4月25日投稿の「ECRR2010勧告の概要和訳 矢ケ崎克馬解説・監訳」に続き、松元保昭さんに続編を寄稿いただきました。リンク先の転載転送はもちろん、内容も自由に転載転送(ただしリンク先も表示)して普及していただきたいと思います。松元さんの質問への矢ケ崎さんの答えはわかりやすく、特に最後の質問⑬への答えは、放射線被害問題と沖縄米軍基地問題を結びつけ、今こそ主権者である市民が学び、考え、行動する重要性を訴えるもので強く共感します。@PeacePhilosophy
【市民版ECRRレスボス宣言2009 矢ケ崎克馬解説・監訳】
はじめに
これは市民が読みやすく自由に活用することを目的とした、「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」の付属文書「レスボス宣言The Lesvos Declaration」(2009年)の翻訳です。さきに公表した【市民版ECRR2010勧告の概要―矢ヶ崎克馬解説・監訳】の続編としてご利用いただけると幸いです。
ECRR2010年勧告の本文は、数か国語に及ぶ655件もの研究論文および国際文書が包括的に参照されたかなり専門的な内容で、日本語訳でも三百数十ページに及びます。それらの結論的な主張が前回の「勧告の概要」(14項目、全8ページ)および今回の「レスボス宣言」(18項目、全4ページ)にまとめられているものです。これらの短い二つの文書では、(核兵器製造との密接な関連を指摘していないことを除けば)、原発推進を根拠づけている ICRPのリスク擁護理論に対峙する世界市民の立場に立ったECRRの基本的な主張が各国の行政担当者および市民がアクセスしやすいようにもっとも簡潔明瞭に表現されています。とはいえ、 やはり素人にはむつかしい専門用語も使われていますので、内部被曝の科学者である矢ケ崎克馬さんの解説をいただきました。
矢ケ崎さんは、現代は世界中の市民が国際原子力ムラに仕掛けられた「知られざる核戦争」に巻き込まれた時代であり、このレスボス宣言は、「(世界市民による)国際原子力ムラに対する宣戦布告だ」と語っています。「市民の皆さんと一緒に…「科学に見せかけたウソ」を批判し、具体的で誠実な科学を、市民のいのちと生活を守る実際の力になる懸け橋にしたい」という矢ケ崎さんが、今回とりわけ、この闘いでもっとも肝心なICRP批判の核心を分かりやすく書き下ろしてくださいました。内部被曝研究者として調査や講演に奔走し、原爆症認定集団訴訟や福島集団疎開裁判に市民と共にかかわっている矢ケ崎さんが、「日本政府はあまりにも無知で野蛮です」と語る言葉には重いものがあります。「今、100年先をにらんで、市民のいのちとくらしを守るために…市民が自ら学習する大運動を起こさなければなりません」とも語っています。前回の「勧告の概要」とあわせて、市民に寄り添い「誠実に科学する」日本の科学者による本格的な市民向け「ECRRの解説」であり、力強い市民への呼びかけでもあります。
これは市民が読みやすく自由に活用することを目的とした、「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」の付属文書「レスボス宣言The Lesvos Declaration」(2009年)の翻訳です。さきに公表した【市民版ECRR2010勧告の概要―矢ヶ崎克馬解説・監訳】の続編としてご利用いただけると幸いです。
ECRR2010年勧告の本文は、数か国語に及ぶ655件もの研究論文および国際文書が包括的に参照されたかなり専門的な内容で、日本語訳でも三百数十ページに及びます。それらの結論的な主張が前回の「勧告の概要」(14項目、全8ページ)および今回の「レスボス宣言」(18項目、全4ページ)にまとめられているものです。これらの短い二つの文書では、(核兵器製造との密接な関連を指摘していないことを除けば)、原発推進を根拠づけている ICRPのリスク擁護理論に対峙する世界市民の立場に立ったECRRの基本的な主張が各国の行政担当者および市民がアクセスしやすいようにもっとも簡潔明瞭に表現されています。とはいえ、 やはり素人にはむつかしい専門用語も使われていますので、内部被曝の科学者である矢ケ崎克馬さんの解説をいただきました。
矢ケ崎さんは、現代は世界中の市民が国際原子力ムラに仕掛けられた「知られざる核戦争」に巻き込まれた時代であり、このレスボス宣言は、「(世界市民による)国際原子力ムラに対する宣戦布告だ」と語っています。「市民の皆さんと一緒に…「科学に見せかけたウソ」を批判し、具体的で誠実な科学を、市民のいのちと生活を守る実際の力になる懸け橋にしたい」という矢ケ崎さんが、今回とりわけ、この闘いでもっとも肝心なICRP批判の核心を分かりやすく書き下ろしてくださいました。内部被曝研究者として調査や講演に奔走し、原爆症認定集団訴訟や福島集団疎開裁判に市民と共にかかわっている矢ケ崎さんが、「日本政府はあまりにも無知で野蛮です」と語る言葉には重いものがあります。「今、100年先をにらんで、市民のいのちとくらしを守るために…市民が自ら学習する大運動を起こさなければなりません」とも語っています。前回の「勧告の概要」とあわせて、市民に寄り添い「誠実に科学する」日本の科学者による本格的な市民向け「ECRRの解説」であり、力強い市民への呼びかけでもあります。
核兵器を存続管理し原子力産業を推進するIAEAおよびICRPを後ろ盾にし、人命と人権を意図的に無視し責任もとらずに棄民政策を実行して恥じない日本政府・官僚および
電力会社と関連大企業およびメディアの巨大な原子力ムラと対決していくために、そして国際的な連携、連帯が不可欠なこの長期の課題に立ち向かうために、これら二つの文書の解説と翻訳が市民のたたかうちからの一助となることを願っています。普及をお願いいたします。
(2012年8月20日、松元保昭記)
(2012年8月20日、松元保昭記)
【訳者註1】原文には質問と解説はありません。各項目の質問は松元が配し、解説を矢ヶ崎克馬さんが書き下ろしています。宣言本文翻訳上の不適切は松元の責任です。
【訳者註2】原文A~Iの分析事実、つづく1~9の行動要領は、Whereas(それゆえ)、assert(主張する)などの接続詞、動詞で各項目の論証が積み重なっている構成になっています。ここでは読み易さを目的としているため、項目ごとの文章として翻訳していることをお断りしておきます。
【訳者註3】翻訳および解説文中の、ECRR(欧州放射線リスク委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)は、日本語名称を省略していることがあります。なお、国連科学委員会(UNSCEAR)は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」の略称です。
【訳者註4】「レスボス宣言」の日本語訳は、すでに「安間武訳」(2011年4月)、「澤田昭二訳」(翻訳期日不詳)、「美浜の会ブログ:ECRR2010翻訳委員会訳」(2011年5月)、山内知也監訳『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価―欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』(明石書店刊、2011年11月)があります。
■ECRR2010勧告および付属文書英語原文サイトhttp://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/ECRR_2010_recommendations_of_the_european_committee_on_radiation_risk.pdf
【訳者註2】原文A~Iの分析事実、つづく1~9の行動要領は、Whereas(それゆえ)、assert(主張する)などの接続詞、動詞で各項目の論証が積み重なっている構成になっています。ここでは読み易さを目的としているため、項目ごとの文章として翻訳していることをお断りしておきます。
【訳者註3】翻訳および解説文中の、ECRR(欧州放射線リスク委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)、IAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)は、日本語名称を省略していることがあります。なお、国連科学委員会(UNSCEAR)は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」の略称です。
【訳者註4】「レスボス宣言」の日本語訳は、すでに「安間武訳」(2011年4月)、「澤田昭二訳」(翻訳期日不詳)、「美浜の会ブログ:ECRR2010翻訳委員会訳」(2011年5月)、山内知也監訳『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価―欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』(明石書店刊、2011年11月)があります。
■ECRR2010勧告および付属文書英語原文サイトhttp://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/ECRR_2010_recommendations_of_the_european_committee_on_radiation_risk.pdf
レスボス宣言
2009年5月6日
ギリシャのレスボス島モリボスにて
矢ケ崎克馬解説・監訳 松元保昭訳
質問①、前回は「ECRR2010年勧告の概要」について解説していただきましたが、はじめに、「ECRR2003年勧告」と「ECRR2010年勧告」のあいだにある、この「2009年レスボス宣言」の意義について教えていただけますか?
矢ケ崎:ECRRの設立に際して、①放射線リスクの全体に対して正しく評価する、②放射線被曝がもたらす損害について最良の科学予測モデルを開発する、③政策的勧告の基礎となる倫理および哲学を確立する、④公衆と環境に対する放射線防護のリスクと損害のモデルを示す、等を検討課題としています。これらの実践的必要性とともに、チェルノブイリ事故被害の解明などにより証明されることが2009年までに相当数多くありました。ECRRが2003年に勧告を発表すると世界的に大きな反響を得るところとなりましたが、政策的に採用されるところまでには至っていませんでした。他方、高線量外部被曝をリスクモデルにするICRPが検討を回避している細胞レベルへの放射線影響は、分子生物学の発展と共にリスクの検討状況を一変させてきました。その間に、ICRPや国連科学委員会が無視し続けているチェルノブイリの犠牲が、非常にはっきり解明されてきました。また、劣化ウラン弾に対するリスクの解明も進展しました。さかのぼって、大気圏内核実験の健康影響については、ICRPはまったく否定していますが、その放射性降下物による内部被曝が、現在蔓延しているがんの原初的原因であることが明らかにされてきました。ICRPのリスクモデルが破綻していることは、ますます明白になってきたのです。レスボス宣言は、以上のことを確認しつつ、各国政府がICRPのリスクモデルを破棄し、ECRRモデルを採用することを主張しています。レスボス宣言はこの政策的訴えを特徴としています。
A)国際放射線防護委員会(ICRP)は、電離放射線被曝にかんする特定のリスク係数を普及させた。
B)ICRP のリスク係数は、放射性廃棄物や核兵器、および汚染土壌や汚染物質処理、天然起源の放射性物質と人為的に放出された人工放射性物質(NORMおよび TENORM)、原子力発電所や核燃料サイクルでの全段階、さらに賠償と復興事業などについて、作業従事者や公衆への被曝にかんする放射線防護法とその基 準を普及する目的で、連邦および国家体制によって幅広く採用されている。
質問②、「ECRR2010年勧告」では「ICRPリスクモデルの欠陥」が詳細に述べられていますが、まず、ICRPリスクモデルの特徴について説明していただけますか?
矢ヶ崎:科学の手段に対する国家的・大資本的支配の不幸な結果として―ICRPリスクモデルの基盤にある放射線科学の在り方がまず問われています。自然科学一般は、科学といえば真理を探究することです。「人間の意識とは独立に在る客観的存在を、如何に正確に人間の意識に反映させるか」が、科学本来の目的です。法則を知って法則に従うことによって自由が獲得できる(原理が応用できる)のです。人類は科学によって自由を得てきたと言えます。科学を行うにも、原理を応用するにも、方法としての手段が、科学の発展につれて高度に複雑に進展してきました。困ったことには、資本主義の発展につれて、方法としての手段が国家や大企業等によって独占されるようになり、手段を独占するがゆえに科学もその結果としての応用も、恣意的に支配(コントロール)されるようになりました。
コントロールは、カネと体制支配により進みます。ここに、軍事国家や大資本の手が伸び、科学技術が独占的に支配され、科学が発展すればするほど、殺戮の手段が激烈となり、環境が破壊されるという不幸な軍事主義・資本主義の支配結果を招くことになりました。その典型的な例は、原爆製造プロジェクト「マンハッタン計画」 と、その後の放射線による犠牲者隠しです。前者はアメリカにより極秘裏に進められた国家プロジェクトであり、後者は日本占領下の米軍により日本政府の協力下に進められたABCC―放影研によるデータ操作と、それに続く米国支配下の世界の原子力ムラ=ICRPによる「科学支配」なのです。
一方では原水禁運動として核兵器廃絶の必要認識が進展している半面、放射線科学・工学分野の不当支配に対する排除運動は極めて遅れをとっています。今まさに必要であるフクシマの市民の被曝防止の施策が進まず、原発稼働が再開され安全神話が再強行されようとしています。科学とその応用の手段に対する恣意的な寡頭支配を排除するには、1954年に当時の日本学術会議が「原子力三原則」として示した、「公開・民主・自主」を、科学全般に対して原理的に貫くしかありません。この全世界を支配するICRP国際原子力ムラの支配に終止符を打つために、ECRRが活動を始めました。わが国でも原爆症認定集団訴訟がたたかわれ、隠されてきた内部被曝の告発が広がってきました。
レスボス宣言は「知られざる核戦争(圧倒的なICRP下に進められている放射線犠牲者隠し)」に対する宣戦布告に当たります。破壊されつつある環境を守るのは科学しかない―核支配を続けるには原子力ムラしかありえない―この不幸な対立の過程で核推進勢力は科学を拒んできました。歴史的には、国際的原子力ムラが形成されて、被曝の科学が歪められてきました。
放射線はいのちと環境を傷付けます。いのちと環境に対する放射線の影響をありのままに見て、きちんと科学することがいのちと環境を守る手段です。それに対し、放射線をまき散らす核兵器開発と原発にとっては、放射線の犠牲者がどれだけいるか?多数か少数か?という現状を明らかにされることが核戦略や原発会社の存続に関わる重大な障壁になります。これらの勢力は科学をきちんとすることを恐れます。核兵器と原発を進める社会的世俗的権力が、放射線防護学を研究費と人事支配により、放射線防護学等の「科学的」分野を完璧に政治支配してしまいました。内部被曝研究が阻止されてきました。それが「安全神話」の母体であり、その支配体制は原子力ムラです。
「安全神話」はICRPに現れ、ICRPの考え方に依拠して実施体制をとるのが世界の原子力ムラ:IAEA, WHO, 国連科学委員会、核保有国と軍事同盟を結ぶ関連諸国政府なのです。内部被曝はヒロシマ・ナガサキの原爆被害から隠し続けられました。原爆投下後占領国アメリカは核兵器を残虐兵器と見られないために、枕崎台風を利用して放射能の埃は無かったことにしました。すなわち内部被曝は無かったという「科学的粉飾」を行わせ、ABCCや放影研にデータ粉飾が深められて、それがICRPに引き継がれました。
では、ICRPの毒牙とはどんなものでしょうか?
ICRPの特徴は、第一に【放射線起因疾病の定義】。分子生物学の発展などを無視し続けて、放射線の作用を、ブラックボックスに閉じ込め、研究対象とすることを阻みました。放射線の作用をブラックボックスに閉じ込めることによって、何ができたかというと、放射線の人体被害は「がん、白血病、その他ホンの2~3の疾病」に限定したことです。放射線の被害は全身に渡り、あらゆる傷害に現れる可能性があるのですが、彼らが限定した疾病以外は放射線が起因ではなく、「放射能恐怖症」等が傷害を生み出すとしたことです。これにより非常に多数の被曝被害者を排除し隠ぺいすることに成功したのです。
第2に【吸収線量評価】。吸収線量の評価方法を臓器当たりに放射線によって持ちこまれたエネルギーとして計算することです。この手法は、内部被曝の局所的な、継続した被曝を平均化単純化して、実際の被曝領域内の大きな被曝密度を、数値的に極端に過小評価を行うことです。臓器ごとの平均化単純化は、被曝の具体性を一切捨て去り、被曝状況をブラックボックスに閉じ込めてきたと表現しても良いでしょう。これにより内部被曝を検知する「科学の目」を被曝の科学から奪い去りました。
第3は【低線量域のリスク評価】。上に述べたように内部被曝を科学操作によって無いものとしたうえに、被曝の具体性を捨象することを基礎として、内部被曝と外部被曝的低線量領域のリスク評価を、原爆の大線量直接被曝領域からの直線外挿に依ったことです。ペトカウ効果、バイスタンダー効果、間接効果等々の内部被曝の具体的現象を考慮すれば歴然とした誤りです。加えて、「100mSv以下の放射線起因の疾病のデータは無い」という彼らの隠ぺいの結果を被害の事実に置き換えるキャンペーンを張っています。チェルノブイリ後の甲状腺がんの発生そのものだけを取り上げても、ICRPは被害の予測そのものが全くできず、何ケタも被害を過小評価していることが証明されました。吸収線量の評価とリスク係数の評価の両者が何ケタもの過小評価をもたらすものなのです。
第4は【功利主義】。公益を得るためには犠牲もやむをえない、という功利主義です。これは日本国憲法の根底にある「個人の尊厳」を真っ向から否定するものです。犠牲になるのは一人一人の人体と人格であり、尊厳されるべき「個」なのです。その「個」の犠牲を隠すために平均化したリスクを掲げて、公益の名のもとに功利主義の受容を強制しているのです。
第5は【支配体制】。IAEA,WHO, UNSCER(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、核保有国と軍事同盟を結ぶ関連諸国政府等によるICRPを維持し強制する機構の全面的支配ぶりです。日本においても医学、保健学、原子力工学、等のあらゆる教育課程の基礎にICRPがあり、関連する専門家がICRPで教育され、研究もICRPで展開されます。国際的原子力ムラが完成しているのです。私はこれらが行ってきた犠牲者隠しを、「知られざる核戦争」と呼んでいます。知られざるとは、あまりにも圧倒的で誰でも平気で使っているので気が付かれ難い、核戦争とは科学上の粉飾により犠牲者を隠すという核戦略による戦争です。
こうした特徴を持つのがICRPなのですが、内部被曝を含めて被曝を具体的に科学させていない手法は、具体性を捨象した平均化・単純化の方法です。ICRPのブラックボックスを科学に解放するときに、客観的に正確な被曝防護が、個の尊厳に基づいて、実施できるところとなります。要は具体的で誠実な科学を実践することです。ICRPによる被害者隠しとそれを許している被曝の学問の歪みは、もはや一刻も猶予なりません。
ECRRの研究と勧告は、ICRPが多面的に張り巡らせたブラックボックスの中身を科学的に解放しようとしていると言えます。体内に入った放射性原子の崩壊過程を解析し、それに伴うリスク評価をしています。微粒子で入る条件で、時間的に継続した被曝の危険、局所被曝をもたらす危険、重い放射性元素の特殊な危険、時間経過とともにDNA修復過程に関係する危険、等々、あらゆる被曝の具体性を明らかにしリスク評価をしています。帰納法的手法により、現場の事実を大事にし、具体的な被曝とリスクを直結させようとします。これにより、演繹的に設定された、ICRPの、教条による定義から出発して「現実を切り捨ててきた」非科学の方法に、終止符を打とうとしているのです。
ECRRが2003年 勧告で示した被曝の世界観は、客観的被曝状況が明らかにされてくる中でますます重要であることが証明されてきました。ECRRは被曝被害を予想でき、ゆえに犠牲者を生まないで市民を防護できる力を確認できてきたのです。レスボス宣言は、一刻も早く、ICRPの犠牲者隠しの哲学によってもたらされている放射線の犠牲者産出を停止させたいと願って、出されたというべきです。これに対し、日本で危惧される現実は、「原子力ムラ」に反対するような科学者間でも、ECRRの具体的学習が進んでおらず、ECRRに部分的欠陥を発見したといっては、全面否定に発展させる傾向が強いことです。やはり、放射線科学分野の歴史的に陥っている「科学としての欠陥」を、自覚的に率直に見るべきだと思います。
C)チェルノブイリ事故によって、被曝後における核分裂生成物がもたらす深刻な健康障害の発症の確認という非常に重要な機会が与えられ、とりわけ胎児および幼児の放射線被曝に適用するには、現在のICRPリスクモデルでは欠陥があることが証明された。
質問③、ECRR2010年勧告の前年のこの段階では、どのようなことが「証明された」のでしょうか?
矢ケ崎:チェルノブイリ原発事故の放射線影響が多様に解明されてきました。それらをICRPや国連科学委員会は、放射線の影響とはせずに「放射線恐怖症」によると処理し続けてきましたが、母親の胎内の生命や白血病の小児や土手ネズミやシジミ蝶などの生命体が「放射線恐怖症」で被害を受けるはずがありません。スイスやスェーデン北部の白血病とセシウム汚染の解明から、ICRPモデルが600倍ものリスクを過小評価していることが実証されました。また、ドイツ国内原発の5km以内において小児白血病が有意な増加を示していて、放射線との因果関係が証明されました。また、チェルノブイリ原発事故当時、母親の胎内にいた小児に43%もの小児白血病の増加があることが確認されました。さらに劣化ウラン弾の影響や、大気圏内核実験の発がん影響についても解明が進みました。特徴的なことは、ICRPの無視している低線量領域とくに内部被曝では、ICRPリスクモデルに100倍から1000倍の誤りがあることがはっきり認められたのです。
D)ICRPリスクモデルは、原子力事故後の被曝、また内部被曝をもたらす体内の放射性物質にたいして正当に適用されることは出来ないと、満場一致で判断する。
E)ICRPリスクモデルは、DNAの構造が発見される以前に、また放射線核種がDNAに化学的な親和性があるという発見以前に開発されたものであるため、ICRPが採用する吸収線量という概念では、これら放射線核種による被曝影響を十分に説明することは出来ない。
F)ICRPは、放射線リスクおよびとくに結果として生じる多様な疾病領域の理解にかんして、ゲノム不安定性やバイスタンダー効果のような非標的効果、もしくは二次的効果の発見を考慮していない。
質問④、上記EとFでは、「ICRPリスクモデル」が近年の科学的発見を明らかに無視していると述べられていますが、こういう指摘に対してICRPおよびそれを支持する科学者たちはどのような反応をしているのですか?あわせて、「化学的親和性」、「ゲノム不安定性」、「バイスタンダー効果」、「非標的効果」、「二次的効果」などの簡単な説明もお願いしたいのですが?
矢ケ崎:ICRPは2007年勧告においても、細胞レベルでの放射線影響のリスク評価に、実態的には何の対応もしていません。彼らが「低線量」と称する実際は、内部被曝の吸収線量評価については相変わらずに固執しています。吸収線量の定義として微分方程式を使用し、一見微視的見地に立っているように見せかけていますが、実際は「臓器ごとの平均」を執っており、微視的観点は見せかけのもので、内部被曝は事実上完全に放棄しています。ICRPは組織としては最近の科学的解明に対して何の対応もしてはいませんが、元ICRP幹部が、興味あふれる見解を表明しています。1990年と2007年のICRP勧告の編集者であったJ.バレンタイン博士は次のように述べています。「ICRPのリスクモデルは人類の被曝による健康影響を予測するためにも、説明するためにも、採用することはできない」、「それは内部被曝についての不確かさがあまりにも大きいからである。」(ECRRとの公開討論会:2009年4月21日、於ストックホルム)。
《用語解説》
【化学的親和性】:複数の原子で原子の種類が異なっても化学的性質が似ていることにより同じように化合物などを形成しやすい性質を言う。例えば、ストロンチウムがカルシウムと間違えられて骨に沈着すること:白血病の増加等。あるいはウラニルイオンがカルシウムイオンと親和性があるためにDNA中のリン酸塩に結合する等:各種固形がん、白血病、先天性形成異常などが、劣化ウラン弾が投下されたイラク等に多発している。
【ゲノム不安定性】:分子が切断されて修復される際に異常遺伝子が生じ、塩基配列の不安定性がもたらされる場合と、染色体の構造,数が不安定化する場合がある。
【バイスタンダー効果】:直接電離放射線に打たれた細胞だけでなく、その周りの細胞にも染色体異常等の影響が現れる現象。細胞間のシグナル伝達機構が重要な役割を果たしている。ICRPでは、「アルファ線に打たれれば、その細胞は死滅するから遺伝子の異常変成等の危険は少ない」などと論じられてきたが、バイスタンダー効果はその考え方は事実と違うことを明らかにした。
【非標的効果】:直接照射を受けていない細胞において,直接照射を受けた細胞でみられるのと同様の放射線影響が誘導される現象。水の電離を媒介としてDNA異常がもたらされる間接効果あるいはペトカウ効果、等々が含まれる。線量との関わりは、高線量の時は放射線の電離作用により活性酸素が多量に発生するが、活性酸素同士で互いに結合してしまい、活性酸素が細胞膜やDNAを傷つける確率は少ないのに対し、少線量の時は発生した活性酸素が細胞膜やDNAを傷つける確率が増大する。
【二次的効果】:放射線によって電離した電子がさらに他の原子の電離を行うなどの効果。
G)放射線被曝による非がん性疾患の影響によって死因が混同されてしまうため、被曝によって生じたがん疾患のレベルを正確に測定することはおそらく不可能である。
質問⑤、後段の3でも指摘されていますが、「放射線被曝による非がん性疾患」とは、現在、どのような疾患があげられているのですか?どうして、がん以外の疾患につながるのですか?
矢ケ崎:ICRPは放射線の原理的作用も、分子生物学的実態研究も具体的には取り入れずに放射線の作用をブラックボックスに閉じ込めてきました。それにより、放射線の害悪をごく一部分に「教条的に」閉じ込めることができてきたのです。実際には様々な放射線の害悪が現れます。非がん性疾患は、例えば、免疫力機能低下、老化、全般的健康損害(被爆者ではぶらぶら病が知られている)、乳児死亡、死産、生殖系疾患、心臓病、中枢神経系、精神的疾患等々あらゆる疾患を含みます。それは放射線の基本作用が電離であり、DNAだけでなく生命機構を維持する多様な組織の分子を切断し、切断された組織が完全に正常再結合することはあり得ないことから生じます。バンダジェフスキーのベラルーシ市民の臓器解剖結果からは、あらゆる臓器にセシウム137が運ばれていることが解明されていますが、体中のあらゆる組織に於いて分子切断がなされることにより、多様な健康被害がもたらされることは容易に推察できることです。
H)ICRPは、その報告書の位置付けを単なる助言と見なしている。
質問⑥、ここはどんな意味なのですか?
矢ケ崎:ECRRの設立に際して、①放射線リスクの全体に対して正しく評価する、②放射線被曝がもたらす損害について最良の科学予測モデルを開発する、③政策的勧告の基礎となる倫理および哲学を確立する、④公衆と環境に対する放射線防護のリスクと損害のモデルを示す、等を検討課題としています。これらの実践的必要性とともに、チェルノブイリ事故被害の解明などにより証明されることが2009年までに相当数多くありました。ECRRが2003年に勧告を発表すると世界的に大きな反響を得るところとなりましたが、政策的に採用されるところまでには至っていませんでした。他方、高線量外部被曝をリスクモデルにするICRPが検討を回避している細胞レベルへの放射線影響は、分子生物学の発展と共にリスクの検討状況を一変させてきました。その間に、ICRPや国連科学委員会が無視し続けているチェルノブイリの犠牲が、非常にはっきり解明されてきました。また、劣化ウラン弾に対するリスクの解明も進展しました。さかのぼって、大気圏内核実験の健康影響については、ICRPはまったく否定していますが、その放射性降下物による内部被曝が、現在蔓延しているがんの原初的原因であることが明らかにされてきました。ICRPのリスクモデルが破綻していることは、ますます明白になってきたのです。レスボス宣言は、以上のことを確認しつつ、各国政府がICRPのリスクモデルを破棄し、ECRRモデルを採用することを主張しています。レスボス宣言はこの政策的訴えを特徴としています。
A)国際放射線防護委員会(ICRP)は、電離放射線被曝にかんする特定のリスク係数を普及させた。
B)ICRP のリスク係数は、放射性廃棄物や核兵器、および汚染土壌や汚染物質処理、天然起源の放射性物質と人為的に放出された人工放射性物質(NORMおよび TENORM)、原子力発電所や核燃料サイクルでの全段階、さらに賠償と復興事業などについて、作業従事者や公衆への被曝にかんする放射線防護法とその基 準を普及する目的で、連邦および国家体制によって幅広く採用されている。
質問②、「ECRR2010年勧告」では「ICRPリスクモデルの欠陥」が詳細に述べられていますが、まず、ICRPリスクモデルの特徴について説明していただけますか?
矢ヶ崎:科学の手段に対する国家的・大資本的支配の不幸な結果として―ICRPリスクモデルの基盤にある放射線科学の在り方がまず問われています。自然科学一般は、科学といえば真理を探究することです。「人間の意識とは独立に在る客観的存在を、如何に正確に人間の意識に反映させるか」が、科学本来の目的です。法則を知って法則に従うことによって自由が獲得できる(原理が応用できる)のです。人類は科学によって自由を得てきたと言えます。科学を行うにも、原理を応用するにも、方法としての手段が、科学の発展につれて高度に複雑に進展してきました。困ったことには、資本主義の発展につれて、方法としての手段が国家や大企業等によって独占されるようになり、手段を独占するがゆえに科学もその結果としての応用も、恣意的に支配(コントロール)されるようになりました。
コントロールは、カネと体制支配により進みます。ここに、軍事国家や大資本の手が伸び、科学技術が独占的に支配され、科学が発展すればするほど、殺戮の手段が激烈となり、環境が破壊されるという不幸な軍事主義・資本主義の支配結果を招くことになりました。その典型的な例は、原爆製造プロジェクト「マンハッタン計画」 と、その後の放射線による犠牲者隠しです。前者はアメリカにより極秘裏に進められた国家プロジェクトであり、後者は日本占領下の米軍により日本政府の協力下に進められたABCC―放影研によるデータ操作と、それに続く米国支配下の世界の原子力ムラ=ICRPによる「科学支配」なのです。
一方では原水禁運動として核兵器廃絶の必要認識が進展している半面、放射線科学・工学分野の不当支配に対する排除運動は極めて遅れをとっています。今まさに必要であるフクシマの市民の被曝防止の施策が進まず、原発稼働が再開され安全神話が再強行されようとしています。科学とその応用の手段に対する恣意的な寡頭支配を排除するには、1954年に当時の日本学術会議が「原子力三原則」として示した、「公開・民主・自主」を、科学全般に対して原理的に貫くしかありません。この全世界を支配するICRP国際原子力ムラの支配に終止符を打つために、ECRRが活動を始めました。わが国でも原爆症認定集団訴訟がたたかわれ、隠されてきた内部被曝の告発が広がってきました。
レスボス宣言は「知られざる核戦争(圧倒的なICRP下に進められている放射線犠牲者隠し)」に対する宣戦布告に当たります。破壊されつつある環境を守るのは科学しかない―核支配を続けるには原子力ムラしかありえない―この不幸な対立の過程で核推進勢力は科学を拒んできました。歴史的には、国際的原子力ムラが形成されて、被曝の科学が歪められてきました。
放射線はいのちと環境を傷付けます。いのちと環境に対する放射線の影響をありのままに見て、きちんと科学することがいのちと環境を守る手段です。それに対し、放射線をまき散らす核兵器開発と原発にとっては、放射線の犠牲者がどれだけいるか?多数か少数か?という現状を明らかにされることが核戦略や原発会社の存続に関わる重大な障壁になります。これらの勢力は科学をきちんとすることを恐れます。核兵器と原発を進める社会的世俗的権力が、放射線防護学を研究費と人事支配により、放射線防護学等の「科学的」分野を完璧に政治支配してしまいました。内部被曝研究が阻止されてきました。それが「安全神話」の母体であり、その支配体制は原子力ムラです。
「安全神話」はICRPに現れ、ICRPの考え方に依拠して実施体制をとるのが世界の原子力ムラ:IAEA, WHO, 国連科学委員会、核保有国と軍事同盟を結ぶ関連諸国政府なのです。内部被曝はヒロシマ・ナガサキの原爆被害から隠し続けられました。原爆投下後占領国アメリカは核兵器を残虐兵器と見られないために、枕崎台風を利用して放射能の埃は無かったことにしました。すなわち内部被曝は無かったという「科学的粉飾」を行わせ、ABCCや放影研にデータ粉飾が深められて、それがICRPに引き継がれました。
では、ICRPの毒牙とはどんなものでしょうか?
ICRPの特徴は、第一に【放射線起因疾病の定義】。分子生物学の発展などを無視し続けて、放射線の作用を、ブラックボックスに閉じ込め、研究対象とすることを阻みました。放射線の作用をブラックボックスに閉じ込めることによって、何ができたかというと、放射線の人体被害は「がん、白血病、その他ホンの2~3の疾病」に限定したことです。放射線の被害は全身に渡り、あらゆる傷害に現れる可能性があるのですが、彼らが限定した疾病以外は放射線が起因ではなく、「放射能恐怖症」等が傷害を生み出すとしたことです。これにより非常に多数の被曝被害者を排除し隠ぺいすることに成功したのです。
第2に【吸収線量評価】。吸収線量の評価方法を臓器当たりに放射線によって持ちこまれたエネルギーとして計算することです。この手法は、内部被曝の局所的な、継続した被曝を平均化単純化して、実際の被曝領域内の大きな被曝密度を、数値的に極端に過小評価を行うことです。臓器ごとの平均化単純化は、被曝の具体性を一切捨て去り、被曝状況をブラックボックスに閉じ込めてきたと表現しても良いでしょう。これにより内部被曝を検知する「科学の目」を被曝の科学から奪い去りました。
第3は【低線量域のリスク評価】。上に述べたように内部被曝を科学操作によって無いものとしたうえに、被曝の具体性を捨象することを基礎として、内部被曝と外部被曝的低線量領域のリスク評価を、原爆の大線量直接被曝領域からの直線外挿に依ったことです。ペトカウ効果、バイスタンダー効果、間接効果等々の内部被曝の具体的現象を考慮すれば歴然とした誤りです。加えて、「100mSv以下の放射線起因の疾病のデータは無い」という彼らの隠ぺいの結果を被害の事実に置き換えるキャンペーンを張っています。チェルノブイリ後の甲状腺がんの発生そのものだけを取り上げても、ICRPは被害の予測そのものが全くできず、何ケタも被害を過小評価していることが証明されました。吸収線量の評価とリスク係数の評価の両者が何ケタもの過小評価をもたらすものなのです。
第4は【功利主義】。公益を得るためには犠牲もやむをえない、という功利主義です。これは日本国憲法の根底にある「個人の尊厳」を真っ向から否定するものです。犠牲になるのは一人一人の人体と人格であり、尊厳されるべき「個」なのです。その「個」の犠牲を隠すために平均化したリスクを掲げて、公益の名のもとに功利主義の受容を強制しているのです。
第5は【支配体制】。IAEA,WHO, UNSCER(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、核保有国と軍事同盟を結ぶ関連諸国政府等によるICRPを維持し強制する機構の全面的支配ぶりです。日本においても医学、保健学、原子力工学、等のあらゆる教育課程の基礎にICRPがあり、関連する専門家がICRPで教育され、研究もICRPで展開されます。国際的原子力ムラが完成しているのです。私はこれらが行ってきた犠牲者隠しを、「知られざる核戦争」と呼んでいます。知られざるとは、あまりにも圧倒的で誰でも平気で使っているので気が付かれ難い、核戦争とは科学上の粉飾により犠牲者を隠すという核戦略による戦争です。
こうした特徴を持つのがICRPなのですが、内部被曝を含めて被曝を具体的に科学させていない手法は、具体性を捨象した平均化・単純化の方法です。ICRPのブラックボックスを科学に解放するときに、客観的に正確な被曝防護が、個の尊厳に基づいて、実施できるところとなります。要は具体的で誠実な科学を実践することです。ICRPによる被害者隠しとそれを許している被曝の学問の歪みは、もはや一刻も猶予なりません。
ECRRの研究と勧告は、ICRPが多面的に張り巡らせたブラックボックスの中身を科学的に解放しようとしていると言えます。体内に入った放射性原子の崩壊過程を解析し、それに伴うリスク評価をしています。微粒子で入る条件で、時間的に継続した被曝の危険、局所被曝をもたらす危険、重い放射性元素の特殊な危険、時間経過とともにDNA修復過程に関係する危険、等々、あらゆる被曝の具体性を明らかにしリスク評価をしています。帰納法的手法により、現場の事実を大事にし、具体的な被曝とリスクを直結させようとします。これにより、演繹的に設定された、ICRPの、教条による定義から出発して「現実を切り捨ててきた」非科学の方法に、終止符を打とうとしているのです。
ECRRが2003年 勧告で示した被曝の世界観は、客観的被曝状況が明らかにされてくる中でますます重要であることが証明されてきました。ECRRは被曝被害を予想でき、ゆえに犠牲者を生まないで市民を防護できる力を確認できてきたのです。レスボス宣言は、一刻も早く、ICRPの犠牲者隠しの哲学によってもたらされている放射線の犠牲者産出を停止させたいと願って、出されたというべきです。これに対し、日本で危惧される現実は、「原子力ムラ」に反対するような科学者間でも、ECRRの具体的学習が進んでおらず、ECRRに部分的欠陥を発見したといっては、全面否定に発展させる傾向が強いことです。やはり、放射線科学分野の歴史的に陥っている「科学としての欠陥」を、自覚的に率直に見るべきだと思います。
C)チェルノブイリ事故によって、被曝後における核分裂生成物がもたらす深刻な健康障害の発症の確認という非常に重要な機会が与えられ、とりわけ胎児および幼児の放射線被曝に適用するには、現在のICRPリスクモデルでは欠陥があることが証明された。
質問③、ECRR2010年勧告の前年のこの段階では、どのようなことが「証明された」のでしょうか?
矢ケ崎:チェルノブイリ原発事故の放射線影響が多様に解明されてきました。それらをICRPや国連科学委員会は、放射線の影響とはせずに「放射線恐怖症」によると処理し続けてきましたが、母親の胎内の生命や白血病の小児や土手ネズミやシジミ蝶などの生命体が「放射線恐怖症」で被害を受けるはずがありません。スイスやスェーデン北部の白血病とセシウム汚染の解明から、ICRPモデルが600倍ものリスクを過小評価していることが実証されました。また、ドイツ国内原発の5km以内において小児白血病が有意な増加を示していて、放射線との因果関係が証明されました。また、チェルノブイリ原発事故当時、母親の胎内にいた小児に43%もの小児白血病の増加があることが確認されました。さらに劣化ウラン弾の影響や、大気圏内核実験の発がん影響についても解明が進みました。特徴的なことは、ICRPの無視している低線量領域とくに内部被曝では、ICRPリスクモデルに100倍から1000倍の誤りがあることがはっきり認められたのです。
D)ICRPリスクモデルは、原子力事故後の被曝、また内部被曝をもたらす体内の放射性物質にたいして正当に適用されることは出来ないと、満場一致で判断する。
E)ICRPリスクモデルは、DNAの構造が発見される以前に、また放射線核種がDNAに化学的な親和性があるという発見以前に開発されたものであるため、ICRPが採用する吸収線量という概念では、これら放射線核種による被曝影響を十分に説明することは出来ない。
F)ICRPは、放射線リスクおよびとくに結果として生じる多様な疾病領域の理解にかんして、ゲノム不安定性やバイスタンダー効果のような非標的効果、もしくは二次的効果の発見を考慮していない。
質問④、上記EとFでは、「ICRPリスクモデル」が近年の科学的発見を明らかに無視していると述べられていますが、こういう指摘に対してICRPおよびそれを支持する科学者たちはどのような反応をしているのですか?あわせて、「化学的親和性」、「ゲノム不安定性」、「バイスタンダー効果」、「非標的効果」、「二次的効果」などの簡単な説明もお願いしたいのですが?
矢ケ崎:ICRPは2007年勧告においても、細胞レベルでの放射線影響のリスク評価に、実態的には何の対応もしていません。彼らが「低線量」と称する実際は、内部被曝の吸収線量評価については相変わらずに固執しています。吸収線量の定義として微分方程式を使用し、一見微視的見地に立っているように見せかけていますが、実際は「臓器ごとの平均」を執っており、微視的観点は見せかけのもので、内部被曝は事実上完全に放棄しています。ICRPは組織としては最近の科学的解明に対して何の対応もしてはいませんが、元ICRP幹部が、興味あふれる見解を表明しています。1990年と2007年のICRP勧告の編集者であったJ.バレンタイン博士は次のように述べています。「ICRPのリスクモデルは人類の被曝による健康影響を予測するためにも、説明するためにも、採用することはできない」、「それは内部被曝についての不確かさがあまりにも大きいからである。」(ECRRとの公開討論会:2009年4月21日、於ストックホルム)。
《用語解説》
【化学的親和性】:複数の原子で原子の種類が異なっても化学的性質が似ていることにより同じように化合物などを形成しやすい性質を言う。例えば、ストロンチウムがカルシウムと間違えられて骨に沈着すること:白血病の増加等。あるいはウラニルイオンがカルシウムイオンと親和性があるためにDNA中のリン酸塩に結合する等:各種固形がん、白血病、先天性形成異常などが、劣化ウラン弾が投下されたイラク等に多発している。
【ゲノム不安定性】:分子が切断されて修復される際に異常遺伝子が生じ、塩基配列の不安定性がもたらされる場合と、染色体の構造,数が不安定化する場合がある。
【バイスタンダー効果】:直接電離放射線に打たれた細胞だけでなく、その周りの細胞にも染色体異常等の影響が現れる現象。細胞間のシグナル伝達機構が重要な役割を果たしている。ICRPでは、「アルファ線に打たれれば、その細胞は死滅するから遺伝子の異常変成等の危険は少ない」などと論じられてきたが、バイスタンダー効果はその考え方は事実と違うことを明らかにした。
【非標的効果】:直接照射を受けていない細胞において,直接照射を受けた細胞でみられるのと同様の放射線影響が誘導される現象。水の電離を媒介としてDNA異常がもたらされる間接効果あるいはペトカウ効果、等々が含まれる。線量との関わりは、高線量の時は放射線の電離作用により活性酸素が多量に発生するが、活性酸素同士で互いに結合してしまい、活性酸素が細胞膜やDNAを傷つける確率は少ないのに対し、少線量の時は発生した活性酸素が細胞膜やDNAを傷つける確率が増大する。
【二次的効果】:放射線によって電離した電子がさらに他の原子の電離を行うなどの効果。
G)放射線被曝による非がん性疾患の影響によって死因が混同されてしまうため、被曝によって生じたがん疾患のレベルを正確に測定することはおそらく不可能である。
質問⑤、後段の3でも指摘されていますが、「放射線被曝による非がん性疾患」とは、現在、どのような疾患があげられているのですか?どうして、がん以外の疾患につながるのですか?
矢ケ崎:ICRPは放射線の原理的作用も、分子生物学的実態研究も具体的には取り入れずに放射線の作用をブラックボックスに閉じ込めてきました。それにより、放射線の害悪をごく一部分に「教条的に」閉じ込めることができてきたのです。実際には様々な放射線の害悪が現れます。非がん性疾患は、例えば、免疫力機能低下、老化、全般的健康損害(被爆者ではぶらぶら病が知られている)、乳児死亡、死産、生殖系疾患、心臓病、中枢神経系、精神的疾患等々あらゆる疾患を含みます。それは放射線の基本作用が電離であり、DNAだけでなく生命機構を維持する多様な組織の分子を切断し、切断された組織が完全に正常再結合することはあり得ないことから生じます。バンダジェフスキーのベラルーシ市民の臓器解剖結果からは、あらゆる臓器にセシウム137が運ばれていることが解明されていますが、体中のあらゆる組織に於いて分子切断がなされることにより、多様な健康被害がもたらされることは容易に推察できることです。
H)ICRPは、その報告書の位置付けを単なる助言と見なしている。
質問⑥、ここはどんな意味なのですか?
矢ケ崎:ICRPが 最近の分子生物学的研究結果を取り入れていず、内部被曝を依然として無視し続けていることは、「市民を放射線被害から防護する」という機能を果たすことを放棄している、と客観的に言うことができます。ですから、市民を放射線から防護するのに責任を負う立場では無いことを、このように「単なる助言」と表現しているのだと思います。「放射線防護に関わる事実上すべての国際基準と各国の国内基準は、(ICRP)委員会の勧告に従っている」(ICRP2007年勧告)としながら、ICRP2007年勧告では、改めて「功利主義」を防護の基本に据え、しかも、事故時には市民を被曝から守ることさえ、表面切って放棄しています。東電福島原子炉の爆発に関する勧告を見ると、ICRPは「市民を放射線被曝から守ることを放棄している」という次元を超えて、積極的に「被曝させている」と言うことができます。
I)人類および生物圏を防護するために、放射能をふくむ現存状況にかんする適切な規制が、現在、緊急かつ継続して求められている。
質問⑦、放射能が、人間だけではなく生物界全体に影響を及ぼしているということについて説明していただけますか?
矢ケ崎:ICRPは、核兵器および原発推進の立場から、市民の命を犠牲にしてもかまわないという功利主義を、考え方として基本哲学にしています。これは、あくまで核開発中心主義であって、犠牲となる人間の被害を極小に見せようとしてきました。人間の犠牲自体を極小に見せかけようとしてきたのですから、人以外の動物・植物・環境には目も配る余地は無く、犠牲になる動植物の被害を一切無視してきたのです。これを人間中心主義と表現する向きもありますが、あくまで核推進主義のなせる技です。
放射線は人間だけでなく、あらゆる生命体に、DNA等の分子切断を与えます。被害は人類だけでは無いのです。大気圏内核実験の影響が、人類に対しては、6000万人も放射線による犠牲者を数えています(ECRR試算)。ドイツでは、原発近隣の森が深刻な被害を受けていることが確認されています。チェルノブイリ周辺では動植物の生態系にまで放射線の影響が確認されています。従来の放射線防護体系では防護の対象は人間であり、環境は放射性物質の移行経路としてのみ考慮する対象として捉えて来きたようです。国際放射線防護委員会(ICRP)の従来の勧告でもこの人間中心的な放射線防護の考えに基づいていました。2007年勧告では「環境の防護」を論じていますが、環境そのものを防護したり、限度値を設けたりする提案はしないと、言っています。
われわれ署名者は、個々人の能力に応じて(つぎの)行動を起こす。
1.ICRPのリスク係数は、もはや時代遅れであり、これらの係数を使用することは放射線リスクの著しい過小評価を招くと断言する。
I)人類および生物圏を防護するために、放射能をふくむ現存状況にかんする適切な規制が、現在、緊急かつ継続して求められている。
質問⑦、放射能が、人間だけではなく生物界全体に影響を及ぼしているということについて説明していただけますか?
矢ケ崎:ICRPは、核兵器および原発推進の立場から、市民の命を犠牲にしてもかまわないという功利主義を、考え方として基本哲学にしています。これは、あくまで核開発中心主義であって、犠牲となる人間の被害を極小に見せようとしてきました。人間の犠牲自体を極小に見せかけようとしてきたのですから、人以外の動物・植物・環境には目も配る余地は無く、犠牲になる動植物の被害を一切無視してきたのです。これを人間中心主義と表現する向きもありますが、あくまで核推進主義のなせる技です。
放射線は人間だけでなく、あらゆる生命体に、DNA等の分子切断を与えます。被害は人類だけでは無いのです。大気圏内核実験の影響が、人類に対しては、6000万人も放射線による犠牲者を数えています(ECRR試算)。ドイツでは、原発近隣の森が深刻な被害を受けていることが確認されています。チェルノブイリ周辺では動植物の生態系にまで放射線の影響が確認されています。従来の放射線防護体系では防護の対象は人間であり、環境は放射性物質の移行経路としてのみ考慮する対象として捉えて来きたようです。国際放射線防護委員会(ICRP)の従来の勧告でもこの人間中心的な放射線防護の考えに基づいていました。2007年勧告では「環境の防護」を論じていますが、環境そのものを防護したり、限度値を設けたりする提案はしないと、言っています。
われわれ署名者は、個々人の能力に応じて(つぎの)行動を起こす。
1.ICRPのリスク係数は、もはや時代遅れであり、これらの係数を使用することは放射線リスクの著しい過小評価を招くと断言する。
2.放射線の健康影響を予測するためにICRPリスクモデルを使用すると、最低10倍の誤差を導くと断言し、特定の被曝タイプに関する調査・研究によってその誤差はさらに大きいものであるとわれわれは認識している。
質問⑧、上記1と2にかんして、ICRPやIAEAはどのような応答をしているのですか?
矢ケ崎:既に言及してきたことですが、ICRPが真に市民の健康を守ることを目的としているならば、誠実に対応して真偽のほどを確かめて、自身の基準に反映しなければなりません。ICRPはECRRの指摘を一切無視しています。市民の健康を守る立場は完全に放棄しているのでしょう。
3.放射線被曝に起因する非がん性疾患の発症率、とりわけ心臓血管、免疫系、中枢神経系、および生殖系への損傷については、まだ数量化されていないものの顕著に見られると断言する。
質問⑤の「解説」参照
4.放射線被曝の原因に責任を負うすべての関係者のみならず、責任ある関係当局にたいし、放射線防護基準およびリスク管理を決定するさいには既存のICRPモデルにもはや依拠するべきではないと勧告する。
5.放射線被曝の原因に責任ある当局とすべての責任ある関係者にたいし、一般的な予防原則のアプローチを採用すること、また他の実行可能な予防原則や適切な予防リスクモデルが存在しない場合には、最新の観察結果を反映させてリスクをより的確に制限しているECRR2003年の暫定リスクモデルを不当に遅らせることなく適用することを勧告する。
質問⑨、上記4と5について、現在、このレスボス宣言やECRR2010勧告に応えている国はあるのでしょうか?日本の場合はどうでしょうか?UNSCEAR(原子放射線影響に関する国連科学委員会)やWHO(世界保健機構)は、この勧告をどのように受け止めているのでしょうか?
矢ケ崎:IAEA は、ICRPに勧告をさせるという形を執り、かつWHO等との間で放射能問題に関してはIAEAの見解に従う内容の取り決めをするという体制で、米核戦略と原発推進を世界的に牛耳ってきた機関です。核兵器開発と原発推進勢力がその政治体制を「今後は維持しない」と、事実上の敗北宣言をしない限り、ECRRを受け入れるはずがないと思われます。ヨーロッパなどでECRRの勧告を「情報として確認したという」ことは伝え聞いていますが、各国の放射線防護基準に取り入れるように検討しているかは情報がありません。少なくとも採用している国は現在ないと思われます。
6.体内に取り込まれた放射線核種による健康被害の調査、とりわけ被曝住民にかんする数多くの歴史的な疫学的調査・研究の再検討をただちに要求する。そこには 日本の原爆生存者、およびチェルノブイリとその他の汚染地域にかんするデータの再調査、さらに被曝住民の体内に取り込まれた放射性物質にかんする独自のモニタリングも含まれている。
質問⑩、チェルノブイリだけでなく、「日本の原爆生存者」の再調査も必要と言っていますね。先生は原爆症認定訴訟にも関わっておりますが、日本政府の姿勢はどのようなものですか?
矢ケ崎:日本では原爆生存者だけではなく、可能な限り、死亡者も含め、原爆の放射線被害の再調査をする必要があります。アメリカの占領体制を通じて、徹頭徹尾、「核兵器を残虐兵器とみさせないため」に残留放射能による、とりわけ内部被曝の、放射線被害の隠ぺいが謀られてきたからです。占領軍は、日本3大台風と言われる枕崎台風の襲来後に、かろうじて残存した放射性物質の放射能強度を測定させ、「はじめからこれしか無かった」と科学的に粉飾させ、放射性降下物自体が事実上無かったことにしました。被爆者認定基準には内部被曝被害者が全く排除されています。これにより原爆生存者のあらゆる調査の指標が『内部被曝抜き』で実施され、また、放射性降下物による内部被曝等で被曝した市民を一切切り捨ててきたのです。原爆生存者寿命調査は、1950年10月1日に広島市・長崎市に在住している被爆者に限定され、それ以外の居住者や被爆以来1950年10月1日までに放射線により亡くなった被爆者に関する一切のデータを排除しているのです。
原爆症認定集団訴訟では、判決すべてが原告勝訴となり、その基礎には「内部被曝」が認定されています。しかし、国は未だに内部被曝を認定しようとはせず、 長崎の「被爆体験者」の集団訴訟では、旧来の内部被曝排除を止めようとしていません。一次訴訟の地裁判決は、原爆症認定集団訴訟の到達点を無視して、原告敗訴となっています。世界初の核戦争犠牲者を持つ日本において、内部被曝被害を含む全面的な核戦争犠牲者の記録を後世に残さなければなりません。私たちは、東電福島の放射能汚染から現実に市民の健康を守り、東電福島原発事故の正確な記録を人類史に残さねばなりません。そして、放射能被害を本質的に無くする、核兵器と原発を廃絶する立場に立って新しい日本を構築しなければなりません。
7.被曝を受けた人々がその放射線レベルを知ること、また被曝による潜在的な因果関係にかんして正確な情報を得ることは、個々人の人権であると見なす。
質問⑪、3・11後の日本をみると、SPEEDI情報の隠ぺいや事故後の居住地、農地、森林、河川、湖沼、海洋などの綿密な被曝線量の未調査、および食品、瓦礫、除染などのずさんな調査方法など目に余るものがありますが、先生は「正確な情報を得ることは個々人の人権である」という立場から日本の施策をみると、どのように考えられていますか?
矢ケ崎:一言でいえば、棄民政策。
「安全神話」は、テクニカルな意味で地震等に対する防護対策を拒否してきただけではありません。いのちを持つ住民に「原発の危険」を一切語らずに、真実を伝えないできました。その目的で、一切の放射能災害防護訓練などを行わせずに、東電はおろか、国をはじめとするあらゆる自治体に、事故の際の災害対策本部も設けさせなかったのです。原発の事故を最小限にとどめるテクニカルマニュアルも、住民保護の基本的マニュアルも、一切の命を守るシステムを欠いていたのです。これほどの人権剥奪は類例を見ないでしょう。原発の本当の危険を知らせないために、一切の「危ない」という情報をもたらす行為をさせなかったのです。「安全に見せるため」に、いのちを守るシステムの構築さえも排除したのです。住民は(日本国の主権者と全ての日本在住者)は、基本的権利として、正確に事実を知る権利があり、それを認知したうえで、事態に正確にどう対応するか、個々人のいのちを保全する自由があるはずです。個の尊厳は正確で誠実な事実報道があってはじめて保障されるものです。
しかし、これだけではありません。政府は積極的な意味で、住民を捨てています。逃れようとしていた住人に対して、汚染の事実を知らせず、スピーディーのシミュレーションも知らせずにいました。本来なら最も安全に保障されるべき避難も妨害されているのです。汚染の激しいところでは、「移住してください」という指示に従うことも含めて、「基本的な生存権を確保する」という本質的自由獲得に、政府は誠実に対処しなければなりません。日本政府はこのいのちに対する誠実さを持ち合わせていません。やがて顕わに示される被害に対しても、日本政府はあまりにも無知で野蛮です。主権国家として主権者を守らない国がありえましょうか?
8.医学的な調査および他の一般的効用を目的とした放射線利用の拡大について懸念している。
3.放射線被曝に起因する非がん性疾患の発症率、とりわけ心臓血管、免疫系、中枢神経系、および生殖系への損傷については、まだ数量化されていないものの顕著に見られると断言する。
質問⑤の「解説」参照
4.放射線被曝の原因に責任を負うすべての関係者のみならず、責任ある関係当局にたいし、放射線防護基準およびリスク管理を決定するさいには既存のICRPモデルにもはや依拠するべきではないと勧告する。
5.放射線被曝の原因に責任ある当局とすべての責任ある関係者にたいし、一般的な予防原則のアプローチを採用すること、また他の実行可能な予防原則や適切な予防リスクモデルが存在しない場合には、最新の観察結果を反映させてリスクをより的確に制限しているECRR2003年の暫定リスクモデルを不当に遅らせることなく適用することを勧告する。
質問⑨、上記4と5について、現在、このレスボス宣言やECRR2010勧告に応えている国はあるのでしょうか?日本の場合はどうでしょうか?UNSCEAR(原子放射線影響に関する国連科学委員会)やWHO(世界保健機構)は、この勧告をどのように受け止めているのでしょうか?
矢ケ崎:IAEA は、ICRPに勧告をさせるという形を執り、かつWHO等との間で放射能問題に関してはIAEAの見解に従う内容の取り決めをするという体制で、米核戦略と原発推進を世界的に牛耳ってきた機関です。核兵器開発と原発推進勢力がその政治体制を「今後は維持しない」と、事実上の敗北宣言をしない限り、ECRRを受け入れるはずがないと思われます。ヨーロッパなどでECRRの勧告を「情報として確認したという」ことは伝え聞いていますが、各国の放射線防護基準に取り入れるように検討しているかは情報がありません。少なくとも採用している国は現在ないと思われます。
6.体内に取り込まれた放射線核種による健康被害の調査、とりわけ被曝住民にかんする数多くの歴史的な疫学的調査・研究の再検討をただちに要求する。そこには 日本の原爆生存者、およびチェルノブイリとその他の汚染地域にかんするデータの再調査、さらに被曝住民の体内に取り込まれた放射性物質にかんする独自のモニタリングも含まれている。
質問⑩、チェルノブイリだけでなく、「日本の原爆生存者」の再調査も必要と言っていますね。先生は原爆症認定訴訟にも関わっておりますが、日本政府の姿勢はどのようなものですか?
矢ケ崎:日本では原爆生存者だけではなく、可能な限り、死亡者も含め、原爆の放射線被害の再調査をする必要があります。アメリカの占領体制を通じて、徹頭徹尾、「核兵器を残虐兵器とみさせないため」に残留放射能による、とりわけ内部被曝の、放射線被害の隠ぺいが謀られてきたからです。占領軍は、日本3大台風と言われる枕崎台風の襲来後に、かろうじて残存した放射性物質の放射能強度を測定させ、「はじめからこれしか無かった」と科学的に粉飾させ、放射性降下物自体が事実上無かったことにしました。被爆者認定基準には内部被曝被害者が全く排除されています。これにより原爆生存者のあらゆる調査の指標が『内部被曝抜き』で実施され、また、放射性降下物による内部被曝等で被曝した市民を一切切り捨ててきたのです。原爆生存者寿命調査は、1950年10月1日に広島市・長崎市に在住している被爆者に限定され、それ以外の居住者や被爆以来1950年10月1日までに放射線により亡くなった被爆者に関する一切のデータを排除しているのです。
原爆症認定集団訴訟では、判決すべてが原告勝訴となり、その基礎には「内部被曝」が認定されています。しかし、国は未だに内部被曝を認定しようとはせず、 長崎の「被爆体験者」の集団訴訟では、旧来の内部被曝排除を止めようとしていません。一次訴訟の地裁判決は、原爆症認定集団訴訟の到達点を無視して、原告敗訴となっています。世界初の核戦争犠牲者を持つ日本において、内部被曝被害を含む全面的な核戦争犠牲者の記録を後世に残さなければなりません。私たちは、東電福島の放射能汚染から現実に市民の健康を守り、東電福島原発事故の正確な記録を人類史に残さねばなりません。そして、放射能被害を本質的に無くする、核兵器と原発を廃絶する立場に立って新しい日本を構築しなければなりません。
7.被曝を受けた人々がその放射線レベルを知ること、また被曝による潜在的な因果関係にかんして正確な情報を得ることは、個々人の人権であると見なす。
質問⑪、3・11後の日本をみると、SPEEDI情報の隠ぺいや事故後の居住地、農地、森林、河川、湖沼、海洋などの綿密な被曝線量の未調査、および食品、瓦礫、除染などのずさんな調査方法など目に余るものがありますが、先生は「正確な情報を得ることは個々人の人権である」という立場から日本の施策をみると、どのように考えられていますか?
矢ケ崎:一言でいえば、棄民政策。
「安全神話」は、テクニカルな意味で地震等に対する防護対策を拒否してきただけではありません。いのちを持つ住民に「原発の危険」を一切語らずに、真実を伝えないできました。その目的で、一切の放射能災害防護訓練などを行わせずに、東電はおろか、国をはじめとするあらゆる自治体に、事故の際の災害対策本部も設けさせなかったのです。原発の事故を最小限にとどめるテクニカルマニュアルも、住民保護の基本的マニュアルも、一切の命を守るシステムを欠いていたのです。これほどの人権剥奪は類例を見ないでしょう。原発の本当の危険を知らせないために、一切の「危ない」という情報をもたらす行為をさせなかったのです。「安全に見せるため」に、いのちを守るシステムの構築さえも排除したのです。住民は(日本国の主権者と全ての日本在住者)は、基本的権利として、正確に事実を知る権利があり、それを認知したうえで、事態に正確にどう対応するか、個々人のいのちを保全する自由があるはずです。個の尊厳は正確で誠実な事実報道があってはじめて保障されるものです。
しかし、これだけではありません。政府は積極的な意味で、住民を捨てています。逃れようとしていた住人に対して、汚染の事実を知らせず、スピーディーのシミュレーションも知らせずにいました。本来なら最も安全に保障されるべき避難も妨害されているのです。汚染の激しいところでは、「移住してください」という指示に従うことも含めて、「基本的な生存権を確保する」という本質的自由獲得に、政府は誠実に対処しなければなりません。日本政府はこのいのちに対する誠実さを持ち合わせていません。やがて顕わに示される被害に対しても、日本政府はあまりにも無知で野蛮です。主権国家として主権者を守らない国がありえましょうか?
8.医学的な調査および他の一般的効用を目的とした放射線利用の拡大について懸念している。
9.患者に放射線被曝の影響を与えない医療技術の研究にたいして、大幅な公的資金の投入がなされるべきであると勧告する。
質問⑫、上記8と9についての質問です。ECRR2003年勧告の「献辞」がアリス・メアリー・スチュアート女史に捧げられています。彼女の紹介とあわせて、医療技術における放射線利用の問題点を指摘していただきたいと思います。
矢ケ崎:1997年、欧州放射線リスク委員会が設立された時、アリス・スチュアートは初代委員長になるよう要請され、彼女はこれを承諾していたと言われます。しかし2002年、彼女は95歳で、そのたたかう科学者としての生涯を閉じました。ECRR2010年勧告の冒頭にも、「 ECRR2003年勧告は、電離放射線に対する人体の敏感な感受性を実証した最初の科学者である、アリス・メアリー・スチュワート教授にささげられた」と記されています。
医師であり疫学者であるアリス・スチュアートは、1956年に、胎内でX線に曝された子供は生後10年以内に癌を発症する確率が2倍も高いことを発見しました。以来、彼女は一貫して政府と軍、原子力産業を向こうに回し、低レベル放射線は有害である可能性があると訴え続けてきました。さらに妊娠3ヶ月以内にX線を受けた母親から生まれた子どもは、妊娠末期にX線を受けた母親から生まれた子どもに比べて10倍近くがんになりやすいことも確認されました。彼女の発見、「妊婦に対するX線照射は胎児の損傷をもたらす」という発見は、事実上世界中で受け入れられ、その後妊婦や乳児期の医療用X線照射は控えられるようになったのです。
彼女の発見は、ICRP(国際放射線防護委員会)を始めBEAR委員会(全米科学アカデミーの電離放射能の生物学的影響委員会BEIRの前駆的委員会)、国連科学委員会(UNSCEAR-原子放射線の影響に関する国連科学委員会)がそろって採用してきた見解を真っ向から否定するものだったにも拘らず、彼女の、具体的に事実を解明する探究心と真実を守り通す誠実さが、生まれ来る全てのいのちを放射線から防護する世界中の「常識」の獲得に至ったのです。アリス・スチュアートは、具体的で誠実な科学が、個の尊厳を守る願いと合体した時、実際にいのちが守られることを示してくれたのです。
しかしながら日本の医療被曝に関しては、CTスキャンの普及と共に世界一被曝量が多いとされます。医療X線・CTスキャンの被曝量は世界平均の6倍近くに上る(原子力安全研究協会)とされます。これによる被曝犠牲が最近大きな問題とされています。
この声明は署名者による見解を示したものであり、署名者が所属するいかなる機関の立場をも反映するものではない。
Professor Yuri Bandazhevski (Belarus)
Professor Carmel Mothersill (Canada)
Dr Christos Matsoukas (Greece)
Professor Chris Busby (UK)
Professor Roza Goncharova (Belarus)
Professor Alexey Yablokov (Russian Federation)
Professor Mikhail Malko (Belarus)
Professor Shoji Sawada (Japan)
Professor Daniil Gluzman (Ukraine)
Professor Angelina Nyagu (Ukraine)
Professor Hagen Scherb (Germany)
Professor Alexey Nesterenko (Belarus)
Dr Sebastian Pflugbeil (Germany)
Professor Michel Fernex (France)
Dr Alfred Koerblein (Germany)
Professor Inge Schmitz Feuerhake (Germany)
質問⑫、上記8と9についての質問です。ECRR2003年勧告の「献辞」がアリス・メアリー・スチュアート女史に捧げられています。彼女の紹介とあわせて、医療技術における放射線利用の問題点を指摘していただきたいと思います。
矢ケ崎:1997年、欧州放射線リスク委員会が設立された時、アリス・スチュアートは初代委員長になるよう要請され、彼女はこれを承諾していたと言われます。しかし2002年、彼女は95歳で、そのたたかう科学者としての生涯を閉じました。ECRR2010年勧告の冒頭にも、「 ECRR2003年勧告は、電離放射線に対する人体の敏感な感受性を実証した最初の科学者である、アリス・メアリー・スチュワート教授にささげられた」と記されています。
医師であり疫学者であるアリス・スチュアートは、1956年に、胎内でX線に曝された子供は生後10年以内に癌を発症する確率が2倍も高いことを発見しました。以来、彼女は一貫して政府と軍、原子力産業を向こうに回し、低レベル放射線は有害である可能性があると訴え続けてきました。さらに妊娠3ヶ月以内にX線を受けた母親から生まれた子どもは、妊娠末期にX線を受けた母親から生まれた子どもに比べて10倍近くがんになりやすいことも確認されました。彼女の発見、「妊婦に対するX線照射は胎児の損傷をもたらす」という発見は、事実上世界中で受け入れられ、その後妊婦や乳児期の医療用X線照射は控えられるようになったのです。
彼女の発見は、ICRP(国際放射線防護委員会)を始めBEAR委員会(全米科学アカデミーの電離放射能の生物学的影響委員会BEIRの前駆的委員会)、国連科学委員会(UNSCEAR-原子放射線の影響に関する国連科学委員会)がそろって採用してきた見解を真っ向から否定するものだったにも拘らず、彼女の、具体的に事実を解明する探究心と真実を守り通す誠実さが、生まれ来る全てのいのちを放射線から防護する世界中の「常識」の獲得に至ったのです。アリス・スチュアートは、具体的で誠実な科学が、個の尊厳を守る願いと合体した時、実際にいのちが守られることを示してくれたのです。
しかしながら日本の医療被曝に関しては、CTスキャンの普及と共に世界一被曝量が多いとされます。医療X線・CTスキャンの被曝量は世界平均の6倍近くに上る(原子力安全研究協会)とされます。これによる被曝犠牲が最近大きな問題とされています。
この声明は署名者による見解を示したものであり、署名者が所属するいかなる機関の立場をも反映するものではない。
Professor Yuri Bandazhevski (Belarus)
Professor Carmel Mothersill (Canada)
Dr Christos Matsoukas (Greece)
Professor Chris Busby (UK)
Professor Roza Goncharova (Belarus)
Professor Alexey Yablokov (Russian Federation)
Professor Mikhail Malko (Belarus)
Professor Shoji Sawada (Japan)
Professor Daniil Gluzman (Ukraine)
Professor Angelina Nyagu (Ukraine)
Professor Hagen Scherb (Germany)
Professor Alexey Nesterenko (Belarus)
Dr Sebastian Pflugbeil (Germany)
Professor Michel Fernex (France)
Dr Alfred Koerblein (Germany)
Professor Inge Schmitz Feuerhake (Germany)
Molyvos, Lesvos, Greece
質問⑬、最後に、3・11後の日本の市民が安全神話という「誤った科学」に騙されないで人権を護るためにどんなことが必要か、原爆症認定集団訴訟や福島集団疎開裁判にもかかわってきた沖縄在住の先生の助言をいただきたいと思います。矢ケ崎:東電、政府、原子力村、原発推進派が、「危険の中身を知らせないこと」を仕事としてきたその結果は、原発の爆発事故が起こった時、一体何が起こったのか、どうしたら良いか、等々、地元自治体にも何の情報も無く、あれよあれよと1年が過ぎました。今、原発事故は治まったとは決して言えない状況ですが、大量の放射性物質が空中を舞っている様な状況は一段落しました。そして半永久的に続く汚染が定着しました。この中で日本の市民は生活をしなければなりません。今、100年先をにらんで、市民のいのちとくらしを守るために、個人規模と社会的規模の仕組みを確立しなければ、日本の市民がすべて内部被曝の被害を受けることとなります。このために、何が本当のことなのか、市民が自ら学習する大運動を起こさなければなりません。政府が「安心」を説いて、放射能に関連するような病気を診察しないように圧力を掛け、住民を高汚染地帯に呼び戻そうとしているのが日本の哀しい現実ですが、市民が自分の命を守る術を科学的にも実践的にも獲得するしか道は無いのです。
昨年は「開き直って、楽天的に、最大防護を」というスローガンを、呼びかけとして掲げてきましたが、それを少し変えて、今年は「明晰に、楽天的に、最大防護を」としました。「明晰に」とは、「しっかり学習して本当のことを理解し、自らの生き方を決めましょう」という呼びかけです。もう一つ市民の皆さんと一緒にしたいことは、情報を隠したり、安全でない事柄を「安全」と言い切ったりする「科学に見せかけたウソ」を批判し、具体的で誠実な科学を、市民のいのちと生活を守る実際の力になる懸け橋にしたいことです。
原爆症認定集団訴訟では、放射性降下物が科学的粉飾により「事実上なかった」ことにした「専門家集団」がいました。その背後には巨大なアメリカ占領軍があったのですが、科学が占領支配の道具になっていたのです。しかし、科学者が「科学的粉飾」をした結果は、戦後ずっと内部被曝の被害をこうむった被爆者が「あなたは放射線を浴びてはいません」と言われ続けるウソの根拠を作ってしまったのです。私は、原告の皆さんとの集会等がある度に、「科学が、誠実で無かったばっかりに、皆さんに二重の苦しみを60年もさせることになりました。科学者のはしくれとして、まことに申し訳ありません。」とお詫びし続けました。市民の皆さんが、れっきとした科学的認識を勝ち取り、市民の生きる道として主張する以外には、この誤りの構造を正すことができないでしょう。市民が明晰に、科学的事柄についても生きる権利として主張することが、日本を改革する唯一の道です。
今、オスプレイの配備に反対し、普天間基地の撤去を目指して県民集会が準備されています(2012・9・9)。沖縄県民は、日米軍事同盟による土地略奪と人権破壊に「もう我慢ができない」と感じています。戦後67年、復帰後40年、全く住民を犠牲にした米軍基地維持構造は変化していません。県民の怒りは「ポイント オブ ノーリターン」を越え、「米軍基地即時全面返還しかない」ところに至っています。このことは、米軍に原爆投下を許し、市民に筆舌につくせぬ原爆被害を甘受させながら、被曝犠牲者隠しに全面的に協力してきた日本政府とアメリカ政府の関係が全くダブって見せつけられているということです。
沖縄の米軍基地は、国際法に真っ向から違反して、沖縄戦中と戦後、銃剣とブルドーザーにより、市民が生きている生活空間を力ずくで取り上げた、世界で類例を見ない強奪基地なのです。日本政府は、これをサンフランシスコ条約により、国家として容認し、沖縄自体を侵略国家:米国に割愛しました。放射線犠牲者隠しと、全く構造は同じものです。
振り返れば、私が学生を始めた60年代は、日本の主権をめぐって、衝撃を与えることに満ち溢れていました。60年安保後、アメリカは日本支配のそれまでの欠陥を反省し、新たな日本支配構想を展開します。それがケネディーライシャワー路線と呼ばれるものです。全面的に 日本支配の構造を変えようとするものでした。アメリカは、それまでの日本の諸勢力との関係を反省します。「自民党との連携は水も漏らさぬものであったが、 反対勢力には手を伸ばしてこなかった」。「今後は反対勢力と仲良くなり、懐柔できるものは懐柔させる。自民党が凋落した時に政党が変わっても自民党とまったく同じ政策を受け継ぐ政府を維持させることだ。そのためには革新勢力を分断し、懐柔できるものは懐柔し、孤立させるべきものは徹底して孤立させる。政治的側面だけでなく、労働運動、平和運動、市民運動、ジャーナリズム、等々あらゆる分野を、懐柔と分断で改造する」、という戦略でした。その実施手段は、政党 幹部を、労働運動幹部を、平和運動幹部を、報道陣を、学者を、国力上げてアメリカに招待し、厚遇を与え、日本に帰すことを手段としました。
今日、その結果を政界に見れば、60年代初頭にアメリカがもくろんだ構図どおりに変化させられてしまいました。70年代を通じて革新勢力は共産党を含めて共闘を結び、怒涛のごとく選挙で勝利して行き、「革新政府実現間近」を感じさせるものがありました。しかし、1980年に、「社会・公明」合意により「共産党を相手にせず」という野党の体制が宣言されました。一切の革新共闘が持てなくなりました。日本の政党は、60年安保以前は、きちんと政党として独立した基盤を持ち、綱領に、同じ目的を含めば、自己判断により共闘をする判断力を有していました。それがアメリカと財界の意を伺って行動する政党に変化させられてしまいました。アメリカの戦略どおりの日本にさせられてしまいました。市民は閉塞感を感じ、「もうどうしようも無い」という怒りは、いま変革の方向に変わりつつあります。
労働運動でも、平和運動でも、市民運動でも、分断が見事に持ち込まれ、運動は、例え互いに同じ目標を持っていても、決して一緒に共闘することはなくなりました。日本市民が、自ら分断を欲したのでは決してありません。アメリカの国家を上げた戦略によって日本の社会状況が変えられたのです。しかし、今の日本は、自ら感じ、自ら考え、自ら行動する、市民が圧倒的に増えようとしています。今までの「うんどう」の枠組みが変化しつつあります。
青年期の私に、激烈な衝撃を与えたのは「沖縄の祖国復帰」でした。沖縄県民がきちんと団結することによって、巨大な、アメリカと日本の政治枠組みを変更させたのでした。この出来事は、妻と私は広島で生きようとしていたのですが、「沖縄に行くこと」 を私どもの将来の選択肢に入れさせてしまいました。ちょうど就職先が琉球大学にあり、「教育と研究の基盤整備なら、私にもできるはず」と沖縄にわたりました。1974年のことでした。以来、沖縄県民の団結は重要ポイントでは決して分断を許さず、本土各県の状況と異なった「革新勢力がちゃんと共闘する」ことを実現させる住民力を示してきまし た。この沖縄にいて、内部被曝問題に取り組むことに生涯を通しての因縁を感じていますが、此処に新たに東電フクシマ事故が追加されました。沖縄の施政権返還のたたかいのように、住民力で日本の構造を変えないといけません。
日本市民は、もうそろそろ他国に植民地のごとく支配される歴史を、絶とうではありませんか。主権者であることを誇りとする市民が、日本の主権を誇りとする政府をつくることです。今、貴重な住民力がいきいきと、主権者らしい住民の力を発揮しつつあります。主権の自覚は市民の命と暮らしを守ります。私たち日本市民、学習し、自ら考え、行動し、市民と日本の主権を回復するために頑張りましょう。
(以上、【市民版レスボス宣言2009―矢ヶ崎克馬解説・監訳】終了)
【解説・監訳者紹介】矢ヶ崎克馬氏:1943年生まれ。沖縄県在住。広島大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士。専攻は物性物理。琉球大学理学部教授。理学部長などを経て、2009年3月、定年退職。琉球大学名誉教授。2003年より、原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言。東日本大震災以後は、福島市ほか各地で放射能測定を実施、全国各地で講演をしている。2011年12月に設立された「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の設立呼びかけ人。福島集団疎開裁判にて意見書提出。著書に『隠された被曝』(新日本出版社)、『力学入門(6版)』(裳華房)など、共著には『地震と原発今からの危機』(扶桑社)、『3・11原発事故を語る』(本の泉社)、『内部被曝』 (岩波ブックレット)などがある。2012年、久保医療文化賞受賞。
今、オスプレイの配備に反対し、普天間基地の撤去を目指して県民集会が準備されています(2012・9・9)。沖縄県民は、日米軍事同盟による土地略奪と人権破壊に「もう我慢ができない」と感じています。戦後67年、復帰後40年、全く住民を犠牲にした米軍基地維持構造は変化していません。県民の怒りは「ポイント オブ ノーリターン」を越え、「米軍基地即時全面返還しかない」ところに至っています。このことは、米軍に原爆投下を許し、市民に筆舌につくせぬ原爆被害を甘受させながら、被曝犠牲者隠しに全面的に協力してきた日本政府とアメリカ政府の関係が全くダブって見せつけられているということです。
沖縄の米軍基地は、国際法に真っ向から違反して、沖縄戦中と戦後、銃剣とブルドーザーにより、市民が生きている生活空間を力ずくで取り上げた、世界で類例を見ない強奪基地なのです。日本政府は、これをサンフランシスコ条約により、国家として容認し、沖縄自体を侵略国家:米国に割愛しました。放射線犠牲者隠しと、全く構造は同じものです。
振り返れば、私が学生を始めた60年代は、日本の主権をめぐって、衝撃を与えることに満ち溢れていました。60年安保後、アメリカは日本支配のそれまでの欠陥を反省し、新たな日本支配構想を展開します。それがケネディーライシャワー路線と呼ばれるものです。全面的に 日本支配の構造を変えようとするものでした。アメリカは、それまでの日本の諸勢力との関係を反省します。「自民党との連携は水も漏らさぬものであったが、 反対勢力には手を伸ばしてこなかった」。「今後は反対勢力と仲良くなり、懐柔できるものは懐柔させる。自民党が凋落した時に政党が変わっても自民党とまったく同じ政策を受け継ぐ政府を維持させることだ。そのためには革新勢力を分断し、懐柔できるものは懐柔し、孤立させるべきものは徹底して孤立させる。政治的側面だけでなく、労働運動、平和運動、市民運動、ジャーナリズム、等々あらゆる分野を、懐柔と分断で改造する」、という戦略でした。その実施手段は、政党 幹部を、労働運動幹部を、平和運動幹部を、報道陣を、学者を、国力上げてアメリカに招待し、厚遇を与え、日本に帰すことを手段としました。
今日、その結果を政界に見れば、60年代初頭にアメリカがもくろんだ構図どおりに変化させられてしまいました。70年代を通じて革新勢力は共産党を含めて共闘を結び、怒涛のごとく選挙で勝利して行き、「革新政府実現間近」を感じさせるものがありました。しかし、1980年に、「社会・公明」合意により「共産党を相手にせず」という野党の体制が宣言されました。一切の革新共闘が持てなくなりました。日本の政党は、60年安保以前は、きちんと政党として独立した基盤を持ち、綱領に、同じ目的を含めば、自己判断により共闘をする判断力を有していました。それがアメリカと財界の意を伺って行動する政党に変化させられてしまいました。アメリカの戦略どおりの日本にさせられてしまいました。市民は閉塞感を感じ、「もうどうしようも無い」という怒りは、いま変革の方向に変わりつつあります。
労働運動でも、平和運動でも、市民運動でも、分断が見事に持ち込まれ、運動は、例え互いに同じ目標を持っていても、決して一緒に共闘することはなくなりました。日本市民が、自ら分断を欲したのでは決してありません。アメリカの国家を上げた戦略によって日本の社会状況が変えられたのです。しかし、今の日本は、自ら感じ、自ら考え、自ら行動する、市民が圧倒的に増えようとしています。今までの「うんどう」の枠組みが変化しつつあります。
青年期の私に、激烈な衝撃を与えたのは「沖縄の祖国復帰」でした。沖縄県民がきちんと団結することによって、巨大な、アメリカと日本の政治枠組みを変更させたのでした。この出来事は、妻と私は広島で生きようとしていたのですが、「沖縄に行くこと」 を私どもの将来の選択肢に入れさせてしまいました。ちょうど就職先が琉球大学にあり、「教育と研究の基盤整備なら、私にもできるはず」と沖縄にわたりました。1974年のことでした。以来、沖縄県民の団結は重要ポイントでは決して分断を許さず、本土各県の状況と異なった「革新勢力がちゃんと共闘する」ことを実現させる住民力を示してきまし た。この沖縄にいて、内部被曝問題に取り組むことに生涯を通しての因縁を感じていますが、此処に新たに東電フクシマ事故が追加されました。沖縄の施政権返還のたたかいのように、住民力で日本の構造を変えないといけません。
日本市民は、もうそろそろ他国に植民地のごとく支配される歴史を、絶とうではありませんか。主権者であることを誇りとする市民が、日本の主権を誇りとする政府をつくることです。今、貴重な住民力がいきいきと、主権者らしい住民の力を発揮しつつあります。主権の自覚は市民の命と暮らしを守ります。私たち日本市民、学習し、自ら考え、行動し、市民と日本の主権を回復するために頑張りましょう。
(以上、【市民版レスボス宣言2009―矢ヶ崎克馬解説・監訳】終了)
【解説・監訳者紹介】矢ヶ崎克馬氏:1943年生まれ。沖縄県在住。広島大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士。専攻は物性物理。琉球大学理学部教授。理学部長などを経て、2009年3月、定年退職。琉球大学名誉教授。2003年より、原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言。東日本大震災以後は、福島市ほか各地で放射能測定を実施、全国各地で講演をしている。2011年12月に設立された「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の設立呼びかけ人。福島集団疎開裁判にて意見書提出。著書に『隠された被曝』(新日本出版社)、『力学入門(6版)』(裳華房)など、共著には『地震と原発今からの危機』(扶桑社)、『3・11原発事故を語る』(本の泉社)、『内部被曝』 (岩波ブックレット)などがある。2012年、久保医療文化賞受賞。
■市民版ECRR2010勧告の概要:配信にあたってhttp://peacephilosophy.blogspot.ca/2012/04/ecrr2010.html
■市民版ECRR2010勧告の概要本文と解説前半(翻訳 松元保昭 解説・監訳 矢ケ崎克馬)https://docs.google.com/open?id=0B6kP2w038jEAcE5hZDNnTlp1NjA
■市民版ECRR2010勧告の概要本文と解説後半(翻訳 松元保昭 解説・監訳 矢ケ崎克馬)https://docs.google.com/open?id=0B6kP2w038jEAWE5IVEZwdVI3Zmc
■ECRR2010勧告原文(英語)はこちらです。http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/pdf/ECRR_2010_recommendations_of_the_european_committee_on_radiation_risk.pdf