(前文:乗松聡子)
歴史的な南北首脳会談は和平に向けた地ならしとなった(それに対するワシントンの評論家たちの憎悪反応)
米国の評論家たちはこの会談を素直に受け取らず、特に金正恩が手を差し伸べたことについては、危険な出来事であるかのように言った。
ティム・ショロック
Tim Shorrock |
2018年5月2日、『ザ・ネイション』
2018年4月27日は朝鮮半島にとって、また悲劇的に分断されたこの半島の南北に住む何千万もの人々にとって、歴史的な日となった。計画に細心の注意が払われた式典で、北朝鮮の世襲独裁者、34歳の金正恩[キム・ジョンウン]は、停戦監視の村である板門店[パンムンジョム]を通る境界線を注意深く踏み越え、民主的に選ばれた韓国の文在寅[ムン・ジェイン]大統領と固い握手を交わした。
この金正恩の行動で始まった記念すべき日、1950年から1953年に国土を引き裂いた朝鮮戦争の終結を、両国は「厳粛に宣言した」。「あなたが軍事境界線を初めて越えたとき、板門店は分断の象徴から平和の象徴になりました」と述べた文在寅は、1950年に南へ逃れた2人の北朝鮮難民の息子だ。学生活動家から人権弁護士となり盧武鉉[ノ・ムヒョン]元大統領の首席補佐官を務めた文在寅は、2017年の大統領選に民族和解の日を実現するという公約を掲げて立候補した。
この後の数時間、南北両首脳は、側近と外交官、軍司令官と諜報機関の長官らとともに、朝鮮半島の「完全な非核化」と二人が呼ぶものに発展すると期待される協定について議論した。また二人は「朝鮮半島の国家の運命を自ら決定するという原則を確認」し、分断された国家に大国が介入する時代は終わりに近付いているというメッセージを米中両国に送った。
入念に整えられた4月27日の式典は、韓国と世界中に生放送され、ここで調印された板門店宣言の全文には、永続的な平和構築のため北と南の「各界各層」が取るべき強い意思表示が込められ、主要な鉄道と道路を再建し、境界線にある開城[ケソン]市に恒久的な連絡事務所を開設し、市民交流・スポーツ交流を組織し、離散家族を再会させることなどが含まれている。この大きな飛躍の前年、米国と北朝鮮は緊張関係にあり、韓国を照準に捕らえながら千鳥足で戦争に向かっているようだった。
その可能性を和らげるため、文在寅と金正恩は、「終戦を宣言し、恒久的で強固な平和体制構築に向け」、米国を含めた「三者会談を積極的に推進」し、後に中国も含めることを合意した。(朝鮮戦争で国連軍を率いた)米国と、(その後に米軍を北朝鮮から追い出した)中国の参加が必要とされるのは、1953年に戦闘を終結させた休戦協定に署名したのが、この両国と北朝鮮だけだったからだ。(当時の韓国指導者、右翼独裁者の李承晩[イ・スンマン]は、韓国の軍司令官が休戦協定に署名するのを許さなかった。)
南北首脳会談は、近く行われる金正恩とトランプ大統領の会談に向けた地ならしを意図したもので、それは米政府によると5月末までに実施され、開催地は板門店となる可能性が高いという。(シンガポールとモンゴルも候補に挙がっている。)核開発とミサイル開発の計画を、話し合いによる手続きを経て中止するために協議すると金正恩が約束したことを、ワシントンで文在寅の代表団から聞いたトランプは、金正恩との会談要請を受け入れた。金正恩の約束は、その後4月初めに当時の中央情報局(CIA)長官マイク・ポンペオが平壌[ピョンヤン]で前代未聞の会談を行ったとき、直接本人から確認した。
5月2日にポンペオはトランプ政権の新しい国務長官に就任し、予定されている会談が、北朝鮮の核開発計画を終わらせるよう交渉する「本物のチャンス」になると語った。その一方、金正恩はすでに一方的な譲歩をしていた。文在寅との首脳会談の前、金正恩は全ての核実験とミサイル実験をすでに停止し、豊渓里[プンゲリ]山中の地下にある同国唯一の核実験施設を閉鎖予定で、平和協定の一環として在韓米軍の駐留を受け入れると発表した。
さらに、米国が北朝鮮を侵略しないと約束するなら金正恩は核を放棄すると誓い、5月に豊渓里の地下実験トンネルの解体に立ち会うため、国際査察団とジャーナリストの入国を許可すると語ったことを、その週末に文在寅の報道官が明らかにした。
「私が核(兵器)を韓国に打ち込んだり、太平洋越しに米国を標的にしたりするような人物でないことは、対話を通して明らかになるでしょう」と金正恩が語ったことを、韓国政府関係者が伝えた。ワシントンの専門家集団にとって衝撃だったのは、自分たちが実現するはずがないと長らく主張してきた歴史的会談の翌日に、北朝鮮の政府公式メディアが首脳会談を大きく報じ、金正恩が「核のない朝鮮半島」を約束したことを公に認めたことだった。
韓国人は、朝鮮戦争当時の侵略のために北朝鮮に恐怖と嫌悪を抱く人々でさえ、金正恩が語るのを初めて聞いたとき心を動かされた。「とても近くに暮らす私たちは、互いに戦い合わねばならぬ敵同士ではなく、むしろ同じ血筋を持つ家族であり、一つになるべきです」と、スイスで教育を受けた金正恩は板門店での短い演説で述べた。多くの評者は、皮肉屋のアメリカ人やジャーナリストたちでさえもが、金正恩の論調は和解への意欲を伝えるため大幅に和らいだことを指摘した。
「金正恩は韓国を正式国名で呼び、北朝鮮を韓国式の国名で呼んだ」と、『ワシントン・ポスト』のアナ・ファイフィールドは首脳会談を伝える非常に楽観的な記事に書いた。金正恩は「北朝鮮の道路と鉄道が韓国よりはるかに劣っていること、北朝鮮人の中には国外に逃れた者がいること、北朝鮮による攻撃のために韓国人が最近亡くなったことを認めさえした。」
韓国人は金正恩が境界線を越えた後で見せた身振りにも心打たれた。韓国大統領府の発表によると、出迎えた文在寅が「私はいつ境界線を越えられるのでしょう」と言った。「それでは今、越えてみますか」と金正恩が答え、文在寅の手を取り一緒に北朝鮮へと踏み越えた。「二人が即興で形式張らずに境界線を越えたのは、これまで考えられないことだった」と、バージニア州在住の朝鮮系アメリカ人活動家ソ・ヒョクキョは本誌に語った。
だがこの最初の握手の瞬間から、米国メディアの北朝鮮報道を形作る評論家たちは、首脳会談についての印象操作を行い、特に金正恩が手を差し伸べたことを、危険で不吉な出来事だとした。この集団思考は、3月にトランプが金正恩と面会すると発言したとき、評論家たちが当初うろたえたのと同様だった。
長年にわたるタカ派のマックス・ブートは『ワシントン・ポスト』に、「南北首脳会談の大騒ぎ」について軽蔑的に「うんぬんかんぬん」と書き、「意味のある内容はほとんど無い」と加えた。同様のホットテイク[報道記者が十分な調査・思考をせずに、急いで書いた記事]を、ニコラス・クリストフとニコラス・エバーシュタットが『ニューヨーク・タイムズ』に、ジェニファー・ルビンが『ワシントン・ポスト』に、ロビン・ライトが『ザ・ニューヨーカー』に、マイケル・E・オハンロンが『ザ・ヒル』に書いた。この筆者たちの疑いの眼差しを、ケーブルテレビ局の常連批評家たちが金科玉条のように声高に繰り返した。
極めつきは、4月29日に『ニューヨーク・タイムズ』のマーク・ランドラーが、南北首脳会談を米国の国家安全保障に対する侮辱と描写したことだった。ランドラーは権力層の評論家を手当たり次第に引用し、韓国と北朝鮮が外交関係を回復すれば「北朝鮮に対する厳しい経済制裁がなし崩しになることは避けられない」一方、「和解提案をしている国を軍事行動で脅す」ことはトランプにとって難しくなると主張した。米国の韓国に対する帝国主義的支配をこれほど公然とメディアで応援されるのは、気が滅入るものだった。
もちろん、金正恩と文在寅の合意が実現するために、これから多くの困難な交渉が待っている。だがもし平和が到来するとしたら、それはトランプの強硬政策やワシントン知識人が上げた悲嘆の声の結果ではないだろう。それは、文在寅の外交と、朴槿恵[パク・クネ]のタカ派政権を打倒した昨年の「キャンドル革命」で、彼を大統領の座に押し上げた大衆運動からの支持の賜物だろう。南北首脳会談後の世論調査では、88.4%という圧倒的多数の韓国人は文在寅が金正恩と合意したことを称賛し、大統領自身の支持率は実に85.7%に上った。韓国国民は、ワシントンの自称韓国支持者たち以上に、和平プロセスを信じているようだ。
アメリカの活動家たちも重要な役割を演じた。国際女性団体「ウィメン・クロス・DMZ」(指導者は、創設者のクリスティーン・アンと、フェミニストのグロリア・スタイネム、米陸軍を退役した元外交官のアン・ライトの3人)は、2015年に韓国の支持者と一緒に境界線を越えて北朝鮮入りし、北朝鮮の運動支持者に会って、外交が緊急課題であることを話し合った。米韓の市民組織と宗教組織が、朝鮮戦争を終わらせるための条約を強く求めてきた。プラウシェア基金や、アメリカン・フレンズ奉仕委員会、「ウィン・ウィザウト・ウォー」、「ピース・アクション」などの平和運動団体が、朝鮮半島問題を米国連邦議会と米国政府に伝え、一般大衆に広めた。
その一方、米国の「コード・ピンク」、「ベテランズ・フォー・ピース」、全米反戦労組連合(首脳会談のあと労働組合の代表団をソウルに送り、メーデーの日に韓国の労働者と共に示威運動した)などの平和反戦組織と、韓国の市民団体との間で進む連携が生んだ環太平洋ネットワークは、朝鮮半島の和平プロセスを支持し、ワシントンのタカ派や否定論者に対抗する力強い声に加勢している。
「私たちは韓国の運動から人々が結集する素晴らしい力について学びました」と、クリスティーン・アンは本誌にて語った。「我々は米国市民としてこの戦争を終わらせる責任があります。結局は、米国こそが朝鮮半島の分断に加担し、朝鮮戦争で北朝鮮を完全に破壊し、それ以来ずっと朝鮮半島の戦争状態を煽ってきたのです。朝鮮戦争を終わらせ、朝鮮半島の人々を一つにしてあげられるかどうかは、私たちアメリカ人次第なのです。」
(翻訳:酒井泰幸)
ティム・ショロックはワシントンD.C.に本拠を置くジャーナリスト でSpies for Hire: The Secret World of Intelligence Outsourcing (『雇われるスパイ:諜報活動の密かな外注化』)の著者。
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