Saturday, December 27, 2025

新刊 『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す」(石田隆至・張宏波 編)の紹介 

 「花岡『和解』と私たち」のFacebook より新刊案内です。

今のところ、ネットで買えるサイトはここです。

私の戦後責任:花岡「和解」を問い直すhttps://hashigosha.square.site/product/-/TJPXWJIYODO6FILT6QNBCXG6?cs=true&cst=custom

とても重要な本と思います。「私の」という言葉に注目しています。戦後責任に向き合う者にとって、「花岡”和解”」は誰もが避けて通れない問題なのではないかと思います。この本を通して、私は、日本の戦争責任、植民地責任に向き合おうとしてきた「自分」を振り返ることができたような気がしました。やられた側に立って考えたいといつも思っていながらも、権威ある人の声に引きずられてしまったり、大きな流れに吞み込まれて自分を失ってしまったりしたこともあったのではないかと。この本を編著した石田隆至さん、張宏波さん、他の著者の方々の、人間の尊厳へのコミットメントに心から敬意を表します。この問題を理解し、判断するために必要なファクトが網羅されている本と思います。詳細は以下をご覧ください。


【書籍刊行のご報告】

石田隆至・張宏波 編『私の戦後責任 花岡「和解」を問い直す』日本東方出版社、2025年12月15日刊行。
この度、〈花岡「和解」と私たち〉を運営する若手メンバーも編集と執筆を担当した、花岡「和解」に関する本格的な論集が刊行されました!Amazonでの販売は年明けからになりますが、当ページにて書影と目次を公開いたします。
【追記】Amazonとは別に、こちらの販売サイトからもご購入いただけます。https://hashigosha.square.site/product/-/TJPXWJIYODO6FILT6QNBCXG6?cs=true&cst=custom
書籍内容
 「画期的」と評価されてきた鹿島花岡「和解」は、弁護団や支援者が原告被害者を出し抜いて成立していた!
 1995年6月に戦後初めて行われた中国人強制連行・強制労働をめぐる訴訟は、2000年11月に法廷「和解」が成立した。弁護団や日本のメディアは加害企業・鹿島建設が5億円を拠出したと、こぞって賛美した。ところが、直後から、原告団長の耿諄ら被害者が次々と「和解」の受け入れを拒否し始める。「和解」の内実は、被害者の根本要求である加害事実の認定まで否定するものだったからだ。鹿島による419人の虐殺や虐待に法的責任が伴わないことを、被害者自身が認められるはずがない。被害者らは、そのような「和解」となることを弁護団から事前に説明されていなかったのである。
 被害者の主体性を置き去りにし、弁護団主導で「和解」を強行するのは、「被害者中心主義」を掲げる現在の戦後補償運動の理念と逆行する。にもかかわらず、鹿島花岡「和解」は、戦後和解の「モデルケース」と賞賛され続けてきた。25年後の今も正当化や隠蔽の動きを許してきた経過を、自らの戦後責任として引き受けようと若い世代も結集した。花岡「和解」の知られざる実態に迫った初めての本格的書籍の刊行!
目次
刊行にあたって
第Ⅰ部  繰り返される被害者不在の戦後和解
 第1章 花岡「和解」の経緯をたどる  金井良樹
  第1節 強制連行から「和解」成立まで
  第2節 「和解」はいかに正当化されたか
 第2章 不可解な「和解」と中国側の動向  石田隆至・張宏波
 第3章 再生産される鹿島花岡「和解」:『世界』による検証なき検証  石田隆至
 第4章 「歴史的責任」の捏造と被害者置き去りの謝罪:安野・信濃川・三菱マテリアル「和解」   金井良樹・石田隆至・張宏波
資料編
第Ⅱ部 いま花岡「和解」に向きあう
 第5章 映画『老華僑は黙らない』が示す花岡「和解」の現在地  山田泰史
 第6章 法的責任なき「和解」への欲望  張宏波    
 第7章 アジア女性基金にみる「日本型戦後処理」:金銭拠出による法的責任の回避  李青凌  
 第8章 花岡現地から想いを巡らす過去と現在  高橋正吉
 第9章 継続する植民地主義の暴力:花岡「和解」を事例に  坪田典子
 第10章 壊されてきた原則論:「現実主義」という名の「転向」   金井良樹
あとがき

Wednesday, December 24, 2025

グレン・ディーセン:EUは戦争続行に不都合な言論を弾圧している(ナポリターノ判事との12月22日対談より)Glenn Diesen: The EU Is Suppressing Dissent to Continue the War (With Judge Napolitano, Dec 22, 2025)

アンドリュー・ナポリターノ判事のチャネルの常連ゲストであるグレン・ディーセン教授の最新の動画の訳です。トランプ大統領が先月発表した安全保障戦略にはburden sharing 「負担共有」という概念がありますが、ディーセン氏は、弱体化する米国帝国が、直接ではなく、属国に戦争をやらせる手法に変わっていると指摘しています。「モンロー主義のトランプ補論」とあるように、ラテンアメリカを自分の裏庭と位置づけ、どこの国と交易を行うかも管理・規制しようとする、危険な米国の動きについても述べます。米ロの間で進んでいるウクライナ戦争の和平交渉も、トランプ側が求めるような経済的なディールの前にまずはウクライナ戦争を解決しなければいけないし、そのためにはロシアが一貫して主張している、冷戦後30年間欧州側が作ってきたこの戦争の「根本の原因」に取り組まなければいけないことを強調しています。欧州におけるロシアの凍結資産をウクライナに与えることにEUが合意できず、かわりに900億ユーロを融資するというのは結局戦争の継続が目的であるという指摘は重要です。最後に、EUは同じヨーロッパ人で、戦争継続に都合の悪い分析をする者に制裁を加えるというあり得ないことをやっている件について解説しています。ジャック・ボーというスイスのインテリジェンス専門家(元スイス陸軍大佐、戦略情報部員)は、西側の情報を分析して、西側がこの戦争を招いたという結論を述べただけです。私も自分の記事で引用したことがあります。EUは他国の資産をどろぼうし、域内の人間にも言論の自由を許さず、資産凍結、移動禁止といった極端な人権侵害を行う独裁組織と化しました。 @PeacePhilosophy 乗松聡子

★翻訳はAI訳に手を入れたものです。繰り返しや冗長な部分を一部割愛しています。小見出しと太字は訳者によるものです。翻訳はアップ後修正することがあります。

   

 https://www.youtube.com/watch?v=kYWm-oSVKLs 

Prof. Glenn Diesen : Is the EU a Criminal Gang?

グレン・ディーセン教授を迎えて:EUは犯罪集団か?


トランプの国家安全保障戦略

ナポリターノ:アメリカ合衆国と中国について、いくつか質問させてください。過去2週間で、次の出来事が起きました。トランプ政権は国家安全保障戦略を公表し、そこでは、中国はもはや「敵」ではなく、「経済的な競争相手」だとされています。ところが先週、トランプ大統領は国防権限法(NDAA)に署名して法律として成立させましたが、それは台湾に110億ドル相当の攻撃用ミサイルを供与する内容です。そして週末には、アメリカ海軍が、パナマ運河を経て最終的に中国へ向かう予定だったベネズエラの石油タンカーを止め、拿捕しました。中国はそれらすべてに、どのように反応すると思われますか。

ディーセン:かなり悪く反応すると思います。しかし、米国は軍事的アプローチを取っていますが、それは、中国を経済的なライバルと見ていることは見ているのですが、米国が中国と競争できないのではないか、という懸念があるからです。おそらく、米国の経済が過度に金融化してしまったからかもしれませんし、中国の側が自給自足の度合いを高め、あらゆるものを規模拡大できるため、AIの実装という点でも、その他のあらゆる利点という点でも優位に立っているからかもしれません。

私は、米国が競争できないときに軍事力を用いる、という誘因は常に存在してきたと思います。ただ、中国側は、米国の姿勢が少し変化してきているのを見ているのだと思います。覇権の時代、すなわち米国が支配的だった時代には、米国の力は、大きな部分が「安全保障提供者」であること、つまり、米国に同調する同盟国に対して抑止力を提供することから来ていました。しかし衰退の時代には、米国にとっての利益は、他の大国との対立を準備してそれらを弱体化させることにあるのだと思います。ただし直接ではありません。中国と直接戦争をしたくはないからです。その代わり、以前は米国の傘の下にいた同盟国が、今度はより「属国」として利用されるようになる、ということです。

ですから、ロシアと戦うなら、もちろんウクライナ人を使います。イラク人と戦うなら、クルド人を使います。中国と戦うなら、台湾人や日本人を使いたい、ということになります。そして、中国側は、この点をよりいっそう懸念するようになっているのだと思います。


米国のベネズエラ攻撃

そしてベネズエラに関して言えば、これは国家安全保障戦略のもう一つの要素だと思います。そこでは、「アメリカ大陸全体は米国の裏庭だ」という見方がされています。つまり、米国は、この地域に誰がアクセスでき、誰がアクセスできないのかを、よりいっそう取り締まるようになる、ということです。第一段階は、ロシアと中国を遮断することだと思いますが、とりわけ、そして最も重要なのは、ベネズエラから中国を遮断することです。

ナポリターノ:しかし、中国向けの石油を積んだタンカーを奪うことの結果は、何かしらあるはずです。海軍や、トランプは、やっていることの意味がわかっていたのでしょうか。ラリー・ジョンソン氏(元CIA分析家)は、中国が米国国債を売り浴びせるだろう、と示唆しています。そうなれば米国財務省はより高い金利を提示せざるを得なくなり、すると米国政府は、借りた金の利子を支払うためにさらに多くの金を借りなければならなくなります。米国がどう反応するかはどうでしょうか。もし中国がハバナに攻撃用ミサイルを置いたら?

ディーセン:もし中国が米国の石油タンカーを乗っ取り、奪い始めたら、米国がどう反応するかは、かなり予測可能だと思います。もちろん、これは中国が何もしないというわけにはいかない事柄です。何もしなければ、これが新しい「通常」になってしまいます。つまり、米国またはNATOが、競争相手の国々から、外洋で船舶を押収し始めることが可能になる、ということです。

中国は軍事ルートに進みたくはないのだと思います。中国が学んだ明白な教訓は、世界と貿易したいなら、自国の貿易のつながりを、強力な軍事力で補完し、貿易のつながりが安全であることを確保する必要がある、ということです。第二に、これを目的としてロシアとの結びつきも強くなるでしょう。なぜなら、両国には非常に長い陸上国境があり、そこでは誰も両者のつながりを妨害できないからです。

しかし、軍事ルートに進む前に、もちろん中国としては、自国の経済的な力の手段を使うことが利益になります。あなたがおっしゃったように、中国には多くの手段があります。国債を売り浴びせることもできます。貿易や外貨準備における米ドルの使用を減らすこともできます。米国に対して非常に強い制裁を課すこともできます。とくに、武器に必要なアンチモンなどの希少資源です。つまり、米国を実質的に非軍事化させ始めることができるのです。

良いニュースは、中国はこの道に進みたくない、ということです。しかし悪いニュースは、米国が中国をまさにその方向に押しやっているように見える、ということです。なぜなら、そうするか、あるいは屈服して、自国の貿易と経済力のすべてがワシントンの善意に依存することを受け入れるか、そのどちらかだからです。

ナポリターノ:米国は愚かなのですか。それとも、これは中国向けの巨大な石油タンカーを拿捕した、単なるミスだったのですか。

ディーセン:私は、優先順位がこう設定されているのだと思います。すなわち、米国はベネズエラはまず孤立させたい。そして政権転覆という文脈の中で、米国はリスクをおかし、代償が生じている。それをちゃんと考えていないのです。というのも、これは中国を苛立たせ、ロシアを挑発するだけではありません。アメリカ大陸は、かつてのように後進的なバナナ・リパブリックばかりではありません。例えばブラジルのような大国がいますし、こうした砲艦外交を喜ばない国も多いのです。

しかし米国は実際砲艦外交をしています。米国海軍がベネズエラを取り囲み、誰がベネズエラと貿易できるのかを指図し、石油とタンカーを押収、あるいは強奪し、そして、ありもしない麻薬カルテルの嫌疑をかけて船を爆撃しているのです。


ウクライナ戦争

ナポリターノ:ロシア側のキリル・ドミトリエフと、米国側のスティーブ・ウィトコフおよびジャレッド・クシュナーによる、交渉について、あなたはどう見ていますか。私たちはロシアが何を要求しているか知っています。プーチン大統領も先週の金曜日にも繰り返したように、要求を変えるつもりがないことも知っています。彼らはいったい何を話しているのですか。

ディーセン:私には、良い答えはありません。私は確かに分かりません。ただ、ドミトリエフもウィトコフも、主としてビジネスマンです。ですから彼らは、ロシアとアメリカ合衆国の二国間関係を改善する機会を見たいのでしょう。もちろん、これは両国にとって利益になります。ロシアは中国への過度な依存を望みません。米国もロシアが中国に過度に依存することを望みません。もちろん、だからといって、ロシアがいかなる状況でも中国に敵対して同盟を組むということはありません。しかし、経済的な結びつきを多様化することは常に良いことです。

ですから共通の利害はありますが、問題は、ウクライナ問題を解決する前に二国間関係を本当に前進させることはできない、という点です。そしてウクライナ問題については、私はあまり進展を見ていません。ここで誰もが頭の中に入れておくべき重要な言葉があります。(この戦争の)「根本的な原因」です。ロシアは、自分たちが根本原因と考えるものを述べています。それは、要するに、欧州安全保障秩序の崩壊です。冷戦後、欧州は「ロシアを除いて皆が所属するヨーロッパを作ろう」と決めました。そして、ロシアを含まないヨーロッパを作ることは、必然的にロシアに対立するヨーロッパを作ることになります。そして今や欧州はロシアの国境全域にNATOの軍事基地を置くことになったのです。

モルドバ、ウクライナ、ジョージアのように、人口が(欧州寄りかロシア寄りかに)分断されている国々があるなら、もちろんそれらの国々が西側に傾くことを確実にするためには、人口の半分(分断されている片側)を抑圧しなければならなくなります。ロシアはこれを受け入れるわけがありません。

要するに、ロシアが求めていることは根本的なことです。過去30年にわたって(西側が)犯してきた誤りを、すべて再考しなければなりません。ですから、ウィトコフとドミトリエフが来て、「さあ、うまい貿易協定をまとめましょう。信じてください。」と言ったところでそうはいきません。たとえ信頼があったとしても、ロシアはその信頼にすべてを賭けるわけにはいかないでしょう。なぜならトランプは翌日にでも気が変わるかもしれませんし、いつまで続くかもわからないのです。

彼らはこの紛争の主要な根本原因に対処していませんし、それに対処するのは非常に難しいことです。第一歩はもちろん、ヨーロッパ諸国が実際にロシアと話すことですが、まだそこに至っていません。


ロシア資産を奪うのか

ナポリターノ:ベルギーの銀行にあるロシア資産を奪おうとする動きについてですが、(見送りという)結論に驚きましたか。それとも、ショルツとマクロンとスターマーが、ベルギー首相を威圧して押し切れると思いましたか。

ディーセン:一方では、通ることはあり得ないと思っていました。他方では、通ってしまうかもしれないとも疑っていました。というのも、欧州では国益に反する行為があまりにも多かったからです。ヨーロッパは、ロシアのエネルギーから自らを切り離しましたが、それは脱工業化をもたらします。そして脱工業化は、米国がヨーロッパを優先しなくなることをもたらします。こうやってヨーロッパは、何度も何度も自分たちの利益を損なうことを続けてきました。ですから、私はどちらにも転び得ると思っていました。

しかし問題は、ヨーロッパが何か常軌を逸したことをするたびに、反対する声がすべて「おまえはプーチン側だ」として中傷され、検閲されるということです。今回従わなかったベルギーを「プーチンの最重要資産」とまで呼ぶ者たちもいました。

しかし、これが問題なのです。これは親プーチンかどうかの話ではありません。自国の国益に忠実かどうかの話なのです。そしてこの問題は、ヨーロッパを分断させてもいます。なぜなら、法の支配を投げ捨て、盗みを本質的に合法化することは、非常に極端です。


EUがヨーロッパに有害な存在

たとえ通らなかったとしても、EUはそれでも、制裁を6か月ごとに投票で更新するというルールを停止し、いまや資産を無期限に凍結しています。ですから、すでに、EUがヨーロッパにとってかなり危険な存在であることが証明されつつあります。これは、イーロン・マスクが言っていることでもあります。そしてまた、米国の国家安全保障戦略は、多かれ少なかれ、ヨーロッパをEUから解放したいというものです。責任ある主体であることを示すどころか、EUはむしろ、国家安全保障戦略とイーロン・マスクが正しい、つまりEUがヨーロッパを損なっている、ということを示してしまっているのです。

ナポリターノ:ここで、水曜日のヴィクトル・オルバン首相(ハンガリー)の発言があります。彼がどう感じているかは非常に明白です。

オルバン:「そもそも、誰かの金を取り上げるという発想自体が愚かです。戦争をしているのは二つの国です。EUではありません。ロシアとウクライナです。なのにEUの誰かが、戦争当事者の片方から金を取り上げて、もう片方に渡そうとしている。これは戦争に踏み込むことです。だからベルギー首相は正しい。私たちはそんなことをすべきではありません。」

これは投票の直前でした。私は彼が正しいと思います。戦争に踏み込むな、ということです。メルツ首相の発案が頓挫し、代わりに1000億ドルの融資という案が出てきたとき、ヨーロッパではこれがどのように受け止められましたか。エリート層、メディア、そして一般の人々はどう受け止めましたか。

 

戦争継続に向かい、自ら破滅を招くEU

ディーセン:まず言うべきは、ヴィクトル・オルバンは別の点も指摘した、ということです。すなわち、EUがいまこの金、つまり900億ユーロを貸す場合、問題は、それを回収できる唯一の方法が、ロシアがそれを返済するか、あるいは賠償として支払うことだ、という点です。そしてロシアから賠償を得る唯一の方法は、ロシアを打ち負かすことです。つまり、EUは、破産しないため、そして金を回収するためには、戦争を長引かせなければならない立場に自らを置いたのです。たとえウクライナにとってどれほど深刻な結果であろうと、また核戦争への段階を踏むことになろうと、です。つまり、EUはいまや戦争自体が目的となっており、平和は敵だ、ということです。これはオルバンが言ったこととほぼ同じで、これもまた正しいのです。ですから、これは極めて危険なことが行われたと言えます。

ヨーロッパは少し分裂しています。多くの国々では、人々は、これがどこまで進むのか、この地点からどれほど先まで行ってしまうのか、という点を懸念しています。私は、これは主としてエリートによって推進されているプロジェクトだと考えています。スターマー、マクロン、メルツのような人物の支持率を見れば、歴史的にひどい状態です。彼らはその政策について、ほとんど民衆の支持を得ていません。

他方で、街頭の普通の人に尋ねれば、彼らもまた、行われていることのいくつかを批判するのが難しいと感じるでしょう。なぜなら、欧州はいま、ほとんどカルトのように機能していて、政府に同意するか、さもなくば敵側だ、という構図になっているからです。ですから、メディアにも、もはやあまり体制を批判する声がありません。


異論を唱えるジャック・ボー氏を制裁

もちろん、声を上げようとする人もいます。私の同僚で、スイス軍の退役大佐であり、スイス情報機関にいた人物がいます。ジャック・ボー大佐です。EUは実際に彼を制裁しました。彼はかつてNATOで働いていました。EUは彼を制裁し、銀行口座を凍結し、渡航禁止にしました。理由は、彼の分析の結論が気に入らなかったからです。つまり、欧州はいま本当に追い詰められていて、必死になっているのです。これは犯罪行為です。これが合法であり得るはずがありません。

ナポリターノ:明らかに犯罪行為です。ギルバート・ドクトロウ教授は、EUは、ボー氏に、司法的な異議申し立てすら認めていないのではないか、と言っています。EUはボー氏を黙らせ、移動を制限し、自分の金を使うこともさせない。すべてが彼の言論が理由なんです。何も犯罪をおかしたわけでもない。それなのに、どうしてこのような制裁が合法であり得るのでしょうか。

ディーセン:はい。EUの文書を読むと、こう説明しています。ボー氏が親ロシア的な発言をしてきたからだ、と。まずその「親ロシア的」という言葉が何を意味するのか。これは非常に曖昧な言葉です。ロシアについて何か肯定的なことを言ったり、ロシアを悪魔化しなかったり、西側ではなくロシアの側に立ったとかでしょう。


「西側がこの戦争を挑発した」と結論づけただけで

ボー氏は自らの分析に基づいて、「西側がこの戦争を挑発した」と言っているのであり、それは反西側でも親ロシアでもありません。それは、もし私たちが核戦争を回避し、ウクライナが破壊されるのを避けたいなら、そしてもし私たちがこれを挑発し、ロシアが自らを実存的脅威に直面していると見ているのなら、和平を望むなら、まずそれを認識しなければならない、ということを言っているだけです。問題を解決するには、まず正しい診断を得なければなりません。

ですから、彼らの説明は、こうした曖昧な言葉だらけなのです。そしてまた、「親ロシア的であること」を犯罪扱いするというのも、非常に奇妙なことです。

ジャック・ボー氏が親ロシア的だったという議論でさえ、EUが制裁の説明に挙げた例は一つで、「ウクライナがロシアの侵攻を自ら招いた」と示唆した、というものです。しかし、大佐が引用したのは、ゼレンスキーの元顧問、オレクシイ・アレストビッチの言葉でした。2019年のインタビューで、アレストビッチは、NATO加盟のために私たちが支払わなければならない代償は、ロシアとの大戦争であり、私たちはその戦争に勝つのだ、と言っていました。そして、NATOに加入しようとすればロシアを挑発して侵攻させることになり、侵攻したらNATOが助けてくれて、一緒にロシアを打ち負かす。最高にクールなことになる。そしてそれがNATOへの切符になる、ということを言っていたのです。


規則など投げ捨てたEU

ボー大佐はゼレンスキーの最側近の顧問の言葉を引用しているのに、EUはこれを、いわゆる陰謀論を広めたとして、彼を制裁する理由にしているのです。

ナポリターノ:本当に救済手段がないのですか。適正な手続がなかったのだから制裁を解除せよ、と裁判官に求めることもできないのですか。

ディーセン:神のみぞ知る、です。繰り返しになりますが、EUにとって法も規則もどうでもよくなっていますから、そういうことを言える状況ではありません。

ナポリターノ:スイスにあるこれらの銀行はどこにあるのですか。スイスの銀行は、ブリュッセルの連中の言うことを聞くのでしょうか。

ディーセン:そうならないことを願います。繰り返しになりますが、スイスはEU加盟国ではありません。ボー大佐はブリュッセルに住んでいると私は理解していますから、彼の口座はそこで凍結されているのでしょう。ただ、EUが自国の大佐の一人にしたことを考えると、スイス政府が非常に静かであるのは気になります。

これは、いじめ以外の何物でもありません。自己破壊的でもあります。これは、EU寄り、あるいはヨーロッパ寄りだから賛成すべき、という議論ではありません。EUは自滅しているのです。EUがどれほど、藁にもすがる思いでいるかを表すことです。


「いわれなき侵略」と言わないと制裁対象に

もしボー大佐を親ロシアの工作員だと非難するのなら、それは本当に深刻な事態です。もはや異論が許されない、ということです。ボー氏は自分の仕事をしていたにすぎません。相手方が何を恐れているかを評価し、どう反応しているかを説明することは、危機を解決するための条件なのです。

ヨーロッパの問題は、ロシアの安全保障上の関心を語ることさえ許されない、という点です。そしてこれは米国が言ったことでもあります。いかなる合意でもロシアは安全の保証を必要としていない、と。しかし和平合意が必要とするのは、相互の安全の保証です

ナポリターノ:EUは言論の自由を認めていません。となると、EUはギルバート・ドクトロウにも同様の制裁をやり得るのでしょう。彼はブリュッセルに住んでいます。

ディーセン:これは終着点ではありません。彼らがここで止まるわけではありません。これは、言論の自由への取り締まりがエスカレートし続けるパターンです。ですから、次は誰でもあり得ます。これは威嚇です。

ナポリターノ:EUはどうやってこの決定に至ったのですか。投票があったのですか。それとも、フォン・デア・ライエン氏が紙に署名して命令しただけなのですか。

ディーセン:私の理解が正しければ、これは理事会から出たものです。つまり、EU議会には、これに関して何の発言権もありませんでした。

ポイントは、この制裁が2年、3年後に覆る可能性があったとしても、重要なのは、プロセスです。このような処罰があったということです。これは他者への見せしめになるのです。あなたの分析が、つまり、(ウクライナ戦争は)アドルフ・ヒトラーの再来(つまりプーチン大統領)による挑発なき侵略だ、という結論に達しないなら、あなたは制裁され得る。私たちはあなたの口座を凍結し、あなたが請求書を払うことを不可能にし、あなたは家から追い出される。大陸を去らなければならない。大陸内を旅行することも許されない。こういうことです。

これが、いまの私たちです。これが、いまのヨーロッパなのです。

ナポリターノ:では、もし彼がブリュッセルからチューリヒへ飛ぼうとしたら、どうなるのですか。彼は飛行機に乗れないのですか。

ディーセン:どう機能するのか、私はよく分かりません。彼はEUを出てスイスへ行くことになりますが、スイスはEUではありません。ただ、繰り返しになりますが、言いにくいです。これは、こういう形でEUがヨーロッパ人、特に軍の上級者を制裁するという、新しい領域です。

ですから、これが当然の帰結、つまり十分な反発を受けない限り、EUはタガが外れた状態になり、今後も他の人々に対してこれを続けるでしょう。

ナポリターノ:私はぜひボー氏にインタビューしたいです。もしそれが実現するなら、新年の後になるでしょう。ディーセン教授、本当にありがとうございました。


Saturday, December 20, 2025

沖縄・塩川港より映像とメッセージ: 土砂搬出がエスカレートしている Henoko/Oura Bay Reclamation Work is Accelerating: An Update from a Protester

 『琉球新報』12月20日の報道によると、19日、沖縄防衛局が半年ぶりに、大浦湾側の軟弱地盤改良工事のための砂ぐいを打ち込む作業を再開したという。

「防衛局はことし1月から大浦湾側で、軟弱地盤の改良工事を始めた。約7万1千本のくいを海面下約70メートルまで打ち込む計画で、そのうち砂ぐいは4万7千本を予定。ただ作業が止まっていたため、これまでに打設された砂ぐいは約2900本にとどまる。

 防衛局は11月28日には大浦湾の新たな区域で埋め立て土砂の投入を始めた。国が県に代わって、大浦湾側の軟弱地盤の改良に伴う設計変更を承認する史上初の代執行に踏み切って以降、工事を強行している。」

と報じている。

同日、塩川港で土砂搬出を遅める牛歩行動をしている岡添さんからメッセージと動画が届いた。

「11月塩川の作業は第3週まで1日、9〜11月の搬出台数は1日平均94台でした。が、月末政府が大浦湾の浅瀬の埋め立てを決定してから状況が変わりました。防衛局、機動隊が増員され、規制も厳しくなっています。トラック1台毎に牛歩できていた状況から、10台出しまでエスカレートしています。昨日は487台搬出されました。動画をお送りしますが、右手を布でカバーしている女性は機動隊に腕を捻じられたとのこと。動画を撮影する私には機動隊と防衛局が張り付きました。やがて事件事故が起こるのではと心配しています。」

体を張って牛歩行動をしている人たちに敬意を表する。

Monday, December 15, 2025

南京大虐殺88年を済州島で記憶する Remembering the 88th Year of the Nanjing Massacre on Jeju Island 난징대학살 88주년을 기억하는 제주도 추도집회

 2014年以来12月13日の「南京大虐殺記憶の日」に合わせ、済州島のアルドゥル飛行場の格納庫前で行っている追悼集会に、今年もメッセージを送りました。お誘いいただいたカイア・ヴェライドさんをはじめ皆様に感謝します。

過去の集会について、このサイトで紹介した記事は:

2024 2022 2021 2020 2019 2018 2016 をご覧ください。

繰り返し伝えていますが、済州島は、1937年8月15日に開始された日本海軍による南京空爆に使われました。当時朝鮮は日本の植民地支配下に置かれており、朝鮮市民が強制動員されて飛行場を作ったにもかかわらず、現在の済州島の人たちは南京大虐殺への責任を感じて毎年こうやって寒空の下集まり、追悼集会を開いているのです。頭が下がるとしか言いようがありません。済州島のアーティストであり運動家である友人、チェ・ソンヒさんのFacebookページより当日の写真を紹介します。今年のテーマは「虐殺」でした。


スピーチ、写真、ビデオ、報道などはこちらのまとめサイト(韓国語)をご覧ください。

Collection of photos, files, and links: https://cafe.daum.net/peacekj/UvsW/177


地元のニュースサイトが報道しました。Local news articles: https://www.jejusori.net/news/articleView.html?idxno=442097, https://www.headlinejeju.co.kr/news/articleView.html?idxno=583406


KBSが報道しました。KBS video: https://www.youtube.com/watch?v=aPgGluVeYU8


以下、私が送ったメッセージです。オリジナル日本語版につづき、済州統一青年会のユン・ジイさんが代読してくださった韓国語版を紹介します。

南京大虐殺から88年 済州島へのメッセージ

乗松聡子(ピース・フィロソフィー・センター代表 カナダ・バンクーバー)

済州島で軍事主義と闘っているみなさまへ、まずは、昨年末の尹錫悦大統領による「非常戒厳令」に対して毅然と立ち上がり、尹大統領罷免にまで追い込んだ大韓民国の市民の力に敬意を表したいと思います。

いっぽう日本は、自民党でも再極右の高市早苗首相が就任し、11月7日には国会で「”台湾有事”は存立危機事態にあたる」と発言しました。台湾をめぐる武力紛争が生じたら日本は自衛隊を発動できるという挑発に、中国は強く反発し撤回を求めています。

今年は中国をはじめ対日本戦勝国にとっては「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年」の記念すべき年です。よりによってその年に、加害国の日本の首脳から「再侵略宣言」に等しい発言があったことの重大さは、日本政府も日本市民も十分理解できていないように見えます。

12月8日、私もその構成員である「村山談話を継承し発展させる会」は東京で記者会見を行い、1995年に当時の村山富市首相が日本の「植民地支配」と「侵略」を反省しお詫びした閣議決定を思い起こし、高市首相の「台湾発言」を撤回するよう強く要求しました。

そこで私は強調しました。これは現在の地政学的問題というより、第一義的に歴史問題です。日本はその侵略戦争において、南京大虐殺をはじめとした、人道にもとる残虐行為を行い、それは80年経っても到底許されるものではありません。

それなのに、中国は、日本の軍国主義と日本の人民を敢えて分けて考え、日本を許し、1972年に国交正常化を行いました。その際に日本は「台湾には二度と介入しない」という約束をしたのです。その約束を高市首相は破りました。

12月13日、いま一度日本人は、「二度と戦争しない」という日本国憲法の誓いを想起すべきです。そのような思いで、「南京大虐殺」を記憶する日本人は随所に存在します。私は、そのうちの一人として、済州島のみなさんと連帯し、東アジアの平和を作る一端を担いたいと思っております。

乗松聡子


연대의 말 (3)

노리마츠 사토코(평화철학센터,  일본/캐나다)

낭독 :  윤지의(제주통일청년회)

제주도에서 군사주의와 싸우고 계신 여러분께,  먼저,  작년 연말 윤석열 대통령에 의한 '비상계엄령'에 의연히 들고일어나,  윤 대통령 파면까지 이끌어 낸 대한민국 시민의 힘에 경의를 표합니다.

한편 일본은,  자민당에서도 또다시 극우인 타카이치 사나에 총리가 취임하여,  11월 7일에는 국회에서 "'대만 유사'는 일본의 존립 위기 사태에 해당한다"라고 발언했습니다.  대만을 둘러싼 무력 분쟁이 발생하면 일본은 자위대를 발동할 수 있다는 도발에,  중국은 강하게 반발하고 철회를 요구하고 있습니다.

올해는 중국을 비롯한 대일 전승국에게는 '항일 전쟁 ·  세계 반파시즘 전쟁 승리 80년'이라는 기념비적인 해입니다.  하필 이러한 올해,  가해국 일본의 정상에게서 '재침략 선언'이나 마찬가지인 발언이 나왔다는 것에 대해,  일본 정부도 일본 시민도 그 중대성을 충분히 이해하지 못한 듯합니다.

12월 8일,  저도 회원으로 있는 '무라야마 담화를 계승하고 발전시키는 모임'은 도쿄에서 기자회견을 열어,  1995년에 당시 무라야마 도미이치 총리가 일본의 '식민지 지배'와 '침략'을 반성하고 사과한 내각회의 결정을 상기시키며,  다카이치 총리의 '대만 발언'을 철회하도록 강하게 요구했습니다.

그 기자회견에서 저는 강조했습니다.  이것은 현재의 지정학적 문제라기보다,  첫째로 역사 문제입니다.  일본은 침략 전쟁에서 난징 대학살을 비롯한 인도에 반하는 잔학 행위를 하였고,  그것 80년이 지나도 도저히 용서될 수 없습니다.

그런데도,  중국은 일본의 군국주의와 일본의 인민을 굳이 나누어서 생각하여,  일본을 용서하였고,  1972년에 국교 정상화를 이루었습니다.  그때 일본은 '다시는 대만에 개입하지 않겠다'라는 약속을 했습니다.  그 약속을 다카이치 총리는 깨뜨렸습니다.

12월 13일,  지금 다시 일본인은 '다시는 전쟁하지 않겠다'는 일본국 헌법의 맹세를 떠올려야 합니다.  그러한 마음으로 '난징 대학살'을 기억하는 일본인은 곳곳에 존재합니다.  저는 그중 한 사람으로서,  제주도에 계신 여러분과 연대하고,  동아시아의 평화를 만드는 일에 동참하고 싶습니다.

(以上)

Tuesday, December 09, 2025

「村山談話の会」記者会見:高市首相は「台湾有事は存立危機事態」発言を撤回せよ Murayama Statement Group calls on Prime Minister Takaichi to Retract Her Claim that a “Taiwan Contingency” Constitutes an “Existential Threat” Justifying the Dispatch of Japanese Troops

さる12月8日(月)、参議院議員会館で、「村山談話を継承し発展させる会」(藤田高景会長)が、高市早苗首相に「台湾有事は存立危機事態」発言の撤回を要求する記者会見を開きました。日本、中国など各国メディアの他、関心のある人もたくさん来てくれて、80人の参加を得て活発な議論がかわされました。以下、報道リスト、「声明」本文、このブログ運営者の乗松聡子の冒頭発言のテクストを紹介します。

関連報道リスト(随時更新します)

産経新聞 村山談話の会、首相答弁は「軍国主義の復活」で撤回を 台湾有事は「CIAが騒いでいる」

東京新聞 高市首相の台湾有事発言は「宣戦布告」「対話成り立たない」 答弁の撤回を求める元外交官と学者の危機感

朝日新聞 自衛隊が懸念するサラミ「厚切り」戦術 中国のレーダー照射で負担増

共同通信(沖縄タイムス):元外交官ら首相答弁の撤回要求 「対話努力放棄はいけない」

朝鮮新報 高市発言の即時撤回、独立外交を/有識者らが緊急記者会見

新華社 日本の有識者、高市首相に台湾発言の撤回要求 CGTN日本語Xアカウント  フェニックスTV CCTV など中国メディア多数

CCTV 記者会見での乗松聡子の取材 中国語 日本語

会見後、CGTN日本語版から取材を受けました。

Xには、ショート動画のインタビューが3本アップされています。

UPlan によるYouTube映像です。




声明

高市首相は「台湾有事は存立危機事態」発言を撤回せよ


1、 去る11月7日の衆議院予算委員会で、高市首相は、「台湾有事」が起こった場合、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と述べました。そもそも「戦艦」という言葉は現在使いません。軍事のことも理解せず、日本政府がこの間、中国に対して約束したことさえフォローせず、戦争介入発言をした高市氏の発言は、すぐに撤回すべきです。

かつて「いわゆる一つの中国と台湾有事に関する質問主意書」に対する「答弁書」(2023.5.9、岸田文雄総理)で、日本政府は次のように述べています。「①台湾に関する我が国政府の立場は、昭和47年〔1972〕の日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明第3項にあるとおり、『台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である』との中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するというものである」。「④お尋ねの『台湾有事』及び『日本有事』の意味するところが必ずしも明らかではないが、一般に、いかなる事態が武力攻撃事態、存立危機事態又は重要影響事態に該当するかについては、事態の個別具体的な状況に即して、政府がその持ち得るすべての情報を総合して客観的かつ合理的に判断することとなるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である」。

今回の高市答弁が、従来の政府見解と異なることは明らかです。


2、1972年9月、田中角栄首相の訪中によって中国との国交正常化が実現します。歓迎宴における挨拶で、周恩来総理は、「1894年から半世紀にわたって、日本軍国主義者の中国侵略により、中国人民は極めてひどい災難をこうむり、日本人民も大きな損害を受けました…」と述べました。青春の一時期を日本で過ごした周総理の胸中は、いかばかりのものだったでしょうか。1894年は日清戦争の開始年であり、それが「台湾植民地化」に結びつくのです。「日中共同声明」前文には、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」とあります。日本政府が、こうした「歴史認識」を披歴した初の国際文書となります。

このときの日中共同声明第3項には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とあります。その第8項には「カイロ宣言の条項は履行せらるべく…」とあり、カイロ宣言には「(日本が盗取した)満州、台湾及び澎湖島…のような地域を中華民国に返還すること」とあります。


3、 日中共同声明に示された「歴史認識」はその後も維持されており、1982年7月の「教科書問題」は宮沢喜一官房長官談話での事態収拾を余儀なくされ、1985年8月の「中曽根康弘首相の靖国神社公式参拝」は、後藤田正晴官房長官談話での事態収集を余儀なくされました。そして、戦後50年にあたる1995年8月15日、閣議決定を経て発表された「村山談話」には、次のようにあります。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して、多大の損害と苦痛を与えました。私は未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここに改めて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明します」。


4、高市答弁は、台湾有事が起こった際には日本は戦争体制に入れるということを国会で明言した初めての、日本軍国主義の復活に等しい行為です。何よりいったん戦争になれば再び戦場にされうる沖縄の玉城デニー知事は、「戦争は絶対に起こしてはならないし、引き起こすようなきっかけを与えてもいけない」と警告しています。中国側からは強い非難と撤回要求が繰り返し表明されています。撤回を行わない日本に対し、中国は自国民の日本渡航自粛を求め、日本留学について「慎重な検討」を勧告し、日本産海産物の輸入停止、日本コンテンツの公開中止などの措置を執っています。そもそも日本側が原因を作った問題について、自分たちが被害者のように振舞うことで事態が打開されるはずはありません。

  中国外務省の毛寧報道局長は、17日に「1995年の『村山談話』を想起すべき時期に来ています」と述べています。中国は、日本に良心と反省が存在していたこともあったことをリマインドしているのです。


5、日本は、いまこそ、その後の政権も踏襲を表明してきた「村山談話」を想起すべきではないでしょうか。あの戦争は侵略ではないと主張し、「村山首相談話」を無効にすると宣言していた高市早苗氏が、いまは首相となり、いわゆる台湾有事への自衛隊参戦をほのめかしたのです。この問題について、日本人は、現在の問題が持つ歴史性をはっきり理解することが不可欠です。中国から見たら、台湾に介入しようとする日本の姿は、まさしくかつての日本の軍国主義の再来に他ならないでしょう。日本国憲法9条への違憲行為であり、国際法に照らしても違反です。

  台湾への再びの介入、つまり「一つの中国」の不尊重は、ふたたび日本が中国に食指を伸ばす兆候ではないかと見られるのです。日本は、ここ数年、与那国、石垣、宮古、奄美、沖縄、馬毛島、西日本に至るまで、ミサイル部隊、レーダー基地、辺野古などの新設基地、弾薬庫、共同訓練施設、民間施設の軍用化などにより、日米が一体化して利用できる軍事地帯に塗り替えてきました。これらは、地元の強い反対や、戦争が島に及んだ場合の住民保護への強い懸念があるにもかかわらず、強行されています。


6、高市首相の「存立危機事態」発言は、極めて危険な、台湾統一をめぐる中国に対する戦争介入宣言です。

トランプ大統領は、米中経済関係を重視することにより、高市氏の戦争挑発にくぎを刺すような発言もしたと報じられていますが、高市氏の発言の後に、第二次トランプ政権としては初の、台湾への約510億円相当の武器売却を承認しています。トランプ政権はオバマ政権「アジア回帰」以来の中国封じ込め強化政策を具体的に後退させる兆候はありません。日本政府は、日本の安全保障のためにも、いまこそ米国から独立した平和のための外交政策を選択することが求められています。

台湾問題を中国の内政問題と認め、高市首相は即時に、今回の「存立危機事態」発言を撤回すべきです。


2025年12月8日

                    村山首相談話を継承し発展させる会 

                                          



★パネルは長く、藤田会長の左側にも5人のパネリストがいらっしゃいました
こちらの東京新聞の報道写真を参照

25年12月8日 「村山談話の会」 記者会見 

 

乗松聡子 冒頭発言

 今日は何の日でしょうか。12月8日。いわゆる1941年「真珠湾攻撃の日」ですが、この日、日本が攻撃したのは真珠湾だけではありませんでした。マレーシア、フィリピン、香港、シンガポール、グアムなど、東南アジアや太平洋の英米の植民地を次々と攻撃しました。なぜですか。対中国侵略戦争を続行するために東南アジアの豊富な資源が必要だったからです。連合国や海外華僑が支援物資を送っていた援蒋ルートを遮断するためです。すべては中国侵略戦争から始まっていたのです。

 

 そういう意味できょうこの日、高市首相の「“台湾有事”は“存立危機事態”」発言の撤回を求めることは歴史的意義があります。近代日本の最初の海外派兵がまさしく、1874年の台湾出兵でした。これは、明治政府が琉球王国を清国との繋がりを断たせ、強制併合していく過程で起きたことでした。その後日清戦争で勝った日本は清国から台湾を割譲させ、植民地支配しました。中国から見たら、台湾に介入しようとする日本の姿は、まさしくこの時期の日本の軍国主義の再来に他ならないのです。

 

 その後の日本の中国侵略戦争と、「偽満洲国」の植民地支配においては、何千万の中国の人々に対し、大虐殺、捕虜処刑、強制動員、性暴力、性奴隷制、生体実験、細菌戦といった人道にもとる残虐行為を行いました。もうすぐ1213日、南京大虐殺を記憶する日です。88年前の1213日の「南京陥落」を日本中で祝い、提灯行列や旗行列をしました。現在、高市首相の挑発行為を戒めることもなく、支持率がアップしているといわれる日本はまさしく戦時中の旗行列、提灯行列と重なります。行きつく先は破滅です。

 

 破滅を防ぐにはまずは高市首相は、台湾発言の撤回をしなければいけません。高市首相は、1972年の日中共同声明の「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国の立場を理解し尊重するという約束と、その後、1978年の日中友好平和条約、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明という日中関係4文書で繰り返し約束した「一つの中国」の尊重を、中国に再確認するべきです。


 思い起こしてください。2012年の野田政権による「尖閣諸島国有化」、2013年の安倍晋三首相による靖国神社参拝などで冷え切っていた日中関係を改善するために2014年11月、安倍首相が習近平主席と会談するにあたって、「双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」と合意しました。安倍首相を信奉し、後継者を自認する高市首相は、これを踏襲することができるのではないでしょうか?

 

 日本敗戦50周年に際し、村山富市首相は日本の首相としては初めて、「植民地支配」と「侵略」に「痛切な反省の意」と「心からのお詫び」を表明しました。今年、80周年という節目の年、例年にも増して、日本は、厳粛に、謙虚に、大日本帝国の70年以上におよぶ加害の歴史を振り返り、日本国憲法にあるように「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」誓いを新たにする年ではなかったでしょうか。残念ながら年末にむけ、日本はますます真逆の方向に進んでいます。

 

 対中国だけではありません。昨今、電車やバスにのると、「1210日から16日まで」を、朝鮮民主主義人民共和国についての「“人権侵害問題啓発週間”」と称し、朝鮮による「人権侵害」問題が、「我が国の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題」として意識喚起しています。これには驚愕しました。いま、中国に対する挑発発言で「わが国の安全」を脅かしているのは高市首相と日本政府ではありませんか。

 

 朝鮮と日本との間によこたわる人権問題は拉致問題だけでなく、2002年「日朝平壌宣言」にもうたわれた、植民地支配の清算さえ始まってもいません。強制動員、日本軍性奴隷、朝鮮人被爆問題など膨大な未解決の問題が残されています。それを日本政府はただ「敵視」で対応し、逆に朝鮮学校無償化除外という、それこそ人権侵害を行っています。

 

 これらの敵視政策の背後には、米国への従属問題があります。米国が敵視する国をそのまま敵視し、メディアもそれに追随し、世論に大きな影響を与えてしまうという根本の問題です。日本が過去を乗り越え再び東アジアの一員となるには、まず、敵視キャンペーンを展開している対象国―中国、朝鮮民主主義人民共和国、ロシアといった隣国に対する、独立した視点と外交を築くことが重要です。

 

 これこそが、これら敵視政策を口実にし、米国に言われるがままにエスカレートさせている、軍事予算増加、琉球弧や西日本の要塞化、軍事演習、つまり戦争準備の方向性を転換させる道です。日本が再び東アジアを戦場にしないため、また、自立した平和的外交を築くための道です。その第一歩として、高市首相は台湾についての「存立危機事態」発言を明確に撤回すべきと思います。


(以上) 



第32回 アジア・フォーラム横浜 証言集会でのコメント「敗戦80年、日本の歴史認識を問う」  My Commentary at Asia Forum Yokohama: 80 Years Since Defeat: Reflecting on Japanese Historical Consciousness

先日予告した「第32回 アジア・フォーラム横浜 証言集会「父は二度と家に帰らなかった」沈素菲さんの証言 および 林少彬さん講演」は、150人ほどの参加をえて、成功裡に終わりました。録画がもうすぐYouTubeに出ると思いますので出たらまたアップします。

林少彬さんの講演

林少彬さんのインタビューにこたえる沈素菲さん

乗松聡子のコメントの原稿をここに紹介します。実際話した内容は、これに少しアドリブで付け加えたものです。

横浜証言集会 乗松聡子コメント 「敗戦80年、日本の歴史認識を問う」

 

きょう、お招きいただいた、アジア・フォーラム・横浜の皆さまに深く感謝申し上げます。今回、吉池さんから声をかけていただきました。吉池さんとは、2014年の夏の、高嶋伸欣さんのマレーシアとシンガポールの旅でご一緒させていただいて以来のお付き合いです。この旅のつながりから、2015年、敗戦70年を記念して、カナダ・バンクーバーに、高嶋伸欣・道さんご夫妻をお招きし、マレーシアとシンガポールの華人虐殺の歴史について地元の教会で講演会を開きました。

 

きょうは、私よりずっと知識や経験のある皆様の前で、何かお役に立てることを言えるのかどうか自信はありませんが、自分の体験にもとづいた話をしたいと思っています。また、資料として、私が今年になってから書いた、「敗戦80年」に関連する記事をいくつか配布させていただきました。

 

まずは、きょう証言していただいた、沈素菲(シム・スーウィー)さん。小さいころにお父様を日本軍に奪われ、お父様は二度と戻ることはなかったとうかがいました。お母さまも悲しみのあげく亡くなられたと。シムさんが7才ぐらいのときの出来事だと察します。このような小さなときに両親を奪われ、どれだけ寂しかったか、どれほどのご苦労があったかと、想像することも難しいです。

 

林小彬(リム・シャオビン)さん。林さんは、おじいさまが、「粛清」の被害者であったと聞いております。それも、日本が正式に降伏した後に起こった、9.5マラッカ事件の被害者であられたということは本当に衝撃的なことです。日本から解放されたと思った矢先にこのような残酷な方法で命を奪われ、どれだけ無念だったことでしょう。

 

私は、高校1年まで日本で教育を受けてきて、その中で、広島や長崎の原爆や、東京大空襲について学ぶことはあっても、日本軍が日本の外で何をしたかということは授業では学びませんでした。

 

高校2、3年とカナダの学校に留学する機会を得て、私の世界観は変わりました。その高校には5大陸、70か国から来た留学生が全寮制で学んでいました。英語ができず、授業がわからず毎日泣いていた私を助けてくれたのは、ルームメートだったシンガポール出身のリム・アイルンでした。英語名はヘレンでした。ヘレンは私が見下ろすほど体が小さいのですが、ピアノが上手く、英国流の英語を話し、中国語は何種類も話し、フランス語も話す、大変な秀才でした。

 

ヘレンがある日言いました。戦争中日本軍がシンガポールに来て、罪のない人たちをたくさん殺し、赤ん坊を宙に投げて銃剣で突き刺したと。私は、ただ、「え?」という感じで茫然とすることしかできませんでした。今にしてみれば、「日本人はこんな大事なことを学校で教わらないのか」と、思われたかもしれません。

 

これが私の「覚醒」の始まりでした。この学校にはフィリピンや、インドネシア、中国の留学生も来ていて、仲良くなった時点で、日本軍占領時の残虐行為について聞かされました。インドネシアの子は「ロームシャ」という言葉を使って、日本軍による強制動員があったことを教えてくれました。17才にして、日本の学校では教えられなかった歴史の洗礼を受けました。

 

今年は日本敗戦80年です。1945年8月15日、ヒロヒトがポツダム宣言を受諾して降伏したことをラジオで周知した日が「終戦の日」と呼ばれます。今年も、日本のメディアは、8月15日近辺までは戦争関連の内容で盛り上がりますが、そのあとは急速にしぼんでしまいました。上海にいる研究者の友人が今年、「日本は結局敗戦を否認しているのではないか」と言っていましたが、そうとしか思えない風潮はあります。特に、9月の出来事に注目しないことは象徴的です。

 

日本の敗戦がまぎれもなくわかる9月2日の降伏文書調印式や、日本が満州侵攻した日、中国では知らぬ人はいない9.18の記念日は、日本ではあまり語られません。1923年9月1日以降の関東大震災後朝鮮人大虐殺も、日本の朝鮮植民地支配の中で起きた出来事ですが、戦争責任という歴史的文脈で語られることがあまりありません。

 

そして、中国やロシアなど多くの戦勝国が集まった、9月3日の北京における抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会は、日本の敗戦を振り返るにふさわしい機会であったのに、日本政府はこの催しを反日イベント扱いし、各国に出席しないように呼びかけるといった、加害国にあるまじき行為まではたらきました。

 

日本は、8月14日、または9月2日に開催される、米国や英国における対日戦勝記念日(VJデイ)に文句を言った形跡はありません。どうして中国には文句をいうのでしょうか。それはやはり、米英に対して負けたのであって、中国に対して負けてはいないという「敗戦の否認」があるからではないかと思います。

 

これは、12月8日が、「真珠湾攻撃」という一言だけで片付けられ、真珠湾より前にマレーシアのコタバルに陸軍が侵攻していたこと、それだけではなく同日にタイ、シンガポール、香港、フィリピンなども攻撃していたことを覆い隠すことにも共通する歴史認識です。

 

「先の大戦」と称するものが、米国とだけ闘い、米国に対してだけ負けたかのような印象操作がずっと行われてきました。「真珠湾」で始まり「広島・長崎」で日本が負けたというナラティブです。2016年、当時のオバマ大統領が広島を訪問し、安倍首相がそのお返しとして年末に真珠湾を訪問したことが「和解の交換」であるかのごとく演出され、強化された歴史認識でした。

 

オバマ大統領は広島に行く前に岩国海兵隊基地を訪れ、3千人もの海兵隊と海上自衛隊関係者の前で満面の笑みで、日米同盟絶賛の演説を行い、「オーラ―!」と大歓声を上げました。広島の平和記念資料館には10分もいなかったということなので、広島には「ついで」に寄ったとしか思えない比重の差でした。

 

その一カ月前には沖縄で、米軍属による残酷な性暴力および殺人事件が起きたばかりでしたが、それに言及することもありませんでした。結局すべては現在の日米同盟のためなのです。同盟といえば聞こえはいいですが決して平等ではなく、米国による日本の軍事支配のためなのです。歴史認識もその日米のストーリーに都合のいいように形成されます。

 

この歴史観によって、日本が東南アジアの欧米植民地を攻撃した理由を問わなくてよくなります。日本は中国への侵略戦争を続行するために東南アジアに資源を求め、援蒋ルートを断ち切る目的があった。「真珠湾」以外を語ると、この戦争の本質に迫らざるを得なくなるから、語らないのです。中国に対して負けたということを認めたくない日本と、第二次大戦のアジア側の闘いの手柄はおもに米国にあるというストーリーを作りたい米国の利益と合致するものです。

 

「中国に対する敗戦を認めない」という日本の姿勢は、11月7日の高市首相による、「”台湾有事”は存立危機事態になり得る」、つまり再び日本が中国に武力行使をすることができるという「再侵略宣言」ともいえる発言とつながっています。これは政策転換でもなんでもありません。高市氏のような、侵略戦争さえ認めず靖国神社に平気で行くような、日本の保守政治家に連綿と受け継がれてきた歴史観の顕れです。それに、戦後の米国による軍事支配が重なり、米国の中国封じ込め政策に乗っ取った発言をしたに過ぎません。とうとう本性を出したな、ということなのです。

 

これを、大日本帝国が中国をはじめ、アジア太平洋諸国に何をしたかを知らないまま大人になった人たちは、中国がなぜここまで怒っているのか理解もできず、またしようともせず、長年のメディアによる嫌中・反中キャンペーンが功を奏したか、高市首相の支持率はかえって上がっています。

 

もうすぐ12月13日、南京大虐殺を記憶する日です。この、「敗戦80年」という、祈念すべき年なのに、日本政府みずからによる歴史否定と中国に対する裏切り行為により、日中の交流が途絶え、最悪の空気の中でこの年を終えなければいけないとしたらあまりにも悲しいことです。責任は全部日本にあります。

 

1937年、大虐殺が進行中であると知りもしない日本人は「南京陥落」だとお祝いし、各地で旗行列や提灯行列をやりました。1942年2月、シンガポール陥落のときも同様のお祭り騒ぎだったと聞いています。現在中国に牙を向けている高市氏を止めようともしない、止めるところか一緒になって中国敵視をやっているマジョリティの日本人は、あの頃と同じ、旗行列と提灯行列をやっているのです。

 

私は11月18日から28日、中国で「撫順の奇蹟を受け継ぐ会関西支部」という団体が主催した、日本軍の加害を学ぶ旅に参加し、成都、重慶、常徳、廠窖、武漢などに訪問しました。現地で、高市発言の余波をもろに感じながら過ごした貴重な10日間でした。TVをつければ高市特集をやっているといっても過言でないほど連日中国は批判を展開していました。旅の間に交流プログラムが中止になったり、北京から通訳として呼んだ大学院生が日本人との交流を禁じられ呼び戻されたりといったこともありした。

 

現地の友人たちといろいろ話しましたが、研究者の友人は、中国の人たちの意見は多様であるが、「台湾については、日本の介入への怒りは、14億人の総意と言って間違いないと思う」と言っていました。わたしは最後の武漢で病気になってしまい、2日間寝込みました。中国の友人たちは私を病院に連れていってくれ、果物や食事や薬を部屋に届けてくれ、いたれりつくせりのケアをしてくれました。こういうときだからこそ、このような人と人とのつながりの有難さが身に沁みました。

 

中国の人たちは日本人が嫌いなわけではなく、逆です。歴史を共有した上で、仲良く交流したい人たちが大半です。現在の若い世代は日本のアニメやマンガとともに育ちました。中年以上の世代も、日本の歌を驚くほど多く知っています。中国人のそういった好意を、歴史を否定し中国を嫌うことによって踏みにじっているのは日本側なのです。

 

高市首相は10月末のASEANプラス3の外交の場で、マレーシアとシンガポールの人たちの、戦争の傷に塩を塗る行為も行いました。10月26日のソーシャルメディア投稿で、クアラルンプール日本人墓地を訪問し「マレーシアで命を落とした先人を慰霊した」と言いながら、日本軍による3年半の占領とその中で起きた残虐行為については一切触れませんでした。あたかも「慰霊」に値するのは日本人だけであるかのような言い方に地元の人たちからも批判が殺到しました。

 

日本人は12.8を皮切りに日本がどこをどう攻撃して何をしたかをもっと知るべきと思います。私もまだ全然知りませんが、今年、日本が攻撃・占領した場所の中から、2月にフィリピン、7月に香港に行きました。

 

フィリピンでは、1945年2月の約一カ月の闘いで10万人の市民が殺されたマニラ市街戦大虐殺の80周年の式典と国際会議に出ました。マニラ市街戦を学んでいると沖縄戦の構造と似ていることがわかります。日本はあえて住民を巻き込む市街地に立てこもり、住民被害が拡大し、スパイ視で住民を殺し、女性に性暴力をふるいました。

 

高市首相のマレーシアでの行為について言いましたが、2016年には日本の天皇夫妻も「慰霊の旅」と称してフィリピンに来て、マニラ中心地にあるこの市街戦記念碑には行かず、片道3時間はかかる、郊外の非常に行きにくい場所にある、日本人の慰霊碑(「比島戦没者の碑」)にわざわざ行っていました。(実際は、天皇ですから、専用ヘリで行ったようですが)。高市と大差ありません。

 

私は10日間滞在しましたが、ルソン島だけでも、いたるところに、虐殺の跡地があり、とても周り切れませんでした。ここでも、現地で道を聞いたりすると持ち場を離れてまで連れていってくれるような人たちに助けられました。

 

日本軍性奴隷もフィリピン各地で横行しました。リラ・ピリピーナという支援団体がいまでも、残り少ない生存被害者の支援を続けています。この性奴隷の歴史を記憶するための像がマニラ湾を見渡す海岸沿いの公道にあったのに、日本政府の圧力により撤去されました。市内のバクララン教会というカトリック教会の中に移転するはずだったのが、その像がまた、消えてしまうという事件が起こりました。いま、台座だけが残り、この日本政府の歴史否定という暴力を静かに伝えています。

 

香港戦については日本ではほとんど語られません。1941年12月8日の午前7時、本土側から日本軍が攻め入り、カナダ軍やインド軍も含む英国軍は、地元では「18日間の闘い」として知られている防衛戦を経て、12月25日、クリスマスの日に降伏しました。その後の捕虜虐待、香港住民へのスパイ容疑、虐殺、性暴力、略奪などは、他の占領地と変わらない残酷さでした。

 

香港島の南端のSt. Stephen’s College(セント・スティーブンズ・カレッジ)という名門校のキャンパスは日本軍攻撃に備え臨時病院となっていましたが、クリスマスの日に日本軍が突入しました。英国やカナダの傷病兵56人を銃剣で殺害、看護婦や避難女性を性暴力の上殺害し、残忍な遺体損壊を行いました。構内にはいま、被害者を悼むチャペルや、この歴史を伝える資料館があります。

 

香港戦へのカナダ兵派兵は、チャーチルへのお付き合い的な派兵で、訓練もろくに受けていない若いカナダ兵2千人が投入され、戦闘で生き残った1700人ほどは香港で、また日本の各地に連行され、過酷な状況で強制労働につかされ、260名以上が命を失い、残りは生涯残る心身の傷を負いました。私は2016年、生き残りのカナダ兵の一人、Gerry Gerrard(ジェリー・ジェラード)さんにインタビューする機会がありました。

 

インタビュー当時94歳のジェリーさんは、1943年1月から45年3月の東京大空襲のあたりまで、この横浜にいました。日本鋼管鶴見造船所東京第三派遣所と聞いています。その後岩手県・釜石の日本製鐵大橋鉱業所に移されそこで解放を迎えました。日本政府は元カナダ兵捕虜については誠意のひとかけらもない対応しかせず、心からの謝罪を受けることもなく、ジェリーさんは亡くなりました。

 

ジェリーさんは、俘虜体験を語ってくれたあと、最後に私に言いました。「日本政府にもう一つ問いたかったのは、日本市民に謝罪したのかということ。日本人も戦争で大変な苦労をしたはずだ」。今回、香港市内にあるシャムスイポの捕虜収容所跡地にあった記念碑とメープルの木の下で、ジェリーさんに会えたような気がしました。

 

沈さん、林さん、日本軍による加害を話すことによって、しばらくはお辛い気持ちになることもあるかと思います。このような話を受けて、聞きっぱなしではなく、そのご体験を受け止めて生かしていかなければなりません。真相究明も調査も、ほんらいは、日本人がやらなければいけないことです。お聞きした話を心に刻み、語り継ぎ、もう二度と政府に戦争をさせない、もう二度と差別をしない、そういう社会をつくりたいと思います。

 

明後日、12月8日、午後2時から、参議院議員会館にて、「村山談話を継承し発展させる会」は、高市首相の存立危機事態発言の撤回を求める記者会見を行います。どうか、報道関係者の方や、発信ができる方に来てほしいと思っております。当日は私も発言する予定で、その足で空港に向かい、バンクーバーに戻ります。

 

アジア・フォーラム横浜のみなさん、関東大震災朝鮮人大虐殺の真相究明をやっている皆さん、など、神奈川には加害に向き合う草の根の試みが本当に多くあり、見習いたいと思います。日本政府や大衆は、歴史否定や無関心にかたむきがちですが、日本の隅々に、その地の強制連行や加害を調査し記録するグループがあり、これはもっともっと海外にも知られるべきではないかと思っています。それによって、国際的な連帯が築けるのではないかと思います。

 

一つの例として、昨年6月に開館した、カナダ・トロントの、アジア太平洋平和博物館があります。欧米圏では初の、アジアにおける第二次世界大戦に特化した平和ミュージアムです。そこでは、シンガポールにおける「粛清」についても大きく展示されています。すでに日本の右翼政治家が問題視していますが、民間が作ったミュージアムなのでどうすることもできないでしょう。どうかみなさん、ぜひカナダに来てください。私がご案内いたします。

 (以上)

閉会の挨拶で「体験」の重要さを訴える、アジア・フォーラム横浜代表の
吉池俊子さん。






Wednesday, December 03, 2025

ブライアン・バーレティック:日本は東アジア版「ウクライナ」となるのか? Brian Berletic: Will Japan be East Asia's version of Ukraine? (Japanese Translation)

Brian Berletic 
Beijing Review に出たブライアン・バーレティック氏の論評の翻訳を紹介する。AI翻訳に少し手をいれたものである。日本にも米国にも、トランプ大統領が中国との紛争を望んでいないので高市首相の台湾発言を支持せず、高市首相は「ハシゴを外された」といった説が存在するが、私は賛同できない。トランプ大統領は「平和」を口だけで語りながら、「就任後24時間で終結できる」といったウクライナ戦争を就任後1年近く経っても終結しておらず、ガザの民族浄化と破壊を劇化させ、いまベネズエラに戦争をしかけ政権転覆させようとしている。米国の政策は、指導者が何を言ったか言わないかではなく、システムとして実際に何をしているのかで判断しなければだめである。米国が中国へのエスカレーションを後退させたか?軍事演習をスケールダウンさせたのか?台湾への武器供与をやめたのか?アジアの属国に軍事費増強を迫るのをやめたのか?アジアの駐留兵や基地の削減や撤退を始めたのか?どの側面を取っても事態はエスカレーションの方向性で、デ・エスカレーションの方向性は見えない。これらを明確に論じているのがこのサイトでも何度も紹介しているブライアン・バーレティック氏である。

https://www.bjreview.com/Opinion/Voice/202511/t20251124_800423627.html

日本は東アジア版「ウクライナ」となるのか?

Will Japan be East Asia's version of Ukraine?

米国主導の対中封じ込め戦略に日本が加わる


ブライアン・バーレティック

2025年11月24日

日本の高市早苗首相の台湾に関する発言を契機として生じた最近の外交危機は、孤立した偶発的な出来事ではない。それは、米国およびその従属国家が中国との対決に向けて進めている、より広範で継続的な戦略の中に位置づけられる計算された一歩であり、米国がウクライナを通じてロシアと、さらには欧州全体と対峙するために構築してきた戦略と軌を一にしている。

高市は11月初め、日本の国会で、CNNが報じたところによれば、中国本土から台湾への攻撃の可能性――台湾は日本領土からわずか100キロの距離にある――は「存立危機事態」に当たり、東京による軍事的対応を誘発し得ると述べた。

高市の発言は、日本が軍事費の増加に着手し、米国との軍事協力を拡大し、さらには自国領域内への核兵器の持ち込み禁止の見直しさえ検討している時期に出されたものである。

米国の熱心な代理勢力として振る舞う日本

高市発言の真の重要性は、それが日本の防衛・安全保障政策における急進的かつ急速な転換と歩調を揃えている点にある。この政策は、米国がウクライナおよび欧州全体にロシアに対する政策を押しつけてきたのと同様のやり方で、日本にも押しつけられてきたものであり、2025年2月にブリュッセルで欧州に向けて発出された米国「戦争長官」ピート・ヘグセスの指令に明確に示されている。

とりわけ日本にとって、これは第二次世界大戦後の平和主義から脱し、米国の対中封じ込め構造の一部を構成する、攻勢能力を備えた強力な地域軍事大国へと移行することを意味する。それは、かつて中立を標榜していたウクライナがすでに経験し、自国および欧州全体に破滅的な結果をもたらした転換であり、日本に対しても同様の結果を予兆するものである。

2025年10月、ロイターは、日本の新首相が「積極的」な財政政策のもと「早期の防衛費増額」を約束したと報じた。同じ月、DW(戦争省)は、高市が2026年3月までにGDP比2%の軍事費を目標としており、NATOの基準的支出要件と歩調を合わせることで、日本が米国主導の世界的軍事ブロックへのさらなる統合を示していると伝えた。

このGDP比2%への引き上げは、近い将来のより大幅な軍事費増額に向けた漸進的な一歩にすぎない可能性が高い。これは、ヘグセスが2025年2月に欧州に対して要求した防衛費GDP比5%という新たな基準に、いずれ日本も追随する可能性を示唆している。

日本は核兵器に関する姿勢も転換しつつある。ロイターは、日本の首相が「自国領域へのその種の兵器の持ち込み禁止の見直しを求める可能性がある」と指摘した。これは、ウクライナのゼレンスキー大統領が2022年のミュンヘン安全保障会議で、核兵器取得を禁じるブダペスト覚書の無効化を示唆したことと類似している。

当時ウクライナがロシアに対して国家の存立に関わる脅威を突きつけたのと同様、日本が1931年から45年にかけて14年にわたる対中侵略の後に課された制約を外し、ますます攻撃的になることは、今日の中国にとって国家安全保障に関わる重大かつ存立的脅威となる。

米国がフィリピン、大韓民国、さらには中国の台湾省に対して同様の政策を押しつけていることと併せ、中国に対する統一戦線が形成されつつある。それは、米国がNATOをどのように形作り、現在ロシアに対してどのように用いているかを想起させる。

ロシアを疲弊させ、中国を疲弊させる…

日本の攻撃的姿勢の高まりは、地域におけるより広範な米国戦略の一環であり、ちょうどウクライナが中立を放棄したことが欧州におけるより広範な米国戦略の一環となったのと同様である。

2019年のランド研究所の論文「Extending Russia」は、ソ連崩壊型の衰退を引き起こす目的で、ロシア周辺の複数地点で代理勢力を利用して紛争を引き起こし、ロシアに経済的・政治的圧力を加えることを提唱した。

同様に、米国はアジア太平洋で代理勢力による地域的前線を準備し、中国と対峙・封じ込めるために複数の地点で多様な役割を果たさせ、自軍の地域的プレゼンスを増強し、潜在的な紛争時に米国が安全に後方から支援・展開できる前線を構築しようとしている。

2018年の米海軍大学校論文「A Maritime Oil Blockade Against China」では、中国の軍事力の手が届かない要衝で中国のエネルギー輸入を遮断する計画が提示されている。

この計画は、論文が「遠隔封鎖」と呼ぶ措置を米軍が実施するだけではなく、複数の国の協力を必要とし、中国が封鎖を打破しようとする意図を抑止する枠組みを形成することを求めている。論文に添付された地図は、日本(そしてフィリピン、そして中国の台湾省)がこの広範な地域戦略で果たす重要な役割を明確に示している。

現在進行中の米軍の軍備増強――すなわち、2018年論文で指摘された要衝に沿って展開する純粋な対艦任務部隊への海兵隊の再編、そして日本のような代理勢力や、台湾およびフィリピンのような地域の分離派当局の軍事化――これら一連の動きは、2018年論文が単なる提案にとどまらないことを示している。2019年のランド研究所論文と同様、米国がその後実行に移した枠組みであることを示している。ここで再軍備化された攻撃的な日本は、その主要構成要素の一つである。

日本の台湾への焦点:偶然ではない

日本の台湾に関する攻撃的姿勢の高まりは、米国が自国の長年の「一つの中国」政策をますます公然と無視する姿勢と並行して起きている。

米国国務省歴史局は、この政策を記述した1972年の中米共同コミュニケの原文を公開している。コミュニケによれば、「米国は、台湾海峡の両岸のすべての中国人が一つの中国が存在し、台湾は中国の一部であると主張していることを承認する。米国政府はその立場に異議を唱えない」。

しかし米国はその後、この政策を意図的かつ継続的に違反し、中央政府の承認なしに台湾の分離派と政治接触を行い、日本を含む同盟国に台湾の地位についてより挑発的な立場を取るよう促し、ワシントン自身の対中対決の負担を「分担」させ、さらには台湾当局への武器売却を継続してきた。

ドナルド・トランプ政権は最近、3億3千万ドル規模の武器パッケージを承認した。ロイターによれば、これは台湾ですでに運用されている米国製航空機(F16およびC130)の部品を含むという。この武器売却は現トランプ政権下で初めてだが、バイデン政権下およびトランプの最初の任期中にも同様の売却が続き、その期間、台湾省には数十億ドル規模の武器が売却された。

米国が主要な東アジアの駒を使って台湾をめぐる緊張を高めさせ、防衛費の拡大と核兵器政策の転換を示唆する発言を伴わせていることは、米国がこの地政学的焦点を意図的に対立へ押しやっていることを示す。米国の政策は、中国を追い詰め、そのいかなる反応も攻撃的に見えるように仕向け、米国主導の代理戦争的軍拡と潜在的な衝突を正当化するために設計されている。

これらすべては、中国がその中心の柱である多極化世界を抑え込み、封じ込めるという、一貫して根を張った、世界規模の米国主導戦略の諸兆候である。日本は、アジア太平洋における複数の「ウクライナ」のうちの少なくとも一つとなる位置に置かれている。

北京、モスクワ、そして多極的世界を求める国家群は、米国の言葉ではなく行動こそが、米国がいかなる代償を払っても覇権を維持しようとする強制・対決・封じ込め戦略への断固とした姿勢を示す確かな指標であることを認識しなければならない。多極的世界を志向する側もまた、この米国戦略に抗し、最終的にそれを克服するための同等の決意を持たなければならない。

筆者はバンコク在住の独立系地政学アナリストであり、元米海兵隊員である。

(翻訳以上)

Tuesday, December 02, 2025

Film Earth’s Greatest Enemy: Okinawa’s Resistance in Vivid Detail アビー・マーティン監督の新作映画について書きました:『琉球新報』より 映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに(英訳)

Here is the English translation of my latest column in Okinawan newspaper Ryukyu Shimpo, November 25, 2025. It is about Abby Martin's new documentary film Earth's Greatest Enemy. Original Japanese text follows English. 

『琉球新報』25年11月25日3面に掲載された「乗松聡子の眼 68回 映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに」の英訳をここに置きます(AI訳に少し手を入れたものです)。
 

Trailer of Earth's Greatest Enemy

Film Earth’s Greatest Enemy: Okinawa’s Resistance in Vivid Detail

<Norimatsu Satoko’s Perspective>
Publication time: 05:00, November 25, 2025

https://ryukyushimpo.jp/celebrity-serials/entry-4805091.html 

Satoko Oka Norimatsu

In October 2022, when Abby Martin was filming and interviewing in Okinawa for this film, she said, “Okinawa was the starting point of my journalism.” The documentary film Earth’s Greatest Enemy, created by her and her partner, Iraq War veteran Mike Prysner, has now been completed. A nationwide screening tour in the U.S. has been underway since September 20. During her Okinawa reporting, Martin was pregnant with her second child, but in this film, we can see the healthy baby who was later born.

The film argues that the U.S. military is the greatest enemy to the global environment. The U.S. military is the world’s largest consumer of fossil fuels. When Abby covered the 2024 UN Climate Change Conference (COP26) in Glasgow, she began to question why the massive presence of the U.S. military was treated almost like a taboo, never properly discussed.

The answer was “money.” The military-industrial structure places the U.S. military in a protected sanctuary. Environmental law expert Tamara Lorincz states, “NATO, a military organization led by the United States, serves as a cover for major weapons manufacturers. NATO is a guaranteed market for U.S. weaponry.”

Through interviews with specialists such as political scientist Jodi Dean, Martin gradually exposes the essence of U.S. imperialism. The global network of U.S. military dominance sustains an economic system that secures the interests of the ruling class, and it is maintained “through inequality and expansion.”

Martin goes on to say that the very formation of the United States resulted from expansion through the use of force to secure fur and mineral resources. In the pursuit of military action and resource extraction, the United States took land and dignity from Indigenous peoples. Its imperial origins lie within its own history.

In Iraq and Afghanistan, the U.S. military dropped countless bombs. Even after the wars ended, long-lasting contaminants such as lead, mercury, titanium, tungsten, and depleted uranium have caused congenital disorders and cancer among children.

The harm caused by U.S. military operations affects U.S. soldiers and base-related personnel inside the United States as well. Water contamination at Marine Corps Base Camp Lejeune in North Carolina created as many as one million victims, yet the military’s responses and investigations have been insufficient. One victim stated, “I am fighting for the people who served. The U.S. military can go to hell.”

“Camp Lejeune is only the tip of the iceberg,” says Pat Elder, who has investigated contamination at more than 400 U.S. military bases worldwide. According to Elder, contamination on U.S. bases falls into four categories: “pesticides and herbicides,” “radiation,” “VOCs (volatile organic compounds),” and “PFAS (per- and polyfluoroalkyl substances).”

The film then turns to OKINAWA. The narrative leads viewers to imagine how the military contamination discussed so far has also affected Okinawa. Martin interviews Governor Denny Tamaki and is astonished: “You are an elected governor, yet you cannot even enter the bases to investigate contamination?”

The spotlight then shifts to the power of citizens who resist the empire. Scenes of resistance on sea and land at Henoko and Oura Bay, and the actions in Awa and Shiokawa to block the shipment of earth and sand, are captured vividly with the brilliance of the ocean.

According to Martin, audiences at screenings across the United States have expressed reactions such as “I was shocked by the absurd destruction at Henoko” and “I was inspired by the citizens’ resistance.” The release of a Japanese-language version of this film is eagerly awaited.

( Editor, The Asia-Pacific Journal: Japan Focus )

The original article in Japanese: https://ryukyushimpo.jp/celebrity-serials/entry-4805091.html 

Go to the official website of Earth's Greatest Enemy for screening information!


映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに <乗松聡子の眼>

公開日時 2025年11月25日 05:00更新日時 2025年11月25日 12:02

 2022年10月に沖縄を取材した時に、「沖縄はジャーナリストとしての自分の原点だ」と語ったアビー・マーティン氏。その彼女と、パートナーであるイラク帰還兵マイク・プリスナー氏によるドキュメンタリー映画「地球最大の敵」が完成した。9月20日から全米上映ツアーを行っている。アビー監督は沖縄取材時、2人目の子でお腹(なか)が大きかったが、この映画では生まれてきた元気な子の姿を見ることができる。

 この映画は、米国の軍隊こそが地球環境にとっての最大の敵であると訴える。米軍は世界最大の化石燃料の消費者だ。アビー監督は24年にグラスゴーで開催された国連気候変動会議(COP26)を取材した時、米軍という巨大な存在が、まるでタブーのように語られないことに疑問を持った。

 答えは「カネ」であった。軍需産業が米軍を聖域化する構造がある。環境法専門家のタマラ・ロリンツ氏は「米国主導の軍事組織である北大西洋条約機構(NATO)は、大手兵器メーカーの隠れみのになっている」と語った。「NATOは米国兵器にとっての確実な市場だ」。

 アビー監督は、政治学者のジョディ・ディーン氏など専門家とのインタビューを重ねながら、米国の帝国主義の本質をあぶり出していく。世界中に張り巡らした米軍の優越性が、支配層の利益を確保する経済の仕組みを支え、「不平等と拡大によって」維持される。

 監督は続ける。米国の成立自体が、毛皮と鉱物資源の確保のために武力を使って拡大した結果なのだ。軍事行動と資源略奪のために、先住民族の土地と尊厳を奪ってきた。その起源は、自国にあるのである。

 イラクやアフガニスタンで米軍は無数の爆弾を落とした。戦争は終わっても、環境に長く残る鉛、水銀、チタン、タングステン、劣化ウランなどが、子どもたちの先天性異常や、がんを生み出している。

 米軍行動の被害は米兵自身や、米国内の基地関係者にも及ぶ。ノース・カロライナ州のレジューン海兵隊基地の水質汚染は100万人もの被害者を生み出したが、軍の対応や調査は十分ではない。被害者の一人が言っていた。「私は軍に尽くした人たちのために闘っている。米軍は地獄に落ちればいい」。

 「レジューン基地は氷山の一角にすぎない」と、全世界400もの米軍基地の汚染を調査してきたパット・エルダー氏は言う。エルダー氏によると米軍基地汚染は4種類に分けられる。「農薬・除草剤」「放射線」「VOC(揮発性有機化合物)」「PFAS(有機フッ素化合物)」だ。

 そして舞台はOKINAWAへ。ここまで語られた米軍汚染が沖縄にも及んでいることを想像させる展開だ。アビー監督は玉城デニー知事にインタビューし、「あなたは選挙で選ばれた知事なのに、基地汚染の立ち入り調査さえできないのですか」と驚く。

 そして、帝国に抗(あらが)う「市民の力」にスポットライトが当たる。辺野古・大浦湾での海と陸での抵抗、安和・塩川の土砂搬出阻止行動が、海のまぶしさと共に鮮やかに映し出される。

 アビー監督によると、各地の上映で観客から「辺野古の理不尽な破壊に衝撃を受けた」「市民の抵抗の姿に感銘を受けた」という声が出ているようだ。この映画の、日本語版上映が待ち望まれる。

(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)