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Sunday, May 22, 2011

福島とチェルノブイリの原発事故の比較に関する首相官邸ホームページ専門家グループ解説の医学的疑問点: 医学博士 松崎道幸

(★5月25日追記。松崎医師から官邸へのメールを下方に転載しました。また、医学博士、崎山比早子(高木学校)さんから「すごくよく勉強していらっしゃってこのようにまとめてくださるととても参考になります。日本の医師達は広島・長崎の結果を故意に無視していますから、これを広めると良いのではないでしょうか?」とのコメントをいただきました。)

首相官邸ホームページの東電福島第一事故の「チェルノブイリ事故との比較」文書には、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)がチェルノブイリ25周年に出した最新の健康被害報告書が伝えるおびただしい被害の数々とは対照的に、あたかも今後健康被害がほとんど起こっていない、また今後も起こらないかのように書いてあります。この件についてIPPNW報告の要旨を翻訳、官邸文書と比較した投稿「IPPNW『チェルノブイリ健康被害』新報告と、首相官邸資料『チェルノブイリ事故との比較』との驚くべき相違」には大きな反響がありました。今回は、北海道深川市立病院内科医師の松崎道幸さんの寄稿による、この官邸文書の問題点を指摘する文書を紹介します。

福島とチェルノブイリの原発事故の比較に関する
首相官邸ホームページ専門家グループ解説の医学的疑問点


松崎道幸

(医学博士。北大医学部卒。呼吸器内科医。禁煙治療・受動喫煙の健康影響の研究・原爆訴訟にかかわる。)

【要旨】より

1. 2011年4月15日付首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」の内容はすべて医学的に誤っている。
(ア) 19名のチェルノブイリ原発内被ばく後死亡者の死因が被ばくと関係なしと述べているが、急性白血病など悪性疾患で5名が亡くなっているのが事実。
(イ) 24万人の除染作業員と数百万人の周辺住民では6千人の甲状腺ガン以外に健康影響はないと断定しているが、WHOなどのごく控えめな見積もりでも、ガンによる超過死亡は今後4千人から9千人と考えられている事実を隠している。
(ウ) 放射線被ばくによって増える病気はガンだけではない。原爆被爆者において、ガン、心臓病、脳卒中など様々な病気のリスクが有意に増えることが分かるまでに40年から50年以上の追跡調査が必要だったのに、事故後わずか20年に満たない時点でチェルノブイリ事故の被ばく者の健康に影響がないと述べることは、原爆被ばくを受けた国の被ばく問題専門家の資格が問われる見過ごすことのできない誤りである。
(エ) 今後チェルノブイリ被爆者の追跡調査が継続されるにつれて、ガン、非ガン性疾患による超過死亡が数万人の単位で発生することが医学的に十分予測される。
2. 政府は、首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」を削除し、チェルノブイリ事故と福島原発事故の健康影響に関する科学的証拠に基づいた情報を国民に提供すべきである。
松崎さんは、官邸文書が準拠しているという UNSCEAR (国連科学委員会)とWHO(世界保健機関)の報告書をもとに、官邸文書におけるチェルノブイリ除染作業者の被曝死やガンによる超過死亡数予測についての記述はこれらの報告書の内容を誤って伝えていると指摘しています。また、放射性影響研究所による広島と長崎の原爆被害者を対象とした半世紀以上に渡る調査においては、白血病以外のガンと被曝の関係がわかるまでには30-40年かかっており、ガンの発病リスクが1シーベルトにつき50%増えることがわかったのは52年たってからでした。また心臓病や脳卒中が被曝によって増加するのがわかったのも、被曝から40年後だったということです。したがって被曝後20年しか経っていない時点でのチェルノブイリ被害研究自体も、被曝と病気の関係を結論づけるのは尚早と論じています。また、放射線影響研究所の原爆被害者調査は「明らかなしきい線量(それ以下の線量では影響が見られない線量のこと)は観察されていない」としていることに言及し、
原爆被爆の健康影響を検討してきた中心的研究所が、20mSvであろうと100mSvであろうと、その被曝に応じてガンリスクが増加だろうという見解を発表しているのに、官邸HPの「専門家」が「チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった」とか、「チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は1020ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない」と被ばくの影響を完全に否定したことは、医学的に明白な間違いです。わずかな被曝でもそれに見合った発ガンリスクの増加があるはずだとして対策を講ずるのが常識的なやり方です。
と述べています。官邸の「専門家」集団は、放射線影響研究所の原爆被害調査が「しきい値論」を否定しているのに、チェルノブイリの被害を100ミリシーベルト、20ミリシーベルトといった「しきい値」で区切って被曝の影響を否定し、それを福島にも強引に適用し「福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない」としているのはあまりにも乱暴で非科学的な結論だということが松崎さんの論文でわかりました

官邸資料の具体的な書き直し提案も含む貴重な資料や分析が詰まっておりますので、ぜひ全文をお読みになってください。コメントや質問等は上記の松崎さんのメールアドレスにお寄せください。この投稿のコメント欄にも投稿いただけます。

論文全文を読む


以下、5月26日、松崎医師から官邸に送ったメールです。
今回の原発事故による放射能汚染は、すべての国民に大きな健康上の不安を与えています。首相官邸のホームページhttp://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka.html 
には、国民向けに、幾人かの専門家による放射線被ばくの諸問題に関する解説が掲載されています。

4月15日には、その解説シリーズの3回目として、長瀧重信長崎大学名誉教授と佐々木康人(社)日本アイソトープ協会常務理事による「チェルノブイリ事故との比較」がアップされました。

全体として、チェルノブイリ事故は、一部を除いてほとんど被害が起きなかった、福島事故はそのチェルノブイリよりもはるかに被害が少ないから心配する必要はないという内容と理解しました。

でも、本当に専門家の方々の言うことを信じてもよいのかを、引用された原典を直接読んで、私なりに検討してみることにしました。

その結果、両氏の言われた内容のすべての点に、医学的な誤謬が存在するという結論に達しました。放射線被ばくの影響をどのように評価するかは、国家の一大事にあ
たっての対策の内容に大きく関係すると考えます。

私の意見は、下記に掲載いたしましたので、お手数でもご覧いただければ幸いです。
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/05/blog-post_22.html 

このメールの趣旨を、出来るだけ早く首相官邸HPのご専門家の両氏(上記)にお伝えいただき、一刻も早く小生の意見・疑問に対する回答を頂ければ幸甚に存じます。

2 comments:

  1. @Shimazono さんのツイッターでのコメントより。

    生命倫理学に関わってきた者です。松崎博士の叙述は典拠を明瞭に示した上で的確に論点提示されたいへん有益です。官邸ブログの記載が適切でないことが論証されています。

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  2. 論文結構なボリュームがあったんですが、出典を明記して、分かりやすく書かれています。
    これは一般の私たちも目を通すことをおすすめしますが、国民の健康に責任のある政治家や学者たちに読ませるべきです!!

    だいたい、素人でチェルノブイリの実態をきちんと知らなかったBあやでも、あの官邸ホームページの「福島とチェルノブイリの比較」の文章の内容がオカシイってことはすぐに分かりますもんね・・・。

    政府は一刻も早く20ミリシーベルトを撤回して、妊婦や乳幼児からどんどん避難させるべきです!
    ただでさえ高齢化社会なのに、子供たちの命や健康を一番に考えなければ、国は滅びます。

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