トランプ米大統領は1月11日に、中米やアフリカの移民を「クソ溜め」 (shithole) という汚い言葉を使って罵倒した。
今回紹介するジョン・フェファー氏の文章はこれを受けて書かれたものだが、トランプを糾弾しつつ、外交政策においては米国というシステムが継続しているだけだということがよくわかる。
トランプが『ある意味で米国を侵略し、彼お得意の「炎と怒り」を自国で解き放った』とフェファー氏は書いているが、ウォルマートに代表される巨大ショッピングモールがアメリカの地域経済を破壊してしまったことは1990年代から指摘されていたし、リーマンショックの衝撃はローンで住宅を買った人々を直撃したのに金融機関は税金で救済された。それでも米政府は国民のために政治を行っているというタテマエが、オバマ政権まではあったのかもしれない。このタテマエをトランプは破壊し、米国の化けの皮が剥がれただけのことだろう。
そして露わになったのは、自分の仲間とは感じられない「よそ者」の住む「クソ世界」を搾取することで成り立っている帝国主義と植民地主義の構造が、入れ子のように自国内にも存在するという米国の姿だ。
自国民の99%を「クソ溜め」扱いするのは日本も同じだ。沖縄が日本政府にとってのクソ溜めであるのは言うまでもないし、原発もクソ溜め地域に押し付けたのだ。大企業と富裕層を利する政策は明らかで、もはや日本は大量の非正規雇用労働者によって維持される状態になっている。正社員でさえ裁量労働制によって実質的な時間給の切り下げが行われた。それでもなお自民党的政策を支持するのは、「会社を守る政策が自分の生活を守ってくれる」という刷り込みだ。自分を会社にアイデンティファイ(同一視)し盲目的に従うイデオロギーのようなものは、アメリカ第一主義の鏡像のように見える。
トランプで世界が悪くなったと思っているリベラルは、「昔はタテマエが生きていたから良かった」と感傷的に思っているだけということになろうか。世相が露骨にギスギスしてきたという点ではその通りかもしれないが。
善良なタテマエの崩壊という現象は、自動車の「顔」がリーマンショックを境に「ワル化」したことによく現れている。自動車のスタイリングは綿密な市場調査に基づいて決定されるので、世相をかなり反映する。20世紀末までは、能面で言えば「小姫」のような、ふくよかで柔和な顔が主流だったのに、21世紀的スタイルはすっかり「般若」の面構えになってしまった。ワルを気取ってヘイトを吐き出すことへの心理的抵抗が失われてしまったかのようだ。
これは、リーマンショックに典型的に現れた社会の真の姿、民主主義の仮面の下に隠されていた容赦ない金持ち優遇に対する、被害感情や怒りが世間に満ちてきたことの表れだろう。そのような感情を利用して、トランプが大統領にのし上がった、つまりトランプが世界を壊したのではなくて、世界が壊れた結果としてトランプが大統領になったという因果関係なのだと思う。
原文:The U.S. Has Treated Poor Countries Like Shitholes for Decades
http://fpif.org/u-s-treated-poor-countries-like-shitholes-decades/
(前文・翻訳:酒井泰幸)
★翻訳はアップ後微修正することがあります。
貧しい国々を何十年もクソ溜めのように扱ってきた米国
ジョン・フェファー著、2018年1月17日
米国がノルウェーに侵攻したことはない。米国がオスロを爆撃したことはない。米国がノルウェー人を一斉検挙してグアンタナモに送ったことはない。
米国の外交官の中には、ノルウェーの料理が味気なくて夜遊びが退屈だという理由で、この国を「クソ溜め」(shithole) と呼ぶ人がいるのかもしれないが、重要なのは米国がノルウェーを「クソ溜め」として扱ったことはないということだ。
言葉と行動とでは雲泥の差がある。
ドナルド・トランプは先日、米国はアフリカや、ラテンアメリカ、カリブ海の「クソ溜め」諸国からの移民受け入れを止め、代わりにノルウェーのような所から人を連れてくるべきだとコメントして、ますます結束を強める彼の支持基盤を別にすれば、あらゆる人々を憤慨させた。
ボツワナやハイチからエルサルバドルまで、そしてノルウェーさえも、各国政府はトランプ大統領を非難した。国連人権高等弁務官のルパート・コルビルは、トランプ大統領を「人種差別主義者」と呼んだ。数人の共和党議員まで、この最高「誹謗」官から距離を置くようになった。
だがこの怒りの全ては途方もなく的外れだ。トランプは米国外交政策の根底にある原理を言葉にしただけだった。政策立案者が少なくとも公にはそう呼ばなかったとしても、米国は各国を何十年にもわたり「クソ溜め」のように扱ってきた。
トランプは人種差別主義者で、うっかり口走る陰口は侮辱的だ。そこに疑いの余地はない。だが本当に有害なのは言葉よりも、実際の米国外交政策のほうだ。ではなぜ人々は、はるかに残忍な米国外交政策の横暴ではなく、ドナルド・トランプの率直な言葉に憤慨するのだろうか。米国政府内にいる大勢の人種差別主義者たちが同じように考えていることを、ただ口にしただけなのに。
侮辱の後には流血が
あらゆる軍隊では敵を非人間化するように兵士を訓練する。敵を人と思うなら、眉間を銃で撃つのはとても難しい。
同じことが国についても言える。ある国を文明国だと思うなら、そこを爆撃して石器時代に逆戻りさせるのはとても難しい。
米国は1世紀以上にわたる帝国主義的野望の中で、長らく他の国々を「クソ溜め」扱いにしてきた。アメリカ帝国の初期、米国はフィリピンに、よそ者の土地という汚名を着せた。セオドア・ルーズベルト海軍次官が言ったように、そこは「野蛮人、未開人、粗野で無知な種族」でいっぱいの場所だった。このような言葉の上での非人間化によって、米軍は2万人のフィリピン兵を殺しやすくなり、3年間で20万人以上のフィリピン民間人が死んだ戦争は遂行しやすくなった。
朝鮮半島とベトナムのどちらも、北側は冷戦時代に同様の「クソ溜め」扱いを受けた。朝鮮人とベトナム人は、幾世代か前のフィリピン人と同様に、口汚い言葉による非人間化で苦しめられた。もっと悪かったのは集中爆撃を耐え抜かなければならなかったことだ。当時は、村を救うためには破壊するという時代だった。ある場所がそもそも「クソ溜め」ならば、この種の論法に何もおかしいところはない。
地政学的な理由で、ベトナムは米国のお気に入りの国に復帰した。結局のところ、ベトナムは中国に対して打ち込むくさびの役割を果たしている。
北朝鮮は別問題だ。それは「邪悪な政権」が統治する「地球の災いの元」だと、トランプは昨年の国連総会演説で言った。トランプの悪口は、北朝鮮指導者の金正恩(キム・ジョンウン)を国際刑事裁判所に送ろうという運動とは無関係だ。トランプは人権に関してほとんど関心がなく、どのみちトランプは(ウォール・ストリート・ジャーナルによれば)金正恩と「非常に良好な関係を現に持っている」か、あるいは(トランプ自身によれば)「今後は良好な関係を持とう」と考えている。まったく、誰が動詞の時制など気にするだろうか。肝心なのは「良好な」という形容詞の方だ。この二人は似たもの同士だ。
人権のことなどどうでもいいのだ。トランプは北朝鮮を言葉の上で破壊することで、今後起こるかもしれない北朝鮮への軍事行動にアメリカ国民を備えさせている。-最近の韓国・北朝鮮の雪解けににもかかわらず、トランプが検討し続けている選択肢である。このようにして侮辱 (insult) は流血 (injury) に先行する。
だが米国は「クソ溜め」と呼べる場所を見つけるだけではない。「クソ溜め」を作り出すこと自体が米国の仕事だ。
風の種をまいたなら、刈り取るのはクソの嵐
9.11以降、米国が採った強引な外交政策は、「クソ溜め」国家を次々と作った。
ブッシュ政権はアフガニスタンとイラクに侵攻した。オバマ政権は裏で糸を引いてリビアの政変を起こした。まずオバマが、続いてトランプが、シリアの泥沼に踏み込んだ。米国特殊部隊は、かつて第三世界と呼ばれた(そして今、トランプによれば、「クソ世界」に改称すべき)国々のほとんどに関与している。
アフガニスタンとイラクでは、残忍に統治されていた国々を正真正銘の「クソ溜め」へと作り変えるのに、米国が中心的な役割を果たした。リビアとシリアについては、両国の実質的な崩壊を加速するのに米国政府が一役買った。国作りと紛争後の復興などどうでもいいのだ。過去20年ほどの間、米国は物事を元通りにするよりも壊す方に、ずっと長けていた。
トランプは最近のコメントで、アフガニスタンを「クソ溜め」と名指ししなかった。そうする必要など無かった。トランプのこの国に対する政策は彼の見方を如実に表している。
「本気になった」と、国防総省は喜んだ。アフガニスタンで去年の8月から12月までの間に、2015年と2016年を合わせたのとほぼ同じ回数の空爆を米国政府は実施した。米軍は現在、(オバマ時代の政策だった)アフガニスタン軍の防衛だけではなく、タリバンに対する攻撃をどこでも、そしてあらゆる場所で実施し、これが昨年、16年にわたる戦争のどの時点よりも多くの民間人死者を出すことにつながった。
これをふまえて、私たちはトランプと彼の移民についての惨めな見方へと立ち返る。アフガニスタンは依然として(シリアに次ぐ)世界第二の難民発生地だ。リビアとイラクでは人口流出が続いている。他にも移民を送り出している国々はある。エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ、ハイチ、コンゴで、人口のかなりの部分が追い出されたのは、暴力や経済的混乱、社会不安のためだが、これを作り出した中心的存在として米国を挙げることができる。原因となったのは、残忍な独裁体制を米国が支持したこと、米国による的外れな経済計画、そして米国内の麻薬市場だ。
言い換えれば、近年ヨーロッパと米国に入ってこようとしている大勢の人々は、米国政府のてこ入れで作り出された状況から脱出しているのだ。
おい、トランプ大統領。なぜノルウェー人ではなくて、この人たちがアメリカに入りたいと強く求めているのか知りたいか? お前のテーブルの周りに座っている軍司令官の全員に聞いてみるが良い。非公式の場ではどれほど粗野な人間であっても(「snafu」〈スナフー〉や「fubar」〈フューバー〉という頭字語が軍隊起源だということを考えてみなさい*)、彼ら職業軍人は決して他国を軽蔑的な表現で呼んで軍の儀礼に反したりしない。今は19世紀ではないのだ。とはいえ、彼らの手は血で汚れている。
*訳註:「snafu」〈スナフー〉とは、situation normal all fucked upの略で、「状況はいつも通りめちゃくちゃ」の意。「fubar」〈フューバー〉とは、fucked up beyond all recognitionの略で、「原形をとどめないほどめちゃくちゃ」の意。どちらもfuckという汚い言葉が入っている。
ストーリーを裏返す
トランプはノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相と会った後まもなく移民についてコメントした。トランプは当然のごとくノルウェーに心酔した。石油で富を得て白人が圧倒的多数の国を支配できたらいいのにと、トランプが思ったのは疑いない。
米国は現在、好調な株式市況と低い失業率に沸いているが、経済的困難が米国の多くの地域を覆っていることをトランプはとても良く知っている。その地域は大統領選の選挙人団で彼を第一位に押し上げた。その地域を、彼は大統領として訪れるのが大好きだ。そこに行けば大騒ぎの選挙集会を思い出す。そこでは支持率30%ではなくて、全観衆が彼を大好きだった。その地域はまた、富裕層を利するトランプの経済政策のせいで、これからも苦しみ続ける。
その地域は、敢えて言うが、トランプが「クソ溜め」とみなす場所だ。
これは私が言っているのではなくトランプ自身が言っている 。遡ること2015年5月、彼はマスコミにこう語っていた。「私はこの国を再び偉大にしたい。この国は地獄の穴 (hellhole) だ。我々は真っ逆さまに転落している。」
すでに述べたように、まず侮辱があり、次に流血がある。トランプは、ある意味で米国を侵略し、彼お得意の「炎と怒り」を自国で解き放ったのだ。彼は着々と、アメリカを99%の国民にとってのクソ溜めに変えつつある。彼が年中いそしんでいるのは、米国を「救う」ために破壊する仕事だ。
トランプは予言的だった。まさに我々は真っ逆さまに転落している。だがノルウェー人が救援に来ることはない。
筆者のジョン・フェファーは、米国の進歩的シンクタンク Institute for Policy Studies のプロジェクト、フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス(FPIF)のディレクターで、ディストピア小説『Splinterlands』(分裂国家)の著者。
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