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Tuesday, May 28, 2013

山口の中原中也記念館で出会った中村稔の詩-「駅前広場・未来風景」

3月21日、学生時代心酔した詩人、中原中也の記念館(山口:湯田温泉)を訪ねたら、福島の原発事故をテーマにした中村稔氏の詩「駅前広場・未来風景」に出会い深く心に刺さるものを感じました。未発表ということなので取りあえず書き写し、中村氏に連絡を取ってブログ掲載許可をお願いしたら、「未発表なので、どこかに発表した後に掲載していいですよ」とのお返事をもらいました。その後、「ユリイカ」6月号に発表された後にブログに転載していいとの許可をいただき、ここに紹介します。@PeacePhilosophy (リンク歓迎、転載には作者の許可が必要です。)
 
 
駅前広場・未来風景
 
中村 稔

 

ケヤキ、ナラ、コナラなどの雑木林の木陰に

昨日も今日も人間のかたちをしたものが佇んでいる。

風が吹きつけるとゆらゆらと体を揺らし

目に見えぬものを飛散しながら身じろがない。

 

じっと身じろぎもしないものに、君は誰だと訊ねたら

放射能のゴミだという、行き場のないゴミだという。

ふと気付くと、あの木陰にもそこの木陰にも

同じように人間のかたちをしたものたちが佇んでいる。

 

目ざわりだからどこかへ行ってくれと頼んだら

それらは雑木林を出て、駅へ向かって歩き出した。

町の隅々から現れてはしだいに数が増え、

駅前まで来て、これ以上行き場がないという。

 

行き場のない人間のかたちをした放射能のゴミが

駅前広場を埋めつくし、うなだれて佇んでいる。

身じろぎもせず、群れている。声もなく群れている。

駅前広場には人間はもう一人もいない。
 
 

橋下「釈明会見」は米国への迎合であり、沖縄や女性たちへの謝罪は一切なかった:石原昌家(沖縄国際大学名誉教授)

5月27日、外国特派員協会での橋下大阪市長による「釈明会見」について、沖縄国際大学名誉教授の石原昌家氏(平和学)のコメントを紹介します。
日本維新の会の橋下徹大阪市長は、2013年5月1日、沖縄へ乗り込んできて普天間基地の辺野古移設の推進を言明した。それは沖縄の世論を、敵対するかのように完全無視し、米国政府に媚びを売り、迎合する姿勢を鮮明に印象づける行為であった。その迎合姿勢は、米軍司令官に勧めた「性風俗業」利用については、その発言を撤回し、「謝罪を米軍と米国民のみなさまが受け入れてくださいますことを願います」とわびた行為と、まったく同一である。というのは、沖縄県民や女性たちへの謝罪はいっさいしていないというところに、沖縄をただ単に日米の軍事基地として、風俗業で働く人たちを「モノ」としてしかみていない、姿勢が一貫しており、今回の釈明は、沖縄の世論にはとうてい受け入れられるものではない。 

以下、Shingetsu News による橋下釈明会見のハイライトと、糸数慶子、谷岡郁子両参議院議員による反論。英語字幕付き。谷岡氏の反論は英語。


Monday, May 27, 2013

『沖縄の〈怒〉日米への抵抗』(法律文化社刊)出版記念シンポジウム 沖縄と東京で開催 鳩山元首相からコメントも

『沖縄の〈怒〉 日米への抵抗』(法律文化社)共著者、ガバン・マコーマック氏とともに沖縄と東京でシンポジウムに参加してきました。

沖縄では5月20日(月)、「沖縄の平和創造と人間の尊厳回復を求める100人委員会」主催、沖縄国際大学にて公開シンポジウム「沖縄の〈怒り〉をどう伝えるか」が開かれました。本のインタビュー章に登場する8人の沖縄の方から、与那嶺路代、宮城康博、知念ウシ、吉田健正、浦島悦子各氏にご発言いただきました。マコーマック氏と私(乗松)からは、この本の英語版、今回の日本語版を出版するに至った経緯と意義、世界への発信の重要さなどを伝えました。私が例年通訳・スタッフとしてかかわっている日米学生の広島長崎への旅の米側の引率教授、ピーター・カズニック氏との共作ドキュメンタリー・本が話題を呼んでいる映画監督オリバー・ストーン氏に、広島と長崎、東京に来てもらい、そして沖縄にも足を伸ばしてもらう計画についても触れました。

東京では5月24日(金)、日本語版を出した法律文化社の編集者等「平和を考える編集者の会」主催、文京区民センターにて「沖縄の〈怒〉 刊行記念シンポ いま、沖縄『問題』を考える」を、ゲストとして高橋哲哉氏、知念ウシ氏を迎え、沖縄についての発信力を持つ編集者、ジャーナリスト、報道関係者、運動家、学者、教育関係者など約50人対象に行いました。

以下、二つのシンポについての報道と、この本に寄せられた鳩山元首相のコメントをご覧ください。(奇しくもこの投稿をしている5月28日は2010年元首相が辺野古移設回帰の日米共同声明をした「鳩山降伏の日」の3周年!)

この二つのシンポについては5月29日琉球新報掲載のコラム「南風」でも報告しました。
沖縄の「怒」を日本へ http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-207285-storytopic-64.html

@PeacePhiosophy 乗松聡子

★この本についての書評は、以下リンクをご覧ください。『琉球新報』(比屋根照夫)、『沖縄タイムス』(天木直人)、『週刊金曜日』(木村朗)、沖縄オルタナティブメディアの西脇尚人氏、『月刊ふれいざー』(黄圭)。関連インタビューはマコーマック乗松。英語版への書評はThe Japan Times (Jeff Kingston), Foreign Affairs (Andrew. J. Nathan), オーストラリアのシンクタンク Lowy Institute (Hamish McDonald).

5月21日 琉球新報より。




5月26日 琉球新報より

基地問題、発信が重要 マコーマック氏ら議論
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-207138-storytopic-1.html
 
 
24日の東京でのシンポジウムでは、鳩山由紀夫元首相から法律文化社に届いたこの本の第五章「鳩山の乱」へのコメントも発表しました。以下紹介します。
 
(鳩山氏コメントここから)
 
「鳩山の乱」(沖縄の〈怒〉)を読んで
鳩山由紀夫
 正直に申し上げて、ウィキリークスの公開した文書を含めて、私自身の知らなかった事実もあり、よくここまで調べ上げたものだと感心しました。
 私はオバマ大統領はもちろん、アメリカ側の誰からも、直接に「辺野古に戻せ」と求められたことはありませんでした。20091217日のクリントン国務長官とのコペンハーゲンでの会談で、「普天間飛行場を辺野古に移転する案の代替案についての再検討が実効可能な案に結実しなかった場合は、日本政府は2006年の普天間移設合意に立ち戻ると確認した」と薮中次官がルース大使に伝えたようですが、このような確認をした事実はありません。大体、クリントン長官とは会談ではなく、歓迎宴でクリントン長官とは同じテーブルで隣り合わせになったので、最終判断を5月末まで延ばしたことを踏まえて、「このまま無理に決めても結果的に辺野古は無理である。新たな選択肢を考えているので、暫く待ってほしい」と長官に申し上げたのです。薮中次官は同じテーブルではなかったので、このやり取りは全く聞いてはおりません。したがって、鳩山自身が2009年末に半ば諦めて辺野古を容認していたということはありません。ただ、この一件でも明らかなように、鳩山の意向とは裏腹に、外務省、防衛省の官僚たちは「最後は辺野古しかない」とのメッセージをアメリカ側に送り続けていたことは事実でしょう。
 私は直接に恫喝を受けた覚えはありませんが、「沖縄政策を変えるな」、「インド洋から撤退するな」、「東アジア共同体構想はけしからん」と、アメリカのいわゆるジャパンハンドラ―と呼ばれている方々を中心にさまざまな恫喝まがいの言葉が鳩山政権に対して投げかけられていたことをあらためて理解しました。しかしそれは交渉の相手側のことであり致し方ないとして、本来ならば日本側に立ってアメリカと交渉すべき日本の関係閣僚や官僚たちがおしなべて私の性格批判を含めて、「最低でも県外」を推し進めることをサボタージュしていたことに対して、しっかりとした手を打てなかったことは、私の戦略性の欠如であり、意志の薄弱さであったと誠に申し訳なく思っています。
 結果として「茶番劇」となってしまい、日本の「二度目の敗戦」をもたらしてしまったことで、特に沖縄のみなさまに〈怒〉を与えてしましましたことをお詫びします。しかし、「鳩山には日本に対するビジョンがあった」と書いていただき感謝します。現在の日本にはビジョンがなく、アメリカ依存症がさらに強まった感すらいたします。私どもの取るべき道は、徒に尖閣などの領土問題で緊張を高め、慰安婦問題などの歴史認識で挑発を続け、だから日米同盟を軍事的に高めることは必然だと言うのでしょうか。それとも、東アジア共同体構想を前進させ、領土問題や歴史認識に関して合意を目指す努力を行い、緊張を緩め、日米同盟は多角的に進化させつつ、沖縄を中心として米軍基地の負担を軽減させていく道を選ぶべきでしょうか。安倍政権は前者の道を求めているように見えます。私は後者の道を日本は歩むべきであると強く信じています。日本が正しい道を歩み始めたとき、沖縄の〈怒〉は〈喜〉に代わって行くに違いありません。
 
(鳩山氏コメント ここまで)
 
 
 
 

Sunday, May 19, 2013

比屋根照夫氏による『沖縄の〈怒〉 日米への抵抗』書評(琉球新報)

5月20日琉球新報に掲載された、琉球大学名誉教授比屋根照夫氏による書評を紹介します。

追記:ウェブ版にもありました。
沖縄の〈怒〉日米への抵抗』 「属国」関係打破する闘い - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-206783-storytopic-90.html

Sunday, May 12, 2013

歴史誤認識に満ちた「主権回復の日」式典 (沖縄タイムス記事)

2013年5月9日『沖縄タイムス』に掲載された拙稿を許可を得てここに転載いたします。 字が読みづらい場合、画面をクリックして、画像を拡大するなどしてご覧ください。@PeacePhilosophy

Saturday, May 11, 2013

長崎「平和宣言」起草委員会:過半数から出た改憲への懸念を「ひとつの」意見と見なした市長



2009年8月9日長崎の式典(撮影 乗松聡子)

平和のための漫画を描き続けている西岡由香さんは、長崎平和宣言起草委員会の一員。西岡さんより、5月11日に開かれた、2013年第一回目の起草委員会の様子の報告がとどきました。下記ご覧ください。日本の現状についてのたくさんの賢明な意見が出ています。

関連報道: 長崎新聞「平和宣言文の起草委初会合」
http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kennaitopix/2013/05/12092724010345.shtml

報道にもあるように田上市長は出席者12人のうち8人から出た憲法改変への反対を、「一つの候補として検討していくことになる」と、「一つ」扱いしている。これは事実上の「国防軍」容認発言であろう。長崎の平和宣言文は、核兵器はいけないとしながらも戦争は容認というスタンスを世界に示すのであろうか。福島で高汚染地の子どもたちが放置されている状態に目をつぶりながら訴える「反核」とは一体何なのか。そして、世界一の核兵器大国との軍事同盟を容認しながら核兵器に反対するという矛盾にどう向き合うつもりなのか。これらは長崎に限らず、日本の「反核兵器」コミュニティ全体が対峙しなければいけない問題ではないだろうか。@PeacePhilosophy

【起草委員会報告】

今年第一回目の起草委員会、15人の委員のうち3人が欠席で、12名参加でしたが、ほとんどの方が口にされたのは、先日の「NPT再検討会議準備委員会」で「核兵器の非人道的影響に関する共同声明」に日本政府が署名を拒否したことへの批判でした。田上市長は「理解できない」。他にも「正気に返ってほしい」、「被爆者、被ばく者を踏みにじる出来事が続いている」という声も。

憲法改正への危機感を語られたのは8人。「96条を改正し、敷居を低くしているが狙いは9条。また、改正案前文からは過去の戦争へのスタンスがすっぽり抜け落ちている。簡単に歴史を
忘れて良いのか?」「最近のニューヨーク・タイムズは3度にわたって“ナショナリスト安倍”と批判記事を載せている。内容は「戦争讃美」「慰安婦問題」への反省がなく、中韓激怒は当然、アメリカも快く思っていない、という内容」「憲法改正は長崎市の平和憲章とも反する」「9条が変われば非核3原則もなくなるおそれがある」など。

特に、被爆者の谷口すみてるさんは、マイクを握って開口一番「日本は、昔は5年おきに戦争をやってきた。それに歯止めをかけたのが9条。いま、憲法を変えるべきではない」「原爆の内部被爆は発表されなかった。福島も、内部被ばくは発表されない。どういうことなのか?原爆投下から68年、今まで以上に大きな声で訴えなければ」と、時おり咳こまれながら話されました。去年まで、短い発言だったのですが、今年は長い時間マイクを握られて、その一語一語からもどかしい思いがほとばしるようでした。

原発の再稼働反対、などについての発言ももちろんあったのですが、戦前のようなキナくさい空気への警鐘が多かった気がします。「在留外国人への批判は、かつては表だって言えなかったが、いまは偏狭なナショナリズムがあふれている。まわりを皆、敵のように見る風潮に対して、それはやめるべきだ、と言うことも必要なのでは」「未来の人たちに対して我々はどんな責任を取れば良いのか?」「日本政府に文句を言っているが、そういう政府を選んでいるのも私たち自身、内から変えていくことも大事」「北朝鮮を糾弾するだけでは解決にならない」などなど。

一昨年は原発事故、去年は核兵器の非人道性、今年は憲法やナショナリズム、原発事故から2年しかたっていないのに、社会の動きが目まぐるしくて、洗った洗濯物が乾かないうちに、次の洗濯物に埋もれそうな感じです。3.11以降、この国では時間の速さが変わってしまったかのようです。

西岡由香

Thursday, May 09, 2013

NYT記事:原発の汚染水こそ目下の危機 Flow of Tainted Water Is Latest Crisis at Japan Nuclear Plant


 福島第一原発での「地下貯水タンク」の放射能漏れが報道され、しだいにこれがタンクとは名ばかりのビニールプール、あるいは液体を溜めることさえできないゴミ処分場も同然のものだったことが明らかになった。日本の報道はここでストップしてしまったように見え、今はトーンダウンしている。しかし、そもそもなぜこのような状況になってしまったのか、汚染水の増加が止まらないのはなぜか、ビニールプールに放射能汚染水を入れるのは誰が決めたことだったのか?
 ここに紹介するニューヨーク・タイムズの記事には、密室で隠れて事を進める東電と政府の泥縄式のやり方が、次から次へと失敗を招いている、憂うべき現状が見えている。
(前文・翻訳:酒井泰幸)

原発の汚染水こそ目下の危機 Flow of Tainted Water Is Latest Crisis at Japan Nuclear Plant
 世界で2番目に深刻な核災害となった3連メルトダウンから2年後、福島第一原子力発電所は新しい危機に直面している。高い放射能をもった廃水があふれ出し、作業者たちはこれを収拾しようと格闘している。

 破壊された原発の原子炉建屋に、地下水が毎分 284リットル近くも流入している。重要な冷却システムが水没しないように、流入した地下水を汲み出しているが、それは高濃度に汚染されている。絶え間なく流れ続ける放射性廃水を封じ込めるために作業者の一団は苦闘しており、頼みの綱は17ヘクタールの駐車場や芝生に立ち並んだ、銀色や灰色の大きな貯蔵タンクである。ここにはオリンピック競泳プール112杯分に相当する汚染水が溜まっている。

 しかしこのタンクをもってしても、原発にあるストロンチウムを含んだ大量の汚染水を対策するには足りない。このことが、2011年の核災害の規模の大きさを象徴するとともに、批判者たちの目には、この原発を運営する企業と規制監督官庁の場当たり的な意志決定の象徴と映る。この問題の深刻さから、原発を運営する東京電力は敷地の南端にある小さな森林を伐採し、あと何百ものタンクを設置する場所を作ろうと計画している。あふれ出る汚染水に対処するために建設された地下貯水槽からの漏洩が、ここ数週間で明らかになったため、タンクの増設は急務となった。

「食べていようが眠っていようが仕事していようが、汚染水は分単位で増え続けている。常に追われているように感じるが、一歩先を行くように最善を尽くしている」と東電の広報担当オオノ・マサユキ部長は語った。

 東電がなんとか一歩先を行っている間にも、貯蔵場所が間もなく無くなるという脅威は長引き、それは東電自身も非常事態と呼ぶ状況へと発展し、溜まった大量の汚染水は、いまにも海岸の原発から太平洋に漏れ出る不安をかき立てる。

 この困難な状況と、別の補助冷却システムが止まった29時間の停電をはじめとする一連のお粗末な事故は、ある由々しき事実を際立たせた。メルトダウンから2年がたっても、惨事の火蓋を切ったのと同様の大きな地震と津波に対して、この現場は脆弱なままだということだ。

 事故直後の絶望的な数ヶ月に比べれば、溶融した炉心を安定的に冷却するため奮闘した作業者のおかげもあって、炉心の温度は下がり福島原発の危険は下がったことは言うまでもない。

 しかしこの原発の安全システムや対策工事は仮設のままであり、まだ事故の危険を抱えていると多くの専門家は警告する。

 壊れた炉心に注水する応急の循環冷却装置は、ポンプ、フィルター、それに4キロメートルにわたって原発敷地をはい回るパイプが、迷路のように繋がったものである。 また使用済み核燃料を保管するプールは壊れた原子炉建屋の5階に宙ぶらりんになったままで、東電は燃料棒を安全な場所に移そうと苦闘している。

 新たに組織された監視機関である原子力規制委員会の委員長で、長年にわたり原子力を推進してきた田中俊一氏が、貯水槽からの漏洩を公表した後で、「事故の再発を防げない恐れがある」と記者に語ったことを見ても、この状況は憂慮すべきものだと言える。

 メルトダウン前に発電所を操業していた会社に事故処理を任せることによって、日本の指導者は、関係者だけが支配する事故前の既成事実へと逆戻りする道を開いてしまったと、ますます多くの政府官僚や顧問が指摘するようになった。

 チェルノブイリ以後最悪の原子力災害の事故処理が、非常に複雑な作業であることを認める多くの科学者でさえ、この汚染水危機は、東電が一貫した方針もないまま次から次へと発生する問題に当てもなく対処していることが、またしても露呈しただけではないかと恐れている。

 「東電には明らかに毎日が綱渡りで 、明日のことを考える時間はなく、まして来年のことなど言わずもがなだ」と、原発事故処理のロードマップを策定した委員の一人である原子力専門家のイノウエ・タダシ氏は語った。

 しかし不安材料は東電だけにとどまらない。事故前のどの監督官庁よりも厳しく日本の原子力産業を監視している原子力規制委員会は今、たった9人の監査官で3千人以上もいる福島の作業者を監督している。

 また政府が事故処理を監督するために作った独立の委員会は、原子力の推進を担当している経産省や、東芝や日立のような原子炉メーカーをはじめとする産業関係者でいっぱいである。福島原発がどうして汚染水で溢れかえることになったのかという話は、原子力安全にかかわる意志決定を産業関係者任せにする危険が今も続いていることへの警鐘だと、批判者たちは語っている。

 東電と政府が2011年末に福島原発の廃炉について現在の計画を立てたとき、すでに地下水の問題は指摘されていた。福島原発は近くの山脈から海へと流れる地下水の通り道に位置しているのだ。しかし批判者たちによれば、意志決定者たちは汚染水を浄化して処分するまでのあいだ貯蔵しておくことができると決め付け、この問題にあまりにも低い優先順位しか与えなかった。

 政府の事故処理計画立案に関わった人々によると、外部の専門家なら汚染水の問題を予測したかもしれないが、事故処理の専門知識が豊富な専門家や企業を招き入れる要請を東電と政府は門前払いし、馴れ合いの原子力産業だけで原発を支配する方を取った。

 廃炉計画の策定に関わった原子力規制専門家によれば、水が原子炉やタービン建屋に侵入するのを防ぐため地下20メートルに達するコンクリートの遮水壁を建設する提案も東電は拒否し、経産省はこの問題で圧力をかけることはなかった。

 そのかわり東電は、プラスチックシートと粘土で防水した地下貯水槽を大急ぎで建設するなど、その場しのぎの計画修正を行い、結局は水漏れを起こしてしまった。

 この監督官庁が政府の事故処理監視委員会の一員に加えられたのは、漏洩が見つかった後のことだった。

 しかし最大の問題は、ストロンチウムを始めとする62種類の放射性微粒子を除去できる強力な新しい濾過システムが設置されれば、いずれ汚染水を海に廃棄することができると、東電など監視委員会の委員たちは最初からずっと信じているように見えるということだったと、批判者たちは語る。

 この廃棄計画が頓挫したのは、専門家なら予測できた問題だった。トリチウムに対する大衆の抗議である。トリチウムは比較的弱い放射性同位体で、これを水から除去することはできない。

 トリチウムは人体に取り込むと有害で、通常運転中の原発から定常的に環境へ放出されているが、福島の汚染水には健全な原発が平均的に放出する量の約100倍のトリチウムが含まれていることを、東電さえも認めている。

 「我々は燃料棒と溶融した炉心のことに気を取られ、汚染水の問題を軽視していた」と、東電の当初の事故処理計画の策定に関与した政府機関である、日本原子力委員会の委員長代理、鈴木達治郎は語った。「原子力産業の外部の人間なら汚染水問題を予見できたかもしれない。」

 東電は、増加する地下水の問題への対処を誤ったという批判に耳を貸さず、安全に流入を食い止める唯一の方法は、損傷した原子炉建屋の亀裂を塞ぐことだと主張している。このためには、強い放射能に汚染された建屋に立ち入り、深さ1メートル以上の猛毒の水に浸かって作業する必要があるので、亀裂を塞ぐことができる会社は世界中どこにも無いと、東電は主張する。

 「この原発を運転しているのは我が社であり、他の誰よりも良く知っている」と東電広報担当のオオノ氏は語った。そして彼は涙を見せ「我が社が起こしたこの惨状を修復することだけが、社会での信用を回復する唯一の方法だ」と付け加えた。

 今のところ、ゴールは遙か彼方にあるように見える。2011年に東電が放射能汚染水を太平洋に投棄したとき、東電がこれを公表しなかったことも影を落としているが、トリチウム汚染水を海に廃棄する計画に対する大衆の抗議の激しさに、安倍晋三首相は先月、「安全ではない放出はしない」と語って、この問題に自ら介入せざるを得なかった。

 そうしている間にも、原発敷地内に溜まっている汚染水の量は増え続けていく。

 「これを海に捨てる前に国民の承認が必要だということに、なぜ東電は気付かないのだろうか」と、東京大学の政策専門家である諸葛宗男は語った。彼は事故処理を行う専門の会社を設立することを呼びかけた。「この全てが、東電が陥っている問題の深さを、まさに証明している。」


(東京からの報告をイノウエ・マキコが、ワシントンからの報告をマシュー・L・ウォルドが執筆した。)

Monday, May 06, 2013

『沖縄の〈怒〉-日米への抵抗』の書評: 『沖縄タイムス』、『月刊ふれいざー』

『沖縄の〈怒〉-日米への抵抗』の書評が『沖縄タイムス』(評論家 天木直人氏によるもの)と、カナダ西海岸の日本語月刊誌『ふれいざー』(黄圭Hwang Kay 氏によるもの)に出ましたので紹介します。@PeacePhilosophy