Tuesday, December 09, 2025

「村山談話の会」記者会見:高市首相は「台湾有事は存立危機事態」発言を撤回せよ Murayama Statement Group calls on Prime Minister Takaichi to Retract Her Claim that a “Taiwan Contingency” Constitutes an “Existential Threat” Justifying the Dispatch of Japanese Troops

さる12月8日(月)、参議院議員会館で、「村山談話を継承し発展させる会」(藤田高景会長)が、高市早苗首相に「台湾有事は存立危機事態」発言の撤回を要求する記者会見を開きました。日本、中国など各国メディアの他、関心のある人もたくさん来てくれて、80人の参加を得て活発な議論がかわされました。以下、報道リスト、「声明」本文、このブログ運営者の乗松聡子の冒頭発言のテクストを紹介します。

関連報道リスト(随時更新します)

産経新聞 村山談話の会、首相答弁は「軍国主義の復活」で撤回を 台湾有事は「CIAが騒いでいる」

東京新聞 高市首相の台湾有事発言は「宣戦布告」「対話成り立たない」 答弁の撤回を求める元外交官と学者の危機感

朝日新聞 自衛隊が懸念するサラミ「厚切り」戦術 中国のレーダー照射で負担増

共同通信(沖縄タイムス):元外交官ら首相答弁の撤回要求 「対話努力放棄はいけない」

朝鮮新報 高市発言の即時撤回、独立外交を/有識者らが緊急記者会見

新華社 日本の有識者、高市首相に台湾発言の撤回要求 CGTN日本語Xアカウント  フェニックスTV CCTV など中国メディア多数

CCTV 記者会見での乗松聡子の取材 中国語 日本語

UPlan によるYouTube映像です。




声明

高市首相は「台湾有事は存立危機事態」発言を撤回せよ


1、 去る11月7日の衆議院予算委員会で、高市首相は、「台湾有事」が起こった場合、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と述べました。そもそも「戦艦」という言葉は現在使いません。軍事のことも理解せず、日本政府がこの間、中国に対して約束したことさえフォローせず、戦争介入発言をした高市氏の発言は、すぐに撤回すべきです。

かつて「いわゆる一つの中国と台湾有事に関する質問主意書」に対する「答弁書」(2023.5.9、岸田文雄総理)で、日本政府は次のように述べています。「①台湾に関する我が国政府の立場は、昭和47年〔1972〕の日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明第3項にあるとおり、『台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である』との中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するというものである」。「④お尋ねの『台湾有事』及び『日本有事』の意味するところが必ずしも明らかではないが、一般に、いかなる事態が武力攻撃事態、存立危機事態又は重要影響事態に該当するかについては、事態の個別具体的な状況に即して、政府がその持ち得るすべての情報を総合して客観的かつ合理的に判断することとなるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である」。

今回の高市答弁が、従来の政府見解と異なることは明らかです。


2、1972年9月、田中角栄首相の訪中によって中国との国交正常化が実現します。歓迎宴における挨拶で、周恩来総理は、「1894年から半世紀にわたって、日本軍国主義者の中国侵略により、中国人民は極めてひどい災難をこうむり、日本人民も大きな損害を受けました…」と述べました。青春の一時期を日本で過ごした周総理の胸中は、いかばかりのものだったでしょうか。1894年は日清戦争の開始年であり、それが「台湾植民地化」に結びつくのです。「日中共同声明」前文には、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」とあります。日本政府が、こうした「歴史認識」を披歴した初の国際文書となります。

このときの日中共同声明第3項には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とあります。その第8項には「カイロ宣言の条項は履行せらるべく…」とあり、カイロ宣言には「(日本が盗取した)満州、台湾及び澎湖島…のような地域を中華民国に返還すること」とあります。


3、 日中共同声明に示された「歴史認識」はその後も維持されており、1982年7月の「教科書問題」は宮沢喜一官房長官談話での事態収拾を余儀なくされ、1985年8月の「中曽根康弘首相の靖国神社公式参拝」は、後藤田正晴官房長官談話での事態収集を余儀なくされました。そして、戦後50年にあたる1995年8月15日、閣議決定を経て発表された「村山談話」には、次のようにあります。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して、多大の損害と苦痛を与えました。私は未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここに改めて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明します」。


4、高市答弁は、台湾有事が起こった際には日本は戦争体制に入れるということを国会で明言した初めての、日本軍国主義の復活に等しい行為です。何よりいったん戦争になれば再び戦場にされうる沖縄の玉城デニー知事は、「戦争は絶対に起こしてはならないし、引き起こすようなきっかけを与えてもいけない」と警告しています。中国側からは強い非難と撤回要求が繰り返し表明されています。撤回を行わない日本に対し、中国は自国民の日本渡航自粛を求め、日本留学について「慎重な検討」を勧告し、日本産海産物の輸入停止、日本コンテンツの公開中止などの措置を執っています。そもそも日本側が原因を作った問題について、自分たちが被害者のように振舞うことで事態が打開されるはずはありません。

  中国外務省の毛寧報道局長は、17日に「1995年の『村山談話』を想起すべき時期に来ています」と述べています。中国は、日本に良心と反省が存在していたこともあったことをリマインドしているのです。


5、日本は、いまこそ、その後の政権も踏襲を表明してきた「村山談話」を想起すべきではないでしょうか。あの戦争は侵略ではないと主張し、「村山首相談話」を無効にすると宣言していた高市早苗氏が、いまは首相となり、いわゆる台湾有事への自衛隊参戦をほのめかしたのです。この問題について、日本人は、現在の問題が持つ歴史性をはっきり理解することが不可欠です。中国から見たら、台湾に介入しようとする日本の姿は、まさしくかつての日本の軍国主義の再来に他ならないでしょう。日本国憲法9条への違憲行為であり、国際法に照らしても違反です。

  台湾への再びの介入、つまり「一つの中国」の不尊重は、ふたたび日本が中国に食指を伸ばす兆候ではないかと見られるのです。日本は、ここ数年、与那国、石垣、宮古、奄美、沖縄、馬毛島、西日本に至るまで、ミサイル部隊、レーダー基地、辺野古などの新設基地、弾薬庫、共同訓練施設、民間施設の軍用化などにより、日米が一体化して利用できる軍事地帯に塗り替えてきました。これらは、地元の強い反対や、戦争が島に及んだ場合の住民保護への強い懸念があるにもかかわらず、強行されています。


6、高市首相の「存立危機事態」発言は、極めて危険な、台湾統一をめぐる中国に対する戦争介入宣言です。

トランプ大統領は、米中経済関係を重視することにより、高市氏の戦争挑発にくぎを刺すような発言もしたと報じられていますが、高市氏の発言の後に、第二次トランプ政権としては初の、台湾への約510億円相当の武器売却を承認しています。トランプ政権はオバマ政権「アジア回帰」以来の中国封じ込め強化政策を具体的に後退させる兆候はありません。日本政府は、日本の安全保障のためにも、いまこそ米国から独立した平和のための外交政策を選択することが求められています。

台湾問題を中国の内政問題と認め、高市首相は即時に、今回の「存立危機事態」発言を撤回すべきです。


2025年12月8日

                    村山首相談話を継承し発展させる会 

                                          



★パネルは長く、藤田会長の左側にも5人のパネリストがいらっしゃいました
こちらの東京新聞の報道写真を参照

25年12月8日 「村山談話の会」 記者会見 

 

乗松聡子 冒頭発言

 今日は何の日でしょうか。12月8日。いわゆる1941年「真珠湾攻撃の日」ですが、この日、日本が攻撃したのは真珠湾だけではありませんでした。マレーシア、フィリピン、香港、シンガポール、グアムなど、東南アジアや太平洋の英米の植民地を次々と攻撃しました。なぜですか。対中国侵略戦争を続行するために東南アジアの豊富な資源が必要だったからです。連合国や海外華僑が支援物資を送っていた援蒋ルートを遮断するためです。すべては中国侵略戦争から始まっていたのです。

 

 そういう意味できょうこの日、高市首相の「“台湾有事”は“存立危機事態”」発言の撤回を求めることは歴史的意義があります。近代日本の最初の海外派兵がまさしく、1874年の台湾出兵でした。これは、明治政府が琉球王国を清国との繋がりを断たせ、強制併合していく過程で起きたことでした。その後日清戦争で勝った日本は清国から台湾を割譲させ、植民地支配しました。中国から見たら、台湾に介入しようとする日本の姿は、まさしくこの時期の日本の軍国主義の再来に他ならないのです。

 

 その後の日本の中国侵略戦争と、「偽満洲国」の植民地支配においては、何千万の中国の人々に対し、大虐殺、捕虜処刑、強制動員、性暴力、性奴隷制、生体実験、細菌戦といった人道にもとる残虐行為を行いました。もうすぐ1213日、南京大虐殺を記憶する日です。88年前の1213日の「南京陥落」を日本中で祝い、提灯行列や旗行列をしました。現在、高市首相の挑発行為を戒めることもなく、支持率がアップしているといわれる日本はまさしく戦時中の旗行列、提灯行列と重なります。行きつく先は破滅です。

 

 破滅を防ぐにはまずは高市首相は、台湾発言の撤回をしなければいけません。高市首相は、1972年の日中共同声明の「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国の立場を理解し尊重するという約束と、その後、1978年の日中友好平和条約、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明という日中関係4文書で繰り返し約束した「一つの中国」の尊重を、中国に再確認するべきです。


 思い起こしてください。2012年の野田政権による「尖閣諸島国有化」、2013年の安倍晋三首相による靖国神社参拝などで冷え切っていた日中関係を改善するために2014年11月、安倍首相が習近平主席と会談するにあたって、「双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」と合意しました。安倍首相を信奉し、後継者を自認する高市首相は、これを踏襲することができるのではないでしょうか?

 

 日本敗戦50周年に際し、村山富市首相は日本の首相としては初めて、「植民地支配」と「侵略」に「痛切な反省の意」と「心からのお詫び」を表明しました。今年、80周年という節目の年、例年にも増して、日本は、厳粛に、謙虚に、大日本帝国の70年以上におよぶ加害の歴史を振り返り、日本国憲法にあるように「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」誓いを新たにする年ではなかったでしょうか。残念ながら年末にむけ、日本はますます真逆の方向に進んでいます。

 

 対中国だけではありません。昨今、電車やバスにのると、「1210日から16日まで」を、朝鮮民主主義人民共和国についての「“人権侵害問題啓発週間”」と称し、朝鮮による「人権侵害」問題が、「我が国の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題」として意識喚起しています。これには驚愕しました。いま、中国に対する挑発発言で「わが国の安全」を脅かしているのは高市首相と日本政府ではありませんか。

 

 朝鮮と日本との間によこたわる人権問題は拉致問題だけでなく、2002年「日朝平壌宣言」にもうたわれた、植民地支配の清算さえ始まってもいません。強制動員、日本軍性奴隷、朝鮮人被爆問題など膨大な未解決の問題が残されています。それを日本政府はただ「敵視」で対応し、逆に朝鮮学校無償化除外という、それこそ人権侵害を行っています。

 

 これらの敵視政策の背後には、米国への従属問題があります。米国が敵視する国をそのまま敵視し、メディアもそれに追随し、世論に大きな影響を与えてしまうという根本の問題です。日本が過去を乗り越え再び東アジアの一員となるには、まず、敵視キャンペーンを展開している対象国―中国、朝鮮民主主義人民共和国、ロシアといった隣国に対する、独立した視点と外交を築くことが重要です。

 

 これこそが、これら敵視政策を口実にし、米国に言われるがままにエスカレートさせている、軍事予算増加、琉球弧や西日本の要塞化、軍事演習、つまり戦争準備の方向性を転換させる道です。日本が再び東アジアを戦場にしないため、また、自立した平和的外交を築くための道です。その第一歩として、高市首相は台湾についての「存立危機事態」発言を明確に撤回すべきと思います。


(以上) 



第32回 アジア・フォーラム横浜 証言集会でのコメント「敗戦80年、日本の歴史認識を問う」  My Commentary at Asia Forum Yokohama: 80 Years Since Defeat: Reflecting on Japanese Historical Consciousness

先日予告した「第32回 アジア・フォーラム横浜 証言集会「父は二度と家に帰らなかった」沈素菲さんの証言 および 林少彬さん講演」は、150人ほどの参加をえて、成功裡に終わりました。録画がもうすぐYouTubeに出ると思いますので出たらまたアップします。

林少彬さんの講演

林少彬さんのインタビューにこたえる沈素菲さん

乗松聡子のコメントの原稿をここに紹介します。実際話した内容は、これに少しアドリブで付け加えたものです。

横浜証言集会 乗松聡子コメント 「敗戦80年、日本の歴史認識を問う」

 

きょう、お招きいただいた、アジア・フォーラム・横浜の皆さまに深く感謝申し上げます。今回、吉池さんから声をかけていただきました。吉池さんとは、2014年の夏の、高嶋伸欣さんのマレーシアとシンガポールの旅でご一緒させていただいて以来のお付き合いです。この旅のつながりから、2015年、敗戦70年を記念して、カナダ・バンクーバーに、高嶋伸欣・道さんご夫妻をお招きし、マレーシアとシンガポールの華人虐殺の歴史について地元の教会で講演会を開きました。

 

きょうは、私よりずっと知識や経験のある皆様の前で、何かお役に立てることを言えるのかどうか自信はありませんが、自分の体験にもとづいた話をしたいと思っています。また、資料として、私が今年になってから書いた、「敗戦80年」に関連する記事をいくつか配布させていただきました。

 

まずは、きょう証言していただいた、沈素菲(シム・スーウィー)さん。小さいころにお父様を日本軍に奪われ、お父様は二度と戻ることはなかったとうかがいました。お母さまも悲しみのあげく亡くなられたと。シムさんが7才ぐらいのときの出来事だと察します。このような小さなときに両親を奪われ、どれだけ寂しかったか、どれほどのご苦労があったかと、想像することも難しいです。

 

林小彬(リム・シャオビン)さん。林さんは、おじいさまが、「粛清」の被害者であったと聞いております。それも、日本が正式に降伏した後に起こった、9.5マラッカ事件の被害者であられたということは本当に衝撃的なことです。日本から解放されたと思った矢先にこのような残酷な方法で命を奪われ、どれだけ無念だったことでしょう。

 

私は、高校1年まで日本で教育を受けてきて、その中で、広島や長崎の原爆や、東京大空襲について学ぶことはあっても、日本軍が日本の外で何をしたかということは授業では学びませんでした。

 

高校2、3年とカナダの学校に留学する機会を得て、私の世界観は変わりました。その高校には5大陸、70か国から来た留学生が全寮制で学んでいました。英語ができず、授業がわからず毎日泣いていた私を助けてくれたのは、ルームメートだったシンガポール出身のリム・アイルンでした。英語名はヘレンでした。ヘレンは私が見下ろすほど体が小さいのですが、ピアノが上手く、英国流の英語を話し、中国語は何種類も話し、フランス語も話す、大変な秀才でした。

 

ヘレンがある日言いました。戦争中日本軍がシンガポールに来て、罪のない人たちをたくさん殺し、赤ん坊を宙に投げて銃剣で突き刺したと。私は、ただ、「え?」という感じで茫然とすることしかできませんでした。今にしてみれば、「日本人はこんな大事なことを学校で教わらないのか」と、思われたかもしれません。

 

これが私の「覚醒」の始まりでした。この学校にはフィリピンや、インドネシア、中国の留学生も来ていて、仲良くなった時点で、日本軍占領時の残虐行為について聞かされました。インドネシアの子は「ロームシャ」という言葉を使って、日本軍による強制動員があったことを教えてくれました。17才にして、日本の学校では教えられなかった歴史の洗礼を受けました。

 

今年は日本敗戦80年です。1945年8月15日、ヒロヒトがポツダム宣言を受諾して降伏したことをラジオで周知した日が「終戦の日」と呼ばれます。今年も、日本のメディアは、8月15日近辺までは戦争関連の内容で盛り上がりますが、そのあとは急速にしぼんでしまいました。上海にいる研究者の友人が今年、「日本は結局敗戦を否認しているのではないか」と言っていましたが、そうとしか思えない風潮はあります。特に、9月の出来事に注目しないことは象徴的です。

 

日本の敗戦がまぎれもなくわかる9月2日の降伏文書調印式や、日本が満州侵攻した日、中国では知らぬ人はいない9.18の記念日は、日本ではあまり語られません。1923年9月1日以降の関東大震災後朝鮮人大虐殺も、日本の朝鮮植民地支配の中で起きた出来事ですが、戦争責任という歴史的文脈で語られることがあまりありません。

 

そして、中国やロシアなど多くの戦勝国が集まった、9月3日の北京における抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会は、日本の敗戦を振り返るにふさわしい機会であったのに、日本政府はこの催しを反日イベント扱いし、各国に出席しないように呼びかけるといった、加害国にあるまじき行為まではたらきました。

 

日本は、8月14日、または9月2日に開催される、米国や英国における対日戦勝記念日(VJデイ)に文句を言った形跡はありません。どうして中国には文句をいうのでしょうか。それはやはり、米英に対して負けたのであって、中国に対して負けてはいないという「敗戦の否認」があるからではないかと思います。

 

これは、12月8日が、「真珠湾攻撃」という一言だけで片付けられ、真珠湾より前にマレーシアのコタバルに陸軍が侵攻していたこと、それだけではなく同日にタイ、シンガポール、香港、フィリピンなども攻撃していたことを覆い隠すことにも共通する歴史認識です。

 

「先の大戦」と称するものが、米国とだけ闘い、米国に対してだけ負けたかのような印象操作がずっと行われてきました。「真珠湾」で始まり「広島・長崎」で日本が負けたというナラティブです。2016年、当時のオバマ大統領が広島を訪問し、安倍首相がそのお返しとして年末に真珠湾を訪問したことが「和解の交換」であるかのごとく演出され、強化された歴史認識でした。

 

オバマ大統領は広島に行く前に岩国海兵隊基地を訪れ、3千人もの海兵隊と海上自衛隊関係者の前で満面の笑みで、日米同盟絶賛の演説を行い、「オーラ―!」と大歓声を上げました。広島の平和記念資料館には10分もいなかったということなので、広島には「ついで」に寄ったとしか思えない比重の差でした。

 

その一カ月前には沖縄で、米軍属による残酷な性暴力および殺人事件が起きたばかりでしたが、それに言及することもありませんでした。結局すべては現在の日米同盟のためなのです。同盟といえば聞こえはいいですが決して平等ではなく、米国による日本の軍事支配のためなのです。歴史認識もその日米のストーリーに都合のいいように形成されます。

 

この歴史観によって、日本が東南アジアの欧米植民地を攻撃した理由を問わなくてよくなります。日本は中国への侵略戦争を続行するために東南アジアに資源を求め、援蒋ルートを断ち切る目的があった。「真珠湾」以外を語ると、この戦争の本質に迫らざるを得なくなるから、語らないのです。中国に対して負けたということを認めたくない日本と、第二次大戦のアジア側の闘いの手柄はおもに米国にあるというストーリーを作りたい米国の利益と合致するものです。

 

「中国に対する敗戦を認めない」という日本の姿勢は、11月7日の高市首相による、「”台湾有事”は存立危機事態になり得る」、つまり再び日本が中国に武力行使をすることができるという「再侵略宣言」ともいえる発言とつながっています。これは政策転換でもなんでもありません。高市氏のような、侵略戦争さえ認めず靖国神社に平気で行くような、日本の保守政治家に連綿と受け継がれてきた歴史観の顕れです。それに、戦後の米国による軍事支配が重なり、米国の中国封じ込め政策に乗っ取った発言をしたに過ぎません。とうとう本性を出したな、ということなのです。

 

これを、大日本帝国が中国をはじめ、アジア太平洋諸国に何をしたかを知らないまま大人になった人たちは、中国がなぜここまで怒っているのか理解もできず、またしようともせず、長年のメディアによる嫌中・反中キャンペーンが功を奏したか、高市首相の支持率はかえって上がっています。

 

もうすぐ12月13日、南京大虐殺を記憶する日です。この、「敗戦80年」という、祈念すべき年なのに、日本政府みずからによる歴史否定と中国に対する裏切り行為により、日中の交流が途絶え、最悪の空気の中でこの年を終えなければいけないとしたらあまりにも悲しいことです。責任は全部日本にあります。

 

1937年、大虐殺が進行中であると知りもしない日本人は「南京陥落」だとお祝いし、各地で旗行列や提灯行列をやりました。1942年2月、シンガポール陥落のときも同様のお祭り騒ぎだったと聞いています。現在中国に牙を向けている高市氏を止めようともしない、止めるところか一緒になって中国敵視をやっているマジョリティの日本人は、あの頃と同じ、旗行列と提灯行列をやっているのです。

 

私は11月18日から28日、中国で「撫順の奇蹟を受け継ぐ会関西支部」という団体が主催した、日本軍の加害を学ぶ旅に参加し、成都、重慶、常徳、廠窖、武漢などに訪問しました。現地で、高市発言の余波をもろに感じながら過ごした貴重な10日間でした。TVをつければ高市特集をやっているといっても過言でないほど連日中国は批判を展開していました。旅の間に交流プログラムが中止になったり、北京から通訳として呼んだ大学院生が日本人との交流を禁じられ呼び戻されたりといったこともありした。

 

現地の友人たちといろいろ話しましたが、研究者の友人は、中国の人たちの意見は多様であるが、「台湾については、日本の介入への怒りは、14億人の総意と言って間違いないと思う」と言っていました。わたしは最後の武漢で病気になってしまい、2日間寝込みました。中国の友人たちは私を病院に連れていってくれ、果物や食事や薬を部屋に届けてくれ、いたれりつくせりのケアをしてくれました。こういうときだからこそ、このような人と人とのつながりの有難さが身に沁みました。

 

中国の人たちは日本人が嫌いなわけではなく、逆です。歴史を共有した上で、仲良く交流したい人たちが大半です。現在の若い世代は日本のアニメやマンガとともに育ちました。中年以上の世代も、日本の歌を驚くほど多く知っています。中国人のそういった好意を、歴史を否定し中国を嫌うことによって踏みにじっているのは日本側なのです。

 

高市首相は10月末のASEANプラス3の外交の場で、マレーシアとシンガポールの人たちの、戦争の傷に塩を塗る行為も行いました。10月26日のソーシャルメディア投稿で、クアラルンプール日本人墓地を訪問し「マレーシアで命を落とした先人を慰霊した」と言いながら、日本軍による3年半の占領とその中で起きた残虐行為については一切触れませんでした。あたかも「慰霊」に値するのは日本人だけであるかのような言い方に地元の人たちからも批判が殺到しました。

 

日本人は12.8を皮切りに日本がどこをどう攻撃して何をしたかをもっと知るべきと思います。私もまだ全然知りませんが、今年、日本が攻撃・占領した場所の中から、2月にフィリピン、7月に香港に行きました。

 

フィリピンでは、1945年2月の約一カ月の闘いで10万人の市民が殺されたマニラ市街戦大虐殺の80周年の式典と国際会議に出ました。マニラ市街戦を学んでいると沖縄戦の構造と似ていることがわかります。日本はあえて住民を巻き込む市街地に立てこもり、住民被害が拡大し、スパイ視で住民を殺し、女性に性暴力をふるいました。

 

高市首相のマレーシアでの行為について言いましたが、2016年には日本の天皇夫妻も「慰霊の旅」と称してフィリピンに来て、マニラ中心地にあるこの市街戦記念碑には行かず、片道3時間はかかる、郊外の非常に行きにくい場所にある、日本人の慰霊碑(「比島戦没者の碑」)にわざわざ行っていました。(実際は、天皇ですから、専用ヘリで行ったようですが)。高市と大差ありません。

 

私は10日間滞在しましたが、ルソン島だけでも、いたるところに、虐殺の跡地があり、とても周り切れませんでした。ここでも、現地で道を聞いたりすると持ち場を離れてまで連れていってくれるような人たちに助けられました。

 

日本軍性奴隷もフィリピン各地で横行しました。リラ・ピリピーナという支援団体がいまでも、残り少ない生存被害者の支援を続けています。この性奴隷の歴史を記憶するための像がマニラ湾を見渡す海岸沿いの公道にあったのに、日本政府の圧力により撤去されました。市内のバクララン教会というカトリック教会の中に移転するはずだったのが、その像がまた、消えてしまうという事件が起こりました。いま、台座だけが残り、この日本政府の歴史否定という暴力を静かに伝えています。

 

香港戦については日本ではほとんど語られません。1941年12月8日の午前7時、本土側から日本軍が攻め入り、カナダ軍やインド軍も含む英国軍は、地元では「18日間の闘い」として知られている防衛戦を経て、12月25日、クリスマスの日に降伏しました。その後の捕虜虐待、香港住民へのスパイ容疑、虐殺、性暴力、略奪などは、他の占領地と変わらない残酷さでした。

 

香港島の南端のSt. Stephen’s College(セント・スティーブンズ・カレッジ)という名門校のキャンパスは日本軍攻撃に備え臨時病院となっていましたが、クリスマスの日に日本軍が突入しました。英国やカナダの傷病兵56人を銃剣で殺害、看護婦や避難女性を性暴力の上殺害し、残忍な遺体損壊を行いました。構内にはいま、被害者を悼むチャペルや、この歴史を伝える資料館があります。

 

香港戦へのカナダ兵派兵は、チャーチルへのお付き合い的な派兵で、訓練もろくに受けていない若いカナダ兵2千人が投入され、戦闘で生き残った1700人ほどは香港で、また日本の各地に連行され、過酷な状況で強制労働につかされ、260名以上が命を失い、残りは生涯残る心身の傷を負いました。私は2016年、生き残りのカナダ兵の一人、Gerry Gerrard(ジェリー・ジェラード)さんにインタビューする機会がありました。

 

インタビュー当時94歳のジェリーさんは、1943年1月から45年3月の東京大空襲のあたりまで、この横浜にいました。日本鋼管鶴見造船所東京第三派遣所と聞いています。その後岩手県・釜石の日本製鐵大橋鉱業所に移されそこで解放を迎えました。日本政府は元カナダ兵捕虜については誠意のひとかけらもない対応しかせず、心からの謝罪を受けることもなく、ジェリーさんは亡くなりました。

 

ジェリーさんは、俘虜体験を語ってくれたあと、最後に私に言いました。「日本政府にもう一つ問いたかったのは、日本市民に謝罪したのかということ。日本人も戦争で大変な苦労をしたはずだ」。今回、香港市内にあるシャムスイポの捕虜収容所跡地にあった記念碑とメープルの木の下で、ジェリーさんに会えたような気がしました。

 

沈さん、林さん、日本軍による加害を話すことによって、しばらくはお辛い気持ちになることもあるかと思います。このような話を受けて、聞きっぱなしではなく、そのご体験を受け止めて生かしていかなければなりません。真相究明も調査も、ほんらいは、日本人がやらなければいけないことです。お聞きした話を心に刻み、語り継ぎ、もう二度と政府に戦争をさせない、もう二度と差別をしない、そういう社会をつくりたいと思います。

 

明後日、12月8日、午後2時から、参議院議員会館にて、「村山談話を継承し発展させる会」は、高市首相の存立危機事態発言の撤回を求める記者会見を行います。どうか、報道関係者の方や、発信ができる方に来てほしいと思っております。当日は私も発言する予定で、その足で空港に向かい、バンクーバーに戻ります。

 

アジア・フォーラム横浜のみなさん、関東大震災朝鮮人大虐殺の真相究明をやっている皆さん、など、神奈川には加害に向き合う草の根の試みが本当に多くあり、見習いたいと思います。日本政府や大衆は、歴史否定や無関心にかたむきがちですが、日本の隅々に、その地の強制連行や加害を調査し記録するグループがあり、これはもっともっと海外にも知られるべきではないかと思っています。それによって、国際的な連帯が築けるのではないかと思います。

 

一つの例として、昨年6月に開館した、カナダ・トロントの、アジア太平洋平和博物館があります。欧米圏では初の、アジアにおける第二次世界大戦に特化した平和ミュージアムです。そこでは、シンガポールにおける「粛清」についても大きく展示されています。すでに日本の右翼政治家が問題視していますが、民間が作ったミュージアムなのでどうすることもできないでしょう。どうかみなさん、ぜひカナダに来てください。私がご案内いたします。

 (以上)

閉会の挨拶で「体験」の重要さを訴える、アジア・フォーラム横浜代表の
吉池俊子さん。






Wednesday, December 03, 2025

ブライアン・バーレティック:日本は東アジア版「ウクライナ」となるのか? Brian Berletic: Will Japan be East Asia's version of Ukraine? (Japanese Translation)

Brian Berletic 
Beijing Review に出たブライアン・バーレティック氏の論評の翻訳を紹介する。AI翻訳に少し手をいれたものである。日本にも米国にも、トランプ大統領が中国との紛争を望んでいないので高市首相の台湾発言を支持せず、高市首相は「ハシゴを外された」といった説が存在するが、私は賛同できない。トランプ大統領は「平和」を口だけで語りながら、「就任後24時間で終結できる」といったウクライナ戦争を就任後1年近く経っても終結しておらず、ガザの民族浄化と破壊を劇化させ、いまベネズエラに戦争をしかけ政権転覆させようとしている。米国の政策は、指導者が何を言ったか言わないかではなく、システムとして実際に何をしているのかで判断しなければだめである。米国が中国へのエスカレーションを後退させたか?軍事演習をスケールダウンさせたのか?台湾への武器供与をやめたのか?アジアの属国に軍事費増強を迫るのをやめたのか?アジアの駐留兵や基地の削減や撤退を始めたのか?どの側面を取っても事態はエスカレーションの方向性で、デ・エスカレーションの方向性は見えない。これらを明確に論じているのがこのサイトでも何度も紹介しているブライアン・バーレティック氏である。

https://www.bjreview.com/Opinion/Voice/202511/t20251124_800423627.html

日本は東アジア版「ウクライナ」となるのか?

Will Japan be East Asia's version of Ukraine?

米国主導の対中封じ込め戦略に日本が加わる


ブライアン・バーレティック

2025年11月24日

日本の高市早苗首相の台湾に関する発言を契機として生じた最近の外交危機は、孤立した偶発的な出来事ではない。それは、米国およびその従属国家が中国との対決に向けて進めている、より広範で継続的な戦略の中に位置づけられる計算された一歩であり、米国がウクライナを通じてロシアと、さらには欧州全体と対峙するために構築してきた戦略と軌を一にしている。

高市は11月初め、日本の国会で、CNNが報じたところによれば、中国本土から台湾への攻撃の可能性――台湾は日本領土からわずか100キロの距離にある――は「存立危機事態」に当たり、東京による軍事的対応を誘発し得ると述べた。

高市の発言は、日本が軍事費の増加に着手し、米国との軍事協力を拡大し、さらには自国領域内への核兵器の持ち込み禁止の見直しさえ検討している時期に出されたものである。

米国の熱心な代理勢力として振る舞う日本

高市発言の真の重要性は、それが日本の防衛・安全保障政策における急進的かつ急速な転換と歩調を揃えている点にある。この政策は、米国がウクライナおよび欧州全体にロシアに対する政策を押しつけてきたのと同様のやり方で、日本にも押しつけられてきたものであり、2025年2月にブリュッセルで欧州に向けて発出された米国「戦争長官」ピート・ヘグセスの指令に明確に示されている。

とりわけ日本にとって、これは第二次世界大戦後の平和主義から脱し、米国の対中封じ込め構造の一部を構成する、攻勢能力を備えた強力な地域軍事大国へと移行することを意味する。それは、かつて中立を標榜していたウクライナがすでに経験し、自国および欧州全体に破滅的な結果をもたらした転換であり、日本に対しても同様の結果を予兆するものである。

2025年10月、ロイターは、日本の新首相が「積極的」な財政政策のもと「早期の防衛費増額」を約束したと報じた。同じ月、DW(戦争省)は、高市が2026年3月までにGDP比2%の軍事費を目標としており、NATOの基準的支出要件と歩調を合わせることで、日本が米国主導の世界的軍事ブロックへのさらなる統合を示していると伝えた。

このGDP比2%への引き上げは、近い将来のより大幅な軍事費増額に向けた漸進的な一歩にすぎない可能性が高い。これは、ヘグセスが2025年2月に欧州に対して要求した防衛費GDP比5%という新たな基準に、いずれ日本も追随する可能性を示唆している。

日本は核兵器に関する姿勢も転換しつつある。ロイターは、日本の首相が「自国領域へのその種の兵器の持ち込み禁止の見直しを求める可能性がある」と指摘した。これは、ウクライナのゼレンスキー大統領が2022年のミュンヘン安全保障会議で、核兵器取得を禁じるブダペスト覚書の無効化を示唆したことと類似している。

当時ウクライナがロシアに対して国家の存立に関わる脅威を突きつけたのと同様、日本が1931年から45年にかけて14年にわたる対中侵略の後に課された制約を外し、ますます攻撃的になることは、今日の中国にとって国家安全保障に関わる重大かつ存立的脅威となる。

米国がフィリピン、大韓民国、さらには中国の台湾省に対して同様の政策を押しつけていることと併せ、中国に対する統一戦線が形成されつつある。それは、米国がNATOをどのように形作り、現在ロシアに対してどのように用いているかを想起させる。

ロシアを疲弊させ、中国を疲弊させる…

日本の攻撃的姿勢の高まりは、地域におけるより広範な米国戦略の一環であり、ちょうどウクライナが中立を放棄したことが欧州におけるより広範な米国戦略の一環となったのと同様である。

2019年のランド研究所の論文「Extending Russia」は、ソ連崩壊型の衰退を引き起こす目的で、ロシア周辺の複数地点で代理勢力を利用して紛争を引き起こし、ロシアに経済的・政治的圧力を加えることを提唱した。

同様に、米国はアジア太平洋で代理勢力による地域的前線を準備し、中国と対峙・封じ込めるために複数の地点で多様な役割を果たさせ、自軍の地域的プレゼンスを増強し、潜在的な紛争時に米国が安全に後方から支援・展開できる前線を構築しようとしている。

2018年の米海軍大学校論文「A Maritime Oil Blockade Against China」では、中国の軍事力の手が届かない要衝で中国のエネルギー輸入を遮断する計画が提示されている。

この計画は、論文が「遠隔封鎖」と呼ぶ措置を米軍が実施するだけではなく、複数の国の協力を必要とし、中国が封鎖を打破しようとする意図を抑止する枠組みを形成することを求めている。論文に添付された地図は、日本(そしてフィリピン、そして中国の台湾省)がこの広範な地域戦略で果たす重要な役割を明確に示している。

現在進行中の米軍の軍備増強――すなわち、2018年論文で指摘された要衝に沿って展開する純粋な対艦任務部隊への海兵隊の再編、そして日本のような代理勢力や、台湾およびフィリピンのような地域の分離派当局の軍事化――これら一連の動きは、2018年論文が単なる提案にとどまらないことを示している。2019年のランド研究所論文と同様、米国がその後実行に移した枠組みであることを示している。ここで再軍備化された攻撃的な日本は、その主要構成要素の一つである。

日本の台湾への焦点:偶然ではない

日本の台湾に関する攻撃的姿勢の高まりは、米国が自国の長年の「一つの中国」政策をますます公然と無視する姿勢と並行して起きている。

米国国務省歴史局は、この政策を記述した1972年の中米共同コミュニケの原文を公開している。コミュニケによれば、「米国は、台湾海峡の両岸のすべての中国人が一つの中国が存在し、台湾は中国の一部であると主張していることを承認する。米国政府はその立場に異議を唱えない」。

しかし米国はその後、この政策を意図的かつ継続的に違反し、中央政府の承認なしに台湾の分離派と政治接触を行い、日本を含む同盟国に台湾の地位についてより挑発的な立場を取るよう促し、ワシントン自身の対中対決の負担を「分担」させ、さらには台湾当局への武器売却を継続してきた。

ドナルド・トランプ政権は最近、3億3千万ドル規模の武器パッケージを承認した。ロイターによれば、これは台湾ですでに運用されている米国製航空機(F16およびC130)の部品を含むという。この武器売却は現トランプ政権下で初めてだが、バイデン政権下およびトランプの最初の任期中にも同様の売却が続き、その期間、台湾省には数十億ドル規模の武器が売却された。

米国が主要な東アジアの駒を使って台湾をめぐる緊張を高めさせ、防衛費の拡大と核兵器政策の転換を示唆する発言を伴わせていることは、米国がこの地政学的焦点を意図的に対立へ押しやっていることを示す。米国の政策は、中国を追い詰め、そのいかなる反応も攻撃的に見えるように仕向け、米国主導の代理戦争的軍拡と潜在的な衝突を正当化するために設計されている。

これらすべては、中国がその中心の柱である多極化世界を抑え込み、封じ込めるという、一貫して根を張った、世界規模の米国主導戦略の諸兆候である。日本は、アジア太平洋における複数の「ウクライナ」のうちの少なくとも一つとなる位置に置かれている。

北京、モスクワ、そして多極的世界を求める国家群は、米国の言葉ではなく行動こそが、米国がいかなる代償を払っても覇権を維持しようとする強制・対決・封じ込め戦略への断固とした姿勢を示す確かな指標であることを認識しなければならない。多極的世界を志向する側もまた、この米国戦略に抗し、最終的にそれを克服するための同等の決意を持たなければならない。

筆者はバンコク在住の独立系地政学アナリストであり、元米海兵隊員である。

(翻訳以上)

Tuesday, December 02, 2025

Film Earth’s Greatest Enemy: Okinawa’s Resistance in Vivid Detail アビー・マーティン監督の新作映画について書きました:『琉球新報』より 映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに(英訳)

Here is the English translation of my latest column in Okinawan newspaper Ryukyu Shimpo, November 25, 2025. It is about Abby Martin's new documentary film Earth's Greatest Enemy. Original Japanese text follows English. 

『琉球新報』25年11月25日3面に掲載された「乗松聡子の眼 68回 映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに」の英訳をここに置きます(AI訳に少し手を入れたものです)。
 

Trailer of Earth's Greatest Enemy

Film Earth’s Greatest Enemy: Okinawa’s Resistance in Vivid Detail

<Norimatsu Satoko’s Perspective>
Publication time: 05:00, November 25, 2025

https://ryukyushimpo.jp/celebrity-serials/entry-4805091.html 

Satoko Oka Norimatsu

In October 2022, when Abby Martin was filming and interviewing in Okinawa for this film, she said, “Okinawa was the starting point of my journalism.” The documentary film Earth’s Greatest Enemy, created by her and her partner, Iraq War veteran Mike Prysner, has now been completed. A nationwide screening tour in the U.S. has been underway since September 20. During her Okinawa reporting, Martin was pregnant with her second child, but in this film, we can see the healthy baby who was later born.

The film argues that the U.S. military is the greatest enemy to the global environment. The U.S. military is the world’s largest consumer of fossil fuels. When Abby covered the 2024 UN Climate Change Conference (COP26) in Glasgow, she began to question why the massive presence of the U.S. military was treated almost like a taboo, never properly discussed.

The answer was “money.” The military-industrial structure places the U.S. military in a protected sanctuary. Environmental law expert Tamara Lorincz states, “NATO, a military organization led by the United States, serves as a cover for major weapons manufacturers. NATO is a guaranteed market for U.S. weaponry.”

Through interviews with specialists such as political scientist Jodi Dean, Martin gradually exposes the essence of U.S. imperialism. The global network of U.S. military dominance sustains an economic system that secures the interests of the ruling class, and it is maintained “through inequality and expansion.”

Martin goes on to say that the very formation of the United States resulted from expansion through the use of force to secure fur and mineral resources. In the pursuit of military action and resource extraction, the United States took land and dignity from Indigenous peoples. Its imperial origins lie within its own history.

In Iraq and Afghanistan, the U.S. military dropped countless bombs. Even after the wars ended, long-lasting contaminants such as lead, mercury, titanium, tungsten, and depleted uranium have caused congenital disorders and cancer among children.

The harm caused by U.S. military operations affects U.S. soldiers and base-related personnel inside the United States as well. Water contamination at Marine Corps Base Camp Lejeune in North Carolina created as many as one million victims, yet the military’s responses and investigations have been insufficient. One victim stated, “I am fighting for the people who served. The U.S. military can go to hell.”

“Camp Lejeune is only the tip of the iceberg,” says Pat Elder, who has investigated contamination at more than 400 U.S. military bases worldwide. According to Elder, contamination on U.S. bases falls into four categories: “pesticides and herbicides,” “radiation,” “VOCs (volatile organic compounds),” and “PFAS (per- and polyfluoroalkyl substances).”

The film then turns to OKINAWA. The narrative leads viewers to imagine how the military contamination discussed so far has also affected Okinawa. Martin interviews Governor Denny Tamaki and is astonished: “You are an elected governor, yet you cannot even enter the bases to investigate contamination?”

The spotlight then shifts to the power of citizens who resist the empire. Scenes of resistance on sea and land at Henoko and Oura Bay, and the actions in Awa and Shiokawa to block the shipment of earth and sand, are captured vividly with the brilliance of the ocean.

According to Martin, audiences at screenings across the United States have expressed reactions such as “I was shocked by the absurd destruction at Henoko” and “I was inspired by the citizens’ resistance.” The release of a Japanese-language version of this film is eagerly awaited.

( Editor, The Asia-Pacific Journal: Japan Focus )

The original article in Japanese: https://ryukyushimpo.jp/celebrity-serials/entry-4805091.html 

Go to the official website of Earth's Greatest Enemy for screening information!


映画「地球最大の敵」 沖縄の抵抗を鮮やかに <乗松聡子の眼>

公開日時 2025年11月25日 05:00更新日時 2025年11月25日 12:02

 2022年10月に沖縄を取材した時に、「沖縄はジャーナリストとしての自分の原点だ」と語ったアビー・マーティン氏。その彼女と、パートナーであるイラク帰還兵マイク・プリスナー氏によるドキュメンタリー映画「地球最大の敵」が完成した。9月20日から全米上映ツアーを行っている。アビー監督は沖縄取材時、2人目の子でお腹(なか)が大きかったが、この映画では生まれてきた元気な子の姿を見ることができる。

 この映画は、米国の軍隊こそが地球環境にとっての最大の敵であると訴える。米軍は世界最大の化石燃料の消費者だ。アビー監督は24年にグラスゴーで開催された国連気候変動会議(COP26)を取材した時、米軍という巨大な存在が、まるでタブーのように語られないことに疑問を持った。

 答えは「カネ」であった。軍需産業が米軍を聖域化する構造がある。環境法専門家のタマラ・ロリンツ氏は「米国主導の軍事組織である北大西洋条約機構(NATO)は、大手兵器メーカーの隠れみのになっている」と語った。「NATOは米国兵器にとっての確実な市場だ」。

 アビー監督は、政治学者のジョディ・ディーン氏など専門家とのインタビューを重ねながら、米国の帝国主義の本質をあぶり出していく。世界中に張り巡らした米軍の優越性が、支配層の利益を確保する経済の仕組みを支え、「不平等と拡大によって」維持される。

 監督は続ける。米国の成立自体が、毛皮と鉱物資源の確保のために武力を使って拡大した結果なのだ。軍事行動と資源略奪のために、先住民族の土地と尊厳を奪ってきた。その起源は、自国にあるのである。

 イラクやアフガニスタンで米軍は無数の爆弾を落とした。戦争は終わっても、環境に長く残る鉛、水銀、チタン、タングステン、劣化ウランなどが、子どもたちの先天性異常や、がんを生み出している。

 米軍行動の被害は米兵自身や、米国内の基地関係者にも及ぶ。ノース・カロライナ州のレジューン海兵隊基地の水質汚染は100万人もの被害者を生み出したが、軍の対応や調査は十分ではない。被害者の一人が言っていた。「私は軍に尽くした人たちのために闘っている。米軍は地獄に落ちればいい」。

 「レジューン基地は氷山の一角にすぎない」と、全世界400もの米軍基地の汚染を調査してきたパット・エルダー氏は言う。エルダー氏によると米軍基地汚染は4種類に分けられる。「農薬・除草剤」「放射線」「VOC(揮発性有機化合物)」「PFAS(有機フッ素化合物)」だ。

 そして舞台はOKINAWAへ。ここまで語られた米軍汚染が沖縄にも及んでいることを想像させる展開だ。アビー監督は玉城デニー知事にインタビューし、「あなたは選挙で選ばれた知事なのに、基地汚染の立ち入り調査さえできないのですか」と驚く。

 そして、帝国に抗(あらが)う「市民の力」にスポットライトが当たる。辺野古・大浦湾での海と陸での抵抗、安和・塩川の土砂搬出阻止行動が、海のまぶしさと共に鮮やかに映し出される。

 アビー監督によると、各地の上映で観客から「辺野古の理不尽な破壊に衝撃を受けた」「市民の抵抗の姿に感銘を受けた」という声が出ているようだ。この映画の、日本語版上映が待ち望まれる。

(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)


泉川友樹: 高市首相「存立危機」答弁/日中の英知 試されている (琉球新報12月2日寄稿)Izumikawa Yuki: Prime Minister Takaichi’s “Existential Crisis” Response / The Wisdom of Japan and China Is Being Tested (Op-Ed in Ryukyu Shimpo, Dec 2, 2025)

See below for the English translation of Izumikawa Yuki's article.

12月2日『琉球新報』の2面に、日本国際貿易促進協会理事・事務局長の泉川友樹氏の寄稿が掲載された。高市の「存立危機事態」発言に対する中国の怒りの背景には「歴史」がある。多くの日本人は対中国の侵略戦争の歴史を知らない・ほとんど知らない・知ろうとしないことから、現状に対する理解のギャップが出てきてしまう。メディアも中国の強硬さを強調するだけで、日本人が「歴史」を理解する手助けをしようとさえしない。行きつく先は戦争である。日本が台湾に口出しすることは、中国から見たら第二次世界大戦後の世界秩序への挑戦・大日本帝国の軍国主義の再来なのである。

2025.12.2 『琉球新報』2面

泉川氏の許可を得て転載する。

<寄稿>高市首相「存立危機」答弁/日中の英知 試されている 

泉川友樹(日本国際貿易促進協会理事・事務局長)

高市早苗首相が11月7日の衆議院予算委員会で岡田克也委員の質問に対し「例えば、台湾を完全に中国北京政府の 支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。(中略)それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うもの であれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます」と答弁し、日中両国に衝撃が走 った。

中国の怒りはすさまじく、予定されていた多くのイベントが延期・中止されたほか、日本への渡航自粛や留学先とし ての再検討を自国民に呼びかける事態に発展している。11月18日に金井正彰外務省アジア大洋州局長と劉勁松外交 部アジア司長の局長級協議が北京で行われたが、解決・緩和の糸口は見出せていない。  

この問題は現在も進行中であり、今後の展開について予断をもって語ることは難しい。そこで、ここでは中国がなぜ ここまで怒りをあらわにしているのか、その背景について3点紹介したい。  

1点目は、発言が現役の首相による国会答弁として行われたことだ。これまで安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有 事」と発言したことはあったが、首相を退任した後のオンライン講演会での発言であり、政府を代表するものではなか った。今回の発言は政府全体を拘束する国会での答弁であり、中国にとりその政治的な重みはこれまでとは全く次元の 異なるものだった。  

2点目は、この発言が10月31日に韓国で行われた習近平主席との首脳会談直後に飛び出したことだ。これまで中 国に対し厳しい発言を繰り返してきた高市首相と会うことに不安を抱えながらも日中関係の発展という大局的見地から 首脳会談を決断した中国としては、国家元首の顔に泥を塗られたように感じたのだろう。2012年9月にウラジオス トクで胡錦濤国家主席から野田佳彦首相に尖閣国有化を控えるように強く要請したにも拘らず、帰国直後に国有化を実 行し中国側の激しい反発を招いた時と重なる。  

3点目は、答弁で挙げられたケースが台湾海峡を対象としていたことである。台湾は1894年に勃発した日清戦争 の結果「下関条約」によって清国から割譲され、1945年の敗戦に至るまで日本が植民地統治した地域だ。戦後80 年の節目にかつて日本が植民地統治を行い、中国が最もデリケートな問題として扱っている台湾という地域でのケース を日本が「存立危機事態になり得る」と言及したことは中国には受け入れがたく「新軍国主義」の到来を想起させるも のだったと推察される。  

以上のような背景を踏まえた上で、今後日中双方は事態の沈静化に向けて外交努力を尽くす必要がある。両国の英知 が試されている。    

◇いずみかわ・ゆうき 1979年、豊見城市生まれ。沖縄国際大学卒業後、北京に留学。2006年、日本国際貿易 促進協会に就職。現在、同協会理事・事務局長。


Prime Minister Takaichi’s “Existential Crisis” Response / The Wisdom of Japan and China Is Being Tested

Izumikawa Yuki (Director and Secretary-General, Association for the Promotion of International Trade, Japan)

Prime Minister Takaichi Sanae, responding to a question from Committee Member Okada Katsuya at the House of Representatives Budget Committee on November 7, stated: “For example, what means would be used to place Taiwan completely under the control of the Chinese government in Beijing? (…) If that involves using warships and also involves the use of force, then no matter how one looks at it, I believe this is a case that could constitute an existential crisis situation.” This response sent shockwaves through both Japan and China.

China has expressed profound anger. Many scheduled events have been postponed or canceled, and the situation has escalated to the point where China is urging its citizens to refrain from traveling to Japan and to reconsider Japan as a study-abroad destination. On November 18, Director-General Kanai Masaaki of the Asian and Oceanian Affairs Bureau at Japan’s Ministry of Foreign Affairs and Director-General Liu Jinsong of the Department of Asian Affairs at China’s Ministry of Foreign Affairs held director-level consultations in Beijing, but no clue toward resolution or easing of tensions has yet been found.

This issue is still unfolding, and it is difficult to make any assumptions about future developments. Here, three background factors explaining why China is expressing such visible anger will be introduced.

The first point is that the remarks were made as an official Diet statement by a sitting prime minister. Former Prime Minister  Abe Shinzo had once said “A contingency in Taiwan is a contingency for Japan,” but that was spoken in an online lecture after stepping down from office and did not represent the government. This time, the remarks were delivered as an official Diet response that binds the entire government, and for China, the political weight was of a completely different dimension.

The second point is that these remarks came immediately after the summit meeting with President Xi Jinping held in South Korea on October 31. Although China had concerns about meeting Prime Minister Takaichi—who had repeatedly made harsh statements toward China—it nevertheless decided on the summit from a broader perspective of advancing Japan-China relations. From China’s viewpoint, this likely felt as though the national leader had been disgraced. The situation overlaps with September 2012 in Vladivostok, when President Hu Jintao strongly urged Prime Minister Noda Yoshihiko to refrain from nationalizing the Senkaku Islands, yet Noda proceeded with nationalization immediately upon returning to Japan, provoking strong backlash from China.

The third point is that the example raised in the response concerned the Taiwan Strait. Taiwan was ceded by the Qing dynasty under the Treaty of Shimonoseki following the outbreak of the First Sino-Japanese War in 1894, and Japan governed it as a colonial possession until Japan’s defeat in 1945. As the post-war era reaches its 80-year milestone, Japan referring to a potential “existential crisis situation” in relation to Taiwan—a region where Japan once carried out colonial rule and which China treats as its most delicate issue—was unacceptable to China and likely evoked the specter of “new militarism.”

With these circumstances in mind, both Japan and China must devote diplomatic efforts to calming the situation. The wisdom of both countries is being tested.


Izumikawa Yuki
Born 1979 in Tomigusuku City. After graduating from Okinawa International University, he studied in Beijing. Joined the Association for the Promotion of International Trade, Japan in 2006. Currently serves as the Association’s Director and Secretary-General.


Monday, December 01, 2025

第32回 アジア・フォーラム横浜 証言集会「父は二度と家に帰らなかった」沈素菲さんの証言 および 林少彬さん講演 Japanese Military's Massacre of Chinese Civilians "Sook Ching 粛清" in Singapore: Victims' Families Tell Their Stories for an Event in Yokohama

 12月6日、横浜での証言集会の案内です。

日本敗戦80周年である2025年も終わりに近づきました。しかし12月には「12・8」日本が東南アジア・太平洋の英米などの植民地を攻撃した戦争開始の日、「12・13」南京大虐殺から88年の記憶の日、「12・25」香港陥落の日など、重要な節目がまだあります。これらの歴史を記憶することは、現在、高市首相の「存立危機事態」発言(11月7日)をうけた日中関係の深刻化とその対処を考えるにおいても、非常に重要なことです。

日本軍によるシンガポールとマレーシアにおける華人大虐殺については、この投稿の最後に、この歴史について学べる関連投稿を記しましたのでぜひご覧ください。「アジア・フォーラム」は毎年被害者や被害者の遺族を招いて「証言集会」を続けてきました。今年は日本軍により父親を連れ去られ殺された、90歳の沈素菲(シム・スーウィー)さんがオンラインで証言します。また、祖父を日本軍に殺された林少彬(リム・シャオビン)さんが、華僑虐殺「粛清」について、また、731部隊の東南アジア支部である「岡9420部隊」について講演します。

ブログ運営人・乗松聡子も発言する予定です。


関連投稿




Saturday, November 15, 2025

対中国戦争を準備する日本と米国 Japan and the United States Prepare a War Against China

11月15日(日本時間)、太平洋諸国の人々が集まり、「太平洋を平和の海にする」テーマでウェビナーがありました。フィジー、パプアニューギニア、フィリピン、オーストラリア、アオテアロア/ニュージーランド、グアハン、ハワイ、韓国、日本などからの登壇がありました。私も5分話しましたが、そのテクストをここに紹介します(英語、その後は日本語訳。ウェビナーでは時間制限のため、一部割愛して話しました)。

私は今回、高市早苗首相の「存立危機事態」宣言の批判に重点を置きました。現職の日本の首相が、台湾への出兵をほのめかす、この重大さを当事者おろか日本の人たちのマジョリティが理解していないのではないかと思います。近代日本の最初の海外派兵は1874年の台湾出兵でした。そして日清戦争で清国から台湾を奪い取りました。日本が中国に何千万もの死傷者と取返しのない傷を残した中国侵略戦争で敗戦し、1972年「日中共同声明」で中国との外交関係を再開させるときに、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」ことを尊重することを約束し、その後日中平和友好条約(1978)、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明で繰り返し「ひとつの中国」を約束してきています。「一つの中国の尊重」は、許されるはずもない戦争の罪を許してもらう条件でもあったのです。同時に、一つの中国の不尊重は、日本が再び中国に牙を向ける証となるのです。

高市首相はこの発言を撤回し、中国に謝罪し、辞任すべきと思います。

と同時に、これは決して日本と中国だけの問題ではありません。日本は日本人の多くが思っているほど主体性を持てている国ではありません。戦後、米国に主権を奪われたままです。日本で、侵略戦争の過去を認めない極右が政権につき続けているのも米国の覇権にとって有利だからです。今回の高市首相の言動も撤回拒否も米国の意向を反映しているでしょう。「自由の航行作戦」、中国を取り囲む基地群、軍事演習、台湾や米国の属国群への武器提供や軍事的提携で中国を威嚇している主体は米国です。中国の最大の警告は日本だけではなく米国に向けられているのです。そういう問題意識から、今回の米国の沈黙の意味についても述べています。@PeacePhilosophy

Here is a five-minute talk that I gave to the webinar held on November 15/16 (depending on time zones) Securing a Pacific Ocean of Peace - Overcoming the Obstacles. Organized by World Beyond War.  There were speakers from Fiji, Papua New Guinea, Philippines, Australia, Aotearoa/New Zealand, Guåhan, Hawai'i, Republic of Korea, and Japan. Here is the text of my talk (I had to shorten it a little to put it within the 5 minutes given). Japanese translation follows. 



Japan and the United States Prepare a War Against China

I would like to give a brief overview of recent developments around Japan and Okinawa in relation to the accelerating war preparations against China in conjunction with the United States.

Japan now has its first female prime minister, Takaichi Sanae. She is the political successor of Abe Shinzo, who dismantled the post-war constitutional promise of the renunciation of war, enabling Japan to exercise the so-called collective self-defense right—the right to engage in U.S. wars against designated adversaries, in today’s context meaning China. Upon taking office, Takaichi announced a review of the three core national security documents adopted in December 2022: the National Security Strategy, the National Defense Strategy, and the Defense Buildup Program, which collectively shifted Japan’s postwar defense posture. 

These documents redefined China as an “unprecedented strategic challenge,” introduced “counterstrike capability,” and prioritized long-range missiles, unmanned systems, cyber and space warfare units, and deeper integration with U.S. military planning. They also committed 43 trillion yen (Approx. 300 US dollars) over five years to missiles, drones, cyber tools, and ammunition stockpiles, while offering little on diplomacy or conflict prevention. Takaichi says she will revise these by 2026, emphasizing “new forms of warfare” such as drone swarms and intensified cyber operations. It is more likely than not that her revision will be more escalatory. 

Today Japanese media are all reporting that Takaichi plans so revisit the “three-non-nuclear principle” that the Japanese government upheld since 1967, which says not having, not making, and not introducing nuclear weapons. Takaichi wrote in her 2024 book that the “non introduction” clause could be an obstacle for the U.S. provision of its “extended deterrence.”  

Takaichi belongs to the far-right of the LDP and is known for historical denial, having repeatedly visited Yasukuni Shrine. Countries victimized by Imperial Japan, including China and Korea, were alarmed when she became prime minister. Despite diplomatic gestures—her ASEAN debut, hosting President Donald Trump, and meeting President Xi Jinping at APEC—her true colours soon became clear. 

On November 7, she stated in the Diet that a “Taiwan contingency” could be classified as a “survival-threatening situation,” or sonritsu kiki jitai, under the 2015 Security Legislation—what we opponents call the War Legislation—forced through by Abe Administration despite nationwide protests, including self-immolation cases. The law defines such a situation as one in which an attack on a country with close ties to Japan threatens Japan’s survival and endangers the people’s right to life and liberty, even if Japan is not attacked.

By directly linking a Taiwan conflict to Japan’s national existence, Takaichi signaled a far more explicit Japanese role in a Taiwan crisis. China reacted sharply. Takaichi was heavily criticized by opposition parties and urged to retract the statement; she refused.

The U.S. has kept deliberate distance. It neither endorsed nor criticized Takaichi’s Taiwan comment. Yet its silence is telling. The US is sensitive when Japanese leaders visit Yasukuni Shrine—when Abe visited in 2013, Washington immediately expressed concern. Not necessarily because they care about peace in East Asia, but because it would harm the Japan-Republic of Korea relations and thus U.S.–Japan–ROK military alliance. Takaichi will mostly likely avoid visiting Yasukuni while in office because of this U.S. pressure. In contract, U.S. does not seem bothered by Takaichi’s aggressive stance against China, precisely because it aligns with the US strategic objective of pressuring and threatening China. 

As usual, the US uses its client states to do all the dirty work, just as it uses Ukraine to weaken Russia and Israel to destroy Palestine.

The latest event only added to China’s distrust of Japan in this commemorative year, the 80th anniversary of the victory of the resistance war against Japan and the anti-fascist war. On September 3, Beijing held a major ceremony with 26 state leaders including Russian President Vladmir Putin and DPRK Chairman Kim Jong-un. The Japanese government denounced it as an anti-Japan event and told Japanese nationals in China to stay home for safety when war commemorations were held. Japan even pressured other countries not to attend. Imagine Germany doing this on Victory in Europe Day.

Japan has also banned major Chinese films this year, including Dead to Rights, which depicted the human suffering of the Nanjing Massacre. The Japanese public is largely influenced by the denialist narrative that the Nanjing Massacre didn’t happen. Even the Nagasaki Atomic Bomb Museum is diluting its description, changing “Nanjing Massacre” to “Nanjing Incident,” reinforcing China’s suspicion that Japan is whitewashing its aggression.

For China, Taiwan issue is historical as well as contemporary. Japan colonized Taiwan as spoils of its first war of aggression against China in 1894–95. Any Japanese involvement in Taiwan evokes memories of Japan’s wars in China that killed tens of millions of its citizens.

Perhaps this sentiment is most clearly expressed in the Chinese Foreign Ministry spokesperson’s November 13 statement:

“Japan must immediately correct and retract its malicious remarks. Otherwise, Japan will bear all the consequences that arise from them. If Japan dares to intervene militarily in the situation across the Taiwan Strait, such an act would constitute aggression. China will meet it head-on and deliver a powerful blow. We issue a stern warning to the Japanese: reflect deeply on its historical crimes, and immediately stop interfering in China’s internal affairs or engaging in provocative, line-crossing actions. Japan must not play with fire over the Taiwan question. Those who play with fire will surely get burned.”

It is also a warning to Washington.

Indeed, Japan’s war preparation is accelerating, making use of the Ryukyu chain of islands—again using a historical colony that Japan forcefully annexed at the end of the 19th century. Military analyst and peace activist Konishi Makoto reiterated in his recent lecture that, over the past several years, Japan has transformed its entire southwest into an uninterrupted military belt—from Yonaguni and Ishigaki, through Miyako and Amami, to Okinawa, Mageshima, and western Honshu—filled with missile units, radar stations, new bases, ammunition depots, joint training facilities, and expanding U.S.–Japan force integration, all despite heavy local opposition and residents’ concern for safety when war comes to their islands.

Konishi concludes:

“A military contingency in Taiwan will not occur if Japan says ‘no.’ If Japan refuses to allow U.S. forces to use its bases, airports, and ports, the United States cannot initiate or execute such a conflict. Japan’s anti-war and peace movements therefore play an increasingly crucial role.”

I cannot agree more.

日本語訳

対中国戦争を準備する日本と米国

日本と沖縄周辺で進んでいる、米国と共に進めている対中戦争準備の加速に関して、最近の動向を概観したいと思います。

日本には現在、初の女性首相である高市早苗首相が誕生しています。彼女は安倍晋三元首相(故人)の政治的後継者であり、安倍氏は戦後憲法が掲げてきた「戦争放棄」の約束を実質的に解体し、日本がいわゆる集団的自衛権を行使できるようにしました。これは、米国が指定する敵対国(今日の文脈では、中国)を相手とする米国の戦争に日本が加わる権利です。就任後、高市首相は2022年12月に採択された3つの国家安全保障関連の中核文書、すなわち国家安全保障戦略(NSS)、国家防衛戦略(NDS)、防衛力整備計画(DBP)を見直すと発表しました。これらは、日本の戦後防衛姿勢を大きく転換させたものです。

これらの文書は中国を「これまでにない戦略的挑戦」と再定義し、「反撃能力」を導入し、長射程ミサイル、無人システム、サイバー・宇宙領域の部隊、そして米軍とのより深い統合作戦を優先しました。また、これらは5年間で43兆円(約300億米ドル)をミサイル、ドローン、サイバー能力、弾薬備蓄などに投じるとしながら、外交や紛争予防にはほとんど触れていません。高市首相は2026年までにこれらを改定すると述べ、「ドローンスウォーム」やサイバー作戦の高度化など「新たな戦争形態」を強調しています。彼女の改定がよりエスカレートしたものになる可能性は高いと言えます。

本日、日本のメディアは、高市首相が1967年以来日本政府が堅持してきた「非核三原則」――持たず、作らず、持ち込ませず――の見直しを検討していると一斉に報じています。高市は2024年の著書の中で、「持ち込ませず」という条項が、米国の「拡大抑止」の提供にとって障害となり得ると書いています。

高市首相は自民党の極右に属し、歴史否認論者として知られ、閣僚時代から靖国神社に繰り返し参拝してきました。中国や韓国を含む、旧日本帝国の被害国は、彼女が首相になったことに強い警戒を示しました。高市首相はASEAN首脳会議でのデビュー、ドナルド・トランプ前大統領の接遇、APECでの習近平国家主席との会談といった外交的ジェスチャーを見せましたが、彼女の本性が明らかになるのは時間がかかりませんでした。

11月7日、高市首相は国会で「台湾有事」が2015年の「安保法制」(私たち反対する者が「戦争法」と呼ぶもの)における「存立危機事態」に該当し得ると述べました。安倍政権が全国的な抗議、さらには焼身自殺の事例まで起きた中で強行したこの法律は、密接な関係にある国への武力攻撃が、日本が攻撃されていなくても、日本の存立を脅かし、国民の生命と自由を根底から覆す明白な危険を及ぼす場合を「存立危機事態」と定義しています。

台湾有事を日本の「存立」と直接結びつけたことで、高市は台湾危機への日本のより直接的な関与を示唆しました。中国はこれに強く反応しました。高市は野党から厳しく批判され、発言の撤回を求められましたが、拒否しました。

米国は意図的に距離を置いています。米国は高市首相の台湾に関する発言を支持も批判もしていません。しかし沈黙は雄弁です。米国は日本の首相が靖国神社を訪れることには敏感で、2013年に当時の安倍首相が訪問した際には即座に懸念を表明しました。これは必ずしも東アジアの平和を気にかけているからではなく、日韓関係を悪化させ、米日韓の軍事協力を損なうからです。このため、高市首相は在任中に靖国神社参拝を避ける可能性が高いでしょう。対照的に、米国は高市首相の対中強硬姿勢には無関心です。理由は、それが米国の対中圧力という戦略目標に合致するからです。

いつものように、米国はその属国を使って汚れ仕事のすべてをやらせています。米国がウクライナを使ってロシアを弱体化させ、イスラエルを使ってパレスチナを破壊しているのと同じです。

今年は「抗日戦争勝利・世界反ファシズム戦争勝利80周年」の節目の年です。今回の出来事は中国の日本への不信をさらに増大させるだけでした。9月3日、北京ではロシアのウラジーミル・プーチン大統領や朝鮮民主主義人民共和国の金正恩委員長を含む26か国の首脳が出席する式典が開かれました。日本政府はこれを反日イベントと呼び、中国在住の日本人に対し、戦争記憶行事の際には安全のため自宅待機するよう指示しました。日本は他国にも出席しないよう圧力をかけたと報じられています。仮にドイツが「欧州戦勝記念日」に同じことをしたらどうでしょうか。

日本は今年、中国の主要映画も上映禁止にし、特に「南京照相館」は南京大虐殺における人々の苦しみを描いた作品でした。日本の世論は南京大虐殺否定論に大きく影響されています。長崎原爆資料館ですら、「南京大虐殺」を「南京事件」へと記述を弱めつつあります。一連の動きは、中国にとっては、日本が加害の歴史を歪めようとしている印象を強めています。

中国にとって台湾問題は、現在の問題であると同時に歴史問題でもあります。日本は1894年〜95年の対中侵略戦争の戦利品として台湾を植民地化しました。中国の人々にとって、いかなる形でも、台湾への日本の関与は、中国で数千万人が命を失った日本の侵略戦争の記憶を呼び起こします。

おそらくこの感情を最もよく表しているのが、中国外交部報道官が11月13日に述べた次の声明でしょう。

日本側は直ちに悪質な発言を訂正し、撤回しなければならない。さもなければ、それにより生じるあらゆる結果は日本側が負うことになる。  もし日本側が中国台湾海峡情勢に武力で介入するようなことを敢えて行えば、それは侵略行為にあたり、中国側は迎え撃ち、痛撃を加える。  我々は日本側に厳重に警告する:歴史罪責を深く反省し、中国の内政への干渉や挑発的な越線的な行為を直ちに停止すべきである。台湾問題で火遊びをすべきではない。火遊びをする者は、必ず焼かれる。

これは米国への警告でもあります。

事実、日本の戦争準備は加速しており、かつて力づくで併合した歴史的植民地である琉球列島を再び利用しています。軍事評論家・平和活動家の小西誠氏は最近の講演で、ここ数年、日本が、与那国、石垣、宮古、奄美、沖縄、馬毛島、西日本に至るまで、ミサイル部隊、レーダー基地、新設基地、弾薬庫、共同訓練施設、米日一体化の強化などを備えた、途切れのない軍事化地帯に変えてきたと指摘しました。これらは地元の強い反対や、戦争が島に及んだ場合の安全への住民の懸念にもかかわらず進められています。

小西氏は次のように結論づけています。

“「台湾有事」は、日本が「NO」と言えば起こりません。 日本が米軍に基地を使わせなければ、アメリカは台湾有事を起こすことができません。日本の基地、日本の空港、日本の港、これらがなければ、アメリカは台湾有事を遂行できないのです。だからこそ、日本の反戦運動・平和運動が極めて重要になってきます。”

全面的に同意します。

(翻訳 以上)

Saturday, November 08, 2025

米国の血塗られたラテンアメリカ侵略・介入の歴史―抵抗するベネズエラに、米国はでっち上げで戦争をしかけようとしている:ベン・ノートン Ben Norton: The Shocking Truth About America’s Plans for Venezuela(Japanese Translation)

10月24日の動画です。ジャーナリストのベン・ノートン氏はさすが十八番のラテンアメリカ、メモも見ずに淀むこともなく40分間、米国によるラテンアメリカ侵略・介入・分断・言いがかりをつけた戦争について、数々のあまり知られない事実とデータを挙げながら語りつくしました。また、今回のホストのサイラス・ジャンセン氏はこの動画では聞き手に徹していますが、彼は自分のチャネルで、西側が中国にいだいている偏見や無知を正すために日々発信している、中国語を駆使する貴重な西側ジャーナリストです。サイラスさんのチャネルもぜひチェックしてください。(翻訳はAIに手を入れたものです。アップ後に修正することがあります。)

また、ノーベル平和賞をうけたマリア・コリナ・マチャド氏についてですが、彼女を批判している人たちは、ネタニヤフやトランプを支持しているということを理由にしている人が多いですが、誰と仲がいいかより、実際「何をやっているか」の方が重要です。彼女の一番の問題は、米国に協力して自国ベネズエラを売り渡し、破壊しようとしていることです。この動画にもマチャドの話題はたくさん出てきますのでどうぞ読んで(聞いて)ください。

ラテンアメリカの国々の自己決定権を支持します。@PeacePhilosophy


   

Ben Norton: The Shocking Truth About America’s Plans for Venezuela


ベン・ノートン:米国の対ベネズエラ計画についての衝撃の真実

 「ノーベル平和賞」

ついこのあいだノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャドという人物がいます。彼女は文字どおり、米国の軍事介入を自国に呼びかけているのです。冗談のように聞こえるかもしれませんが、BBCが彼女をノーベル平和賞受賞直後にインタビューし、その中で彼女は米軍がベネズエラに侵攻するよう求めました。つまり、戦争を呼びかけたのです。

もし米軍が介入したら、もしカラカスが爆撃されたら、もし彼らがいま話しているようにマドゥロ大統領を殺そうとしたら——実際、トランプはCIAに秘密工作を実行する権限を与えたと認めています——それは文字どおり内戦を引き起こす可能性があります。私は、ベネズエラで起きていることは非常に危険だと思いますし、私たちはそこで何が進行しているのかを非常に注意深く見守るべきだと思います。

(ホストのサイラス・ジャンセン)

さて、今回登場するのはベン・ノートンさんです。彼はジャーナリストであり、地政学アナリストであり、人気のあるユーチューバーでもあります。ラテンアメリカと中国の両方で生活し、仕事をしてきた豊富な経験を持つ人物です。今日のインタビューでは、私がベンとともに、アメリカ合衆国とベネズエラの間で起こりうる緊張の高まりや戦争の可能性について話します。

彼はラテンアメリカに関して非常に深い洞察を持っています。今回のエピソードでは、両国間で全面戦争に発展しうるあらゆるシナリオを掘り下げていきます。また、ラテンアメリカ諸国が団結してアメリカに立ち向かう可能性、そしてこの大陸がアメリカに対抗する新冷戦の中で果たす役割についても議論します。もしあなたが、アメリカが軍事的関心をラテンアメリカへと再び集中させている理由を本当に理解したいと思うなら、この動画はまさにあなたのためのものです。では、始めましょう。

みなさん、本日はスタジオにベン・ノートンさんをお迎えできて大変光栄です。彼はジャーナリストであり、アナリストであり、政治経済学者でもあります。おそらく皆さんも、彼のYouTubeチャンネル「Geopolitical Economy Report(地政経済リポート)」で彼を見たことがあるでしょう。

あなたはいま北京にいらっしゃいますね。中国に関する素晴らしい動画を制作していますし、イスラエルやラテンアメリカなど、さまざまなテーマについても扱っていますよね。あなたはラテンアメリカで豊富な経験をお持ちですが、そこから話を始めたいと思います。というのも、最近アメリカ合衆国とラテンアメリカの関係において非常に興味深い動きが見られるからです。

ベン、まず全体的な見取り図を教えてください。アメリカとラテンアメリカの間で何が起きているのか、そしてこのノーベル平和賞の件についても少し触れながら、今後アメリカとベネズエラの間でどういった展開が起きると考えているのかをお話しいただけますか。

アメリカの新冷戦ー標的は中国

ノートン:
これは実は中国と密接に関係しています。明らかに、アメリカ合衆国はいま「新たな冷戦」を仕掛けているのです。第二次冷戦と呼んでもいいでしょう。そしてその主な標的は中国です。ロシアも標的になっています。ウクライナでの代理戦争を見ればそれがわかります。あれは単にロシアとウクライナの戦争ではありません。NATOとロシアの戦争です。そしてNATOを率いているのはアメリカです。

この新冷戦において、もちろんロシアも標的ではありますが、最大の標的は中国です。なぜなら、マルコ・ルビオが上院の承認公聴会で述べたように——彼が国務長官に指名され、上院の承認を受けた際に——ルビオは「中国はアメリカ合衆国がこれまで直面した中で最大の脅威であり、ソ連以上だ」と言ったのです。彼はまた、中国は軍事的・安全保障上の脅威であるだけでなく、経済、技術などあらゆる面で脅威だと述べました。

もちろん、あなたも私も、この「中国は脅威だ」という考えには同意しません。中国は1979年【訳者注:1979年の中越戦争のこと】以降、一度も戦争をしていません。いっぽうアメリカは、私たちの生涯を通じてずっと戦争を続けています。常に、複数の戦争を同時にです。中国は戦争や衝突を望んでいません。しかしアメリカは、中国を自国の世界的支配への脅威として見ています。アメリカは覇権(ヘゲモニー)を維持しようとしており、中国だけがその覇権に挑戦できるほど強大な国なのです。

それは政治的にも、経済的にも、特に技術的にもそうです。世界を見渡せば、ほぼすべての国がシリコンバレーの巨大テック企業によるアメリカの技術を使っています。いわゆる「マグニフィセント・セブン(株価をけん引する7大ハイテク企業)」がS&P500やNASDAQを支配しています。中国だけが、これらアメリカの独占企業に対抗できる規模の技術的代替手段を持つ国なのです。

ですから、私たちは今「新冷戦」の中にいます。ここまででその構図は明らかです。ではラテンアメリカがそこにどう関わるのかというと——

西半球を制覇して中国封じ込めの足場にする

基本的に、アメリカの戦略はこうです。アメリカはすでに認識しているのです。たとえば、アフガニスタンから撤退しましたね。あれは20年続いた戦争で、勝てないことを悟ったからです。

そして、もうひとつアメリカが理解しているのは、いわゆる「インド太平洋地域(West Pacific)」においても同じことです。アメリカはいまでも日本、韓国、フィリピンに重い軍事的プレゼンスを維持しようとしていますが、そこはすでに主要な対立の焦点になっています。

アフリカはこの新冷戦の中ではそれほど重視されていません。ヨーロッパに関しても、アメリカは明らかに撤退の方向にあります。だからこそトランプ政権はヨーロッパに対して「安全保障はあなたたち自身の責任だ」「ウクライナ戦争もあなたたちの責任だ」と言っているのです。

つまり、アメリカが主に焦点を当てているのは2つの地域——太平洋(西太平洋)とラテンアメリカ、すなわちアメリカ大陸全体です。いまトランプは、カナダを「51番目の州にしよう」と半ば冗談のように言い、グリーンランドの植民地化についても話しています。そしてラテンアメリカも、この新冷戦におけるもうひとつの標的です。

基本的に、アメリカ帝国の戦略——これは1990年代のズビグニュー・ブレジンスキーの頃から続いているものですが——は、「アメリカ大陸(西半球)全体に対するアメリカの覇権を確立し、それを足場にして西太平洋に軍事力を投射し、中国を封じ込める」というものです。

しかしアメリカには限られた資源しかありません。そのため、ヨーロッパやアフリカのような地域は優先順位を下げられています。

いまラテンアメリカを見ると、多くの国が中国と良好な関係を築いています。中国は南米の最大の貿易相手国です。そしてメキシコを除けば、ラテンアメリカ全体でも中国が最大の貿易相手です。

もちろん、メキシコはアメリカの隣国であり、自由貿易協定(かつてのNAFTA、現在は名称変更済み)によって経済的に深く統合されています。メキシコの輸出の8割以上がアメリカ向けです。カナダも同じ構造です。

しかしメキシコ以南に行くと、中国が最も重要な貿易相手になります。貿易の推移を見れば、中国がますます重要な経済的パートナーになっており、アメリカの重要性は低下しています。

いまアルゼンチンの例を見ればわかります。現在の大統領ハビエル・ミレイは極右的で親米的な立場を取っています。彼は選挙中「中国との関係を断つ」と主張していました。しかし実際に就任してから気づいたのです——中国はアルゼンチンの最大の貿易相手であり、その関係を切ることなど不可能だということに。

それでも、米国(トランプ政権)はアルゼンチンに対し、200億ドル規模の資金支援を2回行い、合計400億ドルの流動性注入を実施しています。ひとつは米連邦準備制度(FRB)とアルゼンチン中央銀行との通貨スワップを通じて。もうひとつは、ヘッジファンド出身のスコット・ベッセント財務長官が主導し、民間資金を集めて債権者へのドル支払いを可能にする仕組みです。

そして、この支援の条件のひとつとして、スコット・ベッセント自身がインタビューで認めているように、アルゼンチンに対して中国との関係を断つよう圧力をかけています。

こうしたことは、地域全体で繰り返し起きています。そしてそれこそが、ベネズエラが標的にされている理由のひとつでもあるのです。

米国は各国を中国とロシアから引き離そうとする

ノートン:
ベネズエラは、この地域で中国に最も近い同盟国のひとつです。実際、最近では習近平国家主席がマドゥロ大統領と会談し、両国の関係を「全天候型包括的戦略パートナーシップ」へと格上げしました。これは中国とパキスタンの関係と同じレベルです。ご存じのとおり、中国とパキスタンの関係は非常に緊密であり、パキスタンは「一帯一路構想」の重要な要であるCPEC(中パ経済回廊)の中心的存在です。

ベネズエラもまた、中国にとって非常に重要なパートナーになっています。特に、米国による攻撃的な経済制裁の影響が大きい中で、ベネズエラは多くの国に石油を輸出できなくなっており、その結果、中国がベネズエラの石油の大半を輸入しています。

したがって、これは単なるベネズエラや石油の問題ではなく、より大きな地政学的戦略の一環なのです。つまり、ラテンアメリカを中国およびロシアから切り離そうとする動きです。ロシアはラテンアメリカと経済的な結びつきはそれほど強くありませんが、政治的には特にベネズエラと強い関係を持っています。ベネズエラはまた、イランとも親密です。つまり、米国が敵視している三国——中国、ロシア、イラン——すべてと密接な関係を持つ国がベネズエラなのです。

ですから、米国から見ればベネズエラは「完全な嵐」、いわば悪夢のような存在なのです。しかも、ここに石油の問題が加わります。ベネズエラには世界最大の石油埋蔵量があります。確かにその多くは「ヘビー・クルード(重質原油)」と呼ばれるもので、処理には多くの精製工程が必要です。いわゆる「ライト・スイート・クルード(軽質原油)」のように扱いやすいものではなく、たとえばサウジアラビアやペルシャ湾岸諸国が産出するような高品質原油とは異なります。しかし、潜在的な資源としては計り知れない価値があります。

さて、ここで登場するのが、先ほど言及した「ノーベル平和賞受賞者」——マリア・コリナ・マチャドです。彼女は過去何十年にもわたって米国政府から資金提供を受けてきました。少なくとも2003年以来、彼女の組織は「全米民主主義基金(National Endowment for Democracy、略称NED)」から資金援助を受けています。

NEDというのはCIAの隠れ蓑(カットアウト)組織です。NEDの共同創設者アレン・ワインスタインは、ワシントン・ポストの取材に対してこう語っています——「NEDはCIAがかつて秘密裏にやっていたことを、表向きに行うためにレーガン政権下で設立された」と。

このNEDは、クーデターや政権転覆を試みる反政府勢力への資金供給を、中国、ロシア、イラン、ベネズエラ、キューバなど、米国が「体制転換」を狙うすべての国で行ってきました。いわゆる「カラー革命(color revolutions)」と呼ばれるものです。ウクライナでは2004年と2014年にそれが起きました。ベネズエラでも2002年、2014年、2017年、2019年と繰り返され、そしていま再び同じ動きが見られます。

マリア・コリナ・マチャドは、2024年2月にドナルド・トランプ・ジュニアとのインタビューで、自分はマドゥロ政権を転覆させ、権力を握り、ベネズエラの石油を全面的に民営化し、それを米国企業に売却したいと公言しました。

シモン・ボリバルのレガシー

実際、米国の石油企業はかつてベネズエラの石油を広く支配していました。特にエクソンモービルやシェル(シェルは英国・オランダ資本ですが、西側陣営の企業です)がそうでした。

しかし1998年、ベネズエラ国民は左派ナショナリストの指導者ウゴ・チャベスを選出しました。彼は「ボリバル革命(Bolivarian Revolution)」を掲げました。

多くの人がこの「ボリバル革命」という言葉を聞くと、「ボリビアのことか?」と混乱しますが、これは南米独立の英雄シモン・ボリバルにちなんだものです。19世紀にボリバルは軍を率い、スペイン帝国と戦い、現在のベネズエラ、コロンビア、ボリビアなど複数の国を独立に導きました。ボリビアという国名も彼の名に由来します。

これらの国々はもともとスペイン帝国の植民地でした。現在の国家として存在しているのは、ボリバルの革命戦争による解放の成果です。

チャベスはそのボリバルのレガシーに深く影響を受け、「ボリバル革命」を掲げたのです。そして、国民投票によって新憲法を制定しました。有権者の約3分の2が新しい憲法の制定に賛成しました。その憲法は非常に進歩的な内容を持ち、国家の正式名称も「ベネズエラ・ボリバル共和国(the Bolivarian Republic of Venezuela)」へと変更されました。

私は何度もベネズエラを訪れましたが、どこに行ってもシモン・ボリバルの肖像画や壁画が掲げられています。彼は南米全体の「英雄」として敬われており、国の象徴的存在です。

チャベスは石油を国有化し、米国の石油企業を追放しました。以来、米国は再びベネズエラに入り込もうと必死になってきたのです。

2002年、ジョージ・W・ブッシュ政権は4月にベネズエラで暴力的なクーデターを支援しました。チャベスは一時的に失脚しましたが、彼はあまりにも人気が高かったため、国民が街頭に溢れ、彼の復帰を要求しました。

そしていくつかの要因が重なり、ベネズエラは有利な状況を得ました。ベネズエラはラテンアメリカの中でもいち早く中国と緊密な関係を築いた国のひとつだったのです。

中国とラテンアメリカ

ノートン:
最初の冷戦の時代、中国はラテンアメリカのほとんどの国と正式な外交関係を持っていませんでした。キューバやニカラグアのような一部の左派政権とは一時的に関係を結んだことがありましたが、大半のラテンアメリカ諸国は、当時米国が支援する右派独裁政権のもとにありました。

たとえばチリではピノチェト独裁政権があり、アルゼンチンにも右派軍事独裁が存在していました。これらはすべて米国の支援を受けていたのです。こうした状況全体が、いわゆる「コンドル作戦(Operation Condor)」として知られています。米国が現在の「新冷戦」でやろうとしていること——つまり地域的な覇権の確立——を、すでに当時やっていたのです。

冷戦が終結したあと、中国はいくつかの国と正式な外交関係を結び始めました。そして貿易が徐々に拡大していきました。当時の中国はまだ経済規模が小さく、輸出国としての存在感もほとんどありませんでしたが、その後、急速に発展していきました。

今日では、ラテンアメリカと中国との関係は非常に重要になっています。世界中で、いまだに中華人民共和国と正式な外交関係を結んでいない国は12か国しかありません。言い換えれば、台湾を「国家」として承認している国は12か国しかないのです。国際法上、台湾は国家として認められていません。国際連合および国際法は、「台湾は中国の一部であり、中国は一つである」と明確に定めています。香港、台湾、マカオはいずれも中国の一部です。

その12か国のうち、半分がラテンアメリカにあります。なかでも最も人口が多いのはグアテマラです。とはいえ、それでも規模としては小さい国です。ほかにハイチ、グアテマラ、ベリーズ、パラグアイなどがあります。

これらの国々の中には、最近まで台湾と外交関係を持っていた国もあります。たとえばホンジュラスはわずか2年前に正式に中国と国交を樹立しました。

とくに中央アメリカの国々は小規模で、米国の影響力が非常に強いです。政治家たちが買収されることもしばしばあります。多くの報道によれば、大統領が数百万ドル単位で金を受け取ることもあり、これは中米の経済規模では莫大な金額です。台湾当局が政治家や実業家に賄賂を渡して関係維持を図ってきたとする報道も多く存在します。

ですから、ラテンアメリカと中国の関係はまだ比較的新しいものですが、年々ますます緊密になっています。そしてウゴ・チャベスとベネズエラは、その「中国との関係強化」を真っ先に推し進めた国でした。

特に2000年代の「コモディティ(資源)ブーム」の時期、中国は年間GDP成長率10%を超える驚異的なスピードで成長していました。中国は大量のインフラ、道路、住宅、ビルを建設し続け、そのために膨大な量の資源を必要としていたのです。

このとき、ラテンアメリカは中国の主要な貿易相手となりました。ブラジルは世界最大級の鉄鉱石の輸出国であり、ベネズエラは主要な石油輸出国です。ラテンアメリカおよびカリブ海地域には、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、そしてトリニダード・トバゴなど、複数の主要産油国があります。

さらに近年では、カリブ海地域の地政学的重要性が高まっています。

2000年代の資源ブームの時代、ラテンアメリカは中国とともに大きく成長していました。しかし、その後いくつかの出来事が起こりました。

まず、2014年から2016年にかけての「コモディティ価格の暴落」です。特に石油価格が急落しました。そして価格はその後も完全には回復していません。

ベネズエラ制裁はオバマが始めた

次に、2015年から米国がベネズエラへの圧力を本格化させました。オバマ政権の時代から始まりました。人々はトランプから始まったと思いがちですが、実際には超党派の政策です。

2015年、オバマは大統領令を出し、「ベネズエラは米国国家安全保障に対する異常かつ特別な脅威である」と宣言しました。まったくナンセンスな話です。しかしこの大統領令によって、オバマは議会を経ずに制裁を発動できるようになりました。現在のトランプのやり方と同じように、大統領令を使うことで議会の承認を回避できるのです。

2015年にオバマが制裁を開始し、2017年にトランプ政権が誕生すると、ベネズエラへの圧力は一気に強まりました。トランプはフロリダ、特にマイアミの票を得るために、ベネズエラやキューバ系の保守層に迎合しました。そして現在、マルコ・ルビオが国務長官としてその政策をさらに推し進めています。

トランプ政権は、ベネズエラに対して締めつけを強化しました。あるトランプ政権高官は、制裁の効果を誇らしげにこう表現しました——「ベネズエラに対する制裁は、ダース・ベイダーの“死の握力”のようなものだ」と。つまり、経済的に窒息させるということです。

実際、この政策によってベネズエラ経済は壊滅的打撃を受けました。私はベネズエラにいたとき、ハイパーインフレーションを目の当たりにしました。トルコのインフレなど比べものにならないほどです。

なぜこうなったのか。それは米国の制裁によって、ベネズエラ経済が完全に締め出されたからです。ベネズエラは100年以上にわたり、サウジアラビアやカタール、UAEのような「石油国家(ペトロステート)」として存在してきました。つまり、産業のほとんどが石油輸出に依存し、それ以外の産業基盤は脆弱なのです。

このような国は「オランダ病」や「資源の呪い」と呼ばれる問題に直面します。資源輸出による外貨流入で通貨が過度に高くなり、国内産業が競争力を失うのです。その結果、食料などは輸入に頼り、経済全体が資源収入に極端に依存する構造になります。

チャベス以前はエリートが石油収入から利益を得ていましたが、チャベスは石油を国有化しました。チャベス政権は石油収入を使って、貧困層向けの住宅建設、教育、医療、社会福祉などを充実させました。しかしそのすべては、石油収入の継続的な流入に依存していました。

制裁がベネズエラ経済を追い込む(社会主義の失敗ではない)

そこに2つの衝撃が同時に襲いました。ひとつは石油価格の暴落、もうひとつは米国による制裁です。

制裁は段階的に強化され、2019年にはトランプ政権が全面的な経済封鎖(エンバーゴ)を発動しました。これはキューバに対する封鎖と同じレベルのものです。

さらに深刻なのは、ベネズエラのインフラが米国製の技術と設備に依存していたという事実です。たとえば、チャベスは石油産業を国有化しましたが、採掘や精製に使われていた機械や技術は、アメリカ企業が構築したものでした。いくつかの欧州企業も関わっていましたが、国産技術はほとんどありませんでした。

国有化されたのは現場の企業ですが、掘削機器やパイプ、制御装置などの「資本設備」はすべて米国製でした。

ベネズエラは米国テキサスにSITGO(シトゴ)という自国所有の精製子会社を持ち、米国南部ではシトゴのガソリンスタンドも見られました。しかし米国が制裁を科したことで、ベネズエラは設備の修理や更新が不可能になったのです。

重質原油を精製するには、軽質原油や化学薬品を輸入して混合する必要がありますが、それも制裁で止まりました。こうして制裁は、石油産業全体を麻痺させたのです。

人々は「ベネズエラの社会主義は失敗した」と言いますが、私は違うと考えます。サウジアラビアを見てください。彼らも長年、石油依存から脱却しようとしてきましたが、ほとんど成功していません。UAEも同じです。

想像してみてください。もし突然米国が彼らに重い制裁を科し、国際金融システムから締め出し、外貨準備を凍結したらどうなるでしょうか。彼らの経済は瞬時に崩壊します。

2022年、米国とヨーロッパはロシア中央銀行の資産3000億ドル相当を凍結しました。これは国際的な海賊行為そのものであり、金価格の急騰(現在4200ドル超)とドル離れ(デ・ドル化)を加速させました。

実は、同じことを2019年にベネズエラにも行っているのです。イギリス銀行はいまでもベネズエラの金準備30億ドル以上を返還していません。

ですから、もしサウジアラビアが同じように資産を凍結され、ドル取引から締め出されたら、即座に崩壊するでしょう。ベネズエラの状況はまさにそれなのです。

ベネズエラを支援したイラン

それでも近年、ベネズエラの石油生産は少しずつ回復しています。ピーク時の半分ほどではありますが、現在は日量100万バレルを超え、増加傾向にあります。

興味深いのは、その回復を支えている技術の多くが、中国やロシアだけでなく、イランからももたらされていることです。イランは1979年のイスラム革命以来、米国の制裁を受け続けてきた国です。そのため自前で石油技術を開発するしかなく、長年にわたって独自の掘削・精製技術を蓄積してきました。

イランは技術者や機器をベネズエラに派遣し、老朽化した設備の修復や近代化を支援しています。

このように、ベネズエラは新冷戦の中心的存在になっているのです。単に中国との関係だけではありません。反米的な左派政権を持つ国であり、米国が長年侵略してきたラテンアメリカ諸国の歴史を踏まえれば、米国帝国主義に対抗する姿勢は当然のことです。

米国は20世紀初頭から何度も中南米諸国を軍事的に占領してきました。たとえば私が長く滞在したニカラグアでは、1912年から1930年代まで実質的にアメリカの植民地状態にありました。プエルトリコはいまもアメリカの植民地です。パナマには1989年に侵攻し、グレナダにも1983年に侵攻しました。

そしていま、彼らはベネズエラへの攻撃を公然と口にしています。ドローン攻撃を検討しているとも言われます。

こうした背景を考えれば、ラテンアメリカ諸国が米国帝国主義を自国の安全保障上の最大の脅威と見なすのは当然です。キューバは60年以上も制裁を受け続けています。

ベネズエラは、独立した外交政策、中国・ロシア・パレスチナとの連帯、そして膨大な石油資源を持つ国です。だからこそ、ワシントンの戦略家たちにとって「最優先の標的」なのです。

そして、先ほどのマリア・コリナ・マチャド。彼女はトランプ・ジュニアとのインタビューで、自分は石油をすべて民営化して米国企業に売りたいと語りました。だからこそ、彼女がノーベル平和賞を受賞したのです。

オバマもノーベル平和賞を受賞しましたが、その後7か国を爆撃しました——イエメン、アフガニスタン、シリア、イラク、リビア、パキスタン【訳者注:7つめはソマリア】。キッシンジャーも同賞を受けていますが、彼の指揮下でベトナム、カンボジア、ラオス、バングラデシュで何百万人もが亡くなりました。彼は1973年のチリ・クーデターを支援したCIA作戦の立案者の一人でもあります。

ノーベル平和賞とは、このように途方もない偽善の象徴なのです。米国のラテンアメリカ政策は、介入と主権無視の歴史に満ちています。

麻薬取引をやっているのは米国のほう:ベネズエラではない

司会者:
さて、ベン、素晴らしい説明でした。私は本当に感動しました。歴史的背景も含め、非常に重要なポイントをたくさん挙げてくださいました。ありがとうございます。ここで、もう少し具体的な話をしたいと思います。

最近、米国海軍の艦船がベネズエラ近海に接近しており、緊張が高まっているように見えます。この状況は、米国とベネズエラの間で実際の衝突につながる可能性があるのでしょうか?

米国が新たな戦争に踏み出す可能性があるとお考えですか?

ノートン:
実際、すでに衝突は起きています。問題は、それがどこまでエスカレートするかという点です。現時点では「低強度戦争(low-intensity war)」の段階にあります。

トランプは公式には「麻薬取締りのための戦争を行っている」と述べていますが、ベネズエラとの戦争であるとは言っていません。しかし、それこそが実態です。

そしてこれは滑稽な話でもあります。なぜなら、ラテンアメリカを少しでも知っていれば分かることですが、ベネズエラはほとんど麻薬を生産していません。麻薬生産の中心は隣国コロンビアです。コロンビアは世界最大のコカイン生産国です。

つまり、トランプ政権が言う「麻薬戦争」はまったくのごまかしなのです。しかも、米国のCIAやDEA(麻薬取締局)がラテンアメリカで麻薬取引に関与してきたことは、決して陰謀論ではなく、長年にわたり複数の主流メディアや調査記者によって報じられています。

有名なのは米国のジャーナリスト**ゲイリー・ウェッブ(Gary Webb)**の調査です。彼は1980年代のいわゆる「コントラ戦争」——つまりニカラグアなど中米諸国での内戦において——CIAが「コントラ」と呼ばれる右翼の武装組織に資金を提供していたことを暴きました。

その資金源の一部が、コカイン取引によって得られたものだったのです。ウェッブは自著『Dark Alliance(暗黒の同盟)』でその全貌を明らかにしました。CIAは麻薬取引の利益を使って中米の内戦を支援し、結果的に米国国内に膨大な量のコカインが流れ込みました。特にロサンゼルスの貧困地域では、「クラック・コカイン」流行の引き金になったのです。

この事件は1980年代に大きなスキャンダルとなり、議会でも公聴会が開かれました。ですから、「麻薬と戦う」と言っている米国政府が、実際には麻薬取引に関わっていたというのは、笑えない冗談です。

コロンビアについて言えば、国連のデータでも明らかなように、コカインの大半はコロンビアで生産されています。そして、コロンビアの有力政治家の中には麻薬取引と深く関わっていた者も多くいます。

たとえば、元大統領のアルバロ・ウリベ。彼は国内で最も有力な政治家のひとりで、ジョージ・W・ブッシュ政権の親友でもありました。ウリベは「麻薬との戦い(War on Drugs)」を掲げていましたが、実際には麻薬取引と密接な関係を持っていたと報じられています。

同じことがメキシコでも起きています。メキシコの元大統領フェリペ・カルデロンの政権下で、国家安全保障の責任者だったヘナロ・ガルシア・ルナが麻薬カルテルと結託していたことが後に発覚しました。彼は「麻薬との戦い」を主導した人物でしたが、実際には麻薬を取引していたのです。この事件はメキシコ国内で大きなスキャンダルになりました。

コロンビアに戻りましょう。国連によれば、コカインの大半はコロンビアで生産されています。確かに、その一部はベネズエラを経由して出荷されます。しかし、もし本気で麻薬取引を止めたいなら、「経由地」ではなく「生産地」に焦点を当てるべきです。

そして、最終的な行き先はどこかといえば——米国とヨーロッパです。ですから、需要そのものを減らさなければ根本的な解決にはなりません。需要がある限り、供給する者は必ず現れます。

フェンタニル問題は製薬会社に責任がある

それに、いま米国国内で深刻な薬物問題を引き起こしているのはコカインではなく、フェンタニルのような合成オピオイドです。この問題の発端は、製薬会社による過剰な販売促進でした。

たとえばパーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)。この会社とその創業一家であるサックラー家は、医師に多額の金を支払い、**オキシコンチン(OxyContin)**という強力な鎮痛剤を過剰に処方させていました。これによって多くの人々が依存症になり、医師から処方が受けられなくなると、彼らはヘロインに手を出すようになりました。

化学的にフェンタニルやオキシコンチンはヘロインと非常に似ており、代替物として機能します。そして、そのヘロインの供給源の多くはアフガニスタンでした。

タリバンには多くの問題がありますが、米国軍が撤退して彼らが政権を掌握した直後、アフガニスタンでのヘロイン生産は急速に減少しました。

元米軍兵士の**セス・ハープ(Seth Harp)**は著書『The Fort Bragg Cartel(フォート・ブラッグ・カルテル)』の中で、アフガニスタンでのヘロイン取引に米軍が関与していた実態を暴露しています。

ですから、「麻薬との戦い」という名目でベネズエラを攻撃するというのは完全に茶番です。ベネズエラは麻薬取引とは何の関係もありません。これは単なる口実です。

米国は、麻薬取引を口実にベネズエラへの攻撃を正当化しようとしているのです。

トランプはマドゥロに「麻薬カルテル」の言いがかり

先ほどまで話してきたように、米国がベネズエラを標的にしている理由はまったく別にあります。

トランプ政権は最初の任期中、司法省を通じてベネズエラのマドゥロ大統領に対して刑事告発を行いました。まるで米国の裁判所が外国の国家元首に対して管轄権を持つかのように振る舞ったのです。これは前代未聞のことです。

米国以外のどの国も、自国の地方裁判所が外国の指導者を裁くなどという発想は持っていません。

同じようなことは、中国企業の**ファーウェイ(Huawei)**にも起こりました。米国は、ファーウェイがイラン制裁に違反したとして告発し、カナダでファーウェイのCFO(最高財務責任者)を拘束させました。

しかしファーウェイは中国企業であり、米国の制裁法に従う義務などありません。

ベネズエラの場合、トランプ政権は「マドゥロは麻薬カルテルの首領だ」と主張し、米国内の裁判所で告発しました。その際に使われた名前が「太陽のカルテル(Cartel de los Soles)」です。

しかし、このカルテルは実在しません。国際的な麻薬専門家たちが調査しましたが、そんな組織は存在しないのです。米国がでっち上げた虚構です。

米国政府はこの架空の「カルテル」を利用して、「マドゥロは正統な大統領ではなく、麻薬犯罪者である」という物語を作り上げようとしました。これにより、軍事介入を正当化することができるのです。

この手口は過去にもありました。1989年、米国はパナマに侵攻し、当時の指導者マヌエル・ノリエガを逮捕・投獄しました。ノリエガは長年CIAの協力者であり、麻薬取引にも関与していました。

米国はそのときと同じ筋書きを、ベネズエラに対して繰り返そうとしているのです。

しかし、国連をはじめ国際的な麻薬専門家の調査では、マドゥロが麻薬取引に関与している証拠は一切ありません。すべて虚構です。

イラク戦争と同じ、でっち上げでベネズエラに戦争をしかけようとしている米国

米国政府はいま、ベネズエラ政府と麻薬カルテルを「虚偽の関係」で結びつけようとしています。これは、かつて米国がイラク戦争を始める際に使った手口とまったく同じです。

当時、米国は「サダム・フセインはアルカイダと関係している」と主張しました。しかし実際には、サダム・フセインはアルカイダを弾圧しており、彼らから敵視されていたのです。フセインはスンニ派であり、イラクはシーア派多数の国ですが、彼は比較的世俗的な指導者であり、イスラム過激派を取り締まっていました。

それでも米国は9.11のあと、「フセインはアルカイダとつながっている」と嘘を広めました。世論調査では、当時の米国人の過半数が「サダム・フセインはアルカイダに関与していた」と信じていました。完全な虚構です。

同じことが今、ベネズエラで起きています。米国政府は「マドゥロ政権は麻薬カルテルとつながっている」と主張し、そのための物語を構築しています。

米国が「太陽のカルテル(Cartel de los Soles)」と呼ぶこの架空の麻薬組織について、
米国政府が「首脳」として名指ししている“構成員”を見てみると、それはベネズエラ政府の主要人物全員です。つまり、マドゥロ大統領とそのすべての閣僚たちが「カルテルのリーダー」だとされているのです。

このようにして、米国は「ベネズエラ政府=麻薬カルテル」という構図を作り上げ、軍事介入を正当化しようとしているのです。

これは、軍事介入を正当化するための布石です。

私はこの状況を非常に懸念しています。米国はすぐに地上部隊を派遣することはないでしょう。なぜなら、MAGA支持層(トランプの保守派支持者)は海外派兵に反対する傾向が強いからです。

しかし私は、これが直接的な軍事攻撃へとエスカレートする可能性が高いと考えています。すでに、米国は国際水域でベネズエラ人を何十人も殺害しているのです。

コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領(現職)は、この行為を強く非難しています。ペトロは、犠牲者の中にはコロンビア国民も含まれていると述べています。米国は、これらの人々が「麻薬を密輸していた」と主張していますが、証拠は一切ありません。

むしろ、犠牲者の多くは「移民」——つまり、不法移民として他国に向かおうとしていた一般市民だった可能性が高いのです。彼らは裁判もなしに殺害されています。すでに数十人のベネズエラ人が殺され、カリブ海諸国の市民にも死者が出ていると報告されています。

事態は明らかにエスカレートしています。

マルコ・ルビオの戦争

さらに注目すべきは、マルコ・ルビオの存在です。トランプ政権内で、実際にベネズエラ政策を主導しているのは彼です。

トランプ自身も2023年の選挙集会でこう発言しています。

「我々は、あと少しでベネズエラを手に入れるところだった。あの膨大な石油を我々のものにできたはずだった。」

この発言の映像は実際に存在します。

トランプはベネズエラの石油を欲しがっていますが、戦略を練っているのは100%ルビオです。彼は長年にわたり、キューバやニカラグアの「サンディニスタ政権(Sandinista)」を打倒しようと躍起になってきました。そしてベネズエラの打倒は、その集大成として彼の政治的執念の対象となっています。

ルビオは極右の亡命キューバ系勢力や、マリア・コリナ・マチャドのような急進的反政府派と極めて近い関係にあります。

マリア・コリナ・マチャド——このノーベル平和賞受賞者——は、自国の破壊を呼びかけています。

BBCが彼女を受賞直後にインタビューした際、彼女は堂々とこう語りました。

「米国軍がベネズエラに侵攻すべきです。」

これは、まさに戦争の呼びかけです。

しかし、ベネズエラ国内の反政府勢力の中にも、彼女を危険視する者がいます。たとえば、かつて大統領候補としてチャベスやマドゥロと戦ったエンリケ・カプリレスのような穏健保守派は、彼女を「過激主義者」だと批判しています。彼はこう警告しました。

「マチャドはリビアのようなことをベネズエラで起こそうとしている。」

彼の言うとおりです。もしアメリカ軍が介入し、マドゥロを暗殺すれば、ベネズエラはリビアやイラクのような内戦状態に陥るでしょう。

2011年、NATOがリビアを爆撃し、カダフィを殺害しました。地上軍は投入されませんでしたが、中央政府は崩壊しました。14年経った今でも、リビアには統一政府が存在しません。

リビアはアフリカで最も豊かな国のひとつであり、高い生活水準を誇る石油国家でした。それが、アメリカとNATOの「介入」によって完全に崩壊したのです。

ベネズエラが同じ道をたどる危険性は非常に高いのです。

私は、この状況を極めて危険だと考えています。ベネズエラで何が起きるのかを、世界は注意深く見なければなりません。

ラテンアメリカは団結して米国に立ち向かうのか

司会者:
ベン、素晴らしい洞察です。ラテンアメリカの歴史的文脈を踏まえた解説は本当に貴重です。こうした内容は主流メディアではほとんど報じられませんし、多くのアメリカ国民も知らないままです。あなたが示した数々の事例は、アメリカがいかに頻繁にラテンアメリカ諸国の主権を侵してきたかを証明しています。

さて、ここで最後の質問です。もしアメリカが本当にマドゥロを攻撃した場合、たとえば暗殺などが行われた場合、ラテンアメリカ全体はどう反応するでしょうか?
この事態は、アメリカに対して地域が団結し、中国やBRICSとの結びつきを強めるきっかけになると思いますか?

ノートン:
残念ながら、そうはならないと思います。そうなってほしいと私も願っていますが、現実はもっと複雑です。

理由は大きく二つあります。
ひとつは、地域が政治的にも経済的にも深く分断されていること。
もうひとつは、多くの国が恐怖に支配されているということです。

これは西アジア、つまり中東でも同じです。多くの国々が米国やイスラエルに抵抗できないのは、「次に攻撃されるのが自分たちではないか」という恐怖があるからです。

「次のパレスチナ」「次のイエメン」「次のイラク」「次のシリア」にはなりたくない。——その恐怖です。

イランは数少ない例外のひとつです。イランは長年アメリカの制裁を受けながらも、独立を維持しています。しかし、他の国々にはなかなか真似できません。

経済的な理由もあります。米国の制裁は非常に破壊的で、どの国もそれを恐れています。

ラテンアメリカの場合、フランス領ギアナ(南米に残る旧フランス植民地)を除けば、米軍はほぼすべての国に直接介入した経験があります。しかも一度ではありません。

私たちの生きている時代だけでも、アメリカはグレナダ(1983年)やパナマ(1989年)に侵攻しています。現在は、メキシコへのドローン攻撃まで公然と議論されているのです。

パナマについて言えば、トランプは「パナマ運河を取り戻す」と発言しました。さらに、米国の巨大投資会社ブラックロックが、香港企業が運営していた運河両端の港を買収しようとしました。トランプは「パナマ運河は中国に支配されている」と虚偽の主張をしましたが、事実ではありません。

いずれにせよ、これらの発言や動きは、ラテンアメリカ諸国を強く萎縮させています。

米国による軍事介入と制裁の恐怖

つまり、各国が恐れているのは二つです。

  1. 軍事介入の恐怖

  2. 制裁の恐怖

制裁がどれほど破壊的かは、キューバが証明しています。キューバは小さな島国で、製造業も限られています。砂糖などの一次産品の輸出に依存してきました。

しかし、60年以上にわたるアメリカの経済封鎖によって、キューバ経済は深刻なダメージを受けました。特に問題なのは、アメリカだけでなく**「二次制裁(セカンダリー・サンクション)」**によって、他国の企業までもが取引を断念してしまうことです。

たとえば、ある企業がキューバと取引すれば、その企業がアメリカの銀行システムから締め出される可能性があります。国際取引のほとんどは、SWIFTシステムを通じて米ドルで行われています。

つまり、マレーシアの銀行がブラジルの企業と取引をする場合でも、その送金はアメリカの中継銀行(Correspondent Bank、コルレス銀行ともいう)を経由します。アメリカは「自国の銀行を経由した取引はアメリカ領域に触れたとみなす」と主張し、そこに自国法を適用しているのです。

そのため、どの国も制裁対象国との取引を避けるようになります。リスクが大きすぎるのです。

これはベネズエラにも当てはまります。ベネズエラには膨大な石油があり、それを買いたい国はいくらでもあります。しかし、同じ石油は他の国からも買えるのです。

だからこそ企業は「デリスク(危険回避)」を選び、ベネズエラとの取引を避けるのです。これはキューバ、イランでも同様です。

つまり多くの国が、「自分たちは静かにしていよう。アメリカがベネズエラを攻撃しても、自分たちは巻き込まれたくない」と考えるのです。

コロンビアもそうですし、ブラジルもそうです。

大国ブラジルとBRICS

ブラジルは少し特殊です。人口は2億人を超え、ラテンアメリカ最大の経済大国であり、製造業も比較的発展しています。そのため、ある程度の独立路線を取ることができます。

だからこそ、ブラジルはBRICSの創設メンバーのひとつなのです。BRICSという名称の「B」はブラジルを指します。2009年の創設時、中心人物だったのは現在の大統領ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバです。彼は現在、当時の創設メンバーの中で唯一の現職首脳です。

翌2010年には南アフリカが参加し、BRICはBRICSとなりました。その後も拡大を続け、現在では加盟国10か国、パートナー国10か国を擁します。

BRICSは購買力平価(PPP)で測ると、世界GDPのほぼ半分を占め、人口では地球の過半数を代表する巨大ブロックになっています。

ラテンアメリカでも、BRICSへの参加を希望する国が増えています。

アルゼンチンは2023年、当時の中道左派政権アルベルト・フェルナンデスのもとで正式に加盟を承認されました。2024年1月1日に正式加盟する予定でしたが、その直前に選挙で右派のハビエル・ミレイが勝利し、加盟を撤回してしまいました。彼はトランプの親友であり、親米極右の代表格です。

ラテンアメリカの分裂

これで分かるように、ラテンアメリカは政治的に深く分断されています。

ラテンアメリカでは他の地域よりも構図がかなり明確です。
ヨーロッパやアジアでは、左派と右派の境界線が必ずしも単純ではありません。

たとえばヨーロッパには、米国やNATOに対して非常に批判的な左派の指導者たちがいます。
フランスのジャン=リュック・メランションや、イギリスのジェレミー・コービンなどです。
彼らは米国の軍事同盟やNATOの拡張に反対し、より独立した外交政策を主張しています。

一方で、ヨーロッパには右派でもNATOに批判的な指導者も存在します。たとえばハンガリーのヴィクトル・オルバンは、より親ロシア、親中国的で、NATOへの従属を批判してきました。

アジアでも状況はもっと複雑です。

しかし、ラテンアメリカの場合は事情が違います。
政治の構図がより単純で、左派=反米・親中、右派=親米・反中という傾向が非常に明確なのです。

なぜなら、彼らは多くの場合、輸出産業や米国市場と結びついた輸入業者層や一次産品輸出の利権階層を代表しているからです。彼らの経済活動は米国との貿易に依存しており、米国市場が中心なのです。

もっとも、近年はその構図にも少し変化が見られます。たとえばチリでは、右派の大統領で億万長者のセバスティアン・ピニェラが、中国との貿易を非常に盛んに行っていました。

しかしながら、大部分の右派指導者たちは依然として強く親米的です。アルゼンチンのハビエル・ミレイ、ベネズエラのマリア・コリナ・マチャド、ブラジルのジャイル・ボルソナロなどは、いずれも非常に親米的であり、強く反中国的な立場を取っています。

実際、中国問題はラテンアメリカでも政治的な争点になっています。
これは米国と同じ構図です。米国では、政治家たちが国内の問題をすべて中国のせいにする「スケープゴート化」を行っていますが、ラテンアメリカでも同様の傾向が見られます。

ブラジルでは、極右のジャイル・ボルソナロが、中国をあらゆる社会問題の原因だと非難しました。またアルゼンチンのハビエル・ミレイも、大統領選挙の際に「共産主義中国との外交関係を断つ」と主張し、中国を悪魔化しました。

しかし、実際に政権に就くと、すぐに現実に直面しました。アルゼンチンにとって中国は最大の貿易相手国であり、経済を維持するには関係を断つことなど到底できないのです。
そのため、彼も態度を軟化させ、より「外交的で均衡の取れた立場」に転じました。

つまり、左派政権は概してBRICSや中国との連携を志向し、右派政権は親米的で、米国の地政学的戦略を支持するという構図です。

しかし同時に、左派の内部にも分裂があります。
その象徴的な例が、ベネズエラのBRICS加盟問題です。

ベネズエラは長年にわたってBRICSへの加盟を望んできました。
正式な加盟申請も提出しています。

2024年にロシアのカザンで開かれたBRICS首脳会議では、
加盟国のうちブラジルを除くすべての国が、ベネズエラの加盟を承認する立場を取りました。ところが、ブラジルだけが反対したため、加盟は見送られました。

これは、ラテンアメリカの左派陣営の中にも意見の対立や不信感が根強く存在することを示しています。こうした分裂が、地域全体の団結を非常に困難にしているのです。

アフリカでも同じ構造が長く続いてきました。
多くのアフリカの指導者たちは「アフリカ統一」「汎アフリカ主義」を唱えてきましたが、
実際には内部の対立が激しく、団結は非常に難しいのです。

ラテンアメリカも同様です。あまりに多くの分断線が引かれており、それを外部の大国が巧みに利用してきました。結果として、外国勢力による「分割統治」が可能になり、地域が一致して主権を守ることを難しくしているのです。

司会者(サイラス):
本当にその通りですね、ベン。あなたの分析は圧倒的です。
ラテンアメリカの歴史的背景、内部の分裂、そして地政学的現実が非常によく理解できました。

これからもこの地域の動向を注視していきたいと思います。米国海軍の動きや、マリア・コリナ・マチャドの発言などを踏まえると、緊張はさらに高まる可能性があります。

また、ノーベル平和賞の授与にも明らかに政治的意図が見えます。マチャード氏は受賞直後から「米軍の介入を望む」と発言しましたが、その背景には、彼女の家系がベネズエラの富裕層であり、石油利権を再び米国に開放しようとする思惑があるのでしょう。

(翻訳 以上)


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