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Saturday, October 16, 2021

「産業遺産情報センターを嗤(わら)う」:新海智広 (「岡まさはる記念長崎平和資料館」ニュースレターからの転載)Japanese Government Denies the History of Forced Labour despite the UNESCO Recommendation: Tomohiro Shinkai, Oka Masaharu Memorial Nagasaki Peace Museum

 長崎の「岡まさはる記念長崎平和資料館」のニュースレター「西坂だより」第103号(2021年10月3日)の巻頭言記事を、許可を得て転載します(文中のリンクは転載者による)。産業遺産情報センターには私も昨年行きましたが、端島(元軍艦島)の元島民と名乗るガイドが、あからさまに、韓国の人たちのことを「あの連中」と呼び、「韓国は嘘つきだ」と言い、『軍艦島に耳を済ませば』(長崎在日朝鮮人の人権を守る会 編)の本の内容も嘘だと否定していました。日本政府の施設における案内員が、隣国に対してこのような言葉遣いをすること自体が外交上の無礼だと思いますが、それ以上に、本来、「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録において、強制動員の歴史も含む「全体の歴史」を展示し、犠牲者を記憶する施設を作るという約束の上に登録を果たした日本政府が、当の施設で180度真逆の歴史否定・強制動員犠牲者・被害者の傷に塩を塗るような展示と言説を繰り広げていることについてはもう「恥ずかしい」の一言です。新海さんの締めくくりの文「日本政府が過去に真摯に向き合い、端島を含む『明治日本の産業革命遺産』が、関係諸国との対立ではなく、和解の場となり、真に人類共通の普遍的価値を有するものとなることを心より望む。」に共感し、一人でも多くの方にこの文を読んでもらいたいと思います。(@PeacePhilosophy 乗松聡子)


産業遺産情報センターを嗤う


NPO法人岡まさはる記念長崎平和資料館 副理事長 新海智広


ユネスコ、日本政府に「強い遺憾」

 今年7月22日、ユネスコ世界遺産委員会は、2015年に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」(以下、『明治日本の産業革命遺産』)に関する決議を採択した。6月にユネスコから派遣された専門家が、東京にある産業遺産情報センターを視察、その報告書に基づくもので、日本の対応に「強い遺憾」を表明するという異例の決議であり、メディア各社も大きくとりあげた。新聞各紙の見出しを見てみよう(いずれもウェブ版・2021/07/22-23)。

世界遺産委、日本に改善要求決議 軍艦島の展示めぐり」(朝日新聞)

軍艦島の『説明不十分』、ユネスコ世界遺産委が決議採択…朝鮮半島出身労働者巡り」 (読売新聞)

『軍艦島』の戦時徴用の歴史、日本側の説明『不十分』ユネスコ」(毎日新聞)

軍艦島巡り『強い遺憾』採択 世界遺産委」(日本経済新聞)

 見ての通り、どの記事も例外なく「軍艦島」(端島)の名をあげて決議を報じている。ユネスコの決議は「明治日本の産業革命遺産」とその情報発信を行っている産業遺産情報センターに対するものである。「明治日本の産業革命遺産」23ヶ所の構成資産の1つに過ぎない「軍艦島」を、メディアがことさら強調するのには理由があるが、まず何が問題となっているのか、ことの経緯を整理しておこう。


2015年 世界遺産委員会での日本政府の声明

 2015年ドイツのボンで第39回ユネスコ世界遺産委員会が開催された。この時「明治日本の産業革命遺産」の審議に際し韓国政府から、日本が登録しようとしているいくつかのサイトでは朝鮮半島出身者が強制動員され、死亡者も出ていると異議申し立てがあり、審議は紛糾した。最終的に、日本政府が次のような声明を発表することで、韓国側も賛同し、登録に至った。

・「『各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること』との勧告に対し、真摯に対応する」

・「日本は、1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」

・「日本は、インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切 な措置を説明戦略に盛り込む

 (外務省websiteより・下線は引用者による)

総務省ビル1階に開設されている産業遺産情報センター。
1日最大15人しか見学できない(2021年4月筆者見学時)
 この時に表明したインフォメーションセンターの具現化が、新宿区総務省のビル内に開設された産業遺産情報センター(以下、情報センター)である。情報センターは、加藤康子氏を専務理事とする一般財団法人・産業遺産国民会議が、調査研究と運営を日本政府より受託しており、2020年6月15日より一般公開された。しかし情報センターが公開されると、ただちに国内外から厳しい批判の声があがった。韓国は外交部報道官声明で「ユネスコ世界遺産委員会の勧告と日本政府が約束した措置が全く履行されていない」「センターの展示内容のどこにも犠牲者を追悼するための努力が見受けられず懸念と失望を禁じ得ない」(聯合ニュース2020.6.15)と指摘した。筆者もコリアネットに拙文を寄稿させてもらった(2020年7月1日発行 西坂だより98号「何の、誰のための『産業遺産情報センター』なのか」参照)。しかしその後改善が全く見られないまま1年が経過し、今回のユネスコ関係者による情報センターの視察、そして最初に述べた世界遺産委員会での「強い遺憾」を表明する決議採択となったわけである。


情報センターの展示内容

 情報センターは、3つのゾーンにより構成されている。ゾーン1は導入部、ゾーン2はメインとなる展示で、「幕末から明治にかけてわずか半世紀で産業国家へと成長してゆくプロセス」(情報センターwebsiteより)が示されている。このゾーン2の展示にも多くの問題がある(例えば吉田松陰を『工学教育の必要を説いた』とし、松下村塾を産業革命遺産に加えるなどは牽強付会も甚だしい)が、最も批判が集中したのはゾーン3である。

「ゾーン3」の展示
産業遺産情報センター公式ウェブサイトより

ゾーン3は「資料室」となっているが、実質的に「端島コーナー」と言うべき内容で、壁一面に十数名の端島元島民の写真が大きく引き伸ばされ、展示されている。ここは、2015年の世界遺産委員会で日本政府が発した声明を履行するための場とも言えるのだが、しかしそれは強制労働などの苦難を示し、犠牲者を悼むものでは全くない。逆に、端島元島民の口を借りて、強制動員や強制労働を否定し、端島が家族的な一体感あふれる「炭坑コミュニティ」で、朝鮮人や中国人に対する差別や虐待はなかったとしているのである。端島を前面に押し出しつつ、「明治日本の産業革命遺産」全体における強制動員や強制労働を否定するデザインとしていると言うこともできる。


朝鮮半島出身者「等」の意味するもの

 ここでもう一度、2015年の世界遺産委員会での日本政府の発言を再確認しておこう。「1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」ことを「理解できるような措置を講じる」と日本政府は約束した。ここで「朝鮮半島出身者」ではなく、「朝鮮半島出身者等」(Koreans and others)と発言していることは極めて重要である。「others」は、この文脈では中国人及び連合軍捕虜を指すとしか解釈できない。つまり朝鮮半島出身の労働者ばかりでなく、「厳しい環境の下で働かされた」中国人や連合軍捕虜の存在を日本は認めているし、彼らに関しても「理解できる措置を講じる」ことを、日本は国際会議の場で約束をしたことになるのである。

 情報センターのゾーン3では、「法令ならびに行政文書」や「政府ならびに関係団体、企業の文書・記録」「証言」等を収集・展示することが当該websiteに明記されており、事実、朝鮮人の「徴用」関連の法令等の展示は(1939年からの『募集』を含めていないなど極めて不十分ではあるが)一応、示されている。

 さて、それでは「明治日本の産業革命遺産」のうち、高島・端島など5ヶ所のサイト関連に4,187人が連行され、労働を強いられた中国人に関してはどうだろうか。1942年11月東條内閣による閣議決定、1944年2月次官会議決定などの公文書は、中国人の連行を日本政府が主導した事実を示す史料として欠かせない。加えて、敗戦後に政府の指示により、中国人を使役していた企業が作成した「事業場報告書」には、連行された中国人全員(端島であれば204人)の、名前や公傷病・死亡等の状況が記載され、更にはこれを元に作成された「外務省報告書」も存在する。朝鮮人労働者のケースと比較して、連行や労働現場の状況に関する公的な、あるいは企業関連の資料は豊富であると言えるだろう。ところが、これら基本資料と言えるものすら一切、情報センターでは示されていない。「明治日本の産業革命遺産」のサイト全体で、合計5,100人以上が強制労働に就かされたと推定される連合軍捕虜関連の資料の提示も皆無である。

 繰り返しになるが、日本政府はユネスコ世界遺産委員会から「各サイトの歴史全体について理解」できるような説明を、との勧告を受け、「真摯に対応する」ことを表明した。情報センターは、朝鮮人労働者はもちろんのこと、中国人や連合軍捕虜(『others』)に関する説明責任も負わされている。にもかかわらず現実には、情報センターのすべての展示から、中国人や連合軍捕虜の強制労働の記述どころか、彼らの存在そのものを、恣意的に、きれいに消し去っているのである。


「証言」の扱いの恣意性

 情報センターの、こうした資料選択の恣意性が最もよく現われているのが、「証言」に関してだろう。ゾーン3内では文字化した証言のパネル展示と、ブースでの証言映像の視聴という、二通りの提示がなされており、いずれも端島関係者のものである。

 証言の収集と記録化は、文書記録として残されていない歴史の空白を埋めるものとして尊重されるべきであり、筆者もオーラル・ヒストリーの重要性を認めることにやぶさかでない。しかし、この情報センターでの証言の扱いには、以下のような問題がある。

 まず、端島での労働体験を語る証言者として採用されているのはすべて日本人であり、朝鮮人や中国人のものは一つもない。韓国からの異議申し立てに応える形で、情報センターが開設された経緯を考えれば、朝鮮人労働者の証言が採用されてしかるべきだが、全くないのである。日本政府より調査研究を受託した、加藤康子氏・産業遺産国民会議にその意思があれば、韓国へ渡り、生存者から証言を直接聞くこともできたし、あるいは韓国内の調査研究機関を通じての調査も可能であった。しかし実際には、そのような強制動員被害者の声を聞くための調査活動は、行われなかった。

 

端島の体験を語る中国人・李慶雲氏(岡資料館の展示)
次に、採用された証言のほぼすべてが、強制労働や虐待、差別などを否定するという意図をもって切り取られ、用いられている。端島(だけではないが)へ連行され強制労働に就かされた朝鮮人や中国人の証言は、これまで多数の記録が残されているが、情報センターは、そうした記録の一部を端島元島民に示し、彼らの反論・否定・疑義の声を「証言」として採用しているのである。

 例えば、岡資料館でもコーナーを設け展示している徐正雨氏は、14歳で端島へ連行されており、当時のことを1983年に現地の端島で証言している。

「徐正雨さんの生涯」コーナー(岡資料館の展示より)

その徐氏の証言の一部、「掘削場となると、うつぶせで掘るしかない狭さで」との発言を取り上げ、「寝てこうするっていうとこはない。しゃがんでするというとこがおかしい」「ほとんどがもう12尺とか8尺とか、尺が高いからね」と端島元島民が反論する。暴力を受けた、あるいは仲間がひどい暴力にさらされるのを見た、という証言は数多いが、これに対しても「虐待だとか、強制労働だとか、そういう話は聞かないです」「集団でリンチしたりなんかすることはなかったやろうと思う」「そういう話を聞いたことがないですね」と、否定する、という具合である。

 このように、情報センターの展示や映像に接するものは、朝鮮人や中国人の証言を、端島元島民によって常に否定・反論されるネガティブな、疑わしいものとして認識させられることになる。

 つまり、2015年のユネスコ世界遺産委員会で、韓国から朝鮮半島出身者が過酷な強制労働に就かされたではないか、と指摘され、日本政府はインフォメーションセンターを設置してそうした情報を伝える、と約束した。しかし実際には情報センターでは、端島元島民の口を借りて「韓国の主張するような実態はなかった」と主張しているのである。

 言うまでもないことだが、虐待や差別を見たことがない、という証言をいくら示したとしても「虐待・差別はなかった」ことにはもちろんならない。現実には虐待・差別に関する証言は日本人のものも含め存在する。戦時下の強制動員や強制労働、それに伴う非人道的な扱いに関しては、既に学問的な知見の蓄積がある。それらを無視し、ある人物が強制労働を「見ていない」ことを根拠として、強制労働は「なかった」と主張しようとするのは、学問ではなくお粗末な印象操作と言うよりほかはない。


詐欺に等しい証言の恣意的提示

 証言の恣意的選択と、それに基づく印象操作の手法は、情報センターを運営する産業遺産国民会議にも見うけられる。たとえば産業遺産国民会議websiteのリンク先に、「『軍艦島に耳を澄ませば』を検証する」という映像がある。既述の手法と同じく、まず朝鮮人・中国人労働者の証言の一部が画面に示され、それを端島元島民が否定・批判するという構成だが、その「証言11 賃金について」では、中国人の李之昌氏の次のような証言が文字表示される。


「端島を離れることが決まって、三菱は中国人に帰国費を支給すると言ってくれたのが小切手だった。一枚の白紙の上にいくつかの文字が書かれていたが、私のは800元余りの小切手だったと思う」

 

端島へ連行された李之昌さんの証言表示。
これに続く文章は示されない。
『「軍艦島に耳を澄ませば」を 検証する』より
ここで論じる紙幅の余裕はないが、中国人の強制連行は、「契約労働者」の形式を取り繕っているものの、実態として中国人は「拉致等され」(長崎地裁判決文)たのであり、その本質は人身売買に等しく、「賃金」は少なくとも長崎の場合、全く支払われていない。しかし「『軍艦島に耳を澄ませば』を検証する」の映像で、この李之昌氏の証言に接した人は、賃金はともあれ、中国人に対して三菱は帰国費など金銭を支払っているではないか、と思うだろう。ところが、この証言には、映像ではカットされた、以下のような続きがあるのである。

「通訳は『あなたたちはもうそろそろ帰国するので金をあげるが、ここでは使えない。だから,小切手を天津に銀行があるから、そこで換金するように』といった。みんな早く帰りたい一心で言われるままに、小切手を貰う書類に拇印を押した覚えがある。天津の日本租界の銀行で換金できるとのことであった。その銀行を探したが、すでに撤収していて、金は受け取れなかった。」(『軍艦島に耳を澄ませば』社会評論社・2016年 ゴシックは引用者) 
 

 同じ三菱経営の高島炭鉱へ連行された中国人・李如生氏も同趣旨の証言をしており、これは三菱による意図的な詐欺行為の可能性があるが、それはさておき、この李之昌氏の証言の結論は「金は受け取れなかった」である。「どんな名目でも、お金は1銭も貰っていない」とも彼は述べている。この結論部分を隠し、「800元余りの小切手」が支給されたことのみを切り取り提示するのは、恣意性を通り越してまさに詐欺に等しく、欺罔と批判されて然るべきではないか。このようなことを平然と行って恥じない、産業遺産国民会議の加藤専務理事が、情報センターの長に就任しているのである。


「解釈は個々に委ねるべき」?

 以上のように、情報センター及びその運営に当っている産業遺産国民会議の実態を見れば、ユネスコ世界遺産委員会が「強い遺憾」を表明したのは理の当然と言うべきだろう。しかし世界遺産委員会の決議が示されると、加藤康子情報センター長は、産業遺産国民会議のサイトにただちにコメントを掲載し、同決議への不満を表明している。その中で加藤氏は「六年間、端島元島民と共に、戦時中の炭鉱の記憶、戦禍のなかで増産体制を支えた職場と暮らしの記憶を集めてきました。(中略)戦禍の中で事業現場を支えてこられた皆さんの声を収録し、現在のセンターの展示にいたっております」と、2015年の日本政府の声明は、あたかも端島に関してのみの発言であったように述べている。

 もちろんこれは事実誤認、というより事実の歪曲であり、問題となっているのは端島のみならず、複数のサイトにおける朝鮮人・中国人・連合軍捕虜(Koreans and others)の強制動員や強制労働であるのは言うまでもない。加藤氏は「軍艦島」を焦点化することで、日韓二国間の歴史認識の対立と、問題を矮小化したいのだろう。日本の多くのメディアも、そうした加藤氏や日本政府の思惑に、結果として乗せられてしまっているように思える(冒頭、世界遺産委員会の決議を報じた新聞各社がみな『軍艦島』を見出しに用いていたことを想起されたい)。

 「情報センターの役割は正確な一次史料を提供することであり、解釈は個々の研究者に委ねるべきです」とも加藤氏は述べ、これはセンター開所時に「一次史料や当時を知る証言を重視した。判断は見学者の解釈に任せたい」と語った(産経新聞website 2020.3.30)ことと共通である。「解釈・判断は見る者に委ねるべき」というようなことが言い得るのは、対立する両論が公平に提示された場合のみであろう。情報センターのように、朝鮮人・中国人労働者の証言は一切展示しないという恣意的な資料選択をし、見る者を一定の方向へ誘導しておきながら、「解釈は見る者に委ねる」とは欺瞞も甚だしく、度し難い無責任さである。

 ゾーン3には端島元島民証言として「またぞろ慰安婦と同じように金を出して、こういう無様なことを神聖な端島炭坑がですね、金まみれで汚されるような解決であってはいかんな、と。」という言葉がパネル化されている。元「慰安婦」女性たちに対する侮辱であり、強制労働の事実を示すよう求める人々を金銭目当てのように貶める発言が、堂々と国の情報発信施設に展示されているのである。証言を提示しただけ、解釈は見る者に委ねる、ですませられることだろうか。


お粗末な歴史否定を嗤う

 ユネスコ憲章前文は、先の戦争の原因を、世界の諸人民間の疑惑と不信、無知と偏見に見いだし、永続する平和を「人類の知的及び精神的連帯」の上に築くことをうたっている。世界遺産の登録や保全、公開もこのユネスコの精神に基づくべきだが、現状の情報センターは「疑惑と不信」「偏見」を募らせるものでしかない。「明治日本の産業革命遺産」を、短期間で産業化を成し遂げた日本の成功物語で終わらせず、その過程で自国民のみならず、近隣諸国や対戦国の民衆に、過酷な労働と犠牲を強いた場でもあったという負の歴史を、直視し提示すべきである。端島や高島での過酷な体験を切々と語ってくれた徐正雨さん、李慶雲さん、連双印さんらの証言は、岡資料館にも展示されている。彼らの存在を「なかった」ことにしようとする産業遺産国民会議や情報センターの策動は、断じて認めることはできないが、学問的な検証に耐え得ないあまりにもお粗末な彼らの「歴史否定」は、怒るよりもむしろ嗤うべきものなのかもしれない。


必要なのは植民地支配や侵略の過ちを認める事

 日本政府はユネスコ世界遺産委員会の決議を謙虚に受け止め、情報センターの抜本的な改革をすみやかに行う必要がある。まずは産業遺産国民会議への業務委託を解消し、展示のための新たな組織を作り、歴史学者や近隣諸国の研究者も交え、「明治日本の産業革命遺産」の歴史全体を示すプランを再検討すべきだろう。

 出口が見えない、と言われる日韓関係だが、「出口」は最初からはっきりしていると思う。日本側がそれを見ようとしていないだけで、つまり過去に日本が行った「植民地支配や侵略戦争の過ちを認めること」がそれである。「明治日本の産業革命遺産」の決定的な誤りは、栄光の大日本帝国の歴史に固執し、帝国主義国家としての過誤を隠蔽もしくは否定している点、とも言えるのではないか。日本政府が過去に真摯に向き合い、端島を含む「明治日本の産業革命遺産」が、関係諸国との対立ではなく、和解の場となり、真に人類共通の普遍的価値を有するものとなることを心より望む。

(しんかいともひろ)

★★★

このブログの新海さんの記事

新海智広「『軍艦島』の強制労働の歴史を消した日本政府」&乗松聡子「英語表記は『植民地とすることなく』?)(『週刊金曜日』2018年11月9日)


新海さんのその他の記事



基本ガイド

ガイドブック『明治日本の産業革命遺産と強制労働』(強制動員真相究明ネットワーク・民族問題研究所)ダウンロードはここをクリック

「徴用工問題」Q&Aリーフレット ダウンロードはこちらをクリック

強制動員関連の講演、署名運動

2021年11月7日 オンライン講演(無料)の案内

Wednesday, October 13, 2021

吉澤文寿さんをむかえて オンライン講演会「徴用工問題はなぜ "解決済み"ではないのか 5つのポイント」11月7日午前11時から 5 Reasons Why the Forced Labour Issue is Not "Resolved" : Webinar on November 7 (11 AM, Japan Time)

★11月8日追記:イベントは265人の登録、176人の参加を得て、活発な議論が交わされ大成功でした。「わかりやすかった」「周りの人に話していきたい」「署名をもっと集めたい」など、参加者からたくさんの声が届いています。以下がYouTube動画です。署名は11月末まで集めます。どうぞ拡散をお願いします。

★11月10日追記:吉澤さんの講演レジュメへのリンクは、ここです。(転載不可)


11月7日(日)午前11時から オンライン講演会および署名報告会を行います。


「徴用工問題はなぜ"解決ずみ"ではないのか 5つのポイント」

講師:吉澤文寿(新潟国際情報大学国際学部教員)


今年、元「徴用工」への日本企業の賠償を命じた2018年の韓国大法院判決から3年が経ちます。この間、日本政府やメディアは「韓国が国際法違反をしている」「1965年の日韓請求権協定でこの問題は”解決済みである”」「対策を取るべきは韓国である」という言説を繰り返してきました。私たち「徴用工問題を考える市民の会」はこの1月に、「徴用工問題は”解決済み”ではありません。今こそ被害者の人権と尊厳の回復を求めます。」という署名を Change.org で立ち上げました。戦後日韓関係の専門家であり、この署名の呼びかけ人の一人でもある吉澤文寿さんにいま一度、この問題についてわかりやすい解説をお願いしました。ふるってご参加ください。

主催:徴用工問題を考える市民の会

協力:Peace Philosophy Centre / 在日差別をなくす会

参加無料です。登録はこちらでお願いします。

https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_JpdOhqUtQMis_lJE4q5x-Q


まだの方は署名もお願いします!⇒ https://chng.it/GWRdGTpR

Sunday, October 03, 2021

「社会運動の中の性暴力 被害者を孤立させるな」! 『琉球新報』10月3日掲載 by 乗松聡子 Sexual Violence Within Social Movements: Let's Stand With the Victims! -- A Ryukyu Shimpo Column by Satoko Oka Norimatsu

10月10日追記:「広河隆一氏とデイズジャパン経営陣の人権侵害を忘れない会」ブログにも記事をアップしました。

沖縄の運動で起きたセクシュアル・ハラスメントの報道https://donotforgetvictims.blogspot.com/2021/10/blog-post.html

『琉球新報』に不定期連載しているコラム「乗松聡子の眼」10月3日の記事を、許可を得てテキスト転載します。

このコラムが言及している元の報道(9月28日付)は以下です。(転載許可を得て下の方に貼り付けてあります。ご覧ください ↓↓↓)

1)性的被害、社会運動でも…寝室侵入された女性「ほとんどが泣き寝入り」

2)社会運動でのセクハラ、意識改革に必要なのは?(村上尚子弁護士)

3)もうひとつ、「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表の高里鈴代氏が、「セクハラを『こんなの普通』と見過ごすことも加害を容認していることになる」「ようやくセクハラと指摘できる社会になってきた。いろんな運動体が、被害に遭った女性がちゃんと言えるような環境をつくっていかないといけない」とコメントしている記事が紙面にあります(下方に貼り付けました)。

以下、乗松のコラム転載です。(文中のリンクは乗松が転載にあたって追加したものです)

琉球新報 デジタル版
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1401845.html


社会運動の中の性暴力 被害者を孤立させるな

乗松聡子

9月28日の本紙社会面に「性的被害 社会運動でも」という見出しで、沖縄の社会運動の中で起こっている性差別や性暴力という人権侵害に焦点を当てた記事が出た。

「#MeToo」運動は2017年10月、米国の大物映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏が自分の権力を使って多くの女優に性暴力を行ってきたことを「ニューヨーク・タイムズ」がスクープしたことがきっかけに拡大した。

米国の#MeTooの火付け役が米国を代表する新聞だったことに比べ、概して日本の新聞は性暴力報道に及び腰で、被害者は週刊誌に頼らざるを得ないように見えた。「人権派」フォトジャーナリストの広河隆一氏の長年にわたる性暴力を最初に報じたのも、「週刊文春」だった。

そのような状況において、沖縄の米軍基地への抵抗運動を支えてきた新聞社である「琉球新報」が敢えて運動の中の性暴力・セクハラを報じたことは画期的なことであった。私はこれまで、運動の中にいる人たちからはいろいろな話を聞いたことがあるが、沖縄のメディアが取り上げることは今までなかったと思う。

人権を重んじ差別に反対する「社会運動」でセクハラや性暴力が起きるのは、これらの世界でもいまだに圧倒的な男性支配の構造が続いているからである。ジェンダーギャップが国際的にも最悪レベルと言われる日本では、保革を問わず性差別がまん延しており、社会運動だけに真空状態が存在するはずもないのだ。自分を含む、運動の中にいる女性たちは身を持って知っている。

昨年9月ツイッターに登場した「すべての馬鹿げた革命に抗して」というアカウントは、社会運動に参加したことのある女性たち53人にアンケートを行い、うち9割以上が運動内でセクハラを体験・目撃している。そこには、「反権力」「平和」「人権」を謳う者たちがいかに自らの権力を利用して女性を踏みにじってきたかの生々しい実例が多数報告されている。

社会運動で起こるセクハラや性暴力の被害者が声を上げようとすると、「運動を割る」「権力側を利する」といった理由で隠蔽圧力がかかる。女性なら味方してくれるかというと、そうとも限らない。性差別を内面化した女性が加害者を庇ったり、「それぐらい我慢して当然だ」と言ったりするときがある。それで被害者はますます孤立感を味わう。

本紙の記事で証言した被害者・体験者はそのような圧力に負けずに声を上げた女性たちだ。もちろん活字になるケースは「氷山の一角」である。彼女らは、同じことを繰り返させないとの一心で、思い出したくもない体験を何度も再現するのに、加害者側は「知らない」「覚えていない」の一言で一蹴してしまえる。彼女らは、何も悪いことをしていないのに、加害者と顔を突き合わす可能性がある運動にもう戻ることすらできない。

これらの不条理の中で、被害者の言葉を受け取る者たちの責務は、彼女らを孤立させないことだ。いま、運動の中ではハラスメント学習会が開催され、いろいろな「気づき」が起こっているということも聞いている。本紙の記事をきっかけにこのような動きが広まることを願っている。(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)

(10月3日「乗松聡子の眼」転載 以上)

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以下、2021年9月28日「琉球新報」社会面より。

琉球新報社提供


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