http://www.scribd.com/doc/52467769/NRC-Rst-Assessment-26march11)
4月5日付のニューヨークタイムズに重要な記事があった。"U.S. Sees Array of New Threats at Japan’s Nuclear Plant" (「米国は日本の原発に新たな数々の脅威を見出す」)という題で、James Glanz, William J. Broad 記者の共著である。先日、『福島第一原発の1号機(タービン建屋)に見つかった高い濃度の放射性塩素38の原因は何か?』という、再臨界が起こっている可能性を問う論文の解説文和訳を掲載したが、その論文の著者、モントレー国際大学不拡散研究所研究員のフェレンス・ダルノキ―ベレス博士もこの記事の内容を重要視し、コメントをつけて送ってくれた。日本でも共同通信が簡単に報道した。
米紙、水素爆発の危険を指摘 当局の内部文書に基づき
【ワシントン共同】福島第1原発事故で、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、原子炉が余震によって壊れたり、水素爆発が起きる危険性が高まるなど、新たな多くの問題が起きていると指摘する記事を掲載した。
日本に派遣された米原子力規制委員会(NRC)の専門家らがまとめた3月26日付の内部文書に基づく情報として報じた。
同紙によると、原子炉冷却のために注入している水によって、原子炉格納容器のストレスが高まり、余震によって容器が破壊される危険性が高まっている。同原発1号機は内部にたまった塩により循環が著しく妨げられており、原子炉の中には水がなくなっている可能性もあるという。
また、原子炉内の水が分解されてできる水素によって水素爆発が再び起きる危険性も指摘した。
こうした問題に対処するため、NRCは日本政府に水素爆発を防ぐための窒素注入などをアドバイスしたという。
これは内部文書をニューヨークタイムズが入手してその内容を報道する形になっている。そもそもどうして原子力規制委員会(NRC)の文書が内密でなければいけないのか理解できないし、日本のメディアが原文を入手しているのかもわからないが、以下、フェレンスさんの助言にもとづき、重要とされる箇所を要約して紹介する。(フェレンスさんのコメントはFDVコメントと表記する)
★3月26日付のNRCの評価では、放射能を帯びた冷却水で一杯になった格納容器にどんどん負担がかかり、余震によって破損しやすい状態になっている。NRC内部文書は、原子炉に注入された海水によって水素と酸素が発生し、格納容器内での爆発の可能性にも触れている。半溶融状態になっている炉心と堆積した塩分が、炉心を冷やすための淡水の流れを妨げていることも詳細に渡り説明している。
★効果的な冷却ができないために燃料の過熱と溶融が続いた場合、溶融したままの放射能を持つかたまりが長い間残ることになる、と専門家は語る。
★この文書はニューヨークタイムズが入手したもので、日本側の責任者たちが発表してきたものより、より詳しい技術的評価書となっている。しかしデータは日本側から米側に提供されたものに基づいているように見える。
★この文書は、本来の冷却システムが機能していない中、水を注入することが長期的に持続可能なものなのか、新たな疑問を投げかけるものである。原子炉が安定するまで何カ月も水を注入し続けなければいけないが、それが原子力業界今まで直面したことのない新たな試練を生みだしている。
★初期の水素爆発により、使用済み燃料プールの燃料の破片が「1マイル上空に」吹き飛ばされ、高濃度の放射性物質が二つの号機の間に落下し、作業員の安全のために撤去しなければいけなかった。初期の水素爆発で起こったとされるこういった核物質の放出は、非常に高い放射能を持つ使用済み燃料プールが、これまでに報告されてきた以上に破損している可能性を示している。
★この文書でNRCが勧めている対処策としては、爆発を起こす可能性がある水素と酸素を取り除くため、窒素(不活性ガス)を格納容器に注入することと、炉心が「臨界」と呼ばれる核反応を再び起こさないように、冷却水にホウ素を入れることを続けることなどがある。
★しかしこの文書を書いた技術者たちは、「臨界」の再発が今すぐ起こる可能性は低いと見ている。この評定に関わったElectric Power Research Institute のニール・ウィルムスハート氏は「自分は臨界が起こっているというデータは目にしていない」と言っている。
(注:1号機の溜まり水にあった高濃度の塩素38が再臨界の可能性を示しているという論文を見てほしい。このNRC文書は、ニューヨークタイムズが報告する限りにおいてはその点には触れていない。)
★NRCの文書では、1,2,3号機の損傷した炉心についての図表を使った詳細がある。1号機においては、損傷した燃料と、冷却水として使われた海水の塩が、おそらく冷却水の流れを塞いでいるとする。「炉心の水位はゼロである可能性がある」ため、「どれだけの冷却の効果があるかは不明である。」2,3号機にも同様の問題があるが1号機ほど深刻ではないだろうとされている。(FDVコメント:これは重要である。ホウ酸が届いていないことを示すから。)
★原子力の専門家によれば、海水から淡水への切り替えによって塩の一部は流された可能性がある。
★格納容器における水位を上昇させることは、燃料を浸して冷却する方法として説明されてきた。しかしNRC文書では、「格納容器を水浸しにする際には、水圧が格納容器の耐震能力に及ぼす影響を考慮すべき」と警告する。(FDVコメント:ホウ酸の注入が無理などころか、これ以上の注水もできないということだ。)
★原子炉設計の専門家によれば、この警告は上昇する水位によって格納容器にものすごい重圧がかかるということである。格納容器に水が多ければ多いほど、余震によって壊れる可能性が高くなる。
★元GEの原子炉設計者、マーガレット・ハーディングも余震を警告して言った。「私が日本側の担当者だったら、地震の後にその構造的完全性を確認もできていない格納容器に何トンもの水を入れたままにしておくことはしない。」
★NRC文書はまた、高い放射性を持つ環境下での海水からの水素と酸素の放出のせいで、コンクリートと鋼鉄でできている格納容器に「爆発するかもしれないような危険性をはらんだ気体」を作りだしている可能性への懸念を表明している。(FDVコメント:海水の放射性分解のことを指していると思われるが、どうして他の水ではなく海水について言っているのか?)
★この災害の初期の何日かの間で起こった水素爆発がいくつかの原子炉建屋に大きな損傷を与え、1か所では格納容器自体に損傷があった可能性がある。水素が発生したメカニズムには、核燃料の金属被覆が関与している。この文書では、格納容器からこれらのガス(水素と酸素)を除去し、安定した窒素で満たす(地震と津波によって失われた機能)必要があるとしている。
★原子力の専門家は、炉心からの放射線は水の分子を二つに分離させ、水素を発生させ得ると言う。ウィルムスハースト氏は、3月26日の文書以来、技術者たちによる計算では発生する水素の量は少ないとされてきた。しかし、ノートルダム大学の物理学者、ジェイ・A・ラベルネ氏は、少なくとも炉心のそばでは水素が発生し、酸素と反応する可能性があると言う。「もしそうであるなら、炉心の側で爆発性のある混合物質があるということだ。」
★原子力の技術者たちは格納容器の外にある使用済み燃料プールの方が炉心溶融よりもさらに高いリスクをはらむと警告してきた。使用済み核燃料プールは原子炉建屋の上層部にあり、燃料を水に浸していなければいけないのだが、冷却システムは機能していない。
★NRCの報告書は4号機の使用済み燃料プールがこの危機の初期の段階で水素爆発を起こし、多量の放射性物質を大気中に放出したと示唆している。("major source term release" と呼ばれる)
★専門家が使用済み燃料プールについて心配しているのは、爆発によって屋根がなくなり、中にある放射性物質が露わになっていることである。それに比べ、原子炉そのものは強固な格納容器があり、炉心溶融から来る放射線を封じ込める可能性がより高い。
要点は以上である。元の記事はここにある。
これらの懸念から、1号機では7日未明から1号機への窒素注入をはじめ、2、3号機でも行う予定であるという(朝日7日報道)。1-3号機で水素爆発の可能性があり、炉心溶融と海水からの塩が冷却水の流れを妨げ、高水圧のため格納容器が余震に対してもろい状態にあり、汚染水の放出もまだ続けているという現状だ。問題の解決のためにやむを得ず行ったことが別の問題を生みだし、その問題を解決しようとしたら更なる問題が生じるという問題の連鎖が続いている。その間に、本来の問題の解決(冷却ポンプの復旧)はますます遠のく。
フェレンスさんはメールで、この記事によるとNRCの専門家は再臨界の可能性が低いと言っていることについてこのようにコメントした。「このニューヨークタイムズの記事の著者たちは自分の(再臨界の可能性を論じた)塩素38についての論文を読んでいるかは疑わしい。私の論文を批判する人たちの多くは、東電が正しい計測をしていないのではないかという主張をする。東電が出した塩素38の数値も信用していないのである。東電への不信感から、データを疑い、私の論文自体も疑うのだ。 ここからは私の偏った見方になるが、再臨界が本当に起こっていて東電がそれを知られたくないと思っているのなら、自分たちのデータの信ぴょう性に疑いを持たせることで逆に知られたくないという目的を達することができる。実際に東電がそういう意図を持つとは言わない。しかし塩素38の値が高すぎたならどうして再計測しないのか。そこが自分には理解できない。」
フェレンス・ダルノキ―ベレスさんの論文(日本語での解説文はここを参照)についてはたくさんのコメントや質問があり、返答もしている(論文の最後を参照)。そのやり取りも翻訳と、論文自体の翻訳ももうすぐ発表する予定である。
仲間にメールでアップデートしたことをここにも載せます。
ReplyDelete★NRC(米国原子力規制委員会)の派遣でアメリカの技術者たちが日本にたく
さん行っていますが、その人たちがまとめた報告書をニューヨークタイムズが4
月5日に報道しました。日本のメディアは大した報道はしませんでしたが、日本
では、現場で何が起こっているかを知るチャネルは東電しかないので、このよう
な報告は重要と思いました。要約と、モントレー国際大学不拡散研究所の物理学
者のコメントをつけて投稿しておりますのでぜひお読みください。
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/04/blog-post_06.html
★総務省から通信会社に対しネットの「流言飛語」を統制するようにとのお達し
が出たのにはぶったまげました。先日、アエラがガスマスクをした人を使った表
紙に謝罪させられたという信じられないニュースを知らせましたが、これはあか
らさまな言論統制が、政府によって組織的に行われようとしているということを
示しています。これは憲法違反ではないですか。http://www.soumu.go.jp/main_content/000110048.pdf
これを知ったあとツイートしたことを付け加えます。
フェースブック,ブログやツイッターをバカにしてはいけない。根拠のない流言
飛語を流すような人は、読者やフォロアーも減り、自然淘汰される。逆に、マス
メディアや政府による嘘は隠蔽やごまかしはなかなか自然淘汰されない。
マスメディアがいけないと言っているのではない。存在意義はある。しかし今、
特に福島原発問題で本当のことを知りたい人、または本当のことを自分なりに判
断する判断材料を得られるところはツイッターである。マスメディアとのいい補
完関係を保つべきで、片方を弾圧するのは絶対に間違いである。
総務省には、まず、具体的にどのような情報を指して「流言飛語」と言っている
のか問い合わせる必要がある。
これを機に、私たちネットで言論活動をする者は、ひと際気を引き締め、情報を
流すときは根拠や出典を明らかにし、責任を取れる言論をしていこう。そして、
その上で自分の意見を述べるのを何ら躊躇する理由はないのである。不当な言論
統制は絶対に許さないという立場を貫くべきである。
ソーシャルメディアでみんな勝手なことを言っていると思われるかもしれない
が、24時間体制で交代で東電や保安院や官邸の記者会見の詳細を記録し、大メ
ディアが報道しないことを発信している人たちがたくさんいる。だから情報源は
同じなのだ。まあ当たり前といえば当たり前。一般人が原発の中に入って見に行
くわけにはいかないので、こういった機関の言うことを注意深く聞き、つっこむ
ところをつっこんでいくしか、市民にできることはないのである。ヤメ蚊弁護士
は自ら東電の記者会見に出席して鋭い質問をし続けている
が彼の質問やそれに対する返答が報道されることはまずない。
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005)
原発事故の政府発表は、どうみても「的確さ・正確さ・迅速さ」の点で、不安です。
ReplyDelete最初の水素爆発の時に、大量の放射能が出たようで、その日の風向きによって、運悪く、多くの放射能が降ってしまった地域があるようです。
今後も報道に注意して、爆発やベント処理に対応したいと思いますが、肝心の報道に、政府の内部規制があるようです。
このような記事はありがたいです。
線維筋痛症のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/fms1199
線維筋痛症から快復した患者のHP
http://homepage3.nifty.com/fmsjoho/