カナダ時間で10月30日(日本時間では10月31日)、上海交通大学副研究員の石田隆至さん、明治学院大学教授の張宏波さんを講師にむかえ、カナダ9条の会主催のオンライン講演会「植民地支配をいかに裁くか~新中国の対日戦犯裁判と現在的意義~」を開催しました。日本、カナダ、米国、韓国、中国、スリランカ、ラオス、コートジボワールなどから合計131名がリアルタイム参加しました。大変な関心の高さだったと思います。
この講座はカナダ9条の会が主催、協賛はNPO中帰連平和記念館、撫順の奇蹟を受け継ぐ会神奈川支部、協力は Peace Philosophy Centre, Nikkei Vancouver for Justice でした。司会はカナダ9条の会運営チームメンバーおよびPeace Philosophy Centre代表の乗松聡子が務めました。
講演会では、戦後、中華人民共和国(新中国)が行った日本人戦犯裁判を、植民地支配そのものを裁いた歴史的な試みとして捉え、その現代的意義を考えました。
冒頭で司会の乗松は、カナダ9条の会がこの講座を行う意義を語りました。カナダも先住民族の土地を奪って成立した入植植民地主義国家であることを指摘しました。とりわけ乗松の住むブリティッシュ・コロンビア州の大半は先住民族との条約が結ばれないまま奪われた土地であり、今日もその権利の回復と和解が大きな課題となっています。乗松は、先住民族の子どもたちを家族から引き離し、強制同化し虐待した寄宿学校制度や、入植者によって持ち込まれた天然痘による先住民族社会の壊滅的被害にも触れ、カナダの植民地主義は決して過去の問題ではないと強調しました。最近の動きとして、BC州議会選挙で保守党が大勝し、先住民族の権利に関する国連宣言を実施するためのBC州法(DRIPA)を廃止するという動きに懸念が高まっていること、連邦レベルではカーニー首相が先住民族指導者たちと会い、植民地主義的法律と悪名高い「インディアン法」を改正あるいは廃止する議論を始めていることに触れ、「和解」への道のりはまだまだ遠いと述べました。
そのうえで乗松は、日本も近代化の過程で侵略と植民地支配を拡大してきた歴史を振り返りました。日本が侵略の歴史を十分に反省しないまま、現在、米国とともに中国を敵視し、軍備増強と軍事演習を進めている状況を問題視し、過去の植民地支配をいかに裁き、その歴史から何を学ぶかは、現在の戦争と平和に直結する課題であると位置づけました。カナダの先住民族に対する植民地支配と日本のアジア侵略を結びつけるこの問題提起をした上で講演に入りました。
講演で、石田隆至と張宏波の二人の講師は、第二次世界大戦後に行われた東京裁判やニュルンベルク裁判などが、侵略戦争や個々の残虐行為を裁いた一方で、植民地支配そのものの犯罪性を問わなかったことを指摘しました。その背景には、国際法の形成を主導した欧米諸国自身が植民地保有国であり、植民地支配を犯罪とする法制度を作ってこなかったという問題がありました。これに対し新中国は、侵略の罪を拡張することで、軍人による虐殺や拷問だけでなく、「満州国」の行政官、司法官、警察官など、植民地統治を担った文官たちの責任も追及しました。土地や資源の収奪、強制労働、奴隷化教育、アヘン政策など、植民地支配を支えた制度そのものを犯罪として捉える「構造としての戦争犯罪」という独自の考え方を示しました。張宏波氏は、自身の家族や親戚も中国東北部で日本の植民地支配の被害を受けたことに触れ、被害者の視点から植民地支配の責任を問うことの重要性を強調しました。
新中国の戦犯裁判のもう一つの特徴は、戦犯に対する人道的な処遇と、反省・更生を重視した政策でした。約1100人の日本人戦犯が収容されましたが、1956年の裁判では死刑・無期刑の判決は一人も出されず、多くが起訴免除となりました。戦犯たちは収容中の学習や中国人被害者との向き合いを通じて自らの加害責任を認識するようになり、帰国後の1957年には中国帰還者連絡会(中帰連)を結成しました。その後数十年にわたり、日本各地で自らの戦争犯罪を証言し、侵略戦争への反省と日中友好を訴え続けました。さらに晩年には、自費や寄付によって中帰連平和記念館を設立しました。石田氏は、戦争犯罪を犯した人々自身が加害の歴史を後世に伝えるために平和博物館を設立したことは世界的にも極めて珍しく、戦犯を単に処罰するのではなく、反省と更生を通じて平和の担い手へと変えていった新中国の政策の意義を示していると説明しました。
両講師はまた、東京裁判が昭和天皇や731部隊の責任を問わず、植民地支配や強制連行などの重大な犯罪も十分に裁かなかった背景に、米国の政治的介入と冷戦体制の形成があったことを指摘しました。欧米諸国による戦犯裁判には、自らの植民地支配や戦争犯罪を不問に付しながら、日本の犯罪を裁くことで戦後の国際秩序における自国の優位を正当化する側面がありました。一方、新中国の裁判は日本で長年「洗脳」や「政治的裁判」として否定的に扱われてきました。両講師は、こうした冷戦期以来の先入観を離れ、新中国の裁判が実際に何を裁き、何を実現したのかを検証する必要があると訴えました。また、2001年の国連ダーバン会議でも植民地支配の法的責任について十分な合意が得られなかったことを踏まえ、新中国による植民地支配の裁きは、今日の新植民地主義や他国への主権侵害の責任を問う上でも重要な先例となると論じました。
質疑応答では、戦犯教育と更生の実態、裁判の政治性、帰国戦犯たちの証言活動、日本社会に残る植民地主義的な差別意識、現在の中国をめぐる問題などについて活発な議論が交わされました。最後に乗松は、米国を中心とする中国封じ込め政策や、西側メディアによる中国についての情報の伝え方にも注意を促しました。そして、日本が中国をはじめとするアジアの人々に与えた甚大な被害という歴史の原点に立ち返り、新中国が植民地支配を「構造としての戦争犯罪」として裁いた画期的な経験から学ぶことを呼びかけました。カナダの先住民族に対する植民地主義も、日本のアジア侵略も、過去の歴史として片づけることはできません。植民地支配の責任を明らかにし、その構造を克服することが、現在の戦争を防ぎ、平和と正義を実現するための課題であることを確認する講演会となりました。
★★★
この講演会をすることになったきっかけは、「平和のための博物館国際ネットワーク」(International Network of Museums for Peace, INMP)の国際会議「真実と和解を通した平和構築」が今年8月にカナダのウィニペグにあるカナダ国立人権博物館で開催され、そこでINMPの団体会員であるNPO中帰連平和記念館の発表として、石田、張、乗松が共同発表をした内容をあらためて日本語でやろうということになったのです。このカナダでの発表について、NPO中帰連平和記念館の会報に寄稿した乗松の記事をここに紹介します。
今回の講演は未発表内容も含まれるため動画の一般公開はしませんが、講演の内容はほぼ石田隆至・張宏波の共著『新中国の戦犯裁判と帰国後の平和実践』(社会評論社、2022年)に沿っていました。まだの方は、ぜひこの際この本を手に取って読んでみてください。
(以上)




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