歩むのか、それともウィンウィンの新しい世界秩序に参加するのかの岐路に立っています。

日本はアジアに位置しながら、なお「脱亜入欧」の道を歩み続けています。果たして、このまま米国に従属し、戦争と破壊の道をともにするのでしょうか。それとも、再びアジアの一員となり、地域の平和と自己決定権に貢献するのでしょうか。

朝鮮との国交正常化は、日本が「グローバル・マジョリティ」に受け入れられる可能性があるかどうかを示す、試金石になるのではないかと考えます。

それを可能にするため、日朝全国ネットは、朝鮮への理解と友好を推進する活動をどんどん行っていけばいいと思います。自分たちがマジョリティであると、自信を持っていいと思います。 

(おわり)