再び、朝鮮高級学校を「高等学校等就学支援金の支給に関する法律」の適用外としていることに反対する「カナダ9条の会」の声明
2018年3月25日に、私たちは“朝鮮学校を「高校無償化」適用外としていることに反対するカナダ市民、住民の声明”を出した。そこに書いた内容について、私たちの考えは今も全く変わっていない。しかし、朝鮮学園の訴えを全面的に認めた一審・大阪地裁の判決が本年9月27日に大阪高裁で却下され、学園側の逆転敗訴となったことを受け、3月の声明とは別の視点から、再度、反対声明を書くことにした。なお3月の声明では、「高校無償化法」となっている法律の名称が「高等学校等就学支援金の支給に関する法律」と改められたので、ここではそれを使う(以下「支給法」という。)。
日本政府は、朝鮮学校の創立間もない頃から、継続的に民族教育を妨害、弾圧してきた。殊に重要ないくつかを、時代順に挙げてみる。
1948年1月、GHQの指示で文部省は、朝鮮人であっても学齢に該当するものは、日本の市町村立または私立の小学校、中学校に就学させなければいけないという内容の通達を出し、全国各地の朝鮮学校に3月から閉鎖令が出された。当時、全国に小学校だけでも556校の朝鮮学校があった。学校が特に多かった阪神地区では、学校を守ろうとする大規模な抗議集会が連日開かれ、これに対し、占領軍司令部は近畿地区に戒厳令を敷いて集会を制圧した。16歳の少年が警察に射殺されるという犠牲を出した阪神教育闘争である。その後、朝鮮学校側代表と文部省の間で覚書が交換され、学校は辛うじて残されたが、翌1949年に今度は在日朝鮮連盟を非合法にして、解散させた上で、学校閉鎖令が再び出された。朝鮮学校は、日本の公立学校内の朝鮮学級や分校とされるか、認可のない自主学校や夜間学校となった。(補注:公立の朝鮮学校については、「都立朝鮮人学校の日本人教師」梶井陟著、岩波現代文庫に詳しい。朝鮮人学校と言いながら、正規の教師は全て、朝鮮語を知らない日本人で、朝鮮人教師は非常勤のみという変則的な学校だった。)
1952年の対日平和条約発効で日本は沖縄を置き去りにした形で独立国になったが、その発効の日に日本政府は、旧植民地出身者の日本国籍喪失を宣告し、翌年2月に文部省は都道府県教育委員会に在日朝鮮人は日本国籍を有しないから、就学年齢に達しても学籍簿に登載の必要はない等の通達を出した。この通達が元で、保護者・教職員組合と教育委員会との間に対立が起き、結局、都立朝鮮人学校、全15校は1955年に廃校された。廃校が決定した時、大達文部大臣(当時)は、「朝鮮人学校は廃校にすべきであり、朝鮮人の集団教育は認めない」と談話を発表した。
1965年に、日韓条約が締結されると、文部省は2つの通達を出した。①は、(朝鮮人学校は)「教育課程の編成実施について、特別の取り扱いをすべきではない」②は、「民族性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、我が国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められない」というものである。①の通達で、各地の公立の朝鮮学校は全て、閉鎖された。1965年12月4日の参院日韓特別委員会で佐藤首相(当時)は、「(在日朝鮮人の民族教育について)もしそれが植民地を解放して独立したのだ、独立した教育をしたいのだ、ということであれば、それはその国においてなさることは良い。ここは日本でありますから、日本にそれを要求されることは、いかがかと私は思うのであります。はっきり申し上げておきます」と言っている。
この2つの通達と首相発言には、日本がその植民地支配の中で、朝鮮の人たちから言語や文化を奪ってきた事実に対する責務感覚はおろか、認識さえない。各種学校としても認可すべきでないという通達の意思は、全ての朝鮮学校が各種学校として認可された今も(各種学校の認可権は都道府県知事にあって、文部省ではない)、他の外国人学校と差別する根底にあるのではないか。
2003年は、日本の大学への入学資格を巡って、文科省が従来の方針を大きく変えざるを得なくなった年だ。日本国内にある全日制外国人学校は全て、各種学校扱いで、その卒業生が日本の大学を受験するには、大検に合格する必要があるというのが、長い間の文科省の方針だった。これが問題になったのは1990年代だ。まず朝鮮学校出身の京都大学生が後輩に同じ苦労をさせたくないと運動を起こし、大学教員や日本弁護士会も活動を始めた。一方、インターナショナルスクールの卒業生の受験資格について、ドイツ大使も日本政府に抗議した。
その結果、2003年3月に文科省は欧米系のインターナショナルスクールに限って、大学受験資格を認め、朝鮮学校、韓国学校、中華学校などのアジア系民族学校には認めないという方針を打ち出した。しかし、これには市民も巻き込んで、猛反対が起こり、再考を余儀なくされ、8月になって、①インターナショナルスクールのように国際的な評価機関が認定している、②本国で正規の教育機関として認められている、③個々の大学が独自の判断で資格を与える、上記の何れかに該当すれば大検を経ずに受験資格が得られることになった。これによって、欧米系インターナショナルスクール、韓国学校、中華学校は①または②の資格で日本国内の全ての大学への受験資格を得たが、朝鮮学校は、(本国と国交がないため)教育課程が確認できないという理由で③の資格になった。
幸い、かなりの数の私立、公立の大学が文科省より柔軟な考えで、この決定以前から、朝鮮学校も含めて、独自の判断で受験資格を出していたが、この決定で国立大学にも受験資格が得られるようになった。今では、国公私立の大多数の大学が朝鮮学校生徒の受験を受け付けているから、状況は格段に良くなったことは確かだ。しかし、あくまで大学独自の判断ということだから、独自の判断で大検を要求することも出来るわけで、実際、そのような対応をした大学の例も少数ながらある。
朝鮮学校のみ、卒業資格が受験資格に自動的に繋がらないのは、明らかな差別で、その理由も全く合理性を欠くものだ。朝鮮学校は戦後すぐに、それまで自分たちの言語を奪われていた在日朝鮮人が子どもたちに母国語を教えるために言語講習所として作ったのが前身で、それが徐々に体系的な民族教育学校へと発展したものだ。朝鮮民主主義人民共和国の教育課程に沿って作られたのではないことは、必須教科に日本語が入っいることなどで明らかだ。また、朝鮮学校は、日本国内にあるのだから、教育課程を確認したければ、文科省が直接に確認することは至って簡単なはずだ。
このような差別と弾圧の歴史の延長線上に、朝鮮学校への「支給法」の不適用はあるのだと私たちは思う。そうでなければ、朝鮮学校が「支給法」に申請する場合の根拠となる省令の規定(省令1条1項2号(ハ))をある日、削除してしまうことなど到底出来ない。この規定が存在していれば、認可せざるを得ないから、削除したことは明らかだ。朝鮮学校が“(ハ)高等学校の課程に類する課程を置くもの”であることは、日本の国公私立大学の大多数が2003年以来、認めてきたことであるのだから。
一審の大阪地裁では、この規定削除が違法であり、無効と断じたが、大阪高裁はこの削除に関しては、一切言及していない。一審判決の根拠となっている部分に触れずに一審を却下しているのだ。高裁は、大阪朝鮮高級学校について、“教育基本法、学校教育法等の法令に違反することを理由とする行政処分は行われていない”と認めながらも、朝鮮総連との関係が“教育の自主性をゆがめるような支配を受けている疑い”があるとしている。
朝鮮総連は1955年の結成時から、学校閉鎖令で激減した朝鮮学校の再建を活動の最優先事項の一つにして来た団体だから、深い関係があるのは当然である。それが教育の自主性をゆがめているかどうかは、生徒や保護者が判断することで、事実、保護者からの要請で、朝鮮学校の教育内容、副教材なども、最近は大きく変化していると聞く。教育関連法案違反で処分されたことが過去に一度もなく、生徒、保護者もその教育内容に満足しているのであるなら、行政や司法がその上、何を口出しする必要があるのか。それこそ、教育の自主性をゆがめる、権力の不当な支配そのものである。
高校無償化法(支給法)施行から8年。その間、朝鮮学校のみが適用外とされてきた経過は、学校が指定申請してから2年以上も結論を引き延ばした民主党政権、省令の規定を削除して、不指定を決定した自民党政権共に、政治判断のみでことを処し、当然の権利を享受すべき生徒たちが政治に翻弄され続けた8年であった。教育の機会均等に寄与することを目的とした法の施行に、ある一つの民族の学校のみを除外するなどということが、差別でなくて何であろう。
本来ならば、画期的な法律であったはずのものが、朝鮮学校のみを除外することで、稀代の差別法の様相を呈していることを心から残念に思う。国連人種差別撤廃委員会も2014年に続いて再度、本年8月、「就学支援金」支給において朝鮮学校を差別しないよう勧告している。
朝鮮高級学校に「高等学校等就学支援金の支給に関する法律」を直ちに適用することを日本政府に強く訴える。その為に日本で闘っている全ての人に連帯すると同時に、一人でも多くの日本人が、朝鮮学校に対するいわれのない誹謗・中傷を跳ね除け、連帯することを強く望む。
2018 年10月 24日
カナダ9条の会
(文責: 長谷川澄)
注:「カナダ9条の会」は、モントリオール、バンクーバー、トロントの「9条の会」のメンバーや、カナダの他の場所で、9条を生かし平和を創る理念に賛同している市民の横のつながりです。
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